「――と言う感じの事が、守矢神社であったんですよ」「へぇー、神霊異変の時にそんな事がねぇ」「大変でした。――それで晶君。もしも晶君が私だったら、その時どうしていましたか?」「その時どうしてたか? ……えーっとゴメン、言いたい事が良く分かんない」「晶君が『東風谷早苗』だったら、守矢神社での騒動をどう解決したのか聞きたいんです。後々の参考に」「僕が早苗ちゃんだったらねぇ。――とりあえず神奈子さんを懐柔するかな」「……神奈子様を?」「うん。神奈子さんは早苗ちゃんに賭けてて、その時の状況にも否定的だったんでしょ? なら上手くやれば引っ張り込めたんじゃないかな」「で、でも、それは幽香さんが認めないような気が……」「勝負する流れになってたらそうなるさ。けど諏訪子さんへのお仕置きって流れに持ち込めば、幽香さんも反対はしなかったと思うよ?」「お、お仕置きですか!?」「イエス、お仕置きです。ちょっとやり過ぎた諏訪子さんを、三対一でボッコボコにするのです」「えとその……で、でも神奈子様を味方にするのは、賭けのルールに反してませんか!?」「そもそも最初にグレーな事始めたのは諏訪子さんだからね。賭けの公平性を守る為って名目なら見逃してもらえると思うよ」「…………もらえますかね」「ぶっちゃけ、他の人らはどう転んでも損しないから。多分、こっちが知らん顔してたら追求すらされないんじゃないかな」「………………………………………………」「ほにゃ? どうしたの、早苗ちゃん」「……諏訪子様、私には無理です。晶君みたいな発想を出せる気がしません」「あの、早苗ちゃん? 良く分からないけど、僕褒められて無いよね? 多分褒められてないよね?」幻想郷覚書 神霊の章・拾壱「雄終完日/幻想郷のトリックスター」 土の中からこんばんは☆ どうも、久遠晶です!! ふふふ、よもや隙間から出て早々に地面にめり込むとは……この久遠晶の目でも読めなかった!「――――けてぇ……」 とりあえず相棒たるアリスさんに助けを求めてみた。 残念ながら頭は土の中なので、声は絞りだすようにしか出ないんだけど。 腕も埋まってるから自力じゃ出れないし……というか、そもそも上半身全部地面にハマっちゃってるからね。 まさしく手も足も出ない状態! いや、足は一応出るけどね。「かっこよく着地しようとして見事に失敗、隙間の縁に足を引っ掛けて地面に頭から激突とか阿呆の極みね」 ちゃうねん。 僕だって本当は、ごくごく普通な着地をしたかったんですよ。 でもなんか感じたんです。ここで僕が無難な着地の仕方をしたら、文姉が嘘つきになってしまうと。「何に対して気を使ってるのよ」「僕も分かんない」 おっと、上海ちゃんが引き上げてくれたのか。 扱いはかなり大雑把だけど、助けてくれるだけまだマシだ。片足を掴まれて宙ぶらりん状態だけどそう思おう。「下らない事やってないで、とっとと異変を解決するわよ」「へーい」「ちなみに私、八雲紫から貰った情報以上の事は何も知らないわ。情報源として期待はしないように」「まぁ、それは僕も同じだから文句は言わないけど……いつまで宙ぶらりんなんですかね、僕は」「……すぐ離すわ」 あ、今一瞬このまま荷物扱いの方が楽かもとか思ったよね。 絶対思ったよね。間違いなく思ったよね。 へいへい、アリっさん惚けてないでこっち見ろろろろ。「解放してあげるからその鬱陶しい顔を止めなさい」「いや、これは逆エビ固めという別種の拘束じゃないかななななな」「次またアホやったら折るから。……離しなさい、上海」「コレクライニシトイタラァ」「ううっ、アリスの対応がセメント過ぎて辛い」 とりあえず離してはもらえたので、僕は立ち上がり身体中の土を払った。 それにしても我が事ながら、僕は地面に突っ込む確立が高すぎる気がする。……まぁ、八割がた自分のせいなんだけども。「話を戻すけど、晶は今回の異変――と言うか神霊の増加現象についてどう思っている?」「それは、神霊が‘結果として増えた’のか‘目的として増やした’のかって事?」「そ。異変の元凶の狙い次第で、神霊をどうするかは大きく変わってくるわ。――それで、どう思う?」 何度も言うけど、神霊は人間の欲やら想いやらが霊体として出たモノである。 つまる所、単体だとそれほど驚異的な存在では無いワケだ。 たくさん居るのは異常事態だけど、おそらくそれだけだったら異変とまでは行かなかっただろう。 問題は、利用しようと思えば幾らでも利用できる存在って事だと思う。 何しろ人の欲そのものだ。妖怪でも神様でも、下手したら人間でも使い道がある。 そして困った事に、異変の元凶が神霊に一切干渉していない可能性も十二分にあり得るワケだ。 ――つまるところ要するに。「さっぱり分かりませんえん☆」 と言う事になりますね。てへぺろ☆ ……いや真面目な話、どんな判断をするにしても情報が不足しているんだよね。 