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No.27655の一覧
[0] 【習作 IS 転生 チラ裏より】 へいお待ち!五反田食堂です![釜の鍋](2013/03/18 01:45)
[1] プロローグ[釜の鍋](2011/11/27 15:22)
[2] 第一話   妹一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 15:30)
[3] 第二話   友達二丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 15:37)
[4] 第三話   天災一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 15:43)
[5] 第四話   試験日一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 15:56)
[6] 第五話   入学一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/12/12 12:28)
[7] 第六話   金髪一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 16:30)
[8] 第七話   激突一丁へいお待ち![釜の鍋](2013/03/18 01:39)
[9] 第八話   日常一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 17:13)
[10] 第九話   友情一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 17:38)
[11] 第十話   決闘 【前編】 へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 17:54)
[12] 第十一話  決闘 【後編】 コースは以上へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 17:49)
[13] 第十二話  帰還一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 18:33)
[14] 第十三話  妹魂一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 19:08)
[15] 第十四話  チャイナ一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 16:43)
[16] 第十五話  暗雲?一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 19:53)
[17] 第十六話  迷子一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 20:19)
[18] 第十七話  約束一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 20:43)
[19] 第十八話  始動一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 21:13)
[20] 第十九話  光明一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 21:56)
[21] 第二十話  幻影一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/28 01:59)
[22] 第二十一話 協定一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/04/26 12:52)
[23] 第二十二話 氷解一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 16:51)
[24] 第二十三話 思惑一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/02/06 19:27)
[25] 第二十四話 開戦一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/02/06 18:38)
[26] 第二十五話 乱入一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/12/26 18:09)
[27] 第二十六話 優先一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 16:46)
[28] 第二十七話 三位一体【前編】 へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 17:13)
[29] 第二十八話 三位一体【後編】コースは以上へいお待ち! [釜の鍋](2013/03/18 23:04)
[30] クリスマス特別編  クリスマス一丁へいお待ち?[釜の鍋](2011/12/25 22:00)
[31] 短編集一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/04/23 23:29)
[32] 短編集二丁へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 17:24)
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[27655] 第二十二話 氷解一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/09/17 16:51
【 蘭 SIDE 】


こんにちは。五反田食堂の看板娘、五反田 蘭です。いつも馬鹿兄がお世話になっています。


ドーベルさんと名乗る『IS学園理事会』の人が家を訪ねてきて数分が経ちました。

一応私でも答えられる内容ばかりのものだから今でも答えれているけど……うーん? これって何の必要性があるのかな?


「では、五反田くんは特殊な訓練を受けていたり何か他とは違う事を学んでいたりした事は無いということでしょうか?」
「あ、はい。お兄って結構面倒臭がりでして、何か部活やったり習い事したりとかそういうのは今までないんです。唯一興味を向けたのが調理でして」
「何か隠れて特訓をしていた可能性はありませんか? もしくは何か特殊な施設に出入りしていたとか」
「う~ん? 毎日のように調理の修行ばっかりだったから……それ以外の時間となると一夏さんや他の友達と遊んだり、近所の子供と大人気なく本気になって遊んであげたり、近くのお年寄り相手にゲートボールで白熱の対決したりとか、まぁお兄らしいといえばお兄らしい毎日をすごしてましたけど」
「……うむむ!」


私の言葉にドーベルさんは眉を寄せて考え込むように顎に手をあてて唸る。

……どうかしたのかな?

別に私変な事言ってないと思うんだけど……いや、お兄の行動は変だけど。というかお兄が習い事をしてるしてないがそんなに重要な事なのかな?


『解せん。あの年齢であれ程の洞察力と窮地に落ち居た際の冷静さと機転、高い身体能力に……何よりもあの神業と言っても過言ではない紳士技の数々……それを訓練も無しに!? まさかあの噂は……いやいや馬鹿な! 生まれながらにして紳士技の全てを持って生まれるてくるなど!? だが待てよ? もしやこの娘……?』


……な、何かブツブツ呟いてるけど、どうしたんだろう? 

そう言えばこの人IS学園理事会から来たって言ってたけど……本当なのかな?

なんだかさっきまでと雰囲気が違うんだけど。

急に怪しくなって来た空気に私は少しずつだけど距離をとる。

するとドーベルさんはブツブツと呟くのを止めると、おもむろに私をジーッと凝視し始めた。

……な、何? 何なの?

そして――





「――(ババッ!)ああぁっ!? あんな所にペリカンがぁっ!?」





―― 突然明後日の方向を指さして大声で叫び出した。




…………


―― カサカサと風に吹かれて落ち葉が舞い上がる。



……うん確信した。



―― 絶対に関わっちゃいけない類の人だああああああああああああああああっ!?



心の中で悲鳴を上げた私だったけど、そんな私を見てドーベルさんは不的にな笑顔を向ける。

いやいや何得意気な顔してるのっ!?


「―― クククッ! やはりそうか危うく騙される所でしたよ。流石はあの『DANSHAKU』の妹と言うべきですか。然も自然な口調で偽情報を私に信じ込ませようとするとは……! その可憐な容姿と年齢とは裏腹になんと狡猾なのでしょう。末恐ろしいですね」
「いやいやいやいやっ!? な、何言ってるんですか大丈夫ですか!? 主に頭とかっ!? それから……頭とかっ!?」
「ですが残念でしたねぇ? 私は新しき【紳士と淑女の世界】の一端を担う紳士。見破れないと思ったら大間違いですよフフフフフ」
「ああああ……! 駄目だものすっごいお兄と何か関係ある人だ……!」


紳士って言ってるし! また紳士か!? やっぱりそれ関連なの!?

そんな私の心内など気付いてもいないだろうドーベルさん……いや変な人は突然私の腕を掴んだ。

ちょっ!? 


「―― さぁ! 観念して『DANSHAKU』 のあの強さの秘密を洗いざらい吐いていただきましょうか? 奴の強さの秘密を解き明かせさえすれば今度こそ奴を葬る事が出来るはずっ!」
「い、意味分かんない事言わないで! 離してっ!」
「ククク! 抵抗しても無駄ですよ? 私の服の下には改良を施したパワードスーツが装着されています。貴女の様な小娘程度にどうにか出来る訳がない。さぁ吐け! 『DANSHAKU』の力の秘密を!」
「――っ痛! 痛い! 嫌、離し――!!」


手を捻りあげられ腕に痛みが走った―― その時だった。


―― ァァァァァアアッ!!


遠くから何かがやって来る音が聞こえて――


「ん? 何だこのお【ドギャギャギャギャアアアアアアッ!!】ごああああああああああああああああああああっ!?」



―― 突如現れた黒い影が物凄いスピードで変態に突撃するようにと突っ込んで来た。

その衝撃で私の腕を掴んでいた変態の手が離れ、私は後ろにバランスを崩して尻もちをついた。


「キャッ!? あいたたた……こ、今度は何!?」

 
何が起きたのか分からず変態が吹っ飛んでいった方向に目を向けると……


『ぐわああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ………!!』


そのまま変態は黒い影に地面にギャリギャリと引き飛ばされながら……黒い影と共に遠くへ消えて行き―― ついに完全に姿を消した。


…………


後に残されたのはいつも通りの静かな時間と、何が起こったのか訳も分からず尻もちをついて呆然とする私だけだった。


「……な、何なのよ一体?」


とりあえず立ち上がりお尻についた砂を軽く手で払う。

さっきまで掴まれていた腕の調子を確かめてみたけど……良かったぁ特に痣にもなってないみたい。うー痛かったぁ。

ううう……あの変態っ! 乙女の肌を何だと思ってるのよ!? 何が紳士よ! 『友愛や親愛の表れ程度なら許容できる! だがそれ以外の理由で女性に手をあげる奴は生きる価値もないクズだ!』ってお兄が言ってたもん!

