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No.28391の一覧
[0] 退治屋 ~怪異清祓譚~[金雀枝](2011/06/19 20:06)
[1] 2[金雀枝](2011/06/17 22:52)
[2] 3[金雀枝](2011/06/17 22:49)
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[28391] 退治屋 ~怪異清祓譚~
Name: 金雀枝◆21124b6c ID:9909fb48 次を表示する
Date: 2011/06/19 20:06
 小説家になろうにも投稿しています。色々と至らないところがあると思いますが、アドバイス、感想などありましたらお願いします。
 改稿しながら投稿しています。

 いつの世も、もちろんこの平成の世にも人の生活に怪異というものは憑きものだ。
 もし怪異に魅入られてしまったのならば、見入ってしまったのならば、憑かれてしまったのならば、
 とある商店街のはずれにある式木退治屋というところを訪ねるといい。きっと貴方の力になってくれる人がいるから。
 妖怪退治屋のアルバイトをしている少年、遠井恭介が妖怪を退治していく物語。

―悪夢―
 少年は眼前の異類異形の類であることは火を見るより明らかな怪物に対して、全く臆すことなく接近していく。
 怪物の口からは休む暇もなく炎弾が直線状に、少年目掛けて放たれるが、少年は携える刀で次々と弾き落していた。刀には一切傷付く様子は見られない。
 次の瞬間、怪物は大きく息を吸い込み、先程までと比べて優に数倍はあるであろう炎の塊を吐き出した。流石の少年もそれの前には僅かな怯みを見せる。
 だが突如、少年よりは幾らか年上だと思われる女性の凛とした声が響き、それとほぼ同時に地面より水の竜が出現する。
 水の竜はまるでクジラが小魚を捕食するかのように、一瞬で炎の塊を丸の身にした。
 痩身長躯の怪物は驚愕を覚えたのか、しばしの間水の竜を見つめてその動きを止めてしまう。
 そのほんの僅かな時間が決定的だった。逃げる怪物を駆け足で追い続けていた少年は、両足を揃え、それまでの速度を利用して大跳躍した。
 並みの人間では到底敵いそうにない、十メートルオーバーの跳躍を見せた少年はぴたりと両足で着地し、刀の間合いに怪物の身体を収める。
「これで終わりだ」
 少年は勝利を確信したかのような笑みを浮かべながらそう呟くと、怪物の胴体の辺りを狙って、思い切り刀を振り抜いた。

『源頼光公土蜘蛛を退治給いし事、女児の知るところ也』今昔図画百鬼より

 冬を越え、ようやく芽吹き始めた花々の発する春の匂い。
 そんな匂いにもすっかり馴染み始めた今日、四月二十一日。
 桜は満開の時期を過ぎ、その花びらは少し散り気味だ。
 私はそんな情緒あふれる薄紅色を、気温の高さゆえに解放された窓から見つめながらふと静かに溜息を吐いた。
 今の私の心境としては、散り行く桜というのは些か情緒を擽り過ぎる。
 特に、悲しみを。
 私には悩み事がある。といっても高校生というのは、いや人間誰しも常に何かしら、大なり小なり悩んでいるものだと思う。
 私、久原叶(くはらかなえ)もその一というわけだ。
 そんな私の悩みは学業のこととか、恋愛のこととか、部活のこととか、世間一般の高校生らしいそれではない。
 別に他の皆の悩みが矮小だとか、そんな傲慢なこと言うつもりはさらさらない。
 しかし、やはり私の悩みは世間一般的な価値観に照し合せてみると、かなり重い、ような気がする。
 なぜなら、一人の人間の命が関わってくるのだから。
 私は再び散り行く桜を、その下に敷き詰められた、散っていった桜の花びら達に視線を送った。
 儚いなあ。

 私自身が命の危機に晒されているというわけではない。体力には自信があるし、薄幸なんて柄でもない。
 死という何にも勝る不幸が迫ろうとしているのはだ。
 弟の名は睦月(むつき)という。いつだか両親が一月に生まれたから睦月と名付けた、と語っていたのを覚えている。睦月とは年齢は六つも離れているが、その割には仲のいい姉弟、なのではないかと私は勝手に思っている。
 睦月の方がどう思っているかは定かではない。頼りない姉、と思われているのかもしれない。
 その睦月は二年程前から病気を患っており、ここ数カ月は学校に行くことも出来ていなかった。
 お医者様でも原因すら分からないという。原因不明の難病奇病、というやつだ。
 分かっているのは頽堕萎靡の如く、ただただ体力落ち衰弱していく病気というだけ。
 つい最近では、お医者様からこのまま病気の進行が止まらなければ、あと半年も持たないと宣告されている。
 通常ならそういうのは親が話を聞くべきなのかもしれないが、うちの両親は日本にいないため私は真っ先にその残酷な事実を知らされることとなった。
 そしてそんな事実が判明した後でも、私の両親は日本に帰ってくる素振りを全くと言っていいほど見せない。
 私だって子供じゃない。両親が忙しいことは知っている。理解もしている。しょうがないとだって思っている。
 心配したり、近くにいたりするだけで病気が治ったりするとも思っていない。奇跡なんて怒りやしない。
 それでもこの状況で全く自分達の息子を気にかけないというのは。
 些か、いや強い反感を覚える。
 まあ、でもあの二人に期待するのはよそう。いつだってあの二人は最低限のことしかしてくれなかった。比較的裕福な家庭であるため、金銭面では不自由を感じることなどなかったが、両親の温かみという物を私は知らない。
 少なくとも授業参観にも、試合にも、発表会にも、運動会にも、普通の子供が親に来て欲しいと思うような行事には全く来てもらった覚えがない。
 かなり記憶力の良い方の私だから、忘れているだけということはない筈だ。
 なんにせよ、私が何とかしてみせる。私が何とかしなくてはいけないのだ。
あの子の、睦月のたった一人のお姉ちゃんなのだから。頼れるお姉ちゃんでなければいけないのだから。

