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No.27655の一覧
[0] 【習作 IS 転生 チラ裏より】 へいお待ち!五反田食堂です![釜の鍋](2013/03/18 01:45)
[1] プロローグ[釜の鍋](2011/11/27 15:22)
[2] 第一話   妹一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 15:30)
[3] 第二話   友達二丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 15:37)
[4] 第三話   天災一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 15:43)
[5] 第四話   試験日一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 15:56)
[6] 第五話   入学一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/12/12 12:28)
[7] 第六話   金髪一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 16:30)
[8] 第七話   激突一丁へいお待ち![釜の鍋](2013/03/18 01:39)
[9] 第八話   日常一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 17:13)
[10] 第九話   友情一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 17:38)
[11] 第十話   決闘 【前編】 へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 17:54)
[12] 第十一話  決闘 【後編】 コースは以上へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 17:49)
[13] 第十二話  帰還一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 18:33)
[14] 第十三話  妹魂一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 19:08)
[15] 第十四話  チャイナ一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 16:43)
[16] 第十五話  暗雲?一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 19:53)
[17] 第十六話  迷子一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 20:19)
[18] 第十七話  約束一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 20:43)
[19] 第十八話  始動一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 21:13)
[20] 第十九話  光明一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 21:56)
[21] 第二十話  幻影一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/28 01:59)
[22] 第二十一話 協定一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/04/26 12:52)
[23] 第二十二話 氷解一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 16:51)
[24] 第二十三話 思惑一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/02/06 19:27)
[25] 第二十四話 開戦一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/02/06 18:38)
[26] 第二十五話 乱入一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/12/26 18:09)
[27] 第二十六話 優先一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 16:46)
[28] 第二十七話 三位一体【前編】 へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 17:13)
[29] 第二十八話 三位一体【後編】コースは以上へいお待ち! [釜の鍋](2013/03/18 23:04)
[30] クリスマス特別編  クリスマス一丁へいお待ち?[釜の鍋](2011/12/25 22:00)
[31] 短編集一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/04/23 23:29)
[32] 短編集二丁へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 17:24)
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[27655] 第二十四話 開戦一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/02/06 18:38
【 千冬 SIDE 】

…ああ、なんだ私の番か?

私の名は、織斑 千冬だ。IS操縦者育成機関【IS学園】の教師及び一年寮の寮長を務めている。以上だ。


机の上にある、コーヒーを淹れたばかりのカップを手に取り口に含む。

程良い苦みが口内に広まり、ゆっくりとカップから口を離すと小さく一息ついた。

窓の外を眺めると、日が沈みかけている夕焼け空が広がっている。


―― ああ、平和だ。


「―― ふぅ、これでよしと。織斑先生。明日のクラス対抗戦に措ける日程表ができましたので確認をよろしくお願いします」
「ああ。どうもありがとうございます山田先生」


向かい側の席から、笑顔を向ける山田先生に用紙を差し出され、それを受け取りざっと目を通す。

うん、特に問題は無い様だ。

視線を用紙から外し、変わらず笑顔をこちらに向けている山田先生に視線を向け頷く。


「結構です。では明日のSHRで生徒達に配布致しますのでコピーをお願いします」
「はい、分かりました。っはぁ~、いよいよ明日ですか。ようやくって感じですね~」
「ええ。クラス対抗戦の【代表同士の対決】は明日、という意味なら間違いではありません」
「はい、そうですね」


私の言葉に、山田先生がにっこり笑顔を浮かべ同意の言葉を口にした。

さて、クラス対抗戦。これの真意を明確に理解している生徒が一年生に一体どれほど存在するのかは甚だ疑問だが、たんなる学園行事の一つと捉えている生徒のほうが多いだろう。特に今年入学したばかりの一年生では、な。

正確に言えば、クラス対抗戦は既に始まっているのだから。

そう、これは『クラス代表同士の対決』ではなく『クラス同士の対決』。つまり、一クラスとういう一つの『組織』同士の争いなのだから。

代表同士の対決などと考え、自分には関係ないと考えている生徒は、恐らくクラス対抗戦後に少なからず後悔するはずだ。

クラス対抗戦は代表同士の『個人の技量』を評価するのではなく、そのクラスの『組織力』『団結力』が試されており、対抗戦でクラスの代表が敗れたとしても、総合的評価には代表同士の勝敗は、その中の一つの評価としてしか認識されない。つまり、相手のクラスの代表に自分達の代表が敗北したとしても、全体的評価で相手のクラスよりも上位に位置づけられる事だってある。

まぁもっとも、クラス代表の勝敗がそのクラスの評価対象の中でも、一番の重要な評価に繋がるのは間違いではないが。いくら周りが頑張ろうと『結果』に繋がらなくては意味がないのだから。
だがそれでも目覚ましい『組織としての技量』が高く評価されれば、総合的に優勝をする事も不可能な話ではない。その証拠に過去を紐解けば、代表が敗れたものの、クラス対抗戦で『総合優勝』を果たしたというクラスの記録が確かに残っている。

そして、各クラスへの視察や監査を行う『クラス対抗戦監査員』を任じられている教職員の先生方の、今日までに措ける各クラスの評価も既にほぼ終了した所だ。


「山田先生。現在の各クラスに措ける評価はどうなっていますか?」
「はい。やっぱり二年生、三年生ともなるとお互いに牽制し合っている姿が多く見られています。ですがやっぱり、一年生はただの学園行事としか捉えていない生徒が大半を占めているようです。まぁしょうがないと言えばしょうがないですね」
「そうですか。全くなんとも緊張感に抜ける話しだ。【IS学園】は一般の学校とは違うという事は入学前に分かっているだろうに。最初に私は言った筈だぞ。クラス対抗戦は『各クラスの実力推移を測るものだ』とな。クラスの評価の底上げの為にクラス代表を鍛え、支援し、代表同士との対決までに優位な状況を作り上げる事が、自分達の『組織』としての力を示す事に繋がると考えつかんのか。その結果がその後の自分達のクラスの評価になるというのに」
「あ、あははは。まぁその、みなさんまだ高校生になって間もないですから」


