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No.27655の一覧
[0] 【習作 IS 転生 チラ裏より】 へいお待ち!五反田食堂です![釜の鍋](2013/03/18 01:45)
[1] プロローグ[釜の鍋](2011/11/27 15:22)
[2] 第一話   妹一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 15:30)
[3] 第二話   友達二丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 15:37)
[4] 第三話   天災一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 15:43)
[5] 第四話   試験日一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 15:56)
[6] 第五話   入学一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/12/12 12:28)
[7] 第六話   金髪一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 16:30)
[8] 第七話   激突一丁へいお待ち![釜の鍋](2013/03/18 01:39)
[9] 第八話   日常一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 17:13)
[10] 第九話   友情一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 17:38)
[11] 第十話   決闘 【前編】 へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 17:54)
[12] 第十一話  決闘 【後編】 コースは以上へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 17:49)
[13] 第十二話  帰還一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 18:33)
[14] 第十三話  妹魂一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 19:08)
[15] 第十四話  チャイナ一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 16:43)
[16] 第十五話  暗雲?一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 19:53)
[17] 第十六話  迷子一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 20:19)
[18] 第十七話  約束一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 20:43)
[19] 第十八話  始動一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 21:13)
[20] 第十九話  光明一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 21:56)
[21] 第二十話  幻影一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/28 01:59)
[22] 第二十一話 協定一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/04/26 12:52)
[23] 第二十二話 氷解一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 16:51)
[24] 第二十三話 思惑一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/02/06 19:27)
[25] 第二十四話 開戦一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/02/06 18:38)
[26] 第二十五話 乱入一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/12/26 18:09)
[27] 第二十六話 優先一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 16:46)
[28] 第二十七話 三位一体【前編】 へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 17:13)
[29] 第二十八話 三位一体【後編】コースは以上へいお待ち! [釜の鍋](2013/03/18 23:04)
[30] クリスマス特別編  クリスマス一丁へいお待ち?[釜の鍋](2011/12/25 22:00)
[31] 短編集一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/04/23 23:29)
[32] 短編集二丁へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 17:24)
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[27655] 第二十一話 協定一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706 前を表示する / 次を表示する
Date: 2012/04/26 12:52
ちわっす、淑女に笑顔を野郎に拳を。五反田 弾です。

さぁ、のっけからシリアス全開でお届けする紳士クオリティ!最近シリアスの女神様に大人気な俺です。

いや~、ははは参ったなー。



“――チッ!”



あ、すんません……怖っ!? シリアスの女神様怖っ!?


まっまぁそれはともかく……いや実際激しく気になるが、とりあえずは今目の前で発生した問題を片付けることが先決。

俺の目の前には興奮冷め止まぬ雰囲気絶好調のセシリーちゃん。そして俺の横には思っても見ない事態発生に固まる箒ちゃん。

わずかに視線も感じるが、これは今のところ無視しても問題なさそうだから放置。

さてさて、どうしよっかね~?

とりあえず場を和まそうと、今現在俺はセシリーちゃん相手に色々と話を振って見ているのだが、効果の程はというと――。


「――っ五反田さん! 聞いていますの!?」
「ああうん。女神様の舌打ちはバッチリ聞いたよ?」
「なんの話をしているんですか!?」
「あー、とりあえずは一端落ち着こうぜセシリーちゃん? お菓子あげるから」
【すみません、相棒。今切らしてます】
「なんですと? 結構【貯蔵】しとらんかったっけ? 『こなこともあろうかと~』ってのが、紳士の嗜みだというのに。おいおい頼むぜ相棒?」
【申し訳ありません。相棒の目を盗んで、のほほん嬢がねだるものですから、つい】
「……のほほんちゃん、お菓子の食べ過ぎは良くないとあれ程言ってるのに!?(主夫)しかしこれは参った……期待させてごめんねセシリーちゃん今お菓子ないみたい」
「っですから!! そうやって話を逸らそうとなさらないでくださいと言っているじゃありませんの! いい加減にしてくださいっ!」
「い、いやオルコット。 弾はとにかく一端この場を落ち着かせようと、その……なんだ、あのような物言いをだな?」
「俺にそんな思惑があったのか……っ!?」
【スゲー】
「っ何を客観視した物言いをしているんだお前達はっ!? この馬鹿者共っ!? 火に油を注ぐような事をするなっ!」
「やっぱりふざけているんじゃありませんのっ!」


と、まぁこのようにさっきからこんな調子が続いている。

うーん? ある程度感情煽って心内を吐き出せば落ち着くかと思ったんだが……この方法は逆効果だったかね?

さっきから同じ様な押し問答を繰り返すばっかで埒が明ない。やれやれどうしたもんですかねー?

けど、セシリーちゃんが先程から俺に向かって投げかける言葉を反芻してみて一つ気付いた事がある。それは問い掛けの言葉が多い事だ。

『何故』、『どうして』など、全部が俺の行動に対する問いが話の大半を占めている。けどなー、このセシリーちゃんの問い掛けに、俺は答えてあげるべきだろうかね?

俺の推測通りであれば、セシリーちゃんは俺に誰かを重ねて見ている可能性が極めて高い。そして、その誰かさんと俺を重ねているのであれば、さっきから俺に投げかけている問い掛けは、全部その人に向けて話しているということになる。

けど、俺はその誰かさんじゃない。いくら行動や性質が似ているといってもあくまで似ているというだけの全くの別人。だからこそ俺の出す答えが、その誰かの答えと一緒である保障など何処にもない。その考えが頭に浮かんじまったから俺も下手なこと言えんのよ。

……ふむ。

まぁ、色々と思考に没頭した結果。とりあえず今の俺にできるのは、セシリーちゃんから情報を聞き出すことぐらいだろう。

そう判断した俺は、視線をセシリーちゃんに向ける。

重ねている誰かさんの正体。そしてその人物の詳細を知る事が出来れば……俺なりに力になれるかもしれんし。彼女の望む答えには、彼女が自分で考え、納得し、理解し、認めた上で辿りつくべきだしね?

