「お兄ちゃん達、色々とお話ししてるみたいだね。私達はどうしようか」「とーぜん、あたいたちもさくせんかいぎよ! あきらたちをボッコボコにしてやるわ!!」「おーっ」「で、どうしようかしら」「……えっと、やっぱり問題なのはお兄ちゃんだよね」「そうね!」「だからお兄ちゃんが頑張れないよう、集中的にお兄ちゃんを狙うって言うのは――うーん」「どうしたの?」「お兄ちゃんの事だから、私達がそう考える事も想定しているのかもしれないと思って。うーん、だとすると……」「ふらんってば、しんぱいしょーね!」「でも、お兄ちゃんが……」「そんなこと考えてもムダよ! あたいたちは、あたいたちらしくたたかえばいいの!!」「えっと、つまり?」「わかんない!!」「…………分かんないんだ」「いいのよ! なんでもかんでも考えなきゃダメなんて、すごいつかれるじゃない!!」「そ、そういうものなのかな」「そういうものよ! それにあっちも、あんまり考えてないみたいよ?」「えっ、それってどういう――」「サニーたちとあきら、すっかりなかよしね!」「……フフフ、ソーミタイダネ」「ふらんったら、やるきまんまんじゃない! それでこそよ!!」「フフフフフ……お兄ちゃんってばモー…………ダメなんダカラ……」幻想郷覚書 異聞の章・伍拾参「妖集悲惨/追う風、向かう風」 作戦会議を終えたらフランちゃんの殺る気がマックスになってた。なんでや。 良く分からない、良く分からないけどヤバい。主に僕の命がヤバい。「あ、あばばばばばば」 それとサニーちゃんもヤバい。 超久しぶりに尖ってた頃へと回帰したフランちゃんの迫力に押され、体中から体液という体液を吐き出す一歩手前の状態となっている。 まぁ、そんなサニーちゃんは完全にアウトオブ眼中されてるワケなのですが。 とりあえず僕が悪い、と言う裁定なのだろう。弱い者いじめに走らなかった所は評価する。 いや、僕だってじゅーぶん弱いけどね!?「サニーちゃん、落ち着いて」「だ、だだだ、だって、アレ、アレ」「フランちゃんの狙いは僕だから大丈夫。ある程度距離を取っていれば怖い相手じゃないさ」 迫力そのものはさっきよりも遥かに増してるフランちゃんだけど、実は敵として考えると脅威度の方はかなり下がっていたりする。 もちろん、暴走状態で無秩序に暴れ回られるのはとても困るけども。かなり困るけども。 今回やるのはスペカ無制限の「遊び」じゃなくて、スペカの使用枚数に制限のある「弾幕ごっこ」なんだよなぁ。 つまり、湯水のようにスペカを使う事は出来ないのだ。 こっちも条件は同じだけど、僕にとってのスペカ無制限は相手の攻撃を相殺する為のモノだったからね。 ぶっちゃけ全然困りませんです。むしろ、色々と作戦が練られてありがたいくらいだ。「とにかく当初の作戦通り、サニーちゃんは親分の相手に専念して。フランちゃんは僕の方でどうにかするから」「だ、大丈夫なの?」「へーきへーき。どっちかと言うと問題なのは終わった後かなー……上手く宥められると良いんだけど」「それなら良いけど……く、くれぐれもお願いね!! 私の命は貴方にかかっているのよ!?」「妖精って死なないんじゃなかったっけ」「死ななくても嫌なのよ!」 ごもっともで。まぁ、言われなくても細心の注意は払いますよ。 そもそも彼女の安全が敗北条件に組み込まれてるし、そうでなくても完全な二対一になってしまうのはキツいからね。「その為の対策は考えてるから安心して。――その代わり、サニーちゃんも僕の‘合図’を見逃さないでよ?」「分かってるけど……正直、あんな事する意味が分からないわ」「ま、そこらへんはね? 試してみてからのお楽しみと言うか、出来れば使わないのが一番良いと言うか」「……つまり?」「まぁ、やってみれば分かるよ」 ……説明して、変にパニックになられても困るしね。 あ、いや、別に変な事するワケじゃないよ? ただちょっとだけ、彼女がピチュるかもしれないような事をするだけで。 ――大丈夫! 想定通りに行けばピチュる事は無いから!! まぁ、上手く行かなかったら大惨事だけどね。そこはほら、いつもの話じゃん。〈少年にとってはな。あの妖精にとっては初めての経験だと思うぞ〉 頑張れ!〈せめて本人に言ってやれよ!!〉 「では、開始前にルールを再確認します」 こちらの話が途切れるタイミングを見計らっていたのか、映姫様が悔悟棒を構えつつ一歩前に出てきた。 僕らの視線を遮る形で間に割って入ってきた彼女は、現在の状況をガン無視した冷静さで先程決定したルールの再説明を始める。「スペルカードは各人五枚まで、味方同士の同時発動も許可します。