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No.27655の一覧
[0] 【習作 IS 転生 チラ裏より】 へいお待ち!五反田食堂です![釜の鍋](2013/03/18 01:45)
[1] プロローグ[釜の鍋](2011/11/27 15:22)
[2] 第一話   妹一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 15:30)
[3] 第二話   友達二丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 15:37)
[4] 第三話   天災一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 15:43)
[5] 第四話   試験日一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 15:56)
[6] 第五話   入学一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/12/12 12:28)
[7] 第六話   金髪一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 16:30)
[8] 第七話   激突一丁へいお待ち![釜の鍋](2013/03/18 01:39)
[9] 第八話   日常一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 17:13)
[10] 第九話   友情一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 17:38)
[11] 第十話   決闘 【前編】 へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 17:54)
[12] 第十一話  決闘 【後編】 コースは以上へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 17:49)
[13] 第十二話  帰還一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 18:33)
[14] 第十三話  妹魂一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 19:08)
[15] 第十四話  チャイナ一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 16:43)
[16] 第十五話  暗雲?一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 19:53)
[17] 第十六話  迷子一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 20:19)
[18] 第十七話  約束一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 20:43)
[19] 第十八話  始動一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 21:13)
[20] 第十九話  光明一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/27 21:56)
[21] 第二十話  幻影一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/11/28 01:59)
[22] 第二十一話 協定一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/04/26 12:52)
[23] 第二十二話 氷解一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 16:51)
[24] 第二十三話 思惑一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/02/06 19:27)
[25] 第二十四話 開戦一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/02/06 18:38)
[26] 第二十五話 乱入一丁へいお待ち![釜の鍋](2011/12/26 18:09)
[27] 第二十六話 優先一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 16:46)
[28] 第二十七話 三位一体【前編】 へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 17:13)
[29] 第二十八話 三位一体【後編】コースは以上へいお待ち! [釜の鍋](2013/03/18 23:04)
[30] クリスマス特別編  クリスマス一丁へいお待ち?[釜の鍋](2011/12/25 22:00)
[31] 短編集一丁へいお待ち![釜の鍋](2012/04/23 23:29)
[32] 短編集二丁へいお待ち![釜の鍋](2012/09/17 17:24)
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[27655] 第十九話  光明一丁へいお待ち!
Name: 釜の鍋◆93e1e700 ID:3759d706 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/11/27 21:56
ちわっす。最近シリアス続きで糖分足りてない五反田 弾です。


いやもう本当にどうしたもんですかねー?
二日前の出来ごとを思い出してみたものの、鈴の暴走を鎮めた後、せっかくいい感じになるかと思いきや、一夏のアホの鈍感ぶりのお蔭で台無しです。

まぁ、その次の日に豆腐を一夏の頭にブチ付けてやったがね。(その後、気を失った一夏の口の中に、豆腐がもったいないから醤油と一緒に流し込んでやった。)
あの野郎。木綿であった事に感謝しろよ…!!

まぁ~鈴の方は俺もフォローいれたし、のほほんちゃんの癒しパワーのお蔭もあって何とかなったが、根本的な解決にはなっとらんのもまた事実。

そしてさらに厄介な事態も発生したりするから、もう本当どうしろってのよ。

厄介な事って言うのは。
あれから二日経ったものの、一夏と鈴の間にどこかぎこちない空気が流れている事だ。

いきなり睨みつけてそっぽ向くとか、そんな分かりやすい事なら別に構わんのだが。鈴が一夏と視線が合っても、どこか気まずそうに視線を泳がせ、一夏の奴もそんな鈴の様子に何て声をかければいいのか分からないって態度が目立つ。

鈴は、俺の言葉を真摯に受け止めたから一夏の事を友人としては大目にみているものの、女としてはまだ許せずいる為、どう対応したらいいのか分からないって感じで。
一夏も一夏で、鈴を泣かせた上に、その理由も分からず、謝りたいものの、原因も分からず謝る事が出来ない為、行動出来ずに居るって感じだ。

ふむ、まぁ一夏にしてはいい傾向だ。
とりあえず謝ろうとは考えず、しっかりと原因を考えて、自分の非を明確にした上で謝ろうと考える姿勢は好ましい。うむ、やれば出来る子なんです。
しかし、恋愛面激鈍な一夏が、理由に気付いて本当の約束の意味に考えが至るのはとんでもない時間を有することは間違いなしだ。

うーむ。手を貸してやりたいがこれは一夏一人で気付かねばならん問題だから、俺は下手に助言できん、一夏の為にもならんしね。
それに俺も俺で忙しいからな~? 頑張れ一夏。

まぁ、いきなり暴発する様な事態になる事はないから今は二人共様子を見ておくだけで十分だろうね。
しばらくお互い色々と考えておくんなせぇ。俺も俺で調べなきゃならん事が多くてねー。ある意味では二人の今の現状は俺にとって都合が良いといえる。

それでも、いつまでもこの空気のまま放置はしておくのは不味いから、俺も迅速な情報収集が必要とされる為、少々焦っている感はいなめない。
おいおい、頼むぜ二人共。あんまり急かさないでほしいんだがなー。

ぬぅぅ…!! 後少しなんだが、確信がもてんと行動に移せん。もし勘違いでいらん手札を使っちまったら大惨事にもなりかねんからな。慎重にいかんとねー?


さて、長い前置きはこのぐらいにして。
今現在、俺は何処で何してるのかというと――――――。



五反田 弾! 只今、IS学園のPCルームで情報収集に勤しんでおります!!



