【ピッ】よう。なんだ弾か、どうしたんだ急に? は? 挨拶? なんだそれ? 鈴が出来る状態じゃないからって…え、鈴帰って来たのか? そりゃ良いニュースじゃねぇかよ。は? もう時間がって、おいちょ待――――――――【ブツッ】。
『――― 役に立たんなあいつは!? 連続出演だってのに!』
『弾、何してんだ? それよりどうすればいい?』
『まぁ、まずは鈴を冷静に戻すことが先決だな。あのまま一夏の部屋に向かったら色々不味いしなぁ。』
『俺の部屋に向かったのか鈴の奴。』
『いや、まずは最低限の荷物を取りに自分の部屋まで戻ってるはずだ。その間に上手い手を考えんと。』
『上手い手か、こういうのは苦手なんだよな…。』
『一応策はあるんだがな?』
『マジか!?』
『上手くいきゃ、鈴を正常な状態に戻せるかもしれん。上手くいけばの話だが。』
『やらないよりマシだ! 教えてくれ! 何をすりゃいい!?』
『―― が、問題がある。人手が足りない。最低でも二人は欲しい所だ。』
『人手!? って言っても協力してくれそうな人なんて何処にも―――』
『あ~♪ だんだんにおりむ~♪ や~ほ~。』
『え? あ、本当だ。こんな所で何してるの?』
『『―――――――― ナイスタイミング!!』』
『ほえー?』
『え、何?』
『頼む! ちょっと協力してくれないか!? 弾、これでいけるよな!』
『流石は一夏、女運が良いのか悪いのか分からんなー。時間がないから手短に話すぜ? まず―――。』
【鈴 SIDE】
バタンッ!!
部屋に戻って数分。
自分の部屋から、ボストンバック一つを持ち部屋を出る。
突然入ってきたと思ったら、会話もせずにバックに荷物を詰めて、再び出て行ったあたしにルームメイトはどう思っただろう? 正直悪い事したと思う。
けど、今のあたしに他の事を気にする余裕なんてなかった。
部屋を出た勢いのまま、あたしは廊下を進む。
一夏が他の女子と寝食を共にしている。
その事実だけで、あたしの機嫌を悪くするには十分な理由だといえる。
けど、それだけならここまであたしの心を荒立てはしなかったかもしれない。
『部屋代わって』と、同居している女子にそう言ってやればいい。
その後は、まぁいざこざはあるだろうけど、それだけで済む話だと言える。
けど、一夏と同居しているのが、あの馬鹿女の一人だというなら、話は別だった。
あたしの大切な物を蔑にした女が。
あたしの居場所だった席に平然と居座っているあの女が。
あたしの大切な二つの宝物を、一つはいらないと放り投げ、一つを掻っ攫おうとするあの女が。
一夏と、何食わぬ顔で過ごしているですって?
――――――――― ふざけんじゃないわよ。
ドンッ!!
身の内から抑えきれなくなった激情に身を任せ、あたしは壁を殴りつけた。
手がジンジンと痛むけど、それすらも今はあたしを抑える鎮静剤にもなりはしない。
「―――――― ざっけんじゃないわよっ!!!」
ギリギリと、そのまま壁に拳を捻じり込む。
また痛みが走るけれど、これでも足りない。解消にもならない。
一夏が二人を怒っていない理由は分かった。
それだけ二人は強い絆で結ばれていたことにちょっと嫉妬するけど、喜びの方が格段に上だった。
弾が本当に気にしてない事も知った。
騒動起こす、とんでもない奴なのは相変わらずだけど。昔と変わらない、さりげないフォローや心配りにくすぐったくも嬉しかった。
一夏が怒らないのも、弾が気にしてないのも十分理解している。
―――――――――――― でも。
「――――――――― あたしは、あんた達ほど寛容になれないのよ…!!」
あいつらは、あたしの居場所を汚そうとした。
あたしの大切な場所を壊して、自分達の都合のいい場所に塗り替えようとしている。
渡すもんか。
絶対渡すもんか。
あの馬鹿女二人にだけは、どんな手を使ってでも渡したりするもんか…!!
