「お、おお……おおおお……」「ふにゅー、霊夢さんはマジ容赦無いです。あそこでニードロップとか完全に殺しに来てますよ」「あ、穴だらけ……私の星蓮船が穴だらけ……」「おや、どこかで見たような水兵さんが」「お前か! この惨状をやらかしたのはお前なのか!!」「はぇぇ!? 何の事ですか――って言うかお船の中がボロボロですよ!? 一体何が!?」「私が聞きたいよ! 物凄い振動があったと思ったらこの有様、悪夢でも見させられた気分だ!!」「……えっと、大変でしたね」「うう、無事に役目を終えて後はゆっくり……とか考えていたのが悪かったのかなぁ」「良く分かりませんけど、直せないんですか?」「出来ない事は無いけどさ……」「なら良いじゃないですか! 起こってしまった事より後の事!! 何事もポジティブに考えていきましょう!」「――それもそうか。うん、そうだな! 確かにクヨクヨしても仕方がない! よーし……」「ところで、水兵さんって妖怪ですよね」「うん、そうだけど?」「あーそれじゃあ、風祝な私は水兵さんを退治しないといけません。残念無念です」「え、何で?」「さっきやられた直後ですから、調子悪いんですよねー。あー困りました」「そう思うなら止めてよ!? コレ以上戦うと本気で船が、船が!!」幻想郷覚書 聖蓮の章・拾弐「聖天白日/天より生まれ夢を想う」 どうも、なんか思った以上に色々出来て若干引いてる久遠晶です。 何なの怪綺面。つーか出鱈目に速いのは良いけど、その速さに目が追い付いてるのはどういう事なのホント。 しかし真に恐るべきなのは、そんな怪綺面と普通に戦えている霊夢ちゃんだろう。 高速飛行形態――神綺様命名「1stストライク」による全方位攻撃をさらっと避けられた時には心臓が止まるかと思いましたよ。 状況的には五分五分なはずなんだけどなぁ。なんだろう、このヒシヒシと感じる絶対的な差は。〈晶ちゃん、スペルカードが相殺されたわよ〉 脳内神綺さんの言葉と同時に、拮抗していた二つの力が弾けて消えた。 何で高範囲ばら撒き型なあの結界で、一点突破型なこっちの弓矢を防げるの怖い。 霊夢ちゃんの出鱈目っぷりに、勝てるかなと言う僅かな希望がじわじわと引っ込んでいった。 うーむ、やっぱり無謀な勝負だったかなぁ。偉そうに色々言ってたけど……ぶっちゃけ勝算は無いんだよね。どうしよう。〈そうでも無いと思うわよ。何だかんだであの子も、晶ちゃんの弾幕を相殺する事‘しか’出来なかったワケだし〉 それはさすがにポジティブシンキング過ぎやしませんか、神綺さん?〈勝負はこれからよ。負けたと思って諦めるのは、怪綺面の全部を使い切った後ね〉 ……実にごもっとも。せめてスペカ残り一枚になるまでは、怪綺面を信じて戦い続けないとね。 僕は小さく肩を竦めて、こちらの動きを窺っている霊夢ちゃんに対して行動を開始した。 思えば、あの霊夢ちゃんが待ちの姿勢になっている事がまず異常なのだ。 気付くべきだった。勝ち筋が見えていないのは、あっちだって同じだと言う事に。 と、言うわけで!「二つで足りなきゃ四つで行こう! ――『3rdファイア』!!」 背中の翼からはさらに二つの翼が外れ、魔力の刃を形成した後に僕の周囲を回り出す。 合計四枚の剣。スピードは「1stストライク」から大分落ちたけれど、それでも氷翼の時よりもずっと速い。 何よりも、大概の無茶な挙動に目が付いて行ってくれるのがありがたい。 数こそ少ないけど、これだけの条件が揃えば――弾幕だって構築可能なのですよ!「行くよ、オプションフル活用! ぶっちゃけ動かす方もわりと大変! フォーメーション・レパード!!」 四本の剣は、ジグザグな軌道を描きながら霊夢ちゃんを囲った。 ただ当てに行くだけじゃダメなのは、さっきまでのやり取りでだいたい分かった。 しかし、彼女を追い込めるほど緻密な弾幕なんて僕にゃーとても作れません。無い袖は振れないんです。 なのでここは、下手な鉄砲も数打ちゃ当たる作戦バージョンツーをお見舞いしようと思います。 もっとも今度のヤツは執拗に霊夢ちゃんを狙うワケではない。