そしてハッと気付いて、ポケットの中からあの変態から貰ったハンカチを取り出す。

う~! 良い人かと思ってたのに……こんな物ーっ!


「てやっ!」


ぺいっ! と、近くの排水溝に投げ捨てた。

あんな変態がくれた物なんて気色悪くて持ってられないもん! ふんだ!

ちょっとスッキリした私は満足げにうんうんと頷いて……もう一度変態と黒い影が消えて行った方向に目を向ける。


それにしても……うーん?


「もしかしてあの黒い影……私を助けてくれたのかな?」


うーん変な事ばっかり起こり過ぎたせいか何故かそう思えてしまう。なんでだろう?


『―― おおーいっ蘭っ! 掃除にいつまでかかってんだぁ!?』


その時、『五反田食堂』の中からお爺ちゃんが私を呼ぶ声が聞こえた。


「―― はぁいっ! 今戻るからーっ!」


その声にとりあえずそう返して、私はもう一度黒い影と変態が消えて行った方向に目を向ける。


―― もしかしてあの黒い影って……お兄の?


「あははっまさかね! ないないそれはない!」


あーもー何だか変な事が起きたせいで私まで馬鹿な事考えちゃう忘れよう。うん、覚えていても良い事なさそうだし。

はぁぁ……全くっそれもこれもあの馬鹿兄のせいよっ! あんまり変な人とかかわらないで欲しいわ! 


また心の中でお兄への怒りが再燃し。私はちょっと不機嫌になりながらも『五反田食堂』の入り口を開けて店内へ戻ったのでした。



たまに変な事もあるけれど。

五反田食堂は今日も元気に営業中。お客様のご来店を看板娘共々お待ち申しあげております! 一度お越しに来てください♪



【 ??? SIDE 】

『が、がはあああぁぁっ……!?』
『ドーベル様!? ドーベル様しっかりしてください!?』
『そんな馬鹿な!? 改良型パワードスーツがボロ雑巾のように無残な姿に!?』
『2tトラックの衝撃にさえ耐える耐久力だと言うのに!?』
『一体何があったというのだ!?』
『―― おおいっ来てくれ! ようやく捕獲したぞ!?』
『だ、だがその前に医療班を呼べ! 急げ!』
『なっ!? そ、そんな!? 我が同胞の精鋭部隊が捕獲する為だけだと言うのに壊滅寸前まで追い込まれるとは……!!』
『こ、こんな馬鹿な!? こんな化け物を『DANSHAKU』は従えていたと言うのかっ!?』
『む、無理だ! 勝てない……勝てるわけがない!!』
『お、落ち着け……! 同胞達よ……!』
『『『『ドーベル様!?』』』』
『こ、これは我らが迎えた好機だ……! く、くくくくっ! ま、まさかアレの捕獲に成功するとは何たる行幸よ……!』
『そ、それは一体……!?』
『分かりませんか? こ、これを使って、今度こそ奴を仕留めるのですよ!』
『こ、この化け物をですか!? 危険すぎます!』
『危険を冒さねば奴に……!! 『DANSHAKU』を葬る事など出来はしないっ!! さぁラボへ運べ!!』
『『『『―― ハッ!』』』』
『―― ックククックハハハッ!! やったぞ! これを利用すれば今度こそ! 今度こそ……クハハハ!! 奴の嘆き苦しむ姿が目に浮かぶようですっ!! フハハハハハ【ポキッ】はうっ!? ……ぐふ【ドサッ】』
『『『『ドーベル様ーッ!?』』』』











―― マスター……



【 弾 SIDE 】



―― ピキィィィィーンッ!



「―― っ!?【ガバッ!】」
「キャ!? どうしたのダーリン?」
「……五反田くん?」
「だんだん~。どうしたのー?」
【……相棒?】







「―― 『六代目』……っ?」








【テメェいきなり何ほざいてんじゃあああああああっ!?】
「ぎゃああああああああああああああっ!?【ボキバキボキャメキィ!】」 
「「「ダーリン(五反田くん)(だんだんー)!?」」」





【 セシリア SIDE 】



―― 見つけてきなセシリーちゃん……お父さんを。



五反田さんの話を聞き終えた私は、そう最後に五反田さんに背中を押され……その瞬間走りだしていました。

今の私の心を閉める思いは一つ。ただ確かめたいという一心のみでした。

自分の寮部屋へと向かって全速力で廊下を駆け抜ける私に、すれ違う生徒が何事かと驚きの表情で私を見送っていくのを肌で感じますが、そんな事にさえ気にする余裕は今の私にはありません。


―― お父様……っ!


渦巻く感情のまま私は心の中でお父様を呼ぶ。


―― そうだったのですか?


―― お父様そういう事だったのですか?


心の中で何度もお父様に呼び掛ける。これ程お父様を呼んだ事は未だかつてあったでしょうか?

それ程五反田さんの話は私の心を揺さぶり、そして同時に私の中のお父様の見方を変えさせる程のものでした。




『セシリーちゃん? 話を聞くとセシリーちゃんのお母さんはとっても凄い人だったんだね?』


その言葉に私は頷きました。

勿論ですわ。お母様は強く、厳しく、美しく……私が目標とする憧れの人ですわ。

私の返した言葉に五反田さんは頷き言葉を繋げる。


『女尊男卑社会以前からいくつもの会社を経営しそれらを成功へと導き、そして同時にオルコット家を率いた女性か……成程確かに凄い人だ。流石セシリーちゃんのお母さんだね』


そう微笑む五反田さんでしたが……それは純粋な賛辞だけでは無く、私に対する確認の意味も兼ねているのだと理解できました。

ですがそれは私のお母様の事です。お父様の事ではありません。一体それがお父様とどう関係がありますの?

怪訝な表情を浮かべる私に五反田さんは話を続ける。


『それ程凄い人ってだったてことはきっと人望も厚かったんだろうねー? 沢山の人に憧れられて、セシリーちゃんのお母さんの力になりたいって人も沢山いたんだろう。そしてお母さんもその信頼や羨望応えられるだけのカリスマ持って、道を切り開いていったんだな……『強く・厳しく・美しい』人かぁ。うん、話を聞いてみれば俺もそう思うね』


そうお母様を賞賛する五反田さん。そう思ってくれている事に私も嬉しく思います。

ですが今はお母様の事でなく―― そう言いかけた時だった。


『けど、それはセシリーちゃんのお母さんを好意的に受け止めてくれる人の意見だ。そうじゃない人だったら……一体どう思うのかな?』


―― え……?

私を見据えてそう漏らした五反田さんの言葉に、私は息を呑んだ。

お母様を好意的に思ってくれない……人?


