「はー、退屈です。何か面白くて信仰も集まりそうな事ないですかねー」「贅沢者め。どっちか一つに絞るべきじゃないか?」「信仰がたくさん欲しいですー」「本題の方がズレてるじゃないか」「そうなれば忙しくなって、退屈を感じる暇も無いですからね。ところで参拝ですか魔理沙さん」「私が神社にそんな目的で来ると思うのか?」「いえ。良くて賽銭泥棒ですね」「分かってるじゃないか。まぁ今回はそれも違うんだが」「あ、そうなんですか。神奈子様諏訪子様、対賽銭泥棒シフト解除でー!」「……お前の所の賽銭に手を出した覚えは無いぜ」「はい! ですから最初が肝心と言う事で、派手に歓迎しようかと!!」「そう期待されると、全力でその期待を裏切りたくなるな」「えー」「お前は何がしたいんだよ……。それより良いか? ちょっと聞きたい事があるんだが――」幻想郷覚書 聖蓮の章・弐「聖天白日/UFOチェイサー」「こっちよ。ほら、早速一つ見つけた」「はぁ」 そう言って、彼女は自慢げに捕まえたソレを見せつけてきた。――木片を。 うん、このフリは正直予想外でござった。 確かに不思議オーラを放っていると言うか、なんか二種類ほど特殊な力を感じるヤバげなアイテムではありますが。 これは確実にUFOでは無いと、そっち系もそこそこ好きな僕の知恵が申し訳なさげに否定しています。 「結構集まったわね――って、何よその複雑そうな顔は」「いや、コメントが思いつかなくて」「ふーん……やっぱりアンタには違う物に見えているワケか」「ほぇ?」「何でもないわ。それじゃ、これ全部持っておきなさい」「あ、はい了解」 霊夢ちゃん曰くUFOの数々を受け取ったので、とりあえず全部ポッケにしまっておく。 つーか霊夢ちゃん、集めてたんですかUFO(仮)。確かに、コレクションしやすそうな大きさではあるけどさ。 そんなUFOもどきは僕から見ると全部木片なのだけど、二種類の力を纏っている事と材質そのものは全てに共通している――っぽい。 もっともその内の一種類が派手に自己主張するせいで、もう一つの力は上手く特定できないのですがね。 多分隠されている方がこの木片本来の力なんだと思うんだけど……ダメだ、隠す力が強すぎる。 分かっててもそれを何とかする事は出来ないからなぁ。罠発見技能はカンストでも、罠解除技能は持ってないから判定出来ないんです。「でも霊夢ちゃん、これ地道に集めるのはちょっとキツくない?」「コレの回収はついでよ。店に着く前UFOの親玉っぽい船を見かけたから、まずはそれを追いかけるわ」「親玉……葉巻型UFOですか?」「船って言ったけど」 ああ、比喩でなく本当に船なんだ。 まぁ船がそのまま星の海をも進むというネタは、葉巻UFO以上に歴史のある事だけど。 ……あー、と言う事はそう言う幻想である可能性もあるのか。何しろここは幻想郷なのだし。 うーん、船の先端に波動砲とかついてたらどうしよう。幻想郷内でぶっぱなされたら色々終わらない?〈呼んだ?〉 妖怪波動砲発生器さんは寝ててください。〈しょぼーん〉 魅魔様はもうこの芸風で確定なのだろうか。そう扱ってるの僕だけど。 と言うか勝てるの? 生身で波動砲に勝てちゃうの? いや別にどっちでも良いけどさ。「その後は――ま、なるようになるでしょう。それで問題ないわね」「異論は特に無いです。未だに事態を飲み込めてないので」 異変の状況を確認すれば何か分かるかと思ったら、余計に謎が深まってしまった。 ツッコミどころが多すぎて、どこからツッコミを入れれば良いのか分からない。本当に皆は何を見ているんだろうか。 しかも霊夢ちゃんは相変わらず説明する気ゼロ。僕の言葉に頷くと、彼女は平然と飛んでいってしまった。 