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No.286の一覧
[0] 機動戦艦ナデシコ-Irreplaceable days- 【再構成】[小瓜](2005/02/13 19:38)
[1] Re:機動戦艦ナデシコ-Irreplaceable days- 【再構成】[小瓜](2005/02/13 19:41)
[2] 機動戦艦ナデシコ-Irreplaceable days- 第二話[小瓜](2005/02/17 20:12)
[3] Re:機動戦艦ナデシコ-Irreplaceable days- 【再構成】[小瓜](2005/02/23 22:38)
[4] 機動戦艦ナデシコ-Irreplaceable days- 【再構成】 第四話[小瓜](2005/03/06 23:01)
[5] 機動戦艦ナデシコ-Irreplaceable days- 【再構成】 第五話[小瓜](2005/06/13 02:38)
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[286] 機動戦艦ナデシコ-Irreplaceable days- 【再構成】
Name: 小瓜 次を表示する
Date: 2005/02/13 19:38

人の数だけ想いがあって


想いの数だけ物語がある


だから――――


始めよう、この物語を





機動戦艦ナデシコ

Irreplaceable days






――――2178年2月26日――――


「せ、先生っ! 妻はっ!? 子供はっ!?」


「お、落ち着いて下さい。大丈夫ですよ、ほら――――」


「はい、旦那さん。元気な男の子ですよ~」


「おお……おおぉっ! 頑張ったなぁ……良く生まれてきたなぁ……やっっったーーーーーっ!!」


「だ、旦那さんっ! 病院ではお静かにっ!!」




――――3260グラムで誕生――――




――――2182年4月15日――――




「おーいっ。準備できたかー?」


「はーい。もうちょっと待ってくださーい。ほら、ちゃんと歯磨いて。おトイレは済ませた? ハンカチとちり紙はちゃんとポケットに入れた?」


「うん。らいひょぶ」


「あーもうっ。歯磨きながら喋っちゃだめでしょっ。泡が服についちゃうからっ。ほら、足あげて」


「ふぁーい」


「おーいっ。そろそろ出ないと間に合わないぞー」


――――火星ユートピアトロニー ネルガルグループ出資・経営 私立ノゾミ幼稚園入園――――




「おぉテンカワさん。そういえば今日入園日でしたなぁ。いや、おめでとうございます」


「あ、ミスマルさん。これはどうもご丁寧に。ユリカちゃんおはよう」


「おじさま、おはようございますっ。あれ~? おじさま、男の子は~?」


「あぁ、もうすぐ来ると思うんだけど……。おーいっ。まだかーっ? ユリカちゃんはもう来てるぞー?」


「はーいっ! すぐいきまーすっ!」「まーすっ!」




――――ミスマル・ユリカと初の邂逅――――




――――そして、同年秋――――


「ユリカー! どこーっ!?」


「こっち、こっちだよーっ!」


――――自宅付近 新規コロニー開発・建設工事現場――――


「あぁっ! ユリカッ! あぶ、危ないから降りなきゃだめだよーっ!」


「だいじょうぶーっ! ほらほらー、いっぱいボタンとかあって面白いよーこれー」


――――多目的貨物対応 大型自走式クレーン――――


「わっ、動いた動いたーっ!」


「だ、だめだってばユリカー! そっち、そっち行くから何もしちゃだめだよーっ!」


――――多目的貨物対応 大型自走式クレーン 重量43.1t――――


「きっ、きゃあぁっ! たすけ、たすけて~、あきと~っ!!」


「待ってて~っ! 動いちゃだめ
                ―――――え?」




――――高速で振り回されたクレーンのフックにより、テンカワ・アキトの心臓は停止した――――




 次にアキトが自覚できたのは、自分が暗闇に囲まれているという状況。


『…………ここ、どこ?』


 次に自覚したのは、身体の感覚が無いという事実。


『――――っ! お、おとうさんっ! おかあさんっ!』


 身体が動かない、何も感じない。


『なっ、なんだよっ! なんだよこれぇっ!?』


 耳が聴こえない、何も見えない。


『どうなってるのっ! なんだよこれっ! おとーさーんっ!? おかーさーんっ!?』


 五感の消えた少年は――――


『あ、ああぁ……うわあああああああああっっ!!』


     ――――絶望の咆哮をあげた




 ――何秒――何分――何時間――何日――何ヶ月――


 どれだけの時間が経ったかすら知覚出来ない暗闇。
 生物として、五感が皆無であるという肉体の「死」と同等の状態に、彼の精神もまた「死」を迎えようとしていた。


『――――なにもない。なにも……なにも……』


 心でのみ言葉を紡ぎ、自分を励まし、何とか現状を打開すべく様々な思考をしたが、その稚拙さ故に自分が無力である事を思い知る。
 自身の幼さを呪い、現状を呪い、目の前の暗闇を呪い。それでも現状の打破を求め、思考を繰り返す。


