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No.28019の一覧
[0] 妹と俺の軌跡 【短編】[佳月紫華 ](2011/06/29 21:21)
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[28019] 妹と俺の軌跡 【短編】
Name: 佳月紫華 ◆2e329948 ID:836b9f84
Date: 2011/06/29 21:21
*小説家になろう様と自サイトでも掲載しています。


 ――2008年6月21日土曜日。セント・メリーズ教会にて。

 本当なら喜ばしい日であるばずなのに俺の気持ちはどんよりと沈んでいた。
 最愛の妹の結婚式。
 父親の代わりに妹を新郎へとエスコートするために俺は教会の控室の前で妹のクロエの支度が出来るのを待っていた。
 晴れ姿を見ようと部屋に入ろうとしたら新郎でもないのに凄い剣幕で締め出されてしまった。
 一瞬チラリと見えた姿はとても美しかった。まるで彼女自身のように情熱的で自由に顔の周りを彩る炎のような濃い赤褐色の髪は、自然なカールを少し残し綺麗に結いあげられていた。
 束の間視線が合った蜂蜜色の潤んだ瞳がハッ息をのむ。
「だめよ。出て行って」
 神はどうしてこんなにも美しくクロエを形創ったのだろう。俺と同じ色彩であるはずなのにカールした髪は火のように踊っていて目が離せないし、蜂蜜色の瞳も甘く俺を誘ってくる。まるで炎の精霊の化身な様な妹の姿に俺は「クソッ」と悪態を吐いた。
 控室を追い出され手持無沙汰になった俺はそっとチャペルへの扉を少しだけ開けて中を伺う。まだ親族たちはリラックスしており、ざわざわとおしゃべりしているようだった。
 バージンロードの先に見えるのは俺の悪友で親友であるクライヴ・シュミット。
 彼の目が俺をとらえ鋭く光った。
 いつの間にこいつらがこうゆう関係になったのか、俺には結婚の話が出るまで知らされなかった。
 兄妹が不仲だから……というわけでは決してない。むしろ俺たちはとても仲が良かった。まるで恋人のようだ――と称されるように。
 そしてこんなにも幸運な花婿クレイヴはちっとも嬉しそうに見えないのだ。
 あまつさえ結婚式の準備も「忙しい」の一言で親友でクロエの兄である俺に押し付ける始末。本当にこんな奴に妹を嫁がせていいのか……クロエは幸せになれるんだろうか。
 ひとりで準備に追われる妹が悲しまないように、俺は教会に結婚許可証の申請にいったりウェディング・リストを一緒に選んだり、様々な準備に奔走した。「なんで俺が……」とクレイヴに対して苦々しい思いをぶつけることもあったが、彼は愉快そうに目を細めるだけだった。
 クロエと一緒にした結婚準備は俺に与えられたギフトだったのかもしれない。たった一時でも彼女の未来の夫になる夢を空想でも味わうことができたから……。
 早くに父を亡くし、母と俺と妹の三人家族。俺は兄として時には父親のような気持ちで妹の成長を見守ってきた。
 妹のことを女性として愛し始めたのはいつの頃だったか――。

 ――1992年。

 かわいい妹が家にやってきた。父の弟夫婦が亡くなり兄弟である父が弟の忘れ形見であるクロエを引きとったのだ。俺にとっては従妹。だが本当の妹が出来たみたいで嬉しかった。
 最初は両親を亡くして心を閉ざしていたクロエだったが、元々明るい性格だったのかすぐに俺達家族に馴染んでいった。血の繋がりは濃いのだ。本当の家族になるのにはたいして時間がかからなかった。
 赤褐色の髪と蜂蜜色の瞳はヨッカー家特有のものだ。クロエも俺もその特徴をよく受け継いでいた。クロエと俺はとてもよく似ていた。本当の兄妹になる。それが俺が家族を亡くしたばかりのクロエにできる最良のことだと思った。
 よく思い出すのはクロエのごっこ遊びに付き合ったことだ。8歳の俺には少し気恥ずかしい遊びだったが、5歳のクロエが夢中になっているので仕方なく付き合っていた。当時は恥ずかしさしか感じなかったが今思い出せばかわいい思い出のひとつだ。
「おにいちゃん。おいしゃさんごっこー?」
 そう言って服の裾をギュッと握って見上げてくるクロエに俺は嫌だとは決して言えなかったものだ。
「わかったよ。クロエ」
 そう言って妹の頭を撫でてごっこ遊びに付き合う。
 思い返しても赤面してしまう。当時は健全に何の疑問もなく付き合っていたが、まだ幼いツルピタのお腹を服をめくり「もしもししてー?」と聞いてくるクロエに今の俺なら変な妄想をして悶絶しそうだ。
 違うここじゃない。この時はまだ純粋に妹として見ていた。

