Side カナン
その名前を呼ばれた相手は、カナンのほうにと視線を向けると、銃の握り手をカナンの頭にと殴りつける。驚いたのはキャミィだ。
「お、おい!!いきなり何をするんだ!?」
「てめぇ!?どうして、あの蛇女が死んでないって私に言わなかったんだ!?ああっ!?」
頭を抑えているカナンに、レヴィは怒鳴りつけながら、煙草を吐き捨てる。カナンは頭を抑えながら、涙目になりつつレヴィを見る。
「で、でも……どうしてレヴィが、此処に?」
「夏目とかいう女に、日本にアルファルドがいるって聞いてな。金も出すとか言うし、事件を知ったのは飛行機でだ。あの女の名前がニュースに流れたときはそれこそ、ハンバーガーの肉が、ネズミの肉だと知ったときほど驚いたぜ」
「なんなんだ、この下品な女は?」
あまりのことに、呆然とするキャミィ。レヴィは振り返りキャミィを見る。
「なんだ、カナン?いつからお前はこんな売春婦と一緒にいるようになったんだ?」
「ば、ばいしゅん!?」
突然の言葉にキャミィは目を見開く。
「あ、レヴィ……彼女は英国の特殊部隊でキャミィって……」
「聞き捨てならないぞ!今の言葉を訂正してもらう!!」
「そんな恰好でいる奴が売春婦じゃなきゃ、ただの変態だ!」
睨み合う両者を、カナンが割って入る。
「と、とにかく……レヴィも目的は……」
「あの蛇女を棺桶に縛り付けて、海にたたき込んでやることだ」
「こいつ、本当に頼りになるのか?」
「少なくとも、裸より恥ずかしい格好の奴よりかは役に立つだろうぜ」
売り言葉に回言葉が飛び交う中、三人は、アルファルドがいるであろう部屋にと向かう。
この戦いを止めるために。
目的を果たすために。
宿敵を打倒すために。
学園黙示録×CANAAN
Episode6 毒・蛇・蜘蛛×二挺拳銃・殺人蜂・闘争代行人
Side アルファルド
「ようこそ」
扉が開かれた先、アルファルドがイスに座りながら、カナン、キャミィ、レヴィを出迎える。アルファルドの隣には、ジュリ。そして、もう一人は、黒いライダースーツを着た毒島冴子。アルファルドは、現れる三人を見ながら、立ち上がる。既に、部下達は下がらせている。どちらにしろ、この三人を仕止めるのは相応のものでなければ無理だ。
「お前がほしいのは、これだろう?」
アルファルドが立ちあがりイスをどかすと、その背後には、倒れている大沢マリア、そして彼女と瓜二つの大沢ひとみがいた。カナンは険しい表情で、アルファルドを睨んでいる。アルファルドは、そんなカナンを見つめ笑みを浮かべる。
「誰だ?あれは?」
「私の友達だ」
カナンの言葉をレヴィは聞いてふ~んと頷く。レヴィは先ほどからアルファルドしか見てはいない。ロアナプラで仕止め切れなかった相手。以前、ロアナプラを舞台に繰り広げられた、蛇との戦い。船上にて彼女を撃ったのはレヴィ。仕止めたはずだったが、彼女はこうして立っている。レヴィとしては、決着をつけるべき相手だ。
「蛇女、私には興味無しか?折角、墓をつくってやったのに台無しだ、私がしっかりと埋めなおしてやるぜ」
「相変わらずだな、二挺拳銃。前も言ったがお前に付きまとわれて喜ぶような趣味は持ち合わせてはいないぞ」
レヴィの言葉を返すアルファルド。
「なんだ?あの女が、エレベーター吹っ飛ばしたクソ女か?」
「蛇女の趣味は、ヘンテコなもん頭にくっつけた奴がお好みみたいだな」
「んだと!?このビッチ。ぶっ殺すぞ!?」
ジュリはレヴィの挑発に感情丸出しになり、睨みつける。
「ジュリ……お前を止めるのは私だ。これ以上は好きにはさせないぞ」
「安心しな、てめぇーには、さっきの借りがあるからな?言われなくても……てめぇーは殺害確定だ!!」
キャミィは静かな声で、対するジュリに告げる。
「……カナン」
アルファルドの前でカナンを見つめるマリア。
カナンは、大切そうに妹であるひとみを庇うマリアを見つめ
「妹を助けにきたんだ?」
「うん……」
「大丈夫」
カナンは力強く言うと、銃を握りしめ、目を灯す。
「すぐに助け出す」
「そういうわけにはいかない……」
カナンの目の前、マリアとカナンを妨げるように、冴子がたつ。彼女は刀を握りながら、カナンと対峙する。
「冴子さん!!ダメ!」
マリアは、冴子の後ろ姿を見ると大声をあげる。