 その繰り返しは確実に彼の心を磨耗させ、闇に削ぎ落とされた精神は結果、絶望の淵を彷徨う。
 そして彼の心はその絶望の淵からも転げ落ちようとする。


『もう………いい……や……』


 絶望という苦汁を恐らくは凡人の何倍も味わい、散々に痛めつけられた彼は、その幼稚な心を閉ざす

        ――――寸前。


『…………ひか…………り…………』




 目前に光が満ち溢れようとする光景が、闇の中で最後に知覚した事だった。




 人類が火星に入植し、生命を営み始めてから百余年。
 ナノマシンで満たされる大地は、人類の新たな歴史と、火星の知られざる歴史の紐を解いた。
 古代火星人の文明、その遺跡の発見。
 現在の地球人類の科学すら及ばぬ程の技術力を過去に所有していた生命の痕跡が、テラフォーミングされた大地で次々と発見されていった。
 未知のナノマシン技術、未知の推進機関技術、そして未知の生命。
 途方も無い謎を解明すべく、地球にある企業は先を争い火星へと支部を開設、研究機関をいくつも立ち上げた。




 その先端を行くのが、ネルガルグループ火星支部の立ち上げたオリンポス山にある研究所。
 技術力、経済力、権力全てをネルガルは火星技術の研究に費やし、結果として成功を収め、今尚収益を上げようと研究を続ける。
 そういった、事実上現代のトップ科学者・技術者達の中で、テンカワ・アキトの両親はそれぞれの分野でのトップとして存在していた。
 父は未だ実現化されていないワープ技術を違う形で実現する事の出来る新しいワープ技術、ボソンジャンプという理論の研究第一人者。
 母は次々に発見されていく未知の古代ナノマシン技術の研究・解明の第一人者。
 彼らの切り開いた道は確実に人類に恩恵を齎す物として、その類稀なる知識と技術にネルガルは湯水のように資金を投資していた。




 その夫妻は今、目の前に在る絶望と戦っていた。




 それを聞いたのは昼食時だった。
 隣家に住む火星駐留軍の幹部ミスマル・コウイチロウ氏の使いという軍人が突然訪れ、夫妻に報告した。


 テンカワ・アキト君が、工事現場の重機の暴走により危篤状態である、と――――。


 その後の行動は詳しくは記憶に無く。
 気が付いたら病院の廊下におり、「残念ですが」と報告してきた医師を父は殴りつけ、罵倒していた。
 母は、ガラスの向こうで機材に囲まれ横になっている息子を呆然と眺めながら、静かに涙を零していた。
 声をあげず、ただ静かに涙を零しながら、母はガラスに擦寄り。
 手に触れたガラスの冷たさと目前でぼろぼろの有様となっている息子を眺め、一人呟く。


「息子は、アキトは私が助けます。すぐにここから出してください」


 機材に囲まれ、無理矢理維持している生命活動を絶やさぬよう慎重に身柄を移送されたアキトが辿り着いたのは、オリンポス山にあるネルガル所有の研究所。
 アキトを中に運び込んだ夫妻は、突然現れた夫妻に戸惑い、彼らに運ばれているアキトの状態に驚愕を浮かべる。
 それに構わず夫妻は妻が主任研究員を勤めるラボへアキトと共に訪れ、場の動揺を無視して声を荒げた。


 「この子にナノマシンを、ラットで試験したやつがあったでしょう! それを持ってきなさい! 早くっ!」


 研究員の動きは迅速だった。
 研究所の所長が何事かと顔を出したのも構わず彼らはストレッチャーに寝ているアキトを慎重に抱き上げ、無理矢理生命維持を行っている機材を外し、すぐさま研究所にある機材を取り付け、人工的に造られた羊水にも似た液体で満たされたカプセルに沈ませ、機材でナノマシンを投与した。
 それからはアキトの生命維持を持続させる事に集中し、逐一記録を取り、ナノマシンの効果が現れるまで夫妻のみで無く、全員が緊張した空気を維持していた。


 それから三時間。




 ナノマシンの効果によりアキトの生命活動が復活を開始した時、その場に居た全員が、喝采の声をあげた。




 アキトの容態は当面の危機を逃れ、現代医学では絶望的な状況から復活を遂げたが、未だ目を覚ます事は無かった。
 だが投与したナノマシンはアキトの中で着実に数を増やし、次々とアキトを癒していく。
 時間をかけ、ゆっくりと傷は治り、見た目には何の問題も無くなるまで約半年。
 それと共に傷ついた神経、脊髄、脳髄も確実に治療されていった。


 投与されたナノマシンは、火星でネルガルが発掘、保有している遺跡から発見された未知のタイプ。
 それをラットに投与し、医療タイプであると分かったのは投与する前日の事だった。


 そして、そのナノマシンの画期的な、新たな効果が分かったのは皮肉にもアキトに投与し、アキトの状況を逐一調べていた結果だった。


 身体に投与されたそのナノマシンは、増殖を続けている間、延々と身体の細胞分裂を促進し、染色体内のテロメアを無限に再生させる。
 また、身体の内外を問わず傷口全てに素早く移動し、血小板や内皮細胞、様々な因子の何倍もの効果で通常よりも早く処置し、急速に癒していく。
 それは筋組織や神経なども同様で、破損した部位に張り付き、再生前と同等以上の働きを行うようになった。