この子、本当に異変さえ解決できれば委細詳細はどうでも良いんだなぁ。 ……と言うか今の、問題あると答えても結果は同じだった様な気が。アレは疑問じゃなくて命令なんですか霊夢ちゃん。 とりあえず、ぼーっとしてると本気で置いてかれそうなので僕も氷翼を展開して後に続いていく。 うーむ、それにしても。「霊夢ちゃん実は、結構気合入ってたりする?」「何でよ」「いや、普段より若干テンション高いような気がして」「気のせいでしょ」 取り付く島も無いなぁ。だけど、やっぱり平時の霊夢ちゃんとは少し違う気がする。 普段のやる気皆無なダウナーさはなりを潜め……てない、そこはいつも通りだ。 だけど瞳の奥には、隠しきれない覇気と言うか闘志と言うか――とにかくそんな説明しきれない迫力を感じ取れる。 具体的に言うと、ちょっと殺気を放った瞬間ボコられる感じ。「ひょっとしてこれが、噂に聞いた博麗の巫女見敵必殺モードなのか……」「いきなり失礼ね。私だって相手はちゃんと区別するわよ」「あ、師匠だ! ししょー!! お元気でしたかー!」「まず一匹」「ふ、ふぎゃー!?」「こっ、小傘ちゃーん!?」 舌の根も乾かない内に無差別攻撃しおったよこの人!? こちらを見かけて近付いてきた小傘ちゃんは、無残にも御札で撃墜されてしまったのだった。 錐揉み回転で落ちていく小傘ちゃんを、全速力で追いかけて回収する僕。 前に食らった時にはあんま痛くないと思ったけど、それでも小傘ちゃんクラスなら瞬殺なのか。……対妖怪仕様?「小傘ちゃーん、大丈夫?」「はらほろひれはれー」「ダメっぽいなぁ。と言うか酷いよ霊夢ちゃん、小傘ちゃんが何をしたって言うのさ」「異変中に会った妖怪は全て退治対象よ。どう絡んでるか分かんないからね」 ……完全に見敵必殺だソレ。 と言うか、異変とその妖怪の関係が分からないのは、霊夢ちゃんが理解を放棄しているからでしょう? そのツケを無関係な妖怪に払わせるって、物凄い理不尽な気がするのですが。 少なくとも小傘ちゃんは、今回の異変にチラッとも関わってないと思いますよ? 小傘ちゃんだし。 んーでも、言うほどダメージは無いみたいかな。気絶してるだけっぽいね。 傘の方は意識があるみたいだから、この様子ならどこか安全な所に移動して貰った方が良いかも。 ところで、傘と小傘ちゃんは別存在扱いで良いのだろうか。別にどっちでも良いんだけど。 「それじゃあ小傘ちゃんを連れて、適当に安全な所へ避難する様に。ここは色々と危険だからね」 あ、頷いた。愛嬌あるなぁこの子。 そして器用に小傘ちゃんを抱えた傘さん? は、ふよふよと低空飛行でその場を離脱していく。 それを見送った僕は、爽やかな笑顔で今見た光景を忘れるのだった。 「――よし! 僕は何も見なかった!!」「アンタ、結構外道よね」「いや、霊夢ちゃんに言われたくは無いですから。と言うか無差別爆撃は止めよーよ……」「これが一番楽なのよ。手っ取り早く事件が解決するし」 本当に最短で事件を解決するから厄介なんだよなぁ、霊夢ちゃんの場合。 適当なのに完成されてるから、口出ししたいのに訂正する所が思いつかないジレンマ。 ……と言うかきっと、このやり方でも僕より効率が良いんだろう。 これは霊夢ちゃんが優秀なのか、僕がとことんダメなのか。……心の安定の為にも前者という事にしておこう。 「とりあえず、僕も多少は異変に絡みたいので問答無用は勘弁してください。もう少しお情けを」「別に良いわよ、アイツらも辞世の句を読む時間は居るでしょうしね」「アレ、倒す気から殺す気へシフトしてない? 間が空いた分だけ対処が悪化してない?」 もーちょっとゆるふわな対応は無いんですかね。話し合いって大事だと思うよ? まぁ、多少の譲歩はしてくれるようでちょっと安心しました。