『数々の成功を収め、それを為せるだけの能力を兼ね揃えているセシリーちゃんのお母さんの事を好意的に思わない人達だったら、全く違うんじゃないかな?』


そんな人……いる訳。


『お母さんの才能に嫉妬して、その手腕に苦渋を舐めさせられ、その存在を妬む人間。そんな人が本当に存在しないとセシリーちゃんは思ってる? お母さん個人じゃなくても構わない。セシリーちゃん達の家『オルコット家』に対して反感の意を持っている存在がいないと本気で考える事が出来る?』


五反田さんのその言葉に、私は反発の言葉を返す事が出来なかった。

そんな事……ない筈がなかったから……。

私は知っている。

知っていながら私はその事から目を背けていました。

知っている筈だったのに……あの日から。

お母様とお父様を亡くした私の元へ、欲を張り付けた金の亡者が押し寄せ、あの手この手で私に残された莫大な遺産をかすめ取ろうとした人間を目の当たりにした……あの日から。


『酷な事を言うかもしれないけど、お母さんに否定的な感情を持つ人はいる筈だ。お母さんの成功の裏で苦渋な思いをさせられたり、会社同士の競争に敗れたり、『オルコット家』の権威に歯噛みしたり……お母さんの立場を考えれば、それは当然でてくる事で仕方のない事だと思う』


……その通りです。

お母様の成功の裏では起きていても仕方のない事。

少しだけ暗い気持ちになった私に、五反田さんは苦笑を浮かべつつも言葉を続ける。


『そしてそう言った人達は……なんとかして意趣返しをしてやりたい、自分の味わった苦渋を味あわせてやりたい、今いる場所から失脚させてやろうと色々な手段を駆使して動きだすのは自然な事だと思えない? 人ってのはそういった醜さと狡猾さを持っているからね? 残念な事だけどそれは否定しようがない人間の一つの姿だ』


小さく頷くことしか出来ない。それは生きていれば当然起こりえる事なのですから。

そんな私を見て―― 不意に、五反田さんはヘラリと表情を崩した。

まるでここからが本題だと言わんばかりの……そんな表情。五反田さんの雰囲気の変化に少々戸惑いながらも私は彼の言葉に耳を傾け続けました。


『さて、ネガティブ極まりない事ばっか話したけど……へい! セシリーちゃん質問だ。そう言った考えを持つ人間が、まず最初に取ろうとする事は一体何だと思う?』


―― お母様の失脚を望む人達の最初に取る行動?

……それは。


『俺だったらまず、セシリーちゃんのお母さんの弱点……っていうよりは弱味を探すね。もしくはそれに成りえる材料。別にそれはお母さんの個人的な事でも『オルコット家』全体を踏まえた事でも構わない。お母さんや『オルコット家』が成り立つ上で、その立場が危うくなるに足る【穴】を探し出す。例えばそうだな――?』


そこで一つ言葉を区切り、その瞳に悪戯を思いついたような子供の様な色を含んで五反田さんは告げた。


『―― セシリーちゃんのお母さんに最も近い場所に居て。『オルコット家』の中核に居ながら立場の弱い人間を見つけて近づいて、お母さんを貶める為の足掛かりの駒として利用する……とかね?』



―― その言葉に心臓が音もなく跳ねた。

『オルコット家』に名を連ねながらも……立場の弱い存在……?

そんなの……そんな人……っ


『その人に近付いて甘言で囁いて駒にしてもいい。持ち上げるだけ持ち上げて何かのプロジェクトを持ちかけても良い。成功すれば自分の功績にして、失敗したって構わない。その人に責任を全部押し付けてやれば『オルコット家』やお母さんに何かしらの打撃を与えられる。成功しようと失敗しようと、お母さんや『オルコット家』に痛烈な被害を与えて貶める事が出来る程の立場が弱く、それでいて中核の中に位置し、最も扱い易い自分達にとって都合のいい駒となりえる人物……そんな『弱くて、自分の意思も考えも口に出来ず、セシリーちゃんのお母さんの顔色ばかり窺う情けない存在』。そんな人物がいたら……俺は迷いなくその人に近付いて利用してやろうと目論むね』


口から出る五反田さんの言葉は、どれも私の家にとってみれば軽視できない程のものばかり。

だと言うのに五反田さんはヘラっとした表情を崩さず続ける。


『そんな考えを持つ人達にとってそれ程『都合のいい存在』に成りえる人に……セシリーちゃん心当たりある?』


―― そんな人は一人しかいません。

私の表情を見た五反田さんは察したように一つ頷く。そして―― 告げた。


『―― けど、もしもそんなに話しが上手すぎるくらいに『都合のいい存在』ってのが本当にいるとしたら―― その人こそ警戒するべきだね。だってそうでしょ? そんな人が中核に居るなんてこと事態がおかしいって言うのに。『情けなくて弱い存在』だと言うのに。そんな人が中核に居続けている事を『強く・厳しく・美しい』お母さんが許しているんだからね? その事に疑問を持たずに近づく人間がいたら……それ程の愚か者か欲に目の眩んだ亡者か……まぁ碌な考えを持つ人間じゃないのは確かだね』


―― 五反田さんの言葉が私の胸を突く。

―― その言葉が私の中に構築された『あの人』の姿に亀裂を生んでいく。


『もしかしたらその人は―― 『情けなく、弱い存在』という自分に向けられる評価を、己の持つ『最高の武器』へと変えて。邪な考えを持つ人にとって『都合のいい存在』を演じる事で、そんな輩を自分の元に集めているんじゃないか? そしてそれら全てを撥ねのけ、押し込み、叩きつぶせるだけの才能と知略、力を持って自ら囮を担い『罠』を張り巡らせているんじゃないか? もしそれが事実だとしたら……その人はとんでもない偉人だ』


―― 砕けて行く私の中の『あの人』の姿が。

―― そして次々と溢れてくる。『あの人』の温かい笑顔が、声が、大きな手の温もりが。


『なぁセシリーちゃん? そんな人に心当たりないかな? もしそんな人がいたとしたら……俺はその人を心の底から讃えたい。自分が周りから何と言われようと、どう蔑まれようと、自分の成すべき事を貫いた『強い心』を持ったその人を』


―― そんな私に優しい光を宿した瞳を向け、五反田さんは言ってくれた。


『―― 愛する人を大切な『家』を、そして何より掛け替えのない家族を守る為に戦い続けた……『大嘘つき』なその人を』


その言葉に、私はただ呆然と立ち続ける事しか出来ませんでした。

―― さ……ま?


『もっともこれは俺の考え、都合よく捉えた俺の思い込みでしかない……けど俺にはそうとしか思えなかったんだ。セシリーちゃんのお母さんが、その人の事を唯、家の為に権力の為だけに側に置きたいと考えるなんてどうしても思えなかったからね?』


―― う……さ、ま?


『俺には確かめる術なんてない。確認する事もできやしない。俺は会った事もなければ、その人と過ごした事もないから……その人を想像でしか捉えられない―― けど』


―― と……さま……


『セシリーちゃんなら……確かめられるんじゃないかな? その人と過ごして、話して、共に歩んだセシリーちゃんならその人に辿りつけるんじゃないかな?』


―― おとう……さまっ


『他の誰でもない。その人が心の底から愛し、護り続けた存在である君なら』


―― お、とうさまっ……!


『お父さんの愛情を一身に受け育った最愛の娘である『セシリア・オルコット』である君なら……きっと辿りつける』



―― お父様っ!


『―― 見つけてきなセシリーちゃん……お父さんを』




*   *   *




―― バンっ!