むしろ狙いは適当だ。本気で適当に暴れさせるだけだ。 それも、‘全力全開手加減無し’で。「まったく、開き直ったバカはやり辛いわ」「お褒めいただきどーも!」「いや、褒めては無いだろう」「褒めてるわよ」「……そうか」 荒れ狂う剣撃。四本の魔剣は、出鱈目な軌道で霊夢ちゃんと‘僕’の周囲を回りながら無差別に攻撃を仕掛けていく。 そう、もちろん無差別なのだから僕も魔剣の対象内である。 完全ランダムで襲いかかる刃を避けつつ、弾きつつ、僕は霊夢ちゃんに対して殴りかかった。 「オーラ普通のパンチ、連発!!」「ふん、甘いわね!」「なんのぉ!」 さすが霊夢ちゃん、こっちの攻撃を掴んで魔剣にぶつけるとは。 だけど甘い。それくらいの事態なら、こっちだって想定してますともよ! 僕は身体を捻り、迫り来る魔剣に向かって拳を伸ばした。 暴れる獣の様だった刃は、腕鎧に近付くとそれまでの動きが嘘みたいな大人しさで手の中に収まる。 動き自体は無差別でも、魔剣そのものは僕のモンですからね。このくらいの芸当は余裕で出来るのですよ。 僕は逆さの状態から、手に持った魔剣を横薙ぎに払った。 放たれる魔力の刃。避け切れないと判断した霊夢ちゃんは、弾幕をばら撒いて刃の軌道をズラした。 よっし、計算通り!「このタイミングを待ってました!!」「……しまった」 ―――――――反射「魔剣・常識ハズレ」 霊夢ちゃんの放った弾幕に、残った三本の魔剣が突っ込んでいく。 ついでに、手に持っていた剣も投げ込んだ。 其々自在な軌道で弾幕に入り込んだ魔剣達は、そのまま霊夢ちゃんの弾幕を壁に見立てて跳ね返った。 「相手の弾幕が密であるほど威力を発揮する、これぞ他者依存スペルカード『魔剣・常識ハズレ』だ!!」「ホント、その狂った発想はどこから出てくるのかしらね」「はっはっは、そんなに褒めないでよ!」「いや、さすがにこれは褒めて無いだろう」「褒めてるわよ」「……そーか」 もちろん基本は無差別でも‘攻撃’だから、適当に跳ねまくって明後日の方に行くなんて事はない。 攻撃が激しくなれば激しくなるほど、相手は自分の首を締める事になるのだ! ……とは言え回避を助けるスペカじゃ無いので、相手の攻撃が激しくなればこっちの首も締まるんだけどね。 もっとも『3rdファイア』は三つある形態の中じゃ最遅だけど、それでも普段の氷翼より速いからなぁ。 実は回避に関しては、スペカに頼る必要が無かったりしてててて。「うん、さすがにここまで遅くなったら当てられるわね」 霊夢ちゃんマジとんでもねぇ。これでも引っ切り無しに移動し続けてるんだけど、何で当てられるんだこの巫女さんは。 もちろん直撃では無いけど、掠ってる時点で異常過ぎる。 それなりに防御力もある鎧だけど、霊夢ちゃんは塵を積もらせエベレストにする子だからなぁ。 軽い攻撃だからと油断して受けまくっていたら、いつの間にか致命傷になってそうだ。「だけど、チマチマやってる暇は無さそうね。なら――こっちも」 ―――――――霊符「夢想妙珠」 スペカの宣誓と共に、複数色の巨大な霊気の弾丸が放たれる。 その数は四つ。ゆっくりと浮遊した霊弾は、魔剣に絡みつく形でその動きを停止させた。 霊力は……奪われてない? 相変わらず出鱈目な人だ。どうやって魔剣の効果を封じてるのだろうか。 しかし、さしもの霊夢ちゃんも魔剣の動きを止めるだけで精一杯だったようだ。 スペカの効果はそれでおしまいだとでも言うように、霊夢ちゃんはこちらへと御幣を振り下ろしてきた。 僕はそれを、右手の手刀で受け止める。 威力はやっぱり大した事無いけど、うっかり気を抜くと直撃を食らいそうだ。 やり難い。本当にやり難い。彼女の、まるで世界の全てから隔離されているかのような独特な存在感は。〈博麗の巫女は何者にも縛られない。気をつけてね晶ちゃん。貴方にとっては完璧な護りでも……〉 霊夢ちゃんにとっては何の意味もない、ですよね。 ……全く、説明された今でも信じられない話だ。‘縛られないから通用しない’なんて理屈は。 だけど事実、霊夢ちゃんはそう言う土台の上に立っている。 