「それじゃあ失礼しますねー。八坂様も諏訪子さんも後よろしく」「はいはい、そっちも早苗の事よろしくね」「……少し待て、久遠晶」「なんですか八坂様?」「…………は止せ」「ほへ?」「八坂様は止せと言っているのだ。諏訪子や早苗の様に、私も神奈子と呼んでくれて構わん」「はぁ、それはまたどうして急に?」「き、急ではない! 前々から、私だけ名前呼びでないのは面倒だろうと思っていたのだ!!」「別に僕は気にしていませんよ? 八坂様は神様なんですから、人間である僕との距離はあった方が良いでしょう」「ぷぷっ、普通に拒否られてやがんの」「黙れ諏訪子! 貴様も、下らん事を気にするな!! 名前を呼ばれた程度で落ちるほど低い格はしとらん!」「わ、分かりました。それじゃあえーっと……神奈子さん?」「――っ!? さ、様はちゃんと付けろ!!」「え、あ、はぁ」「くくくっ、日和ってやんの」「笑うな諏訪子ぉ!」幻想郷覚書 地霊の章・弍拾壱「終日遅遅/河童の廻り髪結い」「ふはー、ようやく開放されたぁ」 博麗神社の建て直しは終わり、紫ねーさまのチェックも無事通過。 最後に軽いお叱りの言葉を貰った僕は、太陽の畑に戻ると今までの疲れを吐き出す様に大きく体を伸ばした。 うーむ、本気を出せばすぐに終わるかと思ったけどそうでも無かったなぁ。 真面目に建て直していた間はわりと休む暇も無かったし、思ったよりも疲労は大きいかも。ああ、お風呂入りたい。「おかえりなさい晶さん! ご飯にしますか、お風呂にしますか、それともモフモフ!?」「最後のは文がやりたいだけじゃん。ともかくおかえりアキラ、久しぶりだねー」「ただいまです、久しぶり……って文姉とにとりだけ?」 果たしてどこで情報を仕入れていたのやら、家の前でスタンバっていた文姉とにとりが元気に僕を出迎えてくれる。 残念ながら、文姉のボケに付き合う余裕はないのでそこらへんはスルー。あえて言うならお風呂が良いです。「幽香さんなら人里へ買い物に行きました。隙間も居ない事ですし、今こそ晶さんを愛でる好機!!」「すいません、しんどいんで愛でるのは勘弁してください」「倦怠期の夫が仕事帰りに言う感じで断られました!?」「どういう例えさ。まぁ、色々あったみたいだしね。すぐにでも寝るかい?」「うーん、その前にお風呂に入りたいかなぁ」「ふっふっふ、そう言うと思ってすでにお風呂は準備済みだよ。よっしゃ! それじゃあ私が背中を流してあげようか!!」「あはは、よろしくー」 文姉には申し訳無いけれど、今愛でられたら爆発してしまいそうだ。何かが。 と言うワケで彼女を軽くいなしつつお風呂に向かう僕。わーい、お風呂だお風呂ー。 ……はて、なんか疲れに負けてとんでもない事を見逃している様な気が。 今まで大事に残していたエリクサーを、うっかりポーションと間違えて使ってしまった感じと言うか。 なんだろーねー。まー、どうせ最上級消費アイテムなんて残してもタンスの肥やしだから別に良いんだけどさー。「はーい、そこまでですよエロガッパ。晶さんの判断力低下に付け込む真似は、この真なる姉と書いて文姉が許しません」「ちょ、助平扱いは心外だ! 私は純粋にアキラとの友情を深めたいだけなんだよ!!」「なんでそんな風呂に固執するんですか?」「河童の意地だね!」「捨ててしまえそんな意地」 あらまぁ、文姉ってばにとりに抱きついて楽しそうですね。 何を話しているのかは知りませんけど、僕は早くお風呂に入りたいので先に行かせて貰いますね。 ああ、とにかくこの疲労を何とかしたい。今はそれしか考えられません。 ……しかし、真っ当な労働した方が疲れるってのはどうなんだろう。 最早幻想郷以外ではロクな生き方が出来そうにない自分の体に、ちょっとだけ切ない気分になる僕。 以前は対岸の火事だった「拳で語り合う」畑の皆様を、今はもうこれっぽっちも笑えませんな。 力の無い笑みで精一杯の自虐をした僕は、そのまま二人を置いて風呂場に向かうのだった。