アルファルドは、それらの光景を見渡しながら、銃を握った腕を上げる。それに呼応されるかのように、レヴィもまた二丁拳銃を向け、カナンも銃を向ける。キャミィは、腕を前に出し構え、ジュリは片目を輝かせ、気を放つ。冴子もまた、刀を前にと出し、構えた。
「始めよう……闘争の時間だ」
アルファルドが引き金を引くと同時に、レヴィも放つ。アルファルドは、瞬時に身をかわし、レヴィもまた、身を低くして、銃の飛び交う弾道から身を避ける。アルファルドは、身をかわしながら、隣から姿を消し、宙を舞うジュリを見た。
「アハハハハハハ!!!!」
彼女のピンク色に輝く脚は、キャミィを狙い、キャミィはそれを避ける。だが、彼女の足は、キャミィの先ほどまでたっていた場所を抉るように、粉々にする。キャミィは破片を両手で防ぐのが精いっぱいだった。
「くそったれ、また化け物みたいな奴が敵かよ!?」
レヴィはそう叫びながら、ジュリの攻撃により粉砕した、床の破片を身を床に転がしながら、交わす。室内は一気に戦場となり、アルファルドは、その中を走り、レヴィを狙う。そんなアルファルドをけん制するかのように、銃を放つカナン。
「レヴィ!」
「わかってる!!」
カナンの言葉に答えレヴィは、物陰から身を出して、二挺拳銃でアルファルドを狙う。だが、彼女が貫いたのは、アルファルドのコートだけである。アルファルドは、レヴィの足元を蹴り、バランスを崩す。レヴィは、崩れ落ちながら、拳銃をしっかりとつかみ、アルファルドを撃つ。アルファルドは咄嗟に、銃を握ったまま、片手で、全身支える逆立ちをして身を返し、レヴィの銃弾から身を守る。
「相変わらずの曲芸師っぷりだな、蛇女!」
「私に会いたかったのだろう?もっと楽しませてくれ」
逆立ちから、体勢を立て直したアルファルドは、薄着になり、素肌を晒しながら、銃でレヴィを狙う。レヴィもまた、立ち上がり、アルファルドに対抗するようにして銃を放つ。レヴィは、アルファルドの銃撃から身をかわすようにして、室内を走っていく。室内に轟く銃声。レヴィはアルファルドに確かに狙いを定めているが、まるで銃弾がアルファルドを避けるかのように、当たる気配がない。
「ちっ……」
「ひゃっほぅ!!」
レヴィは、突然の殺気に、体が無神経に反応して、身をかがませる。打撃はよけた。だが、その足から放たれるオーラは、レヴィを掠め、彼女の数本の髪の毛をかき消す。
「はあっ!!!」
キャミィが、レヴィの頭上で、ジュリの胴体を前蹴りし、距離をとる。レヴィは苛立ちながら、立ち上がり、自分を狙ったジュリに対して銃を放つ。ジュリは、そんなレヴィの銃弾を、目からピンク色の光を灯し、手を前に伸ばす。レヴィの銃弾は、そのオーラに包まれると、まるで壁にぶつかったように凹み、床にと落ちる。
「残念」
ジュリは、自分のピンク色に輝く瞳を指差し、告げる。
「おい!コスプレ女!なんなんだ、あいつは!?」
背中合わせになりながら背後にいるキャミィにと問いかけるレヴィ。キャミィは、目の前に迫るアルファルドをにらみながら
「奴の片目から放たれる力は、鉛玉じゃ防がれてしまう。奴を倒すには、その身に拳を叩きつけるしかない」
「なるほど、それじゃ私とは相性が悪いな」
「先ほどまでの威勢はどこにいった?二挺拳銃」
「うるせぇ……ここはお互い、相性がいい奴同士で先にケリをつけたほうが勝ちって言うのでいこうぜ?」
「こんな状況でよくもまあ……」
キャミィは苦笑いを浮かべながら、こんな状況下でも、楽しく話をしている自分に驚いてしまう。背中合わせになっていたレヴィの腰が曲がる。キャミィは、レヴィの曲がった背中に、自分の背中に体重をかけ、彼女の背中の上で一回転すると、レヴィと対峙をしていたジュリにと相手を変える。レヴィもまた腰を戻し、アルファルドにと銃を向ける。
「不思議な奴だな、お前は」
アルファルドはレヴィを見つめながら、告げる。
「私やカナンが通ってきた闘争というものを、戦うという意味を、純粋に楽しんでいる」
「へっ……。表面上はビジネス、平和、色々な言葉で人間は取り繕っていやがるが、結局のところは……自分で求めたもの。狂気的な快楽ってやつさ」
「フ……なるほどな」
アルファルドを見つめ、レヴィは二丁拳銃を交互に放つ。
