「はい、到着っと」「よっこいしょ。……隙間で移動するのって、こんな感じなんだねー」「気持ち悪いわよね」「えっとその……あははは」「ほんと、性格変わったわねアンタ。事実なんだから気にせず言っちゃえば良いのに」「霊夢は気にしなさ過ぎだと思う……と言うか、これからどうするの?」「そうねぇ。ここは冥界みたいだから、とりあえず白玉楼に行きましょうか」「白玉楼――幽々子さんお姉さんに会いに行くんだね」「そうよ。……アンタ、幽々子と面識あったんだ」「うん、お兄ちゃんと一緒に白玉楼へ行った事があるんだ」「ふーん、晶とねぇ」「幽々子お姉さんに、えっと神霊? だったっけ、の話を聞かせてもらうの?」「いえ、違うわ。とりあえず異変の元凶としてぶっ叩いておこうかと」「え、なんで!? 幽々子お姉さん何かしたの?」「なんか怪しいじゃない」「それだけ!?」「念には念を入れるべきでしょ」「だからって問答無用が過ぎるような……」「それに、神霊の話も聞けるかもしれないじゃない。一石二鳥ってヤツよ」「違うと思う。その使い方は絶対に違うと思う」「どっちにしろアイツも『賭け』に参加しているわよ。戦うのは既定路線だから、とっとと覚悟を決めておきなさい」「良くないと思うんだけどなぁ、そういうの……」幻想郷覚書 神霊の章・肆「雄終完日/Full throttle」「よっし、到着!」「捻りの無い一言ですねぇ。絶対誰かと被ってますよ、ソレ」「変なダメ出しすんなよ、こんな所で独自色出す奴なんて早々いないだろうが」「晶さんなら、もっと特徴的な着地をしますよ!」「……物凄い納得できるけど、アイツと同じ事を期待されるのは困るぞ」 あれは完全に芸人の立ち振舞いだろ、真似した瞬間イロモノ枠確定じゃないか。 私は溜息を吐き出しつつ、苦々しげな視線を文へと送ってやる。 ……まぁ、アイツはそんなもの素知らぬ顔で受け流してやがるけどな。 「さて、それはともかく。まずはここがどこだかをはっきりさせないといけませんね」「ま、当然の流れだな。……もっとも、簡単過ぎてクイズにもならないようだが」 洞窟と呼ぶにはあまりにも広大過ぎる空間、旧地獄のどっかに飛ばされた事は間違いないだろう。 問題は、旧地獄のどこらへんかって事なんだが……地霊殿の近くか? 分かりやすい目印が無いから判断に困るな。「あやや……困ったものですね、旧地獄とは」「あー、そういや旧地獄って妖怪の出入り禁止にしてたんだっけか? 大丈夫なのか?」「今はどちらかと言うと、消極的な立ち入り制限をかけてる感じですけどね。……まぁ、スキマが絡んでいるのですから問題ないでしょう」「確かに、アイツがそんな片手落ちな真似するワケが無いか。――あ? じゃあ何が困ったんだよ」「いえ、旧地獄には会いたくない妖怪がおりまして。ぶっちゃけると元上司なのですが」「天狗の元上司って言うと……」「あ、そこは明言しないで貰えますか。あの人らって存外地獄耳なので」「旧地獄なだけにか」「…………はは」「愛想笑いするくらいなら無視しろよっ!!」 こっちだって別に、本気でウケると思って言ってねーからな! あーもう、かかんでも良い恥をかいてしまったぜ。 ある意味自爆なのでソレ以上文句を言う事も出来なかった私は、文から逃れるようにソッポを向いた。 「しかしアレですね。――ぶっちゃけ大ハズレ引きましたよね、私達」「だなぁ。どう考えても神霊とは関係ないよな、旧地獄」 旧地獄に居るのは主に怨霊で、大凡神霊に関係したモノも見当たらない。 おまけにここは地霊殿――つまり旧地獄の底だ。地上に出るだけでも一苦労するのは目に見えている。「やれやれだ、とっとと移動した方が良いかもしれないな」「ですね。ただでさえ面倒な旧地獄で、しかも今は誰もが敵となる可能性がある状況です。長居は無用で――」「そうはいきません」「なっ――!?」 私達の言葉を遮って颯爽と現れたのは、地霊殿の主こと古明地さとりだった。 妙に身体が傾いている決めポーズは悪くないんだが、本人の鉄面皮っぷりが全てを台無しにしている。 やる気があるのか無いのか良く分からないな。敵なのは確実っぽいが。「失礼ですね、人を問答無用で敵扱いするなんて。育ちが知れますよ?」「はんっ。悪かったな、育ちが悪くてよ!」「まぁ、実際に敵なんですけどね」「結局敵なのかよ! なんで今ワンクッション挟んだ!?」「ノリです」 分かってたけどムカつく! 