「しかしアレですね。いざやりあうとなると……」「存外、どう始めたものかと悩みますね」「お互いに格好良い事言いながら始めるとかどうでしょう」「ソレ採用で。――では私から」「おおぅ、積極的ですねぇ。どうぞどうぞ」「貴女の心を丸裸♪ 皆のトラウマ、作って曝して覗きます☆ 愛され系覚妖怪さとりんですっ!」「……カッコイイ?」「イケメンだったでしょう?」「反応に困りました。せめて無表情は止めてくださいよ」「全力の笑顔ですよ」「マジですか」「嘘です」「もー、おっちゃめさん☆」「てへへ、ごめーんね☆」「真面目に戦えやお前らぁぁぁぁ!?」「魔理沙さん、対戦相手に集中しないのは失礼ですよ」「やれやれ、お空も随分と侮られたものです」「お前らが漫才始めるから始めそこねたんだよ!!」「言い訳は見苦しいですよー」「ですね」「お前らワザとやってるだろう……」幻想郷覚書 神霊の章・伍「雄終完日/Free your heat」「あ、そうです。戦いが始まっていないのなら、ちょっと魔法使いさんを煽らせていただきますね」「もう少しオブラートに包めよ!!」 戦う気があるのか無いのか、マイペースなさとりが堂々とロクでも無い事を言い出した。 いや、別に煽られるくらいなら気にしやしないけどさ。 ……それはせめて、これから戦う相手にやれよ。 なんで私を煽るんだ。そんなに私を玩具にしたいのかよ、この覚妖怪は。「お空があっきーに負けた時の話なんですがね? その時のあっきーは黒衣を纏っていたのです」「……黒衣?」「ええ。黒いマントに黒い帽子、そして緑の髪に翼――靈異面と言うのですか? 強かったみたいですよ」「うにゅ! おにねーさんはつよいよ!!」 鬼ねーさんって晶の事か? 随分な名前で呼ばれてるんだな、アイツ。 そして靈異面――か。またその名前を聞く事になるとは思わなかったぜ。 ああ全く、とんでもない煽り文句を聞かされたもんだ。 ソイツの名前を聞かされちまったら、全力でやるしか無いじゃないか。 ――私は何があろうとも、あのヤロウの後塵を拝するワケには行かないんだからな。「一応聞いとくが、今の挑発にはどんな意味があったんだ? 私はハナから全力でやるつもりだったぜ?」「けど、後先は考えていたでしょう? 妨害役の私としては「コイツを潰す為に全てを投げ捨てる!」くらい本気になってほしかったので」「テメェ……」「やる気出たでしょう?」「悔しい程にな。――だけど覚悟しろよ? 今の私は、お前のペットを再起不能になるくらいボッコボコにしてやるつもりだぜ?」「出来るものなら是非どうぞ」 最後の最後までキッチリ煽りきり、文へと向き直る覚妖怪。 ……とりあえず、地獄烏叩き潰したら次はアイツだな。「それじゃ改めて――覚悟しろよ。お前の太陽は、星の魔法で消し飛ばすからな!」「ふふーん。お星様の小さな明かりじゃ、私の太陽には勝てないよ!!」「抜かせ。私の星は、太陽よりも眩しいぜ!」 大地を蹴り、空中へと飛翔する。 目標は、呑気に浮かんでいる地獄烏。 アイツが何を考えているのかは知らないが、こっちのやる事は決まっている。 まずは一発、とびきり痛いのをお見舞いしてやるぜ!「うにゅ! 行くよ!!」 地獄烏の右腕、御神籤箱みたいな棒の先端がこちらへと向けられる。 収束していく輝き。次の瞬間、私目掛けて閃光の奔流が放たれた。「性格通り一直線過ぎる攻撃だな! そんな単調さじゃ、当たるどころか掠りもしないぜ!!」「当たらないなら、その分いっぱい撃つよ!」「下手な鉄砲は、どんだけ撃っても当たらないぜ?」 さすがのパワーで光弾を連射する地獄烏。 見事なものだが、そのくらいでどうにかなる私じゃないぜ。 あえて掠めるように光弾を避け、私は最大速度で地獄烏へと近づいて行く。 驚いたか? 霊夢ほど意味不明な回避能力は持っていないが、これくらいの弾幕に当たってやるほどトロくも無いんだよ!! それじゃあ宣言通り、キツい一発を受けてもらうぜ!「まずはご挨拶だ、オラよ!!」「にゅぐっ!?」 私の放った弾丸は、真っ直ぐ地獄烏へと直撃した。 衝撃を受けてたじろぐ地獄烏。私はその横をすり抜けて、更なる追撃を放ってやる。「おにゃ!?」「まずは様子見……のつもりではあったけど、ダメージはほぼ無しか」「うにゅぅ~、チカチカするよぅ~」 いい感じに命中したんだがな。