 これだけを見れば医療用ナノマシンとしては最高のものなのだが、利点もあれば欠点もあり、このナノマシンも同様だった。


 ナノマシンが増殖を続け、染色体のテロメアが無限に増殖する期間。
 つまり、細胞が老化を停止した期間が三年間程度も持続されてしまうという予測が、アキトへ投与した結果と、実験で投与されたラットから導き出された。
 血流に乗り身体の隅々まで行き渡ったナノマシンは身体情報を脳髄や脊髄から引き出し、欠損状態を完全に再生させる。
 だがそれを終えた後もナノマシンは増殖を続け、無傷の筋組織や神経、脳細胞にまで取り付き始め、細胞を強固なものへと改竄し、全ての細胞の改竄を終えるまでそれを止めない。
 その期間が増殖スピードと改竄の期間を慎重に計算し、アキトの身体内をナノマシンが満たすまでが予測として約三年だった。


 次にこのナノマシンは、維持に必要とするエネルギーが過大なものとなってしまう。
 常人の何倍ものエネルギー、各種栄養素を必要とし、それと引き換えに身体を巡り欠損、破損部分を通常の何倍もの速度で治療する。
 このエネルギーは、ナノマシンが増殖する三年間は更にかかり、もはや通常の食物摂取では維持できない。
 維持出来なくなるとナノマシンは自身が改竄した細胞を喰らい、エネルギーを得ようとする。
 それは結果として投与された人物の死を意味する。
 その行動はまるで、寄生虫が宿主から栄養を吸収するかのようなものだった。


 最後に、そのナノマシンは増殖を続ける間、宿主の身体能力を一時的に奪い、必要最低限の行動を起させないようになる。
 心臓、脳、一部顔面や眼球の筋肉と神経は行使する事が出来るが、腕や足を動かす事は不可能だった。
 その行動は宿主のエネルギー消費を抑え、増殖するナノマシンにその分の栄養を与える為だろうと推測された。


 幸いにもそのナノマシンは無限に増殖し、栄養さえ与えればその宿主を食い破るなどという事態は無いと判りはしたが、この結果はテンカワ夫妻に暗い影を落とした。
 ナノマシンに身体を改竄、つまり改造されてしまう。しかも全身、細胞のありとあらゆる全てが。
 しかも三年間アキトは成長を強制的に抑制され、通常では摂取不可能な栄養を要求され、ナノマシンが維持出来なくなるとあっさりと死を迎えてしまうのだ。
 現在はカプセルの中で、必要な栄養素をナノマシン維持と生命活動の維持に必要な分だけ摂取させている。
 だがアキトが目を覚まし、そのカプセルから出てしまうと彼は数日で死を迎えてしまうのだ。


 テンカワ夫妻が投与したナノマシンが生んだのは、死を迎えるだけだったアキトを復活させるのと引き換えに改造人間とし、目を覚ましても三年間はカプセルの中から出る事は叶わず、互いに抱き合う事が出来ない生活を強制させるという結果だった。




「私は、自分の息子で人体実験を行い、改造人間にした最低の母親です――――」


 ナノマシンの生んだ弊害を知ると、アキトの母は顔を俯かせて夫に言い、静かに離婚を申し立てた。


「あの子は将来、他者との違いに悩み、苦しむ事になるでしょう。その未来を生み、あの子の将来を潰したのは私。だから……。
 あなたはそれを背負う事は無いんです。アキトの苦しみは、私が全て、全て引き受けますから――。どうか、私と離婚して下さい」


 涙を堪え、震えながら頭を下げる妻に夫が。


「俺達は家族だ。俺はアキトの父親、お前は母親。一緒に苦しむのは当然だ。だから、俺は、絶対、お前と別れない」


 そう言い差し出された離婚届をビリビリに引き裂いた出来事を過去にし、二人は並んで眠るアキトの前で静かに待っていた。


「アキトは、私を恨むでしょう……。それでも、私はあの子に生きていて欲しかった」

「あの子は、自分で言うのも何だが俺に似て優しい奴だ。きっと、お前を許してくれるはずだ」


 羊水に包まれ、仄かな明かりに照らされる息子を眺めつつ、夫妻は会話を交わし、目覚めの時を待つ。
 やがて、アキトの状態を管理していた研究者の一人が口を開いた。


「脳波のβ波が増加しました。そろそろ覚醒します」


 報告を聞いた夫妻に緊張が走る。
 心臓は早鐘を打ち、期待と不安で胸が押し潰されそうになる。
 夫妻は静かに目の前のカプセルを見つめ、互いに支えあっていた。


 やがて、夫妻の前で息子はゆっくり、ゆっくりとその瞳を開く――――。


『…………おとう、さん……っ! おかあ、さぁん…………』


 目を開き、自分達を確認した途端泣き出した息子と共に、夫妻は喜びの涙を流した。


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