「ひとっ風呂浴びて晶君復活! そしてありがとう文姉、にとりは反省するように」「ぶー、アキラはそろそろ性別の差なんて些細な違いを気にするのは止めるべきだと思うんだー」「アノネ。オトコ、ソレムシシタラ、オワルノヨジンセイ」「アキラが遣る瀬無さすぎて片言になった……」「まぁ、晶さんなら性別の差を捨てても問題なく生活出来そうですが」 いやいや、さすがにそれは無いですよ。 確かに僕はあんまりそういうの気にしませんが、気にしてないのと無視するのとでは致命的に意味が違いますから。 うん、あるよね。問題あるよね。あると言う事にしてくださいお願いします。「しかしアレだ、久しぶりにアキラが髪を下ろした所を見たけど……伸びたねぇ、髪」「ほへ?」 今の僕はいつものメイド服ではなく、幽香さんから譲ってもらったパジャマを着ている。 つまり完全に休む体勢に入っている為、ポニーテールも解いているワケで。 ふむ。言われてみれば、確かに大分髪が伸びている気がする。 そもそも最初に髪を結んだ時には、馬の尻尾と呼ぶほど長くは結べなかったんだよね。チョンマゲ扱いだったし。 それが今では完璧なポニーテール……今まで結ぶの楽になった程度の認識しか無かったけど、コレわりと男としてマズいんじゃあ。「うーむ、切った方が良いのかなぁ」「――ごぶっ」「文姉がいきなり吐血した!? なんで!?」「短いのと長いの。どちらの晶さんが良いのか……これは難問ですよ」「相変わらず文は頭おかしいね」 僕もそう思います。たかだかポニテの長さで、一体何が変わると言うのでしょうか。 んー、でも一度意識すると色んな所が気になっちゃうなぁ。 髪留めで整えるのが習慣になってたから気にしてなかったけど、前髪も結構伸びて鬱陶しいし。「髪型をどうするにしても、最低限整えてはおきたいなぁ。幻想郷にも理髪店があれば良いんだけど」「ふっふっふ、どうやら私の出番の様だね!」 そう言って不敵に笑いながら、背負ったリュックサックの中に手を突っ込むにとり。 これはアレか。猫型ロボットばりの不思議アイテム登場フラグか。 そういえば、にとりの発明品って姿を隠すヤツくらいしか見た事ないなぁ。 僕のカメラとプリンタをコピー出来たくらいだし、他のにとりオリジナルブランドも相当凄いんだろうけど。 気になる。果たしてにとりはどんな髪切りアイテムを出してくるのか。 ワクワクしながら見つめていると、にとりはリュックからやたら使い込まれたハサミと櫛を取り出した。……ふむ。「一見すると普通のハサミみたいだね」「まぁ、普通のハサミだし」「へぇあ? えっと、僕の思考をトレースして思い通りの髪型に切ってくれるハサミとかじゃないの?」「そういう魔法的なアイテムは専門外だよ。河童はあくまで技術屋だからね」「……じゃあなんでにとりさんは、普通の髪切りハサミなんかを持ち歩いているので?」「えっへん。実は私、散髪が得意なんだよねー。たまーに文とか椛とかの髪も切ってあげてるんだよ」「被告人はこう言ってますが」「ああ、それはマジです。にとりって手先器用でセンスもそこそこありますから、意外とそういう仕事が上手いんですよね」 文姉が言うならそうなのだろう。なんていうかこの二人は、意図してないのに相互監視状態になっている節があるし。 そしてそんな文姉の微妙に褒めてないような気がする言葉に、胸を張ってハサミを開いたり閉じたりするにとり。 完全にやる気満々である。いやまぁ、拒む理由も特にないんだけどね。「んじゃとりあえず、かるーく整えて貰って良いですか」「おっけー! 今からババっと準備しちゃうよ!! あ、髪型は丸坊主で良いね!」「……丸坊主か」 にとりなりのジョークなんだろうけど、その発想は意外とアリかもしれない。 手入れは楽になるし、面倒な朝のセットもなくなる。丸坊主はさすがに無いけど長めのスポーツ刈りなら……。「だめ」「うわっ、紫ねーさま!?」「おねがいやめて。ねーさまいっしょうのおねがい」「あ、はい。