色々と悩みましたが、幻想郷覚書は「神霊の章」をもって最終回とします。東方心綺楼のネタは書くつもりですが、輝針城はやらないつもりです。ただ一応ネタだけは考えたので、今回ウソ予告として書く事にしました。ぶっちゃけ作者がスッキリしたいが為だけに書いたモノなので、生暖かく読み流していただけると幸いです。ちなみに、未だかつて無い程に晶君以外のオリキャラを登場させています。ご注意ください。 突如暴れだす、大人しいはずの妖怪達。 そして勝手に動き出す、多種多様な道具達。 自分達にも理解出来ない衝動から始まった彼女達の「反逆」。 その影響は、久遠晶の元にも及んでいた。「――無い」「ロッドが無い、魔法の鎧が無い、三叉錠が無い」「ど、泥棒だぁぁぁぁあ!?」 ある朝、忽然と消えてしまった彼を支える数々の道具達。 それがこの異変を、更にややこしい事態へと発展させるのであった。 輝針の章・嘘予告編「傍迷惑な奴ら、幻想郷を往く」「うにゃー!? た、助けてー!?」「小傘ちゃーん!?」 どうして彼女は、特に悪い事をしていないのに毎回酷い目に遭うのだろうか。 右足を鎖に絡み取られ、ぶんぶんと振り回されている彼女の姿に驚愕よりも先に切なくなる僕。 傍から見ると地味に楽しそうなんだけどね。こう、遊園地のアトラクション的な……いや、やっぱりそれは無いか。 「オラオラ、どうしたよ!? もっと抵抗してくれないとつまんないじゃ無いか!!」 んで、そんな小傘ちゃんを無慈悲にぶん回している謎の女性。 褐色の肌をやたら晒すような服。燃えるような赤い髪。気の強さが露骨に現れた釣り目。 幻想郷では初めて見るタイプの女性だ。良く言うとワイルド系を極めたみたいな……悪く言うとまんまアマゾネスだけど。 まぁだけど、かなり様になってはいるね。体中に巻かれた鎖も相まってお洒落に見えない事も無い。 ……ところで気のせいかな? 彼女の持っている鎖、やたら見覚えがあるんですけど。 全体から感じるやたら神聖なオーラとか、先端の三股に別れた爪の形状とか、腕に付いてる鎖を通すパーツの形状とか。 あ、こっちに気が付いたみたいだ。「おっ、誰かと思えば大将じゃないか! さっすが目ざといね、もう異変の臭いを嗅ぎつけたのかよ」「……はい?」 なんか凄いフレンドリーに話しかけられた。しかも手まで振ってるし。 えっ、誰? 覚え忘れとか勘違いとかじゃ間違いなく無いよね。お互い特徴的な外見してるし。 と言うか、明るく挨拶しながらも小傘ちゃんを振り回すのは止めないんだね。 「えっと、どちらさまですか?」「ひっどいなー。愛しい愛しいオレの事を忘れたのかよ」「すいません、僕の記憶にはありませんね」「さすがは大将、容赦ネェなぁ」 楽しそうに笑う謎の女性は、どうも僕の事を知っているようだった。 こちらの答えに気を悪くする様子も無い――どころか、逆に満足そうな表情で近づいて来る彼女。 なお、この間ずっと小傘ちゃんの事は振り回しっぱなしである。 止めなきゃいけないんだろうけど、ここまで開き直られると逆に止めづらい。気がする。 「もうちょい勿体ぶっても良いんだが、そうやって話を引っ張るのは苦手なんでね。正解を言わせて貰うよ――オレは『三叉錠』さ」「…………は?」「なーなー、たいしょー。喧嘩しよーぜー」「どっちの意味でもお断りします」「オレ達同士が戦うのでも、どっかその辺のヤツに喧嘩売るのでも良い――って先に答えんなよ!」 何でこの人、こんな無闇矢鱈と好戦的なんだろう。 