自室へと戻った私は息を切らせつつも、すぐに自分の私物をしまっている棚に飛びつくように近づきました。

棚を開け中から今の私には必要のない物を次々と放り出し、目的のものを探し出そうと躍起になる。

レディとしてそれは如何な事かと思いになられるかと思いますが―― そんな事でさえ今の私にはどうでもいい事でした。

―― そして


「――……あった!」


中から取り出したのは小さな写真立て。

それを胸に抱きかかえるようにして、私は自分のベットへと移動し腰を下ろしました。

そしてゆっくりと息を吐いて、胸の中の写真立てを覗き込みました。そこに写っていたのは――

まだ幼い私が満面の笑みを浮かべていて……その私を優しい微笑みを浮かべ胸に抱いているお母様の姿。

そしてそんな私達を愛おしげに眺め、母の肩を抱き寄せ笑うお父様の姿が写っていました。

私達家族三人が写っている唯一の写真……それをなぞりながら私はお父様に問い掛ける。

―― そうだったのですか? お父様は本当に……護ってくださっていたのですか?

―― お母様を、『オルコット家』を、そして私を……。

今まではどうしても眼に映る場所に飾る事が出来なかった私達家族の写真。

亡くなった両親を思い出すからなのか。

それとも過去の幸せな時間を思い出すのが辛かったのか。

父の姿を思い出すのが嫌だったのか……どれが理由だったかは思い出せません。

けど今は唯見ていたい。そんな思いだけが今の私の胸を占めていました。


―― しばらくそのままの状態でいた私ですが、制服のポケットから一つの携帯端末を取り出しおもむろに電話をかけました。


プライベート用、オルコット家の業務用と用途別にいくつもの携帯端末を持っている私ですが。プライベートでもオルコット家の業務でも携帯の端末にその名前を連ねている人物に私は電話を掛けた。

そしてコール音が二回程鳴った後、電話越しにいつも通りの声が聞こえてきた。


『― はいチェルシーでございます。お嬢様どういった御用件でしょう?』


落ち着いた声でチェルシーが。

長年連れ添った幼馴染の声が電話の向こうから心地よく響いてくる。

その声を聞いて私は少しだけホッとした心境になる。そして――


「―― チェルシー……?」
『っ!? お嬢様どうかなさいましたか!? 何かあったのですかっ!?』


私の呟きにそれを聞いたチェルシーの焦った様な慌ただしい声が耳に響いた。

昔からチェルシーは、私の心内に関する事には鋭いですわね。

そのことに妙に嬉しくなりながらも、私は一つ小さく笑い言葉を続ける。


「大丈夫ですわ何もありません……いえ、あったとうのは間違いでも無いですけど」
『お嬢様それは一体……?』
「ねぇチェルシー? 聞いて欲しい事があるんですの」
『……お嬢様?』


私の言葉にチェルシーが訝しげな声を漏らす。その声を聞きながら私は告げた。


「―― お父様のことですの」
『―― っ旦那様の事……でございますか?』
「ええ聞いて欲しいんですの……チェルシーに、お父様の事知っている貴女に」
『……』
「ねぇチェルシー……? お父様は、私のお父様はもしかして――」


―― そして告げた。

今まで側に居てくれた大切な幼馴染に。

今現在……私以外にお父様を知る存在に。

先程聞いた五反田さんの捉えたお父様の姿を。

それを通して私が知る。今までのお父様の行いを。

それら全てを隠すことなく私は言葉に乗せて、幼馴染に告げた。



―― しばらくして全てを話し終えた私は、唯静かにチェルシーからの言葉を待ち続ける。

それはほんの数秒の事だと思うのに、今の私にはとても長く感じられました。

全てを聞き終えたチェルシーは、唯静かに沈黙を守り続けている。

どう思ったのかしら? 

チェルシーは一体どう捉えたのかしら? 

今まではお父様がどういった人なのか、私はチェルシーに問い掛けた事などなかった。きっと私と同じように思っているに違いないと私はそう思っていたのですから。

でも、もしチェルシーがそう思っていなかったとしたら……チェルシーの眼には一体どのようにお父様は写っていたのかしら?

その考えが頭をよぎり私はチェルシーに訊ねてしまいました。

お父様を知る彼女に。


『―― お嬢様』


電話越しに……チェルシーの柔らかい声が聞こえてきた。

それは何処か優しく、妹に話し掛けるような姉の様な声音で。


『私がお嬢様に対し、旦那様の事で申し上げる事はなにもありません』


そう呟くチェルシーの言葉に私は思わず息を呑みかけ――


『私が申し上げる必要なんてないのです。だってもうお嬢様は『答え』を持っていらっしゃるのですから……違いますか?』


少し嬉しそうに呟くチェルシーの声に、私は口を噤むしかありませんでした。

だってその言い方だと……それは、それじゃあお父様は……?


『もし私が今お嬢様に申し上げる事があるとしたら……それは一つだけです』


呆然とする私の耳に届いたのは――


『―― 旦那様は奥様が『オルコット家』の婿に望まれ、そして同時に心から愛した唯一の男性であり……そして旦那様も奥様を心から愛し、奥様との間に授かったお嬢様の事もまた深く愛していらっしゃったという事。それだけが今私がお嬢様に言える……否定しようもない真実でございます』


―― 私の中の『答え』を確証付けるには十分な……一つの真実でした。


『―― お嬢様。今宵はゆっくりと御休みくださいませ』


そう一言告げたチェルシーはそのまま電話を切り―― 後は小さな電子音だけが耳に響いていた。

………

ゆっくりとした仕草で私は携帯端末をベットに放る。

そして胸の中に抱きしめたままの写真に目を向けると―― そこには幸せな一つの家族の姿が変わらず写っていました。


「……そう、だったんですの? お父様……?」


辿りついた一つの答え。

今までその上っ面に遮られ見つける事が出来なかった……父の本当の姿。

そこにあったのは――


一つの信念を貫き己の成すべき事に全てを注ぎこみ。母と『オルコット家』を護り続けた―― 優しくも強い父の姿。


どれだけ蔑まれようともそれすらも己の糧として、大切なモノを見失う事のなかった―― 哀しくも誇り高い『大嘘つき』の姿。


のろのろとした仕草で……私は写真に写る父の顔をなぞった。

優しい微笑みを浮かべる父の姿に私は――


「……ようやく見つけられましたわ……お父様」


唯呆然と……そう呟くしかなかった。


―― ああ、そう言う事だったんですのね?


今までの事を思い浮かべても、本当のお父様を見つけた私になら理解できる。


『……ははは。そ、それを言われると手厳しいな…・…』


母の叱責に情けない表情で返すお父様。そんなお父様を失笑と共に侮蔑の眼を向ける周囲の人間。

―― 違いますわよね。お父様は……『情けない婿』である事を周囲に見せつけているんですわよね? でなければ、こんなに人がいる場所でお母様に近づいて話し掛けませんもの。本当に情けない人なら、近づかずに離れた場所に避難するか隠れてしまうかのどちらかですもの。


『け、喧嘩だって? あ、あはは違うよセシリア。僕がお母さんに怒られてるんだよ。その……恥ずかしい事にね』


そう言って私に困ったように苦笑するお父様。


―― それ嘘ですわね。本当は喧嘩をしてしまったんじゃないですの? けど……それを私に悟られたくなかったんじゃありませんの?

自分がお母様に怒られているって私に思わせれば、私が両親が喧嘩したという事に不安を抱かない……そう思ったんじゃありませんの?


