ちわっす。 みんなの頼れるお兄さん。 五反田 弾です。
決闘翌日。
クラス内は決闘の話題で大賑わいです。
そりゃそうか。代表候補生に素人二人が勝ってしまったんだからな。
しかも男。話題性十分すぎる。
このまま、一夏がクラス代表に決定するかと思いきや。
ここで、思っても見ない事態が発生。
この劇的な勝利のお蔭で、ちょと妙な話になってしまった。
目線の先では、マヤたんが楽しそうに声を発していて、隣の千冬さんは、何だか眉間に皺を寄せて不服そうにしている。
「それでは、一年一組のクラス代表は、織斑 一夏くんに決定です。そしてさらに、副代表に、五反田 弾くんに頑張ってもらいます。男の子二人なんて頼りになりますねっ。」
わあああ!
パチパチと、淑女たちが大いに盛り上がっていた。
一夏の奴は、「まぁ、俺だけってのは割に合わないからな」と言って頷き。
箒ちゃんは、「正直不安だな。」と渋面。
セシリーちゃんは、「負けた手前文句が言えません。なんて羨ましいポジションをっ!」と、ものすごく悔しそう。
…俺が副代表?
何という事だ。どうしてこうなった?
ふむ? とにかく理由を知らねば話が進まんなー。
そう思い、俺は勢いよく右足を上に突き上げた。
「へいマヤたん。SO★MO★SAN!?」
「その呼び方止めたくださいっ!? 足じゃなく手を上げてください!? それから普通に質問がありますっていってくださいぃっ!?」
体が柔らかいことは良い事だ。
まぁ、それはともかく。俺にはどうしても納得できんのだよ。マヤたん。
「小さな頃に、軟体動物目指した俺の努力はこの際置いておくとして。」
「お前って、本当に無意味な事に全力投球するよな。」
「なんで俺が副代表? 此処は流れ的に、風紀委員じゃないんですか? おかしくない?」
「「「「こいつ今、どの口が言ったの!?」」」」
「風紀に真向対立している貴様が言うことかっ!? この学園設立以来の問題児がっ!!」
「これでも未熟児だったんだぞ? 俺頑張ったんだ! 生きることに!」
「少しホロっとする発言ですわっ!?」
「頑張って努力したら、気が付いたらこんなだよ?」
「今のお前は努力した上での結果だったのかよ!? 努力の方向性を最初で間違えたか!?」
「『変○仮面』、あの衝撃のバイブルに、幼稚園の時に出会った事が全ての始まりだったな。」
「「「「「子供時代に取り返しのつかない出会い!? しかも目指したの!?」」」」」
「まぁ、一分で『はっ、ねぇわ。』って投げたけど。」
「嫌な子供だな!? というかその時点でもうお前の基本が出来てるじゃねぇか!?」
「今だ完全には至らんが。」
「まだ不完全なのか!? これ以上の高みあるのか!?」
「マヤたん。どうして俺みたいな奴が生まれたの?」
「そんなこと質問されてませんよっ!? それと自分に自信持ってください!?」
「よし、分かった! 俺は自信を持って副代表の権力を有効活用させて貰うぜ!! ふはははは! 今日からこのクラスの秩序は俺のものだ!! マヤたんのお墨付きも貰ったしなぁ?」
「ええええええええええええっ!? 私のせいですかっ!?」
「「「「「承諾したけど、ものすごく陰湿だ!?」」」」」
「貴方の好きにはさせませんわっ!? 副代表になったからには相応の責任と覚悟を持っていただきますわ!」
「思い通りになると思わぬことだ弾っ! この私の眼の黒いうちは好き勝手はさせん!」
「クラス代表は俺だから、あんまり無茶なことはさせないからな?」
「まずわ、感謝を込めて。みんな学園中を綺麗に清掃だ! 終わったら『弾特製ミックスサンド』+『くらぁ!? 紅茶。』を出すから、みんな頑張ろうなっ!?』
「「「純粋かつ善意に溢れた行動(ですわ)!?」」」
「明日から。」
「「「お前(貴方)やる気ないだろ(でしょう)!?」」」
「俺の都合も考えてくれよっ!?」
「「「「「「「「知るかああああああ――――――――――っ!!」」」」」」」」
「…。(空が青いな。四月も後少しか)。」
「先輩が空を見上げて遠い眼を!? 先輩っ! しっかりしてください!?」
とまぁ。
このように色々盛り上がり。一夏の補佐として俺が副代表に就くことになった。
ちゃんとした理由をのほほんちゃんに尋ねたところ。
『戦っている姿が、意外に頼りになりそうだったし。少し格好良かったかも? 後耳が痛いんだけど、どうしてくれる。』
という意見が少数あったからだそうな。
ふむ? まぁ、淑女たちのお望みとあらば。喜んで引き受けるぞ?