やっと戻ってこれたのよ?
居心地が良い一夏の隣に、暖かい弾の背中に、戻ってこれたのよ。
やっと、やっと…やっとっ!!
一年前失った二つの居場所。
その一つが、あたしに追いついて来てくれたのよ。追いかけて来てくれたのよ…!!
もう手放すもんか。
絶対離したりするもんか、渡したりするもんか。
その為だったら、何だってやってやる。
どんな事してでも死守してやる。
今のあたしにはそれだけの力があるんだから。
一年前の無力なあたしじゃないんだっ!!
壁から拳を離し、再び足を進める。
目指す場所は一夏の部屋、そしてあたしの怨敵のいる一室。
話し合いで済めばいいけどねぇ?
もし、一度でもグズるようなら、容赦はしない、力尽くで追い出すだけだ。
どうせなら後者である事が望ましいなぁ…。
まぁ、どうせそうなるでしょうけど。
その時のあたしは、知らず知らずのうちに―――――――――――――――― 嗤っていた。
* * *
「【1025】。一夏の部屋はここね。」
事前に調べていた一夏の部屋の番号。
それを確認したあたしは、ゆっくりとドアノブに手を掛ける。
もしかしたら、一夏が既に戻って来ているかもしれない。
でも構わない。あの女は絶対に叩きだす。それは決定事項だ。
さっき、あんな別れ方したから弾もいるかもしれないわね…調子狂わせられないよう用心しないと、絶対目的は達成する。
叩きだす。あの女を。
教えてやる。その場所に相応しいのは、あんたじゃないってことを。
数度息を繰り返し、ドアノブを掴む手に力を込める。
―――――――― 覚悟しなさいよ、馬鹿女っ…!!
ガチャリと捻る。鍵は開いてる。
バンッ!!
その勢いのままドアを開け放ち中に入る――――――― そしてあたしが部屋で眼にしたのは―――――――――――。
「お、お姉様…(真っ赤)」
「うふふ、可愛い子…。」
ベットで情熱的に見つめ合う二人の女子生徒の姿だった。(片方同級生、片方上級生、共に服は乱れてる。二人の世界に入っている為鈴に気付いていない。)
……。
スタスタスタスタスタ。(引き返す鈴)
カ、チャ…(そっと扉を開ける鈴)
…パタ、ン。(なるべく音を立てずそっと閉める鈴)
……。(扉に手をつき、項垂れる鈴。耳が僅かに赤い)
……。(ゆっくりと部屋番号を確認する鈴【1025】)
……。(ふと扉の横に、先程までなかった張り紙を見つける鈴)
……。(ゆっくりと読み上げる鈴)
『残念。ハズレだね!! ドンマイ次があるさ!!』
―――― ふっ。
バリィッ!!
張り紙を破り取り、地面に叩きつける!!
そのままドカドカと踏みつけ、あたしは荒い呼吸を繰り返し――――――――――。
「――――っだあああああああああああ――――――んっ!?」
廊下中にあたしの怒声が響き渡る!!
あ、あああああの馬鹿!! やりやがったわねええええ!!?
どういうこと!? 部屋番号は合ってるのに、なんで中にいるのが一夏と馬鹿女じゃなく、あんな――― その…げ、激烈に仲の良い先輩後輩なわけっ!?
意味が分らず羞恥と怒りと困惑に、あたしの頭の中は混乱状態に陥る。
なんで!? どうしてよ!?
部屋が代わった? でもそんな話聞いてないし。
「ん?」
その時、廊下の先からあたしに向かって緑色の紙飛行機が飛んでくる事に気が付いた。
あっちへ行ったり、こっちへ行ったりと不安定。でも何故か地面に落ちないという怪しさ満点の。
こ、この妙にイラッとする飛ばし方は…!
ズンズンとこっちから近付き、バシッと紙飛行機を乱暴に掴み取る。
表面には、『や~ん。捕まっちゃったぁ~ん♪』という女の子文字。
あ、あいつぶっ殺そうかしら…!?