ほんじゃま、やる事も決まった所でそろそろ行動に移すかね? なんかこれ以上話を受け流すとセシリーちゃんに武力行使してきそうだし。


「ふむ? 俺は別にふざけている訳じゃないのよセシリーちゃん」
「何処がですの!? 信じられません!」
「弾……いい加減に真面目に答えてやらんか。このままでは時間を無駄に浪費するだけで埒が明かん」
「ん? 何言っとるのよ箒ちゃん? これが俺の答えよ?」
「は? 何を言っておるのだ?」
「――っど、どういうことですの!?」
「俺の態度見て分からんかね? 俺はセシリーちゃんの質問に答える気がないってことよん」
「「――っな!?」」


思っても見ない俺の言葉に二人共驚きの声を上げ俺に視線を向ける。

まぁ無理もないか。日本紳士である俺が、淑女の質問に答える気がないなんて信じられる話じゃなかろうて。【世界紳士連合】もビックリだ!

でも、今回ばっかりは仕方ないと思うがね? その質問の対象が俺ではないのだから。固まるセシリーちゃんに、俺はヘラリと笑みを向け口を開く。


「質問に質問で返すのはマナー違反だが。へいセシリーちゃん! その質問は俺が答えるべき事かね? セシリーちゃんは本当に俺に答えて欲しい事なのかね?」
「な、何を言ってますの!? さっきからそう言って――」
「ふむ……じゃあ言い方を変えよう。セシリーちゃん? 一体俺に『誰』の代わりに答えて欲しいの?」
「っ!?」
「さらに言えば俺に一体『誰』を重ねているのかね? 悪いけど俺はセシリーちゃんが本当に答えて欲しい相手じゃないよ。俺の持つ答えが、必ずしもその誰かさんと同じ答えだという保証なんて何処にもない。それでもセシリーちゃんは俺に答えて欲しいの? それでもいいなら答えるけど? 日本紳士である『五反田 弾』の答えを」
「――っあ、あ……!?」
「オルコット?」


俺の言葉にセシリーちゃんは両手で顔を覆った。その考えに至った所で、よううやく自分が何を本当に求めているのか理解したらしい。


そして――


「あ……ご、ごめんなさい! わ、わたくし……!? 私っ!? また五反田さんを……!? あ、ああ……な、なんてこと…! 私は……わ、わたくしはっ……!?」


そのままうわ言の様に俺に謝罪を返してきたセシリーちゃん。その表情は、まるで迷路に迷い込んでしまった子供のように不安げで弱々しいものだった。

……まぁ、仕方ないか。今にも手が届きそうだった答えが、眼の前で霞みの様に消えてしまったも同然だろうしね? その胸中は穏やかじゃいられないだろう。

さらに言えば俺という存在を誰かの代わりにしてしまった、俺を別の誰かとすり替えて見ていたという自分の行いに嫌悪感を感じてもいるように見てとれる。

ふむ? まぁ俺の事は別に良いんだがねー。でもまぁ、セシリーちゃんを落ち着かせるなら今しかないな。こういった時こそ紳士の出番さ!

少し不安定なセシリーちゃんに向かって、俺は数歩近づいた。

俺が近づいてきた事にセシリーちゃんがビクリと体を震わせ、怯えの含んだ瞳を俺に向ける。

ちょっと弱々しい今のセシリーちゃんに萌えつつも、俺は少し体をかがめセシリーちゃんの顔を覗き込む。気分は幼子を愛でる大人の心境デス!

そしてそままヘラリと笑い、セシリーちゃんに話掛ける。


「だーいじょーぶよセシリーちゃん? 俺は別に怒ってる訳じゃないからさ」
「あ……で、でも! わ、私は五反田さんをまた…!?」
「蔑ろにしたって? あっはっは! 俺にとっちゃそれこそどうでもいいことよん。気にせんで良いよ」
「――っで、ですが……!」
「ふむん……お? そんじゃこうするか。へいセシリーちゃん!」
「な、なんですの?」
「それじゃ俺にお詫びをって意味で。セシリーちゃんが一体俺に『誰』を重ねて見ていたのか教えてくれないかね? 駄目?」
「え?」
「いやー実際気になるじゃん? 俺に重ねるってことは、その誰かさんは俺とよく似ているってことでしょ? 俺として是非ともその人が誰か知りたい所だ! 紳士かもしれんしね」
「え、ええ……まぁ男性ですから、紳士ではありますが……」
「……何だ野郎かよ」
「そこで露骨にがっかりするのかお前は……女性ならば良かったのか?」
「俺に似た淑女かぁ……色々と傍迷惑だね」
【全くですね】
「自分で言うのかそれをっ!?」


箒ちゃんの突っ込みに、そのままヘラヘラと笑いを返す俺。

ふむ、少し空気が緩んだな。箒ちゃんの怒声にセシリーちゃんもちょっと苦笑いをしているし。うむ、落ち着いたようで何よりだ。

俺と箒ちゃんの様子を見ていたセシリーちゃんは、しばし考える素振りを見せた後、一つ頷いて俺に視線を向ける。

おおう? どうやら話してくれるみたいだ。


「……お父様ですわ」
「OTOUSAMA?」
「何故疑問形なのだ?」
「ですからその……私が五反田さんに重ねていた人は、私のお父様なんです……」
「……あ、あ~! お父様ね。親父、父親、パパン、Fatherのことね? 俺には馴染みのない単語だからピンとこなかったぜぃ」
「弾、もしかしてお前……お父上が?」
「昔のことさ……ふっ……もう顔も思い出せねぇ(哀愁)」
「そ、そうか……すまない。辛い事を思い出させてしまったようだな(しゅん)」
【いやいやいやいや、ピンピンしてますって】
「いいさ。それにしても似ているのがまさかセシリーちゃんのお父様とは思いもしなかったぜ」
「似ている……いえ、似ているとは正しい表現ではありませんわね。お父様と五反田さんでは、似ているようで全く似ておりませんから…。」


