「――いくぞ鴉天狗、フィルムの貯蔵は充分か」「充分か、じゃありませんよ。貴女の方こそ、ついてこれますか――っ」「……貴方達は、いきなり何を言いだしているのかしら」「ふ、これだから姉力(あねぢから)の無い者は」「感じないのかしら、この溢れんばかりのOOO(オウダー・オブ・オトート)を」「お願い。しろって言うなら何度でも謝るから、大人しく医者に行ってちょうだい。本当にお願い」「ノリの分からない妖怪は困るわねぇ」「これだからバトルマニアは。戦い以外に興味が無いから困りモノです」「そんな私から、戦う気力すら失わせた事に関して思う所は無いのかしら」「特にありません」「平和って良いわね」「……ちょっと飲みに行ってくるわ。酒でも入れないと気が狂いそうよ」幻想郷覚書 天晶の章・拾「四重氷奏/和解前より複雑な」「あ、ルーミアちゃん。テーブルを拭くならちゃんと水気は切ってね、机がビショビショになるから」「そーなのかー」「リグル君、そのグラスは親分の所で冷やしておいて。出す時は冷酒と一緒にお願い」「うん、分かった」 開店前の下準備と言う事で、僕達ウェイター三人衆は雑事に奔走していた。 ミスティアちゃんや大ちゃんは下ごしらえにかかりきりなので、それ以外の仕事全てが僕等の担当だ。 最低限の準備は出来ているみたいだけど、細かい所を詰めようとするとやるべき事はたくさんある。 なのでこうして、二人に指示を飛ばしながら僕もアレコレ働いているワケなんですが。 ……リグル君は何故に、僕の方をじっと見つめているのでせうか?「なんかキミ、こなれてるよね。こういう仕事やった事あるの?」「まぁ、紅魔館では副メイド長見習いをやってたからね」「副メイド長の見習いをやってたの!? 凄いなぁ、上から三番目くらいの役職じゃないか」「いんや、見習いだけど副メイド長の仕事をやってたの」「どういう事!?」 見習いがそれくらい出張らないと回らないくらい、正規雇用の妖精メイド達が役立たずと言う事です。 いやほんと、働く側に回ると咲夜さんが全部一人でやっちゃう理由が良く分かりますよ。 一般人並の清掃能力しか持たない僕でさえ、普通に仕事をして妖精メイド三十人分の働きが出来るのだから相当である。 ……まぁ、咲夜さんはそんな僕千人分の働きをするので、どちらにしろ誤差の範囲なんですけどね。 おかげで手の空いた僕は、妖精メイドの教育と言う地獄を受け持つ事になってしまったワケです。 「二人は優秀だよね。言う事聞いてくれるし、布巾を拭く事に使ってくれるし」「あーうん。聞いたボクが悪かったからさ、虚ろな瞳でテーブルの木目を数えるのは止めてくれないかな」「大変なのかー」 色んな所で馬鹿扱いされてるけど、親分はとても賢い子だと思いますよ? 十秒で仕事に飽きたりしないし。 正直、フランちゃんの教育で癒されて無かったら深刻なノイローゼになってた。 教育中も、何度四季面を発動させようと考えた事か。……レミリアさんは雇用に関して本気で考え直した方が良いと思う。 「まぁ、メイドとしての最低限の仕事を叩きこまれてるからね。一通りの事は答えられると思うよ!」「一応つっこんでおくけど、メイドと言う呼称に対する抵抗は無いの?」「無い!!」「……苦労、してきたんだね」「止めて。同情は一番心に堪えるから」 溢れそうな涙を笑顔で押し込み、店周りを綺麗にするための掃除に逃げるチキンな僕。 心無しか重くなった身体を動かして、僕は小型の竜巻を作りだした。「風を操る能力で掃除? 噂通り、本当になんでも出来るんだね」「あんま過大評価されても困るけどねー。……むぅ、やっぱり上手くはいかないか」 竜巻でゴミを絡め取るまでは上手く行ってるんだけど、吸い込んだゴミを留めようとすると逆に散らしてしまう。 能力使って掃除する事自体初めてだからなぁ。