とりあえず破りたくなる衝動を必死に堪えて、私は紙飛行機を解き中を確認する。
『説明期待した?』
バリッ!! ドカドカグリグリ!! ガッ!!
おおおおお落ち着くのよあたしいいいいいっ!? ここここれはああああああの馬鹿の策略よおおおおおおおおっ!?
ヒッヒッフー! と、何故かラマーズ方法で落ち着こうとするあたし。
ま、まずいわよあたし! の、呑まれそうになってるから! 大丈夫、落ち着くのよあたし! お、落ち着いて深呼吸するの、落ち着くのよ…!!(傍から見たら、既にテンパってる)
けど、そんなあたしに追い打ちを掛けるように、キュロロロロローっと登場したラジコンが、足元で停止する。・・・・封筒を張りつけたラジコンが。
封筒を剥がし、ラジコンは思いっきり蹴りあげ壁に激突させスクラップにしてやる。
ほ、他になにも仕掛けは無いわね?
念入りに封筒をチェックし、恐る恐る開くあたし。
どうやら何もなさそうね。安全を確認した上で、あたしは中の手紙を開いて読み上げる。
『ふははははは。どうだ、これぞ! 紳士技が一つ! 【ロシアン・ザ・ドア】!! 別名!『寮内の部屋番号を、ランダムに適当に張り替えちゃいましたてふぇっ♡』だ!! さぁ、お前は目的の部屋へとたどり着けるかな!? あ、ちなみにISでの探索は、千冬さん召喚したけりゃ使ってもよかよ? 絆と運と労力が試されるこの試練! チッパイの挑戦がい【バリィッ】』←途中で破いた。
「―――― よし殺そう。」←良い笑顔
うふふふ、もう弾ったら♪
―――― そんなにあたしに殺されたけりゃ、望み通り殺ってやるわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!?
『お、おい。鈴がものすごい事になってるぞ!? 何書いたんだお前!?』
『ん? 特に何も?』
『わ~。凄く怒ってるよー?』
『はぁ、まさか。部屋番号を張り替える悪戯に手を貸す事になるなんて。』
――――――― 今、話し声が!?
バッと、振り返ると。
そこには、つきあたりから顔をだし、こちらを窺う馬鹿と一夏、それから今朝弾におんぶされていた女子に、見覚えのない女子生徒の姿があった。
私と視線が絡み合う四人。
一夏は、あたしの表情を見て『あ、やべぇ…!』と蒼白になり。
獣っぽいナイトキャップを被るのほほんとした女子は、だぼだぼの裾を振り、ほにゃっとした笑顔を向ける。
もう一人の女子生徒は顔の前で手を振り『ちがっ!? 私こんな事になるなんて知らな…!!』と、涙目で必死に弁解。
そして、事の主犯は―――。
「―――――― ジャンボ! ナイス般若顔! うわすご「そこ動くなああああっ!!」おおう!? ダッシュ!」← のほほんさん背負い走りだす。
「「来たあああああああああああああああああっ!!!?」」← 必死で逃げる。
「お~~~~~~~~♪」← 弾に揺られつつ楽しそう。
「待ちなさいよコラアアアアアアアアアアッ!!!?」
つきあたりから消えた四人に向かってダッシュするあたし。その時、バタン! と、音が聞こえる。
すぐに通路に出て、前方を確認するけどそこに四人の姿はなかった。
くぅっ!? 何処かの部屋に逃げ込みやがったわね!? 見回しても、どの部屋に逃げ込んだのかは分からない。
あ、あの馬鹿。くだらない割に厄介なことしてくれちゃって…!!
部屋番号も無茶苦茶で、判別がつかない【1037】の次に【1107】なんて、本当にランダムに張り替えられていた。
とりあえず、手近なドアをから確認していくしかないわね!
すぐ横のドアに手を掛け、強引に開いていく。
ガチャ!!
「え? な、何?」
「あれ? 貴女確か「ごめん間違えました」…へ?」
バタン! 次っ!
ガチャ!!