そう言って少し寂しそうな表情を浮かべ、顔を伏せるセシリーちゃん。うむん? どうかしたのだろうか。

良く分からないといった表情を浮かべる俺と箒ちゃんの顔を見たセシリーちゃんは、自嘲気味に小さな苦笑を返し呟いた。


「父は……お父様は、五反田さんと違って弱い人でしたから」


そう告白したセシリーちゃんの姿は何処か寂しげで、瞳も悲しみに揺れているようだった。セシリーちゃんの姿に、箒ちゃんが戸惑いがちに口を開く。


「弱い? それはどういった意味なのだ……?」
「言葉通りの意味ですわ。お父様はとても弱い人間だったんです。……もし、父が五反田さんの気性にもう少し似ていればもっと違ったのでしょうけど」
「……成程ねー? 全部が全部似ている訳じゃなくて、ふとした仕草が俺と重なる部分があるって意味なのね?」
「……はい。そうですわ」
「ほうほう……ん? 弱い人間……だった?」
「……まさかっ!」
「……ええ、お察しの通りもうお父様はいらっしゃいません。三年前、事故で帰らぬ人になりましたわ……お母様と共に」
「「っ!?」」


その言葉に思わず息を呑んだ。箒ちゃんもセシリーちゃんが両親を亡くしているという事実に言葉を無くしている。

それと同時の俺は理解した。先程までのセシリーちゃんの剣幕と行動の根本にあるものを。

セシリーちゃんは……もう聞く事が出来ないんだ。本人に、お父さんに直接訊ねることが二度と。

だからこそ必死だったんだ。父親を思い起こさせる仕草をとった俺に、答えを持っているかもしれないという小さな希望を胸に問い掛けた。

もう知る事が叶わない、お父さんの姿を俺に見て……長年の想いが爆発した。


やれやれ、こいつは参ったね~? まさかここまでヘビーな問題とは思わなかった俺は、少し頭を掻き内心小さく息を吐いた。

全く本当に勘弁してほしいぜ。本当に最近問題発生のオンパレード、今日で二件目ですよ? そんな寂しそうな顔でそんな事言われちゃぁ――。


――何とかしてやりたくなるじゃねぇかよ。


「――へい! セシリーちゃん!」


突然の俺の少し大きめの声に、セシリーちゃんが驚いた顔を向ける。


「! は、はい。なんですの?」
「セシリーちゃんが何を俺に求めてるのかは大体分かった。けど、俺はセシリーちゃんの求める答えを持っている訳じゃない。それはいいかね?」
「え、ええ……それは先程理解しました」
「よし、そんじゃその点を踏まえて……話してくれないかね? セシリーちゃんのお父さんの事をさ?」
「え?」
「俺は答えを持っている訳じゃない。けど、セシリーちゃんは俺にお父さんの姿を見たってことは俺がセシリーちゃんのお父さんに通じる何かを持っていると感じたからだよね?」
「は、はい」
「ならもしかしたらだけど……セシリーちゃんのお父さんの事を俺がもっと正確に思い浮かべる事が出来たら、お父さんの根本に近づく鍵を見つけられるかもしれない」
「――っ!?」


俺の言葉にセシリーちゃんが弾かれたように眼を見開き、俺を凝視する。その瞳は僅かな希望と救いを求める子供のように淡く光っている。

そんな彼女に俺はヘラリと笑い返し頷く。


「あくまで俺がセシリーちゃんのお父さんを思い浮かべた上での俺なりのビジョンだけどな? それでも構わないなら話してくれんかね? 俺も今度はおふざけ無しでちゃんと返すよん。どうかね?」
「――は、はいっ! お願いしますわ!」
「わ、私は席を外した方がいいか?」
「いんやー、此処まで来たら一蓮托生だぜ箒ちゃん! 箒ちゃんも協力しておくんなせぇ。いいかねセシリーちゃん」
「構いませんわ」
「そ、そうか。うむ、承知した」


そう言って、表情を引き締める箒ちゃんの姿に微笑ましく思いながら、セシリーちゃんに視線を移し一つ頷く。

その俺の仕草に、セシリーちゃんも小さく頷き。ゆっくりと口を開いた。



父親の事、母親の事、オルコット家の事、入り婿であった事、母の顔色ばかりうかがっていたこと、そんな父を母が拒んでいた事。



その一つ一つの情報を呑みこみ、俺はセシリーちゃんのお父さんの姿を構築していく。何故そうなのか、どうしてそうなってしまったのか。

それら全てを、俺だったらと、こうだったのではないかと、俺は徐々にセシリーちゃんのお父さんを思い浮かべ――。


――一つの答えに行き着いた。


……ああそうか。もしかしてセシリーちゃんのお父さんは……。俺が一つの姿を幻視した時にはセシリーちゃんは話を終えてた所だった。


「――以上が私のお父様の事ですわ。娘の私が言うのも何ですが……弱い人でしょう?」
「オルコット……」


寂しげに呟くセシリーちゃんに、箒ちゃんが気遣わしげな声を漏らす。

どうやら箒ちゃんはセシリーちゃんと同様の姿しか思い起こせなかったみたいだ。まぁ仕方ないか、女心は難解だけど男心もまた複雑だかんねー? 意地だらけじゃない分女心の方が美しいがね!

