小説家になろうでも掲載しています。
最近次から次へとネタが湧いて困ります。
ネタが浮かんだら吐きださずにいられない性質だから余計に。
4月8日、改定しました。
「ん、ようやくここまで来たか!」
私は上機嫌で転生画面を見た。
私がやっているのは、MMOリミットブレイク・オンライン。
このMMOの目玉は、転生と限界突破アイテムによるNPC強化だ。
転生の際は、一からキャラメイク出来て、更に色々と特典がつく。
これで転生は十回目となる。本当はもっと早くできたのだけど、三キャラ同時育成していたので、時間が掛かってしまった。
限界突破アイテムとは、本来一定のレベルまでしか成長しないNPCに、イベントを介してアイテムを与えることで、急成長させる事である。
この限界突破アイテムを使う事で、色々と国家の力が変わったりするのだ。
普通にNPCがレベル上げをやっている風景が見れるのもこのゲームならではである。
十回目の転生には、さらに特典が付き、限界突破アイテムを作れるようになるのだ。
これを神化という。
私は鼻歌を歌いながら、転生体に対するキャラメイクをしていく。
記念すべき神化記念だ。黒髪黒眼の女の子にして、ステータスはとりあえず放置だ。
今回の神化では、あえて職業無しで1000レベル目指すつもり。というか、他の二キャラも、神化の為のラスト1000レベルは職業無しで目指すつもりだ。
それに大事なのは、限界突破アイテムによるNPC強化である。
成長ポイントは、後で必要になったら振ればいい。
早速私は転生をクリックした。出現場所は、お気に入りの場所、王都ファランシア。
途端、目の前に広がる草原。
ぐるぐると唸る狼。
冷たく感じるほどに強い風。
「……え?」
困惑して、あげる声。
周囲を見回す。そして、ゆっくりと狼に視線を合わせた。
…………どういう、事?
狼が飛びかかってきて、体が自然と避けた。
私は、悲鳴を上げる。
「きゃあああああ!! 助けて! 誰か助けて!」
必死で走る。走るという選択が出来たのは奇跡だと思う。
走っている内に、数人の騎士らしき人を見かけた。コスプレ? 何でもいい。
あの人達は剣を持ってる。きっと防衛手段を持っているはずだ。
「助けて! 助けて!」
必死で言い募ると、若い騎士が止められながらも走って来る。
狼に切りかかった時、血しぶきが飛び、私は悲鳴をあげてしゃがみ込んだ。
狼が騎士を攻撃すれば、当然騎士も怪我をする。
騎士はボロボロになりつつも狼を綺麗に退治し、私の所に来た。
狼は、何か皮のような物に変わっていた。
「大丈夫かい? 君」
異国の言葉なのに理解できる。けれど、そんな違和感どうだって良かった。怖かった。怖かった。怖かったっっっ!
「う……うわぁぁぁぁぁぁん!!」
怪我をしているのに、優しく掛けられた声。私は、思わず泣きじゃくっていた。
「君、新米の冒険者かな?」
「ぼうけん、しゃ? なんですか、それ。ここ、どこですか」
「ここはジルグラド平原だよ。王都ファランシアから来たんじゃないのか?」
私は目を見開いた。
ファランシア。ここはリミットブレイク・オンラインの世界なの? 私は、その時初めて自分が鞄をぶら下げている事に気付いた。
何かないか。私はそれを漁り、確信を深めた。
それは転生直後に持たされる、初心者セットだった。よく見れば、体の装備も導きセットに似ている。
そこで私は赤い液体が入った瓶に気付き、おずおずと騎士に差し出した。
赤は体力回復の薬のはずである。ここがゲームの中ならば。
「これ……使って下さい。た、体力回復薬ですよね、これ」
消え入るような声で差し出すと、騎士は驚いて聞く。
「こんな高価なもの、いいのかい?」
「使って下さい! お願いします」
騎士が飲み干すと、傷が消えて行く。私はほおっと息を吐いた。
「あの、ありがとうございます。ありがとうございます。あの、私、私……」
再度、涙が出てくる。
「おい、もう良いだろう。団体行動を乱すなよ」
他の騎士がいい、若い騎士が立ち上がる。