だから結論も出せないんです。うん、仕方ない仕方ない。 故に殴らないで! 殴るにしても、せめて優しく――アレ?「どうしたのよ。そんな怯えて」「あの、上海さんによるグーパンは無いんですか?」「無いわよ。貴方は勘と勢いに任せて生きるバカだけど、この手の問題で思考停止する程の間抜けでも無いわ」「それ、褒められてるのかな?」「貴方の「分からない」に意味がある事くらいは理解しているって事よ。大方、情報が足りなくて結論が出せないって所でしょ?」「さ、左様でございますです」 アリスさんの僕に対する理解度が、そろそろツーカーですら済まなくなっている件。 何が怖いって、指摘に何一つ間違った点が無いのが怖い。 あの色々と舐めきった返答で、なんで僕の考えが分かるんだろう。アリスひょっとして僕の事超好き?「はいはい、超好き超好き。――それでどうするのよ」「わぁ、超おざなりな対応だぁ。――どうするって?」「これからの行動の指針、それくらいは考えてるんでしょう?」「あーうん。異変の元凶の狙いが何にせよ、神霊が密集している所を探れば何かある――はずだと思われます」 元凶側に神霊を増やす意図が無かったのなら、神霊の増加は異変そのものに関係している事となる。 逆に元凶側の目的が神霊を増やす事であるのなら、元凶は神霊の力を利用するために何かしらの形で動いているはずだ。 どちらにせよ、神霊が多く集まっている所で‘何か’が起きている事は間違いない。多分。 そして僕の魔眼は先程から、近くに多くの神霊が集まっている事を確認しているのです。「向こうの方で神霊が集まってるみたいだからさ、そこに行けば何かあるんじゃないかな?」「向こう? ……人里の方よね?」「へ? ――あっ、本当だ!?」 地面から出たばかりで認識して無かったけど、ここは人里近くの森だ。 そして、より多く神霊が集まっているのは人里の方……アレ、これちょっとヤバくない?「……なるほど、考えてみれば当然の話ね」「ほへ?」「妖怪達が今回の異変で「賭け」を始めたのは、この異変をしばらく放置しても問題ないと判断したから。――つまり」「異変は、妖怪達への影響が少ない所で起きてるって事かぁ……」 人里は妖怪にとって必要な所だけど、絶対に守るべき所と言うワケでも無い。 むしろほとんどの妖怪にとっては、好意的に見積もっても「どうでもいい場所」となるだろう。 そりゃ、そこで異変が起きれば静観を選ぶよね。 僕もまぁ、人里そのものにはそれほど愛着も執着も無いんだけど……知り合いはたくさんいるからなぁ。 だから一瞬わりと焦ったけど、こうして冷静に考えてみると――「でもこれ、ぶっちゃけそれほど焦る事でも無いっぽいよね?」「そうね。本気で緊急事態なら、あの隙間が放置するワケ無いし」 まぁ、完全放置したら大変な事になりそうだけど。 ……いや、そもそも放置していて大丈夫なのは妖怪達にとってだから、僕らにとっても大丈夫なのかは不明なんだけども。「とりあえず、人里に行ってみようか」「ま、妥当な所ね」 目の前に分かりやすいヒントがある以上、躊躇う理由はどこにも無い。 良し行くぞ! 無限の彼方的なサムシングへ――おや? なんか魔眼の有効範囲に反応が……これは、星さんと白蓮さんだね。どうしたんだろ、こんな森の中で。「アリス、ストップ」「ひゃん!?」「おお、なんか新鮮なはんの――ぷげらっ!?」「声をかければ止まるから、足首を掴むのは止めなさい!!」 いや、たまたまアリスさんの足が掴みやすい所にあったのでつい。 珍しく動揺を露わにしたアリスの強烈なキックが、僕の顔面に叩きこまれた。 うぐぅ、鼻先が超痛い。でも久しぶりにアリスの派手なリアクションが見れたのでちょっと満足。 そーかそーか、この手の弄り方には弱いのか。覚えておこう。「……言っておくけど、意図的に同じような真似したら足首ネジ切り取るわよ」「お茶目なジョークじゃ済まない?」「私のもお茶目なジョークだから一緒ね」 わぁ、とってもいい笑顔。アリスさんったら結構お怒りだったのですね。 まさしく花のようなスマイルを浮かべ、僕の鼻先を靴でグリグリする大親友。 知らない人が見れば、そういうプレイの最中だと思われても仕方がない光景である。 ……いや、さすがに見えないか。 宙に浮きながら相手の顔に足を押し付けるプレイって、色々と倒錯し過ぎて意味分かんないし。「こちらです、聖! 先程女人のうら若き悲鳴が――おおっと!?」「あ、星さん」「星? 寅丸星?」「こここっ、これは失礼しました! その、私は何も見てません!!」「待ちなさい。貴方の場合、あらぬ誤解を最悪の形で流布しそうだからどんな手を使ってでも止めるわよ」 「僕は……良いよ?」「上海」「オフザケハユルサナイッ」「すいません冗談でしたぁ!?」 だから足首は止めて! 