「うん、異常なし。ゴリアテの修理はこれで完了ね」『わ~~い~』「はー、うるさくて昼寝も出来やしないよ。それで? 晶のヤツ今度はどんな馬鹿やったのさ」「……こっちの状況をロクに確かめず晶が来たと断定したわね。後、ひとんちで勝手に昼寝するな馬鹿兎」「まぁ、アリスちんが直感で動くケースって十中八九アイツ絡みの事だし」「そんな事無いわよ。それとアリスちん言うな」「えーっ? でもアリス、晶以外の人にこんな事しないよね?」「確かに今の所、アレと同じレベルで扱える人材に会えた事は無いけど……それだけの話じゃない」「良ーく見なメディちん。アレが、己を冷静に見られない都会派魔法使い(失笑)の姿だよ」「アリス、そろそろ素直に認めた方が良いと思うよ?」「何でそこまで言われなきゃいけないのよ!」「ぶっちゃけさ、晶に対するアリスの先読みっぷりはもう新手の能力と言っても過言では無いと思う」「……そ、そんな事無いわよ」「メディちん、何か一言」「アリス往生際悪い」「はぁ、分かったわよ――とりあえず後で晶のヤツ殴るわね」「てゐちゃんは今、酷い八つ当たりを見た」「アリス……最近芸風変わったね」「芸風言うな!!」幻想郷覚書 異聞の章・伍拾肆「妖集悲惨/因果応報のビッグ・ファイト」「いっくわよー!!」 ―――――――氷符「フェアリースピン」 容赦なくスペルカードを発動する親分。しかもチョイスしたのは、今一番使われたくなかった広範囲ばら撒き型の弾幕だ。 当然、親分の弾幕はフランちゃんの弾幕と交差しより複雑な流れを生み出す。 ハッキリ言って天狗面でもキツいです。つまり、天狗面以下の能力な人はどうなるかと言うと……。「し、しぬっ。しんで、しまうっ」 もう本当にどうしようも無いワケですね、分かります。 うん、サニーちゃん頑張ってるよ? スペカの補助がある事を差し引いても、並の妖精だったらもうとっくに死んでると思う。 だけど残念ながら、その抵抗はあくまで一時的な話に過ぎないんだよなぁ。 サニーちゃんと親分の地力が違いすぎる現状、彼女が自分の力でこの状況を盛り返せる可能性は完全なゼロである。 ……つまり、僕が何とかするしか無いと言うワケです。もちろんスペカ無しで。うう、分かってたけど辛いっす。「サニーサーン。とりあえずこの状況はワタシが何とかしますンで、もう少しだけ頑張ってくだサーイ!」「あ、あんまし待てないかも!!」「分かってマスって。――なのデまずハ!」 僕は氷扇に風を溜めて、巨大な風弾を形成する。 それを懐に抱えると、最大速度でフランちゃんに向けて突っ込んで行った。 「そのスペカ、破らせていただきマスよ!!」「シネェェェエエエエ!!」 いや死ねて。なんで殺意増してるのですか、フランちゃん。 ソレ、テンションが上がりすぎてつい口走っただけなんだよね? 本音じゃないですよね? 更に弾幕の勢いを強めたフランちゃんに若干引きつつも、僕は直進してくる巨大な光弾に向かって真正面から接近していく。 弾幕を乱す光弾は厄介だけど、規則性を乱すからこそこちらに付け入る隙が見つかるワケだ。 だから僕は直撃間近まで光弾に接近すると、懐の風弾を解き放――たなかった。 風弾で迎撃すると見せかけスレスレで体を捻り光弾を避けた僕は、その横っ腹に対して全力の蹴りを叩き込む。 すると右足の焼ける音と共に、光弾が軌道をズラして明後日の方向へと飛んで行った。うん、超痛い。と言うか超熱い。「でもコレで、隙が出来まシタよ!」「――――!?」「肉を切らセテ骨を断ツ! いっただきデスっ!!」 弾幕を散らす光弾がその軌道上からどいてしまえば、後に残るのはフランちゃんへの直通通路だけだ。 思わぬこちらの行動に反応が遅れたフランちゃんに向け、僕はあらん限りの力を込めた風弾をお見舞いする。 抵抗できず吹き飛ばされるフランちゃん。そんな彼女に一瞬で‘追いついた’僕は、更に風弾を放って彼女を地面へと叩きつける。 うん、スペルブレイク確認っと。本人のダメージは無いだろうけど、倒す事は目的じゃないから問題ない。 僕は即座に方向転換し、今度は親分へ向けて風弾を解き放った。「さぁ、親分サン! お覚悟くだサイ!!」「アンタ誰よ!」「……今更っすカ。晶クンですよ、晶クン!」「へー、そうなんだ」「…………やりにくいですネェ」 ひょいひょいと風弾を避けながら、どうでも良い所にツッコミを入れる親分。 そういえば、親分の前で面変化するのってコレが初めてだったっけ。 親分が僕の噂を聞いているとは思えないし、ある意味コレは納得のリアクションなのかもしれない。 ……だからって、弾幕ごっこの最中にボケられると大変困るのですがね。「ふふん! だけどあまいわよ、あきら!! そのていどじゃあたいはやられないわ!」