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No.28604の一覧
[0] フェイトinさざなみ寮[細川](2011/06/29 20:50)
[1] 第二話[細川](2011/07/08 21:00)
[2] 幕間1[細川](2011/08/08 20:19)
[3] 第三話[細川](2011/09/24 09:51)
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[28604] フェイトinさざなみ寮
Name: 細川◆9c78777e ID:909994a7 次を表示する
Date: 2011/06/29 20:50

「ジュエルシードぉ?」
「うん、母さんの研究に必要だから集めてきて欲しいって言われたんだ」

次元空間を漂う時の庭園内の一室。
使い魔のアルフとその主人であるフェイト・テスタロッサは旅の準備に追われていた。
ただ、やる気に溢れるフェイトとは対照的にアルフの気分は複雑である。

「それってロストロギアなんだろう? 危ないんじゃないのかい?」
「大丈夫だよ、私は強いから。リニスだって……認めてくれたよ」
「そりゃあ、フェイトが強いのはあたしだってもちろんわかってるんだけどね……」

言い淀むアルフからは不満の色がありありと見てとれて、その原因に心当たりのあるフェイトは表情を曇らせる。

「アルフが母さんのことよく思ってないのは知ってるよ。だけどね、今は研究がうまくいかなくて、母さんはちょっと精神的に不安定なだけなんだよ」

アルフはフェイトの母プレシア・テスタロッサが嫌いだ。全く母親らしいことをしないどころか酷いことをするし、フェイトを見る目はいつだって温もりのかけらもないからだ。
今回だってそう。管理外世界に娘を放り出すというのに、渡したのは現地の通貨で大金が入っている銀行通帳と、偽造した戸籍、それと目的地のちょっとした現地情報だけ。
必要なものはやるからさっさと出てけと言わんばかりだとアルフは思う。
唇をとがらせている自身の使い魔の頭に手を乗せて、本当に少しフェイトはほほ笑む。

「私がジュエルシードを集めてくれば、母さんの研究だってうまく行くはずなんだ。それにそうすれば、きっと母さんも昔みたいに笑ってくれる。だから、母さんに頼まれたからだけじゃなくて、私がやりたいんだ」
「フェイト……」
「嫌だったら、アルフはここに残ってもいいんだよ?」

フェイトにとっては気遣いからの言葉だが、彼女の使い魔であることを誇りに思っているアルフにとっては聞き捨てならない一言で、カッと頭に血が上る。

「バカ言っちゃいけないよ、あたしはフェイトのことを何より大事に思ってるんだ! フェイトが行くって言ってるのにあたしが行かないなんて、そんなバカなことがあるわけないだろう!」

ここまで全部言い切ってから、アルフは自分をみつめるフェイトのちょっと楽しそうな表情に気づき、恥ずかしさから顔を赤くした。

「ありがとう、アルフ。アルフがいれば百人力だね」
「…………」

フェイトの優しい視線を正面から見ることができなくて、アルフは明後日の方向を向いて黙り込んでしまった。
でも、尻尾だけは小さく左右に揺れていて、それを見逃さなかったフェイトは安心して準備に戻っていく。




~フェイトinさざなみ寮 第一話~




魔法世界ミッドチルダでの通称で言えば第97管理外世界。現地での呼称であれば地球。さらに詳しく言えば地球にある日本の海鳴市。
それこそが、ジュエルシード21個がばらまかれたとされる場所である。
時期としては某自称平凡な小学三年生が町中にあふれ出した巨木の事件を受けて、決意を新たにしてから数日のところ。
海鳴市中心部から少し離れた場所にある国守山。その山中の地面に金色の魔方陣が浮かび上がった。
木が生い茂り昼間でも薄暗いのに、深夜にさしかかろうかという時間帯ともなればその明るさはますます非日常性を高める。
出現からしばらくして、魔方陣の中心に突如として一人と一匹が姿を現す。
当然、フェイトとアルフだ。
ちなみにアルフは本来の狼の姿になっている。

「転移は成功。座標もぶれてない……ね」
「でもなんか暗くないかい?」

魔方陣が消えてしまえば、かすかに木々の合間から差し込む月光以外に明りはなくなり、心もとない。

「この世界はミッドの標準時間と時差がほとんどないからね」
「それってもう10時過ぎってことだよね? それなら、こんなに急がずに、一晩明かしてから来ればよかったんじゃないのかい?」
「母さんをあんまり待たせられないよ。それに、いくら人気のないところを転移先に選んでも、もしものことはあり得るから、リスクはなるべく避けておかないと」

しっかりとした足取りでフェイトは下山しようと一歩を踏み出した。
まだ年齢が二桁にも達していない少女であるにも関わらず、フェイトは暗闇を気にもせず進む。




国守山の麓にあるコンビニ。
ビールやチーズなどのつまみの詰まったビニール袋を片手に店から出てきた女性が、さて帰ろうかとポケットから車の鍵を取り出した時だった。
コンビニの裏手の何もないはずの場所から物音が聞こえ、なんの気もなしに振り返り……目を丸くする。

「……は?」

突然山中から金髪の少女(つまりフェイト)が彼女の視界に現れたのだ。
昼間に少女を見たとしても誰も驚かない。
しかし現時刻はよい子は夢の中という深夜帯。しかも、山の中から少女は現れていたのだ。
その後ろからはオレンジ色の大型犬(当然こちらはアルフである)が出てきたが、もうそれはどうでもいい。
確かに女性は目が悪いため眼鏡をかけてはいる。だが、眼鏡で視力はちゃんと補われているし、視力が下がったからといって幻覚を見るわけでもない。
――怪しすぎる。
至極正直に女性は思った。
きっと万人がフェイトを怪しむだろう。そして、面倒ごとはごめんだと見なかったことにしてそそくさと立ち去るのが普通の人の反応。
けれど、目撃した人物は人並みではすまされない女性だった。