流石に『七代目五反田号』頼みの情報収集じゃ限界が見え始めた俺は、IS学園のPCからアクセスを掛け情報収集をする事にしたんだが。

むぬぅ…!! やはりガードが固くて欲しい情報まで辿りつけんな。
流石はIS学園、簡単にはいかんか。 
『七代目五反田号』も、何かとアクセスを試みてくれているんだが、どうやら成果はないっぽい。

全く参ったねー?
とりあえず、椅子の上で胡座をかいて相棒と密談を繰り広げてみる。


「むぅ。やっぱりそう簡単にアクセスできんか。」
【あまり派手な侵入を試みると危険です。二代目。】
「流石淑女の花園IS学園。情報漏洩対策は万全だなー。」
【この二日で自分が集めたモノでは不足ですか?】
「いやー、確かにアレでもいいんだがな~? 俺としてはもっとガチッとした確信持てる情報が欲しいのよね。ほら、何か偏りが多いじゃんこれって。」
【そうですか。…折角集めたのに。】
「…いやうん、感謝してるぞ?」
【…折角集めたのに。】
「大事なことだから二回言ったんだね。分かります。」
【頑張ったのになー。】
「どうしろってのよ!? 役に立たなかったとはお兄さん言ってませんよ!?」
【あ~あ。】
「何が望みよ!? このいやしん坊め! どうしたら機嫌直してくれんの!?」
【愛してるって777回言ってください。】
「口が攣るから7回にまけてくれ!」
【ヘイカモン】
「愛してる! 愛してる! 愛してる! 愛してる! 愛してる! 愛してる! 愛してる! どうだ!?」
【歴代達は?】
「言葉じゃ表現のしようがねぇよ…(慈愛の瞳)」
【…もういいもん。】
「しまった! よけいに拗ねちまった! 相棒機嫌直してくれよー。」


拗ねて黙ってしまった相棒を宥めつつ、俺はキーボードを操作する手は止めずに作業を続ける。

最近、相棒が見返りを要求してくるんですが。

何でこんな子になっちゃたのかしら? お兄さんは悲しい。
お悩み相談室にそろそろ電話掛ける時期だろうか? 昼食時当たりの時間帯に。


まぁ、それはおいおい考えるとして。
さてどうすっかね~?
俺一人の情報収集もそろそろ限界が見え始めてきた。
ここは誰かの助けが必要となる場面だが、気が進まんのよね~。
ええいクソ。情報収集に特化した紳士『セバスチャン』とコンタクトを取れさえしたらこんなことにはっ!


「ふぬがああああ! ええいクソ! おのれ『ドーベル』! いらん時に余計なことしやがって! 空気読めってんだ! これだから最近のなんちゃって紳士は!?」
「…。(カタカタ)。」
「全く! 選抜試験はどうなってんだ? あんなのが簡単に入れるようなぬるい試験じゃない筈だぞ!」
「…。(カチカチ)。」
「一次選考から二次選考! そして最終選考! 三つの難関を越えてようやく手に出来る【世界紳士連合】の会員証は、あんな野郎思考の輩が持っていいもんじゃないというのに!!(バァン!!)」←勢いに任せて机を叩く。
「っ!?(ビクッ)」
「嘆かわしい! 実に嘆かわしい! 全くマジありえねー。」
「?(ブルブル)」←ちょっと怯える。
【相棒。気持ちは分るが落ち着け。興奮しすぎて周りが見えてないとは相棒らしくない。】
「む? 七代目、何の事だ?」
【右手をご覧ください。】
「ふむ? (さっと右手を眼の前に持ってきて眺める)…手だな。」
【右向けつってんだ。】
「そう言えよ!」
【言ったじゃん!】
「…あ、あの…静かにしてほしい…。」
「おおう? 何かしらん。この右鼓膜を震わせる保護欲そそる控えめボイスは? 」


聞こえてきた控えめボイスの方角に顔ごと視線を向ける。

その視線上の先にいたのは。
俺と同じくパソコンを使って、何やら難しそうな公式をパネル上に展開してキーボード
操作をしている控えめ雰囲気溢れる可愛らしい水色髪の眼鏡っ娘さんでした。


おおう。こんな可愛い子がすぐ右隣に居た事に気が付かなかったとは。

俺に向ける視線に若干眼が怯えを含んでいる所をみると。どうやらさっき俺が机を叩いてたてた音で怖がらせてしまったようだ。

な、なんたる失態!? 紳士としてあるまじき行いだ!

慌てて椅子の上で姿勢を正し、DOGEZAを行う俺。
ぬぐおおお…五反田 弾! 一生の不覚なり!!


「すんません! 驚かせた上に、怖がらせてしまうとは本当に申し訳ない! お詫びに『弾特製悩んだ分だけ具があるのさオニギリ』を差し上げますから許してください! ちなみに中身はどれも安心安全味見済みのハズレ無しだから安心して喰ってくだせい。(ササッと弁当箱を差し出す)」
【美味いよ】
「え…? べ、別にいらない…。」
「そう言わずに! さぁ!」
【さぁ!】
「え、ええぇ…?」
「さぁ! さぁさぁ!」
【喰ってやってください。お願いします。じゃないと今晩あたり相棒泣きます。】
「…い、一個だけ…。」


俺と『七代目五反田号』に勧められるまま、恐る恐る弁当箱に手を伸ばし『弾特製悩んだ分だけ具があるのさオニギリ』を一つ掴む眼鏡ちゃん。
そのままこちらをチラチラうかがいながら、おにぎりの頭部分をカプリと一口含み食べ始める。

ははは。具まで辿りつくまで少々時間を有する模様です♪(慈愛の瞳)

ああ、なんだろう。小動物を連想させる仕草がグッときます!!
何故だ! 俺の魂が雄たけびをあげている!? 一体何故だ!?

