「…………ふふふ」「…………あやや」「ったく、面倒なのに出会っちまったな」「ふっふっふ……魔理沙さん、ここで会ったが百年目ですよ!」「お前なぁ。今の状況、分かって言ってるのか?」「何か、命蓮寺の方が騒がしいですね!」「分かってんのかよ! ――なら、ここでウダウダやってる場合じゃないだろ」「確かにそうです。ここで私達が争っても、それは単なる下位争いでしかありません」「霊夢や晶のヤツは、確実にあそこで暴れてるだろうからなぁ」「何でそこで妖夢さんを外すんですか! イジメですか!!」「運が良けりゃー居るかもしれんが、アイツは基本的に私らと同じ扱いだろう」「つまり、本命対抗馬から一歩劣る大穴面子って事ですね! ……はぁ」「……自分で言って凹むなよ。おかげで、私までちょっと気持ちが沈んで来たじゃないか」「世の中ってままならないものですね」「ま、所詮は他人の評価だ。派手にひっくり返して後悔させてやれば良い」「そうですね。――それじゃあ、やりましょうか」「いや、待て」「はい?」「何でそうなるよ。普通ここは、戦わずに先へと進む流れだろう」「言いたい事は分かりますよ、魔理沙さん。ですがちょっとあっちを見てください」「あ? あっちってなんだ――よ……」「合法的にライバルを消せるこのチャンス、今こそ活用させていただきますよ!!」「敵対する相手を、生かして進ませる理由は無いものね。……良いわ、久しぶりに本気で遊んであげる」「戦う以外の選択肢……あります?」「お前ら、もうちょっと真面目に異変解決しろよ!!」幻想郷覚書 神霊の章・弐拾伍「雄終完日/神を穿つ牙」「では改めて――神子さん、覚悟!!」「とりあえず、異変の元凶から叩き潰すわね」「二対一、初戦にしては不利な状況だ。――ならまずは、無難な攻撃で始めるべきだね」 悠然と構えながら、神子さんが先制の弾幕を放った。 自身を中心に、花火のように拡散していく弾丸。 僕と霊夢ちゃんは弾幕を避けながら、示し合わせたかの様に後方へと下がっていく。 ……神子さんは二対一と言ったけども、僕らは共闘しているワケでは無い。むしろ競争しているのだ。 まぁ、さすがに神子さん無視して足引っ張るなんて馬鹿はしないけど。 霊夢ちゃんを出し抜く為にも、ちょっとは冒険しないとダメだね。 と言うワケで、ロッドを腰から取り出しましてっと。 ―――――――魔槍「ク・ホルンの牙」 ロッドを核に、三匹の氷蛇が絡みつくようにして槍の形を形成する。 素の状態だとここから三十秒以上、無防備なチャージをしなければいけないけど……今は違う。 僕は完成した魔槍の刃に軽く手のひらを添えると、そこから石突きに向けて柄の部分をそっとなぞった。 すると、色を薄めるようにして消えていく魔槍。 うん、ぶっつけ本番だけど上手くいった!「力ある槍……その形を模倣する事で、偽りの神器に力を与えるスペルカードと言った所かい?」「あの一瞬でそこまで見切るとは、さすが聖徳王。お察しの通りでございます」「消した――いや、‘飛ばした’のか。今の君は人として異常なほど強い力を持っているが、それでも瞬時に神器を作れる程では無いようだね」「……もうちょっとこう、悩んでくれないと僕の立つ瀬が無いんですが」 何で一目でそこまで分かるんですか。何でもアリですか聖人。 ええ、そうですよ。不変になっても魔槍のチャージタイムは省略出来てませんよ。 だからこその発想の逆転! 魔槍を異空間でチャージすると言う荒技を試みたワケです。 放つ前に魔槍を破壊されない、この状態なら僕はフリーで動ける、魔槍は好きなタイミングで撃てるといいことずくめのアイディア! まぁ、スペカ発動中だから行動は若干の制限入るけどね! ついでに言うと今回の場合、どういうスペカか相手にバレてるから確実に警戒されます。 ――アレ? ひょっとしてスペカのチョイスミスった?「何やら困っているみたいね」「ええ、まぁ、仕込もうと思った罠が一瞬で無駄になってしまったので」「それなら私が適当に隙をつくるから、それを利用しなさい」「……ほぇ?」「じゃ、行くわよ」 こっちの疑問をガン無視して、構えた御札をぶん投げる霊夢ちゃん。 あれ、なんか信じられないくらい協力的ですね? 競争って張り切ってたの、ひょっとして僕だけでしたか? うわ、なんか恥ずい。そしてちょっと切ない。