「おい、そこの金髪」

女性は臆することなくフェイトへと声をかける。
しかし、聞こえていないのか、それとも自分が声をかけられるとは思っていないのかフェイトは反応しなかった。

「おい、そこの犬連れた金髪!」
「……?」

先ほどよりも大きな声で呼びかけると、ようやくフェイトは反応をみせた。
しかし、どこから声がかかったのかわからなかったらしく、周囲をきょろきょろと見渡す。
暫くして女性と自分の他に誰もいないことを確認してから、恐る恐るといった様子でフェイトは女性へと向き直る。

「……私、ですか?」
「おまえ以外にゃ誰もいねーだろうが。つーか、今何時だかわかってんのか?」

正確に言えば午後10時37分。
確かに子どものいるような時間ではない。

「あう、その……ごめんなさい」

そもそもあまり社交的ではないフェイトは、知らない女性に、少々きつめの声をかけられてしまい反射的に謝ってしまった。
やれやれと肩をすくめながら女性は軽い気持ちで質問を重ねていく。

「家出か?」
「あ、家出じゃないです」

フェイトは首を左右に振る。
ツインテールに結われた髪が同時に大きく揺れた。

「じゃあ親は?」
「えっと、母さんはいますけど、今はこっちにいないというか、その……あう」

あうあうとてんぱりながらも、とにかく聞かれたことには正直に返すフェイトの様子は、女性には嘘をついているようにも見えない。
だが、言っていることが本当のことだとすると笑えない。女性としてみては、せいぜいちょいと早めの反抗期による家出かそこらだろうと思っていたのに、それを遥かに凌駕した問題になってしまう。
ペット一匹が一緒にいるだけで、しかも親は近くにはいない……はっきり言って10歳になるかならないかに見える少女が置かれるような状況ではない。
見るからに日本人じゃないのに日本語が妙に上手いとかいう不思議はあったが、目の前の少女をどうするかという最大の問題に比べれば些細な問題だ。
――らしくないことをするもんじゃねえなぁ……
まさに後悔先に立たず。
ここで、やっぱりやめた、と投げ出さず最後まで責任を持とうとするあたりは女性の人の良さがわかるというものだが。

「あー、なんだ? じゃあ親戚とかの家にでも泊ってるのか?」

うんと言ってくれ、というのが女性の正直な気持ちだった。

「その、違います……」

申し訳なさそうに言ってフェイトは俯く。
嫌な予感しかしないのに、女性はここで止まれない。

「……おまえ、なら今日はどこに夜明かすつもりだよ?」
「あう……その、まだ……」

そのままフェイトは口ごもる。

「…………」

女性はと言えば、痛むこめまみを押さえていた。
最悪を超えた想定外だった。
親も親戚もおらず、夜を明かす場所の確保もできていないと言う少女。事件の香りがしなくもない。
そのまま頭を抱えてしまいたい衝動に無理やり抗って、精神安定剤にとタバコを一本ふかしてから、改めて正面のフェイトを眺める。
綺麗な金髪を黒いリボンでふたつにまとめている少女がうつむき、居心地悪そうにもじもじとしているのはかわいらしいのだが……実態は訳アリ120%の地雷娘。
ここまでべらべらと喋ってしまうあたり根は正直な奴なのだとは思う。
というよりも、これが演技だったとして女性にはどうしようもないのだ。このまま警察に連れていってさようならでもいいのだが……
――なんつーか、雰囲気が昔のあのボケナスに似てんだよな。
なぜだか自信がなさそうで、他人の視線に怯えて小さくなっている。
女性にとって唯一無二の妹の昔の姿と、なんとなく重なった。

「…………」

紫煙が自嘲の笑みと共に鼻から漏れる。
――ったく、あたしもまだまだ甘いもんだ。
面倒事の塊でしかないとわかっているのに。

「しゃあねえなぁ……」




フェイトは困惑していた。
夜中も近く誰もいないと思っていたら、突然知らない女性に声をかけられたのだ。
黒い髪を肩にかかるくらいで切りそろえた女性だ。
ずっと時の庭園で過ごし、知らない人の視線というものに耐性のないフェイトは、メガネ越しに寄こされる胡散臭げな視線にたじろき、萎縮してしまう。
半ばパニックと言ってもいい状況に置かれたフェイトは、気づいたときには女性に聞かれたことをただひたすら答えてしまっていた。

『ど、どうしようアルフ!』

今夜の寝床を決めていないことを女性に明かしてしまったあたりで、いくばくかの冷静さを取り戻したフェイトは、女性に聞こえないようにアルフに念話を飛ばした。

『私、なにか怒らせちゃったかな?』

ちょっとのぞき見た女性は眉を寄せ、頭の横に手をやっている。

『うーん、そういうわけじゃないとは思うけど、ちょっと正直に答えすぎたんじゃないかい? この世界はミッドよりずーっと就業年齢が高いとか資料に書いてなかったっけ?』
『うう、母さんのおつかいをちゃんと果たさなきゃいけないのに……』
『これだったらあたしも最初っから人間形態でいればよかったねぇ……』
『はっ! け、警察とかに連れてかれたりしないよね?』
『……そんときゃ逃げるよ』
『あう、幸先悪いよぅ』