彼女にとっては万象を奪う神剣も、あらゆる物を凍らせる閃光も、全て『無視』してしまえる物なのである。 それは力の無効化だとか、幻想を殺す技だとか、そんなちゃちな技術ではない。 存在の有り方を認めた上で、ただ「自分には関係ない」とルールの適用を‘避ける’のだ。 故に彼女は何者にも縛られない。幻想ですら、博麗霊夢にとっては「避けられるルール」の一つに過ぎないのだろう。 今まで幻想郷で散々チートくさい面々を見てきたけど、霊夢ちゃんのはまさにソレの最終形態だよなぁ。 なるほど、確かにコレは‘終着点’だね。僕はかつてのあやふやだった呟きに今更ながら納得した。 ただし、何者にも縛られない霊夢ちゃんにも限界はある。 と言うか本気で全てから開放されていたら、彼女は幻想郷にすら存在出来なくなってしまう。 そこにいる以上、当てる事は出来る。奇しくもソレは霊夢ちゃんが普段から良く使う理屈に似ていた。「――ふぅん、ここまでやっても当たらないか。鏡相手に殴り合いしてる気分ね」「僕も、まさかこうまで千日手になるとは思いませんでした」 互いの攻撃は物の見事に空を切り、両者共にちっとも当たる気配を見せない。 僕も霊夢ちゃんも回避主体だから――と言うワケでも無いだろう。 まるで、どちらもズレた軸の上から攻撃してる感覚。この、独特の意識を僕はどこかで――「……なるほど」 何かを悟った様に頷き、霊夢ちゃんはスペルカードを解除して軽く下がった。 それまで僅かにあった「僕を倒す」と言う意志すら、今の彼女からは感じ取れない。 「『1stストライク』!」 だから僕も翼を戻した。今の彼女には、最早魔剣‘程度’など通用しないと思ったから。 何だろうね、これは。この気持ちを表現する言葉が思い浮かばない。 怖い、でも無い。ヤバい、でも無い。良くわからない感情がグルグルと回り回って、どうにかなってしまいそうだ。 要するに、僕の心は震えているらしかった。 それがどんな感情から来るものなのか、残念ながら僕には分からないけど……一つだけ、ハッキリといえる事がある。 ――ここからが、正真正銘全力全開の博麗霊夢だ。「ここまで‘付いてこられる’のね、アンタは。さすがに初めての経験だわ」「えっと、お褒めいただきどうも?」「褒めてないわよ、今回は」「あ、さいですか」「ただちょっとだけ興味があるわ。アンタは、どこまで付いてくるのかしらね」 ……良く分からないけど、なんか物凄い買い被りをされてる気がする。 しかし雰囲気的には、「いえいえそんな事ありませんよ」とは言えない感じ。 さてどういう表情をするべきかと思っていたら、霊夢ちゃんが一枚のスペルカードを取り出した。 何気ない様子で、今までと同じように、彼女は――その奥義を宣誓した。 ―――――――「夢想天生」 変化は、何も無かった。 大気は静けさを保ち、大地は震えず、魔力も霊力も高まらず、霊夢ちゃんは何もせずそこに立っているだけ。 それなのに――僕は彼女を‘見失った’。 そこに居るはずなのに、何もかもを捉える事が出来ない。 視覚に映らず、聴覚に響かず、触覚は届かず、嗅覚は働かず、味覚は……いやさすがに試す勇気無いです。 気は無く、波長も無く、第三の目にも反応せず、あらゆる現実もあらゆる幻想も彼女を捉えられない。 そう、全ての感覚が霊夢ちゃんは‘いない’と言っているのだ。 ……これが、博麗の巫女の行き着いた先。これが、夢想天生。「は、はは……あはははははは!」 僕は笑った。そういえば以前にも、似た様な事があった気がする。 あの時は、圧倒的な実力差に対する諦めの笑みだった。 だけど今回の笑いは違う。これは――‘勝算’を見つけた歓喜の笑みだ。「なるほどなぁ。確かにコレは面白いですよ、先生」「面白い、ね。言ってくれるじゃない」「挑発じゃなくて純粋な感想ですよ。うん、まだ僕のには‘余分なモノ’が多すぎるけど――付いて行くだけなら十分過ぎる」 僕は、腰に取り付けていたロッドを手にとった。 目の前に完璧なお手本があるおかげか、失敗する気はほとんどしない。 