モソモソ食べる姿をしばし愛でていたが、ようやく具に辿りついたようで驚いたように僅かに眼を見開いた。
おおう? 何が当ったのかね。


「…卵。」
「おおう、味付け卵が当たったか! これは何気に美味いのよねー。どうかね?」
「…美味しい。」
「やったぜ相棒!」
【自分のお勧めは『ご飯で○よ』です。】
「捻りがない! つまらん!」
【相棒のお勧め『具がない? 愛が入ってるのさ!』の塩ニギリよりましだ!!】
「具なんか飾りです!! 偉い人にはそれが分らんのです!!」←自らコンセプトを否定。
「…え、ええぇ…?(汗)」


騒ぐ俺と相棒に、何処か戸惑った視線を向ける眼鏡ちゃん。
その表情も可愛らしいね。

しかし、ふむ? なんか誰かと似ている気がするねー。

そのまま眼鏡ちゃんがオニギリを食べ終えるのを待ち、ようやく自己紹介へと行き着く俺と相棒。
ちなみに俺は椅子の上で正座しとります。特に意味は無いがね!(何故か得意げ)


「そんじゃ改めまして。どうも、五反田 弾です。こいつは俺の相棒【七代目五反田号】といいます。よろしくなー。」
【よろしくお願いします。】
「…知ってる。」
「おおう? そいつは嬉しいね! でも何故かね?」
「…ISを扱える男子の一人だし…名前くらいは。」
「それもそうか。」
「…それに。」
「ふむ?」
「…本音に。」
「おおう? のほほんちゃんと知り合い?」
【相棒、もしや彼女は楯無嬢の。】
「っ! …。(フイッ)」←視線をディスプレイに戻し、操作に戻る。
「む? …おお! もしかして――――!?」
「…。(カタカタ)」
「君がかんちゃんかっ!!」
「――――――――(ゴンッ!!)―――っ!? っ!?」
「へい、どうしたかんちゃん!?」
【大丈夫ですか、かんちゃん!?】


いきなりキーボードに頭を打ち付けて、額を抑えて悶絶するかんちゃん。
一体何が彼女を駆り立て、こんなリアクションを求めたのだろうか?

いや、額をゴシゴシと撫でる姿も可愛いからこれはこれで良しだが。あー、少し額が赤くなっとるねー。

しばらく撫でて痛みが引いたのか、ちょっと涙目のかんちゃんがこちらに振り向いた。
うむ、萌えます。
成程、先程から俺の魂を揺さぶっている正体が分ったぜ。
かんちゃんの妹属性が、最近妹分の足りてない俺の魂に揺さぶりを掛けていたのだな!

くっ流石ハニーの妹さんだ。妹度が半端ねぇぜ!!! まさか蘭以外にこれ程の妹度を持つ娘がいたとは!?

全く、こんなに可愛い妹に嫌われるなんて何してるんだハニーは。 あの未熟者が!!



【楯無 SIDE】

「――――――――――【ドシュウッ!!】 はぐうううぅぅッ!!?」
「―――っど、どうかしましたかお嬢様!?」
「大丈夫ー?」
「がっ!? 胸、に…急に、鈍い痛みがぁ…っ!?」
「「はい?」」


【楯無 SIDE END】



【―――― 相棒、暫定シスコン? の苦悶の叫びをキャッチしました。】
「ふむ? 愛の遠距離ムチが届く位は、妹魂力は回復したか。ハ二―も世話が焼けるね~、やれやれ。」
「…あ、あの…。」
「へい呼んだかい! かんちゃん!」
【額は大丈夫ですか、かんちゃん。】


再び、鼓膜を擽る控えめボイスに即座に反応する俺と相棒。

どうかしたのかね?
何やら訴えるような視線を俺に向けているが・・・ふむ。


「よし、弁護士を呼んでくれ。」
【相棒、色々ブッ飛びすぎです。】
「そ、その呼び方止めて…。」
「何がだいかんちゃん?」
「だ、だから…か、かんちゃんて呼ばないで…!」
「え? そんな、会って間もないのに呼び捨てで呼んで欲しいなんて。結構大胆なのね。」
「そ、そうじゃなくて…!?」
【名字で呼んで欲しいのでは?】
「味気ないが、それで良いならそうするがね?」
「…それもちょっと。」
「ふむぅ。それじゃあ良い呼び名が必要だね~? かんちゃんの本名は『更識 簪』だから~…相棒何かないか?」
【―――― サテライト式 KANZASHI。】
「メチャメチャ強そうだなオイ!? 月は出ているか!?」
「だ、だから…っ!? は、話を聞いて…!?」
「おう、勿論聞くともKANZASHIちゃん!」
【どうかしましたか? お望みならダブルも付けます。】
「…も、もうかんちゃんでいい…。(がっくり)」
「うむ。やっぱその方が可愛いもんな?」
【良い響きです。】


無事呼び名が決まったことに安心した俺は。
ふと、かんちゃんの目の前に展開されているパネルが気になり少しだけ覗き込んで見る。

―――― なんじゃこれ?

俺には理解不能な公式やら数字の羅列やらが並んでいて、はっきり言って何が何やらちんぷんかんぷんです。
しかし、かんちゃんが先程からこのディスプレイを眺めながら操作していた所をみると、どうやら彼女には理解出来ているようだ。


…もしかしてかんちゃんって、かなり凄い娘?


俺が若干呆気にとられているのに気が付いたかんちゃんは、少し顔を固くし、そのまま俺を無視して作業に戻った。

うん?