『―― どうして貴方はそうなのっ!? どうしてっ!?』


その父に浴びせられる母の叱責。

けど、お母様が本当に怒っていたのは……娘の私の前でさえ『情けない男』を演じるお父様の姿を見ていられなかったから。

だってそうでしょう? 私の父を見る眼が……そんな色を持っていた事にきっと母は気付いていたんです。

一度お母様に訊ねた事がありますわ。『どうしてお父様みたいな人と結婚したのですか?』と。

その時のお母様は――


『―― っお願いセシリア……お願いだからそんな事言わないで……っ!』


そう私を抱きしめ声を漏らす母の声―― 抱きしめられた私はお母様の表情を見る事が叶わなかったけれど。

きっとあの時お母様はとても辛そうな顔をしていたのではないでしょうか?

あの時は自分の過ちに悔いているのでは? と、そう思ってしまったけれど……そうではなかったんですね。

お母様は……娘である私がお父様をそういった目で見ている事が身を切られるように辛くて・・…同時に、それでも前へ進むお父様の事を嘆き悲しんでいたのではないですか? 

それ程お父様の事を愛していらっしゃったのではないですか?

だからお母様はお父様との会話を拒んでらっしゃったのですね。

私の前でも『情けない男』であり続けてしまう。そんなお父様の姿を見ている事が何よりも辛かったのではないですか?

……何故ですか?

何故お父様は娘である私の前でも『情けない男』であり続けたのですか?

それもまた答えはすぐに浮かんだ。


「っ反面教師……そう言う事ですかお父様?」


情けない自分の姿を見せる事で、私に……!


『将来お父様のような情けない男とは結婚しない』


自分が情けない男であり続ける事で、私にそう思わせる為に……!


「―― 反面教師であり続けたのではないですかっ……!?」


胸の中の写真をギュウッと抱きしめ、私は唇を噛みしめる。


嘘つきです……お父様は大嘘つきです。


自分がどう思われようと関係ない自分の幸せなど二の次、自分の評価が落ちようが蔑まれようが。

自分の大切なモノを護る為なら―― ご自身の事なんてどうでもいい……!

それが――


お父様が五反田さんに重なった最大の理由……っ!


「……やっぱり嫌いです」


そんな生き方しかできなかったお父様なんて……嫌いです。


―― ははは……参ったなぁ。許してくれないかなセシリア?


駄目です許してなんかあげません。


―― ぼ、僕はその、雑用しかできないから……お母さんとは全然違うね


嘘吐かないでください。本当は―― お母様や家を護る為に多忙だったのでしょう? 嘘つき。


――  僕に出来る事なんて高が知れているからね


……お父様の様な生き方が出来る人なんてそういる筈ないじゃないですか……嘘つき。


嘘つき。

嘘つき、嘘つき。

嘘つき、嘘つき、嘘つきっ!

―― お父様の……大嘘つきっ!!

心からまるで破れた紙袋の様に溢れ出てくる想い。

気付けなかった自分への苛立ち。

何も話してくださらなかった両親への怒り。

自分に向けられていた―― こぼれ落ちんばかりの、お父様の哀しくも不器用な愛情。

嫌いです……嫌いです……っ!

お父様なんか……っ! お父様なんか――っ!


―― セシリア。僕はいつもお前の傍にいるからね


―― っお父様なんか……大っ嫌いですっ!!

もう居らっしゃらないじゃありませんか、嘘つきっ!

傍にいるって言ったくせに居ないじゃないですか、嘘つきっ!

何も言わずにいなくなってしまったじゃないですか……っ! 嘘つきっ!


私を置きざりにして―― お母様と共に逝ってしまわれたじゃないですか……っ!!


「―― も……! ……ない、ですっかぁ……っ!?」


嘘つき……!! 

お父様の大嘘つき……っ!! 

傍にいてくれなきゃ、そこにいてくれなきゃ……っ! 困るじゃないですか……

もう二度と……


「――っじゃないっです、か……ぁぁっ!!」


もう二度とあの笑顔を見る事も、あの大きな手で撫でられる事も、抱きしめられる事も……ないじゃないですか。

そして何よりも――

言えないじゃないですか。


お父様にもう言えないじゃないですか……!


もう二度とその機会がくることが、叶わないじゃないですか……っ!


どうして逝ってしまわれたんですか? 何故私を置いて逝ってしまわれたのですか? どうして何も言わずに居なくなってしまったのですか?

過去に戻れるならば今すぐにでも戻りたい。

そして伝えたいお父様に。

今の気持ちをお父様に向かって、私の今の気持ちを。

―― けれどそんな事は不可能です。

もう二度と私がお父様に会う事は、二度とありません。

二度と……っ。

もう二度とっ――!!

私が……! 私はっ……!! もう――っ!!









「――っもう、ゴメンなさいってっ!! 言えないじゃありませんかああああああああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁっ!!」









胸の中の写真を掻き抱き、私は悲鳴のように声を上げ……そう叫んだ。


「―― ふぁぐっ! ふ……ふぅぅっ!! う、う゛う゛うぅぅぅぅ……っ!!」


溢れ出た感情は留まる事を知らずに私の瞳から涙となって流れ出す。

酷いですっあんまりです……!

気付けたというのに、ようやく知る事が出来たというのに――

お父様はもう、手の届かない場所に逝ってしまわれた。


神様―― これは罰なのですか? 愚かな娘である私への罰なのですか?


二度と会えないなんて、二度と伝えられないなんて……これはいくら何でも酷すぎますわ。

私からお父様に謝る機会を、永遠に奪ってしまわれるなんて。

―― これはいくら何でもっあんまりじゃありませんか……っ!?


「―― ごっ……! ごめんな、さいっ! ごぇ……な、さいっ! お父ざま゛ぁ……っ! ごめんな゛ざいっ! ご、ごめ……ふっ! う、あ、あぁぁ……っ! ひっ……ふぇぇぇ……っ!!」



涙は留まる事を知らず流れ落ち、私は写真を抱きしめながら泣き続けた。子供のころに戻ったように。

泣いていたら優しかったお父様が慰めに来てくれるのではないか……そんなありえない事を頭の片隅に浮かべながら―― 私は泣き続けた。


両親の葬儀の時でも決して流れなかった涙が時を経て、今私の元へやって来たかのように。


私は唯、泣き続けた。



大嫌いだった―― 大嘘つきなお父様が。

許せなかった―― 何も言わずに、いなくなってしまったお父様が。

悲しかった―― もう二度と会えない事が。

嬉しかった―― 私を護ってくれていた事が。



そして何より――



そんなお父様やお母様の娘として生まれてきた事が―― 何よりも誇らしかった。




*   *   *




―― サアアアアァァァァッ。

それから随分と時間が経ち、日も落ちて既に夜も遅い時間。

あのまま泣き疲れてしまったのか。そのままベットの上で眠ってしまた私は、眼を覚ましてすぐ浴室へと足を動かし頭からシャワーを浴びています。

起きた時、私の体には毛布が掛けられていた所を見ると……どうやら同室の方が戻って来ていて私に掛けてくださったようです。

そして眼を覚まし、真っ赤な眼をして少々腫れぼったくなっている私の姿を見ても何も聞かずに『シャワーでも浴びてきたら?』と、優しく微笑んでくださいました。

……感謝の言葉もありません。

促されるままにシャワーを頭から浴びる。まるで何かを洗い流すように―― 唯一心に浴び続ける。

しばらくして蛇口を捻りシャワーを浴びるのをやめた私は、ゆっくりと鏡の中に映る自分の顔へと視線を移しました。


「酷い顔……していますわね……」


眼元は真っ赤に腫れていて、とても人様にお見せできるようなモノではありません。

あとでキチンとケアをしないと……明日に響きそうですわ。

そんな醜態だというのに、鏡の中の私は妙にスッキリとした表情をしていて口元が僅かに緩んでいました。


「……ふふっ、何を笑っているんですの?」


鏡の中の私にそう呟き、そっと鏡をなぞる。

ただ泣くだけ泣いてスッキリしたのか、お父様の姿を知り得た事で満足したのか、それは分かりません。

けれど……今の私はそれとは違う晴れやかな心境でした。それは何故?

