○月×日(晴)どうしてこうなった……。何故か知らない間に異変に巻き込まれ、いつの間にやら解決する流れになっていた。いや、なんかここ最近人里に行く度に喧嘩売られるなーとは思ってたんだけど。……その時の日記にも書いたけど、白蓮さんと太子さんがタッグ組んで挑んできた時はさすがに死を覚悟しました。しかしまさか、こいしちゃんから貰った面が異変の原因だったなんて。アレ、香霖堂で何となく買った虹色のスプリング玩具と交換したんだけどなぁ……。世の中、何でもない事が意外な所に繋がってたりするんだね。でもいきなり爆弾抱えさせられるのは勘弁してください。僕だって、普段は平々凡々に暮らしたいくらいの願望があるんだよ! もう!!おまけに何故だか弟子をもう一人取る事になったし……。なんで人間の僕が、妖怪に妖怪らしさを教える事になるんだろうね?追記:今日は思い掛けない事に気付かされた。残念ながらすぐに出来る事じゃないけど――うん、次にやりたい事は決まったかな。幻想郷覚書 終章陸「心綺逸転/The Sorcerer's Apprentice」「ほら、何事もチャレンジ精神が大事だって言うじゃないですか!」「そのセリフは挑戦する側だから言えるんじゃぞ……」 二つの面をパタパタと振りながら、堂々と無責任な事を言い出す晶坊。 確信があるとかならともかく、多分とか言っといてソレはちょっと無理があると思うぞ?「大丈夫大丈夫、徒労に終わる事はあっても悪化する事は無いですから」「ならええんじゃが……とりあえず、何をやろうとしているかだけは説明してくれ」「いや、基本はさっき言った通りですよ? 偽物の面で世界を騙そう大作戦!」「もうちょい気の利いた作戦名にできんのか」「……オペレーション・ギャラリーフェイク?」「ギャラリーどこじゃよ」 まぁ、そこまではワシも分かる。 先程晶坊が生み出した面、それが世界を騙す偽の面とやらなのじゃろう。 ……よく見ると、偽の面の方には額に「偽」と書かれておるな。実に分かりやすいわ。「その面が本当に有効かどうかも確認しておきたいが、どうせ保証なんて無いのじゃろう?」「はい!」「堂々と答える所はさすがじゃの……では別の事を尋ねるが、本物の面を覆ったその氷はなんなんじゃ?」「本物の面を野放しにするワケには行かないですからね。封印ですよ、封印」「いや、ただの氷じゃろソレ」 本当に封印の力がある氷なら、さすがにワシだって見て分かるわい。 普通に氷で覆っただけじゃから分からんのじゃ。それで希望の面の何を封印するというのか。 それとも、ワシが気付いておらんだけで何かの力が込められておるのかの? だとしたら地味にショックじゃ。まぁ、無いと思うが。「おっと忘れてた、封印はコレを貼って完成です」 そう言って晶坊が懐から御札を取り出し、氷の表面に貼り付ける。 ふむ、なるほど。そっちの方がメインじゃったか。 確かにこれだけの力なら、面の力を封印する事も出来るじゃろうて。 ……その札が、見た事の無いシロモノなのが若干不安じゃがな。 恐らくは神道系か? 大概のヤツなら大体は見ただけで分かるんじゃが……うむ、分からん。「珍しい札じゃなぁ、どこの神のじゃ?」「知りません」「――おい」「いや、不変は未来の力を借りる面なんで……「どう扱うか」は分かるんですが、「どうやって手に入れたか」は分からないんですよ」 「……そんな怪しいモン、良く使う気になれたのぅ」「わりといつもの事なんで。……まぁ、なんで僕が‘博麗式の封印術’なんて覚えてるのか気になる所ではありますが」 別にどうでも良いよね! と、聞いてるこちらが不安になる勢いで疑問を投げ捨てる晶坊。 ソレで良いのかお主は。……良いんじゃろうなぁ。「と言うか未来の力とは――いや、あえて聞くまいて。とにかくそれで希望の面は大丈夫なんじゃな」「オッケーです! あ、コレは念の為に別空間で保管しておきますね」「別空間って、そんな倉庫みたいに扱えるモノじゃったかのぅ」 見ろ、こころなんてほぼ最初から話についていけておらんぞ。 分かっていたのに無視していたのは、単純にワシもそこまでの余裕が無かったからじゃ。 ワシの時代でも稀にしかおらんレベルの神々がやりそうな奇跡を連発するのは止めてくれんか、本当に。「僕に非があるとは言え、ここまでボロクソに言われ続けるとさすがにちょっと凹みます」「――うぐっ。ス、スマン」「あ、いや、ネタで言ったんで軽い気持ちで笑い流してくれると助かるんですが」「世間一般ではそういうのを恩知らずと言うんじゃよ?」 