絶対コイツ、こっちの反応分かった上でボケただろ。 以前に旧地獄へお邪魔した時もそうだったが、心を読まれると言うのは本当にやり辛いぜ。「えーっと、確か覚妖怪さんでしたっけ?」「はい、あっきーの大親友こと古明地さとりです。しくよろ」「あ、そうなんですか。よろしくお願いしますね」「……そういうとこ、あっきーにそっくりですね。強かな人は嫌いじゃないですよ」「ん、何の話だ?」「こちらの烏天狗さんが私の能力の適用範囲を探るため色々不遜な事を考えていた、と言う話です」「……何やってんだお前」「敵を知り己を知らば――ってヤツですよ」「八割方あっきー関連の恨み事でしたけどね」「本当に何やってんだお前」「てへぺろ☆」 敵も味方も腹立つヤツばかりか!! もう会話するだけで頭が痛くなってくるんだが、帰っていいか?「ダメですよ。その為に私が立ち塞がっているのですから」「わざわざ外で待ち伏せしてまでか? 随分とこの異変に入れ込んでいるんだな」「いえ、ここに居るのは偶々散歩していたからですが」「偶然なのかよ!!」「当然でしょう。来るかも分からない敵を待って外で立ち続けるとか、私どれだけ暇なんですか」「魔理沙さぁーん、少しは考えましょうよぉー」「お前はどっちの味方なんだよ!!」 ヘタすると、さとりよりお前の方が腹立つぞ!? ……相方を退治したら、反則負けとかになったりするのだろうか。 特に問題ないんだったら、今ここでさとり倒すついでに倒しておきたいぜ。「すでにチームワークはボロボロのようですが、大丈夫ですか?」「問題ないぜ。――元々無いからな」「まぁ、即興コンビですからね。むしろあったらビックリです」「そうでしたか。では、二人の仲に亀裂を入れて仲違いさせよう大作戦は失敗ですね」「……絶対ウソだと思うけど、マジか?」「もちろん嘘です」「せっかくの鉄面皮なんですから、堂々と嘘を貫けば動揺もさせられるでしょうに」「本気のアドバイスをするなよ!! 敵だぞ!!!」「いえ、どっちにしろこちらの考えは読まれてしまいますので。だったら口に出しても良いかなぁと」「良くねーよ!! 単に思うだけなのと明確に味方するのとじゃ、猫とライオンくらいちげーよ!」 くそっ、コイツら完全に私で遊んでやがる。 もういっそ、有無を言わさず全員ぶっ飛ばしてやろうか。……一発だけなら誤射もありだろうしな。「では、さくっと切り替え本題に入りましょうか」「……ちっ」 分かってやがるなコイツ。心を読んでるだけあって、こっちの敵意を敏感に嗅ぎとってやがる。 イライラが治まったりはしないが、こうも綺麗に話題を切り替えられると次の言葉を出せなくなるぜ。 内容的にも、こっちが望んでいた方向だしな。 ――問題は何を言い出してくるか、か。間違いなく真っ当な内容じゃ無さそうだよなぁ。「とりあえずアレです、面白い一発ネタを言った方が勝ちとかでどうでしょうか」「悪く無いですね! アリです!!」「ねぇよ!!!」 どう考えてもソレ、私が犠牲になる展開しか思い浮かばねーよ! どうせアレだろ!? なんやかんやと私に一番手を任せて、面白おかしく笑った挙句無かった事にするんだろ!? 分かってるよ! だから親指立てんな覚妖怪!! お前は心読めない癖にその通りだと言わんばかりに笑うなよ烏天狗!?「そもそも、なんで戦う流れが出来上がってるんだ。こっちにはお前とやりあう理由が無いぞ」「なるほど一理あります。――ではそうですね、私に勝ったら神霊の面白い情報を差し上げましょう」「……それはちょっと私も興味ありますね。地底に篭りっぱなしの覚妖怪が、何を知っていると言うのですか?」「腐っても覚妖怪、色々と情報を手に入れる方法はあると言う事ですよ」 不敵に笑う古明地さとり。まったく、これだから強豪妖怪と言うのは厄介だ。 だがまぁ、手っ取り早いのは大歓迎だぜ。 私は懐から取り出した八卦炉を軽く放り投げながら、さとりに向かってニヤリと笑いかけてやった。 相変わらず読めない表情のさとりだが、戦意が高まっている事だけは理解出来る。 良いじゃないか、そうこなくっちゃ面白く無いぜ。「それじゃ、お望み通り勝負と行こうじゃないか。二対一だけど……卑怯だなんて言うなよ?」「言いませんよ。――二対二ですからね」「うにゅ!」 さとりの言葉に合わせてこちらへと向けられた殺気を感じ取った私と文は、大きく跳んでその場から離れた。 数秒後、その場に叩き込まれる弾幕。 