そんな事決まっていますわ。


「私も自分の成すべき事が……分かった気がしますわ」


全てを知り得た私。

お母様が心の底からお父様を愛していらっしゃった事。お父様がとても強く、優しく、誇らしい方であった事。

そんなお二人に溢れんばかりの愛情を注ぎこまれていた事。

そんな私の胸の内に浮かび上がった一つの大きな思い。


それは―― 戦う意思。


「―― 護ります『オルコット家』を」


そう口にする。そうするだけで私の中に生まれた思いをより一層強固なものへと持ちあげてい行く気がしました。

今までの私は両親の残してくれた遺産を金の亡者になどに渡したくはない。ただそれだけの思いだけで『オルコット家』を継いだ。

自分でも呆れてしまう程幼稚な、覚悟も思いもない考えだけだったと……今ではそう思えてならない。

―― けれど今は違います。


「護ってみせます……私が『オルコット家』を」


お母様が築き上げてきた『オルコット家』を。

お父様が護り続けた『オルコット家』を。

両親が愛した『オルコット家』を。

私達家族の思い出が詰まった……愛すべき『オルコット家』を。


「私が必ず護り切って見せますわ……!」


他の誰でもないこの私が―― お母様とお父様の愛情を一身に受け育った私が。

お二人の娘である―― この『セシリア・オルコット』が。


「お二人の遺志を継いで、必ず成し遂げて見せますわ……!」


目を瞑り、心の中で愛しい両親へと語りかける。

―― どうか見守っていてください。お母様、お父様。

必ずやり遂げて見せますわ……お二人の娘である私が、絶対に。

ですからどうか天国で私を見守っていてください。これからの私を――

失敗もあるかもしれない困難や挫折が待っているかもしれない。

けれど私は誓います。それでも歩みは止めないと、強い心を持って―― 歩んでいきます。

心配せずとも大丈夫ですわ。私の心はそんなに軟ではありません―― だってそうでしょう?

―― だって私はっ!


「お父様とお母様。強い心を持ったお二人の―― 娘なのですからっ!」


眼を見開き鏡の中の私を見つめる。

そこにはさっきまでの子供の様な私は既に無く。


『オルコット家当主』である私。『セシリア・オルコット』の力強い笑顔があった。


シャワーを浴び終えバスローブに身を包んだ私は、髪をとかしながら浴室を出る。

同室の方はというと、仕切りをして既に御休みになっていました。机を見るとそこにはコップとミネラルウォータ―が置いてあるのが見えます。

……小さな気遣いに頭が下がる思いです。

仕切り越しに頭を下げ、ベットに腰を下ろした私はこれからの事に考えを走らせる。

何をするにしてもまずは私がすべき事……それは。


「……何れにしろ明日にならなければ何も出来ないですわね」


小さく苦笑し、用意していただいたミネラルウォーターを一杯だけ淹れ飲み干した後。

私はベットに横になり、まだ灯っている小さな備え付けランプの灯りを消し就寝することにしたのでした。


お休みなさい……お父様、お母様。




―― その夜私は、久しぶりに両親の夢を見ました。




―― それは哀しくも優しい……とても幸せな夢でした。




*   *   *




翌日。

いつもより早くに目を覚ました私は、登校の準備を素早く整えるとすぐさま教室へと向かおうと足を動かしました。


「―― っいけない! 大事な事をしていませんでしたわ」


寮の部屋のドアノブを回す前に、私は自分の机へと足を動かしそれに目を向け微笑む。

そこに飾られているのは・……あの写真立て。



私達家族が幸せに笑い合い写っている―― 世界で一つだけの私の宝物。


その写真立てが、今は私の机の中央を独占するように堂々と飾られています。


「―― 行ってまいりますわ! お母様、お父様」


そう両親に告げ私は今度こそ寮の部屋を後にしたのでした。




―― 行ってらっしゃい




―― そう、私の背中を優しく押してくださったような両親の声を聞いた……そんな気持ちになりながら。



【 一夏 SIDE 】


「妙に嬉しそうだな? 一夏」
「ん? そう見えるか?」
「朝も早くからそわそわとしていれば嫌でも気付く。遠足前の子供かお前は」
「あーその例えは……あながち間違っちゃいなかもな?」
「……はぁ」


箒と並んで食堂へと足を向けながらそんな会話を交わす俺と箒。

そう言われてもだってようやくこの日がやって来たんだぜ? 嬉しいに決まってるだろうが。

弾から『相談』の合図を受けた翌日。

ようやく俺達が行動に移る時が来た事に、俺は逸る気持ちを抑えきれずいつもよりも早起きして部屋を出た。

箒はそんな俺の様子に何処か憮然としているが、なんでそんな顔をするのかが分らない。

もしかして低血圧で朝が弱い―― 訳ないよないつもピシッとしてるし。駄目だ原因が分らん。

箒の様子に首をかしげながらもそのまま歩き続けて食堂へとやって来た俺達は、いつものように食券を選んで列に並ぶ。

ちなみに二人揃って日替わり定食だ。うん、栄養バランスが整っているから朝食にはもってこいだな。

食券と日替わり定食を交換した俺達は朝の食堂内を少しだけうろつく。


えーと何処か適当に空いている席はっと……?


キョロキョロと周囲を見回していた俺だったが。


「―― おう? やっと来たか……おーい一夏ぁ!」
「っお! この声はだ「こっち向けやゴラァ!?」っ何でいきなり喧嘩腰なんだよお前はっ!?」
「相変わらず早朝でも騒がしい奴だな。」


いつもの如く騒々しい呼び声に振り向くと、そこにはテーブルに座って朝食をとっている弾と、その隣でヘロヘロと袖を振っていつものようにのほほんとしているのほほんさんの姿があった……紛らわしいな。

スペースも十分空いていたから箒と共に連れだって弾達の元へと移動し腰を下ろす。

弾は朝っぱらから蕎麦か……いつ見ても蕎麦しか食ってないなこいつ。お前蕎麦しか食わないのかよ。


「二人ともおはよー」
「おはようのほほんさん。二人共早いな」
「おりむー達を待ってたんだよー?」
「そうなのか?」
「達? ということは私もか?」
「そー」
「野郎のくせにタラタラしやがって……このカスがっ!?」
【女々しいですね。あーやだやだ】
「お前等俺のこと実は嫌いだろうっ!?」
「好きだぞ? ゴキ○リよりは」
【愛らしいですよ? ハイエナよりは】
「比較する基準が最悪すぎるわっ!?」


俺の怒声に弾はいつものようにヘラヘラと笑い。そんな俺達にやり取りに箒が小さく溜息をつき。のほほんさんは相変わらずほにゃっと笑う。

そんないつも通りの一幕を過ごしていた時。


「―― あら、みなさんお揃いですわね?」


すぐ横から俺達にそう声を掛けてくる声が聞こえてきた。おっこの声は。

いつも良く聞いて馴染みのある声に反応した俺は声の主へと視線を向ける。するとそこには思った通り――


「よう! セシリアも今日は早いじゃないか、おはよう」
「おはようございます一夏さん……ええその、なんというか目が覚めてしまいまして」
「おはよーセッシー」
「セ、セッシー? え、ええまぁ呼び方は特に気にしませんが。おはようございます布仏さん」
「……オルコット」
「あ、篠ノ之さん……」
「ん?」


なんだ? 箒とセシリアが眼を合わせた瞬間二人共様子が……これは戸惑ってるのか?