さて、そんじゃ俺の行き着いたセシリーパパンの姿を語るとしますか。


「ふむ。成程ねー……セシリーちゃんや?」
「――っは、はい。何ですの?」
「セシリーちゃん。俺とお父さんが似てる所があるって言ったけど――」
「は、はい」
「ぶっちゃけ何処が似てんのかね? 失礼にも程があるぞ?」
「「――っ!?」」


俺の言葉にセシリーちゃんは表情を硬くし、箒ちゃんに至っては怒気を込めた瞳で俺を睨みつける。

いや、そんな睨まれても困るんだがね。そんな俺に表情から色を無くしていたセシリーちゃんが、乾いたような諦めに近い苦笑を漏らした。


「……そう、ですわね。……確かに失礼でしたわ」
「うむ全く持って失礼だ。セシリーちゃんそりゃあんまりってもんだぜ?」
「――っ弾! 貴様何を言っているのか分かっているのか!?」
「勿論だ。何を怒ってるの箒ちゃん? 俺は至極当然の事言ったまでだよ?」
「――っ見損なったぞ!? まさか貴様がその様な男だったとは思わなかった! 恥を知れ!」
「……いいんです篠ノ之さん。五反田さんは正直に答えてくださっただけですわ……五反田さんの捉えたお父様の姿を」
「――っだが! いくらなんでも今のような言い方は!?」
「いいんです。ふふ……これで確信を持てましたし。お父様は……私の父は誰が見ても……」


そう呟き顔を伏せるセシリーちゃん。そんなセシリリ―ちゃんに、俺はしっかりとした声で告げた。

――俺の捉えたセシリーちゃんのお父さんの姿を。



「――ああ。俺なんかと比べるなんて恐れ多すぎる程偉大な人だ。はっきり言って俺なんかと似てる部分なんて見つける事すら難しいぜ。いくら何でも……俺と比べるなんてそんなのお父さんに失礼だぜ? セシリーちゃん」



「――え?」
「――っ!? ど、どういうことだ?」


俺の発言に戸惑った声を漏らす二人に向かい、俺は沙汰に言葉を紡いでいく。

ああ、本当に…凄ぇ人だぜ。セシリーちゃんのお父さんは。


「うむ。聞けば聞く程惚れぼれするぐらいに凄い人だぜ。むしろそんな人に似てるって言われるとは光栄以外の何物でもないなぁ」
「――っ先程の言葉はそういった意味だったのか!?」
「勿論よん♪ 箒ちゃん、早とちりしちゃった?」
「ま、紛らわしい言い方をするからだ! この馬鹿者!」


口調は怒っているようだけど、その表情は嬉しげでほっと安堵した色を浮かべている箒ちゃんに俺もヘラリと笑い返し、続けてセシリーちゃんに向き直る。

呆けたように俺を見据えていたセシリーちゃんだったが、ようやく言葉の意味が頭に回ったようで……次の瞬間には怒号の勢いで捲し立ててきた。


「――っそ、それはどうしてですの!? な、何故そう思えるのですかっ!? わ、私の話を聞いて何故そういった結論に至るのですかっ!? お、お父様が! わ、私のお父様が偉大だなんてどうしてそう思えたのですかっ!?」


必死に俺に問い詰めるセシリーちゃん。その瞳には大きな混乱と驚愕に彩られ、そして期待に満ちていた。

うーむ、これは俺の考えであって答えではないからなぁ……でも、話を聞くに俺はそうとしか思えなかったんだよね。


「そんなに期待されても困るよ? あくまで俺の捉えた姿だから、その点を忘れちゃならんよ? そこは理解してね」
「――っわ、分かっています! けど、ですけど! そのように捉えた人は五反田さんだけなのですっ! 教えてください! 何故、何故そう思えたのですか? 五反田さんにはお父様は一体どう映ったのです!?」
「俺がその答えに行き着いたのは……セシリーちゃんが『家族』としてお父さんを見てるのと違ってまるっきり他人として見たからだよ」
「他人? しかし私から見てもお前と同じような意見には至らなかったが?」
「そりゃセシリーちゃんのお父さんを『個人』として見りゃね? けど俺はもっと視野を広げて見たんだよ。お父さんを取り巻く環境を見据えてみたら、俺はセシリーちゃんのお父さんが凄い人じゃねぇかと思えたんだ」
「そ、それは一体?」


いまいちピンとこないセシリーちゃんと箒ちゃんに苦笑し、俺は言葉を紡ぐ。


――さぁセシリーちゃん、君に鍵を渡そう。


その鍵を持ってどういった答えに行き着くのかは……君次第だ。

お父さんの本当の姿。それを本当に知る事が出来るのは……娘である君しかいないんだ。

俺は唯の推測でしかとらえられない。けど、お父さんを間近で見たいた君なら行きつける筈だ。


それじゃあ語ろう。俺の捉えたセシリーちゃんの父親を。


――オルコット家を、奥さんを、そして娘である君を愛して止まなかった男の姿を。


――悲しいまでに不器用な深い愛情を注いだ……大嘘つきの姿を。





【 虚 SIDE 】


――バンッ!


屋上の出入り口のドアが派手な音をたてると同時に、金色の髪をたなびかせた少女が駆け抜けて行った。

その姿を見送る五反田くんの姿に、私は小さく心臓の鼓動が跳ねるのを実感した。

突然走り去ってしまった少女の姿に、もう一人の黒髪の女子生徒は困惑した様子だったものの、その後すぐ五反田くんと一言、二言交わした後、静かに屋上を後にした。


「はー……流石ダーリン。捉え方が違うわねー」
「だんだんはいろんな所に目を向けられるからねー? それがだんだんの良い所なんだよねー」
「ええ、そうですね。後は彼女が自分で解決するでしょう」
「そうね、これから先は彼女の問題。う~ん♪ ダーリンも引き際を心得てるわね! ますますウチに欲しくなっちゃった♪」


壁越しにそう密談を交わす生徒会一同。……とてもシュールな光景ですね、まぁ仕方ないですけど。それにしてもこれで完全に盗み聞きになってしましましたね。

うぅ…今から話掛けなければならないというのに、なんて言ったら良いんでしょうか?

盗み聞きをする趣味でも持っているのかと思われでもしたら……ど、どうしましょう? 急に不安がこみ上げてきました……!?