最終手段として逃走の準備を始めるフェイトとアルフ。

「しゃあねえなぁ……」

今まで黙りこんでいた女性が、それまでとちょっと違う声音で零した。
警察に連れて行かれるに違いないとばかり思っていたフェイトは、柔らかくなった声質にふと顔をあげる。

「あたしが三食昼寝つきの宿を紹介してやるよ」

にやりと意地悪そうな、それでいてどこか清々しい笑みを浮かべた女性は、得意げに左手に持ったタバコを揺らしている。

「いえ、お金はありますから大丈夫です」
「アホ。ガキ一人をペットとセットで泊めてくれるような宿がどこにあるってんだ。あったとしてもロリコンどもの餌食になるだけだっつーの」
「そ、それは……」
「で、どうすんだ?」

車の後部座席の扉を開け、笑みを崩さず女性はフェイトに語りかける。
本当は、アルフに人間の姿になってもらえば宿を取ることは可能なのだが、まさかこの狼が人間になれますからと魔法を知らない現地人に明かすわけにもいかない。
親切から教えてくれようとしているのかもしれないけれど、そのまま警察に連れて行かれましたでは笑えない。

「つーか、乗らなかったら警察に連絡する」
「ええっ!?」

フェイトを見つめる女性はどことなく楽しげだ。

『に、逃げたほうがいいかな?』
『うーんどうだろ? 本当にフェイトをどうにかしたいんだったらこんなまどろっこしい手を使うもんかね?』
『それはそうかもだけど……』
『ま! それになにかあったらあたしがこの女ぶちのめしたるから、フェイトが好きにしたらいいよ。あたしはそれに従うからね』

――それって、私に丸投げってことだよね……
あっけらかんと言い放ったアルフに対して、フェイトは苦笑せざるを得ない。

「……」
「ん?」

フェイトは女性の顔を正面から見る。
まだ自分の対人経験が浅いことはよくわかっているけれど、なにか女性の真意が読みとれないかと目を見る。

「…………」
「…………」

フェイトの赤い瞳が女性の黒い瞳を見据える。
余裕を崩さない女性はそれを正面から受け止める。
じっと二人は見つめ合って……フェイトは自分で決めた。
女性の目の中に見た色がどんな色だったかフェイト自身もうまく表現できない。
だけれども、ちょっぴり、そうほんのちょっぴりだけ心が落ち着いた。
だから、ちょっと信じてみようかなと思った。

「あの……お願い、します」
「おう、任せな」

ぺこりと礼儀正しく頭を下げたフェイトに、にっと女性は人のいい笑みを浮かべた。




揺られ続けること数分してフェイトを乗せた車は止まった。

「おっし、着いたぞ」

運転していた女性はそう一言残すなり外へ出てしまい、後部座席にいたフェイトも慌てて下車した。
下りてみてフェイトが周囲を見回してみると、すぐ近くにある建物は二階建てではあるが、幅がありかなり大きいようだ。
建物に背を向けてみると、暗闇が広がっている。
ふいに吹いた風と共にとても大きな木々のざわめきが聞こえた。
どうやら市街地の方にあるわけではなく、山の近くであるらしい。

「なにやってんだー、さっさと来い」
「あ、はいっ!」

声をかけられフェイトははっとして、小走りで女性のもとへ行く。
夜の空気にぱたぱたと小さな足音がよく響いた。
玄関の前で待っていた女性は、フェイトが横にやってくるのを見てから扉を開けた。

「おーう、帰ったぞー」
「ああ、おかえりなさ――」

玄関入ってすぐのところにいた大柄な若い男は女性のほうを振り向き……そのまま固まってしまった。

「どーしたんだよ耕介?」

いきなりかたまった耕介に女性は怪訝そうな声を出す。

「いや……真雪さん、後ろの女の子は?」
「ん?」

真雪と呼ばれた女性が後ろを向くと、そこにいるのはフェイト。
190cmを超えようかという長身の耕介は玄関より一段高くなっている廊下に立っているので、さらにフェイトとの身長差はさらに大きくなっている。
まさに超高度から見下ろされる形になっているフェイトは、自分を中心に据えて動かない視線にたじろいて、アルフの後ろまで後退していった。
なるほどと耕介の疑問に納得した真雪は簡単に説明することにした。

「あー、こいつね。拾った」
「拾った!?」
「コンビニにちょっと出かけたらさー、なんかぽつーんと歩いてたから拾ってきた」
「いやいやいやいや! それって誘拐じゃないですか!?」

あんまりにも簡略化しすぎて突っ込みどころしかなくなった説明に、耕介は頭を抱えてしまう。

「耕介てめー! なに人聞きの悪いこと言ってんだよ! これは同意の上の行動だぞ同意の上の!」
「真雪さん……悪ふざけはともかく犯罪行為には及ばないと信じてたのに……」
「おい、人の言うこと聞きやがれこのでくのぼー」
「リスティー! 真雪さんが犯罪に手を染めちまった!」

真雪を無視して叫ぶ耕介に、そもそも切れやすい真雪の堪忍袋の緒が切れた。

「言わせておけば好き勝手いいやがって!!」

左腕を一閃。
耕介の視界いっぱいにうつるのはコンビニの袋に書かれた『ハッピーマート』の文字。

「ぶげらっ!」

コンビニのビニール袋(中は缶ビールとつまみ少々)が耕介の顔面にクリーンヒットし、たまらず耕介は吹き飛んだ。

「ま、真雪さん……なんてことを、ぐえっ!」

顔を押さえながら立ち上がろうとした耕介だが、すぐさま背中に真雪が足を乗せる。
土足のまま。

「なんだてめー、そんなにあたしに犯罪者になって欲しいのかよ、ああ?」
「いやだってどこからどう見てもってあだだだだだ! 踵やめてください踵はだめですって!!」
「うっせー!」
「あいでででででで!! 食い込んでる! 食い込んでるから!!」