「最近胸が大きくなってきてさー?」
「そうなの? 実はあたしも、困るよねー肩こるし「削ぎ取ってやりましょうか?」ひぃぃぃ!? 何っ!? 誰っ!?」
「般若!? 誰この娘!? 眼が怖いんだけど!?」
バッタアアアアアアンッ!! 次ぃいいいい…!!
ガチャ!!
「…っ。(体重計を睨む女子生徒)」
「…!?(真剣に体脂肪率測定機を見つめる女子生徒)」
…パタン。 次。
ガチャ!!
「あら? あ、貴女は…!?」
「チッ、金髪の方か…ハズレね。」
「ハズレって何ですの!? しかも舌打ちっ!?」
バタァンッ!! 今は用はないのよ次ぃっ!!
ガチャ!!
「――――――――― こっちのベタお願い!! 急いで!」
「ここ背景描いてないよ!?」
「トーン貼り終わったよーっ!!」
「ああもうっ!! またズレた! 修正液どこ!?」
「インクがもうないんだけどー!?」
「締め切りまで時間がないわ! 今日も徹夜よ! これだけは落すわけにはいかないのよ!! 気合い入れなさい!!」
「「「「お――――――っ!!!!!」」」」
バタン。…忙しそう。でも描かれていた登場人物が凄く気になる。あれって…いや、うん次。次行かなきゃ(ちょっと赤面)
ガチャ!!
「…ガ、ガハァ…!?」
「ゴホ! ゲハッ! ば、馬鹿な。これだけの人数を…お、おのれ『DANSHAKU』め「そいつ何処行った!?」ごあああああっ!!?」
「言いなさいよホラぁ!?」←ガスガス蹴る。
「げぼぉ!? ごはっ!? あ、あちらのベランダからぁ…と、隣の部屋に…!」
「チッ!」
「げふぉっ!! …ぐふ。(気絶)」←乱暴に放り出される。
バタン!! 隣の部屋っ!!
ガチャ!!
『準備中』←看板。
バタァン!! 次ぃ!!
ガチャ!!
「さっさぁ、始めるザマすよ!!(ヤケクソ)」
「いっいくでガンす!(赤面)」
「んが~♪(袖をパタパタ楽しそう)」
「(ピッピッピ)…あ、もしもし病院ですか? 急患二名大至急お願いします。ええ、きっと脳に致命傷が。」
「「何で二人!?」」
「一夏、お前ザマすって。はは…ねぇわ。(痛々しい笑顔)」
「お前がさせたんだろうがっ!!」
「それから、かなりん。女の子がガンすなんて言っちゃいけません。」
「五反田くんが言わせたんじゃないのっ!!」
「のほほんちゃんは可愛いから許すっ!!(サムズアップ!)」
「んが~~~~~♪(パタパタ)」
「…テイクアウトしていいかな?(鼻血ぼたぼた)」
「「いや、部屋ここだろ(でしょ)」」
「ようし! 許可も出たからさっそ「死ねえええええええええっ!!」【ゴギャァ!!】くどばあああああああああああああああああああああっ!?」
開けた瞬間、くだらないやり取りをかわす馬鹿に、狙いを定め飛び蹴りを放つあたし。
見事に弾の顔面に右足がめり込み、弾を部屋の壁まで蹴り飛ばした。
壁に激突し、ズルズルと崩れ落ちる馬鹿を尻目に、残り三人に眼を向ける。
「はぁっ! はぁっ! …う、うふふふ。おっ面白い事してくれたわねぇ? あんた達ぃぃぃ!?」
「い、いやこれは! これには深い訳があるんだ鈴!!」
「あ、あたしどっちかと言うと巻き込まれなんです! 本当!」
「だんだん大丈夫~(つんつん突く。)」
あたしの眼力に、ビビる二人に、弾を指で突く女子生徒。
な、なに? なんか凄くマイペースな性格してんのね。
それはともかく訳? 何よ訳って。
「訳? 聞いてあげるから話しなさいよ、ほら。蹴るけど。」
「蹴るのかよ!? い、いや訳は―――」
「俺が説明しよう!!」
「チッ! 生きてた。」
また、いつのまにか復活した弾が一夏の横に並び立ち、腕を組んでいた。
いつもの如くヘラヘラした顔で。
こいつは本当に!