私の言葉に山田先生が困ったように乾いた笑いを浮かべる。

緊張感のない一年の現状に溜息を吐きつつも、クラス対抗戦後に痛い目を見るであろう一年生達に呆れる。

まぁ、その後の自分達の在り方を考えさせるには十分に効果が期待できる事には変わりはないが。


「あ! ですけど、一組のクラスの評価は高いようですよ! みなさんクラス対抗戦の真意に気付いたみたいで色々と動いてるようですから! 私達としては鼻が高いですね~」
「……」
「あ、あれ~? な、なんでそんなに不服そうなんですか織斑先生? わ、私達の受け持つクラスのことですよー…?」
「…不服などない。まぁガキ共にしては上出来だと思っていますよ」
(えぇー…? そ、その割には表情が険しいんですけど、言葉にも棘が)


不服などない、ああ不服などないさ。現に一年のひよっ子共にしては中々良い動きを見せていたと思っている。

アリーナの使用の権限を他の組よりも多く獲得しようと動く者。
他の組のクラス代表の特徴や情報を集め、織斑や五反田に伝える者。
織斑の重要な情報を隠し、他のクラスへの漏洩を防ごうと呼びかける者。
普段通りの態度で、日常会話からそれとなく偽情報を他のクラスの生徒に流す者。
織斑へISの整備、調整、点検に名乗りを上げサポートを進みでる者。
クラス対抗戦の真意に気付いていない他のクラスに、その真意を気付かせないよう行動を徹底し暗躍する者。

と様々だが、それぞれクラス対抗戦に向け各々が一組の優位な状況を作り上げようと動いていた。

―― それも一人の漏れもなく一組の生徒全員が、だ。

入学し一月程しか経っていない一年生にしては、これは珍しい事であり。監査、視察を行っていた教職員の先生方を少なからず驚かせたようだ。

この事で『流石織斑先生の教え子ですね。素晴らしい』などという言葉を掛けられたのも記憶に新しい。

ああ本当に良くやったと思っている。いい傾向だとも。
クラスが一つになって事に望む、それは素晴らしく尊い事だ。この経験はあいつらにとって何事にも代えがたい人生の財産になる事だろう。

理解しているさ、理解しているとも頭では分かっているんだ―― だがな?


「これをあの害悪小僧が触発し、引き起こした事だというのがどうしても納得がいかん…!!」
「あー…や、やっぱりそこですか」
「いつもいつもいつもいつもいつも人の胃に痛みと重みを与えん事しか引き起こさんくせにっ!! 今回の様な事態に持って行ける能力を持っていながら何故それを常日頃から実行しようとせんのだあの小僧…っ!」
「あ、あは、あははははは」
「しかも忙しい一夏の代わりにクラスのまとめ役に、自分以外にもオルコットを当てたり、近接訓練に篠ノ之に実戦剣術を組み込むよう頼んだり、クラスの手持ちぶたさな女子に各々仕事を頼んで仲間意識を高めるのを促したりと、そういったさり気ないフォローを加えるくせに、私には胃痛しか与えんとはどういう事だ……!? 嫌味か? 嫌味なのか? 私に対する挑戦か? 喧嘩売っているのか良い度胸だ買うぞ幾らだ…?」
「お、織斑先生。ず、ずれてます論点がずれてきてますよ? 落ち着いてくださいぃ」
「だいたい見舞いに来た時もそうだ。誰のせいで寝込む事になったと思っているんだ害悪野郎が……っ!」
「ああ……ありましたねぇ。そんな事も(遠い眼)」