「叶らしくもないわね。上の空だなんて」
 昼休みになり、昼食を取るために私の机までやってきた友人がそんなことを言った。
 その言葉は先程ボーっと窓の外を見つめていたために、先生に問題の解答者に指名され、慌てふためくことになった私の醜態のことを指しているのか。一応私は比較的成績優秀であるのと、問題が簡単であったため何とかことなきを得たが。
 それとも最近は常時、そして今現在進行形で私が何事にも集中できていない、上の空状態ということだろうか。否定はしない。自覚はあるのだ。
「しっかし、まあ、叶でもそんな風に悩むことがあるんだねえ」
 友人は顎に手を当て、感心するように二度頷いた。
「何よ、その言い方は。私だって人並みに悩んだりすることぐらいあるわよ」
「いや別に悪い意味で言っているわけじゃないんだよ。たださ、叶ってなんか達観しているところあるじゃん。私達より精神年齢が五歳ほど上っぽいていうかさ。ババ臭いっていうかさ」
「ババ臭い……?」
 友人の口から何気ない調子で放たれたその一言に、怒りのあまり私はこめかみがひくつくのを押さえることが出来なかった。
「いや、だから悪い意味じゃないんだって」
「悪い意味じゃなくても普通の女子高生は、ババ臭いと言われた傷付くわよ」
 鞄の中から今日の昼食を取りだしながら、私は呟く。
 ちなみに今日のメニューは鮭とほうれん草のバター炒めだ。
「ふむ、まあ、それもそうかもね。ところでさ、一体何が上の空の原因なわけ? もしかして彼氏でも出来たり?」
 友人はからかうように言う。
「そんなわけないでしょ」
「それもそうだよね」
 溜息を吐きながら言った私の言葉に友人は即座に納得した。
 まあ、無理もないか。私はクラス内でも男子とは事務的な会話程度しかしていないから。恋人が欲しいという願望もあまりないしね。そういうのは柄じゃない。
「じゃあ何に悩んでいるのさ?」
 友人は私の顔を覗き込んできてそう尋ねた。ふむ、どうしたものか。相談するべきだろうか。確かに彼女は友人なのだが、だからと言って話すのもどうかと思う。
 別に隠すようなことではないのだが、このことを話して同情を向けられるのはゴメンだ。そういうのは好きじゃない。
「ううん、なんでもないの。心配してくれてありがとう」
 私は張り付いたような虚構の笑みを浮かべてそう返答した。大して友人は、そんな私の嘘を見透かしたかのような目で、こちらを見つめる。
「まあ、叶から話してくれないのなら無理に聞くような真似はしないよ。じゃあ、この話は終わり終わり」
 そう言って友人は半ば強引に話題を打ち切った。
「そういやさ」
 友人は箸を動かしながら唐突に口を開く。
「何よ」
「友達の友達の話なんだけどね。最近巷で噂の霊能力者がいるらしいのよ。占いからお祓いまで何でもやってくれるらしいよ。良かったら叶も相談してみたら。叶がそういうの信じてないのは知ってるけど、ひょっとしたらひょっとするかも知れないし」
 はっきり言ってその噂自体は眉唾物の極みであると思うのだが、友人は私のことを思ってそれを話してくれてのだろう。その気持ちは素直に嬉しい。
「ありがとうね。参考にしてみるわ」
 私は笑いながら、そう言った。偽物の笑顔だ。嬉しくなかったわけではないけど、矢張り自然と笑みを作れるような心理状態ではなかった。
「いいの。いいの。私も気になるだけだから。叶を利用して、調査させてもらおうと思ってねえ。もし行ったらどうだったか、話聞かせてね」
 友人もまたそう言って、笑窪を作った。ああ、綺麗な笑顔だ。眩しいほどの。羨ましい。
 私は彼女のような友人を持てて良かったと思う。
 友人からその霊能力者とやらがいる場所を教えてもらった私は、放課後に暇つぶしがてら行ってみようかなと思った。どうせ私にやることなんてないし、やれることもないのだから。
 その霊能力者さんとやらには失礼かもしれないが、期待しているわけではなかった。


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