【これは、ISを構築する制御システムの基礎組織の数式ですね。まさかその若さで手を加える技術をお持ちとは御見逸れしました。かんちゃんSUGEEEE!!?】
「おおう? それって凄いのかね?」
「…。(カチカチ)」
【凄いです。どの位かといえば、盆踊りから驚きの転身でサンバを踊りだすお婆さん並みに凄いです。】
「――――(ゴンッ!)」←再び頭を打ち付ける。
「かんちゃんスゲェっ!?」
「…そ、そんな驚き方されても…嬉しくない…!」
「いやいや、相棒にここまで言わせたんだ。相棒はおいそれと他人を素直に賞賛したりせん捻くれ者やからねー? かんちゃんが凄い子だってのはそれだけで十分理解出来るぞ?」
【色々失敬ですね。】
「…別にこんなの。」


…ふむ?
何やら小さく呟いて再び作業に戻るかんちゃんに、俺は小さな違和感を覚える。
その横顔が、少し暗い事に気付いて、内心頭を捻る。

何故か分からんが、思考がネガティブに入ってるのかね?

さっきの一連の流れで落ち込ませるような事あったっけか?
純粋に賞賛しただけなんだが、誉められるのが苦手って訳でもないよな?

ふーむ?


【相棒、一つ提案があります。】
「おおう? なんじゃらほい?」


少し考えこんでしまった俺に、『七代目五反田号』が提案を申し入れてきた。
一体何だろね。


【此処で出会えたのも何かの縁。ここは一つかんちゃんの力を借りてみてはどうでしょう?】
「かんちゃんの?」
【はい。彼女の技術力は眼を見張るモノがあります。今の自分達に彼女の力は大変魅力的です。】
「…いや、でもなぁ~?」
【相棒の気持ちも分かります。が、時間がないのもまた事実。このままでは目的を達成できません。】
「…会って間もないのに図々しすぎないか?」
【そんな事言っている時間がありますか? 相棒、決断を。】
「…。」




【――― 相棒。意地を通す為に、あなたは鈴を見捨てる気ですか?】




…ずるい言い方するねぇ?



―――― 全く、本当に最高の相棒だよお前は。



やれやれ、しょうがない。
俺の意地なんざ、その辺の屑カゴに捨てて、目的という果実をもぎ取るとしようかね?

俺はかんちゃんに視線を戻す。
するとかんちゃんの方も、先程の俺達のやり取りをチラチラうかがっていたようで、俺が視線を向けると、慌てたようにディスプレイに視線を戻し手を動かす。

あっはっは。別に気にせんよ~?

ま、それはともかくと。


「へいかんちゃん! ちょいとお時間よろしいですかね?」
「…今は、忙しい。」
「そんな連れない事言わないでよ~。かんちゃんの力を借りたいんだ。」
【お願いします。】
「…私?」
「そう! かんちゃんの!」
「…別に私じゃなくても…もっと他に頼れる人…いるでしょう。」
「ふむ? …え、誰?」
「誰って…ね、姉さん…とか。」
「ふむ? 何故にハニー?」
「…え…?」
「ああ、いや別にハニーじゃ不満だって訳じゃないよ? けど何故に今ここでハニーが出てくるのかね? 頼りになるのは分かるがね?」
「だ、だって…私なんかに頼るより…姉さんの方が…。」
「私なんかって、いやいや、十分凄いってかんちゃん。何言っとるのよ?」
「こんなの全然凄くない…姉さんに比べたら…私…なんて…。」


そう言って、顔を伏せるかんちゃん。

…ふむ。

どういった経緯かあったのか詳しく知らんが、どうやらかんちゃんはハニーに対して強い劣等感を持っているようだ。

まぁ、ハニーは只者じゃない感バリバリだからねー? 持っている存在感とカリスマも半端ないし。学園最強って言ってたしなぁ。

ふむ成程、完全無欠な姉を持った事に対する負い目か。
しかしいくらなんでも、自分を此処まで卑下にするのはちょっと変過ぎ…ん?

完全無欠?

…おい、ハニーまさかとは思うが…まさかとは思うが。いや、ハニーなら上手くやりかねん。

俺は頭に浮かんだ一つの懸念を確かめる為に、かんちゃんに話掛けて見る。


「かんちゃん? 一つ質問があるんだがいいか?」
「…?」
「かんちゃんさ? ハニー…じゃない、お姉さんの楯無さんが何かで失敗したり、躓いたりしてる姿って見た事ある?」
「…え?」
「ちょいと大事な事なんだ。教えてくれるかね?」
「何言ってるの…?」
「ふむ?」
「…姉さんが、失敗なんかする訳ない…。」
「ほほう?」
「姉さんは…私なんか足元に及ばないくらい…完璧な人なんだから…そんな事ある訳ない…。」
「ふむ? つまりかんちゃんは、お姉さんが失敗を起こす姿を見た事がない。そう言う事でいいかね?」
「(コクン)」
「今まで一度も?」
「…う、うん。」
【相棒、これは】
「おおう…マジかよ。」


戸惑いがちに、俺の質問に答えるかんちゃん。
その顔は、何でこんな質問するのか理解できないって感情がありありと浮かんで見える。

おいおいハニー! とんでもない大失敗起こしちゃってんじゃないかよ!? こりゃ姉妹仲が拗れるのも仕方ない事態だぞ!?

なんてこったい! と、俺は内心頭を抱える。何をやってんのよハニー。
いや、気持ちは分かるぞ?
痛い位分かるとも、俺も妹を持つ身だ。ハニーの気持ちは物凄く理解できるが…上手くやりすぎだ。

いや、ハニーの事だから自分の失敗に気付いてるんだろうが。

だったら何でこんなになるまで放って――――っああ成程そういうことか…引くに引けなくなっちゃったのか。

ええい! 全く最近次から次へと問題発生のオンパレードだな!? セールでもしてるのかね? 買った覚えないわ!