私の言葉を聞いた山田先生が、ふと窓の外へと視線を向け夕焼け空をその瞳に映し遠い眼をした。

心なしか哀愁が漂っている。ああそうだ山田君も被害者だったな。

そんな山田君に釣られるように私も再び窓の外の夕焼け空に視線を移した。


【 回想 】

『―― へいお待ち! お見舞い品片手に只今参上! 五反【ヒュッ! トスッ】っておおおおおおっ!? 額がっ!? 額にペーパーナイフがサクッとおおおおっ!?』
【見事な投擲術ですね。しかもノーモーション。素晴らしい】
『―― 即刻消え失せろ』
『酷くねっ!? お見舞いに来たのに!』
『貴様がそれを言うのか? 良い度胸だ今すぐ潰してやろう』
『というかいきなりナイフスルーとか危ないなぁ、俺じゃなきゃ死んでるよ。【スポッ】お、取れた』
『いやいやいや! おかしいです!? おかしいですよそこっ!? ご、五反田君何で平気なんですかっ!? 普通に抜かないでください!』
『あ、俺バンダナの下に鉄板仕込んでるんで。』
【厚さ1cm。相棒の頭突きにはご注意を。軽く死ねます】
(ど、どこの全身包帯姿の剣客ですかっ!?)
『ちっ、もういい何の用だ五反田。騒ぐだけなら何処か余所でやれ、私の手を煩わせん範囲で、遠くで。いやむしろ何もするな。すぐに私の前から失せろ』
『だからお見舞いに来たんですってば。えーと…ほい織斑先生にはこちら! 『弾特製やっぱこれだね茶碗蒸し』! どぞ』
『…何故茶碗蒸しなんだ?』
『胃に優しいんです』
『貴様本当に潰されたいらしいな』
『せ、先輩……』
『あ、そうそう。そしてマヤたんにもお見舞いの品を』
『な、なんですか……?(身構える)』
『相棒』
【へいどうぞ(にゅるり)】
(…なんだその妙な出し方は)
『そ、それはなんですか?』
『マヤたんにはこれ! 肉じゃが――』
『えぇ? な、なんで肉じゃがなんか……』
『―― をご実家のマヤたんのお母様から預かって来ました。』
『…はい?』
(ん? 温かい。出来たてかこの茶碗蒸し?)← 巻き込まれ回避。
『どうぞ』
『え、ああどうもありが――ってち、違いますよ!? ど、どどどどどういう事ですかああああぁぁっ!? 五反田君っ!?』
『え、何が?』
『ななななんなんっなんで五反田君が私のお母さんの肉じゃがを持っているんですかあああっ!?』
『? そりゃ預かってきたんですから当然でしょう』
『そういう事じゃないですっ!! だから! なんで五反田君が私のお母さんから肉じゃがを預かって来てるんですかっ!?』
『…そりゃ頼まれたんですから、別に不思議でもないでしょう』
『不思議ですよ!? 今までの私の半生の中でトップに立つ程、摩訶不思議で奇想天外な出来事ですよっ!? なんでお母さんの肉じゃがを五反田君が預かっちゃた上に頼まれたりしちゃってるんですかあああああああああああああああああああああ――――っ!?』
『…いや、成り行きで』
『何でですかっ!? 一体どういった経緯でそんな事態が起こっちゃうんですか!?』
(うむ、筍が柔らかいな。味も効いてる)← 超他人事。
『……』
『その『おいおい、大丈夫かこの人?』みたいな視線止めてください!? 会ったんですか!? 私のお母さんに会ったんですか!? いつ何処で何時何分の事ですかああああっ!?』
『先生疲れてるんだよ…。ほら、横になって布団被ってください』
【大丈夫。安静にしていればきっと良くなりますから、ね?】
『こ、ここここれ、これが大人しく眠ってなんていられる訳ないじゃないですかああああっ!? どうしてですか!? なんでお母さんに会っちゃってるんですかあああっ!?(半泣き)』
『ああうん、分かったから。俺が悪かったですから。…そうか、まさか此処まで情緒不安定になる程、【IS学園】の教師ってのは過酷な激務なのか。認識甘かったなぁ俺』
【改めましょう相棒】
『そういことじゃないでしゅ!! にゃんじぇお母さんに会えたんですか!? まさか行ったんですか!? 私の実家まで行ったんでしゅかあああああっ!?』
『ああついに呂律まで…くっ! もう見てらんねぇよ相棒っ!』
【耐えろ相棒。現実を受け止め、正面から受け止めてやることが一番の特効薬だ】
『くっ、そうだなっ! …あ、そうだマヤたん。いくら激務で忙しいからって嘘はいかんよ嘘は(ケロッ)』
『う、嘘って何ですか!? 一体何の事ですか!?』
『…おい五反田。茶碗蒸しは一個だけか?(完食)』
『あ、おかわりあります。相棒』
【へいお待ち(にゅるり)】
『どぞ。熱いので気を付けてください』
『すまんな』
『うわああああああああんっ!? 先輩ってば他人事だと思ってえええええっ!? あんまりですぅぅっ!』
『それはそうとマヤたん。嘘はいかんよ本当。お母さん大事にしなきゃ駄目じゃないか』
『何の事ですかっ!? というかお、おおお、お母さんに何を言ったんですかああああっ!?』
『ここ最近のマヤたんの近況を事細かに親切丁寧にご報告しました。そしたらお母さん泣き出しちゃって大変だったんですから全く』
『いやああああああああああああっ!? 何を言ったんですかあああああああっ!? お母さん泣きだす位、私の恥ずかしい失敗でも話したんですかああああああっ!?』
『いや、近況話し終えたらマヤたんのお母さん『―― 良かったっ! 本当に良かった…! あの子電話でもメールでも【しっかりやってる】【私も大人なんだから心配いらない】【私は出来る女なんです!】なんて事ばっかりしか言わないからっ! ああ、良かったわぁ全く見栄張っちゃって、おっちょこちょいなのは変わらないのねぇ……いつも通りで安心したわぁ』ってそれはもう本当に安心したように嬉し泣きを』
『おかああああああああぁぁ――さああああああああああああああぁぁ――んっ!?』
(…美味い)


【 回想終了 】


―― ああ本当に。


「美味かったな。あの茶碗蒸し」
「そこですかっ!? 五反田君のお見舞いに関して覚えてるのはそこだけですか先輩っ!?」
「それ以外は特にどうでもいい事だからな。それから山田先生。学園内でその呼び方は控えてください」
「ううぅ、あんまりです…! ええまぁ美味しかったですよ肉じゃが……実家のお母さんの味でしたからねぇ!? 電話で確認したらお母さんに『いい教え子さん持ったわね。真耶?』って言われましたよっ! ううぅ何でこんな目に……」


そのまま机に突っ伏した山田先生は、しくしくと啜り泣きを洩らし始めた。

その様子に私は小さく苦笑する。まぁ、五反田を押しつけた私のせいでもあるのだがその辺は諦めて貰おう。(生贄)

あいつの居るクラスを受け持ってしまったからには、騒動に巻き込まれるのは回避不可能なのだからな、本当に少しは自重というモノを覚えろあの馬鹿が。

―― そうだ騒動と言えば。

ふと、【ある事】を思い出した私は自分の仕事机の引き出しを開き、一枚の用紙を取り出しその内容に目を走らせる。

その内容は――


『【IS学園】のデータベースに何者かが不正にアクセスを試みた痕跡有り。教職員は十分な警戒を持つ事。なお、アクセス元の特定には情報に不可解なモノが混ざり、データ上に酷い混乱も見受けられ。特定不可』


目を通し終え―― 私は小さく溜息をつく。


(今回は当りだったか……やれやれ、全く無茶な事をする)


この内容を目にした瞬間、私の脳裏に浮かんだのは―― 一人の道化師の姿。

何を調べるつもりでアクセスを試みたのかは皆目見当もつかないが、毎度の様な馬鹿げた珍騒動目的だとは思っていない。

悪戯にしては度が過ぎている、それはあいつも分かっている事だろう。ならばこのような事をしなければならない事態にあいつが遭遇してしまったという訳か。

あいつがやった事だと確認もしていないのに、私の中では既にあいつの仕業だと確定されていた―― それは何故か。


(―― 時期が一致している)