「置いて行かないでください! 助けて下さい、助けて下さい」
騎士は困惑して、他の騎士達に告げた。
「隊長、すみません。この子を王都に送ってきます。君、身分証明書は持っているかな?」
「み、身分証明書ってなんですか?」
私は必死に鞄を漁るが、それらしい物はない。
目が潤んで来る。
「発行する為にはお金がいるんだけど……」
「お、お金?」
困惑した様子の私を見て、騎士はため息をついた。
「いいよ、私が払おう」
そうして騎士は立ちあがる。私は、他の騎士にぺこりと頭を下げ、おずおずと騎士について行った。そうしながら、めまぐるしく考える。
歩きながらも、鞄の中を漁る。
ゲームの可愛らしいイラストと、実際の持ちものを必死で照合する。
思い出そうとすると、知りもしないはずの知識が頭になだれ込んできた。
頭が痛い。
私は泣きそうになりながら、それでも騎士に遅れないようについて行った。
そして、鞄の中にある物を見つける。
それは魔法のドアノブと魔法の鍵セットだった。魔法のドアノブは、プレイヤーハウスへの直通のドアを作るアイテム。魔法の鍵は、箱に取りつけると大量のアイテムを入れられるようになる物である。魔法の鍵は十個セットであり、これを友人に渡す事で、アイテムを共有できる。ちなみに、プレイヤーハウスとキャラクターハウスはまた違うし、キャラクターハウスは転生時には処分せねばならない。
転生時には、転生セットと魔法のドアノブ、魔法の鍵だけが持ち込みできる。私が友人に渡したはずの魔法の鍵は、何故か揃っていた。
大きな城壁を見上げていると、騎士様は何事か城門の人と話し、私を手招きした。
私に手を差し出させると、男の人が私の手を握り、そして離した。
そのわずかな間に、男の人の手に小さな冊子が出て来ていた。
その冊子を開くと、私の顔とキャラクターネーム、レベルが出ていた。
他は全くの白紙だ。
私は騎士様と城門の人にお礼を言い、そしてお茶を貰った。
「一応、事情を聞かせてもらおうか。サクラ」
「あ、あの……。私、山奥でおじいさんと住んでいて……おじいさんが死んだので、遺言に従って転移スクロールってのを使ったらこんな場所に……」
するりと、嘘が出てくる。騎士は、その言葉に眉を潜めた。
「と言う事は、何も知らない?」
私は必死に頷く。
「あ、あの。お願いします! 私に、ここで生きる方法を教えてください! お、お礼はなんとかしますから……! えと、えと、この装備、おじいちゃんが凄く良い品だって言ってました!二十レベルになったら自動的に外れちゃうけど、凄く良い装備だって。育てる事に特化した物だって。これをあげます! ですから、ですから……! じ、実際に着て戦ってみれば、良さがわかると思います。あ、鑑定に掛けても構いません」
実際、導きの装備セットは転生時に手に入る物凄く良い装備である。
転生時の弱い状態から一足飛びに戦える状態になるまでサポートする物で、上級者が下級者を育てるのにも使う。
相手の苦手属性で攻撃、攻撃力と防御力は制限なしの装備としては異様に高く、全て装備すれば経験値十倍と言う恐ろしいまでの効果。
更に、二十レベルまで限界突破の効果を秘めているので、NPCにプレゼントすれば、それで人材を育てていると判定され、国力自体が僅かに上がる。
欠点と言えば、初心者の為の装備にしか見えない事だ。
騎士の反論を許さない内に、私は急いで装備を脱ぎ始めた。
「あーっと……わかったから落ち着いて。君を放りだす事はしないから。私の名前はラークスだ。君さえよければ、家に置いてやってもいいが。……しかし、装備を売ってしまっていいのか?」
「ありがとうございます! わ、私、戦いなんてとても無理です。この町で暮らしていく事が出来るなら、それで十分です。どうか、この装備をお納めください。二十レベルになるまで使って、その後は売るなり騎士団に寄付するなり、なんなりお好きなようになさってください。お願いします」
ラークスは、私の装備を見て苦笑する。
