「………」「………………」「………」「――っ! 寝てません!! ねてましぇんにょ咲夜しゃん!!」「……………」「………………………」「………………」「………………………………………ぐぅ」幻想郷覚書 緋想の章・拾漆「天心乱漫/足並み揃わぬファーストステップ」「はぁ……はぁ……一発も当たらないってどういう事なのよ……」「いやぁ、意外と避けられるモノですね。僕もビックリです」「あんな冗談みたいなやり取りに、そこまで本気を出せる貴方達に私もビックリよ」 動かない大図書館が、汗だくになった私を見つめながら呆れ声を上げる。 その皮肉に反論しようと私は口を開くが、思った以上に疲弊していたせいか思う様に声が出なかった。 だと言うのに、私の連打を避けきった腋メイドは飄々としているのだから実に腹立たしい。 とりあえず、その憤りを視線に乗せて八つ当たり気味に晶へぶつけてみる。あ、視線を逸らした。 「まぁ、情報が無いなら仕方ないよね。一休みした後、次の場所へ行くとしましょうか」 露骨に動揺し話題を変えてくる弟弟子の姿に、私は優越感から一瞬だけほくそ笑んだ――が、すぐに思い直して顔を顰める。 情けない。こんな些細な事で、多少の優位に立った程度で喜ぶなんて。 己の予想以上に私は、このスットコドッコイに劣等感を抱いていたらしい。ムカつく。「ね、ねぇ、姉弟子?」「……好きにすれば良いじゃないの」 まぁ、休憩する事に異論は無い。 実際の所、私の疲労はそう大したモノでも無いのだけど。 紅魔館が空振りだった以上、私達は次にどう動くかを考えないといけない。 どこぞの巫女みたく、勘に任せて移動するなんて私はゴメンだ。 さて、晶の奴はどんな案を出すのかしらね? 師匠の命令だから主導権は譲るけど、当然批判はさせてもらうわよ? それも、心が折れるくらい強烈にね。 素っ気無く振舞いながら私が内心でそんな事を考えていると、黙って話を聞いていたフランドールが不思議そうな顔で首を傾げた。「二人とも、お姉様からお話は聞かないの?」「あ」「あって貴方」 紅魔館当主の存在を忘れてどうするのよ。まぁ、気付いていた上で無視した私が言えた台詞じゃないけどね。 レミリア・スカーレット。全ての運命を見通すとすら言われている深紅の吸血鬼。 幻想郷の代表的な強豪妖怪として真っ先に名前の上がる彼女だけど、実物を見ると本当に強いのか甚だ疑問に思えてしまう。 その性格は、一言で表すと「子供」だ。気まぐれで自分勝手、そして飽きっぽい。 私がレミリアをあえて無視したのも、そんな彼女の我儘な性格が原因である。 断言しよう。アイツに尋ねても絶対ロクな事にならない。むしろ酷い目に会う。間違いない。「まぁ、レミリアは良いんじゃないの? レミリアだし」「どうしよう、姉弟子の言いたい事がなんとなく分かっちゃうんだけど」「大丈夫。私も分かるわ」「そっかー。うん、お姉様だもんね」 ……実の妹すら納得するのね。ある意味、とても愛されてるじゃないの彼女。 一人戸惑う晶を横目に私達が共通認識を確かめ合い頷いていると、先ほど追い出された小悪魔がお茶を持って戻ってきた。 その表情は、何故か浮かない。あと、明らかに盆上のカップ数が現状人数と合っていない。「お、お待たせしましたー」「お帰――あら? ちょっと小悪魔、カップの数が足りてないわよ?」「すいません。その、レミリア様が……」「癇癪起こして、カップを手当たり次第に割りまくったとか?」「いえ、晶さんと優曇華院さんを大広間に連れてこいと」 ……大広間って所がミソね。絶対に真っ当な要件じゃ無いわ。 晶も漂う不穏な空気を察したのか、こちらに視線を向けて困った様に苦笑している。「――このまま、聞かなかった事にして逃げない?」「――それも良いかもしれませんね」「そ、それは困りますよぉ。ただでさえ咲夜さんがいなくて、お嬢様の機嫌が悪いんですからぁ」「僕らはこれから、そんなレミリアさんと会わなきゃいけないんですけど」「大変ね。応援してるわ。逝ってらっしゃい」「せめてこっちを向いて話す程度の誠意は見せなさいよ! 完全に本を読む事に専念する姿勢じゃないの!!」 