一人オロオロし始めたそんな私に、それを敏感に察知したお嬢様が悪戯っぽい頬笑みを向けた来ます。


「な、なんですか?」
「うふふ、そんなに不安に思わなくても大丈夫よ? きっとダーリンことだから怒りはしないと思うなぁ。それに私の指示でこうしてこの場に留まっている訳だし、あんまり気に病まないでいいのよ虚ちゃん♪」
「そ、そういう訳にも」
「だんだんの事だから怒りはしないと思うよ~? でも注意くらいはされちゃうかもー? セッシーの事情を無断で聞いちゃったしねー?」
「あらら……うーんそれに関しては確かに誉められた事じゃないし、潔く謝りましょう」


本音の言葉に、苦笑を浮かべたお嬢様。その様子に私も一つ頷く。理由はどうあれ覗き見をしてしまったのは事実。なら、ちゃんと謝らないといけないですね。

お嬢様の言葉に賛同の意を伝えようと言葉を開こうとした……その時でした。


「――さって? いつまでかくれんぼしてる気かね? そろそろ出てきたらどうだい」


五反田さんが屋上の入り口に視線を向けそう口にしたのでした。

――っ! や、やっぱり気付いてたのね。

五反田くんの言葉を聞いて本音が『に゛ゃ!?』と小さく驚き、お嬢様は五反田くんが私達に気付いている事に察しがついていたようで、扇子で口元を隠しクスクスと嬉しそうに微笑んでいらっしゃいました。

うう……正直な所出て行きたくないです。こんな醜態をさらすなんて。

内心落ち込む私。そんな私にお構いなしに……いえ、むしろ気付いていながら楽しんでいるであろうお嬢様は面白げに忍び笑いを漏らした。

何を笑っていらっしゃるのでしょうかお嬢様は? うふふふ。後で『OHANASHI』の時間を設けるべきでしょうか……?


「あ、あわ……あわわわわわわわ~……っ!?(ガクガクブルブル)」
「――あ、あはははは!? さ、流石ダーリン! やっぱり私達に気付いてたのね!? 嬉しいわっ!!」


急に大きな声を張り上げて壁の死角から踏み出し五反田くんの前に姿を現すお嬢様。逃げても無駄ですよ?

本音も何をそんなに真っ青になって小さく震えてるのかしら? 変な子ね? うふふふ。……何よその涙目で『ひっ!?』って、失礼ね。


「おおう? 誰かと思えばハニーじゃないか! って、何そんな震えてるの? どったのよ?」
「……ダーリン助けて私殺されるっ……!(涙目)」 
「登場と共にいきなり助けを求める美少女との遭遇フラグっ!? へい! 何にがあったのよ!?」
【非殺傷だから死にはしないでしょう。潔く逝ってらっしゃい】
「七ちゃんっ!? 事情を察しながらも見捨てようとしないでぇっ!?」
【自分の集音率を舐めちゃいけません。前掛け舐めんな】
「流石だ相棒!」
【自分は、いずれ全ての前掛けの頂点に立つ存在。この程度朝飯前よ】
「いろいろ突っ込みどころ満載だけど、とりあえず助けてぇっ!?」


ワイワイと騒がしくなった屋上の雰囲気に、私は小さく溜息をつく。……とりあえずいつまでも隠れている訳にはいかないわね。

そう思った私は、まだちょっと震えてる本音に目線で促し立たせる。そんなに怯えなくてもいいじゃないの。……冗談だから怒ってないから本音には。

あからさまにほ~~~っと、息を吐く妹に色々思う所はあるものの、本音と一緒に物陰から踏み出してお嬢様から一歩下がる位置に並ぶ私達。

私達姉妹の登場に五反田くんは「おおう、やっぱり美人姉妹のお二人も一緒か! 眼福眼福。」と笑みを零して頷いていました。

そ、そんな煽てには乗りませんよ? もう……。(赤面)

『ダーリンGJ!』と、お嬢様が何やら叫んでいますが。何を喜んでるんでしょう『OHANASHI』はしますよ?

そしてその後すぐ『神は死んだっ……!』と膝をつくお嬢様を尻目に、私は小さな会釈を五反田くんに返したのでした――。



――そして数刻後。


「ええええええええええ~~~~っ!? もう悩みは解決しちゃったって! それは本当なのダーリン!?」


屋上にお嬢様の大声が木霊した。

そんなお嬢様の様子に、五反田くんが少々戸惑った表情を浮かべつつも、頷いて言葉をつづける。


「お、おおう。その通りだぜハニー。え? 何か不味かった!?」
「そ、そんなぁ~。折角私達が大活躍する筈だったのに酷いわダーリン!?」
【マジKY】
「最近相棒が俺に容赦ない件について。そろそろ議会を開かにゃならんと思う今日この頃です」
「お嬢様…そこは残念がる所ではないと思いますが。悩みが解決したようで何よりです。良かったわね五反田くん。」
「虚さんの優しさが身に沁みるぜ! サンキューです!」
「そんな事言って、虚ちゃんだって内心は残ね「お嬢様?」良かったわね! ダーリン! 私も祝福しちゃうわ、おほほほほっ!(冷汗ダラダラ)」
「ハニーもサンキュー! といっても、実は小さな妖精ちゃんが力添えをしてくれたおかげなんだがね?」
「…小さな?」
「…妖精? え? そ、それって他の女の子の力添えがあったって事?」
「おう! 超可愛らしい妖精ちゃんだ! いやマジで助かったなー。感謝感激だぜぃ!」
「…あら、そうなの。」
「ダ、ダーリン…! お、お願いだから今は軽はずみな発言しないでぇ…!?」


お嬢様が何か弱々しく呟いていますが…そうですか、可愛らしい妖精さんがですか。そうですか。

いえ、別に良いんです。悩みが解決したのなら喜ばしい事です。ええ、本当に。

そんな事を思う私に、五反田くんが妙な顔を浮かべてきました。…何ですか?


「およ? 虚さん、眉間に皺が寄ってますがどうかしたんですかね?」
「…別になんでもありません。(プイッ)」
「おおう? そ、そっすか。いやその表情もお美しいですから別に何でもないならいいですが。」
「口が上手いのね。五反田くんは、そうやって誰に対してもそう言ってるんでしょう?」
「本心ですが?」
「…っ! そ、そんな事聞いてません!(真っ赤)」
「…むぅ~…!!」


五反田くんの言葉に、ちょっとドギマギしつつ返す私でしたが…その横で、私以上に機嫌の悪い子がいる事に五反田くんは気付いているのかしら?

私の横で、頬を膨らましながら半眼で五反田くんを睨んで…いえ、この子の場合迫力が皆無だから凝視の方がしっくりくるかしら?