少なくとも現状、ワシらは晶坊に頼り切っているワケじゃからな。 その状況でその言われ方をされたら、大概の人間が似たような反応をすると思うぞ? 「世の中ってままならない……」「うむ、覚えておけよ? 普通の人妖はお主ほどボケツッコミに命をかけておらんからな」「別に僕も命まではかけて無いんだけど――まぁ良いや、とりあえずコレで封印は問題無しですね」「出来ればもうちょっと安心させてほしいが、十分といえば十分か。――何か起こった時の責任はとれよ?」「出来る限りは頑張ります! と言う事で次はこっちね、はい」「む、うむ」 本物の面をどこぞへ片付けた晶坊が、偽物の面をこころに差し出した。 それを、恐る恐るといった様子で受け取るこころ。 まぁ、気持ちは分かる。コレで全てが解決すると言われても信じられない……と言うかむしろ疑わしいわな。 そもそもあっさりと解決しすぎじゃしな。いや、解決して貰わんと困るから良いんじゃけど。「とりあえずソレつけて……えっと、つければ自分の物に出来るのかな?」「問題ない。後は効果があるかどうかだが――ふむ」 偽の面に付け替え、こころは自身の身体に変化が起きていないかを確認する。 念入りを通り越し臆病と言えるほどに身体を探っていたこころは、一旦手を止めるとワシらに向き直り困ったように呟いた。「……解決したのか分からん」「知ってた」「おい」「いや、コレばっかりは即効性求められても困りますよ? そもそもそーいうもんでも無いでしょう」「確かにソレはそうじゃが……」 失われた面が戻ればこころはただの面に戻る――とは言っても、それがいつなのかまではワシにも分からん。 一瞬で戻るのか、徐々に失っていくのか、そこすら分からない状態ではっきりした効果を期待するのは酷と言うモノじゃろうな。 じゃから、晶坊の反応もこころの困惑も当然と言えば当然なのじゃが……うむ、やっぱ納得いかん。「しかし、心持ちだがつけなかった時よりも安定しているような気もする」「……無理に気を使わなくても良いのじゃぞ?」「問題ない。己を犠牲にしてまで気を使うほどの優しさは、あいにく持ち合わせていないからな」「まぁ、本当に気の所為って可能性もあるからさ。何か違和感があったら相談してよ」「それをお主が言うのか……」 正しい指摘ではあるんじゃが、そういう心配が出来るならそもそも事が起こらないように努力を――と言うのは贅沢か。 こうなった以上は無駄な批判を重ねるより、晶坊のやり方に乗ってこころをフォローするのが最善じゃろうしな。 ……ワシはあくまで、ちょっとした親切のつもりでこころに協力しただけだったのじゃがのぅ。 結果的に世話係まがいの事をやる羽目になるとは、世の中何がどう流れるか分からんモノじゃわい。 ――出来れば避けたかった流れでもあるが。まぁアレじゃな、全部晶坊が悪い。「そうか……今後も貴方の助力を望めるのだな。それは幸いだ」「はぇ?」「至らぬ身ゆえ迷惑をかけるかもしれないが、どうか力を貸して欲しい」「あ、はい。別にそれは構いませんけど……えっと、そんな無駄に畏まらなくても良いですよ?」「私のような若輩者にまで気遣いして貰えるのは嬉しいが、そちらこそ遠慮は不要だ。私は妖怪としては遥かに格下なのだから」「遠慮するなって言われても……あの、なんか僕の扱いちょっとおかしく無い? やたらと高い位置に置かれてない?」「ま、こころにとっては初めて出会った同族の先輩じゃからな。必要以上に畏まるのも仕方がない事じゃろう」「ああ、なるほ――ど? ん、待って? なんか前提条件おかしくない?」「気のせいじゃよ。超気のせいじゃ」 じゃってほら、何も間違っておらんじゃろ? ははは、先輩としてヨロシクやってやるんじゃよ?「何だろう、この腑に落ちない感は」「私の態度で何か不愉快にさせたのなら謝罪する、すまない」「あ、いや、こころちゃんを責めているワケでは無いんですけどね? ――まぁ、良いか」「そうか、それは良かった。……あの、ついでにもう一つお願いしても良いだろうか」「あー……洒落にならない無茶振りでなければ、どうぞ」「無茶振りかどうかは分からないが、頼み事そのものは単純だ。――私を、貴方の弟子にして欲しい」「……はい?」 うーむ、そういう結論になったか。 まぁ、こころにとってはそれだけする価値のある相手だと言う事なのじゃろう。 実際そこまで悪いアイディアでも無い。色々問題点も多い人物じゃが、それ以上に学ぶ点はあるはずじゃ。 それ以上に面倒な事も多いが、そこはそれ。頑張るのは晶坊とこころ自身じゃからな。問題ない。