元々は戦闘能力皆無な捕縛専用アイテムで、戦好き要素なんて欠片も無かったはずなのに。 どこで何を間違えたのだろうか。……やっぱり、勝手に改造したのがマズかったのかな。「くっくっく。三叉錠に改造された時も嬉しかったけど、妖怪化した時の喜びはそれ以上だな!」「……え、嬉しかったの? あんな魔改造されて?」「当然だろー? オレはかの毘沙門天の作った道具なんだ。ただの錠前で満足するワケが無いだろう」「いや、毘沙門天はどっちかと言うと財宝神としての側面の方が強いんじゃ」「オレが出来た時点では軍神でもあったから良いんだよ! 本当はなー、オレもビームとか出せるようになりたいんだよ」「そういうのは自力で出来るんで……」「大将は、オレにもっと戦闘能力を付けるべきだ!! ドリルとかどうだ?」 ……それ、もう完全に錠前要素関係無いですよね?「ならば、防げぬ攻撃を用いるだけです」 私は大きく距離を取りながら、ナイフを構えて時を止める。 相手の神剣は脅威だが、絶対無敵と言う程でも無い。 時間を止めているこの間に、勝つ為の布石を打たせてもらおう。 ……わりと単純そうな性格をしていたし、結構簡単な手でも引っ掛かりそうよね。 「――ふっ!」「――なっ!?」 けれどそんな私の目論見は、実行する前に破綻させられる事となった。 彼女は静止した時の中であっさりと剣を構えると、虚空を斬るようにして軽く刃を振るう。 その瞬間、それまで掌握していたはずの時間の感覚は全て消え失せてしまったのだ。「全てを奪うこの神剣に、奪えぬものなど有りはしないのです。それが『時を止める』と言う概念であってもね」「滅茶苦茶だわ。そもそも、どうやって止まった時の中で動いたのよ」「自分は神剣その物。故に、自分にかかる力ならば奪う事ができるのですよ」「……久遠様が使っていた時よりも、遥かに上手く扱えているわね。さすがは本人と言うべきなのかしら」「それは違う! 自分をもっとも上手く扱えるのは、主様をおいて他にいない!! 自分などが自分の扱いで主様に及ぶはず無いだろう!」 その理屈はどうなのかしら。 主を立てるために自分自身すら下げる彼女の姿勢に、感嘆とも呆れとも付かない感情が湧き出してくる。 ……今の台詞の本当に恐ろしい所は、お世辞ではなく本気でそう思っている所ね。 自分で口にしていて興奮したのか、天之尾羽張は対戦相手である私そっちのけで幻の主に自らの想いを語りだした。「うふふふふ、見ていてくださいね主様。この天之尾羽張、見事異変を解決してみせましょう。そしたら思う存分頭を撫で撫で……」「――本当、久遠様の事大好きね。貴女」「おっふぁあ!? ななな、何故に自分の秘めたる想いが筒抜けに!?」「えっ、秘めてたの?」「ち、違うのです。これはあくまで尊敬的な……そう、使い手に対しての尊敬の念を表しているのです!」「あら、久遠様こんにちは」「あ、あああ、あるじしゃま!? 大好きです! ――違った、どうも初めまして! 貴方の神剣こと天之尾羽張ですっ!!」「……嘘よ」「なんとっ!? ひ、卑劣な罠を! 自分、初めての顔合わせで如何に主様の好感度を稼ぐか必死に考えていたと言うのに!!」「……どこらへんが秘めているのかしら」 けど、面白いわねこの子。実にからかい甲斐があるわ。「ふわぁ……かったる」「着こなしを変えただけ――では無いようね」「めんどくさいなぁ。天之尾羽張が張り切ってたから、あたしの出番は無いと思ってたんだけど」 長い黒髪を縛っていた髪飾りを外し、肩に羽織っていた赤と青の上着に袖を通した彼女は気だるそうにあくびをした。 