まぁいいわ。理由とやらを聞いてやろうじゃないの。
説明を眼で促すと、弾がヘラリとした顔を向けてきた。
「おおう。説明ね。まぁたいした理由ははっきり言って…ないなっ!!」
「はーい。じゃあ一夏、弾。ちょっとそこ座んなさい。蹴り抜くから。」
「いや待て! おっおい弾!?」
「へいへい。分かった分かった。おーい鈴さんや?」
「何よ?」
腕を組んで、あたしを見下ろす弾。
そして顔をぐぐーっと寄せて、あたしの顔を覗き込む…って近い!
思わず身を引くあたしに弾は。
ヘラっとした、いつもの気の抜けた笑顔を向けて口を開いた。
「――― ふむ。少しは冷静になったかねー? 少しは頭の血は抜けたか?」
「――― え?」
「さっきと比べて気分はどうだってこと。あんな情緒不安定な姿見たら心配すんだろう? なぁ弾。」
「ま、そういうこと。ふむ、いつもの鈴だな。作戦成功ですな。」
「せいこ~♪」
「え? 悪戯じゃなかったの?」
「手伝ってくれてサンキュー! のほほんちゃん! かなりん!」
「俺からもありがとうな。」
そう言って、笑顔を振りまく二人を。
あたしは呆然として見つめた。
頭の血は抜けたって…え?
少し胸に手をあててみる。
…数分前とは違って。だいぶ感情の波は治まっているみたい。怒りに身を任せていたというのに、体中から熱が抜けたような感覚を覚える。
まさか。
慌てて、眼の前の二人に顔を向ける。
そんなあたしに、一夏と弾は、悪戯が成功した子供の様な笑顔を向けてきた。
「あ、あんた達まさか!? ワザとあたしを怒らせて…!?」
「少しは発散になったか? 鈴?」
「まぁ、矛先が俺らってのは。内容聞いた時は、若干ビビったけどな。」
「このチキンが。」
「お前な。」
「ま、それはそうとどうよ。気分は? まだ興奮は冷めてなかったりする?」
「うっ。むぅ…。」
そう言われて、口をつぐんでしまう。
あの馬鹿女が許せない気持ちは変わらない。
でも、感情に身を任せて、行動したことは流石に不味かったかも。
さっきとは違って、冷静に物事を考えられてる事に驚く。
そうか。あたし感情が暴走して、自分をコントロール出来たなかったんだ。
うわぁ恰好悪い。
あたしの冷静さを取り戻す為に、一夏と弾は。あたしの怒りの矛先を自分達に向かせて、感情を発散させたってこと?
…う、ううううううううう…!!
あたしの為に動いてくれた事が、嬉しいやら、照れくさいやら、申し訳ないやらで。
あたしは赤くなった顔を隠すように伏いてしまった。
そんなあたしの頭に、ポンポンと誰かの手が添えられ撫でられる。この撫で方は――― 弾だ。
「突然の事で、感情が爆発しちまったんだろ? あんま気に病むなって。伝え損ねた俺も悪いんだからよー。…本当に悪い。ごめんな鈴。ちゃんと話しときゃ良かった。」
「べ、別に弾のせいじゃ。」
「えーと、俺もとにかくすまん! なんか余計な事言ったみたいでさ。本当悪かったよ。」
「ははは、理由気付かずに謝られてもなー?」
「ぐっ! か、返す言葉もない…!!」
「…ぷっ。あははは。」
「お…んだよ笑うなよ。ははは。」
「ぶわはははははははははははははははははははは!!(バンバンと机叩いて爆笑)」
「お前笑い過ぎじゃねぇか!?」
「あははははっ!」
あたしが笑い出すと同時に、それを見た一夏と弾も顔を見合わせ。つられるように笑顔になる。
ああ、やっぱり居心地がいいなぁ。