小悪魔に紅茶を淹れさせ、分厚い本を読み込むその姿は間違いなく平時の動かない大図書館だ。 最早、体裁だけのメイドとして私達をもてなす気すら無くしたらしい。 気持ちは分からないでもないが腹立つ。このまま、大広間に行くフリをして帰ってやろうか。 当然レミリアは荒れるだろうが、今の私には関係の無い話だ。 うん、我ながら良い案だ。これで行こうそうしよう。「……しょーがない、行きますか姉弟子」「えっ、何でレミリアの所へ行く気になってるのよ貴方」「ほへ? なってるもクソも、初めから行く気でしたけど?」 いやいや、貴方さっき私の意見に同意したじゃない。 と言うかそれ、本気で言ってる? 行ったら確実に面倒な事に巻き込まれるわよ。 私がそう問いかけると、晶は苦笑したまま頭をかいて答えた。「面倒ですけど、レミリアさんが本気なら逃げられませんよ。あの人、こういう時に限って一分の隙もない行動を取るから」 まぁ、確かにそうだ。 普段は本当に運命を把握出来ているのか怪しいくらい抜けてるスカーレットデビルは、変な時に出さなくてもいい本気を出す。 もしかしたら、必死に逃げても最終的には同じ目に会うのかもしれない。 が、幾らなんでも諦めるのが早すぎやしないだろうか。現状なら、まだ逃げられる可能性は十二分にあるだろうに。 何というか、久遠晶がトラブルに巻き込まれる仕組みの一因を理解した気がする。「貴方に付き合っていると、寿命が縮まっていく気がするわ」「平穏に生きていたいとは常々思っております」 自覚無しか。可哀想に、きっとこの腋メイドは骨の髄から厄介事を求めているのだろう。 ……この真性のトラブルメイカーと一緒にいて、私は大丈夫なのかしら。 ふとこれから先が不安になった私は、どうすれば自然にコイツを見捨てられるかをこっそりと考えるのだった。「あ、ちょっと待って! 私も一緒に行きたい!!」「ダメよフラン、危険だから止めておきなさい」「だから、せめてそういう話はこっちに聞こえない様にしなさいよ!!」 「ようこそ紅魔館へ。突然だが、貴様らには私と戦ってもらう」 大広間に辿り着いた私達に、部屋の中空で待ち構えていたレミリアが不遜にそう宣告した。 どうしよう、マジだ。私の知る範囲で初めてとも言える彼女の本気っぷりに、何故と問い質すより先に息を呑んだ。 寒気すら感じさせる張り詰めた空気は、神聖さと真逆にありながら荘厳な雰囲気を醸し出している。 それを放っているのは、永遠に紅い幼き月こと紅魔館当主――レミリア・スカーレット。 少女の姿でありながら圧倒的な威圧感を放つ彼女からは、平時の間抜けさ加減がまったく感じられなかった。「無論、タダでとは言わん。勝者には望むモノをくれてやろう。例えばそう――竜宮の使いの居場所とかな」 どこで知ったのか、こちらの欲しがっている条件を提示しニヤリと笑うレミリア。 これが、本当にあのお間抜け吸血鬼なのだろうか。 ちょっと前に、文々。新聞でモケーレムベンベ扱いされていた話が嘘の様だ。 「いきなり過ぎて話について行けないんですが、僕らが負けた場合はどうなるので?」「ふふ、そうだな」 レミリアの雰囲気に呑まれた私と違い、わりと余裕があるらしい晶がそんな事を尋ねる。 いやいや、何でそんな平気そうにしているのよ貴方。 この張り詰めた空気に、まさか気付いていないとは言わせないわよ? 剣呑な視線を送ってくるスカーレットデビルに、何故か腋メイドは苦笑いを返す。 分からない。どうしてコイツはこんなにも落ち着いているんだろうか。何か考えがあると言うのかしら? ……諦めているだけっていうのが、一番あり得そうだから困るわ。「貴様らが負けたら、メイドとして当分紅魔館で働いて貰おうじゃないか」「正直、そんな気がしてました」「……なるほどね」 先程から感じていた重圧は、余裕の無さの裏返しだったワケか。 紅魔館の主は、思いの外有能なメイド長の不在を重く捉えていた様だ。 もしくは、不便さに耐えかねてブチ切れたか。うん、こっちの方がレミリアっぽい気がする。 そして久遠晶は、いち早くその事に気が付いていたのだろう。 相変わらず、無駄な所で観察力を発揮する男である。