* * *
そしてさらに数日が経ち。現在。
俺は今、クラスのみんなと共に、千冬さんの授業を受けています。
おー、グラウンドも桜が彩られて綺麗なもんですたい。
やっぱり淑女の為に、見た目の美しさにも力を入れとるんだな~。
まぁ、そんなものよりも。
俺は周りの淑女たちへと視線を走らせる。ISスーツに身を包んでの授業だから、当然みなさん悩ましい姿であります。
いやしかし、眼福もんですな!?
見てよ、周りの女の子達の格好。たまりませんな!
「ぬふふふふふ。」
「「「「「「「「…うわぁ。」」」」」」」」
「…むー。」
淑女たちの引いた目に悶えていた俺だが。
なぜか頬を膨らませているのほほんちゃんに、かわいく睨まれたので、目の保養を断念する。
なんだか最近、のほほんちゃんの様子が変です。
この間まで抱きついてきたりとスキンシップ旺盛だったのに、少し減ってしまった。
ふむ? 遅い羞恥心の芽生えかね? 少し寂しいが、気にしといてあげよう。
いや、でも意外な事に。のほほんちゃんてスタイルいいのね? 最高ですね!
「う、うぅ~っ。(照)」
ごうふっ!? な、何だあの萌え生物は!? 頬を桃色に染める姿が俺の心をわし掴んで離しませんっ!?
そ、そげな風に体をモジモジさせたらあかんでお嬢はんっ!? 胸が!? 割と大きめのバストに括れた腰がっ!? ヒップが太腿がああああっ!?(何気にしっかり見てる)
い、いかん! このままでは萌え死んでしまう! 回避! 回避―っ!?
そのまま。かなり抵抗の強い俺の視線を強引に前方にずらす。
目線の先には、マヤたんに千冬さん。二人ともジャージなんだね。
ちっ! 空気読んでくださいよ!
「…むーっ!」
あ、ごめんなさい。
あれ? 迫力は皆無なのに、なんか従ってしまうぞ? 恐るべしのほほんちゃん!
「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。」
む、いかん。授業に集中せねば、千冬さんのきりっとした声に思考をカット。授業に集中する。
「織斑、五反田、オルコット。試しに飛んで見せろ。」
おー、話し半分聞き流してたから。何の事か分からないかと思ったがセーフだ。
これぐらいなら理解できる。
千冬さんが、俺達三人を呼び、跳ぶように指示をしたんだな。
ほほー、跳べか。なるほどなるほど。
…なんですと!?
「なにをしている。三人とも早く前に出ろ。」
「え? あ、はい!」
「分かりましたわ。」
「俺、今は金持ってませんよ!?」
「では、それぞれISを展開し――― っ誰が、カツアゲなんぞするかこの害悪野郎がああああああっ!?」
メキャッ!(出席簿アタック角バージョン)
残像を残し、俺に一撃を加える千冬さん。
あだぁっ!? さ、流石千冬さん。的確に俺の脳天を捉え、瞬時に俺を殺しに掛かるとは。
胃を押さえ顔を顰める千冬さんを、マヤたんが宥める光景を目にしながら、呼ばれた俺達は前に出る。
おおう。あんなにジャラジャラ胃薬飲みこんで平気なのかな?
とりあえず頭に突き刺さったままの、出席簿は誰か取ってくれないかね?
悩み多き今日この頃です。
それから少しして、千冬さんを前に横に整列し直す俺達。
しかし千冬さん。出席簿引き抜くにも、俺の顔面を踏みつけながら抜くことないでしょうに。スカートじゃないじゃないか!?
それにしても、一夏も俺もISスーツを纏っているが。このへそ出しルックはどうにかならんものかね? 一夏以外需要はないだろう。お婿に行けなくなったらどうするんだ。
おお、セシリーちゃんは今日もきわどい格好だね。ありがたやありがたや。
「お前は一体千冬姉を、何だと思ってるんだよ?」
「いやーすまんね? ISで飛ぶってことよりも、そっちの方がリアリティがあり過ぎてな。」
「何で今、私を拝みましたの!?」
パァンッ!!
ベキョッ!!(ブシャァ!)
パァンッ!!
「織斑先生と呼べと言っている。それから五反田、黙っていろ。オルコットも私語は慎め。」
「す、すみませんでした。織斑先生。」
「誰か手拭い持ってない? 血が止まらなくて前が見えんのです。(ダバダバ)」
(((((でも平気なんだ!?)))))