「いやいやいや、ちょっと落ち着こう。こころちゃんは何かを間違えてる」「何も間違って無いから安心せい」「えー、でもー」 こころの弟子入り志願に、露骨なまでの難色を示す晶坊。 じゃが、面倒を見るのが嫌と言った様子でも無いな。 ……単純に、教える自信が無いのか? 思えばこれまでも、自分に自信を持っていないような発言が多くあった。 しかしそれは、半分くらい計算で言ってるモノと思っていたが……まさか十割本気とはなぁ。 あれだけの実力があるのじゃから、もう少しくらいは強さに自信を持ってても良いと思うのじゃが……。 「…………ふーむ」「な、なんですか?」 別段ワシに、そんな晶坊の性根をなんとかしてやる義理は無いのじゃが。 どうにも見過ごせんのは、やはり年のせいかのぅ。 まぁ、根本を正せるほど強烈なアドバイスは無理じゃろうがな。 これも乗りかかった船じゃ、婆なりのお節介を働くとするかのぅ。「晶坊よ、お主は強者としての自覚を持った方が良いと思うぞ?」「すいません、それ以前からずっと言われててまだ改善出来てないんですよ」「……自覚があるなら矯正するべきじゃろうて」「いやー、僕の中で常に僕は一番下っ端ですからね!」 うむ、思った以上に重症じゃな。 しかし、自分は常に下っ端か……突っつくとしたらソコじゃろうな。「晶坊、お主にとっての「強者」とは誰じゃ? ……ああ、口には出さんで良い。頭の中で思い浮かべろ」「強者……はい、思い浮かべましたよ」「其奴と己、戦ってどちらが勝つかと問われたら――」「相手!」「……即答じゃな。じゃが、本当にそうか?」「へ?」「百パーセント、どれだけ全力を尽くしても負ける。そう断言出来るか?」「それは……」 出来んじゃろうな。晶坊が誰を想定して居るのかは分からんが、それが例え誰であっても絶対に敗北するとは言えんはずじゃ。 それが分からんほど晶坊は阿呆では無い。と言うか、天然とは言え策士やってて彼我の戦力差が少しも分からんとかありえんじゃろ。 ……晶坊なら分からん上でも的確な策を練っとる可能性があったが、この様子なら大丈夫みたいじゃな。 「お主の思う「強者」とやらが、どんな存在なのかは知らん。じゃがな――その強さに‘挑む’時期は、とうに過ぎていると思うぞ」「挑む……ですか」「うむ、「超えろ」とか「勝て」とは言わん。お主がまずやる事は、強者に対する例外扱いを止めて並び立とうと考える事じゃ」 頑固なほど自己評価を低くするコヤツの考えを変えるには、下げようの無い相手の隣に自分を置かせるしか無かろう。 とは言え、如何に晶坊が強くとも幻想郷は広い。本人の性格的にもまずは一歩進める所から始めるべきじゃ。 ……あまり性急に先へと進ませて、責任を取る羽目になるのは嫌じゃしな。 色々と背負い込む羽目になってしまったが、やっぱりワシは一歩引いた立場から好き勝手言う隠居婆で居たいわい。「…………なるほどなぁ。うん、その考え方は無かったかも」 ――あ、やらかした。 いや、晶坊本人は爽やかで実に良い笑顔をしているのじゃが。 何かこう、とんでもない方向への後押しをしてしまった気がしてならぬと言うか。 ……後々ワシの助言が原因で、ドえらい騒ぎが起きそうな気がする。 起きそうと言うか、むしろ起こる。理由は説明できんがそんな確信がある。 ―――よし、忘れよう。ワシは助言をしただけじゃ、うん。「うむ、どうやら何か吹っ切れたようじゃな。良い事じゃ」「あ、はい。ありがとうございます、マミさん!」「なーに構わんさ。それよりも弟子の面倒をきっちりと見るんじゃぞ?」「はい! ――はい?」「強者を目指すなら、弟子をとっていて悪い事は無いじゃろう。弟子は師匠を成長させると言うしのぅ」「あ、いや。なんかソレは違いません? 話題ズラされてません? あと、僕もう弟子いるんでこれ以上増えるのは……」「なーんじゃ、もう弟子がおるのでは無いか。ならもう一人増えても問題ないな」「いやいや、一人と二人じゃえらい違いが……」「そうか――こころよ、お主は弟子にする価値が無いから諦めろと言う事じゃ」「何その悪意ある解釈!?」「…………」「そしてガチ凹み!? 分かった! 分かりましたよ!! 弟子にします!」 よしよし、少し強引じゃったが何とか目的を果たせたな。 散々脇道に逸れた結果、弟子入りの話が立ち消えになってしまったらワシが頑張った意味は無いからのぅ。 これで最低限、ワシがやるべき仕事は片付いたわい。めでたしめでたしじゃ! ――仕事を終えた代償で、色々犠牲にしたが……まぁ、責任取るのはワシじゃないしな?