ぐりぐりと真雪が足をえぐりこむ度にびくんびくんと陸に上がった魚のようにびくんびくん跳ね回る耕介。
はっきり言って異様な光景である。

「…………」

真雪の適当すぎる説明に、最初は口を挟もうと思った。
だが、声をあげようとした瞬間には事態は次の場面へと流れてしまっていて、フェイトはまったくもってこの怒涛の流れについていけていない。
声を出し損ねた口を開けたまま、目の前の光景をただただ眺めているだけだった。

「耕介、真雪がどうしたんだって?」
「あのー、今なんか変な音しませんでしたか?」
「うわっ! 新手の体操ですか!?」
「くぅん?」
「こーすけ、まゆに踏まれてなんかすごいことになってるのだ」
「あの、止めなくていいんですか?」

騒ぎを聞きつけてがぞろぞろと奥から人が集まってくるまで、二人の狂乱は続いた。

『フェイト~。ほんとに大丈夫なのかい?』

アルフの念話に、主人からの返事はなかった。




「なるほど、そういうわけで真雪さんはこの女の子を拾ってきたんですね」
「そうそう。やっぱ愛は話がわかるな、どっかの誰かさんと違って」
「ありゃ誰だって勘違いしますって……」

フェイトの正面に座る、愛と呼ばれた、ほんわかした雰囲気の茶髪の女性が、ふむふむと頷く。
先ほどの大騒ぎの後、やはり注目を浴びたのはフェイトの存在で、またもや「すわ誘拐か」となりそうだったところを取り仕切ったのがこの一見頼りなさそうな愛だった。
ひとまずフェイトとアルフを含めた全員をリビングを集め、事情聴取を開始。
真雪がだいたいの流れを話し、フェイトが横でそれに頷いていた。
――それにしても、この家はなんなんだろう。
フェイトはこの家の住人を眺めて不思議に思う。
まず、人数が多いのだ。フェイトを除いても七人いる。
しかも、どうもただの大家族というわけではなさそうである。
ほとんどの人が黒か茶の髪を色をしているのに、一人磨き上げた銀細工のように綺麗なプラチナブロンドの女性もいるし、フェイトが容姿から推測する年齢は全員十代後半から二十代といったくらいだから、誰かと誰かが親子というわけでもなさそう。
かといって兄弟姉妹で片付けるには似ていなさすぎる。
あと、なぜか男は一人しかいない。
――それに、宿を紹介してくれるんじゃなかったっけ?
それなのに、連れてこられたのはどこかの民家らしきところ。
あれー、とフェイトは一人首を傾げていた。

「それじゃあ、事情もわかったところで家族会議の結論を出したいと思いまーす」

愛が手を軽く叩き、全員の注目を集める。

「わたしは別にさざなみの一員に加えてあげてもいいと思うんですけど……」

みんなはどうですか? と視線だけで尋ねる。

「あたしゃそもそも連れてきたから賛成だよ」

フェイトの横に座る真雪が言い放つ。

「なんにもあたしは気にしないのだ」
「えーと、わたしも別に構いません」
「俺は大丈夫ですよ」
「あたしもおっけーです」

次々と賛成の声が上がる中、最後に残ったのは銀髪の女性。

「そうだね……」

すぐ隣に座るフェイトへ一瞥して、

「ひゃ……」

突然フェイトの頭を荒っぽくなで始めた。
いきなりのことでびっくりしたフェイトだが、すぐに手は引っ込められてしまった。
おそるおそるフェイトが頭をなでてきた人の顔をうかがうと、

「いいんじゃない? かわいいし、ね」

にやりと悪戯っぽく笑って、OKを出した。

「はーい! それじゃあ、全会一致ですねー。これでさざなみの家族にまた一人……」

本当に心の底から嬉しそうに茶髪の女性は話をまとめにかかるのだが、あ、となにかに気づいた素振りを見せ、穏やかな微笑みとともにフェイトの視線に合わせて尋ねてきた。

「えーと、そういえばあなたのお名前は?」
「あ、はい――」

反射的に「フェイト・テスタロッサです」と答えそうになって、フェイトは口を噤む。
今まで流されに流されてきたが、自分の目的はジュエルシードを集めることで、至近の目的はひとまず宿を手にいれることなのだ。
間違っても、地球にホームステイすることではない。

「あ、あのっ、ちょっといいですか?」
「なんでしょう?」
「私、宿を紹介してくれるって言われてきたんです。だから、気持ちは嬉しいんですけど、お邪魔になるわけにはいかないんですけど……」
「はい?」

フェイトが目いっぱいの勇気と共に言い放つと、茶髪の女性は目を丸くして固まってしまった。
そしてそのまますーっと視線を横にずらしていく。

「あのー、真雪さん? なんだか、わたしたちとこの子の間で、見解の相違があるみたいなんですけど……」
「もしかしなくても説明不足ですよね真雪さん?」

耕介が決めてかかると、むっとした声音で真雪が反論する。

「あたしゃ三食昼寝つきの宿を紹介してやるって言っただけだよ」
「やっぱり説明不足じゃないですか!」
「あーくっそうるせーなぁ! 説明すりゃいいんだろ説明すりゃ! ……愛ー、任せた」