Side カナン
部屋中に響き渡る銃撃の音、室内で響きわたるジュリの気の攻撃。その中、冴子は刀を握って、マリアとひとみを、背後に置き、彼女達を庇うようにして立っていた。そんな冴子と対峙するカナン。カナンは、銃を握ったまま、ジュリの色を見定めようとしていた。
「貴女がカナンか……」
冴子は、日本刀を握りながら、カナンにと向ける。
「青が半分……迷っているのか?」
「迷う……そうだな、迷っていた時もある」
冴子は、大きく足を踏み出すと、日本刀を真横にと振り、カナンの身を切り裂こうとする。カナンはそれを後ろにと飛び避ける。だが、冴子はカナンの動きを読んでいる。避けたカナンに対して、冴子は刀を握る手を変え、その刀を今度は真上にと振り上げる。カナンは、なんとかそれを寸での所でかわすが、カナンの白い前髪の数本が切れる。カナンは、後ずさりながら、銃を向ける。
「ダメ!!」
マリアの声に、引き金にかけようとした手が止まる。冴子は、それを好都合として、刀を、上から下、左から右と振るう。カナンはそれをなんとかかわしながら、銃で狙いを定めようとする。
「マリア!彼女は……」
「私を助けてくれたの!冴子さんは!!でも……アルファルドに」
マリアの声を聞きながら、カナンは目を細める。冴子の色は様々な色が混じっていた。憎悪、哀しみ、怒り、苦しみ、歓喜……。こんな混ざり合った色はカナンは見たことがなかった。しかも、そんな様々な感情がまるで爆発している状態だというのに、冴子の表情は落ち着き、的確に自分を仕止めようとする。
「くっ……こいつ、一体」
「戦わないのか?私が、マリアや妹君である大沢ひとみを、助けようとしたから?甘いな、そのために自分の命を捨てるつもりか!」
冴子は、刀を振りながら、カナンを壁際にまで追い詰める。カナンは冴子の影を見ながら、目を灯す。このまま、負ければ返ってマリアとそして妹であるひとみが危機に陥る。カナンは、銃を握り、引き金を引いた。カナンの動揺を冴子は感じ取っていた。冴子は日本刀を握り、弾丸を切り捨てる。
「!?」
カナンは、その驚くべき行動に、面喰う。冴子は、そのままカナンを狙い日本刀で切りつける。カナンは壁から身をかわし、床を転がりながら、再度、銃口を向ける。冴子は、日本刀を振り、カナンを見下ろす。
「もっとだ……もっと、もっと!!」
冴子は、倒れているカナンに対して、切りつける。カナンは、冴子の攻撃を床を蹴りつけて、身を宙に舞わせ、避ける。カナンは、そのまま両足で着地をすると、腕を伸ばし、冴子に向けて銃弾を放つ。勿論、彼女の命まで奪う気はない。冴子は、そんなカナンの銃弾を再度、刀で両断する。
「ふっ……ふふふふ」
口元を歪め、冴子は、刀を振り、カナンから離れないように足を踏み出し、ついていく。銃は遠距離での攻撃では適しているが、近距離であれば、刀の殺傷性の高さの方が上である。それを冴子はわかった上で、カナンをつけ狙う。
「くっ!」
カナンは冴子から距離をとろうと銃を構える。だが、至近距離では、かえって銃の狙いが定めずらい。
「はあっ!!」
冴子が、真横に刀を振った。カナンはそれを両足で耐えながら、腰を逸らし避ける。カナンは、すぐに身を立て直し、冴子の頭に自分の頭をあてる。冴子は、その痛みから、距離をとった。カナンとしては距離をとれたことは有効である。
「はあ……はあ……はあ……」
熱い息をする冴子。
彼女の目は、完全に戦いに飲まれていた。色も青で覆われ、周りが見えなくなっている。彼女は刀を強く握りながら、カナンを見定めている。その瞳は、狂気に満ちている。刀を握ったまま、大きく息を吐く。いつでも攻撃を仕掛けられるように整える。
「……マリア、本当に彼女は、一般人なのか?」
カナンの問いかけに、マリアはその様子を隠れながら見つめながら頷いた。
どうかしている……。
これほどの戦闘に対して、天性の才能を持った人間がいることなど、早々にはない話だ。しかも、彼女はいまだに成長段階にある。自分と戦うことでそれが開花しているようにさえ感じる。
「……狂気に飲まれれば、自分を殺すことになる」
「元々、私の中に隠れてあったものが解放されているだけだ」