……腹立たしいからとりあえず睨んでおこう。あ、逸らした。「それで? 事態を予測していたんだから、当然この後の事も考えているんでしょうね?」「戦って勝って、情報を手に入れる。と言うのはどうでしょう」「具体的な方法は?」「がむばる」「殺すわ」「即答っすか!? いや、確かに精神論過ぎてダメだとは思いましたが!」「下らないボケを挟んでないで、大人しく本当の事を言いなさいって言ってるのよ」 さすがに私だって分かる。コイツは、とっくにそれくらい先の事を想定して策を練っているはずなのだ。 久遠晶はどうしようも無く卑怯で卑劣でスットコドッコイな大馬鹿者だが、それだけに数手先をしっかりと見据えている。 恐らく今回も、ロクでもない手で相手を翻弄するつもりなんだろう。 ふん。味方とは言え――いえ、だからこそ楽に勝とうとするその姿勢は看過出来るモノじゃないわ。 もし私の反感を得るような意見を出したら、今度こそ心と身体をへし折ってやる。 色んな意図を込め、私は再度晶を睨みつけた。逸らされる。うん、満足満足。「その前にレミリアさん、一つ確認して良いですか」「ん、なんだ?」「当然、今回の戦いは僕と姉弟子のタッグマッチなんですよね?」「貴様らがそれで問題無いなら、だがな」 ニヤリと皮肉げに笑って、レミリアは肩を竦めてみせる。 これはまた、随分と余裕な態度じゃないか。私達くらい二人がかりでも充分対処出来ると? ……そのこちらを舐めきった認識は、早急に正さないといけないわね。「じゃあ問題無しで。ついでに作戦タイム貰っても良いですか?」「くくっ。相手に全力を出させ、その上で粉砕するのがスカーレット家の流儀だ。好きにするが良い」「なぁっ!? ちょっと晶、貴方何を」「はーいはいっと、話し合いはあっちに行ってからにしましょうねー姉弟子」「も、もがもが!」 晶だって舐められる程弱くはないはずなのに、彼はあっさりとレミリアの屈辱的な提案を受け入れてしまう。 私がその事を咎めようとすると、晶は素早い動きで私の口を抑えて柱の陰へと移動した。 と言うか強っ! 早っ! だからどうして、貴方はこういうどうでも良い事に限って全力を出すのよ!? 解放された私が抗議の意思を込めて何度目かの睨みを利かせると、何故か晶はダメな子でも見るかの様にため息を吐く。 意味が分からない。何よその反応は、悪いのは明らかにそちらでしょうに。「姉弟子ってば勘弁してくださいよ。今、レミリアさんと一人でやり合うつもりだったでしょ?」「当たり前でしょう! あんな事言われて、貴方引き下がれるの!?」「レミリアさんからのありがたい心遣いじゃないですか。実際問題、お互いにハンデ無しでのタイマンは厳しいワケですし」「な、何事も、やってみるまで分からないモノよ」「やる前から分かる事も、結構あると思いますけどねー。世の中には『絶対勝てない勝負』ってのがあるんですよ?」「……レミリアとの勝負が‘ソレ’だと、貴方は言いたいのかしら」「一対一ならまず勝てないと思います。あの人、余裕がある時と無い時で強さが段違いに変わりますから」 ああ、それは何となく分かる。あの吸血鬼、余裕無い時の方が強いのよね。 私は軽くレミリアの様子を窺った。普段なら焦れて癇癪を起こしているはずの吸血鬼は、優雅さすら垣間見える態度で私達を待っている。 ……確かに、いつもの彼女と同じだと侮っていたら、痛い目に合っていたのはこちらだったかもしれない。 そういう意味では晶の判断は、とても正しかったと言えるのだろう。それを認めるのは、とんでもなく悔しいが。 まぁ、だからと言って全ての意見に同意したワケじゃない。私は自分でも分かる程に頬を膨らませ、さらに不満な点を口にした。「だからって、二人がかりなんて……」「けどここで負けたら、異変終わるまでメイドとして働かされますよ? 勝算は多い方が良いかと」「その口ぶりだと、貴方にはあるみたいね、勝算」「一応は。姉弟子が協力してくれればですが」 そう言って、不敵に微笑む久遠晶。 くそ、不覚にもそれを頼もしいと思ってしまったわ。物凄く腹立たしい。