…しょうがないね~本当に。


内心苦笑し、俺はかんちゃんに視線を戻して口を開く。
問題山積みで目眩を起こしそうだが…まずは、このすれ違いを起こしまくってる仲良し姉妹をなんとかしますか。


「かんちゃん。お兄さんからの提案、もといお願いがあるのだが?」
「…お願い?」
【相棒、同級生です。】
「んなことは今はどうでもいいのよ! へいかんちゃん!」
「っ!?(ビクッ)」
「お姉さんが、完全無欠の存在だと思っているその考えを、今すぐポイしなさい。百害あって一利なしだそんなモン。」
「…え…!?」
「この世に天才とか、優秀な人とか、凄い人とかは確かに存在する。けど、完璧な人ってのは存在しないよ。今までも、そしてこれからも絶対に現れない。だから今すぐポイしちゃいなさい。お姉さんが完璧だなんて言葉遊びにもならない考えは。」
「…っ!? な、何で…!?」


俺のお願いに、表情を驚きと困惑に染め上げるかんちゃん。
まぁ、いきなりこんな事言われたんじゃ仕方ないかもしれんが。んちゃんのその考え方をどうにかせんと碌な事にならんからね。

かんちゃんにとっても、ハニーにとっても。その考え方はお互いに苦しみしか与えてくれないから。

だから、まずはそれを取り除かんといかん。


「かんちゃん。聞くけど…完璧って何さ?」
「…え?」
「頭が良くて運動も出来て性格も明るくお茶目で、その上カリスマも半端なくて家が代々続く名家。かんちゃんの完璧ってこういう事?」
「そ、それは…。」
「うん違うよな? そりゃ唯の凄い人だ。完璧ってのはそんなもんで片付けられるもんじゃない。そもそも完璧ってのに明確な定義なんてないからね? 何やったって、どうしたって完璧なんてモノはありえないもんなんだよ。周囲がいくら完璧だと言っても、一人でもケチをつけられたらそこで終了しちまうからな?」
「!?」
「完璧ってのは理解できない代物だ。想像することも明確な物を例える事もできない未知の領域。誰にも理解できない存在。」
「…。」
「そして、そんな理解の範疇を超えている存在に、人が行き着く感情は一つ。」
「…な何…?」
「決まってる、恐怖だよ。」
「っ!?」


俺の言葉に、かんちゃんが衝撃を受けたように体を強張らせる。
その様子を見るに…やっぱりそうか。

かんちゃんはハニーに、完璧な存在だと思い込んでる姉に。恐怖を抱いてるんだ。
けど、それだけじゃない
完璧ってモノは…そう見られている存在にも牙を向ける碌でもないモノなんだよなぁ。

その事をかんちゃんが理解しないと、姉妹の溝は広がるばかりだ。
その為にも、今ここで考え方を変えてやらなきゃならない。


「その様子だと。やっぱりかんちゃん怖がってたんだね? お姉さんの事をさ。」
「あ…あ…何で…っ!?」
「そりゃ分かるさ。人は理解の範疇を超える存在を恐れる生き物だかんねー? それが何であれ至極当然の事だよ。それが肉親であっても例外じゃない。」
「っ!!」
「でもな? かんちゃん。さっきから言ってる様に完璧な人ってのは存在しないんだぜ? お姉さんだってそうだ。凄い人だけど完璧な人じゃない。だから、怖がる必要ないんだぞ?」
「で、でも…!」
「あー、それからもう一つ。かんちゃん勘違いしてるから言っとくぞ。」
「な、何…?」
「かんちゃんさっき、お姉さんが失敗なんかする訳ないって言ったけど。そりゃ間違いだ。お姉さんは恐らく何度も失敗を経験してる筈だぜ?」
「な…!? そんなこと…!!」
「ない筈ない。というか失敗した事もない人間なんてこの世に居ねぇと思うよ? 何かしら失敗して、それを教訓に成長するのが人間だし。『失敗は成功の母』っていうじゃん。いや父か? 野郎はいいから母でいこう。」
「でも…!! 私はっ!」
「もし、かんちゃんが本当にお姉さんが何かに躓いたり失敗したりする姿を見た事がないって言うなら・・・・理由なんて簡単に説明つくぞ?」
「!?」


俺の言葉に、かんちゃんの瞳が大きく見開かれる。
そんなに驚く事じゃないと思うがね? 誰でも抱くごく普通な理由なんだから。

かんちゃんが、姉が失敗する姿を見た事がない理由は一つ。


「理由は単純。――― お姉さんが、大好きな妹に自分の格好悪い姿を見せたくなかったから、だよ。」
「――――――――っ!?」
「俺も妹を持つ身だからね~? お姉さんの気持ちは分かるわ~。そりゃ、妹には自分の格好悪い姿なんて見せたくないわな・・・自慢の姉だと、こんなにも凄い姉を持っているんだと妹には思ってほしいよな。」
「そんな…こと…。」
「あり得るねー、お姉さんの事だ、良い所だけ格好良い所だけを見せて、それまでに至る努力も、失敗も全部隠してしまう。その位の事なら、やってのけて見せると思わないかね? お姉さんならさ。」
「――――――――――。」
「けど、それこそが最大の失敗だった事に気が付いた時のお姉さんの絶望は・・・正直どれ程のものだったか。考えるだけでゾッとするね。」
「――――――っ!? さ、最大の…失敗?」
「ああ、最大の失敗だ。そしてそれは、今でもお姉さんを苦しめて、かんちゃんをも縛り付けてる。」
「――― そ、それは…何…!? 何、なのっ!?」