姿形は変わっていないのだが、和服が中華風の上着で隠されただけでも全体から受ける影響はかなり変わってくる。 何より、彼女自身の纏う雰囲気が大きく変わっているのだ。 それまで良くも悪くも真っ直ぐだった彼女は、今や息をするのも面倒だと言わんばかりの怠惰さを見せるようになっていた。 神剣もただの棍棒に戻っており、展開したソレを支えにする姿はとてもみっともない。「貴女、何者?」「見て分かるでしょ。少なくとも天之尾羽張では無いよ。……はぁ、めんど」「ひょっとして、貴女は神剣の柄になっていた『棍』の妖怪なのかしら」「せーかい。ご主人様はあたしの事を『ロッド』って呼んでるね」「一つの身体に二つの人格……多重人格の妖怪なのね、貴女は」「正確には、アイツがあたしの身体を間借りしてるんだけどね。……まぁ、めんどーだからどっちでも良いよ」 立っている事すら面倒になったのか、近くの岩に腰掛けながら大欠伸をするロッド。 実に情けない。だけど――気のせいでなければ、神剣だった時よりも油断が無くなっている様な気がする。 確認の為、私は彼女に向けて抜き手を見せずナイフを投げつけてみた。 それを彼女はあっさり受け止め、そのまま投げ返そうとして――面倒になったのかナイフを地面に放り捨てた。「弱体化した、ってワケじゃないのね」「さて、どうだろ。ただアイツは神剣に頼りすぎるタチだから、単純過ぎて扱いやすいってのはあるかもしれないね」「……貴女は違うって事かしら」「知らんよどっちでも良い。まぁ少なくともあたしは、楽が出来るならロッドに拘るつもりは無いかな」 そう言って、あくまで面倒くさそうに立ち上がるロッド。 気だるげなその姿には、しかし一部の隙も存在していなかった。「…………んじゃ、面倒だからとっととカタを付けさせて貰おうかな」「……なんだアレ」 面白い事を求めて飛んでいた私が見つけたのは、西洋鎧とゴーレムを合体させたみたいな銀色の巨人だった。 全長は二メートル弱って所だろうか。空を見上げながらぼーっと突っ立っているだけなのだが、図体が図体なだけにやたらと目立っている。 「アイツも妖怪、なのか?」 あんだけ派手な妖怪なら、どこかで見かけた事があるはずなんだが……。 ああ、ひょっとしてアレが人里で噂になってる華蝶大鉄人ってヤツなのかな? あれ、エル・キホーテの風車だったっけか? 話に聞いてたよりも若干小さいし、鎧の色も白じゃなくて銀色で、聞いてたよりもゴツさに感じないけど。 ――いや、やっぱ違わないか? そもそも、人里のヒーローが何で霧の湖に居るんだよ。「おーい、そこのお前ー」 面倒なので直接聞く事にした私は、箒の向きを変えて巨人の前に着地した。 巨人からの反応は無し。……ひょっとしてコレ、中身伽藍堂なのか?「聞いてんのか? お前に言ってんだよ、お前に」 鎧の腹部を軽く叩いてみたら、ようやく反応が返ってきた。 と言っても、首が小さく傾いてこっちを向いただけだが。 んー、中身は暗くて良く分からないな。空っぽ……では無いか?「…………」「妖怪なんだろ、お前? 私は霧雨魔理沙、ここらへんを仕切ってる普通の魔法使い様だ。知ってるか?」「……………………」「……聞いてるのか?」「…………シッテル」「うおっ!?」 思いの外可愛らしい声が返ってきたな。 一言だけだったし、鎧で反響してイマイチ分かり辛かったが、幼子みたいな舌っ足らずな声だった気がする。「………マリサ」「お、おう。魔理沙様だぜ」「……………………」「……なんだよ」「…………ドウシヨ」「何がだよ!?」 