 ――1996年。

 ここ最近妹の様子がおかしい。今まで俺にとても懐いていたのに急に「あっちへいけ」と拒絶するようになってしまったのだ。どうしたのだろう。学校で何かあったのだろうか。
 三か月前父が亡くなった。肺癌だった。
 俺たち家族は悲しみに沈んでいたが、そんな時もクロエは健気に家の庭から花を摘んで来ては居間に飾ったり、母や俺の傍に来てギュッと抱きついて「大丈夫だよ。お父さんは天国にいるよ」と慰めてくれていた。
 それがここ2、3日急に態度が変わってしまったのだ。
 9歳と言えばまだ反抗期とは違う気がする。12歳の俺もまだきていないそれが原因だとは思えなかった。父の葬式の後も変わった様子は見られなかったのに……。
 ある日俺はクロエが俺達家族から離れようとしている原因を学校の先生から聞かされることになる。
 クロエのクラスメートが父を亡くなったことを「お前は死神だー! お前の本当の両親もお前のせいで死んだんだ」と揶揄してからかったらしい。
 それを聞いた夜、俺はそいつの家に殴りこみに行った。クロエを悲しませる奴は許せない。俺が妹を守るんだ。

 ――1999年。

 少女から少しづつ大人への階段を昇りはじめたクロエの姿が眩しい。少し前まで俺の後について回っていたのに今ではすっかり学校の友達とつるんで遊びまわっている。
「もう12歳かぁ……」としみじみ呟いた俺に「やだ。マルクスお兄ちゃんったらオヤジくさい! そんなに変わらないでしょ、12歳も15歳も」と突っ込む。
「はぁ。やだやだ」と言いながらも出かけ際に嬉しい言葉も置いていく。「友達がかっこいいって!」そう照れたように言い捨てて行ったクロエの言葉に俺はポリポリと頭を掻いて赤面した。

 ――2002年。

 妹のクロエは反抗期だ。何が気に入らないのかずっと俺に絡んでくる。
 最近彼氏ができたらしい妹が俺の部屋に入り浸り勉強している俺の邪魔ばかりしている。
「俺の邪魔ばっかりしてないで彼氏とデートでもしてこいよ」
 15歳の妹にはじめての彼氏ができたのは寂しくもあり、娘を嫁にやるような気分だったがそんな格好悪いところは見せまいと何でもないフリをしていた。
 そんな俺の言葉にクロエはそっぽを向いている。はぁ……思春期の女子の扱いって難しい。
「ねぇ、お兄ちゃん。もう邪魔しないからお願い聞いてくれる?」かわいくそう頼む妹に俺は何のことか尋ねず机に向かったまま生返事する。
「じゃあキスして。彼氏とする前に練習したいの……ダメ?」
 予想外の言葉に椅子から落ちそうになる。何を言っているんだ、クロエは。
「何言ってるんだ……」と振り向きざまに唇に何かが触れる。やわらかい甘やかな感触。
 俺は思わず妹の身体を引きはがし「出てけ」と怒鳴ってしまった。たぶん混乱していたんだと思う。
「役立たず!」そう言いクロエは泣きながら出て行った。
 そう、この頃だ。この事故みたいなキスから俺は妹を……クロエを女性として意識し出したきっかけだった。

 ――2007年。

 大学に進学したと同時に俺は安アパートで友達とシェアを始めた。
 妹をクロエを意識してしまってから俺は家にはいられないと感じてしまったのだ。もう今までのように仲の良い兄弟としてやってはいけない。そう思って実家を出たはずなのに……。
 社会人になってからもあまり家に帰らなくなった俺を心配して妹が訪ねてくる。去年のクリスマスも帰らなかった。
 もうあのボロアパートじゃない。会社からほど近い場所のこじんまりとした居心地の良いフラットだ。
 クロエはそんな俺の城にちょくちょくやって来ては「お母さんと喧嘩した」だの「ここからの方が飲みに行くのにいいの」など理由をつけて泊まっていく。
 おかげで俺たちは「恋人みたいに仲が良いわねぇ」と近所で評判の仲良し兄妹に認定されてしまった。
 23歳にもなって妹が入り浸っている男に誰が本気で付き合おうと思うだろう。
 俺は女性と後腐れのないような関係しか築けなかった。20歳のクロエは美しい女性へと変貌し、俺の自制心は日に日に制御を失っていった。そんな日常から逃げ出すように俺は自堕落な恋愛へと溺れていった。誰にも本気にならない。そんな恋愛に疲れてはいたが本気の関係を持てそうだと思った女性はみんな「あなたがクロエとべったりだと私たちの関係は続けられないわ」と去っていく。
 俺はどうすればいいんだ。
 今日も彼女に振られ夜中にひとりビールを飲んでいた。いつの間にか作った合い鍵を開けてクロエが入って来て、俺を見るなり「相変わらずクズね」と苦笑する。
「また振られたの?」
 そう言うクロエの声は弾んで聞こえた。表情は電気を消したままなので伺い見ることはできない。
「マルクスはずっと結婚できそうもないわね」
 そんなクロエの言葉に俺は自分を押さえられなかった。
「じゃあお前が結婚してくれよ。クロエ」
 酔っていたのかもしれない。     
 あの朝クロエはそっと俺のベッドを出て行った。