あたしの醜い部分も、全部受け止めてくれる。否定せず、包み込んでくれる。
本当に、戻って来れて良かった。
だからこそ思う。もう絶対手放したりなんかしない。絶対に。
と、あたしがそう思った時。
弾が口を開いた。
「そんじゃ、一夏の部屋に行きますか? なぁ鈴?」
「え?」
「なんだ? 俺の部屋に用事があったんじゃないのかよ。」
「いっいやそれは…弾?」
「ま、俺ら二人が一緒に行くし。箒ちゃんに言いたい事あんだろ? なら遠慮せず吐き出しちまえよ。でも実力行使だけはご法度だからな? OK?」
「…ん。分かった。」
「そう言う訳で、おーい。のほほんちゃんにかなりーん? 俺達一夏の部屋に行くけど。二人はどうする?」
「私は部屋でお菓子たべて待ってる~♪」
「あたしは部屋に戻るわ。流石に疲れたし。」
「そっか。手伝いサンキュー二人共! ほんじゃね~?」
「行ってらっしゃーい♪」
バタン。
二人の女子生徒を部屋に残したまま。
あたし達は一夏の部屋まで、足を進める。
「あの妙にのんびりした娘。お菓子食べながら待ってるって言ってたけど。もしかして。」
「ああ、のほほんさんは弾と同室なんだよ。」
「…ふーん。」
「おおう? なんだ鈴? のほほんちゃんにまでヤキモチかね?」
「…そんなんじゃないわよ。」
「良い娘だぞー。可愛いしなー?」
そう言って、歩き出す弾の背中を見る。
見た感じ、悪い奴には見えなかったし。弾がそう言うなら良い娘なんだろうけど。
それでも、弾にそう言ってもらえてるあの娘が、ちょっぴり羨ましく思って・・・イライラしてしまう。
はぁ…あたしって嫌な奴。
そんなあたしの気持ちなんてお構いなしに、あたし達は一夏の部屋に向かったのだった。
【弾 SIDE】
鈴のヤンデレモード回避に成功して数分。
いやー上手くいって良かった。鈴の短気さに感謝だね!
そして所変わって、今現在一夏の部屋です。
まぁそれは良いんだけど。ただいま絶賛修羅場発生中です。
いやー、ヤンデレ回避は成ったものの。
元々我の強い箒ちゃんと鈴じゃ、話こじれるのも仕方ないが。
二人に挟まれてる一夏も大変だ。
俺は傍観するがね。
「いいから部屋代わって。今すぐ」
「ふざけるな! 何故私がそんな事せねばならない!!」
「いやーだって、あたしの方が一夏も遠慮はいらないし? 弾だって気兼ねなく部屋に訪ねて来られるし。そっちの方が良いと思うんだけど?」
「むぐ…! そ、それは。」
「ん? 箒?」
「何があるかな♪ 何があるかな♪(ガチャ)」
「まぁそう言う訳だから、はい決定。」
「なっ!? ふざけるな!! それとこれとは話が別だ!! これに関しては私と一夏の問題だ!」
「ふむ? コーラがないな? なんで伊○衛門しかないんだ?」
「あたしは幼馴染だし部外者じゃないわよ?」
「そんなの理由になるものか!!」
「お、落ち着けよ二人共。」
「にんじん・じゃがいも・タマ~ねぎ~♪(ひょいひょい)」
「「「そしてお前(あんた)は、人様の冷蔵庫を物色するな!?」」」
「むしろ食材投入して潤してるんだが?」
「「勝手に入れるな!!」」
「けち!!」
「「大人しくしてろお前は!!」」
とりあえずは、俺の出る幕はないと判断した為。
一夏と箒ちゃんの私生活を覗く為、冷蔵庫チェックに勤しんでみたんだが…なんて悲しい冷蔵庫事情。食材がそんなに入ってない。
見事にスポーツ飲料関係にお茶ばっか。ええい、この体育系どもが!!