「…何故私までぇ…!?」
「さっさとISを起動させろ、馬鹿共。」
千冬さんの言葉に慌てて集中する一夏とセシリーちゃん。
瞬間、セシリーちゃんの周囲が青白く閃光を発し、ISを展開。
『ブルー・ティアーズ』が、セシリーちゃんの体にそう着されていく。
ほー、『ブルー・ティアーズ』の待機状態は、あのイヤリングだったのか。女の子らしくオシャレでいいな。
さすがはセシリーちゃん、ISの展開も慣れたモノですな。
「くっ。」
「一夏。お前はライダー風で頼む。」
「出来るか!? 集中の邪魔するなよ!」
「じゃあ美少女戦士風でいいよ?」
「出来ねぇっつってんだろ! ああもうっ!」
一夏が、右腕の真っ白なガントレットを握り再び集中。
膝かっくんしようかと思ったが、千冬さんが修羅の如く睨んできたので断念。
刹那、一夏を中心に白い光が発光。次の瞬間には『白式』を纏った、一夏の姿が現れた。
…なんだこの、無駄に主人公補正の高い姿は。白なんて普通に主人公カラーじゃねぇか。お前一体どこの主人公だ!(IS)
いやー、それにしても『専用機』が二機並ぶと、中々壮観です。
やっぱり、訓練機の『打鉄』もいいけど、個性高い『専用機』は違うわ。
あー、でも『打鉄』を装備する淑女達の姿も、アレはアレでそそるモノが!
ベキャア!(ブシュウウゥゥ!)
「(くるっ) 誰か呼んだ?」(既に慣れた)
「五反田さん!? 血が! 頭から噴水のように血が出てますわ!?」
「一夏。輸血パック持ってない?」
「ここで輸血する気か? それと血は臓器扱いだから個人で所有できないんじゃないか?」
「ほほー。そうなんか?」
「とりあえず拭けば、いつものように止まんだろ?」
「だな。(ごしごし)」
「そういう問題ですの!?」
「「「「「織斑くん、手慣れてる!?」」」」」
「こいつの不死身振りには突っ込まん事にしたんだ。俺。」
遠い眼をする一夏の姿を、視界の隅に置いて。
とりあえず、俺に一撃加えた人に向直る。
まぁ、千冬さんですよね。ありがとうございます。
「へい、なんでしょうか? 織斑先生。」
「なんだじゃない。お前もさっさとISを展開させんか馬鹿者。」
「先輩!? それだけで頭を割るのはどうかと思うんですけど!?」
「え? そう?」
「そうか?」
「加害者と被害者の意見が一致してます!? 私がおかしい流れになってます!?」
はははは、おろおろとしていて微笑ましいね。マヤたんは。
ふむ? しかしISの展開かぁ。今はちょっとなー。
片足上げて、織斑先生に声を掛ける。
「織斑先生。発言良いですか?」
「…。」
「ものすごく嫌そうな顔しないでください! 先輩! それと五反田くん、足じゃなくて手を上げてください!」
「犬って前足なのに、『お手』っていうのはおかしいと思います。」
「何の話をしているんですか!?」
「『主人を足で踏むとは言い度胸だ駄犬がぁ!?』と、世の飼い主は怒っていい。」
「お手をさせておいて理不尽すぎます!?」
「マジックハンドを使えよと常々思います。」
「犬に求める事じゃありません!?」
「それで、ISの展開のことなんですけど。今ちょっち無理なんすよ。」
「何か問題でもあるのか、五反田?」
「あれー!? なんで普通の会話に戻っちゃうんですか!? お二人ともー!?」
(山田君を挟めば、割とストレス感じないな【キュピン】)
(先輩がものすごく、ニヤリとしてるぅぅ!? 絶対碌でもない事です!? 主に私にとって!?)
なんて弄りやすいんだマヤたん。
おー、千冬さんも。「我が意を得たり」って顔で悪い笑みをうかべてる。
どこぞの、デス○ート所有者も顔負けですね。
「へい、オヤビン。【ベキャア!】実は今、『七代目五反田号』が手元にないんです。(ブシュウ!)」
「何だと? ISの修理、メンテナンス等の話は聞いていないが?」
「普通に会話しないでください!? 血が! とんでもない量が!?」
「預けてきました。」
「…それは誰だ? 学園の関係者だろうな?」
先程までとは打って変わった。千冬さんの真剣なまなざし。おおう。凄い気迫だ。
いや、別に大した所じゃないんですがね?