かんちゃんが身を乗り出して、俺に訪ねてきた。
長年、自分と姉との間に存在する溝。

俺の放つ言葉は、その溝を埋める手掛かりの一端を見つけたようなものだ。是が非でも知りたい事だろうから当然の反応だろう。

なんだかんだ言いながらも、かんちゃんだって姉との関係を改善したかったんだな。麗しい姉妹愛だねー。

勿論、俺はそんな二人に手を差し伸べる。


「――― 妹の前で、完全無欠な姉である自分を上手く演じ過ぎてしまった事だよ。」
「…え?」
「『完全無欠な存在、更識 楯無』。それを妹であるかんちゃんの前で上手く演じ過ぎてしまったから、お姉さんはかんちゃんの前で失敗する事ができなくなっちまったんだ。」
「な、何…で?」
「怖いんだよ、お姉さんは。」
「…?」
「―――― ずっとずっと、完璧な姉を演じて来てしまったからこそ。もし何かで失敗してしまい、その姿を見られて―――― 愛する妹に失望の眼を向けられてしまうかもしれない事が――― お姉さんは一番怖いんだよ。」
「―――――――ッ!?」
「失望されるのが怖くて、嫌われるのが怖くて。他の誰でもない、大好きな妹にそう思われてしまう事が。」
「…そ、んな…。」
「だからこそハニーは我武者羅に上を目指した。努力して努力して、ただ純粋に上を目指した。怖くて怖くて仕方なかったから、妹に失望されるのが、嫌われるのが、蔑まれる事が。けど、その結果は…かんちゃんとお姉さんの間に大きな溝しか作らなかった。」


そこで言葉を区切り、俺はハニーを思った。

この結果に行き着いた時の絶望は…どれ程彼女を苦しめただろうか? どれだけ後悔の念に苛まれただろうか?

妹に失望されるのを恐れたからこそ、姉は上を求め努力し続けた。
妹との時間を犠牲にしてまで、唯ひたすら完璧を求めた。

けれど、そんな姉の姿に妹はいつしか劣等感を抱き、やがてそれは恐怖に変わった。姉と自分は違うと、比べる事すらおこがましいという考えに至る程…自分が無能であると思い込んでしまった。

意図的ではなくとも姉は妹と距離をとり、そしていつしか妹も姉を避けるまでになった。
お互い嫌われる事を恐れた故のこの結果。


お互い心の底では大切に想っているというのに。皮肉な話だ。


――― けどそんな悪夢。そろそろ終わらせようぜ?


思考を区切り、俺は色々とショックを受けているかんちゃんに視線を戻す。
この問題を解決する為の最大の鍵。

それは、かんちゃん自身。

かんちゃんならきっと大丈夫。きっと上手くいく。
かんちゃんは唯受け止めてあげれば良いんだ。

大好きなお姉ちゃんを、ただ純粋に受け止めてあげればいいだけ。
かんちゃんにはそれが出来る筈だ。

その為にも。かんちゃんの本心を引き出してやらなきゃな!

そのまま俺はヘラっと表情を崩して、かんちゃんに話掛けた。


「なぁ、かんちゃん?」
「…っ! な、何…?」
「もし、お姉さんがかんちゃんの眼の前で失敗を起こしてしまったら・・・かんちゃんどうする?」
「!」
「完全無欠が崩れたお姉さんに失望する? 笑う? 蔑む? 騙したなって罵倒する? 自分に惨めな思いをさせてきたお姉さんを憎む?」
「――――っな!?」


突然の俺の言葉に、かんちゃんが驚愕の表情を向ける。

―――― 良い反応だ。

そのまま俺は続けて言葉を紡ぐ。


「そう思って良いんだよ、かんちゃんは? だって今まで騙してたんだからお姉さんは君を。罵ったって良いんだ。失望したって言ってやっても良いんだよ?」
「――――――――――――っ!」


俺の言葉に、かんちゃんの瞳に一つの感情の波が浮かぶ。
視線をキッと強めて俺を睨みつけ、膝の上に置いてある小さな手がブルブルと震えているのが見てとれた。

―――― もう少しだ。

そんなかんちゃんの姿に、俺は気が付いてない様を装いながら、さらに言葉を続けた。
さぁ来い! かんちゃん!


「今まで散々比較されて嫌な思いしてきたでしょ? 言ってやればいい。スカッとするよ~? この大嘘つき、見栄ばっかり張って来た貴女みたいな姉を持って恥ずかしいって――――――――」
「―――――――――――ッッ!!!!!!」




――――――――― パァンッッ!!!!



左頬に鋭い痛みが走り、その勢いのまま顔を仰け反らせる。

…おおう。流石想いの籠った一発だね、ジンジンと痛いわ。

頬を抑え、俺は顔を正面へと戻しかんちゃんに視線を向ける。
右手を振り切った体制のままの、かんちゃんの姿最初に映り――――

そして次に俺の瞳に映ったのは、瞳に怒りを宿したかんちゃん…いや。


姉の為に怒りを露わにした少女。更識 簪の姿があった。


「――――― 勝手な事、言わないでっ…!!」
「…。」


さっきまでのオドオドした態度はなりを潜め、俺を睨みつけるかんちゃん。
俺と視線がぶつかり、若干の怯えが瞳に映っていたが…それでもグッと踏み止まって真正面から俺と対峙する。

ふむ。やっぱり強い子だね。


「そんな事、思ったりしない…! 騙されたなんて、思う訳ない…!」
「ふむ?」
「か、完璧じゃなくても…! ね、姉さんは凄いんだから…! し、失敗したって…か、完璧じゃなくたって…そんな事どうだっていい…!!」
「…。」
「失敗する姿なんて…そ、そんなのまだ想像すら出来ないけど…! でもっ! 例え、失敗する姿を見たって…し、失望なんかしたりしない…!!」
「…へぇ? それは何で?」