最初はもう少し、簡単な事から始めれば良かったかも。 こうして僕が能力をどうでもいい事に使っているのは、もちろん普通にやるのが億劫になったからでは無い。 平時から能力を頻繁に使う様にして、力の扱いに慣れていこうと考えたためだ。 常時使ってる「気を使う程度の能力」は、美鈴曰くかなりの精度になっているみたいだからね。 こうやって些細な事に色々と能力を使っていけば、きっと力との対話も上手く行く! ……と良いなぁと思う次第です。 ああ、それにしても面倒臭い。絶対コレ手でやった方が早いよね。「とりあえずこんなもんかなーっと」「おー、綺麗になったのかー」「お疲れ様~、味見ついでにおいしいかば焼きをどうぞ~」 一通りやるべき事を終えた僕等に、ミスティアちゃんが人数分のかば焼きを差し入れてくれた。 香ばしい匂いに鼻腔をくすぐられながら、熱々のヤツメウナギにかぶりつく。 うん、悪くない。味のクセは強いし歯応えもかなりのモノだけど、独特の風味が結構やみつきになるかも。 「うぇ~、へんなあじぃ」「ありゃりゃ、フランちゃんには合わなかったか」「ヤツメウナギは大人の味よ~、否定の言葉で苦みが増すの~」「私はコレの味、好きだけどなぁ。人間の方がもっとおいしいけどね!」 まぁ、明らかに好き嫌いが別れる味だもんね。 酒飲みウケはしそうだけど、フランちゃん好みの味じゃないか。 それにしてもミスティアちゃん、自分の作ったモノを否定された割にはあっさりしてるなぁ。 ヤツメウナギそのモノが玄人好みな味をしているから、ダメ出しされる事に慣れているのかもしれないけど。 さすがにちょっと軽すぎやしませんか? ちょっとぐらい愚痴っても許されると思うよ? あとルーミアちゃん。一応僕は人間なんで、発言はそこらへんを加味した上で行ってもらえませんかね。「そういやミスティアちゃんって、何でヤツメウナギの屋台をやってるの? 趣味……ってワケじゃないよね」「それはね~、焼き鳥屋台撲滅のためよ~」「焼き鳥屋台撲滅?」「そうよ~。全ての焼き鳥屋台は何れ、顧客を失い別の道へと逃げざるを得なくなるの~」「それぐらい、ヤツメウナギが普及すると」「ウナギでなくても良いけどね~。敵の敵が味方なら、焼き鳥以外は皆仲間~」 なるほど、つまり「ヤツメウナギが流行る→焼き鳥屋台がヤツメウナギに乗り換える→焼き鳥屋台撲☆滅」と言うワケですね。全然分かりません。 ……これが所謂「風が吹けば桶屋が儲かる」と言うヤツか。どんな観点から見ても達成できる要素が欠片も見当たらないのですが。 つーか何で焼き鳥限定? 唐揚げはセーフなの? 親子丼とかもう憎悪の対象になるんじゃないの? 同じ鳥も食べる猛禽類とかはスルー? ツッコミ所が満載過ぎて次から次へと湧いてくる疑問に頭を痛めながら、僕は必死にその言葉を絞り出した。「が、がんばってね」「ありがと~。力の限り頑張るわ~、焼き鳥が食卓から消えるその時まで~」 その企画が打ち切られる事を心の底から祈っています。と言う本音はギリギリ言わずに済んだ。 残念ながら僕は鶏肉が大好きで、一生ねぎまを食べるなと指示されたら躊躇なくHPフィストをぶち込む自信があるので協力は出来ませんが。 ええ、この部分だけは文姉相手にも引きませんでしたともさ。最終的に妥協させて、見えない所でなら食べて良いと許可まで取り付けましたともさ。 「んぐっ……よーし、きゅーけーは終わりよ! これからあたいらですぱっともーけるわ!!」 相変わらず冷蔵係に徹しながらも、しっかりヤツメウナギを頂き格闘していた親分が満足げに宣言する。 少々言い方は露骨だけど、気合いを入れるには充分な勢いで彼女は腕を振り上げた。 それに合わせ、各自も其々気合いの言葉と共に腕を掲げる。 店主はミスティアちゃんなのだから、こういう音頭は彼女がやるべきだと思うんだけど……僕は細かい所を気にし過ぎなんだろうか。 