説明する、と豪語しておいて先ほどから場を仕切っている茶髪の女性に丸投げしてしまった。

「いきなり人任せですか……」
「いーんだよ適材適所ってやつだ」
「面倒なだけでしょーに」
「あははー……わたしは別にいいですよ?」

漫才のようなやりとりを始めた耕介と真雪の勢いについていけなくて呑まれていたフェイトは、視線を愛に戻した。
愛もフェイトの視線に気づき、微笑みを浮かべた。

「じゃあ、説明しますね。まず、勘違いしてるみたいだけど、ここは民家じゃなくて、さざなみ女子寮っていうの。だから、ここに暮らすっていうのは居候とかとは違うのよ? 普通のホテルとかと違うのは暮らし方が普通の家族みたいだったり、色々と施設が共用だったりってところ、かな。でも、ちゃんとおいしいご飯は出るし、とってもいいところもたくさんあるんですよー」

微笑みではない笑顔に、フェイトは愛にとってはここが本当に幸せなんだろうということを感じさせた。
でも、その幸せそうな姿にフェイトは逆に気後れしてしまう。

「でも私……すごく大事なものを探しにきたんです。多分一日の殆ど外に出てて、絶対迷惑かけます……」

ぎゅっ、と膝の上で揃えた手を握りしめる。

「だから、そんなのやっぱりできません」
「……なーにガキが偉そーなこと言ってんだよ!」
「あう!」

さっきまで耕介と口論を繰り広げていはずの真雪にがしがしと荒っぽく、フェイトの頭は撫で回される。

「大人に迷惑かけないガキがどこにいるってんだよ。んなの自分の世話を自分でできるようになってから言いやがれ!」
「あううううううう!」

真雪の手に、フェイトは頭を大きく振り回される。

「ったく……」

一通りフェイトを弄繰り回した後、ふん、と真雪は腕組みしてソファの背もたれに体を預けてしまう。
一方、蹂躙された頭を押さえながらもフェイトはまだ食い下がらず真雪に視線を送る。目じりにちょっと涙がたまっているが。

「でも……」
「でもじゃねーよ。ちゃんと飯は出るし、必要だったら弁当だって出るんだぞ? それに、平日真昼間にお前くらいのガキが一人だけで街中歩いててみろ。絶対に警察に保護されるぞ? そしたらお前どうすんだよ? 親もいないのに切り抜けられるか?」
「それは……」
「ここにいりゃ保護されたって大丈夫だ。ただのホテルやなんかと違って寮だからな、一応オーナーが保護者代理ってことになるし、警察に顔が利くやつもここにはいる」

真雪の真剣な視線がフェイトを射抜く。
もはやなにを言っても逃さないとばかりに。
フェイトは言い訳も思い浮かばず、真雪の威圧感から逃れようと周囲へと視線を泳がせる。
真雪とフェイトのやり取りをさざなみ寮の全員が眺めていた。しかも、全員が細部は違うけれどもちょっと困ったような笑みを浮かべていて、でもそれはフェイトを助けたいとかそういう感じではない。
どちらかといえば、真雪の強引さに呆れているものの、フェイトにただ一言語りかけてくるのだ。「諦めたほうがいいよ」と。
が、そう簡単に諦めることもできないフェイトは困るばかり。

『フェイト……いいんじゃないかい?』
『アルフ!?』
『あたしはフェイトが優しくて、関係ない人を巻き込みたくないって思ってるのはわかるよ』

加えて、魔法という秘匿しなければならないものの存在により、隠し事をしていると背負う必要もない罪悪感を心優しい主人が感じているだろうこともアルフにはわかる。
それでも、アルフはフェイトに勧める。

『実際、もし警察に文句言われたら厄介なのは確かだしね、リスクは低いほうがいいだろう?』
『それは、そうだけど……』
『どうせ、宿は今日だけでいつかどっかのマンションなりを拠点にするつもりだったんだ。その手間が省けたと思えばいいんじゃないかい? しかも、食事の準備とかに時間を取られなくてすむ。ジュエルシード集めにはそのほうが便利だよ』
『だけど、それだとやっぱり迷惑かけちゃうし……』
『いーじゃんか。だってそれがあっちの仕事なんだし』

なにかと気にしすぎなフェイトにアルフはなんとはなしに言ってのける。

『お金は払うんだから、飯の用意とかはあっちが払う対価だよ』
『……』
『まあ、フェイトが納得するようにしてくれればあたしはいいんだけどね』

無責任に聞こえるかもしれないが、アルフは使い魔でしかなく、しかも今は狼の姿をとっているから結局はフェイトに判断を委ねることになるのだ。
自分の足元に寝そべっているアルフの毛並を、フェイトは優しく撫でる。

『アルフの言ってることは私だってわかるけど……』
『いいんだよ。フェイトは確かに強い。あたしは使い魔なんだから当然知ってる。でもさ、もっと他の人を頼ってもいいんだよ』
『でも……』
『じゃあさあフェイト、こうしよう』

アルフは耳をぴくりと立たせた。

『試しにここに数日間泊まってみるのさ。それでもってやっぱり出て行こうって思ったら出て行こう。ね?』
『…………』

アルフの言葉にフェイトは深く考え込む。
迷惑をかけたくはない。だけど、母の願いを叶えるためにはこっちのほうが効率的なのは明らか。
美徳であるはずの優しさが、この場合は決断の邪魔をしていた。