そんな様子の本音が、さっきから『ぶっすぅぅっ』とした擬音が聞こえるぐらいの表情を浮かべ、五反田くんに非難がましい顔を向けていた。


「…そんでさっきからムスッとしてる萌えっ娘ちゃんですが。へい! のほほんちゃん! 一体どうしたのよ!? 俺なんかしたっ!?」
「…むーっ!」
「え? 何にもしてないから怒ってる? どゆこと?」
「むーっむーっ!」
「えー、そんな事言われましても。解決した事は事実な訳でしてね?」
「むいぃ~っ!?」
「あー…いや、妖精ちゃんの事は今この場ではちょっと。時期が来たらって事で此処は一つお怒りを鎮めて貰えないでせうか?」
「むぅぅ~っ!」
「…ところでのほほんちゃん。俺が【貯蔵】していたお菓子の一件だが…?」
「……。」
「…目を反らすんじゃありません! お菓子は一日三つまでと言っているでしょう!? ちょっとそこ座んなさい! 相棒も甘やかすんじゃありませんっ!(主夫)」
「あ、あうぅぅ~っ!? だ、だってぇ~! 物足りなかったんだも~ん!?」
【サーセン】
「…私としては、本音ちゃんとの以心伝心ぶりと、扱いの上手さにビックリなんだけど。」


なんだか話が変な方向に向かいそうだったので、とりあえず話をいったん区切った私達は、お嬢様に言われ水筒に淹れてきた紅茶を取り出し、その場で振る舞うことにしました。

屋上の芝生の上で向かい合って座りながら、少しの間他愛のない話を続ける私達。

ちなみにお嬢様と本音、そして私の下には、五反田くんが『七代目五反田号』から取り出したシーツが敷かれ、その上に腰を下ろしている状態です。

よ、用意が良い人ですね本当に。

…本当なら、その場で淹れた方がいいのですが。

一応温度によって、その都度味が変わる趣向にしましたが…どうやらお嬢様と五反田くん、そして本音の口に合ったようですので良かったです。

そしてまた数分の時間が流れ――――― 話はようやく佳境に入りました。


「ん~? つまり、ハ二ー達美人生徒会のお三方は、俺の手助け、もとい協力を申し出てくれてるって事で良いかね?」
「そう♪ 悪くない話しだと思うけど? 私達と仲良くすると色々お得よ~?」
「何? 特典が付くのか…!?」
【相棒、オマケ狙いは程々に。】
「そうよ~? オマケで生徒会役員の肩書が付いてくるプレミア特典付きよ? どうかしら?」
「それ勧誘って言わなくね?」
「そうよ?」
「ストレートな君が素敵だハニー!」
「や~ん♪ そんなに褒めないでダーリン♪」


軽口を叩きつつも、お嬢様の眼が真剣なことに気が付いている五反田くんは、小さく「ふむ」と呟くと。紅茶を一口飲んで考える素振りをみせる。

その様子を、私と本音は黙って見守る。

しばらく考えこんでいた五反田くんでしたが―――。


【相棒。この話お受けしてみてはどうです?】
「おおう? 相棒何故にそう思うのかね?」


そう進言した『七代目五反田号』に視線を向けて、五反田くんは少しだけ眉をひそめる。

私達も、まさか彼のISから援護射撃がくるとは思いもせず少々驚愕する。


【相棒も知っての通り、クラス対抗戦まで時間はあまり残されていません。ならば、彼女達の力を借りて、手札の一つを集めてはどうでしょう。その方がより相棒も色々動き易くなりますし。メリットは大きいです。】
「ふむ。」
【妖精さんの事もあります。かえって好都合では?】
「…成程。確かにメリットはでかいな…。」
【ええそうです。それともう一つ。】
「ん? 何よ?」
【もしこの話を断ったりしたら、のほほん嬢の機嫌が急転直下すること間違いなしです。あれ程、相棒の手伝いをすると言ってくれていたのに、妖精さんの力は借りたのに自分には頼ってくれないのかって。】
「……。(チラっ)」
「…むぅ~っ…。」
「――― よろしく頼むぜハニーっ!! 別に後が怖いからって訳じゃないからね!?」
「任せてダーリン! んー。でもま、ちょっと強引過ぎるから、初回はお試しって事でいいわ。いくらなんでも急に生徒会に入ってもダーリンも戸惑っちゃうでしょうからね♪」
「なんてサービス精神だ!? 素敵過ぎるぞハニー!!」
「そうでしょう? んふふ♪もっと敬ってくれてもいいのよ。」
「ハニーって結構メンドクサイ人やね!」
「ちょっ!? 敬ってないわダーリン!?」
「すみません。」
「そこは謝らないで欲しいわ虚ちゃん!?」
「それよりもー、だんだんは結局何を今まで調べてたのー?」
「それよりもって本音ちゃんまで!?」
【ちょっと、うるさいんですけど。】
「……。」


ちょっと離れた所で『の』の字を書き始めたお嬢様。そんなお嬢様の姿に、小さく苦笑を浮かべあう私と本音、そして五反田くん。

…少し悪乗りしすぎたかしら? 