敗北条件は事前に決めた通りです」「サニーちゃんか親分がやられるか、スペルカードを全部使い切るかの二つですね」「はい。貴方、もしくはフランドール・スカーレットが先にスペカを使い切った場合は、やられたのと同じ扱いになります」「負けにはならないけど、戦線は離脱しろって事ですね。了解です」「――私としては、今回のルール決定には若干の不満があるのですが」「いや、今まで通りじゃん。三妖精ちゃん側がルールを決める、何も変わってないですよ? ねぇ」「……そうですね。実力的に劣勢なのはそちらですし、コレ以上は何も言わないでおきましょう」 良かった。ここで待ったが入ったら本格的に終わる所だったよ。 今回の弾幕ごっこのルールでは、相手の物言いが入らなかったため僕の考えていた内容がほぼそのまま通ってしまっている。 と言うかまぁ、単に暴走したフランちゃんと何も考えてない親分が代案を出せなかっただけの話だけど。 とにかく、そのおかげで良い具合に勝つ為に必要な条件が設定できたのだ。 後は全体の流れを良く見ながら、サニーちゃんのフォローをしつつフランちゃんを抑えれば勝てる! ……アレ? なんかソレ、未だかつて無いほど高難易度な勝負になってない? どっちにしろ辛さ変わって無くない?〈ぷぷっ、頑張れ〉 ――後で絶対泣かす。「それでは、双方準備はよろしいですね? では――――始め!」 悔悟棒が振り下ろされると同時に、映姫様が大きく背後へと飛び下がった。 それを切っ掛けとして、僕らも其々行動を開始する。 弾幕を用意する親分とフランちゃん、とりあえず距離を取ろうとするサニーちゃん。 其々の行動を観察しながら、僕は烏を模した氷の面を装着する。「―――――天狗面『鴉』! そんでもってェー……」 合わせて、僕はスペルカードを構える。 今回の勝負に合わせてさっき作ったばかりのスペカなので、残念ながらぶっつけ本番一発勝負の一枚だけど。 まぁ、多分なんとかなるだろう! 多分ネ!! ―――――――順風「旅人泣かせの獣道」 スペルカードの宣誓と共に、僕は風を巻き起こした。 それは攻撃能力こそ持たないものの、戦闘領域全体を覆うように吹き荒れる。「むぐっ、な、なにこれ!?」「……風による、妨害?」 身体に纏わりつく風が、自らの動きを制限するモノである事に気付いた二人が顔をしかめる。 もっともソレには、完全に動きを封じるほどの強い拘束力は無いのだけど。 それでも彼女達の動きは、目に見えて悪くなっていた。「お、おぉう!? なっ、なにこれ?」「落ち着いてくだサイ。ソレはサニーサンをお助けするモノデス」「た、助け?」「その風は貴女の動きを補助、強化シます。この状況ナラいつもより速く動けるハズですヨ」「つまり、パワーアップしたって事!?」「アー、そこまでは行かないデス。セーゼー絶好調時の動きが出来るってトコロですネ」 そもそも練習無しで身体強化しても、身体の動きについていけず自爆するのが目に見えている。 力の消費も激しくなるから、ここらへんが落とし所としては一番良い所だろう。 何より、このスペルカードの「キモ」はソレでは無いのだ。「よくわかんないけど、あたいはこのてーどじゃとまらないわよっ!!」「こっ、のぉぉおおおおお!」 身体を縛る風にも構わず、親分とフランちゃんが弾幕を放った。 しかし其々の放った弾幕は、風に押されて本来想定した速度も動きも出来ずに居た。 もちろん、完全に動きを止める事は出来ないのだけど。 これだけ遅くなれば、サニーミルクちゃんでも容易に回避する事が可能だろう。 これならば、即座にやられる事は無い。はずだ。「どうしたのよチルノ! いつもより弾幕に勢いが無いじゃない!!」 うん、妨害してるからね。 こっちの介入に全然気付いていないサニーちゃんが、上機嫌な様子で親分の弾幕を避けつつ反撃を行った。 彼女の放った光弾は、風の助けを得て一気に加速していく。「ふふっ、凄いわ! これが絶好調時の私なのね!!」「イエ。スペルカードで強化したカラ、弾速がいつもより速くなっているダケです」 こちらに向かってくるフランちゃんの弾幕を回避しつつ、サニーちゃんにツッコミを入れる。 これを自分本来の実力だと思われると、後々とても困る事になるからね。「お兄ぃぃぃいいちゃぁぁぁぁぁぁん!!!」「オットット、危ない危ない」「ニガサナイニガサナイニガサナイィィィイイイイ!!」「……ヤー、久しぶりに大張り切りデスねー」 狂気で絶好調なフランちゃんが、こちらに対して連撃を放つ。 普通の弾幕ではこちらに届かないと判断したのか、攻撃手段は風を切り裂く衝撃波に切り替わっている。 