訳が分らず俺はただなんとなく弾に視線を向けると。弾はそんな俺に苦笑し肩をすくめてみせる。

んー……俺が気にしなくても大丈夫ってそう言う事か?


「その何だ……昨日は大丈夫だったか?」
「ええ、御蔭さまでもう大丈夫ですわ。ご心配をお掛けしたようですわね」
「そ、そうか、もう平気なら良い。うむ」
「はい。気にしていただいたようでありがとうございます」
「べ、別に……大したことではない。あの場に居た者なら至極当然のことだ」
「それでもです。ありがとうございます篠ノ之さん」
「……む」
「? どうかなさいましたか?」
「……箒だ」
「あら……では私の事もセシリアで結構ですわ」
「そ、そうか。ではこれからはそう呼ぼう。セシリア」
「はい構いませんわ。箒さん?」


そう言ってセシリアが微笑むと、箒は『……ふん』と小さく呟いて照れくさそうにそっぽ向いた。

な、なんだ? なんだかセシリアの雰囲気がいつもと違う。

なんだかこう若干大人びているみたいな……落ち着きがある涼やかな雰囲気がある。以前までの様なちょっと押しの強すぎるような所がなりを潜めて、それでいて存在感は増した。そんなオーラみたいなのを感じる。

すると箒から視線を外したセシリアは、今度はテーブルに座って『ズゾゾゾゾゾーッ!』と豪快に蕎麦を啜っている弾に視線を向ける。

……お前な。

セシリアの視線に気付いた弾は『ゴキュッ!』っと蕎麦を呑みこんで、ヘラっと表情を崩しセシリアに話しかける。


「へいっおはようセシリーちゃん! 今日も綺麗だね!」
「はい、おはようございます五反田さん。ふふ……社交辞令として受け取っておきますわ」
「おおう? いつもと違った返し……ふむ?」


セシリアの表情を少しの間しげしげと見つめていた弾だったが―― すぐにヘラっと表情を崩して笑い掛ける。


「その様子だとちゃんと見つけられたようだね? 『探しモノ』をさ」
「―― っはい。五反田さんのくれた『鍵』の御蔭で……私はやっと見つける事が出来ました―― 本当に何とお礼を言ったらいいのか……!」
「俺はそんな大層な事なんてしとらんよ? 俺は自分の想像、一つの可能性を話しただけだかんねー? その可能性を踏まえた上で『真実』に辿りつけたのはセシリーちゃんの力だよ。そんなに感謝されると俺が困っちまうぜ! お釣り足りるかね? 一夏小銭」
「俺が出すのかよ!? というか何の話だよ!?」
「三円玉も無いのか貴様っ!?」
「存在が無いわっ!?」
「……やっぱり貴方もお父様と同じ……」


いつもの如く騒ぎ出す俺達に向かって、そう小さく呟いたセシリア。

ん? どうしたんだ。

するとセシリアは少し考えた込んだ後、少し表情を引き締めたかと思うと一歩だけ弾に近づいた。

セシリアの行動に少し驚いた様子の弾だったが、それにも構わずセシリアは言葉を発した。


「五反田さん」
「お、おおう? どうしたのよセシリーちゃん」
「五反田さんにとって、それは本当に些細な手助けだったのかも知れません……ですが、五反田さんが私になさってくださった事は私にとって何よりも必要な事であって、また何を置いても大切な事だったんです」


そう真剣な瞳で弾に話しかけるセシリアの姿は……いつも俺達が見ていた彼女とはほど遠く。


「ですからちゃんと言わせてください。そしてどうか受け取ってください。」


―― 今この場の誰よりも気高く、そして輝いていて。


「―― まずは謝罪を……今までの私の貴方に対する非礼な行いの数々、心よりお詫び申し上げますわ。本当に申し訳ありませんでした。そして――」


―― とても綺麗だった。


「貴方に心からの感謝を―― 本当にっ……本当にありがとうございました―― 弾さん」


ふわりと、今まで見た事も無いような魅力的で―― それでいて綺麗な笑顔を浮かべたセシリアは。

―― 初めて弾の名前を呼んでそう微笑んだ。


「……」
「……」
「……ほあ~……」
「…―― はっ!?」


その笑顔を、俺はただ呆けたように見つめ続けることしか出来なくて――


―― 右足にとんでもない激痛が走ると同時に、正気に戻る事になった。


って!?


「いってえええええええええええッ!? な、何するんだよ箒っ!?」
「―― ふんっ! だらしなく鼻の下を伸ばしているからだ! この軟弱者めっ!」
「い、いやそれはっ!? っだからって思いっきり右足を踏みつけることないだろうが!?」
「うわわわ~♪ セッシー今、すっごく綺麗な笑顔だったよ~♪」
「え? え? わ、私は別に何もしておりませんわよ? ただ弾さんにお礼の言葉を述べただけでして」
「はっはっは! いやまいったね~? あんな魅力的な笑顔でそんな事言われちゃ受け取る以外にないじゃ無いのよ? ありがたく受け取るぜセシリーちゃん! どういたしましてだっ!」
「―― は、はい!」
【おお、相棒に感謝の言葉を受け取らせるとは。一皮剥けたようですねセシリア嬢。】


その後はまぁいつもの通りワイワイギャンギャンと騒がしい、いつもの光景が繰り広げられ。

そしてセシリアが朝食を持ってきて、テーブルに座ったと同時にまた会話に戻る。

うーん……セシリアの奴何だか凄く良い顔してるな。

ちょっとセシリアの様子を窺うけど……その度に箒から殺気の様なものが飛んでくる。なんでそんなに不機嫌なんだよお前。

―― と、そうだった忘れる所だった。


「そういや弾? 俺達を待っていたって言ってなかったか?」
「ん? ……おおう! そうだったそうだった。いやすっかり忘れたぜ。それ程セシリーちゃんあの素敵スマイルの威力が凄まじかったって事かね?」
「キラキラってしてたもんねー」
「で、ですから! 私は別に意識した訳ではなく! その……っ!」
「いやいやスゲェ綺麗な笑顔だったぜ? セシリア」
「っ! そ、そうなんですの? そ、そうですか……(真っ赤)」
「……一夏っ!」
「な、なんだよ? 箒だってそう思っただろう?」
「そ、それは! そうだが……だ、だからと言って人様の顔をジロジロと物珍しく見るモノではないぞっ!」
「うぐ、それは……」
「まぁまぁ、とりあえず話を進めさせてもらうとするけどな? 二人を待っていたのは今日の放課後の『相談』についてなんだよ一夏」
「―― っ! 何かあるのか弾」


途端に俺は表情を引き締め弾に視線を向ける。もしかして何か問題でも発生したんじゃないのか?

そう思っていたのだが、弾の奴は特に緊迫した様子も無くヘラっと笑い返してきた。


「なーに、そんなたいした問題じゃねぇよ。実は『七代目五反田号』と話してみたんだが、俺達の『相談』の席に箒ちゃんも加えられないかね?」
「え? 箒を?」
「わ、私か?」


弾の突然の提案に俺の隣に座る箒が戸惑いがちな声を上げる。

箒を加えたいって、一体どういう事だ?