「ねぇ」

俯いたまま暫く反応を返さなかったフェイトを心配したのか、愛が声をかける。
フェイトが顔をあげると、いつの間にか愛は目の前でしゃがみこんでいて、目と鼻の先にその顔があった。

「わたしは、あなたがここで暮らしてくれると嬉しいんだけど……どうかな?」

小首を傾げてフェイトに笑顔を向ける。
なぜだか、その笑顔にフェイトは見惚れてしまった。
どこか懐かしい気持ちにしてくれて、ぽうっと心が温まる感じがする。
周りを見れば、みながみなこっちを見ていて、見つめる視線は穏やかで。
どうしてだろう、出会ってほとんど経っていないのに思ってしまう。
そうか、この人たちは優しいんだなと。
だから、

「…………お願い、します」

小さな声で、ほんの少しだけこくんと頷いた。
でもみなにはそれで十分で。
笑顔がフェイトの周囲で咲いた。

「それじゃあ、自己紹介からいきましょうか」

嬉しそうに愛は両手をぽんと合わせて微笑んでいる。

「まずわたしは槙原愛って言います。獣医をやってて、この寮のオーナーってことになってます。もしなにかあったら遠慮なく言ってくださいね。わたしがいないときはこちらの――」
「槙原耕介だ、俺に言ってくれ。一応ここの管理人やってるから」
「耕介は全自動メシ作り&雑用マシーンだからガンガンこき使えよ」

フェイトが返事をしようとすると、言葉と共に頭の上に誰かの手が乗せられた。
反射的に顔を向けると、火のついていないタバコを銜えた真雪がにかっと笑う。

「あたしは仁村真雪。こん中じゃ最年長だから敬えよ」
「ぷっ」

言い切ると同時に、真雪の反対側から笑い声が上がった。

「敬えとかいう真雪の冗談は置いておいて、ボクはリスティ・槙原。よろしく」
「あぁ?」

磨かれた銀細工のように綺麗な銀髪を持つ女性、つまりリスティの一言が気に入らなかったのか、真雪が睨む。
しかしリスティはどこ吹く風といった様子で意地悪い笑みを浮かべたままだ。

「おいこらぼーず。年上は敬えって学校で習わなかったのか?」
「ボクは真雪と同じ高校の出身だからね。カリキュラムにはなかったと思うよ」

挟まれているフェイトの頭の上で、真雪とリスティは静かに火花を飛ばし始める。

「あああ、あのっ! わたしは神咲那美って言います!」

慌てて声を割り込ましたのは、歳は17・8であろうか、柔らかそうな茶色の髪を肩のラインで切りそろえた少女。

「それと、この子は久遠」
「くぅん」

那美が抱き上げたのは毛並みも鮮やかなかわいらしい子ぎつね。
くりくりした瞳がとってもチャーミングで、ちょっぴり抱きしめたいとフェイトは思ったりした。

「…………」
「…………」

真雪とリスティは口論を始めるタイミングを見失ったのか、両者共にすごすごとソファに座りなおしている。
ほっと一息つく那美と、サムズアップしてみせる耕介がいたがフェイトの視界の外だった。

「あー、あの二人はいつもあんなんだから早めに慣れたほうがいいよ」

あははと苦笑しながら、さざなみ寮特有のノリについていけていないフェイトにフォローを入れるのは、長い黒髪で長身の女性。

「ここの近所の風芽丘学園ってとこでバスケ部のコーチやってる桂木さとみだよ。まあ気楽によろしくね」
「あたしは陣内美緒。ここには猫がたくさんくるけど、それでなにか困ったときはあたしに言うのだぞ」

最後に自己紹介した美緒は那美と同じ年齢くらいで、ちょっと癖のある黒髪の活発そうな少女。
さざなみ寮の住人達は各々の自己紹介が終わると、じっとフェイトを見た。
その視線の意味するところを、一番新しいさざなみ寮の住人は汲み取って口を開く。

「……フェイト。フェイト・テスタロッサです」

足元の相棒に視線を向けると同時に、そっと頭に手を乗せる。

「この子は私の家族で、アルフ」

緊張する。
体中に響き渡る自分の心臓の音を、手から伝わるアルフの温もりで落ち着ける。

「あの、よろしく……おねがいします」

床に頭がつくんじゃないかという程にフェイトは頭を下げる。
返事は……ない。
ただ変わらず注がれている視線に軽く身を竦ませる。
周りの様子を伺おうにも、頭を下げているために自身の髪が金色のカーテンを作っていて何も見えない。
せっかく治まっていた心臓の鼓動が再び全身を駆け巡る。
どれくらいそのままでいたのか、フェイトはとうとう頭を上げて、前を見た。

「ようこそ、さざなみ寮に」

見えたのは温かな笑み。
聞こえたのは優しい唱和。

地球にやってきて初めて、フェイトの顔に笑みが浮かんだ。
薄く、消え入りそうだけど、確かに存在する笑みが。




フェイトは逡巡していた。
毎日フェイトに対して立ちふさがる強大な敵を目の前に頭を最大限に働かせる。

「…………」

そっと横を盗み見る。
隣では那美が問題なく敵をクリアしていた。

「む……」

視線を正面に戻す。
きっと表情を引き締め手を前に伸ばす……が、目標に届く前にやはりひっこめてしまう。
何回か挑戦してみるものの、毎回同じ結果に終わってしまう。

「フェイトちゃん、どうしたの?」
「あ、いえその!」

奇怪な行動を繰り返すフェイトを不思議そうに那美が見ていた。
慌ててなんでもないと両手を振ってみせるが、フェイトが手に取ろうとしていた物へと那美の視線が達する。

「あー、もしかしてフェイトちゃん……」

納得といった感じの那美に対して、フェイトは俯いてしまう。

「まだ一人でシャンプーできないのかな?」
「あう……」

フェイトは、顔を真っ赤にして小さく頷いた。
恥ずかしそうに小さくなっているフェイトは微笑ましく、また庇護欲を刺激する。
那美は自然と顔に笑みが浮かぶのがわかった。