さっすが、狂気状態でも戦闘に関しての判断は誤らないって事ですか。 少なくとも現状、僕側にはスペルカードによる恩恵はほぼ無いと思って良いだろう。 ――まぁ、そこらへんも含めて想定通りなんですけどね。 早さに優れた天狗面なら、今のフランちゃんの攻撃を捌き続ける事もそう難しくは無いはずだ。 攻撃に転じる事は出来ないけど、これなら何とか――っと。「はいはーい、邪魔シマース」「わわっと!?」 風弾を二、三発放って、親分の攻撃を相殺する。 うーむ。これなら放置しても大丈夫だと思ったけど、そう上手くは行かないか。 もうちょっと小細工したいなぁ。とは言え、今のスペカを中断させたらそれはそれで面倒な事に……。「モラッタァァァァァアアア!!」「おおット!?」 ―――――――禁忌「カゴメカゴメ」 弾幕が直線上に並び、鳥カゴのように僕の周囲を囲んでいく。 高速移動が得意な天狗面にとっては、ある意味鬼門とも言える弾幕だ。 まぁ、ただ突っ立ってるだけならさすがにうっかり当たる事も無いけれど。 フランちゃんもそれは分かっているだろう。だとすると、次に来るのは――「アハハハハハハハハハ!!」 続いて放たれた巨大な光弾が、弾幕の檻を砕きながら直進して行く。 風による減速は効いているみたいだけど、大きすぎて効果は薄いみたいだ。 まぁそれでも、天狗面の速度で回避出来ない程じゃない。……それだけならね。「モットモットモットモットクダククダククダククダク!!」 やはりと言うか何というか、数撃ったから当たれと言わんばかりに放たれる無数の光弾。 おまけに、砕かれた弾幕が拡散しながら散弾のように襲い掛かってくる。 ほんと、エッグいスペルカード使うなぁ。 僕は風弾をバラ撒き弾幕を掻き分けながら、少しずつフランちゃんへと近づいていく。 今のところ、天狗面のキャパシティを超える程の弾幕は来ていない。特に注意しなくても多分なんとかなるだろう。 けど、やっぱり回避オンリーはキツいっす。せめてどーにかして反撃を――っておっと!?「ハーイ、妨害妨害っト」「わきゃぁ!? ちょっとあきら、じゃましないでよ!!」「そりゃ邪魔しますヨ。いちおーワタシ、今の時点では敵なんですカラ」「なるほど、それもそうね!」「納得するんデスか……」 親分は本当、読めない人だなぁ。 しかも、なんだかんだ言って――上手い。 隙あらば直接攻撃を当てようと狙っているんだけど、位置取りが上手くて中々狙えない。 今も、フランちゃんの散弾を風で誘導して親分へとぶつけたんだけど……全部綺麗に回避されてしまうとは。 動きとしては拙いけど、避け方に迷いは無かった。 勘――では無い、恐らくは「経験則」だ。 身体の脆い妖精は、簡単な弾幕ですら致命傷に繋がる。 妖精としてはケタ違いの実力を誇る親分も、防御力に関してはそれほどでも無いのだろう。 ……だからこそ避けられるのだ。そんな妖精の身で、数多くの戦いをくぐり抜けてきた彼女だからこそ。「うん、きょーのあたいはゼッコーチョーね! なんだか身体が重いきもするけど、たぶんきのせいよ!!」 だ、だよね? 数々の戦いの経験が親分を強くしたとかそんな感じなんだよね? 戦闘でさえ親分特有の謎直感のみで何とかなってるとかだったら、僕もうやってられ無さ過ぎて吐くよ? 「ヨソミスルナァァァァァァァァアアアアア!!」「あーもう、こっちはこっちデしつこいデス!」 ちょっと余所見をしただけなのに、フランちゃんは大層お怒りになられたようです。 こっちだって、本当はフランちゃんに集中したいよ! だけどしょうがないじゃん、親分が思いの外強くてサニーちゃんが常にピンチな状態なんだから!! これ、スペカ無しだったらマジで最初の二、三発でカタが付いてたかも……。 「とにかく、まずはフランチャンのスペカを何とか……」「よし、ちょーしがいいからあたいもスペルカードをぶっぱなすわよ!!」「――アヤヤヤヤァ!? ちょ、それはらめですヨォォォ!?」 ぎゃー!? ヤバい、これ本当にヤバいかも!! 何も考えてないはずの親分が、本当に絶妙なタイミングでスペルカードの宣誓をしようとする。 くっ、せ、せめてこっちもサニーちゃんがスペカを――「ちょっ、ちょっと晶! 来てる!! こっちにも弾幕来てるよ!!」 ……サニーちゃんは、フランちゃんのスペルカードの余波をモロに喰らって動けない状態に陥ってました。 えっと、つまり、この状況を僕は一人でかつスペカ無しで何とかしないと行けないのかな? ――え、マジで?〈マジだよ。がーんばれっ〉 …………うん、この後どうなろうと魅魔様は泣かす。絶対に泣かしてやる。