そこは邪魔とか言ってぶっ飛ばさないんですね。 「それにしてもアンタ、無駄な事が好きよね。どうせ結果は変わらないのに良くやるわ」 あ、違った。譲歩してるんじゃなくて意味無いと思ってるだけだコレ。 いやまぁ確かに色々と努力した結果、戦いを避けるどころか大変な事態になる事多々でしたけどね。 これでも、意外と成功例はあるんですよ? 相手が大人だったり平和主義だったりする前提は必須ですけども! 「じゃ、先に進むわよ。多分あっちの方に船が居るはずだわ」「ふむ……あ、本当だ船っぽいのが居る。良く分かったね霊夢ちゃん」「勘よ」 ここまで適当なのに、何だろうこの順調さは。 常日頃から僕は物事をややこしくすると言われてきましたが、霊夢ちゃんは逆に物事を簡潔にし過ぎだと思う。 博麗の巫女は中庸だって話を聞いた事があるけど、これは中庸とかそういうレベルの振る舞いじゃ無い気がしますよ。 あえて言うなら……無関心? そこまで極端では無いと思うけど、それが一番近い様な。 そんな霊夢ちゃんは、機械的な動きで御札をバラ撒きつつ進んでいく。 それが全て的確に敵意を見せた相手に直撃すると言うのは、もう何と言うか凄すぎてコメントが出てこない。 もう霊夢ちゃん一人で良いんじゃないかな。……ああ、そういえば一人で良いんだったっけ。「それにしてもこのUFO、どうやら妖精達の正気も奪ってるみたいね」「あー。出がかりで潰されてたから良く分からなかったけど、ひょっとして今まで倒してたの粗方?」「多分そうね。ふふん、いよいよきな臭くなってきたじゃない」「楽しそうに笑われてもなぁ……しかしこのUFO、本当に何なんだろう? 謎だらけだ」「UFOなんだから、謎があるのは当然よ」 そんなドヤ顔で言われても。異変解決人なら、その謎を解明しようと試みてよ。 とことん霊夢ちゃんは、黒幕をブチのめす事にしか興味がないらしい。 ……それで何とかなる気がするから、幻想郷は恐ろしい所じゃのう。――ほにゃ?「霊夢ちゃん」「分かってるわ。こそこそ嗅ぎ回ってるネズミが居るみたい――ね!」 振り向きざまに、僕が存在を感じ取った方向へ霊夢ちゃんが針を投げつける。さすがの高性能っぷりだ。 すると針の通過位置にある木陰から、一匹の妖怪が飛び出してきた。「……予想はしていたが、こうも早く見つかってしまうとはな。少しばかり自信を失いそうだよ」 そこに居たのは、ほとんど灰色に近い銀髪をショートボブにした落ち着いた雰囲気の少女だった。 両手に持ったL字型の棒は、果たしてどんな目的の道具なのだろうか。少なくとも武器の類には見えないけど……。 まぁ、興味はあるが一旦その疑問は置いておこう。何しろ、それよりも派手なツッコミポイントが他にあるワケだし。 僕はもう一度、少女の特定部位を観察しなおす。もちろん今回はやましい意図など一切無い。 いや、そういう意図がある方が少ないんですけどね? ……ちょっとあった事は許して欲しい、僕だって男の子なんですよ。 ――それにしても、やっぱりあの耳と尻尾はネズミだよねぇ。尻尾に引っ掛けてるバスケットには、分かりやすく子ネズミが乗っかってるし。 なので僕は苦笑しながら、出てくる前から正解を口にしていた霊夢ちゃんへと振り返った。「霊夢ちゃん、ひょっとして知ってた?」「んなワケないじゃない。そういうネタは紫あたりの専売特許よ」 さすがにそこまで万能じゃないか、ちょっと安心。 しかしこの子、この様子だと偶然通りかかったってワケじゃなさそうだね。 と言う事は、こちらに用があると言うワケだ。僕が軽く身構えると、少女は困ったもんだと肩を竦めた。「勘弁してくれ。