分かりました止めます」「ありがとう。それと、紫ねーさまは可愛い弟の長いポニーテールを希望するわ」 狭い隙間を覗き込む形で唐突に現れた紫ねーさまが、ガチ泣きでスポーツ刈りを思い止める様に訴えてきた。 ツッコミ所があり過ぎて何を言って良いのか分からないけど、本気で嫌がっている事だけは良く分かりましたとも。 ねーさまがマジ泣きしている所、まさかこんな形で見るとは思わなかったよ。 そしてそれだけ言うと、速やかに隙間を閉じて消えるねーさま。どうやら本当にそれだけを言いに来たらしい。 本当に一瞬だったので文姉もにとりも気付いてないし……僕の髪型で必死になり過ぎでしょう。やる事あるから忙しいんじゃ無かったんですか。「ほいっと完了。それじゃあ晶、そこに座っておくれ」「分かった。ああそれと、丸坊主は本気で勘弁してください。軽く整える程度でお願い」「言われなくても、そんな命知らずな真似はしないよ。間違いなく死ぬより酷い目に遭うからね」 分かっていた様で一安心です。どうして僕の事なのに、僕以外の人が怒ったり泣いたりするのだろうか。良く分からない。 まぁ、些細な問題だと言う事にしておこう。僕は苦笑しつつ、にとりの用意した極々普通の椅子に座った。 布を被せられると、太陽の畑のど真ん中であろうと床屋さん気分になれるから不思議。「んで、軽く整えるだけで良いのかい? 元には戻さないの?」「某姉にリクエストされたから、ズバッと切るのは止めとくよ。長めでよろしく」「某姉? 文なら、まだ長いのか短いのかで悩みまくってるけど?」「長いポニテか短いポニテか……うーん」「あっちじゃない方の姉からね。とりあえず先着順と言う事で、今回はそっちを優先する事にします」 今の文姉にねーさまの言葉込みで意見を求めたら、確実に反対側に行って泥沼化するだろうしね。 紫ねーさまが一枚上手だったと言う事で、ここは素直に諦めてもらおう。「長いままねぇ。んー、分かった。そうするよ」「………にとり?」 何故か腑に落ちない様子で、それでも頷くにとり。 彼女らしからぬあやふやな態度だ。身内に対しては、わりとズケズケ言うタイプだと思ったのに。 気になる。気になるから聞こう。僕は他人に対するリスペクトは忘れないけど、友達にはわりと遠慮しないのである。 ああ魅魔様、いきなり起きてきて「リスペクトしてるの?」ってツッコミ入れるのは止めてくださいね面倒なんで。〈なんだ、自覚はあるのか〉 ノーコメントで。「それでにとり、どうしたの? 実は短いほうが良かったとか?」「うーん。間違ってはいないけど、ちょっと意味合いが違うと言うか――あのさ、ちょっと愚痴っても良いかな?」「もちろん構いませんとも。盟友にスパッと言ってみなせぇ」「はは、ありがと。……実を言うとさ、少し寂しいなぁって思ってたんだ」「寂しい?」「うん。アキラはどんどん強くなって、アッと言う間に私を置いていっちゃったからさ。初めて会った頃が少し懐かしくなっちゃって」「つまり、見た目だけでも昔の僕に戻って欲しかったと」「あ、あはは。身も蓋もない事を言っちゃうとそうなるかなぁ」 確かに昔の僕と比べると、今の僕は月とスッポン、コイキングとギャラドスくらいの差があると思っても良いかもしれない。 実感はこれっぽっちも無いんですけどね。前も言ってたけど、そんなにとりが劣等感抱くほど強くなったのかなぁ。 そんなこちらの戸惑いを理解しているのか、背後でにとりが軽く肩を竦めた様な気がした。「……ねぇアキラ、私達はずっと友達でいられるのかなぁ」「ぶっちゃけ保証は出来ないとです」「おい。そこはもう少し暖かい言葉をかけるべきだろうが、親友」 僕もそう思うけど、残念ながら僕は「力の差があっても仲良く出来る」とは言えないんだよなぁ。 だって僕が強くなろうと思った理由は、仲良くなる為の障害――強者との力の差――を無くす為だったのだから。つまり。