ともかく。元気良く開店の宣言をした僕等は、最初の客が来るのを待って――「かば焼きと冷酒を瓶で一つ! あ、給仕はそこのメイドさんでお願いします!!」「私にも同じものを。給仕も同じでお願い」「……お酒だったらなんでもいいから、速く頂戴」 うん、まぁ来ると思った。正直。 宣言とほぼ同時に現れ、テーブルの一角を占拠するいつもの姉二人と項垂れた幽香さん。 視認できないほど速く登場したのか普通に隙間で現れたのか、どちらにせよハタ迷惑な事に変わりはない。お願いだから普通に来てください。 とは言えお客である事には変わりないので、唐突過ぎる登場に唖然としている皆の間を縫って、僕は親分から冷酒とグラスを人数分受け取った。「お待たせしました。僭越ながらお注ぎさせて頂きます」「晶さん、こっち向いてハニカミながらピースしてくれませんか」「申し訳ありません。当店ではその様なサービスを行っておりません」「貴方のその順応性の高さが、今は心底羨ましいわ。こっちにもちょうだい」「幽香さんは、もうちょっと適当に二人をいなしても良いと思いますよ? と言うワケでミスティアちゃん、かば焼きお願い」「は、は~い~、承りました~」 僕の一声でようやく硬直が解けたミスティアちゃんが、慌ただしくかば焼きの準備に取り掛かる。とりあえずこれで注文は何とかなるだろう。 しかし、最近三人で行動する事が多かったせいだろうか。姉二人の奇行に幽香さんの心が折れかけていた。 幽香さん、ジョークは理解出来るけどギャグにはついていけない人だからなぁ。近頃の姉達の飛びっぷりについていけなかったようだ。 ―――って、幽香さん? そこまで考えた所で、僕はようやくこの場における別の問題点に気が付いた。 そう、アルティメットサディスティッククリーチャーに骨の髄まで恐怖を叩きこまれた、彼女がここには居るのだ。「か、かかか、風見、幽香っ」 壊れかけのレディオみたいなブツ切れの声を出しながら、ルーミアちゃんがガタガタと震えだす。 トラウマを与えた張本人が現れた人間の、実にテンプレート的な反応である。 参ったなぁ、まさかこんなに早く顔を合わせる事になるとは。 今のルーミアちゃんなら、幽香さんに軽くからかわれただけできっと気を失うだろう。どうしようか。「とりあえず落ち着いてルーミアちゃん。大丈夫、大丈夫だから」「でも、でも」 うーむ、やっぱり本人がいると落ち着かせるのは難しいね。 とりあえず背中を撫でてみるけれど、もちろん効果はまったくない。当たり前か。 どうしたもんかと唸っていると、ついに幽香さんがこちらに気付いてしまった。 彼女は怪訝そうな表情で、真っ直ぐルーミアちゃんを見つめている。 これはマズい。とにかく幽香さんに、大人しくしているようどうにかして訴えないと!「あ、あの、幽香さん」「ダメじゃないの、晶ったら」「……はぇ?」「貴方、もうそこらへんの妖怪相手じゃ戦うだけでイジメになるんだから、力の遣い方には気をつけないと」 「は、はぁ」 しょうがないわねぇ、と苦笑して冷酒を呷る幽香さん。 ひょっとしてコレ、ルーミアちゃんの動揺は僕のせいだと思われてる? と言うか幽香さんの態度、明らかにルーミアちゃんの事を知らない反応だよね。 え、なに。もしかしてトラウマの件って、幽香さん的にはあっさり忘れる程どうでも良い事なの? そりゃまぁ確かに、彼女は幽香さんウケする条件を微塵も満たしてないけど。 トラウマまで出来てる当たり、イジメられてる時もロクに抵抗出来なかったみたいだけど。 ……うわぁ。こうして考え直してみると、幽香さんがルーミアちゃんの事を覚えている理由がミリグラムも見当たらないや。 運良く覚えていたとしても、間違い無く分類は「前にノシた雑魚妖怪A」だろうしねぇ。 