「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ、ハッ――」
砂煙の舞う中、脇目も見ずにひたすら廃墟と化した町の中を走り続ける。
遠くからは、腹の底から響くような鈍い爆撃音が幾つも聴こえてくる。
こちら側――と、言っても米軍だろうが――があの連中に爆撃を加えているのだろうか?
それとも、奴等が魔法をぶっ放しているのだろうか?
――どちらにせよ、碌な事態じゃねぇ事は確かだけどな。
走り続ける事20分位だろうか?
途中からしんどくなったので、メットも防弾ベストも脱ぎ捨てた。
幾ら攻撃から俺の身を護ってくれる防弾装備といえども、奴等に追いつかれる恐怖に比べれば捨てる事に戸惑いは無かった。
今じゃ、上下黒のBDUのみ。しかも、汗を大量に吸い込んでるお陰でクソ気持ち悪ぃ。
しかも、汗と血と砂埃に塗れて全身グチャグチャだ。
畜生、絶対に戻ったら即座にシャワー浴びてやる!
・・・・・・あれ?きちにシャワールームってあったっけか?
そんなどうでも良い事を考える事で、必死にこの苦しみを誤魔化す。
その甲斐あってか、漸く俺はケビンの言っていたハンヴィーが視界に入る場所まで近づいて来ていた。
後ろには誰もいない。
あと少し、もう少しでハンヴィーまで辿り着く。
土を蹴る足に力が入り、残りの力を振り絞って前へと進む。
――残り後、100m。あと少しで俺は移動手段を手に入れられる!
ClI-MAX
Episode:04
何が起きたのかさっぱり分からんかった。
ハンヴィーに手を伸ばした瞬間、気が付けば俺は砂に埋もれてて――同時に、凄い耳鳴りでまったく周りの状況は把握できていなかった。
咳き込みながらこの状況でも手放さなかったファマスを構えようとするが、安酒を大量に飲んだ次の日並の頭痛と眩暈によりそれは断念せざるを得なかった。
仕方無しに、這い蹲ってハンヴィーへと向かおうとするが――何者かに背中を抑えられ阻止される。
「ガ・・・・・・」
「中東では狐の代わりにジャッカルを狩る。フォックス・ハウンドならぬロイヤル・ハルヒヤ・・・・・・だっかたな?」
気障ったらしい、嫌味な口調でこのクソ野郎はそうのたまいやがった。
テメェ、銀河万丈もといリキッドはそんな軽い声じゃねぇよ馬鹿野郎が!
つーか、耳鳴りが漸く収まったと思ったら聞こえてきたのがお前のその嫌らしい声だぞ?
分かるか?このガッカリ感がテメェに。
「――テメェ、誰を足蹴にしてやがる」
「ほう、僕のファイア・アローを至近距離で喰らっても尚、そんな口を利くんだ?」
背中の重圧が消えたかと思えば、次の瞬間には左から途轍もない衝撃が襲い掛かり、冗談抜きで俺は吹っ飛んだ。
「グェ・・・・・・・オエェェェ・・・・・・」
その衝撃により、内臓にダメージを受けたのか嘔吐感が込み上げてきて――その場に這い蹲ったままゲロをぶちまけた。
「ハハッ!ごめん、ごめん!忘れてたよ、君達がレベルもスキルも持ってないって事。僕としては、ちょと蹴っただけだったんだよ?そ、こんな風にさぁ!」
再び俺はあのクソ野郎に蹴り飛ばされ、ハンヴィーにぶち当たる。
あまりの痛さに悲鳴すら出せやしねぇ。
「ナイス・シュート!」
散々俺をボコりやがったクソ野郎が、漸く俺の前に姿を現した。
白い甲冑に紅いマント。
男か女かわからねぇような中性的な顔立ちに、長身・痩身で金髪と来た。
間違いねぇ、あのVRゲームで一番多かったアバターのパターンだ。
「・・・・・・テメェ、さっきロイヤル・ハルヒヤっていってたよなぁ?」
「へぇ、まだ喋れるんだ。ま、いいや?それがどうしたの?あ、もしかしてメタギア知らない?なぁんだ、あのゲームをプレイしてる位だから知ってると思ったのにさ?つまんないの」
自分の勝利が揺らがないのを確信してんのか、あのクソ野郎は余裕綽々で両手を広げながら近づいてきやがった。
ハリウッド・スターにでもなったつもりか?ファザー・ファッカー。
「知ってるさ、なんせ中坊の頃にPV見て一目惚れしてな?それ以来ずっと新作出る度に徹夜してやったからなぁ?ま、それはさて置きさっきの台詞だがな?」
「ん?」
不思議そうな顔で俺を見る金髪イケメンにファマスを向ける。
――こんだけボコられても尚、ファマスを手放さなかった俺に拍手。
「ロイヤル・ハルヒヤじゃなくて、ロイヤル・ハリヒヤだ馬鹿野郎っ!」
引き金を引くと同時に、ファマス特有の甲高い発砲音が鳴り響く。
この至近距離では流石にダメージを消し切れなかったのか、放たれた5.56mm弾は障壁を付きぬけ男へと着弾した。
弾倉内に残っていた弾薬を撃ち切ったファマスをその場に捨て、ハンヴィーに掴まりながら立ち上がる。
――畜生、肋骨の2,3本は間違いなく逝っちまいやがった。
激痛に顔を歪めながら、地面に倒れ伏せた男の方へと視線を向けた。
「・・・・・・流石に死んだか?」