「いやほんと、姉弟子が協力してくれないと勝ち目無いんで手を貸してくださいお願いします」 私の不機嫌な態度を、晶は自分に事を任せる不満の意思表示だと判断したらしい。 笑みを即座に打ち消して、ペコペコと低姿勢なお辞儀を繰り返す。 見ていてとても気分の良くなる光景だが、こちらの意図を勘違いされるのは正直困る。 私は大きく息を吐きだすと、ネガティブに受け取られないよう笑みを浮かべて返事を返した。「さっきも言ったでしょう。師匠の顔を汚すわけにもいかないから、貴方の指示には極力従うつもりだって」 「え、従ってくれるんですか?」「……何でそこで驚くのよ」「言っときますけど僕メチャクチャさせますよ? 命の無事は保障はしますが、身体の無事は保障はしませんからね?」「な、何をさせるつもり!?」「いつも僕がやっている様な事ですが」「――殺す気!?」「……自分から振った話題だけど、肯定されると凹むなぁ」 そう思うなら、自分の行動を改めなさい。十中八九それが原因だから。 とは言え、元々晶の案が多少無茶でも従うつもりだったのだ。 不安は残っているが、話だけでも聞いてやろうじゃないか。「まぁ、とにかく話してみなさい。検討はしてあげるから」「実行してくれるともっとありがたいんですが……とりあえず話すだけ話しますね」 そうして晶が語ったのは――本当にロクでも無く、私には想像もつかなかった作戦だった。◆白黒はっきりつけますか?◆ →はい いいえ(このまま引き返してください)【教えろっ! 山田さんっ!! りべんじっ!!!】山田「もぐもぐ……みなしゃんこんにちは……もぐもぐ……山田です……もぐもぐ」死神A「せめて挨拶くらいは食べずにしましょ――うぐっ、死神Aです」山田「もぐもぐ……どうしました? ツッコミが散漫ですよ。くっくっく」死神A「ぐぐぐ、何ですかこのメイド服。胸の所が若干キツいんですけど。サイズ間違ってません?」山田「……間違ってませんよ。それが前回用意された、パチュリー・ノーレッジ用のメイド服です」死神A「――あー、その、何と言うか……」山田「っん! ちんすこうでも食わなきゃやってられませんよ!! 死神A、お茶!」死神A「あ、あはははは……どーぞ。私の分のぷよまんも食べます?」山田「もう食べてますが。もぐもぐ」死神A「あははは……(今回は静かにしてよう、命にかかわる)」 Q:今の晶君の手札、現状誰がどれを知っているんでしょうか?山田「これはうっかりでしたね。そういえば具体的に言った事はありませんでした」死神A「確か、噂の形で神剣やら面変化やらが出回ってましたよね?」山田「前作と違って、久遠晶に対する情報統制が為されておりませんからね。真の能力まで垂れ流しですよ」死神A「具体的にはどんな感じなんですか?」山田「久遠晶と面識のある妖怪や人間は、コピー能力、神剣、面変化、真の能力がある事を把握しています。細かい所は個人差ですが」死神A「面識の無い妖怪や人間はどうなんですか?」山田「厄介な能力持ちである事や、今までの噂をそこそこ把握してる感じですね。ザコなら名乗るだけで泣いて逃げます」死神A「うわぁ、それはひどい」山田「ただし、幻想郷覚書で新規追加された能力は見ていない限り伝わってません。あと、即死無効とかの目立ちにくいギミックも知られてませんね」死神A「なるほど。全部の手札が割れたワケではないと」山田「そうでないと主人公の力が半減してしまいますから」死神A「主人公の得意技が初見殺しって……」 Q:晶くん自身は姉弟子の容姿についてどう考えているんですか?山田「一応、晶君のストライクゾーンに入っています。が」死神A「……が?」山田「そもそも彼にとっては恐怖する対象なので、そういった興味を向けられません。直視が難しいし」死神A「見てはいるんですよね?」山田「ムッツリですからね」死神A「そういや、あたいも前にじっと見られた事が―――」山田「ちなみに、晶君がじっと見るのは基本きょぬーだけなんですよ? 知ってました?」死神A「(あ、最後の最後で事故った)」山田「うふふふふ、ではでは皆様このへんで。うふふふふふふふふ」死神A「何でこのコーナー、こんなに地雷が多いんだろう……」 とぅーびぃーこんてぃにゅーど