 ――2008年6月21日。

 あの日から俺はクロエにどう接したらいいのかわからなくなってしまった。俺はなんてことをしてしまったんだ。
 そして一年後。クロエから婚約の報告を受けた。相手は俺の親友――クレイヴ・シュミット。良い奴だが俺と一緒に色々と悪いこともやってきた放蕩者だ。そんな相手にクロエを渡せられるかと文句を言いに行ったが、クレイヴは意味深に「じゃあ奪いに来いよ。お義兄さん」と笑うだけだった。
 悶々とした気持ちを抱えながら俺は何も出来ずに妹の結婚式を向えている。
 本当にこのままこまねいているだけで良いのか、俺は。
 先程垣間見たクロエの姿に俺は拳を握りしめる。
「俺は……」
 そして俺はバージンロードへの扉を開け放った。
 真っ直ぐとクレイヴのところまで歩いて行く。
「交代だ」そう言うと俺はクレイヴの上着を奪い取り、新郎の場所に収まる。
 ベストマンの友人にクロエのエスコートを頼むと俺は花嫁が来るのを待った。
 ゆっくりと扉が開かれる。
 ヴェールを被って俯き加減のクロエの身体が一瞬ハッとしたように止まったような気がした。
 友人の手をとり真っ直ぐにバージンロードを俺の方に進んで来る。
 クロエが横に立った時、俺は跪いてこう尋ねる。
「クロエ。僕と結婚してくれますか?」
 彼女は笑顔で「はい」と答えた。
「クロエ。愛してる」
「マルクス。私も愛してるわ」

 ベストマン役を押し付けたクレイヴはそんな俺たちの様子に「やれやれ世話がかかる親友だ。俺が焚きつけなきゃずっと良い兄貴面してる気だっただろ?」とウィンクする。
「ありがとう。クレイヴ」そうニッコリ笑うクロエ。
 もしかして俺はずっと嵌められていたのだろうか?
 教会の座席に座る母も親戚たちもみんな微笑んでいる。知らなかったのは俺だけか。なんて家族だ。本当にヨッカー家の連中は悪ふざけが過ぎる。……愛すべき家族だ。
 俺はこれからクロエと本当の家庭を築いていく。今までもこれからもクロエは俺の大切な家族。永遠に。

 司祭が「もうよろしいかな?」と尋ねる。
「マルクス・W・ヨッカー。あなたはクロエ・K・ヨッカーを妻とすることを望みますか?」
「望みます」
「順境にあっても逆境にあっても、病気のときも健康のときも、夫として生涯、愛と忠実を尽くすことを誓いますか?」
「誓います」
「クロエ・K・ヨッカーあなたはマルクス・W・ヨッカーを夫とすることを望みますか?」
「望みます」
「順境にあっても逆境にあっても、病気のときも健康のときも、妻として生涯、愛と忠実を尽くすことを誓いますか?」
「誓います」
「私は、ここにお二人の結婚が成立したことを宣言いたします。お二人が今私たちの前でかわされた誓約を神が固めてくださり、祝福で満たしてくださいますように。神が結ばれたものを人が分けることはできません」
 そして俺たちは結婚した。
「クロエ。愛してる」
 花嫁の耳元でそっと囁く。
「私も愛してるわ。私は世界一幸せな花嫁ね」
 二人は口づけを交わした。

 ――これが妹と俺の軌跡。

 Fin  


【後書き】

診断メーカーで出た結果を元に短編を作ってみました。

↓診断メーカー結果。
5歳「おいしゃさんごっこー?」9歳「あっちへいけ」12歳「友達がかっこいいって!」15歳「役立たず」20歳「相変わらずクズね」




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