「博麗の巫女……噂は神霊達から聞かせてもらったよ。異変解決人のお手並みを拝見させてもらおう」「最前席で見せてあげるわよ、途中退場も認めるわ」「ふふっ、意外と付き合いが良いじゃないか」 二人は互いに相手の攻撃を避けながら、無数の弾幕をばら撒いていく。 うーん、実に高レベルなやり取りだ。 神子さんとか弾幕ごっこ初挑戦のはずなのにあの安定感。白蓮さんもそうだったけど、聖人って学習能力高いよね。 ……まぁ、それで僕の事を忘れてくれるなら二人の世界に入られてもバッチこいなんですが。 やっぱりダメか。あっちこっちへ動き回っているけど、僕の事は必ず視界に収めてる。 警戒されてるなぁ。うん、仕方ない。僕もちょっと頑張ってみますか。「では、お邪魔しまーす」 荒れ狂う弾幕目掛け、僕は真っ直ぐ歩いて行く。 目の前では二人の弾幕が入り混じって、まるで嵐みたいに暴れている。実に恐ろしい。 普通に突っ込むと裁くのが大変そうだし――よし、ちょっと遠回りしようか。「ほいっ、ほいっ、ほいっと」「っ――!?」「ふぅん」 軽く跳んだ僕は、‘神子さんの放った弾幕’を足場に進んでいく。 まぁ、実際の所は弾丸を踏むフリをして空中移動しているだけなんだけどね? それっぽく見せると、案外と騙せるもんです。 後は弾幕を足場にしつつ身体に当たりそうなのは避けつつ、一気に神子さんへ近づけばオッケー!「それじゃ、いただきますっ!!」 最後に大きく飛び上がり、神子さんへ向けて蹴りを放った。 ここで神子さんがどう反応するかで、これからの対応が変わってくる。 果たして避けるのか、受けるのか。……とりあえず神子さんが受けたら、僕の中で聖人はイコール肉体派となります。 ――あっ、避けた!! 良かった! 聖人は皆筋肉修行しているとか言う嫌な事実は無かったんだね!! とか言いつつ、避けられた勢いを利用しての後ろ回し蹴り。「くっ! 予想外な事ばかりするね、君は!!」「いえいえ、そんなに変な事はしませんよ? 貴方を倒すために小細工を弄する――やってる事は結局それだけです」「……その『それだけ』が、どれだけ恐ろしい事か」「随分と高評価ですね。――でも、戦ってる相手は僕だけじゃないんですよ?」「そういう事、隙有りね」「――くっ!」 こちらの攻撃を避けられてしまうなら、無理して当てに行く必要は無い。 出来るだけ相手の視界や動きを妨害するように、腕や足を突き出していけば十分だ。 後は、霊夢ちゃんが勝手に追撃してくれる。 ――まぁ、こっちでも当たるように手助けはするけどね? 霊夢ちゃんの基本スペックが高いから、僕が頑張る必要はあんまり無いんだよね。 ……とは言え、相手の回避能力もかなりのモノだ。 魔槍をぶつけるなら、後一手が欲しい所なんだけど……。「ならば、こちらもスペルカードを使わせてもらうよ!」 ―――――――仙符「日出ずる処の天子」 っと、相手の方が先に動いたか。 相手のスペカ宣誓と共に、分厚い壁のような弾幕が神子さんを中心に広がり始めた。 あ、マズい。コレはアレだ。至近距離だと絶対回避できないタイプのスペカだ。 回避するためには、後ろに下がらないと行けないけど……そうなるともう近づけさせてくれないんだろうなぁ。 さて、どうするか……。「甘いわね」 ―――――――宝符「陰陽宝玉」 等と一瞬考えている間に、霊夢ちゃんがスペルカードを発動させていた。 彼女は手元に集めた霊的エネルギーの塊を、掌打の勢いで弾幕に向けて解き放つ。 弾幕全てをかき消すまでにはいかないが、放たれた霊夢ちゃんのスペカは神子さんの弾幕に大穴を開けてくれた。 ――よし、隙が出来た!!「いっけぇぇぇ!!」 チャージは十分、距離はそこそこ、チャンスは多分今しかない。 僕は異空間から魔槍を取り出し、神子さん目掛けて全力でぶん投げた。 七色の光を放ちながら直進する魔槍。しかし――「そうなると、思っていたよ!!」 直撃する前に、スペルブレイクした神子さんが回避を試みた。 強引過ぎる動きでかなり体勢を崩してはいるが、魔槍そのものは完全に外れてしまっている。 ――まぁでも、そうなる可能性は僕も考慮してましたよ。 なので当然、対策の方も用意しています。 僕は精神を集中し、魔槍の飛んでいる先へと転移した。 やった! 出来た!! 出来るのは分かってたけど、実際に出来るとテンション上がるね! 「これぞ、隙を生じぬ二段構え! 