「同じ事考えてここまで来た人間としては、頑張ってと言うしか無いワケです」「――そっか、そういやそうだったね」 苦笑しながら僕の髪を梳くにとり。その声色は諦めた様にも、納得した様にも聞こえる。 さすがに今度は、友達だからと言う理由で安易に心情を問いかける事は出来ない。 それからしばらく無言で髪の毛を弄っていた彼女は、独り言を呟く様にしてボソリと愚痴を零した。「でも私は、アキラみたいな戦狂いになれる気がしないなぁ」「あははははー、あえて否定はしないでおくよ。……ま、お互いに上手くこの関係を維持していくしか無いんじゃないかな」「変な話だね。友達であり続ける為に努力をしなきゃいけないだなんて」「現状維持ほど大変なモノはないんですよ、にとりさん。進んだり戻ったりするのは楽なんだけどねぇ」「なるほど大変だ。だけどまぁ、そういうのも楽しいのかもしれないねっと完成」 最後に彼女が差し出した手鏡には、綺麗に髪を整えられた僕が写っていた。 反対の手に握られたリボンを受け取りポニーテールを作った僕は、にとりと顔を合わせて意地悪く笑い合う。 ぶっちゃけ何も解決してないし、特に何が変わったというワケでも無いんだけど。 ……少しだけ、にとりとの仲が深まったような気がするよ。 さて、この後はもう休むだけだし。もう少しだけこの盟友と仲を深める事にしようかな。「は、出ましたっ! 今回は長いポニテの晶さん推奨です!!」「…………」「…………」「あ、あれぇ!?」 ――文姉、幾ら何でも悩みすぎてすよ。◆白黒はっきりつけますか?◆ →はい いいえ(このまま引き返してください)【教えろっ! 山田さんっ!! りべんじっ!!!】山田「あえて特に無しで。山田さんです」死神A「それはそれで落ち着かないですね……死神Aです」山田「ではでは、今回はサクサクっと進みましょう。とっとと最初の質問に行きますよ」死神A「ああ、今回は質問多めなんですね」山田「いえ、別に」死神A「なんで今、巻きに入ったんですか!?」 Q:Aつながりで死神Aにも同じこと出来ますか?山田さん教えて~。その後に山田さんをひん剥いt(サバカレマシタ山田「作者が理解出来なかったので返答してなかった質問です。後で作者は処分しておきます」死神A「処分はダメですって、本編が続かなくなりますよ!?」山田「あと、死神Aなら何しても良いですよ。エロ同人みたいに。エロ同人みたいに」死神A「二回もロクでも無い事を言わないでくださいよ!?」山田「そして私をひん剥けば良いじゃないですか! エロ同人みたいに!!」死神A「それ言いたかっただけでしょう……」 Q:お燐の能力コピーして、オリジナルと二人係で怨霊操れば役立てたのでは?山田「まぁ質問者がすでに答えを言っちゃってますが、晶君のコピーはメタ的に「――程度の能力」となってるモノしか出来ません」死神A「お燐の場合だと「死体を持ち去る程度の能力」ですね。火車以外だと何の役にも立たない能力だなぁ……」山田「うっかり殺っちゃった人間を隠せるじゃないですか」死神A「怖い事言わないでくださいよ!?」 Q:晶君の肉体的な意味での女性のタイプは幽香さんの様なタイプでしたが、性格的な意味ではアリスの様な女性ですか?山田「特に捻る事もなく年上好きですよ。所謂引っ張ってくれる姐さん女房って奴ですね」死神A「例えば人形遣いとかですか?」山田「むしろ、スタイル性格そのままゆうかりんで全然OKって感じですね。まぁ、彼にとっちゃ風見幽香も普通に‘イイヒト’なんでアレですけど」死神A「そういやそうでしたね。……はっ!? と言う事はひょっとして、小野塚小町も晶の好みにどストライク!?」山田「ダメさん女房は黙っててください」死神A「すいません」山田「ちなみに、晶君の初恋の相手は八雲紫です。だから正確には彼女みたいな女性がどストライクなワケですね」死神A「そのわりには、今は普通に接してますね」山田「昔のって事だよ言わせんな恥ずかしい」死神A「ああ……全力で納得しました」 とぅーびぃーこんてぃにゅーど