この【IS学園】のデータベースに不正アクセスを試みた時期と。

私達教職員が、『寮内の部屋番号をランダムに張り替え、生徒達及び学園に大混乱を招いた珍騒動』の処理と後始末に四苦八苦し、『他の事に目を向ける暇もない』くらいに混雑していた時期と―― 一致している。

単なる偶然と片付ける事は簡単だが。 

実際この報告書の存在を知ったのはあの騒動の後始末を終えてしばらく経った後だった。その他の溜まりに溜まった書類の中に埋もれていた中からこれは出てきた。

その後色々と調査したがそれ以来何者かが不正にアクセスを試みる事態は起こらず、結果として今後十分に警戒を敷く事で一応の決着となった。

それに今はクラス対抗戦の事もある。表だって行動し生徒に余計な不安を与えるのは得策ではない。


(まさかとは思うが…此処まで読んでいたのかあいつは? …あり得ないと言い切れん所がまた厄介だ)


また小さく溜息を吐いた私は、その書類を今一度眺め―― そしてすぐに小さく丸めると近くの屑籠の中に放り投げた。

私は忙しいんでな? いつまでも終わった事に構ってなどいられん。

それに今後もあいつの行動には目を光らせていなければならない。

大抵が意味のない、こちらの頭を悩ませる事にしかならん珍騒動ばかりだが―― またいつ、起こした珍騒動の裏で、この道化師が暗躍するか分からんからな?


(今度は一体何をしでかすつもりなんだピエロめ……。全く私の周りには能力は高いくせに、色々と問題のある奴しかいないのか? 頭の痛い事だ。……まぁいい、今はせいぜい泳がせておいてやる。……いずれ何かしら役に立ってもらうぞ五反田?)


少し温くなってしまったコーヒーを口に含みつつ、私は小さく苦笑した。



*  *  *



【 一夏SIDE 】


―― 意識を深く落とし、全身の神経の隅々まで意識を張り巡らせるように瞑想する。

薄暗い闇の中。

自分以外には誰も存在しない、人ならば誰しも持っている己だけの精神世界。

その中で俺は自分に問いかける。


体に異常はあるか? ―― 問題なし。

疲れは? ―― 無し。昨日は体を解す程度の鍛錬後一日十分に休んだ。

やり残したことは? ―― 無いとはいえない。俺はまだまだ未熟だ。いくら鍛錬してもその思いは消える事は無い。今この時でさえ己の未熟さを痛感する。

自信は? ―― 良く分からない。有ると言えばあり、無いと言えばない。後は俺次第だ。

勝算は? ―― 僅かだがある。ならそれを手繰り寄せる事に心血を注げ。

気合いは――


「―― 十分だ」


閉じていた瞼を見開き、俺はゆっくりと自分の意識を浮上させ前方を見据える。開けた視界の先には、ピット内から第二アリーナへと続くピットゲートが伸びていた。


―― いよいよだ。


『白式』を纏い体の緊張を解しながら、俺はもうすぐ開始されるクラス対抗戦に、鈴との対決に意識を高めていた。

俺の隣ではそんな俺の緊張が伝わったのか箒が気遣うような視線を向けてくる。その後ろでは、千冬姉と山田先生がピット内のコンソールを前に会話をしている姿も見える。


「一夏あまり緊張に呑まれるな。戦いに措いて適度な緊張は己の武器となるが、それが過ぎると自分の首を絞める物にしかならんぞ」
「分かってる。大丈夫だよ箒」
「それにしては先程からそわそわと落ち着きがない様に見えるが?」
「これは気持ちが逸ってるだけだ、心配いらない」
「…そうか、ならばいい」


俺の言葉に少し呆れたように苦笑する箒。そんな箒に俺も小さく笑みを返す。

箒には……いや、箒だけじゃないな。みんなには今日までの間にホントに世話になった。

今日までの事を振り返ってみる。


―― 何度も叩きのめされる度に、自分の弱さに憤怒し。

―― 何度も打ちのめされては、みっともなく倒れ伏す自分の不甲斐なさに憎悪し。

―― 何度も挑む度に、実力の違いと、その遠さに絶望し。

―― そんな俺を見限る事無く何度でも受けて立ち、叱咤してくれる幼馴染の少女に感謝し。

―― 俺の成長を少しずつ、だが確実に促し、導き、諭してくれる英国の少女に感謝し。

―― 俺を支え、見守り、応援してくれるクラスの仲間達の存在の尊さに感銘し。

―― 何時も何処でもどんな時でも、肩を並べ共に歩んでくれる親友の心強さに激励された。


本当にみんなには世話になった。

支えてくれた仲間達の為にも、クラス代表としてクラスの今後の為にも、自分自身の為にも。

―― そして鈴の為にも。

今日のクラス対抗戦―― 無様な姿だけは、絶対に見せられない!

今一度気合いを入れ直しもうすぐ始まる試合に向けて意識を高める。


―― シュン。


「へいお待ち! 俺にしては地味な登場五反田 弾です! 何とか間に合ったようだね~」
【今日も元気に前掛けやってます。七代目です】
「お待たせしました。一夏さんの調子は如何ですか? 箒さん」
「弾にそれとセシリアか。少し緊張が見られる意外特に問題は無い様だ。それにしても遅いぞ二人とも」


その時、ピット内のスライドドアが自動的に開くと同時にいつもの調子でヘラヘラとした気の抜ける表情を浮かべた弾と、それに追従するようにセシリアがゆっくりとした足取りでピット内に姿を現した。

そんな二人に箒が少し呆れたよう苦笑を浮かべ二人を出迎える。

うん、ここ最近色々と協力する事が多かったせいか俺達の間に流れる雰囲気はかなり良好なものになっている。箒も随分打ち解けて来たみたいだし…良いよな? 何かこういうの。

二人が入ってきた事に千冬姉も気付いたようだけど、若干溜息を吐いたものの特に気にした様子もなく作業に―― ってなんだか山田先生が涙目になって『うう~~~!』と弾を威嚇している―― 何があったんだ?