冴子は、一気に距離を詰めてくる。カナンは、彼女の動きに合わせて、銃を放つ。冴子は、まずは刀を横にして弾丸を真っ二つにし、次の弾もまた、彼女の動体視力の中で、はっきりと捉えられ、銃弾を刀で弾き飛ばす。接近戦……カナンは、冴子の共感覚で動きを読み取り、冴子の縦横無尽に振りかざされる刀を、髪の毛をなびかせながら、体の向きを変えて、避けていく。
「アルファルドに屈するな!」
「黙れ!私はけして、屈してなどはいない!!」
冴子は、カナンと戦いながら、その動きをさらに速めていく・
「……戦うことで、さらに腕が上がっているのか。なんていう奴だ」
カナンは、冴子の胴体に蹴りをいれ、冴子と距離をとる。冴子は、一瞬身をひるませるが、片手を床につき、足を広げ体勢を維持しながら顔だけはしっかりと前を見て、大きく口を開ける。
「私は……はぁ……もっと……はぁ……強くなれる。自分を解放し……はぁ……苦しみから……取り除かれる」
冴子は、再度、カナンにと向かおうとした。
カナンは銃を冴子にと向ける。これ以上、彼女に対して、本気を出さないのはかえって危険だ。彼女は強くなり続けている。いずれは、飲み込まれるほどに。
「「……」」
二人が、再度銃と、武器を強く握りしめ、勝負をかけようとした時、室内にあるモニターから音が響いた。それは、戦っていたレヴィ、キャミィ、ジュリ、アルファルドたちも動きを止めるものだった。
『聞こえるか!?』
その声に冴子の表情が変わる。
「た、孝…?」
Side 小泉孝
小泉孝は、他のメンバー宮本麗、高城沙耶、平野コータ、そして加納とともに警視庁内での放送室にいた。孝たちは、警視庁にと武器になるものを探し出そうと玄関に入ったところを、蛇のメンバーに見つかり、大沢ひとみを拘束された。彼女を助けようとした所、孝たちは場で銃で脅され、殺されそうになる。そこで、本当ならば、終わっていたはずだった。だが、蛇のテロリストが、誤っていたのは、自分は学生に絶対に負けないという考えもってしまっていたことにあり、大沢ひとみを他の仲間にませ、1人で始末をしようとした、絶対的な慢心にあった。麗は、もっていた掃除用具の棒で、腹部を突き、怯んだところ、銃をコータにと奪われ、撃ち殺された。後は、警視庁内の建物内に立ち帰り、大沢ひとみを助け出そうと考えていた。そこで起きたのが、レヴィが起こした爆発にある。そして、様子を身に玄関を見た際、現れたのは加納であり、今ここに至るわけだ。
「聞こえてるわ!孝!」
麗が合図を送りながら、放送室のマイクを握り、孝は言葉を続ける。
「テロリスト共、この建物には、既に<奴ら>が押し寄せてきている!逃げ場所はなくなるぞ!大人しく、人質を解放しろ!そうしなければ、お前たちは<奴ら>に殺される!」
孝がマイクを握り力強く言っているブースの外で、沙耶は腕を組みながら
「人質を解放しろっていうのは意味がわからないわね……」
「ま、まあ、いいんじゃないんですか?」
コータは、苦笑いを浮かべながら告げる。
「どっちにしろ<奴ら>があの爆発音で、集まってきているのは事実だ。俺たちも、これ以上ここにいるのは危険だ。急いで、建物から出るぞ!」
「今更、間に合うかどうか、疑問だけど」
沙耶は、窓の外を見つめ、集まり始めている黒い<奴ら>の集団を眺めていた。
「どちらにしろ、連中もあれほどの数の連中を相手にはできないはずだ」
「ああ、そして、刑事さんの言うことが正しければ、下にいるテロリストと戦う連中は、大沢ひとみを助けてくれる。そういうこと?」
「ああ」
加納は、信じていた。
あの二人の言葉を、あの二人を。
ブースから出てくる孝。表情をすっきりとさせた彼は、手にした銃を握りながら、待っていた麗、コータ、沙耶、加納を見る。
「行きましょう、俺達にはまだやらなくてはいけないことがあります」
「はぁ、まったく女がこれだけいるのに、また毒島先輩?」
「い、いやだって……」
「大丈夫でしょう、ほら、冴子さんは強いですし」
コータの言葉に、孝は頷いた。
今の彼らには思いもしないだろう。
捜している彼女が、この今いる巨大な蛇の塔の真下で…、今まさに、テロリストと共に、刀を振いながら戦っていることなど。髪の毛を舞わせながら、刀を握り、大きく息を吐きながら、冴子は、飢えた獣になっているということに。