「そりゃそうデショウ。こっちも、倒すつもりで攻撃しているワケでは無いノデ」「つまり……どういう事よ!」「こーいう事よ!!」 ―――――――日符「ダイレクトサンライト」 こちらの攻撃で出来た隙を突き、サニーちゃんがスペルカードを発動させる。 後方から前方へ向けて‘落ちていく’弾幕の川は、親分の弾幕とぶつかり洗い流していく。 ……親分の弾幕は僕の風弾で掻き回されて弱まったはずなのに、それでも尚サニーちゃんの弾幕と互角なのか。 相殺は出来ているみたいだけど、この地力の差は如何ともし難いなぁ。 とりあえず、もう数発風弾を叩き込んでフォローを……。「――捕まえたっ」「はい?」 氷扇を構えた所で、ガッチリと右肩と左腕を掴まれた感触。 振り返ってみるとそこには、朗らかな笑みを浮かべたフランちゃんの姿があった。 先程までの狂気が綺麗に消え失せている彼女は、吸血鬼の腕力をフルに使って僕にしがみついている。 背後を取られた上にこの状況では、無理やり引き剥がす事は難しいだろう。 ……フランちゃんの接近を察知出来なかったのは、彼女がこちらの魔眼の射程外から一気に接近してきたからだ。 つまり、そういう判断ができるくらい冷静になっていると言う事である。これはマズい。 そんなこっちの焦りを理解しているのか、満面の笑みを浮かべたフランちゃんは両手に力を込め――地面へ向かって真っ逆さまに落下した。「へぶぅっ!?」 大地に激突する僕とフランちゃん。最大加速で突っ込んだため、ダメージは僕だけで無く彼女にも及んでいる。 それでも、フランちゃんは不敵に笑ったまま僕の身体を掴んで離そうとしない。ヤバい。「ふふふ。もう逃さないよ、お兄ちゃん」「……フランチャン、ひょっとしてまだ狂気モードデスか? ワタシを殺しテ自分も死ぬんデスか?」「大丈夫、私は落ち着いているよ。――ただこれくらいしないとお兄ちゃんは倒せない、そう思っているだけ」 あ、コレほんとにマズい。考えうる限り最悪のパターンだ。 トチ狂って突貫してきたワケじゃ無い、策があるからこその無鉄砲だ。 しかも現状、地面に身体が食い込んでいる上に背中を押さえつけられているから逃げられないし。 ……一瞬だけでもフランちゃんの力が弱まってくれれば、全速力で離脱出来るんだけどなぁ。「もちろん力を弱めたりはしないよ。ちょっとの隙があれば、お兄ちゃんは何とかしちゃうからね」「さらっと心を読んできますネ。……しかし、それではフランチャンも何も出来ないのデハ?」 この状況下で出来る事と言えば、密着状態からのキックくらいだろう。 吸血鬼の脚力で放たれれば確かに脅威かもしれないが、だからと言ってピンチになる程厳しいモノでもない。 むしろダメージを与える為に大振りな動きをして貰えるなら、そこに抜け出すチャンスが出来ると言うモノだ。 当然、フランちゃんだってその事には気づいているはずである。 だとすると、何かしらこの状況で致命打を与えられる一手を持っているのだろうけど……なんだろう。 凄く嫌な予感がする。そして、危機感知センサーも超鳴っている気がする。ヤバい。「そうでも無いよ? ‘全部’纏めて吹っ飛ばしちゃえば、確実にお兄ちゃんにダメージを与えられるもん」「……デモ、それってフランチャンも吹っ飛びますヨネ?」「そうだね」「ほ、他の手段を選んだ方ガ良いと思うんデスけどー? フォーオブアカインドでフルボッコとかドーデス?」「殴ったり叩いたりじゃ時間がかかるからダメだよ。倒すまでの時間が長くなれば、お兄ちゃんは逃げ出す方法を思いついちゃうもんね」「……ソレは、過大評価だと思うのデスよ」「私はそうは思わない。――うん。こうするだけの価値が、お兄ちゃんにはあるんだよ」 フランちゃんは、何の迷いもない瞳でハッキリと頷いた。 その表情と言葉は、かつて姉弟子と共に戦った時のレミリアさんの姿を想起させる。 ……そういえばレミリアさんも、自爆上等で僕を倒そうとしてたっけ。 やっぱり姉妹なんだなぁ。――等とのほほんしている場合では無い。 ―――――――禁弾「何も刻まない時計」 フランちゃんがスペルカードを宣誓すると共に、数種類の弾幕が纏めて上空に現れた。 恐らくは、以前の「遊び」で使った「過去を刻む時計」のマイナーチェンジ版スペルカードなのだろう。 本来なら広がって其々の動きをするはずの弾幕達は、全て一箇所に纏められ爆発の瞬間を今か今かと待ちわびている。「……あの、確認なんデスけど。まさかアレをこのまま下に落とすつもりじゃ無いデスよね?」「そのつもりだよ!」 なるほどなるほど、やっぱりそうなんですか。 ――いや、それちょっと洒落になってないんじゃないかな。