それからしばらくして、いつもの調子に戻ったお嬢様を交えて。私達は、今まで五反田くんが何を調べていたのか、そして何の為に調べていたのか詳しく話を窺うことになったのでした。



――― 数分後。



五反田くんから、全ての話を聞き終えた私達は、先程までとは打って変わった真剣な面持ちで、『七代目五反田号』が表示した情報に目を向けていました。

…まさか、五反田くんはこんな事まで調べていたなんて。驚愕の一言しかありません。

そして同時に理解しました。

五反田くんが、心の底から彼女を…『凰鈴音』を救い出したいと思っている事を。どれだけ大切に思っているのかを。

少しだけ妬けてしまう位に。この『凰鈴音』と言う子は、幸せね。

その情報端末を見据えつつ、お嬢さまがにっこりと頬笑みを浮かべ五反田くんに向かって話し掛けました。


「ダーリン。結構凄い事調べてたのね? うんうん♪ さらに高評価しちゃうな~」
「んー。まぁ、これ位しなきゃならん事態だったしね? 仕方ないさ。」
「えへ~♪ りんりんの為だったんだね~? だんだん。」
「しかし…これは結構厳しいですね。五反田くん、一体どうするつもりなの?」
「とりあえず…切り札は任せられる相方がいるからね。出来る事なら・・・ハニー達にはこれを頼みたいんだ。」
「これって――― 成程ね。確かに時間が掛かる上に、一番情報が少ないから、これは私達が適任ね。けど判明した後は?」
「そんときゃ俺に連絡を。後は俺の役目だと思うしね?」
「分かったわ…虚ちゃん。」
「承知いたしました。」
「よろしく頼みます。で、のほほんちゃん!」
「なにー?」
「実はのほほんちゃんには別の任務を頼みたい!」
「お~! らじゃ~♪ なになに~?」
「おそらくクラス対抗戦まで俺も忙しい日々になると思うから…その間、鈴の様子をちょくちょく見に行ってやってくれないかね? おそらく鈴にとって、この学園で気を許せるのは一夏と俺を抜かしたら、のほほんちゃん位だと思うんだ。一夏とはすれ違いの最中だしね。」
「うぃ! りょーかいです。ぐんそー♪」
「うむ! 貴官の尽力に期待するっ! …ってことで、どうかよろしく頼んます! お三方!」
「任されたわ♪ 大船に乗ったつもりでいてね? ダーリン♪」
「私も全力を尽くします。安心してください。」
「がんばるぞ~。」
【心強いですね。相棒?】
「おう。頼もしい淑女さん達だ。」


力強く頷く私達生徒会の面々に、嬉しそうに表情を緩める五反田くん。そんな彼を見て、お嬢様と本音、そして勿論私も満足げに頷く。


―――― さぁ、これから忙しくなるわね。



忙しくなるということは確定だと言うのに…何故か私は、それが待ちどうしくて仕方ない。


―――― そう、小さな子供のように胸を弾ませていたのでした。






【 蘭 SIDE 】


「―――― ふぅっ。こんなもんかな?」


『五反田食堂』の入り口前。

そこの掃除を、終えた私はゆっくりと息を吐いてあたりを見回した。

――― うん。どこも取り残しは無いみたい。上出来上出来。

満足そうに頷いた私は…ふと、夕暮れの空を見上げた。


「お兄がIS学園に行って、もう一カ月かぁ…。」


そう呟いた私。

――― っまったくあの馬鹿兄! 誰のせいでお店の表の掃除を私がするようになったと思ってんのよ!

お兄の事を思い浮かべ…私はふつふつと怒りが込み上げてきた。

お兄がIS学園へと強制入学して早一カ月。

『五反田食堂』は灯りが消え――― ううん。嵐が過ぎ去ったかのような穏やかな時間が毎日のように続いている。

まぁ、そうだよね。

あんな騒がしいだけのお兄がいないだけで、こんなに平穏な毎日がやって来たんだもん! 本当に、あの馬鹿兄の傍迷惑さを実感するわー。

お爺ちゃんだってそう。


『あの馬鹿孫がいないってだけで、随分と気が楽だわっ! がはははっ!』


って豪快に笑い飛ばしてたしね! うんうん。お爺ちゃんだって年なんだもん。あんな馬鹿兄に毎日構ってたら、寿命が心配になっちゃうもんね!

そりゃ食堂の営業中につい癖で『おい弾! 盛り付―――ああ、そういやそうだったな。…チッ!』って時々そんな事もあるけど。

…馬鹿兄いない事に『大将もこれでホッとしたでしょう! 色々と心労も絶えないでしょうからあんなお孫さん持ってると!』って言ったお客さんに『それ食ったら、とっとと出てけ!』って怒ったりもしたけど…お兄の包丁…毎日研いでる姿も、見たり…。

い、いやいや。別に寂しいとか思ってないもん!

私だってお兄にはずぅっと! 迷惑してたんだから!

お母さんだって! ち、ちょっと元気ないけど…い、いつも通り笑顔で看板娘してるもん!

だから別にお兄がいなくたって、『五反田食堂』は平穏無事! 全く問題なし! お兄がいなくたって! 

お兄がいなくたって! 

…いなくたって…。

…。


「…馬鹿兄。」


たまに連絡しろって、言ったのに。

そりゃ最後に電話がきて、まだ数日しか経ってないけどさ…。

……。

……。

「――― っああもう! いなかったらいないで本当にムカつく!! あの馬鹿兄が―――っ!!」


どうせあっちで女の子のおしり追っかけ回してばっかりで、家の事なんか忘れてるに決まってるんだ!

何よあの薄情ものっ! お兄なんか、バカやって大怪我でもしちゃえばいいのよっ!!

…。

あ…や、やっぱり…転んで膝を擦り剥く程度で…か、勘弁してあげよう…うん。


「…~っ! はぁ、何言ってんだろ私。」


もうお店の中に戻ろう…お客さん捌かなきゃならないし。

あーあー。看板娘も大変だな~。

何処となく重くなった心を引き摺るように、私は店内へ戻ろうとした時―――。


「――― 失礼。そこのお嬢さん? こちらは五反田 弾さんの御宅で間違いないでしょうか?」


そう声を掛けられた。

その言葉に、お兄の名前が挙がっていた事に驚いて。私は思わず、自分でも驚く位な反応で振り向いた。

そこに立っていたのは。どこか裕福そうな出で立ちの男性が一人、私に視線をむけていた。

…誰だろう? お兄の知り合いにしては、年上過ぎるような?