俺の気の抜けた質問の仕方に、再び瞳に怒りを宿しキッと睨みつけてくるかんちゃん。
そして、俺に挑むように、叩きつけてやるように言葉を放つ。


「――――――― お姉ちゃん、だから…!」
「…。」
「わ、私の! たった一人の…! お姉ちゃん、だから!」
「―――――。」






「――――― そんな事ぐらいでっ!! お姉ちゃんを嫌いになったりなんか、しないっ!!」







「…。」
「だから…! か、勝手に私の心内を…決めつけないで…!」


そこまで言うと、ギュッと膝の上に置いてある両手を握りしめ顔を伏せるかんちゃん。
次に発せられる俺の言葉に不安なのか。体を小気味に震わせているが…絶対に引かないという意思の強さは見てとれる。

控えめな気質のかんちゃんが、逃げもせずこの場に留まっている事がその証拠だ。

…内にたまった想いようやく口にしてくれたねー。
なら、もう大丈夫。

あとは、ただそっと背中を押してやればいいだけだ。


「――― そんじゃま、次はその想いをお姉さんに話してみなよ。かんちゃん。」
「――― え…?」


俺の言葉に、さっきとは変わった呆けた声をだすかんちゃん。ゆっくりと顔を上げて、視線を俺に向ける。
そんなかんちゃんに、俺はヘラリと笑い返した。


「俺に向かって、あそこまで言ってみせたんだ。もう、想いを口にする事にそんなに抵抗感はでないでしょ?」
「あ…え…?」
「俺は練習台。舞台の本番はお姉さんだからね~?」
「え?…え、え…!?」
【中々の小悪党ぶりです。二代目】
「俺としてはご免被りたい配役だがねー? 何が悲しくて淑女の悪口言わねばならんのよ?」
【時には、それも紳士の務めです。相棒。】
「それもそうか。」 
「あ、あの…? ど、どういう事…?」


一気にガラリと変わってしまった空気に、かんちゃんが戸惑った表情を浮かべる。
まぁ無理もないか。

とりあえず、俺はかんちゃんに向き直り、話を進める。


「かんちゃんに必要なのは、今言った気持そのままにお姉さんに伝える事だな。そうすりゃ後は順次上手くいくと思うぜ? かんちゃんとハニーには、きちんと話しあう時間が必要なだけだからな。」
「な…!?」
「リハーサルは終了ってな? 次はお姉さんに、さっきみたいに想いをぶつけてやんなさいな。きっと、お姉さんもかんちゃんのその言葉を・・・・誰よりも望んでいる筈だからね?」
「っ!…う。」
「もし、一人じゃ不安なら俺が付き添っても良いし。のほほんちゃんに頼んで一緒にお姉さんに会いに行ったって構わない。大事なのはかんちゃんの言葉で、かんちゃんの口でお姉さんに伝える事だからさ。」


俺の言葉に、かんちゃんが驚いたように眼を見開いた。
そんなかんちゃんに、俺はまた微笑んで言葉を放つ。


「話をしてみようぜ。お姉さんきっと待ってるよ? 大好きな妹を。かんちゃんと笑って話が出来る―――― そんな些細な幸せな時間が訪れる事を。」
「――――――――――――っ。」


言い聞かせるように、俺はかんちゃんに言葉を告げた。
今すぐって訳にはいかないかもしれない。

それだけ長年にわたって二人を縛っている溝は深く。そして暗い。
けれど、きっと俺の助言は何かしらのきっかけにはなる筈だ。

今まで恐怖に埋もれて、口に出来なかった姉への想い。知らなかった姉の苦しみ。
それを知ったかんちゃんなら…きっと大丈夫だ。

願わくば、一分一秒でも早く、この姉妹の悪夢が覚める事を…ただただ願う。



「…して…?」
「おおう? 何か言ったかね、かんちゃん。」


ぽつりと、かんちゃんが小さく呟く。
余りにも小さい声なため聞き逃したしまった。むぅ、不覚!

そんな俺の事などお構いなしに、かんちゃんは戸惑った視線を俺に向ける。


「…どうして、そうまで…言ってくれるの…?」
「ふむ?」
「だって…会って間も無いのに…何でそこまで…言ってくれるの?」
「ああ成程ね、そう言う事か。んなもん決まってるぜ! 俺が紳士だからだ!」
「…な、なにそれ…?」
「俺は紳士だからね~? 困っている淑女、悲しんでる淑女、苦しんでいる淑女には例外なく手を差し伸べるのさ。」
「…そ、それだけ…?」
「それ以外に理由はない! って言いたい所だけどね。今回はちょいと理由があったりする。」
「?」
「友達の友達を助けたいって思うのは――― 別に変な事じゃないと思うがね?」
「っ!」


びっくりしすぎたのか、眼を見開いて俺を凝視するかんちゃん。
ふむ? 別におかしな事は言っとらんと思うがね?

のほほんちゃんの大切な友達であるかんちゃん。
そして、ハニーの妹さんで。きっと虚さんにとっても大切な存在であるかんちゃん。

助けたいって思うのは至極当然だろうに。
それになにより、女の子には幸せになって欲しいのよ俺はね。

しばらく固まったままのかんちゃんだったが。
少しづつ表情が緩んで、ちょっぴり頬を桃色に染めて視線を落とし、ポソポソと言葉を発した。


「あ、あり…がとう…。」
「おおう! 最高の報酬だぜ! やったぜ相棒!」
【記録しますか? 売れますよ、主にシスコンとかシスコンとか…あとシスコンとか。】
「より取り見取りだな!?」
「…あ、あの。」
「おう? どうしたかんちゃん?」
「わ、わたし…お、お姉ちゃんと…話してみる。」
「おおっ!? その意気だかんちゃん!! 応援するぞ! もし不安ならいつでも付き添ってあげるからなっ! いつでも呼んでくれよ?」
「…う、うん。」


小さくうなずいて、そっと笑うかんちゃん。
―――ぐおおおおお!? 何だこの可愛さはっ!?
静まれ! 俺の魂ぃ!