その視線に弾が『肉じゃが!』と手を上げて挨拶すると、山田先生が『あうあうあ~~』と、目を細目にして滝の様な涙を流した……おい、本当に何があった?

色々気になるけど、そのまま弾とセシリアは俺と箒の近くまで歩み寄って来る。


「もうすぐ試合が始まるぞ? 一体何をしていたのだ」
「ちょっと野暮用でね? まぁ間に合った事だし気にしない気にしない!」
「野暮用?」
「お、お花摘みに(もじもじ)」
【大か小か、それが問題だ】
「だ、弾さん……」
「お、男がそんな事口にするなっ! やめんか気色悪い! 後下品なこと言うなそこの前掛け!」
「一気に騒がしくなったな。それで本当は何してたんだよ?」
「うむん? まぁちょいと人に会ってきた所だ」
「人に? ……また妙な連中じゃないだろうな?」
「妙なって酷いなお前? レディに対して」
「レディ? 相手は女の人か?」
「はい。私の家『オルコット家』で私付きのメイドをしている。チェルシーに会ってきた所ですわ」
「チェルシーって、確かセシリアの幼馴染の?」
「ええ、そのチェルシーです。ようやく調査結果がまとまったとの連絡を受けたので、調査データを受け取ってきた所ですわ」
「調査データって……もしかして!?」


その言葉を聞いて、俺は思わず弾に視線を向ける。

俺の視線を受けた弾はヘラリと表情を崩すと、しっかりと頷き返してきた。―― ってことは!


「おう。必要な手札は一応全部揃った所だ。一応は、な?」
「―― っそうか揃ったのか! 試合前に良いニュース聞いたぜ」
「そうだったのか。セシリアも良くやってくれたな」
「え、ええまぁ。それ程でもありませんわ……」
「ど、どうかしたのか? 何やら随分と疲れているようだが?」
「大丈夫ですわ…ちょっと色々ありまして」
「色々……弾か?」
「はい、実は――」
【回想開始! 良い子は部屋を明るくして離れて見てね? 悪い子は……シラネ】


【 数十分前 IS学園校門前 】


『……ふむ? まだ来てないようだな。ちょいとばかし早く来過ぎたかね?』
『そのようですわね―― あっ弾さんあちらを』
『おおう?』
【黒のリムジンキターッ!】

ブロロロロー……キキーッ!

『お、来たみたいやね?』
『ええ、時間ピッタリですわ。流石ですわね』

ガチャ、バタン。

―― コッコッコッコ。


『―― お待たせいたしましたお嬢様。』
『チェルシー! よく来てくれましたわ! 変わりは無いようですわね』
『はい。お嬢様は……ふふ、少し見ない間にまたお綺麗になられたご様子で』
『そ、そうかしら? 自分では良く分からないのだけれど』
『ええ、お綺麗になられました。まるで奥様を目にしているようでございます』
『チェルシー……あ、ありがとう。でも私なんてまだまだですわ。お母様には遠く及びません』
『ふふ、そんなにご謙遜なさらずともよろしいと思いますよ? 奥様も、そして旦那様もお嬢様のご成長をきっと喜んでいらっしゃいますよ』
『う、うぅっ!』
『あらあら。真っ赤になって如何なさいましたセシリアお嬢様?』
『も、もう! チェルシーもうっ!』
『クスクス♪ はいはい。申し訳ありませんお嬢様』

―― ザッ

『―― っ!?』
『……』
『あ、貴方、は……!』
『あ! そ、そうでしたわ。そういえばチェルシー? 貴女以前電話越しで妙な事を――』


『―― 初めまして……かな? どうも五反田 弾です』
『―― っ! え、ええ……は、初めましてチェルシーと申します。以後お見知りおきを……っ』
『チェルシーさんですか……素敵な名前ですね』
『……ありがとう……ございます』
【~~~~~~~♪】←ムード溢れる洋楽。


『ちょ、ちょっとお待ちなさい? ちょーっとお待ちなさいそこのお二方?』
『お、おおう? どうかしたセシリーちゃん?』
『ど、どうかなさいましたか? お嬢様』
『どうかしたのですかではありませんわ! 何ですの? その、お互い相手の事を知りながらも初対面を装うみたいな会話は!? 何でそんな態度とる必要があるんですの! 一体どういった関係なんですか!?』
『な、何を言うんだセシリーちゃん? お、俺とチェリ……チェルシーさんは今日が初対面デスヨ?』
『え、ええその通りですわお嬢様。私とバ……ご、五反田様は今日が初対面です』
『今何か言いかけましたわよねっ!? 隠す気あるんですの貴方達は!?』
『か、隠すも何も本当に初対面だぜ? ……プライベートでは(ボソッ)』
『え、ええその通りですお嬢様。……プライベートでは(ボソッ)』
『今何か呟きませんでした!?』
『あ、あー! お、お嬢様! そ、そういえばこちらがお嬢様に頼まれた調査結果のデータでございます。どうぞご確認を!(バサッ)』
『話をすり替えましたわねチェルシー!? いえ確かにこちらも重要なのですが私としてはもう一つ確認したい事があるのだけれど!?』
『ま、まぁまぁセシリーちゃん! ほら一夏の試合まで時間も無いし、調査結果の確認をしちまおうぜ!』
『そ、それはそうですけど……ま、まぁいいでしょう。とりあえずこの件は保留にしておく事に致しますわ』
『そ、それがよろしいかと―― コホン! それでは調査結果のご報告ですが、全てを調べ上げるのは情報が情報なだけに量が膨大なものになってしまいましたので、時間内に全てを完全に調べ上げる事は出来ませんでした。力及ばず申し訳ございません』
『そうですの……それは仕方ありませんわ』
『ふむ』
『はい。ですがその中でも特に重要な物をピックアップし、その重要度別に仕分けをしてあります。細かく小さな事は省いていますが大まかな事はそのデータに記されている筈です。おそらく今回はそれで問題無いかと』
『ほほう……? (ペラ)―― おおっこいつは良いな! 見やすい上に重要性別に区分けしてある! それに……ああイケる! 十分この情報は使えるぜ!』
『確かにそうですわねっ! これだけ調べ上げられていればおそらく』
【文面を記録、バックアップ致します】
『もう少し時間があればさらに詳細を詰める事が出来たのですが、至らない事ばかりで面目次第もございません』
『何を言ってるんだ! 十分役に立ってくれる物だぞコレは! 良くここまで調べ上げてくれた! 大したもんだ!』
『その通りですわチェルシー! 良くやってくれましたわっ! ありがとうチェルシー』
『恐縮です』