「どういう事なんだ弾?」
「いや実際の話。クラス対抗戦までの残された時間だが……はっきり言ってお前の特訓には箒ちゃんの近接戦闘による特訓が極めて重要になるんだ。ならここは箒ちゃんにも協力を仰ぐ為にもちゃんと話しておいた方が良いんじゃないかと思ってさ?」
「成程そう言う事か。俺としては反対する理由は無いから構わないけど……箒? 今日の放課後の時間って空いてるか?」
「き、今日の放課後か?」
「あ、何か用事があるんなら構わないよ? 箒ちゃんの都合を優先してほしいからね?」
「い、いや問題ない! ちょうど今日の放課後は空いている。わ、私は別に構わんぞ?」
「おおう! そいつはラッキー! それじゃ放課後寮の部屋で一夏と待っててくれんかね?」
「悪いな箒助かるよ」
「ふ、ふん。仕方のない奴等め」


そう言って朝食の味噌汁を啜る箒。

なんだか嬉しそうに見えるのは気のせいか? まぁ機嫌が良いのは良い事だけど。

よし、これで後は放課後の時間が来るのを待つだけだな。そのためにもしっかり喰って体力を付けないとなっ!

そう思って、朝食に箸を伸ばした俺の耳に。俺達の会話を聞いて何か考え込むようにしていたセシリアが口を開き話し掛けてきた。


「あのっ! 一夏さん弾さん。よろしいでしょうか?」
「ん? どうかしたのかセシリア」
「どぼじゅじゃじょ? じぇじゅじーじゃん? 【ゾゾゾゾゾー】」
「蕎麦啜りながら喋るな行儀が悪すぎるわ。」
「【ゴックン!】 うむ美味し! そんでセシリーちゃんどったのよ?」
「はい。あのもしよろしければ私も、その『相談』の席に加えては貰えないでしょうか?」
「え?」
「セシリーちゃんを?」


セシリアの突然提案に俺と弾は思わず顔を見合わせる。

そしてすぐさまセシリアへと視線を戻し俺は口を開く。


「一体どうしたんだ? セシリア」
「ええ、お二人の『相談』とやらが一体何の事なのかは存じ上げませんが、私にもどうかお二人に力添えさせて頂けないでしょうか?」
「おおう。そりゃ嬉しい申し出だけど……セシリーちゃん? もし俺に対するお詫びって意味ならそれはもう十分だからね? 本当にそんな気にせんでもいいんだぜ?」
「そうではありませんわ……あ、いえ少しはその思いがあるのは事実です。ですがそれだけではありません。私が唯純粋にお二人のお力になりたいとそう思った上での申し出ですわ」
「うーん俺としてはOKだけど。弾お前はどうだ?」
「ふむ?」
「―― あら? 弾さんが断る理由はありませんわよね?」
「は? どういう事だ?」
「うむん?」
「うふふ、だってそうでしょう?」


セシリアの言葉に、怪訝そうな表情を浮かべる俺と弾。

そんな俺達の表情を見て、悪戯っぽい……それでいて綺麗な微笑みを向けたセシリアは、心の底から楽しそうに。




「―― 淑女のせっかくの厚意を無碍にするなんて、紳士のする事ではありませんわ♪」




―― 少し弾んだ声音で、そう弾に告げたのだった。

その言い様に俺と箒、そしてのほほんさんも驚愕に固まってしまい。唯呆然と鳴り行きを見続ける事しか出来なくなってしまった。

その言葉を聞いた弾はと言うと。

驚いたように目を見開いてセシリアを凝視し、パチパチと数回瞬きした後に――

二ヘラっと表情を崩して突然笑いだした。


「―― あっはっはっはっはっはっは!! なーる程ね!? そりゃ確かに紳士のする事じゃないわっ! あっはっはっはっは!」
【これはこれは、一本取られましたね相棒?】
「うふふ。それで返答はいかがですの弾さん?」
「それは勿論っ!!」


セシリアの言葉に弾はというと。

妙に芝居がかった仕草で手をセシリアの方向へ差し出したかと思うと―― 片眼をつぶっておどけた表情を浮かべる。

そんな弾にセシリアも微笑みを浮かべ手を差し出し――


―― まるで、道化師が姫君の手を引くように。



「―― どうかこの私に、お力をお貸しくださいませんか? レディ?」
「―― ええ勿論、しっかりエスコートをお願いしますわ。ジェントルマン?」



そう楽しげに言葉を交わし合ったのだった。


……あ、あの弾を言いくるめた、だと……!?


「お、おい? どうしたんだよセシリアの奴!? なんか、何か凄いぞ!?」
「わ、私に言われても分からん! わ、私とて信じられん思いなのだぞ!? い、一体昨日あの後何があったのだ……!?」
「……」
「う、うん? どうかしたかのほほんさん?」
「……むぅー」
「え!? なんで膨れてるんだ?」
「……む? もしや布仏お前……?」
「むーっ!」
「何で怒ってるんだのほほんさん!?」
「一夏放っておいて大丈夫だ。これは弾と布仏の問題だ……そうか、そうなのか。私は応援するぞ布仏」
「は?」
「む~っ!」


何故か不機嫌で頬を膨らませ、笑い合う弾とセシリア二人を凝視するのほほんさん。そしてそんなのほほんさんを微笑ましげに眺める箒。


え? 状況把握できてないの俺だけ!?


そんな俺の心の呟きとセシリアの『相談』への参加が決定すると共に、朝食時間は過ぎて行ったのだった――





そして放課後。

俺達は知ることになるのだった。

鈴の抱えている闇を、鈴を取り囲む大きな問題と、その厄介さを。




けど―― そんな事関係ねぇ。




―― 待ってろよ鈴! 必ずその場所から俺達が救い出してやるからなっ!!








それは暗く深い森の中。

何も見えず、ただ手元の小さなランプを頼りに迷子は進む。

頼れるのは自分だけ。頼れるのはこのランプだけ。

今にも消えてしまいそうな小さな光。

それだけが迷子が縋る唯一の希望。

深い深い森の中。

暗い暗い森の中。

出口も分からず迷子は進む。

けれどその時遠くから、自分を名を呼ぶ声がする。

足を止めて振り返る。

けれどそこに続くのは、何も見えない暗い闇。

空耳だと思い込み。

そして迷子は再び歩き出す。

頼れるのは自分だけ。頼れるのはこのランプだけ。

そう自分に言い聞かせ。迷子はひたすら進んで行く。

そして迷子がその場を後にして、しばらくし時間が経った後。

その場に佇む二つの影。


―― 白い騎士は闇を払い。碧の道化は注意深く地面を見つめる。


そして小さな足跡を確認し。騎士と道化は顔を見合わせ頷き、呟いた。


―― 見つけた! ――


辿り着くまで―― 後少し。




後書き

なんとか今日中に更新しました。釜の鍋です。ついに安否が判明した六代目! いや無事かどうかはともかく…いや難関でした。マジで今までで一番長くなりました。あー・・・ようやく此処まで来た。さて次回・・・・クラス対抗戦一歩前! ・・・まで行けたらいいなぁと思うしだいです。どうなるかな・・・? 話しの構成は出来てるのになぁ・・・マジで休み欲しい。それでは次の更新でお会いしましょう。釜の鍋でした。


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