「それじゃあ、わたしが洗ってあげるね」

笑顔で腰掛ごとフェイトの後ろに移動してくる那美に、フェイトはまたかすかな頷きを返すだけだった。
フェイトの毎日の強敵、それはシャンプーである。
戦闘で敵の魔力弾が飛んでくるほうが、シャンプーが目に入るよりまだましだというのは彼女の持論。
さざなみ寮の広い風呂場にわしゃわしゃと那美がフェイトの頭を洗う音が響く。
――うう……シャンプーなんて嫌いだよ。
ぎゅっと目を瞑ったフェイトは心の中でそっと零した。

「……くぅ~ん」

桶に張られた湯に身を沈めた久遠がのんびりと鳴き声を漏らした。




一方、リビング。
自己紹介終了後、那美にフェイトを風呂に連れて行かせた。
同時に愛は、倉庫から昔の美緒の服でフェイトのパジャマになりそうなものを取り出しに行っている。
ほとんど猫のような美緒は、自己紹介も終わったし明日も学校があるからとさっさと自室に戻ってしまった。
今残っているのは、真雪に加えて耕介とリスティにさとみ、そしてアルフだけ。
卓上の灰皿にたばこをおしつけ、真雪が口を開く。

「ひとまずあいつの部屋だが……どうするよ?」
「まあ犬――アルフがいるし、201でいいんじゃないかと俺は思うけど」
「あー、そういや昔にゆうひが防音壁入れてたなあそこ。それならアルフが吠えても大丈夫か」

――あたしゃ無駄吠えなんかしないよ!
しゃべることができないアルフは心の中だけで抗議した。

「でも今201は空き室ですよね? すぐに準備なんて無理でしょうし、今晩はフェイトちゃんどうします?」
「しまったその問題があったか……よし、耕介」
「はい?」
「今日はお前の部屋に泊めてやれ」
「はぁ!?」

耕介は驚きと共に真雪の顔を見るが、真雪はいつもどおりだった。

「いやいや、フェイトちゃんだって女の子だよ? さすがに俺の部屋はやばいんじゃないか!!」
「なんだよ管理人だろー」
「そういう問題じゃない!」

吼える耕介に対して面倒くさそうに舌打ちした後、真雪の表情がにやりと歪む。
長年の付き合いから耕介は嫌な予感に襲われる。

「なぁんだー耕介? フェイトがかわいいのは認めるけどよ、おまえさん愛という相手がありながらあんな幼女に欲情すんのかよ?」
「うわぁ、耕介さんロリコンだったんですか?」
「違いますっ!」

なぜかノってきたさとみにも全否定する。
そんな耕介の肩に後ろからぽんと手が乗せられる。
振り向くと、今まで黙っていたリスティがしきりに頷いている。

「耕介……ボクが警察だってこと、忘れてない?」
「なんでそうなるんだぁ!!」

とうとう耕介は頭を抱えてしゃがみこんでしまう。
周りの三人はカラカラと笑う。

「あのー……みなさんどうしたんですか?」

脱衣所にフェイトのパジャマを置いて帰ってきた愛が不思議そうにリビングの四人を見ていた。

「なんでもないぞ」
「なんでもないですね」
「なんでもないさ」
「……なんでもないです」

にたにたにやにやと笑う女性三人と、疲れきった様子で声をどうにか絞り出す耕介。
愛はただ首を傾げるだけだったが、すぐに当初の目的を思い出す。

「あー、そうでした。フェイトちゃんですけど、これから201号室に住んでもらおうかと思うんですよ」
「それなら、こっちでも同じ結論に達した」
「そうですかー、よかったです」

ほんわかと愛は笑みを浮かべる。

「それでなんですけど真雪さん、ちょっといいですか?」
「ん? なんだ?」
「一応倉庫に予備のベッドとかはあるんですけど、部屋の準備は今日中には終わらないと思うんですよ。だから、知佳ちゃんの部屋に今日だけフェイトちゃんを泊めてくれません?」
「知佳の部屋? いいぞ別に。あいつは今いないけど中はそのまんまだし」
「ありがとうございますー」

なごやかにフェイトの今晩の宿泊先は決まった。

「なんで俺いじられなきゃならなかったんだろう……」

耕介は一人であんまりにもいまさらな呟きを漏らしていた。
彼の小さな吐露を唯一聞いていたアルフは、
――なんか少しここのノリってもんがわかった気がするよ。
ちょっと同情気味だった。
新参となるフェイトを気にする様子もなくて、とても明るく優しい雰囲気を持つこの寮にいるということは、笑顔を滅多に見せてくれなくなってしまったフェイトにとってもいいものになるだろう、そうアルフは思う。
――ちょーっと軽すぎる気もしないんだけど……
同時に不安要素もできてしまったアルフだった。




ベットの上から天井を見つめる。
別に木目が人の顔のように見えるとかそんな特別なことはなにもなく、ただ見つめる。
ふと視線を横にずらせば、タンスや机といったものがある。
本来の持ち主は長らくこの部屋を空けているらしいが、埃が積もっている様子もなかった。
どうやらここの主はかなり大切にされているらしい。
さらに視線を落とすと、フローリングの上に敷かれた毛布の上で丸くなっているアルフがいる。
目は閉じられているし、呼吸も定期的なので、フェイトは眠っていると判断した。
そしてだからこそ、ぽつりと独白する。