「それじゃー行くよ!」「止めテー!?」「せーの、どっかーん!!」 軽い言葉とは真逆の勢いで弾幕は落下し、派手な爆発が僕とフランちゃんを包み込む。 身体が吹き飛びそうな衝撃。しかしそんな爆風の中でも、彼女はガッシリと僕の身体を掴んで放さない。 ……鎧の即死キャンセル機能が発動しているくらいヤバい威力の中でも、あくまでこっちの身体を固定し続ける、か。 防御に力を回す時間はあったから、この一撃で即KOって事は無いだろうけど。 天狗面として作った氷の装備は保たないね、コレは。 ――精神の改変である面変化には、悪影響が出ないよう色々なセーフティを仕込んでいる。 氷の面を切り替えスイッチにしているのはセーフティの最たる例だけど、ソレは面変化の維持を面に依存しているとも言えるワケで。 つまり装備の全壊は、天狗面の解除と同義なのである。 そして面変化が消えれば、繊細な風の制御を必要とする僕のスペルカードは維持が出来なくなる。 スペルカードが維持できなくなると、サニーちゃんの生命線である風による強化が無くなる。 ――要するに大ピンチである。しかも、結構洒落にならないレベルで。「っぐぅ、さすがに、効いた、かも」「め、滅茶苦茶するなぁ……」「えへへ、お兄ちゃん相手だからねー」 防御手段の無かったフランちゃんは、自らの弾幕でかなりボロボロになっている。 それでも即座に回復し始めている所はさすが吸血鬼だけど、こちらは状況こそ悪化したもののほぼ無傷だ。 正直、スペルカード一枚分の働きをしたとはあんまり思えないのだけど。いや、状況的にはわりと洒落にならない一手なんだけどね?「それじゃ、二発目行くよー!」「ああ、はいはい。二発目ね了解――――って、ええーっ!?」 ―――――――禁弾「何も刻まない時計」 畳み掛ける様にして、再びスペルカードを使用するフランちゃん。 ……ひょっとしてこの子、こっちがぶっ倒れるまで自爆攻撃し続けるつもり?「私が倒れるか、お兄ちゃんが倒れるか。我慢比べだね!!」「心底不毛! 止めよう、死ぬよ!? 僕かフランちゃんかのどっちかが死ぬよ!!」「大丈夫、私もお兄ちゃんもこのくらいじゃ死なないから! 大怪我はするかもしれないけど、死んでないからセーフだよね!!」「何その謎のボーダーライン! さっきの頭悪い自爆弾幕もそうだけど、フランちゃん何か変なモンの影響受けてない!?」〈少年、鏡見ろ〉「言われてみればそうだ!」 どっちも、僕が毎度言ってたりやってる事だった。 うん。客観的に聞くとアレだね。僕アホなんじゃないだろうか。何だその理屈。 しかし困った事に、悪くない手ではあったりするのだ。 身体の頑丈さには自信のある僕だけど、高い回復力と耐久性を誇る吸血鬼に対抗できる程では無い。 ましてやフランちゃんの弾幕は、一発で即死キャンセルが発動するレベルの高火力だ。 ぶっちゃけると、次の弾幕で僕は死にます。マジで。本気で。謙遜でなく。 フランちゃんの中での僕は謎のタフネスっぷりで耐えそうな空気を出してるみたいだけど、実際の僕はそんなに固くありませんから。 ……ほんと、彼女の「お兄ちゃん相手ならスペカ全部使い切る覚悟で自爆するしか無い」みたいな確信はどこから湧いて出てきたのか。 実際はそんな事無いんだと説得したいんだけど、多分無駄なんだろうなぁ。「さて、サニーちゃんからの援護は……」「わー! わー! 弾はやっ!? 身体重っ!? なんでー!?」「ほらほらどーしたのよ! そんな事じゃ、あたいにはかてないわよ!!」「うん、ダメっぽい!」 最初から予測できていたし、期待もしてなかったけど! だけどせめて、親分にスペルカードを使わせるくらいはして欲しかったなぁ。 まぁ、本来ならフォローする立場なのにここまで追い込まれた僕が悪いんだけどね? ……仕方ない、か。「改めて――行くよ、お兄ちゃん!」「本当はすっごくイヤだけど、かかってきなさいな!!」「うんっ!!」 再び落下する弾幕。それがこちらへと迫る前に、僕は身体を捻って何とか右腕の自由を確保する。 そして僕は右手を口元に寄せると、周囲に響くよう高らかに指笛を吹いた。「えっ?」「――っ!」 指笛そのものに効果は何も無い。これは単なる‘合図’だ。 ……本当は気付いたかどうかとか、準備は出来ているかとかも確認したかったんだけど。 そこまで待っている余裕は無いので、問答無用でぶっ放させて貰おう。 さてはて、どうなる事やら。――出来れば、いい感じに決まって欲しいんだけどなぁ。「いっくよ、サニーちゃん!!」」 ―――――――零符「アブソリュートゼロ」 迸る蒼い閃光。全てを凍らせる輝きは、真っ直ぐサニーちゃんへと向かっていくのだった。