ルーミアちゃんの事が忘却の彼方へと送られたのは、彼女にとって幸運だったのか不幸だったのか。「……本当に大丈夫なのかー」「えっ? あ、うん。……ソウデスヨー」 物凄く前向きに受け止めてるー!? 相手に敵意が――と言うか興味そのものが――無い事を認めたルーミアちゃんは、あっさりと警戒を解いて安堵のため息を漏らす。 あの、本当にそれでよろしいのですか? いやその、信じてくれるのは純粋にありがたいんだけどね? 幽香さんは暴力を振るうのに理由を全く求めない人だから、それなりの警戒心は引き続き持っていて欲しいんですが。「晶さーん、お酒お代りー」「私の方にもお願いするわ。もちろん御酌込みでね」「あ、はいはい」 こっちはこっちでマイペースに飲みまくってるし……と言うかこの二人、さっきの一瞬であっという間に二本空けてるよ。 従業員としてはありがたい限りだけど、弟としては色々心配だなぁ。主に肝臓とか財布の中身とかが。「心配しなくても大丈夫、幻想郷の賢者の名は伊達じゃないから。ふふ、ついでだしちょっと高めのお酒を頼んじゃおうかしら」「まっいど、あり~。晶さぁ~ん、賢者様にたっぷりサービスしってあっげて~」「はーい」「待ってください! 私は紫さんよりも高いお酒を注文しますよ!!」「あら嬉し~。晶さぁ~ん、サービスは天狗様の方に~」「どうせならこの店にある最高のお酒が飲みたいわね。店主さん、お願い出来るかしら」「私はそれを浴びるように飲みたいです! 店主、量二倍でお願いします!!」 お二人とも、ホストに貢ぐダメ女みたいな真似はやめてください。 謎のオークションを始めた二人に呆れながら、僕は追加されていく注文の品を掻き集める。 え、二人を実際に止めないのかって? ……ここらへんで痛い目にあって貰わないと、今後何をされるか分からないから嫌です。 ところでミスティアちゃん。今の誘導はワザとですか、それとも偶然ですか。 返答によっては、貴女との付き合い方がちょっと変わってくるんですが。歌ってないで教えて貰えません?「じゃんじゃんバリバリ大放出~。泣かないで~、素寒貧でも明日があるさ~」「……目的はアレでも、店主としての才能はあるのかな」 色々と深読みできそうな歌を歌いながら、追加のかば焼きを焼き続けるミスティアちゃんの姿に思わず唸る。 うーむ、商売人って怖いなぁ。二人の散財する姿に苦笑しつつ、僕は同じ作業を黙々と繰り返しているフランちゃんに忠告を送った。「フランちゃんは、ああいうダメな大人になっちゃダメだよ」「ああいう大人って?」「分かんないなら良いんだよー。それからソレ、あんまり作り過ぎても処分に……」「ふっ、やっているようだな」「レミリアさん?」「あ、お姉様だー!」 ……今日は、姉の万国博覧会でもやっているのかな。 日傘を持った咲夜さんと歩きながら本を読んでるパチュリーを連れて、何故か自慢げなレミリアさんが現れた。 おかしいなぁ。ここで僕等が働く事は誰にも教えてないはずなのに、次から次へと知り合いが現れるのはどうしてなんだろうか。 ある意味今更な疑問なので、本当の所はどうでも良いんだけどね。 聞いて欲しそうな顔をしているレミリアさんは尋ねないと確実に拗ねるので、僕は内心の感情を抑え込み確認する事にした。「えーっと、何でまたこんな所に?」「強いて言うなら―――運命に導かれたのさ」「……へー、そーなんですかー」「言いたい事は言えた? ならさっさと注文して帰りましょう。あ、私はお酒だけで良いわ、かば焼きはもたれるから」「毎度ありー」 「ちょっとパチェ! こういうのは最後までキチっとやる事が大事なのよ!! 台無しじゃないのもーっ!」 プンスカと言う擬音が相応しい態度で、両手を振りまわしながら抗議するレミリアさん。 ぶっちゃけパチュリーの言葉よりそっちの姿で台無しなんだけど、最初から茶番臭はしてたので特にツッコミはしない。