『楽園の巫女』と『狡智の道化師』を同時に相手取るほど、私は身の程知らずじゃ無いんだよ」「こ、こうちのどうけし? 誰の事?」「アンタの二つ名よ。確か前に、そこらへんの妖怪が口にしてた気がするわ」「……そこらへんの妖怪が、何で僕の二つ名を?」「アンタに指示されたってほざいてたわよ。どうもアンタ、影で暗躍する黒幕系悪党だと世間に認知されてるみたいね」「完全にトリックスターポジションじゃ無いですかそれぇ……」 どっか高い所で、顎に手を当てながら不敵に微笑んでる立ち位置になった覚えはない。 顔の上半分に必要以上の影をかけて腕組みをする趣味は、残念ながら僕にはありませんじょ?「えっと、一応言い訳しておきますけど僕はその妖怪と何の関係もありませんからね?」「知ってるわよ。アンタの厄介さは、天然で面倒事を引き起こす所にあるんだし」 信じてくれてありがとうと言うべきなのかな、コレは。 なんか黒幕系悪党であるという点は、特に否定されていない気がする。 少なくとも黒幕では無いよ! 悪党は――まぁ、善悪の観点は人によるって言うしね!! 悪と言われる事もあるさ! 「それで、放置された私はどうすれば良いのかな」「あ、ゴメン。すっかり忘れてた」「別に待ってなくても良いわよ。面倒だから、さっさとどこかに行きなさい」「ありがたい申し出だが、こちらにもこちらの事情があってね。逃げるワケにはいかないのだよ」「でも、戦うつもりもないんだよね?」「勝てない戦いは避ける性分なのさ。戦う事で得られる物があるならその限りでは無いが――今回はそうでも無いしね」「その考え方には共感出来ます!」「でしょうね」 うんうん、だよねだよね。鼠妖怪さんの言う通りだよね。 幻想郷の人達は、ちょっとばっかり好戦的過ぎると思うんだ。 弾幕ごっこルールのおかげで大概の勝負で勝ち目を見いだせるとしても、引く時はちゃんと引かないと。 仮に相手の方が弱くても、何の益もない戦いならしなくて良いと思うんだ! 少なくとも、挨拶とケンカと会話と遊びを全て弾幕ごっこに一任するのはどうかと思うんですよ。今更だけどね!!「と言うか、アンタの事情はどうでも良いのよ。つまる所どうしたいのかを簡潔に言いなさい」「取引……かな。ちょっとばっかし、君達の持ち物に興味があってね」 そう言って彼女は、僕――と言うか僕の腰部分をじっと見つめる。 そこには、ついさっき購入した仏塔型ランタンが。「ほへぇ!? 僕の買ったばかりの素敵アイテムを!?」「ああ、ソレ霖之助さんの店で買ったの。……そんな得体の知れない代物を、良く腰に下げていられるわね」「確かに霖之助さんの店の物は総じて胡散臭いけど、稀に貴重品もあるんだよ!」「それで、その貴重品とやらは何なのよ」「知りません!」 買う前に聞いたら、絶対念入りな説明で希少性を訴えてくると思ったので無視しました。 で、買った後いざ説明をして貰おうと思ったら、霊夢ちゃんが僕を連れて行ったワケです。 つまり知らなくても僕は悪くない。それが原因で何が起ころうと、僕には欠片も責任が無いのです。無いと言い張ります。 「はぁ……聞いてるこっちの頭が痛くなるよ」「いやー申し訳無い。でもそういう反応をするって事は、この道具が何なのか知ってるんだよね君は」 「―――ふっ、無論さ。知らなければトレジャーハンターは出来ないからね」「とれじゃぁはんたぁ? 何よソレ」「おっと、そう言えば名乗って無かったね」 そう言って彼女は幽雅に一礼し、不敵に微笑みながらゆっくり顔を上げた。 ……んん? 気のせいかな、今頷く前に少しだけ逡巡した様な気が。「私の名はナズーリン。子ネズミたちを束ね宝を漁る、しがない鼠妖怪さ」 ――何だろう。何だかこの子からは、今までとは違う意味で油断ならない感じがする。