本当にネジ切り取られそうで怖いから!! あ、そしてなんか星さんが途方に暮れておられる。こういうノリには乗りきれませんかそうですか。「どうしました、星? ――あら、久遠さんとマーガトロイドさん」「あ、聖!」「ウラー! ズドラーストヴィチェ、白蓮さん!!」「ずどら……?」「意味もなく煙に巻こうとしているだけだから無視して良いわよ。こんにちは、聖」「こんにちは。お二人は……何をなさっているのですか?」「友好を深めていました!!」「……もうそれで良いわ」 もー、アリスさんの照れ屋さん☆ まぁさすがに僕も、今のボケは火に油を注ぎかねないと思ったけど。 白蓮さんは察しの良い大人なので、悪い意味で取る事は無いと思った次第でございます。 後、なんかこうボケずには居られなかった。誤解を招くと分かっていてもボケないとダメだと思った。「貴方最近、行動が愉快犯じみてきたわよ。反省なさい」「う、うぃっす」「今後、やり過ぎと判断したら優しく全部受け止めるから。何しても笑って許すから」「すいませんっした! マジ勘弁してください!!」「えっと、あの……聖?」「ふふ、お二人はとても仲が良いのですね」 この状況下でその結論が出せる白蓮さんは大物だと思います、真面目に。 星さんなんて、僕らの会話についていけずずっとオロオロしてるのに。 ……この場合は、ついていけない方が正常なのだろうか。僕にはちょっと分かんないかな!「と言うか、アリスって白蓮さんや星さんと知り合いなの?」「私、貴方より頻繁に人里へ行ってるのよ? 当然面識くらいあるわよ」「アリスさんの人形劇はとても楽しいんです! 私、毎回楽しみに見させて頂いてます!!」「……あ、うん。ありがと」 あれ、アリスの人形劇って確か対象は子供達だったんじゃ。 ……つまり最近の劇では、子供達に混ざって最前列で体操座りしながら人形劇の始まりを待っている星さんの姿があるワケか。 うわぁ、どうしよう思った以上に違和感ないぞコレ。 ビジュアル的にはナズーリンの方が適してるんだけど――ダメだ、逆にこっちは違和感しか無いや。「しかし、お二人はこんな所で何を? その、やっぱり……」「いや、違います違います。ちょっと今起きてる異変を解決しようかと思いまして」「異変……ですか」 あ、しまった。 そういえば妖怪の皆様は、賭けで異変解決者の妨害をしていたんだっけ。 ……いや、待てよ? その事を知っていたら、そもそも僕らが何をしているのかなんて聞かないよね。 と言う事は、白蓮さん達は賭けの事を知らない? うーん、あり得るかも。命蓮寺の立ち位置を考えると、異変の内容に関わらず賭けには確実に反対するだろうし。 とりあえず情報を収集してみよう。もしも地雷を踏んだとしても、多分なんとかなるさ!!「と言うワケでお二人共、何か神霊に関係した話とか知りませんかね?」「神霊、ですか? えっと」「――誠に残念ですが、それを教える事は出来ません」「ふむ……教えられないって事は、何か知ってるって事なんですね」「それも答えられません。全ては――私を倒す事が出来れば教えましょう」「えっ、ひ、聖!?」 ……おーっと、こぁーきたかぁー。 剣呑な空気を放ちつつ、静かに拳を構える白蓮さん。 どうやら僕は、思った以上に深刻な地雷を踏みつけてしまったようだ。 しかし、なんで星さんが一番びっくりしているんだろうか。 それだけ白蓮さんの行動が想定外だったのか、単に何も知らないだけなのか……彼女の場合、後者の可能性が普通にあり得るから困る。 まぁどちらにせよ、星さんを説得して戦いを回避――ってのは無理そうだなぁ。「厄介な当たりクジを見事に引いたって感じね。で、どうするの?」「まぁ、スルーする理由は無いね。やりましょうか」 戦う事に異論は無い、いつもの事だ。ただ問題なのは……白蓮さんが完全に本気モード入っているって事だろう。 毎度おなじみのハンデは望めそうに無いから、二対一で戦わないと正直キツいんだけど……。 星さん、黙って見ててくれるかなぁ? 状況が読めなくても、白蓮さんが多対一でピンチになったら普通に参加してきそうな気がする。 そうなるとアリスはともかく、僕はわりかしお手上げなんだけども。 んー……じゃあ‘使おう’かな。白蓮さんなら、最終テストの相手としては申し分無いよね。「ねぇ、アリス」「――良いわよ、任せた」「信頼の証だとしても、問答無しなのはちょっと悲しいです」 でもニッコリ笑いながら肩を叩かれると、それで頑張ろうと思ってしまう単純な僕。 とりあえず数歩前に出た僕は己を鼓舞する為、白蓮さんに対し右人差し指を突きつけながら高らかに宣言した。「それじゃ白蓮さん、貴女に――‘最強の久遠晶’をお見せしますよ!」 試運転は好調、もしもの時の対策もバッチリ、後は仕上げを御覧じろ、だ!!「行くよ―――――『不変(かわらず)』」