第一話 最強のカード
聖杯の探求――
それはこの遠坂家において魔術師の血とともに代々受け継がれてきた宿願である
私の父は前回の聖杯戦争で帰らぬ人となった
それ以来、私も聖杯戦争へ参加する為に準備を重ねてきたのだ
「さて……準備は万端、体調も良し!」
部屋の中で遠坂は制服から戦闘服に着替え、儀式の最終チェックを行っていた。
もしも、儀式に不備があればいくら強いサーヴァントを手に入れても契約不備に縛られては元も子もないからだ。
特に遠坂自身が持つ呪いとも言うべき『うっかり属性』に対してはいくら警戒してもし切れないくらいだ。
「うん、我ながら絶好調!これなら、サーヴァントの召喚もバッチリね」
遠坂は自身の準備に不備が無い事を確認し終えると耳にかかる黒髪を払いのけた。
そして、儀式場である屋敷の地下にある魔法陣へと急いだ。
その日、朝から私の気分は高揚していた。
10年来の目標だった聖杯戦争が今まさに始まろうとしている。
今日はその参加条件となるサーヴァントの召喚を行うことにしていたのだ。
「素に銀と鉄」
「礎に石と契約年来の大公」
『凜、聖杯はいずれ現れる』
「祖には我が大師、シュバインオーグ」
「降り立つ風には壁を」
『アレを手に入れるのは遠坂の義務であり』
「四方の門は閉じ、王冠より出て」
『魔術師であるならば、避けてはとおれぬ道だ』
「王国に至る三叉路は循環せよ」
それが父の最期の言葉
「閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ」
「繰り返すつどに五度、ただ満たされる刻を破却する」
ならば私は魔術師として生きよう
「――告げる」
「汝の身は我が下に、我が運命は汝の剣に」
そして見事に聖杯をこの手にして見せる
そう決心すると遠坂は魔法陣に手を伸ばす
すると、魔法陣が光り輝き始める
「聖杯の寄るべに従い、この意この理に従うならば答えよ」
「誓いを此処に」
「我は常世総ての善と成る者」
「我は常世全ての悪を敷く者」
あまりの厖大なエネルギーの蠢きに自然と遠坂の顔から汗が零れ始める。
「汝、三大主、言霊を纏う者」
「抑止の輪より来たれ」
「天秤の守り手よ――――――!」
魔力の嵐はその言葉と共に陣を中心にして荒れ狂い、遠坂にこれ以上無い程の手応えを感じさせる。
しかし、少しすると魔力の嵐は収まりその場には何も無い空間が広がるだけだった。
その光景に遠坂は目の前の光景が信じられず固まってしまう。
手応えを感じた筈なのにまさかの失敗という結果なのだ。
その事に驚きを隠せる筈が無かった。
「……ちょっと…………なんで何も起こらないのよ‼」
あまりに信じられない光景に思わず叫び、儀式の手順を確認して行く。
「まさか、失敗………?そんな!儀式は完璧だったはず‼」
儀式の失敗の原因を探る為に手順を見直していると居間の方から大きな物音が響き渡った。
「何⁉居間の方から……‼」
遠坂は急いで階段を駆け上がる
そして、ドアノブを勢い良く回し始めるが、イライラからか上手く開かず沸点を通り過ぎた遠坂はドアを蹴飛ばした。
「いたたたた…………ここは?確か、私……」
遠坂の目の前に居たのは瓦礫の山に座っているテレビアニメに出て来るような可愛らしい魔法少女のコスチュームを着た少女が存在していた。
全く理解出来ない状況に遠坂は思わず「はっ⁉」と、素っ頓狂な声をあげてしまう。
「あの……ここ、何処ですか?」
同じように状況を全く理解できていないピンクのコスプレ?をした魔法少女?は助けを求めるかのように遠坂に尋ねた。
「ちょっと、待ってね……夢じゃないと、なるとキャスターを引き当てた?はぁ、ツいてないわ……」
「キャスター?何の事を言ってるんですか?」
ピンクのコスプレ?少女は状況が理解出来ずに首を傾げる。
その全く会話が成り立っていない状況を不審に思い、遠坂は恐る恐るこう尋ねた
「聖杯戦争って分かる?」