魔槍を再利用すればスペカ二枚使わなくても良いよね大作戦!!」「有り体に言ってセコい」「僕もそう思う!!」「だが、恐ろしい追撃だよ。――だからこそ防がせてもらう!!」 ―――――――光符「グセフラッシュ」 七色に輝く弾幕が、放射状に放たれていく。 先程の弾幕よりも広域を意識した、遠近共に密度の高い弾幕だ。 魔槍の阻害だけでなく、霊夢ちゃんの行動も妨害しているあたりに神子さんの上手さが光る。「すでに君の魔槍の威力は把握している。この弾幕で相殺する事は出来ないが、防ぐ事なら出来るぞ!」 確かに、さっきまでの威力なら防がれてしまうだろう。 かと言って、再度チャージを行っていては体勢を立て直されてしまう。 と言うか、それはさすがにルール違反だよね? 普通にスペカ二枚目使えって話だよね? まぁ、どっちにしろやらないからそんな仮定は無意味だ。 ――こっちだって、神子さんが対応してくる事はすでに想定しているのだから!!「この魔槍は、神話の逸話を再現する事で威力を増しています。――つまり、再現する逸話が多くなる程より力が強くなるんですよ!!」「それはどうい――っ!?」 どうやら、こちらの言葉の意図に気付いたらしい。 だけど、遅い! 僕は向かってくる魔槍を、あえて‘両足で’受け止めた。 ――かつて光の御子は、その魔槍を足で投げつけたと言う。 その神話を新たに再現する事で、魔槍は更なる力を発揮するのだ。「歯を食いしばる事をオススメしますよ――さっきより、遥かに痛いですからね!!」 向かってきた勢いをそのままに、僕は身体を回転させて魔槍を神子さんへと解き放った。 更に勢いを増した魔槍は、神子さんの弾幕を真正面から貫いて彼女に直撃する。 うん、思った以上にエグい威力出た! 足で投げるだけでデタラメなくらいに威力上がるね!! ……とは言え、じゃあこれからはずっと足で投げようと言う事にはなりません。 何しろ飛んできた勢いを利用するみたいな形で無いと、とてもじゃないけどマトモに槍を投げれないからね! いやほんと。さっきだって、実は足先にフックみたいな氷をつけて槍を引っ掛けてただけだからね? 我ながら、良く投げる形に持ち込めたもんだと自画自賛です。凄いな僕、と言うか不変。「ぐふ……なかなかやるじゃないか。だが、まだまだ」「隙あり」「がっ――」「わぁ、霊夢ちゃん容赦無い」「良いのよ。元から、アンタの一撃で弱ったコイツに私がトドメを刺すつもりだったから」「なにそれ聞き捨てならない。……ひょっとして、さっき協力してくれたのって」「アンタの一撃でかなりダメージは受けるだろうけど、それでも決着には至らないと思ったからよ」「つまりハイエナする気満々だったって事じゃないですかー!?」 酷い! いや、僕も似たような事考えてたから責められないけど!! と言うか、こっちが勝手に勘違いしていただけだけど! むしろ、霊夢ちゃんに出し抜くつもりがあったって事実に若干驚いてるくらいだけど!! ……あーうん、これは油断してた僕が悪いね。 しかしだからって、地面に叩きつけられた神子さんの頭をお祓い棒で叩くのはどうなんだろうか。 もうなんか、普通に事件的絵面だよ。火曜ミステリー劇場だよ。「……まったく、誰も彼も油断がならないな」「あら、意外とタフね。聖人って皆そうなのかしら」 ふらつきながらも、霊夢ちゃんから距離を取る神子さん。 ダメージはそれなりに有りそうだが、致命的と言うほど弱っているワケでも無いようだ。 最初に美鈴をKO寸前にした時よりも、僕の魔槍は遥かに威力が上がってたはずなんだけどね。 うーむ、さすがは聖人だ。……やっぱり聖人って皆肉体派なのかな。「欲張り過ぎた事は認めよう。弾幕ごっこと言う土壌で戦うには、君達二人はあまりにも強大過ぎた」「あら、もう降参? 意外と根性は無いのね」「いいや、諦めたのは華麗なる勝利だよ。――君達二人を下すには、もう少し泥臭い方法を選ばねばならないようだ」「いえ、そこは格好良い勝利を目指しましょうよ? 妥協しないで頑張りましょう?」「……君は逞しいなぁ、色々と」「はい、大変良く言われます」 でもほら、言うだけならタダだし! 何事も、挑戦する心が大事だと思うんだ!!〈そう思うなら、より困難な状況にも挑戦しろよ〉 あ、そういうのは望まなくても挑戦する羽目になるんで良いです。