「…失礼。こちらは五反田 弾さんのお宅ではなかったでしょうか?」
「―― あ!? す、すみません。あの、どちら様でしょうか?」
「おっと、これは失礼を。私はこう言うものです。」


私の言葉に特に気分を害した様子もないその人は、私に名刺を差し出してきた。それを思わず両手で受け取る。

えっと…。


「『IS学園 理事会』って、IS学園の人ですかっ!?」
「ええそうです。それで…こちらは五反田 弾さんの御宅で間違いないでしょうか?」
「あ、はっはい! そうです! あの、いつも兄がお世話になっております!」
「ほう? では貴女が、五反田 弾さんの―――?」
「は、はい! 妹の五反田 蘭っていいます!」
「そうですか。これは実に可愛らしい妹さんを持っていらっしゃいますね?」
「そ、そんな事…それ程でもないです。(照)」


ストレートに誉められて、少々顔に熱が登って来るのが分って顔を伏せがちにモゴモゴと口ごもっしまう。

うう、あたしこれでも生徒会長やってるのに…!

そんな私に、男の人は構わず話を続ける。


「成程、こちらで間違いなかったのですか。いや安心しました。何分地理には疎くて不安だったんですよ。本当に良かった。」
「そ、そうなんですか。…あ、あのそれで…一体どういった御用件で?」
「ああそうですね。実は私がご自宅まで窺ったのは・・・五反田 弾くんの事で少しお話があるからなんですよ。」
「え…お兄の事…ですか?」
「はい。」


そう言って微笑むIS学園の人の言葉に、私は頭が真っ白になっていくのが分かった。


IS学園の理事会の人が…直接家に訪ねてくる?

それって…どういう事?

それって、一体どんな事態があったっていうの?

何かあった?

…お兄に?

あの、お兄に…?

―― お兄の身に…何か―――っ!?


持っていた竹箒を放り出し。


―――― 私は気付いたら、IS学園の理事会の人に詰め寄っていた。


「―――っな、何かあったんですか!? お、お兄の身に何かあったんですか!? お兄は!? もしかして怪我をっ!? お兄は!? お兄は無事なんですかっ!?」
「おっとっと! お、落ち着いてください。」
「――― 落ち着いてなんかいられる訳ないでしょ!? お兄は無事なのか聞いてるのっ!! 答えて! 早く答えてっ!!」


私の剣幕に、理事会の人が慄いているけど…そんな事気にしている余裕なんて今の私には無かった。

だって!! だってお兄がっ! 私のお兄がっ…!!

そりゃ破天荒で、無茶苦茶で、とんでもない性格してるけどっ! わ、私にとっては…!! 私にとっては…!! 

目の前が歪んでいく。鼻の奥がツンといなって、涙腺が開くのが分かる。

お兄…! お兄…っ!


「――― っ! ふぇ…っ!」
「だ、大丈夫です! 落ち着いてください。私が来たのは唯少しばかり、五反田 弾さんのお話を伺いに来ただけですから。五反田くんは今も元気に学園で過ごしていますから、どうか安心してください。」
「…ふぇ…?」


グスッと鼻を啜る私に、男の人は柔らかい笑みを浮かべ笑いかけてきた。

――― お兄が、げ、んき…?

呆然とする私に、男の人は頷いてハンカチを差し出してきた。


「どうやら勘違いをさせてしまった様ですね? 申し訳ありません。私の配慮が足らなかったばっかりに。」


柔和な笑みを浮かべるその男性の言葉に、私は自分の勘違いにようやく気が付いて顔を真っ赤にして両手で押さえてしまった。

か、勘違い!?

そ、それじゃあ、私っ今!?


「―――ごっゴメンなさい! あ、ああああ! わ、私ったら何て失礼な事…! うわぁ! わあああああぁぁぁっ!?」
「いえいえ、大変可愛らしかったですよ? リトルレディ。」
「はうっ!? うう…面目ないです。」


ハンカチを受け取り、それで涙を拭く私を…その人は優しく見守っていてくれた。

うう、一生の不覚。

涙を拭き終えた私は、ハンカチをオズオズと返そうとするけど『安物ですから、よろしければ貰ってください。ハンカチも私よりも可愛らしいお嬢さんに使われた方が幸せでしょうから』と、言ってくれた。

…うう、凄くいい人だ。そんな人に私ってばなんて事を。

小さくなる私に向かって。IS学園理事会の男の人は話を続ける。


「それで、五反田 弾さんについてお聞きしたい事があるのですが?」
「あ、はっはい。あの、それなら店内へどうぞ! おじ…じゃなくて、私の祖父と母も今お店にいますからっ!」
「ああいえ、お仕事中にお邪魔するのは忍びありませんから。簡単な質問ですので妹さんでも構いませんよ。」
「え? わ、私ですか…?」
「はい。」


その言葉に、少々面食らう私に向かって。

その男の人は一層笑みを深くして、私に微笑んできた。

う、う~ん…さっきの事もあるし。私で答えられるんなら良いかもしれない。

そう思った私はコクリと頷いて、口を開いた。


「は、はい。私で答えられる事なら喜んで!」
「おお、それは助かります。ありがとう可愛らしいお嬢さん。」


そう言って、人の良い笑みを浮かべるIS学園理事会から来た男の人は、とても嬉しそうに微笑んでくれた。

質問かぁ? 一体どんな事なんだろう…?

なんとなく、私は手元の名刺にもう一度視線を下ろして見る。

…はー、やっぱりIS学園って日本にあるけど、世界中から沢山の人が集まる所なんだ。

この男の人も、絶対に日本人じゃありえない名前だし。

それにしても、この名前からして一体何処の国の人なのかな?

フランスかな? イギリス? もしかしてドイツ?

う~ん? 一体何処の国の人なんだろう。

この名前だけじゃ、ちょっと分からないなぁー。




















―――― ドーベル なんて。







後書き

どうも、釜の鍋です。更新頑張ると言ったのにこの体たらく・・・!! 返す言葉もございませんっ! しかも内容全く進んどらんし! 何やってんの自分・・・!? 本当にすみません。言い訳言わさせてもらうと・・・書いてる量が膨大なモンになっちまいまして・・・こりゃ二話に分けんと長すぎるっ! と思った次第であります。・・・ですので次話ですが。早けりゃ今日の夜中。遅くても明日には更新しますっ! 絶対します! ですので・・・どうかご勘弁を・・・! 最近本気で転職考え始めた釜の鍋でした。


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