『―― ありがとうチェリー。大事に使わせてもらうよ(慈愛の瞳)』
『―― バロン・・…(切ない瞳)』

『……それは振りですの? 私に追求しろという振りですの?』
【押すなよ? 押すなったら押すなよ? 絶対だぞ!? という振りですね分かります】
『―― おっといかん時間が無い! へいセシリーちゃん第二アリーナのピットへ急ごうぜ!』
『……ええそうですわね。色々と思う所は有りますがっ!』
『セシリアお嬢様、五反田様。どうかご武運を』
『ありがとうチェルシー。どの位日本に滞在致しますの?』
『申し訳ありませんお嬢様。『オルコット家』の業務が残っておりますので、今日の夜には本国へ戻ります』
『そうですの……久しぶりに一緒に食事でもと思いましたのに』
『申し訳ございません。次の機会を楽しみにお待ち申し上げております』
『ええ、私も楽しみにしていますわ。―― では五反田さん戻りましょう』
『そうだねー急ごうか?』
『行ってらっしゃいませ。セシリアお嬢様、五反田様』
『ええ、それではまた』

『―― チェリー本当にありがとうっ! このお礼は必ずっ!』
『―― っ! いいのバロン。貴方の役に立てただけで私は……っ!』
【従者の鑑ですね。素晴らしい】

『貴方達本当は隠す気ないでしょうっ!?』



【 終了 】


「―― という事がありまして。」
「……そうか、色々と大変だったなセシリア……」
「お前過去に本当に何してたんだ?」
「…昔の話さ。お前が気にする程大した事じゃないさ(何かを懐かしむ瞳)」
(((いつか絶対に聞き出してやる【やりますわ】)))


弾の様子に密かにそう思った俺達だったが――


ビーッ! ビーッ !


【間もなくクラス対抗戦第一試合を開始します。一年一組、二組の各クラスのクラス代表は第二アリーナ内へ入場してください。】


その時ピット内にブザーが鳴り響くと同時に、アナウンスからの放送が響き渡った。

―― っついに来たか!

表情を引き締め、俺は瞬時に思考を切り替えてビットゲートの先を睨みつける。


「間もなく試合開始だっ! 織斑は至急第二アリーナへと入場を開始しろ! そこのガキ共っ! そこにいると邪魔ださっさと離れろ!」


千冬姉の厳しい声が響き、その声を聞いて慌てて三人が俺から距離を取って離れた。

俺の視線の先ではピットゲートの先からゆっくりと光が差し込む―― アリーナへの入場口が開いたようだ。

ドクンドクンと、俺の心臓が早鐘を打つ。

落ち着け! 落ちつけ俺! 俺に出来る事を全部出し切るそれだけでいいんだ!

そう自分に言い聞かせるも腕が小気味に震え、喉もカラカラに乾いていく。

―― くそっ何震えてんだっ! 怖気づくには早すぎるぞ俺! シャキッとしろ!

自分自身を叱咤するもそれは大して効果は無い。

くそっ! こんな時に……こんな体たらくじゃ試合にならねぇだろ! 弾の! 箒の! セシリアの! クラスの皆の頑張りを無駄にする訳にはいかねぇんだよっ!

認識が甘かった、考えが至らなかった。此処に来て初めて俺は自分の肩に乗っかっている重圧の重さを認識した。

クラス代表としての責任、覚悟。そしてそんな俺に対するクラスの仲間達の期待と思い。

そしてこの一戦で左右される―― 鈴の今後の運命っ!

それが今全部俺の肩に、この一戦に掛かっているという事を。

こんなに重いなんて、これ程キツイものだったなんて……!

くそっ馬鹿か俺は……! 平和ボケにも程があるだろ! 生半可な気持ちじゃ勤まらないって何でもっと自覚しないんだ! 何が大丈夫だ! 覚悟決めたんじゃねぇのかよ!?

時間が圧している。早くアリーナに入場しなければ―― けど体が……! 

足が震える、腕が上がらない、頭が真っ白になっていく。

―― 駄目だ俺っ…このままじゃ――っ!? 


「「「―― 一夏っ(さん)!!」」」
「―― っっ!?」


硬直する俺の耳に自分の名を呼ぶ声にハッとし、瞬時にそちらへと顔を向ける。

その視線の先には―― 俺を支え続けてくれた頼もしい仲間達の姿。


「何を怖気づいている一夏っ!! 今日までの特訓を思い出せっ! お前は私との特訓で何度倒されても! 何度打ちつけられても! 私との力量差を見せつけられようとも! それでも立ち上がり果敢に挑んできたではないかっ!? この程度撥ねのけて見せろっ!!」

―― 箒っ!

「そうですわ一夏さんっ! 貴方の頑張りは! 努力は! 貴方を傍で支え、応援してきた私達が誰よりも理解していますっ! クラスの皆さんだってそうです! 皆さんも一夏さんの事をちゃんと分かってくださっていますわ! 何も臆する事はありません! 一夏さんは、貴方が成すべき事に全力を注ぐだけでいいのですっ! 自信を持ってください一夏さん!」

―― セシリアっ!