「それには及ばないよ」
「いえ! 私の気がすみません。あ、戦う時は必ず予備の装備をお持ち下さい。二十レベルで予告なく外れてしまうので。一度これで魔物を倒せば、効果が実感できるはずです。お願いします。お願いします」
私は必死に頭を下げる。逃げた私に言える事ではないが、ファランシアの狼に苦戦するようなら、十レベル以下。ならば、一度これで戦えば、必ず効果が実感できる。というより、レベルが一回の戦闘でアップするはずだ。
騎士はため息をつき、告げた。
「わかった。じゃあ、明日、一度だけ試させてもらうよ。その後、この装備より弱いようなら売ってお金に変える。いいね?」
「ありがとうございます!」
私は何度も頭を下げ、そして騎士に町を案内してもらった。
文字が何故か読めた。知らないはずの知識。目眩がする。
それでも、ファランシアの主要な店などを教えてもらった。
ここはいよいよリミットブレイク・オンラインの世界のようだ。
ただ、道具は全体的に高価と見られているようだった。
必死で物価を叩きこむ。特に重要なのは貨幣だ。
私は鞄を漁り、金色の硬貨を発見した。転生セットの一部、初期資金だ。
それで私は理解した。リミットブレイクの通常使われるお金は金貨なのだ。
だから、リミットブレイクのゲームをしている時は安いと思われた物も、実際に来てみると高いんだ。
その他にも、売っている物は同じでも、物価はかなり違っているようだ。
武器防具店も見せてもらい、そこでは普通に金貨が使われている事に安堵した。
最後に回った店は、武器と防具が混合で売っていた。そして、店売りますと張り紙が書かれていた。その値段、1000金貨。
細かい条件が書いてあって、鍛冶場や裁縫道具、材料も全てセットだと書いてあった。
ただし、今売っている武具は別だという。
ラークスは寂しげに立派な剣を見た。それもまた1000金貨だった。
そして、転生セットの初期資金は2000金貨だ。運命だと思った。
「この武器、子供の頃から憧れていたんだ。けれど、店主がもう年でね。店仕舞いしてしまうなら、仕方ないな……」
「あ、あの。金貨ってもしかしてこれですか? 私、払えるかもしれません」
そう言って、私は金貨を差し出す。
「サクラ!? お金を持っていないんじゃ……」
「私、お金使うの初めてなんです。今、これがお金だって知りました。これで全財産です。このお店と剣、買います。鍛冶はおじいちゃんから習ってますし。その代り、ラークス様。私に色々教えて、お店が軌道に乗るまで養って下さい。お願いします」
私はぺこりと頭を下げる。
「しかし、こんな高価な物……」
「私みたいな小娘が大金持ってたって、スリにあったり騙されたりが精々です。命を掛けて助けてくれたラークス様と、そのラークス様が懇意にしてらっしゃるお店の人なら信じられます。あ、おじいちゃんがくれた薬とかもお渡しします。どうか、私がこの町で暮らせるようになるまで、面倒を見て下さい」
ラークスは、しばらく戸惑った後、問うた。
「お店をやるのは凄く大変だよ? 出来るのかい?」
「やります!」
「おお、この店を買ってくれるのかい。ありがとうよ。お店を営むのは初めてかい?」
「はい」
「じゃあ、おまけだ。店を営む上でのノウハウを教えてやろうかの」
「ありがとうございます!」
私は深く頭を下げた。
その日、私はラークスの家に泊めてもらった。
小さな家で、少し意外だった。
私はそこで、ラークスに料理も教えてもらう事にした。
昼、ラークスが仕事に出かける時は武器防具屋のおじいさんの家で勉強、夕方からはラークスに色々教えてもらう事を決めた。
ラークスが鎧を脱いだ時、そのあまりの美形っぷりに驚く。
どうなる事かと思ったけど、とりあえずは何とかなりそうだ。
家に帰る方法も探したいけど、最も知が栄えているのは隣国の王都、ガイデスブルク。
そんな所まで行くなんて、無理無理無理無理無理。
色々考える事はあるけど、今は地に足をつけた生活をしたかった。