暴れられても困るし。 なので僕は事務的な態度で、三人をテーブル席へと案内した。 ちなみに僕以外のウェイター達は、次々現れる強豪妖怪の姿に完全に委縮し切っている。ご愁傷様。「レミリアさんと咲夜さんは何にしますか?」「私は勤務中ですので、水だけで」「私は――そうだな。あそこにいる店員の作ったモノを全部貰おうか」 そういってレミリアさんが指さしたのは、再び一心不乱に作業を行っているフランちゃんだった。 なるほど、こっちもこっちで目的はほぼ同じか。大変分かり易くて結構ですね。けど――「あのー、レミリアさん? 悪い事は言わないから、普通に注文した方が良いと思いますよ?」「何度も言わせるな。多少失敗していても構わん、フランの作ったモノを全部寄こせ」「……良いんですね?」「くどい!」 百パーセントフランちゃんの手元を見ていないレミリアさんが、苛立たしげな表情で机を叩く。 何だかんだで同じくらいフランちゃんに甘いパチュリーが、何故似た様な注文をしないのか全然理解していないようだ。 助けを求めて咲夜さんに視線を送ると、彼女は全てを察した表情で静かに頷いた。 ……これは、構わないから出せって事だよね。実はレミリアさん、結構アレが好きだったりするのかな? まぁ、許可を貰ったのなら遠慮する必要はないだろう。僕はフランちゃんの作ったモノを全てボールに放り込み、レミリアさんの前に置いた。「はいまいどー。キャベツ激盛り一丁!!」「……おい、久遠晶。これは何だ」「なんだって……フランちゃんが剥いで洗って、一口大に切るまでやったキャベツですけど?」「きゃ、キャベツしか無いじゃないか」「キャベツしかありませんよ?」 いや、そんな恨みがましい目で見られても。普通に考えれば分かるでしょうが。 かば焼きって、「串打ち三年、割き五年、 焼き一生」と言われる程に深い技術が必要なんですよ? 果たして、ミスティアちゃんにそこまでの拘りが有るのかまでは分かりませんけどね? 料理自体ロクにやった事の無いフランちゃんに、かば焼きを任せられる道理はどちらにしろ有りませんから。「えへへ~、いっぱい食べてね! おかわりたくさんあるから!!」「――も、もちろんだとも! 存分に食べさせて貰おうじゃないか!! ああ上手い上手い、うまい……うまいなぁ……」 フランちゃんの期待が存分に込められた視線に負け、何の味付けもされてないキャベツを片っ端から口に放り込むレミリアさん。 半泣きで口を動かす彼女の姿に、姉としての矜持を見た気がする。ダメな意味で。「おー、何だか盛り上がってるみたいですねー! どうせなら一緒に飲み明かしませんか?」「うふふふふ、どうせなら奢ってあげるわよ。と言うか奢らせなさい、このままだと負けそうなのよ」「ふん、お前の施しは……もぐもぐ……いらん……もぐもぐ……咲夜ぁ」「どうぞ、お水です。……ああ、必死にキャベツを頬張るお嬢様も素敵ですわ」「……貴方も大変みたいね。飲む?」「頂くわ。そういう貴女は気楽そうで羨ましいわね」 さらに二つのグループが合流して、屋台は本格的に乱痴気騒ぎの体を為してきた。 飛び交う注文、愚痴と意地の張り合いに溢れた会話、椀子蕎麦式に増えていくキャベツ。 混沌とする場を右へ左へと駆けまわりながら、僕はある事を確信するのだった。 ―――今日は、間違い無く他の客は来るまいて。 そんな僕の予想は見事に的中するのだけど、本日の売り上げ自体は過去最高のモノだった事をここに述べておく。おまけ 「ところで、美鈴はどうしたんですか?」「彼女は門番ですから、当然門の番をしております」「えっと、もしかして一人で?」「一応小悪魔も付けてあげたわよ。今頃、二人で夕飯でも食べてるんじゃないかしら」「……お願いだから、せめてお土産くらいは持って帰ってあげてくださいね。支払いは僕持ちで良いんで」