「一夏分かってんな!? この一戦、鈴の為にも絶対に失敗できねぇって事はよっ!?」
「弾っ!?」
「弾さんっ何を!?」


弾の言葉を聞いて箒とセシリアが焦った様な声を上げるが、俺はそんな弾の言葉に耳を傾け続ける。


「俺の集めた手札がどれほど効果を発揮するのかは、この一戦の結果に響くのはお前にも分かってんだろ!? 絶対にモノにしろ! 今頃怖気づいたなんて不抜けたこと言うんじゃねぇぞ!!」


そう言って叫ぶ弾の表情は―― 悔しさと、言いようのない憤りがにじみ出ていた。

弾、お前……?


「はっきり言ってな……? お前にこんな重大なモン背負わしちまって悪いと思ってる。出来る事ならこの一戦変わってやりたいくらいだっ!! ―― けどなぁっ!?」


その顔は―― 久しぶりに見た。親友の今にも泣き出しそうな表情。


「―― 俺じゃ駄目なんだよっ! どう考えても何度頭捻っても俺じゃ駄目なんだよっ!!」


その声を聞いて―― 俺は瞬時に理解した。

そうか・・…弾お前……っ!


「この一戦は! お前じゃなきゃ最高の結果に届かせる事が出来ねぇんだよっ!! ―― だからっ!!」


お前―― 悔しかったんだな?

自分には、出来ない事だと。自分では成し遂げられない事だと理解してるから―― 自分の力で切り抜けられない事が心底悔しかったんだろう。

お前今までずっと―― それを隠して押し殺してきたのかよ?


―― 馬鹿だ。

―― ああ馬鹿だよ。

―― 本当に救い様のない位にっ…!!


「貸してくれ……! 俺じゃどうにもできねぇっ! だから必要なんだよ! お前の! 『織斑 一夏』の力がどうしても必要なんだよっ! だから頼む一夏っ!」


―― 俺って奴は、救いようのない大馬鹿野郎だっ!!!


親友の苦しみをっ悔しさを! 何一つ気付いてやれなくて! そして今ブルって震えて弾を不安にさせて! あいつが必死に隠してきたもんを! 知られたくなかった思いを暴露させるなんて事させて! 


何やってんだよ……っ? 


―― 何やってんだよ!? 織斑 一夏っ!!


体中が熱くなる。

緊張も、震えも、恐怖も全てに呑みこんで―― 俺は自分自身に激しい怒りを覚える!

不甲斐ない心など、不抜けた思考など、弱い心など全てを焼き尽くす炎の如く、俺は自分自身を奮い立たせるっ!!

弱音だ? 不安だ? 恐れだ? 

―― そんなもんっ! 後にしやがれこの大馬鹿野郎がぁっ!!!

そして―― 俺の耳にそれは届いた。



「―― お前の力を! 俺に貸してくれっ一夏っ!!」



―― ッッ!!!


親友の叫びを聞いた瞬間―― 俺の中で何かが激しく燃え上がった。

あいつが、俺を頼っている。

あの弾が、俺の力を必要としている―― 

親友が、俺に助けを求めてる――っ!

体中に力が漲る。心が歓喜に激しく震える―― っ!!

俺はその感情のまま……弾へと視線を向ける。

俺の瞳を捉えた弾は、一瞬驚いたように目を見開き。


さっきとは打って変わった、眩しい笑顔を向けて声を上げた。


「―― 頼んだぜっ!! 親友っ!!」
「―― 任せろっ!! 親友っ!!」


互いに拳を突き出し、お互いに最高の笑顔を向けそう言葉を放った。

そんな俺達の様子を、箒とセシリアがどこか呆れたように……けど心底嬉しそうに見守っている様子が視界の隅に映る。

千冬姉は『全く、男という奴は。』と苦笑を洩らし。山田先生に関しては『ゆ、ゆうじょうっで、ずばらじぃ~でずね゛ぇー!』とハンカチ片手に号泣。

そんなピット内の様子から視線を戻し、俺はピットゲートに向かって一歩を踏み出した。

何も恐れる必要なんかない。俺は俺の成すべき事を成すだけだっ!!


(―― 頼むぞ『白式』。お前の力を俺に貸してくれっ!!)


身に纏うISに、俺のもう一人の相棒に心の中で語りかける。

すると、まるで俺の声に応えるかのように『白式』が淡い光を放出し始めた。


(―― お前も気力十分って訳か……頼りにしてるぜ? さぁて行こうかっ!!)


『白式』のクラスターから光の粒子が放出され、ゆっくりとピットゲートを進んでいく。

―― 待ってろよ鈴!!



「―― 織斑 一夏! 『白式』行くぞっ!!」



俺の叫びと共に『白式』がクラスターに一気にエネルギーを加え―― 俺はアリーナへと飛び立った――


【 簪 SIDE 】


ワアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァ――ッ!!


ピットゲートから真っ白いISがアリーナへと姿を現した瞬間、アリーナ中から歓声が響き渡る。

その声の大きさに顔を顰めた私は、耳をふさいでアリーナへと目を向け続ける。

あれが弾以外のこの学園に在籍するもう一人の男子、『織斑 一夏』。

その姿を見た瞬間……私は機嫌が急激に悪くなって行くのを自覚した。

あの男子がいなければ、私の専用機は今頃……。

あの男子が悪い訳じゃないって事は頭では分かっている。けどそれと感情は別問題だ。

貴重な『ISを起動できる男子』を優先したいのは分かるけど、だからって私の事を蔑にするのはどうかと思う。

そんな私だったけど隣に座る本音に肩を叩かれたので、耳をふさぐのをやめて本音に視線を向ける。


「もう耳から手を外しても大丈夫だよ~かんちゃんー。それにしてもー……ひゃー流石おりむー大人気だねー?」
「……そうみたいだね」
「あれー? かんちゃんおりむーの事嫌いなのー……って、それもそうかー」
「……別に嫌いでも何でもない。どうでもいいから。」
「おりむーが悪い訳じゃないんだけどねー? あーあー、おりむーもだんだんみたいに最初から完成していたISを持っていれば、かんちゃんに嫌われる事もなかったのにねー?」
「……え? 弾の専用機って最初から完成していたの?」
「そーみたいー詳しい事は分かんないんだけどねー……ってはれ? かんちゃんだんだんの事知ってるのー?」
「え? う、うん……その、とっ友達……」
「……なんですと?」


ピタリと動きの止まった本音だったけど、私はそんな本音の様子を無視して思考する。

弾のISってあの妙に感情豊かな前掛け……だよね?