すぐさま反転し、八卦炉を構えた私の前に現れたのは――太陽の力を得た地獄の烏だった。「さとり様をいじめるのは許さないよ!」「へぇ、お前さんが噂の霊烏路空か。前に地獄へ遊びに来た時にゃいなかったが……」「丁度その頃、霊夢さんにギッタンギッタンにされて引き篭もっていましたので」「あ……そう」 いや、聞いたのは私だけどな。そういうのは言わなくて良いと思うぞ? もっとも霊烏路の奴は気にしていないようで、私達の会話を聞いても平気そうに佇んでいる。 と言うか、そもそも会話を理解している様子がない。 ひょっとしてコイツ……アレなのか?「有り体に言ってお馬鹿ですね」「だから言うなよ! それなりに気を使ったんだぞ!?」「バカな子ほど可愛い」「しらねーよ!」「分かります!!」「分かんな!」「えへへー、私可愛いんだー」「……良かったな」 怒涛のごとくボケ倒す三人を見て、細かなツッコミは疲れるだけだとようやく学習する私。 とにかく、頭を弾幕ごっこモードに切り替えないとマズいな。……それにしても。「しかし散歩ってわりには随分と物騒じゃないか、地霊殿最強の地獄烏をご同伴だなんて――謀ったか?」「ふっふっふ。……お空の散歩なので、お空が居るのは当然ですよ?」「そうだよ!」「やっぱり偶然なのかよ!!」 分かってたけど、もうちょい暗躍しろよ覚妖怪! なんか、こうして張り切っている私が一番バカみたいじゃないか。 ――止めよう、深く考えると戦う前から負けた気になる。「まぁ、私も気兼ねなく戦える方が良いからな。お望み通り二対二――いや、タイマンで決着をつけようぜ」「魔理沙さん!!」「……今度はなんだよ」「私は覚妖怪と地獄烏、どっちと戦うのがキャラ的にオイシイでしょうか!」「しらねーよ!!! どっちでも良いよ!」「姉的に考えると、自称親友の数は隙在らば間引いておいた方が良いと思うのですが」「私は一人っ子だが、それが姉的な考えで無い事は分かる」「でも最近の晶さんはお姉ちゃんにちょっと厳しいので、ここはいっちょマトモな相手に勝利して褒めてもらおうかとも思うのです!」「そう考えてる時点でダメだと思うぞ。……お前、そのうち晶に見捨てられるんじゃないか」「はっ! 魔理沙さんは晶さんを甘く見過ぎですよ!! 晶さんなら、私が全力で背中をぶっ刺しても笑顔で許してくれます!」「許すどころかまず裏切りと認識しませんよね。十中八九、何かの気紛れによる行動と判断するはずです」「分かってますね、覚妖怪」「親友ですから」「いや、それでも許さないだろ普通は。聞いてるだけで頭痛くなってくるんだが……」 懐が広いって言うか、それもう超弩級の馬鹿じゃねーか。 好意的に考えれば、器が大きいと言えなくも――いや、やっぱ無理だな。「……まぁ、別にどうでも良いけどさ。それなら相手は霊烏路で良いんじゃねーか?」「いや、でも……」「何が不満なんだよ。単純火力だけなら覚妖怪より上の、立派な強豪妖怪だぞ?」「いえ、実力が不満なワケでは無いんです。――ただなんか、アレと地上地下最強烏決定戦するのはなんかなぁと」 ……あー、なるほどね。 言い分としてはかなり酷いが、言わんとせん事は分かる。 烏妖怪の頂上決戦をするって言うなら、もうちょっとカリスマのあるヤツとやりあいたいワケだ。 まぁ、文もカリスマあるかと問われると困るんだが。 そもそも勝手に地上地下最強烏決定戦とかやって良いのかよ、妖怪の山には天魔が居るんだろうに。「と言うワケで、私はさとりさんを相手にしますね。不本意ですけど。――不本意ですけど!!」「……本当に不本意なのか?」 なんか、色々理屈こねてさとりと戦いたかっただけって気がするんだが。 さとりなら真実を知っているだろうが、聞いても間違いなくからかわれるだけだろうしなぁ。 ――まぁ、良いか。 相手は地獄烏、不足は無しだ。……それにアイツに対しての因縁はこっちの方にもあるからな。「じゃあ霊烏路。どっちの火力が上か、閻魔じゃないが白黒ハッキリさせようじゃないか」「うにゅ! 負けないよ!!」 私は箒に跨がり、ゆっくりと浮き上がりながら魔力を高めていった。 霊夢も、そしてアイツもコイツには勝っている。ならば――私が負けるわけにはいかないな!「さぁ、行くぜ――」「火力も速さも誰よりも上を目指すって、魔理沙さんは欲張りさんですねぇ」「茶化すな!!」 お前は、だからどっちの味方なんだよ!!