「聖杯……戦争?」
「まぁ、簡単に言うと勝ち進めばどんな願いも叶うのよ!あんたも英雄なんでしょ!叶えたい願い位あるでしょ?」
遠坂の願いという言葉にピンクのコスプレ?少女はジッと自分の手を見つめる。
その様子に一応、話が通じている事に凛はホッとするとサーヴァントの返答を静かに待った。
願い……その言葉がまどかの胸にポッカリと空いていた空虚なる穴を刺激する。
とても大切な思いだった気がするが今はもう思い出せない位に曖昧に掠れバラバラになってしまった記憶……
霞がかかり、継ぎ接ぎだらけの断片でしかない大切な思い達……
そんな思いにまどかは呆然と立ち尽くしてしまう。
凛は呆然とどこか遠くを見つめるまだ自分よりも幼いであろうまどかに対してどう接していいのか分からず溜息を吐き、頭を掻き毟る。
だが、そう長い時間凛が待てる筈がなく痺れを切らし、まどかにこう告げた。
「何か聞きたい事があるならさっさと言いなさいよ!」
「えっ?あの、あのね……願いが叶うなら何か代償とかってあったりしないのかな?絶望とか……」
まどかは急に声をかけられて返す言葉が見つからず、思わず頭の中に浮かんだ思いを凛に投げかけた。
なんで、願いに代償があると考えたのかまどか自身にも分からなかったが何故かそれがとても大切な問題であるように感じ、まっすぐに凛を見つめる。
そんなまどかの様子に凛はこの子もまたサーヴァントとして呼ばれている英霊であることを思い出すと頭の中にある知識を彼女にも分かるように噛み砕いて話し始めた。
「まぁ、本当のところどうなのかは分からないけどアインツベルンって言ってもわからないわよね……そういう有名な家系が辿り着いた根源への門を固定し向こう側に至る技術って聞くから詳しくは解らないけど、根源は世界そのものでもあるから、それなりの代償は在るかも知れないけどあなたの言うような絶望とかそういったモノとしての代償ではないと思うわね……膨大な魔力の塊って言われていたりもするし……えっと、貴方の真名って何ていうのかしら?名前が判らないと呼びにくいでしょ?」
「鹿目まどかだよ?宜しくね?えっと……「遠坂凛」凛さん!」
「凛さんは恥ずかしいわね。そうね!凛ちゃんってどうかしら?私はまどかって呼ぶから。それででいいかしら?」
その言葉にまどかはにっこり微笑むと大きく頷いた
こうして二人は固く握手をした。
これが最強の魔法少女と遠坂凛の運命の出会いだった
これは魔女になる前の魔法少女を救う為に概念にまで成り果てた少女の救いの物語……
「それで? 魔法少女ならこの瓦礫の山片付けられるわよね? 後は任せたから!」
魔法少女であるのだからこの世界とは違う魔法体系でこんな瓦礫の山をさっさと片付けられると考えて後は全てまどかに任せて少しばかりの仮眠を取ろうとするが、その手をまどかに取られてしまう。
凛はそんな必死なまどかに何事かと思い振り返るとものすごい速さで首を横に振るまどかがそこに居た。
「む、無理だよ! 凛ちゃん! 私の魔法はただ弓を魔力で生み出すだけだからそんな事出来ないよ!」
「えっ? 普通、魔法少女って証拠隠滅とかでこれくらいのモノなら魔法を唱えて次の瞬間元通りじゃないの? よくアニメとかの魔法少女って簡単にそうやってるじゃない!? その服は飾りなの?」
全く持って信じていない凛にまどかは必死に手伝ってくれるように懇願する。
「飾りじゃないよ! その……きっと、私の世界の魔女は現実的な器物を壊したりしないから必要なかったんじゃないかな? だから、凛ちゃんお願いだから手伝って?ねっ?」
こうして、凛はまどかの言葉に仕方なく手伝いを始めるが女手二人では当然の如く終わる筈が無く、一睡もせず夜通し作業しても結局半分済んだ程度で作業を投げ出しまうのだった。
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