「ほんとにこれで、よかったのかな?」

真雪たちの押しに負けた感が否めないフェイトは自問する。

「本当なら私はこの世界にいないはずなのに。関わらないはずなのに」

だから、最初はなるべく他者と繋がりを持たないように動くつもりだった。
なのに、今はこうしてベットに横たわっている。

「それなら断れば、よかったのに」

そもそも断るつもりだった。
宿ならともかく、寮というものに入るつもりはなかったのだから。

「なんで、私はここにいるんだろう」

理由が思いつかず、軽く頭を左右に振る。
自分は断ることができずに頷いてしまった。

「よく……わからないや」

わからない。
けれど実害があるわけではないと判断して考えるのをやめた。
別に悪いことがないなら、わからなくても構わない。
――なんでだろうね、嫌な気分もしない。
目を瞑り、寝返りを打った。
柔らかな布団が太陽の香りをかきたてる。主はあまりこの部屋に帰ってきていないというのだが、ちゃんと手入れはされているらしい。
息を吸うをたびに日光の暖かさがフェイトの体中に染み渡っていく。

「…………」

睡魔はすぐに訪れた。
まどろみに身を任せる瞬間、一瞬だけ言葉が脳裏をかすめる。

『わたしは、あなたがここで暮らしてくれると嬉しいんだけど……どうかな?』

なぜだか、まったく関係ないのに、昔の母の微笑を思い出した気がした。


――ちょっとずつ、気づけばいいんだよフェイト。
電気を落とした暗闇の中だったからか、フェイトは気づいていなかった。
アルフの耳がぴくりぴくりと動いていたことに。




「ねぇ真雪……」
「あん?」
「どうしてあの子を連れてきたんだい?」

新たな住人を歓迎してからもう数時間が経ち、フェイトはおろか、他の大人もすでに寝静まった頃。
食卓だけには明かりが灯っていた。
蛍光灯の下、真雪とリスティは酒を呷っていた。

「んなもん連れてきたくなったからに決まってんだろ」
「ふ~ん。どこの誰とも知らないのに?」
「おめーだってここ来た最初は正体不明の病人Aだったじぇねえか。人のこと言えんのかよ」
「あー、そりゃ言わない方向で」

苦笑しながらリスティはワインを口にする。
HGS――高機能性遺伝子障害、それがリスティの病気の正式名称だ。
本来この病気は、生まれつき遺伝子に特殊な情報が刻まれていて、それによりさまざまな障害を引き起こす病気である変異性遺伝子障害の一部であるのだが、リスティはその中でも特殊な例で、普通の人間とは違った能力、つまるところ超能力を持っているために、高機能性遺伝子障害ことHGS患者となっているのだ。
一応は能力を隠して生活することも可能であり、また社会的な影響が大きいとして世間への大々的な発表はなされていないため知名度は低い。

「そーいやぼーず。おまえ覗いたんだろ」
「なにを? 誰が?」
「フェイトの頭ん中だよ。わざとらしく頭触っておいてとぼけんな」

ハイボールを喉に流し込んだ真雪にじろりと見据えられ、頭をがしがしとかくリスティ。

「ああ、確かにほんのちょっとだけ覗かせてもらったよ」

リスティが持っている能力のうち一つに『読心』がある。
相手の考えていることや、個人的な情報を引き出すことができる能力だ。
当然、みだりに使ったりはしない。
ただ、素性のわからないフェイトである。さざなみ寮になにか害意を持っていないかを、浅い読心で読みはした。
頭を撫でた時にほんの少し。

「まあ、お前が何も言わないってことはあいつに問題はなかったってことなんだろうがよ」

もし悪意があればリスティは全力でフェイトを排除しにかかっただろう。

「で、どうだったんだ? あいつの心の中」
「ん? 気になるの?」
「一応はここに連れてきた張本人だからな」
「優しいねぇ。その優しさの三割くらいボクにくれたらいいのにさ」
「てめぇにやる優しさなんかあるか」

フェイトにあげる分はあるんだ、とは言わないでおいた。
真雪が素直じゃないのは昔からだったし、フェイトの心の中を覗いたリスティにしてみれば、なぜ真雪が彼女をそこまで気にするのかなんとなくわかるからだ。
グラスを揺らしてワインの波を見つめながら、どう話したものかと言葉を選ぶ。

「一番外側にあったのは、困惑と不安……かな」
「…………」

真雪はウイスキーボトルだけでなく、リスティの言葉へ耳も傾ける。

「だけど、一瞬だけ感じ取れた感情は、そう――」

グラスを蛍光灯に翳すように持ち上げる。
紫に近かったワインの色が血のように鮮烈な赤に見えた。

「寂しさ、だね」

そして、そのまま飲み干した。






『あとがき』

遅れに遅れた気もするけどついに公約通りに投下したぞ!
一話はさっそくさざなみ寮に捕まるフェイト……といったところ。展開が強引な気がするのはスルーして欲しい。
フェイトとさざなみ寮メンバーのホームドラマ(?)が書けるといいな。

とりあえずこの作品のフェイトはあうあう言ったり、未だにシャンプー一人じゃできなかったり、久遠みたいな小動物を抱きしめたくなったりと、子ども成分増量で行きたい。
次がいつになるかはわからないけど……


ご意見ご感想お待ちしております。


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