いや、それにしても。
箒ちゃんも鈴も、お互い一歩も譲らんね~。いつまで経っても話は平行線。
こりゃ先は長いな。
「とにかく出てけ! 自分の部屋に戻れ!」
「一夏もそう思うでしょ? そ、それにほら。約束の予行にもなるし?」
「ん? 約束?」
「む、無視するな! ええい! こうなったら力ずく――――。」
「ふんふふん♪(書き書き)」
「ってコラああああああああっ!? 貴様私の竹刀になにを書いてる!?」
「え何って【大好き♪ワンサマーラヴ】。おおう、我ながら見事な達筆ぶり。」
「書くなああああああああああああああああああ!?」
「ワンサマー? 夏が好きなのか?」
「あんた…(残念な瞳)」
「返せええええええええ!! ―――って消えない! 油性ではないかあっ!?」
「作品は残しておきた【バシィイン!!】、今の普通の人には危険だから気を付けてね♪」
「ぐっ! おのれこの怪人め…!」
「本当に不死身ねあんた。何者よ本当?」
「もう弾だからってことで片付けていいんじゃないか? こいつの事は?」
なんか三人共、反応が慣れてきたね。うん良い事だ。
ふむ、ちょっと脳が揺れたがまぁ気にする程のものじゃないな。
それにしても約束か。
俺も知らないとなると、二人が小学校の頃の話だろうね。
おおう、やるじゃないか鈴。二人だけの約束イベントとはポイント高いぞ!
あの一夏と約束か~。
…一夏と?
うん? なんか嫌な予感が?
ものすごく、なんか嫌な予感がするのだが? はて?
そこはかとなく、嫌な予感がビンビンするものの。俺はとりあえず一夏と鈴の会話を見守ることにした。
「まぁそれはそれとして、約束っていうのは。」
「う、うん。覚えてるよね?」
顔を伏せて、チラチラと上目遣いで一夏を見る鈴。
ふむ? この態度から見るに、物凄く恋愛レベルの高い約束だろうことは分かるが。
…恋愛…約束…一夏…鈍感。
あ、不味い。
何が不味いって―――― 色々と不味いぞこの流れはっ!?
一夏の恋愛に関する鈍さは戦艦ヤマト級だ!!
それが恋愛関係の約束ならば覚えていても、別の意味に捉えている可能性が大だああああ!?
焦る俺、でも時は既に遅しだった。
「えーっと、あれか? 鈴の料理の腕が上がったら毎日酢豚を―――」
「そ、そうっ。それ!」
「――― 奢ってくれるってやつか?」
――――――― その瞬間。ピシリと音を立て、時が確かに止まった。
…なんだその約束は。
毎日酢豚を奢るって――― アホかこいつはあああああああああああああ!!?
話の前半ちゃんと聞けぇ!? 料理の腕が上がって、毎日酢豚をって所で何故気付かん!?
まるっきり『毎日味噌汁を~』のアレンジバージョン! 鈴なりの遠まわしな告白じゃないかよおおおおおおおおおおおおおっ!?
いや、約束したってこと覚えてる所だけは誉めてやるべきか? こいつの場合。
「――― はい?」
「だから、鈴が料理出来るようになったら、俺に飯を御馳走してくれるって約束だろ?」
「…。」
「いやしかし、俺は自分の記憶力に感心―――――。」
パァン!!