そのISは既に完成された状態で弾の手に渡っていたって言う事?

組み立てるまでの過程を無視して、用意されていた? 

それは何時? 何処の研究所が先頭に立って? 倉持技研は―― 恐らく無関係。もしそうなら私にも情報が来る筈。

あの白いISが用意されるのにだって恐らく結構な時間を必要とした筈……なら、弾のISは誰が?

……考えても仕方ないかな。また今度弾に聞いてみよう……うん。

弾との会話の話題が一つ増えた事に、私は妙に嬉しくなりながら視線を上げ―― そこでまだピタリと固まったままの本音が、じっと私を凝視しているのに気づいた。

え……な、何?

少し動揺した私に本音が声を掛けてくる。


「えー……かんちゃん? だ、だんだんとはいつお友達になったのかなー?」
「え? な、なんでそんな事聞くの……?」
「やーだってだんだんの事を下の名前で呼んでるしー? いつの間にそんな親しい関係になったのー? 私も知らない衝撃の事実なのだよー?」
「え、えっと……少し前に」
「ふむふむ~?」
「えと、相談に乗ってくれて……その時に」
「ほーほー♪」
「その後……け、携帯の番号を交換して……その」
「おー携帯の番号をこうか……交換ーっ!?」


突然大声を上げた本音に、私はビクッと体を震わせた。

な、なに? どうしたの本音? 

そんな私の様子を気にした様子もなく、本音が言葉をまくし立てる。


「こ、交換!? 交換ですとーっ!? な、なんでいきなりそんな展開になるのかな!? あ、会ってすぐ携帯番号交換するまで仲良くなるなんてどんな事があったって言うのー!? わ、私だって交換するのに時間が掛かったって言うのに何だその急展開はー!? こ、こらー! だんだんー! おりむーの事いえないよー!? 手が早過ぎるにも限度あるぞーっ!? 妹か! やっぱり妹属性が好きなのかー!? そんなに妹が好きかーっ!? わ、私だって妹なのに何だこの差はーっ!?」


あ、あれ? なんだろう本音が遠い。

立ち上がって、袖をパタパタ振り回し錯乱する本音。

あ、本音の裾がぺしぺし当って周りの人迷惑そう。


「ほ、本音。周りの人の迷惑だから……あ、暴れちゃ駄目だよ」
「だんだんは内緒にしてる事おおすぎるよ~~! なんでかんちゃんと友達になった事黙ってるのー!? だんだんの馬鹿ーっ! こ、こうなったら私も内緒でいろいろしちゃうぞー! 後悔してもしらないんだからーっ!」
「ほ、本音? わ、分かったから……分かったから落ち着いて、ね……?」
「う、う~~~っ! うぅ~~~~っ!」


少し涙目になった本音が渋々と席に着く……ほっ。

それにしても本音ってばあんなに取り乱すなんて……少し意外。いつもならゆるゆると柳のように受け流すのに。

これも弾のせいかな?

そう思っていた私だったけど……不意に本音が私に視線を向ける。

あ……嫌な予感。


「むぅ~~っか~ん~ちゃ~ん~?」
「な、なに?」
「だんだんとは一体何のお話をしたのかなーと、私は気になったりするのですがー?」
「あ……そ、それはその……」
「相談って何かなー? 私じゃなくてだんだんに相談するってそれはどんな事なのかなー? おしえて~?」
「え、えっと……」
「…(じ~)」
「…」
「……(じ~~)」
「……」
「………(じ~~~)」
「ほ、本音…?」
「なに~?」
「ポ、ポッキー食べる…?」
「……」
「……」
「かんちゃん」
「な、なに……?」
「……それってムースポッキー?(ワクワク♪)」
「え、そっち……?」


本音は色々と普通とは感性が違う事を改めて再確認しました。おかげで助かったけど。


【それでは両者、既定の位置まで移動してください】


その時アリーナにアナウンスの声が響き渡り、私は促されるようにアリーナ中央へと視線を向ける。

いよいよ始まるみたい。

ゆっくりとそれぞれのISがアリーナの中央に移動し空中で向かい合う。

その様子を私は見つめる。

相手は中国の代表候補生。ISを知って一カ月そこらの素人が勝利する確率なんて無いに等しい。

一体どこまでやれるのかそこは見学させてもらう事にする。そんな私に本音がアリーナに視線を向けながら言葉を掛けてきた。


「いよいよだねー。おりむー頑張れ負けるなー♪」
「……勝つのは不可能だと思うけど」
「んー? そうとも言い切れないよー? おりむーは必死に特訓を重ねてきたからねー?」
「……そうかな?」
「そうだよーっ! そ・れ・に~♪」
「それに……?」


言葉を区切った本音に私はいぶかしむ様に視線を向ける。そんな私に本音はほにゃっとした笑顔を向け―― 言った。


「おりむーは、だんだんが心の底から信頼している親友なんだよー。もしかしたら~もしかするかもしれないよー♪」
「―― え……っ?」


弾の……親友?


その言葉を聞いた瞬間――



【それでは両者、試合を始めてください】


ビーッ! とブザーがアリーナ全体に響き―― アリーナ中央で、二機のISが火花を散らして激突した――っ!




【後書き】
どうもこんにちは釜の鍋です。…えー今回、思い切ってチラ裏よりその他版へ移動致しました。どうかこれからもよろしくお願いします。さて次回、ついに激突一夏VS鈴。弾達の策とは? そして勝負の行方は? そして忍びよる不穏な機影。一体どうなる事やら。それではまた次の更新でお会い致しましょう。


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