流石はハニーの妹さんだ! これなら即シスコンになるのは仕方ないなぁ。

そんな俺のニヨニヨした表情に、かんちゃんは恥ずかしそうにしていたが―――
ふと、俺の顔を見てハッと顔を強張らせた。

ん? 何か憑いてるか? 守護霊なら俺が小学生の時にマジ泣きして、あの世に帰って行ったからいない筈だが。(大丈夫かこいつ・・・)

そんな俺の思考などお構いなしに、かんちゃんは一人オロオロし始める。
一体どうしたんだろね?


「あ、あ…あああの…! ほ、ほっぺた…!」
「ホッペター…? 何その新種のポケ○ンみたいな名称の生き物は? どこよ? 何処に居るの?(キョロキョロ)」
【弱そうですね。】
「ち、ちがくて…! あの叩いちゃって…! ご、ごめん…!」
「あ・・・あーその事か、別に気にしてないよ? 叩かれて当然やからねー。あと五発ほどいっとくかね? ヘイカモン!!」
「っ!(ブンブン)」
「えー…そう。(ガッカリ)」
【相棒、マゾいのは自重しましょう。】


そんな俺と相棒のやり取りも耳に入っていないのか、かんちゃんはオロオロとするばかりで落ち着かない。

その後も、色々と押し問答があったが、かんちゃんは納得いかない様子。
本当に気にしなくても良いんだがねー?

かんちゃん的には、ちゃんとお詫びをしたいらしいけど…ふむ。
別段してもらいたい事なんて今は特に――――。


……。


あ。


「―――っあるじゃないのよ俺の馬鹿ン!! 当初の目的忘れてましたよ!?」
【かんちゃんの力を借りる事が目的でたね。】
「…?」


すっかり当初の目的を丸投げしていた事に気が付いた俺と相棒。
ええいしまった! 一つの問題が解決する目途が経って気を抜いちまった!!

まだ俺には片付けなきゃならん問題がゴロゴロしてるってのに!

その為にも―――!!

俺はかんちゃんに向き直り、その手を握りかんちゃんを見据える。
突然の行動に、かんちゃんは驚き…ボッと顔を赤らめる。

恥ずかしがり屋なのねー…ってだから和んでる場合じゃないって俺!


「――――― へいかんちゃん!!」
「―――ひゃ、ひゃい…!?」
「少しでいい! かんちゃんの力を俺に貸してくれ!!」
【お願いします。かんちゃん。】
「は、はい…!」


俺と相棒の言葉に、かんちゃんは小さく―――でもしっかりと頷いてくれた。





*   *   *





カタカタ。

ピッ――― ヴォン…。


「…アクセス完了。」
「――― おおう! 流石かんちゃん!!」
【素晴らしいの一言ですね】
「…べ、別に…ただ教職員の先生のアクセス権限を…利用させてもらっただけだから…。」
「いやいや十分だ! 俺が知りたいのは機密でも何でもないからね、ある程度の権限で見れるもんだからなー。つってもそれすら侵入する事が出来なかったんだがなぁ。」
【強引に行けば可能ですが間違いなく大問題になりますからね。】
「流石に俺が動けなくなるような事態は避けたいからな。本当に助かった。ありがとうかんちゃん。」
「う、うん(照)」
「えーと鈴の奴は…あ。あったあった! かんちゃん、このツインテールのチャイナっ娘さんの資料を開いてくんない?」
「…分かった。」


カタカタ―――― ビュワン!


「―――― っ!? これは!!」
「ど、どうしたの…?」
【何といことでしょう…!?】
「なんてこったい…! 鈴の奴…!?」
「…?(びくびく)」
【まさか、4センチもサバを読んでいたとは!!】
「無茶しやがってっ!!」
「…どこ見てるの…?」
「【ごめんなさい】」
「…もう。」
「さて、冗談はこの位にして――― っとぉ、これだ。かんちゃんお願い。」
「…うん。」


ビュワン―――。


「――――――――――――っ!!?」
「…。」
【相棒。】
「こ、これって…。」
「成程ね…まさかここまでとは…。」
「あ、あの…これって…!」
「相棒、文面を【記録】。やれるか?」
【勿論です。】
「…だ、弾。あの…。」
「ん。大丈夫だ。しかしこれは参ったね~…」
【――― 完了です。】
「さて、長いは無用だ。面倒臭い事になる前に、かんちゃんさっさと撤退だ!」
「…う、うん!」


カタカタ。


【相棒。】
「分かってるよ。こりゃあ中々一筋縄じゃいかんなー。」
【ですね。】
「――――だが、情報に確信は得られた。これでようやく動けるぜ。」
【では?】
「ああ、情報は十分だ。色々と問題は多いし厄介なことこの上ないが―――。」
「…?」







「――――― 集めなきゃならない必要な手札が何かも、ようやく判明したぜ。」







後書き


盆休み  仕事に追われた  盆休み (字余り)あんまりですご先祖様。みなさんお久しぶりです! 未だに色々忙しい状況が続く釜の鍋です・・・・・・。流石に更新しなきゃ忘れ去られそうなんで勢いのまま執筆して更新しました。さて、ようやく情報が集まり、まさかのかんちゃん参入です。この姉妹には早く幸せになって欲しいです。さて次回、手札を集めに動き出す弾! そこに問題抱えた金髪登場、さらに生徒会がやって来てもう大忙しです。ワンサマー・・・ほとんど出番なしです。・・・・SS書いてる時が一番心休まります・・・・早く一巻軸終わらせたい。


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