これくらいじゃビクともしないのはさすがと言うべきか? チクチク相手を削っていくのは私の主義じゃないし、こっちも下手な鉄砲撃ちまくるのは避けるべきだな。 今の一連の流れからして、相手は回避をあまり重要視していないようだし。 典型的な重戦車タイプってヤツか? さてはて、何発ブチ込めばお前は参るんだろうな。「でも、おにねーさまの攻撃よりは大した事無いね」「……おいおい、お前さんまで挑発かい?」「私は本当の事言っただけだよ? あっちは当たると痛そうだから、必死に避ける気になったもん」「言ってくれるじゃねーか」 前に戦った時の攻撃は言うほど辛くも無かったが……やっぱアレは舐められていたってワケか。腹立つな。 言っとくけど、こっちも今のは本気じゃ無かったからな!! とほざくのは負け惜しみ臭いので心の中に留めておく。 「それじゃ、今度はスペルカードをおみまいさせてもらうぜ!!」「させないよ!!」 ―――――――魔符「スターダストレヴァリエ」 ―――――――制御「セルフトカマク」 同時に発動するスペルカード。 互いに閃光を身体へと纏わりつかせた私達は、そのまま真っ直ぐ相手へと突撃する。 避けるつもりは欠片も無いってか。はん、案外気が合うじゃないか!!「押し切るっ!!」「うっにゅぅぅぅぅぅううう!!」「――どっりゃぁあっ!!!」 一度かち合えば、後はもう純粋な力比べだ。 お互い小細工を弄するつもりが無い以上、この勝負に負けるのは先に根負けした方だ。 私は魔力を更に込めながら、地獄烏を押し出すように前へと進んでいく。 もっともソレは相手も同様だがな。後先なんて一切考えてないほどの出力で、ガンガンに力を強化してやがる。 ……地獄烏だけあって、そもそも地力の桁が違うワケか。分かっていたけどキツいな。 それでも、負けてやるつもりは欠片も無いぜ?「見てくださいよさとりさん、あの頭悪いぶつかり合い」「力こそパワー! って感じですね。動物の縄張り争いでしょうか?」「それは動物に失礼ですよ。彼らだってもう少し頭を使います」「ははは、ですねー」「うるせぇ! お前らは大人しくドつきあってろよっ!!」「うにゅ、隙あり!!」「しまっ!?」 迂闊だったぜ、こんな阿呆な事で集中を乱しちまうとは。 こちらの集中が切れた隙を付き、地獄烏が一気に前進し私の体勢を崩そうと試みる。 くそっ、この状況じゃ抵抗は出来そうに無いか。 仕方ないので私は箒の向きを変え、相手の勢いに乗る形で攻撃を回避した。 ……余計な事しやがって。アイツらが馬鹿な事を言わなけりゃ、絶対私が勝ってたのに!! と言うかお前も気にしろよ単純頭! あいつら、お前の事も軽く煽ってたんだぞ!?「そこでブレちゃうからダメなんですって。何を言われようと貫くくらいの気概は見せてくださいよ」「お前に言われたくはねぇよ! 本気でどっちの味方だテメェ!!」「魔理沙さんの味方ですから安心してください。今のは単に、わりと率直な感想を口にしただけです」「よりタチ悪いわ! 私の為を思うならとにかく黙ってろ!!」「やれやれ、本当に情けないですね。晶さんなら周りから何を言われようが平然と己を貫き通しますよ!!」「まぁ、文句も言いますし動揺もするでしょうけどね。本当にそれでもやる事だけはブレない所が彼の厄介な点です」「そして霊夢さんなら!」「……あの人、そもそも他人の言葉を言葉として認識しているんですかね」「……ちょっと自信ないです」 まぁ、霊夢はな。アイツはマジで何考えているか分からないからなぁ。 覚妖怪なら分かりそうな気もするんだが……あ、首を横に振られた。さとりでも分かんないのか、アイツの考えは。 ……ところで、さっきから地獄烏がやたら静かなんだが。 気のせいでなければ、ちょっと震えてないか? もっと切り込んで言うと怯えてないか?「う、うにゅ。巫女、居るの? どこに居るの?」「居ないから安心しろ。……とにかく、とっとと勝負の続きをするぞ」「う、うん!」 どうやら霊夢の影に怯えていたようだ。どれだけのトラウマ叩き込んだんだアイツは。 いっそこのまま戦闘不能になるまで追い込んでやろうか、一瞬思いついたその考えは速やかに破棄。 速やかに地獄烏を立ち直らさせた私は、ゆっくり距離を取り霊烏路空と再度対峙をし直した。 ……さて、これで仕切り直しとなったワケだが。 天狗と覚妖怪の話を聞いていると、真っ当に戦えない事が良く分かったからな。 