…うわっちゃー。
思わず顔を覆って、天井を仰いでしまう。
やっちまったよ。あーもー。
俺の目線の先では、鈴にビンタされ呆然とする一夏。
そして、その様子を驚いて見守る箒ちゃんに。
体を小刻みに震わせ、顔を伏せている鈴。
でも口元はギュッと引き結ばれて、何かに耐えるように見てとれた。
…はあぁ~。本当に手の掛かる親友達だこと。まだまだ、フォローが必要だねぇ今日という日は。
立ちあがって、一夏と鈴の傍に近づく。
「あ、あの、だな、鈴。」
「ほい。一夏ストップ。」
「だ、弾?」
「全くお前は…はぁ、とりあえず。」
鈴に近づき、その体をひょいと担ぎあげた。
鈴がビクッとしたが、今は無視。
「チャイナっ娘確保ーってな? おお、なんだ随分軽いな鈴? 飯ちゃんと食ってるか?」
「―――――――――っ」
「お、おい弾。」
「ああ、それと一夏。明日凍らせた豆腐用意してくるからな? 頭ぶつける覚悟しとけよ貴様ぁ!?」
「なっなんでだよ!?」
「喧しいアホ! お前のオメデタイ頭で考えろ! 今日はもんもんと夜を過ごすがいいわ!!」
口ではそう言いつつ。
アイコンタクトで、『今は退け。鈴は任せろ』と伝える。
それに気が付いた一夏は。また自分が、何かやったと思い少し落ち込んだ様子になるが。今は鈴のフォローの方が先決。
「ほんじゃ、俺達はこれで。あばよ~!」
「あ…。」
「ん? 箒ちゃん。どったの?」
「い、いや。なんでもない。」
「そうかね。ほんじゃね~!」
「お、おい弾!?」
床にあった鈴のバックを回収し。
そのまま一夏達の部屋を後にする俺と鈴。ふむ、箒ちゃんの最後の仕草が妙に気なるが…まぁ今はいいか。
背後でバタンという音を聞きつつ、俺は鈴を担いだまま廊下を歩く。
担がれているというのに、鈴は先程から無言。
体はさっきか小刻みに震えているから、何か我慢してるのは明白…はぁ。
さて、どうするか。とりあえず、この状態の鈴を部屋に返すのはまず除外。
なら残っているのは―――。
「さーて。ほんじゃ俺とのほほんちゃんの愛の巣まで行こうかね? 久しぶりに俺の飯食わしてやるぜ~鈴。」
「―――。」
「弾特製メニューもバリエーション増えてなぁ? お前も知らないメニューも色々あるぜー?」
「…っ。」
「ま、とにかくだ。」
そう言って、俺は鈴の体を担ぎ直し。
鈴に向かって口を開いた。
「気が済むまで愚痴くらい聞いてやるからさ? 我慢すんなよ鈴。吐きだせ嫌な気持ちは。」
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
ビクッと一度大きく震えた鈴。そのまま、俺の服をギュウッと掴み。
――― ようやく、堪えてるモノを吐きだした。
「~~~~っだ、ん゛ぅぅぅ…っ!!」
「はいは~い。日本紳士の弾さんですよ?」
「いっい゛ぢが、お、おぼえ゛でながっ…!!」
「なーに言ってんの? 覚えてたろ? 意味は間違ってたけどなぁ? 全く鈍感にも程があるよな~。」
「う゛う゛~~~~っ!! い゛っい゛ぢがのばがぁぁ~~~~!!」
「おー馬鹿だな~。あいつは馬鹿だ。大馬鹿だ。」
「―――ッ!! う゛ん゛~~~!」
「おーし! 鈴よ! お前の好きなもん作ってやるぞ!! やけ食いだ! 食って食って…ふむ体重が心配だな?」
「だん゛ぅぅぅっ!!!」
「わはははは。冗談だよ、何が食いたい鈴?」
「だ、だん゛どぐぜい゛ズベジッグぢゃーばん…。」
「おお、あれか。おーし任せろ! 善は急げ! 飛ばすぜー!!」
そのまま一気に自室へと走りだす俺。
さーて、今夜は腕によりを掛けて作ってやらなきゃね~?
鈴の内にある、こいつを縛る厄介な闇。
それを取り除いてやるには、ちまちましたやり方じゃ駄目だ。
取り除くなら、一気に吹き飛ばさなきゃ意味がない。
でも、今は手札が足りない。全く足りない。
情報も不足してる。
でも…なんとかしてやらなきゃなー。
そんな俺の心情はとにかく。
俺は、鈴を担いで廊下をひたすら走ったのだった。
後書き
更新遅れて申し訳ないです。今回、できればクラス対抗戦前くらいまで書こうとしましたが・・・・駄目だ、どうあっても長々となってしまいます。ああ・・・早く、シャル書きたい、ラウたん書きたいぃぃぃ・・・。さて次回、のほほんさんパワー炸裂に、何気に鈴編で影薄いポニー&パッキンが頑張ります。そして生徒会も。鈴じゃないですが、ちょっとプライベートで問題発生してしまい。更新が少し遅れるかもしれませんが、どうかご容赦ください。