困ったように首を傾ける巨人。さてはコイツ、あんまり喋らないタイプだな。 声と相まって、なんか本当に子供みたいな印象を受けるが実際はどうなのだろうか。 妖怪はそういう所、外見で判断できないから厄介だ。「…………タオシタラ。ますたー、ヨロコブ?」 おい何か物騒な事言い出したぞコイツ。「何だと!?」 私のマスタースパークを真正面から受け止めた鎧は、それら全てを身体の中に吸収した。 またこのパターンか! 偽魅魔様の時もそうだったが、自分の得意技を利用されると思った以上に腹が立つな。 しかし、こうなると魔力攻撃はするだけ無駄って事になっちまう。 ……アイツの鎧、こんな効果あったっけか? 前のアレは妙な玉っころの力だったはずだが。「――ぶーすと!」 魔力を吸いきった鎧が叫ぶと共に、その体が派手に砕ける。 銀色の鎧が破片として飛び散り、中から現れたのは想像していた通りの幼子だった。 銀の髪をリボンで結んでツインテールにした、見た目だけなら温和そうな子供だ。 手足に鎧は残っているがソレ以外の鎧は残っておらず、服装も普通――いや、かなりの軽装になっている。 ……露出高いな。肌にピッタリ張り付いた黒い上下の肌着に、色んな装飾品を付けただけだぞアレ。 防御力は露骨に無さそうだが、その分スピードが上がったと考えるべきか?「……イクゾ!」「――っ!?」 次の瞬間、鎧は私の背後へと回っていた。 お、おいおい。いくら何でも速くなりすぎだろうが。ほとんど動きが見えなかったぞ。 こちら目掛けて放たれた蹴りをギリギリで回避しながら、私は更に高度を上げて鎧を引き離す。 「……………ムゥ」 すると、鎧は残念そうな表情で地面に着地した。 やっぱりそうか。あくまでアイツは鎧だから、妖怪化しても鎧に関係無い能力は追加されていないんだな。 魔力を吸収したのは、自分の力だけでは『力の増幅』が出来ないからか。 アイツの鎧らしい、実に極端な仕様だぜ。……しかし何で幼女の姿してるんだろうな?「…………ズルイ」「そいつはお互い様だろうが。悔しかったらここまで飛んできな」「………………ソウスル」 「――あ?」 私の軽口に頷いた鎧は、グッと両足に力を込めた。 同時に、両足から私と同じ魔力が溢れ出す。――うわ、これはヤバいな。「……トブ!!」 大地を踏みしめた鎧は高々と跳び上がる。しかしそれでも私には届かない――と思ったら。「モット!!」 更に空を蹴った鎧は、落ちかけていた勢いを一気に持ち直した。 くそっ、そういうのは有りなのかよ!? こちらに向かってきた鎧に、私は八卦炉をかざして魔力弾を放った。「キカナイ!」「知ってるよ!」 相手が腕鎧で防いだのを確認した私は、あえて相手の懐へと飛び込んだ。 驚愕する鎧。私は構わず、スペルカードを宣誓してやる。「生身の身体じゃ、さすがに魔力を吸収出来ないだろうな! 喰らえ!!」「――っ!」 相手は必死に逃げようとするが一歩遅い。たっぷり魔力を蓄えた八卦炉は、ここぞとばかりにその力を解き放った。 暴走する道具達。無駄に絡み合う因縁。 果たして久遠晶達は無事、異変を解決する事が出来るのだろうか。「たいしょー。せっかくだからオレ、なんか美味いモノ食いたい」「いや、それ今言われても……」「主様、主様、主様! 自分に、自分にお任せください!! 自分何でもします! 主様の為に何でもしたいです!!」「うん、落ち着こうね。ほんと落ち着いてね。ステイ、ステイしてて」「…………タベル?」「気持ちだけ貰っておくよ、うん」 ――恐らくムリだろう。