うん、小癪だが晶の対応とやらを参考にさせて貰おう。今後はアイツらの言葉は片っ端から無視してやる。「それじゃ、今度は私から行くよ!!」 ―――――――爆符「メガフレア」 再び右腕を構える地獄烏。その先端に、小型の太陽とも言うような炎の塊が生まれる。 威力はありそうだが、その分だけ回避は簡単そうだ。 だから私は――あえてそれを真正面から受けて立つ事にした。「いいぜ、全力でかかってきな!!」 ―――――――恋符「マスタースパーク」 八卦炉を構え、溜めた魔力を一気に開放する。 七色の閃光は真っ直ぐ突き進むと、同時に放たれた地獄烏の太陽と衝突した。「うにゅっ!?」「くぅっ」 拮抗する力と力、スペルカードのパワーはほぼ互角のようだ。 再び始まる力比べ。私は大きく息を吸い込むと、マスタースパークに更なる力を注ぎ込む。 ――っし、今度こそ勝つ! 「むむむむむぅ……おーじょーぎわがわ~る~い~」「ナメんな! お前こそ、とっとと参ったしても良いんだぜ?」「へっへーん! 私はまだまだ余裕があるんだよー。うっにゅぅぅぅううううっ!!」「――なっ」 微笑んだ地獄烏が力を込めると、太陽の大きさが一気に増した。 くそっ、マジか!? 今のでいきなり二回りくらい大きくなったぞ!? 参ったな。地力が違うのは分かっていたが、まさかここまで差があるとは思わなかったぜ。 何とか抵抗は出来ているが、このままだと確実に押し負けるっ。「あー、アレはヤバいですねー。完全にパワー負けしちゃってます」「ま、ただの人間と八咫の力を得た地獄烏ですからね。普通はこうなりますよ」「こういう場合、賢い人は真正面からぶつかり合うのを避けるワケですが……魔理沙さんですからねぇ」 やれやれと言った具合に肩を竦め、呆れた風に私を見つめる烏天狗。 だからお前はどっちの……と怒鳴りかけた所で、文の表情が僅かに変わった。 あくまでも小馬鹿にする様に笑いながら、しかし彼女は挑発的な目でじっと私の姿を眺めている。 ……はん、どうせお前は真正面からやるんだろうって顔してやがる。 その通りだよ! 相手が何であろうと、それでやり方を変えるほど可愛い性格はして無いぜ!!「上等だ。お望み通り、私らしい戦いっぷりを見せつけてやるぜ!!」「にゅ――うにゅぅ!?」 ありったけの力を込めて、一気に中間点まで弾幕を押し戻す。 このまま拮抗状態を維持して、力比べを続けても構わないんだが……さすがにそれじゃ勝ち目が無いからな。 故に、全力で押し込んで相手が対抗しようとする前に決着をつける!「せぇのぉぉおおおおおっ!!」 それまでのマスタースパークを、更にぶ厚くなった七色の閃光が上書きしていく。 その勢いに押された地獄烏の太陽は、本人まで遡るとマスタースパークと合わせて直撃し――派手に爆発した。「っしゃあ! どうだ!!」「おー、派手にやりましたねー」「貴女に煽られて相当やる気出しましたからね。……狙い通りですか?」「心読めているなら、聞かなくても分かると思いますが?」「いえ、存外手助けした事を恥ずかしがっているようなので。あえて口に出させる事で更なる恥をかかせようかと」「うふふ、さとりさんのドS☆」「えへへっ☆」 ……色々と台無しな会話だな。 さっきの挑発はそこそこ感謝していたんだが、素直に礼が言いづらくなったぜ。 と言うか、お前らはいつになったら戦い始めるんだよ。 ずっと世間話ばっかりしてるし。やる気あるのか? 私も気にしないって決めてたのに、結局アイツら構いまくってるから人の事は言えないけどな……。「しかしアレですね。――魔理沙さん、後先考えずに力使い過ぎでしょう」「ですよねー。ま、私としてはそれもそれでオイシイので全然アリなのですが」「だからお前は本当に私の味方なのかよ!!」「味方ですよー。ほら、後ろ危ないです」「うおっと!?」「うにゅぅう……痛かったぁ……」 爆発の中から出てきた地獄烏が、涙目になりながらこちらを睨みつけている。 不意打ちが出来る程度には元気だが、受けたダメージはそれなりって所か。……次あたりで決着がつきそうだな。「随分と辛そうだな。とっとと私の一撃で、おねんねした方が楽なんじゃないか?」「煽りますね~。ぶっちゃけ余力的な意味で言うと、魔理沙さんだっていっぱいいっぱいですけどね!」 「お前ほんと黙ってろよ!!」 やっぱコイツ敵だよな! 敵だって事で倒した方が良いよな!!