後はどこまで喰らいつけるかだけど……まぁ、そこらへんはぶっつけ本番で。 こちらの態度に怪訝そうな霊夢ちゃんへと視線を向けた僕は、見せつける様にスペルカードを発動させた。 ―――――――「夢想天生・字余り」 喜びに打ち震える神剣の叫びと共に、全てのものを隔離する独特な感覚が広がっていく。 未熟で半端なこちらの技では、霊夢ちゃんほどの領域には至れないけれど。 それでも、彼女にはきっと届く。「……驚いたわ。今まで生きてきた中で、下手すれば一番驚いたかもしれない」「僕も、霊夢ちゃんのそんな顔が見られるとは思いもしなかったよ」 博麗の巫女に驚愕してもらえるとは、劣化スペルカードもそう捨てたもんじゃないらしい。 不敵に笑う僕にしばらく彼女は唖然とした後、今度は苦々しげな笑みを浮かべて小さく肩を竦めた。「アンタは本当、厄介者の見本市みたいなヤツよね」 反論できそうにないので、霊夢ちゃんの呆れた指摘には返答しない事にした。 霊夢ちゃんも言い返してくるとは思っていなかったようで、次の言葉を待たずに御幣を構える。 面倒くさそうな態度だけど、何だか少しばかり楽しそうな雰囲気でもある……様な気が。「良いわ、付いてきなさい。最後の最後まで付き合ってあげるから」「そりゃどーも。精々、引き離されないよう全力で噛み付かせて貰いますよ!」 神剣を上段に構えた僕は、霊夢ちゃんとの距離をさらに縮め――そして飛びかかった。 同時に、霊夢ちゃんもこちらに攻撃を仕掛けてくる。 ――完成品と未完成品。二つの夢想天生は、そうして静かに激突したのだった。◆白黒はっきりつけますか?◆ →はい いいえ(このまま引き返してください)【教えろっ! 山田さんっ!! りべんじっ!!!】山田「晶君達の戦いはこれからだ! 第一部、完!!」死神A「とっくの昔に完結して、今は二部なんですけど……」山田「お前は私が四季映姫だと思っているようだが、実は違う」死神A「はいはい、山田さんなんですよねー」山田「そして減給された死神Aは可哀想だからクビにしてきた。後は私を倒すだけだな」死神A「ツッコミ所は一台詞に一個でお願い出来ませんか、対応しきれません」山田「はい、と言うワケで最初の質問でーす」死神A「……そんな気はしてましたよ、ええ」 Q:そういえば、女装少年晶君のことを、「体は男、心は女」な人だと誤解しているキャラっているんでしょうか?山田「名前有りだと居ませんね。ぶっちゃけ晶君は、この手のジャンルで言うと「女装男子」程度のレベルですし」死神A「なんですかその謎の区分は」山田「格好が女子ってだけで、晶君には羞恥心も女子化願望も意識も無いですから」山田「むしろ自然体過ぎるせいで、逆に女子認定されてるって感じですので」死神A「でも、勘違いくらいならするんじゃないですか?」山田「そっち系の人達は、多かれ少なかれ性別の違いを嫌悪しているそうです」山田「そもそも性別を気にしていない晶君とは根本的に別物ですから、誤解するのはちょっと難しいかと」山田「せいぜい女装癖があるんじゃ……と疑う程度です」死神A「女装癖を疑ってる人はいるんですね」山田「いますよ。……晶君ももうちょい恥じらいとか何とかがあったら別の展開もあったでしょうに。残念な話です」死神A「何がどう残念なんですか……」 Q:実際のところオーバードライブ・クロウと(体感的に)どっちが速いですか?教えて山田さん山田「あ、1stストライクとオーバードライブ・クロウじゃ勝負になりませんよ。1stストライクの圧勝です」死神A「天狗面最強のスペカが……」山田「基本スペックに差がありまくりですからねぇ。3rdファイアでもわりと五分五分ですよ?」死神A「天狗面の存在意義、全否定ですね」山田「晶君の真似っ子面と旧作ボスの力を借りてる面ですから、差があるのは当然です」死神A「むしろ、最低状態でも追いつけているだけマシって事ですか」山田「そういう事ですね」死神A「……結局、怪綺面ってどれくらい速いんですかね」山田「マッハ以上光速未満です」死神A「大雑把過ぎる!?」 とぅーびぃーこんてぃにゅーど