「いえ、だいぶ汚れたんで。クリーニングに出してきました。」
「今すぐ取ってこいドアホオオオオオォォォッ!!?」
とりあえず、ISの基本飛行や武装基本的な展開行動は、一夏とセシリーちゃんが行い、無事終了。一夏の奴がグラウンドに巨大クレーター開けたのは余談だがね。
俺は、学園のすぐ近くにあるクリーニング屋のおばあちゃんに頭を下げて『七代目五反田号』を返してもらった。
ちなみに『七代目五反田号』。
クリーニングしてもらえなかったことに対して、【残念】と文字を表示。
すまんなー。部屋の洗濯機で我慢してくれ。
【??? SIDE】
「ふぅん、ここがそうなんだ」
国を離れて、ようやくIS学園へとたどり着いたあたしは、学園を見上げてそう呟いた。
中々いい所じゃない。ま、あたしが通ってあげるんだからこの位は当然よね。
「えーと、受付って何処にあるんだっけ? 本校舎一階総合事務受付…って、それ何処にあんのよ」
手元の紙をイライラしながら見る。
場所の名前じゃなくて、その場所の地図くらいつけときなさいよ。適当にも程があるじゃない。あたしを誰だと思ってんのよ、あーもう!
上着のポケットに、再び紙をねじ込んで歩き出す。
自分で探せばいいんでしょう、自分で探せばぁ。あー面倒くさいわね。
とりあえず、歩いていれば誰かしら人に会うだろうと思って、そのまま歩き続ける。待ってるだけなんてあたしの性に合わないしね。
きょろきょろと、周囲を見回しながら進むけど、行けども行けども人の影は見えない。
まぁ、時間が時間だししょうがないか。
(あーもう、面倒くさいなー。空飛んで探そうかな…。)
一瞬、それは名案! って思ったけど。学園の規約事項を思い出して止める。
それと同時に、情けない表情であたしに懇願してくる政府高官の姿を思い出し気分が少し晴れた。
自分の倍以上もある年齢の筈の大人が、ヘこへこ頭を下げる姿は見ていて気分が良い。
昔から『年を取っているだけで偉そうにしている大人』や『男っていうだけで偉そうにする子供』が嫌いなあたしにとって、今の世の中は非常に居心地が良かった。
そんなことしでしか誇れない小さな輩は、今頃肩身の狭い思いをしているに違いないと思うと笑えて来る。
けれど、二人の男の姿が脳裏に鮮明に映し出され、知らずにあたしは、先程とは全く違う笑みを浮かべてしまった。
―――― でも、アイツ等は違ったなぁ。
真っ直ぐな意志の強い瞳を持つ少年と、いつも気楽そうな笑みを浮かべる少年。
その二人の男だけは別。絶対言わないけど、あたしが信頼している男はあいつら以外には存在しない。
そしてその二人の存在が。あたしが日本に来た理由の一端を担っていたりするのよね。
―――― 元気かな二人共。っていうか考えるまでもないか。間違いなく元気よねー
あの台風みたいな奴がいる限り、毎日が騒動づくしだろうし。
昔の大騒ぎを思い出し、笑ったり、イラッとしたりと百面相しながら歩き続ける。
その時、ふと誰かの話し声が聞こえてきた。
ラッキー。ちょうどいいや、場所聞こうっと。
そう思って、声のする方向に耳を傾け―――――、
「おい弾!? お前また俺の写真を無断で売りやがったな!?」
「え、俺が? いつ何処で何時何分何秒? もうちょっとその辺明確にしてくれんかね?」
「小学生か!!」
「何故、俺が『小学○年生四月号』を買った事を知っている!?」
「小学生だ!?」
「だって今月の付録超かっこいいんだぜ!?」
「またおまけ狙いか!? お前本当に付録好きだよな!?」
「失敬な! 連載中の【打鉄~その魂の行方~】だって毎月読んどるわ!?」
「何だそれ!?」
「町工場の老夫婦が、『打鉄』のパーツの制作するに至るまでの、苦悩と挫折、そして絶望を描いたアクション漫画だ。」
「驚くほど救いのないダークストーリーじゃねぇか!? 小学生が読んで問題にならないのかよ!? そしてアクション要素が全く見られんわ!?」
「今月はお婆さんが、七十才年下のつとむ君と駆け落ちしてな・・・続きが気になって夜も寝られねぇ!?」
「普通に誘拐じゃねぇのかそれ!?」
ゴガン!
会話を聞いたあたしは、思わず壁に頭を打ち付けてしまった。
~~~~~~~いったあああ!?
ものすごく聞き覚えのある、二つの声。
そしてその会話内容のアホらしさに頭痛が走る。物理的にも精神的にも!
か、変わってない…!
いや、あたしの知っている。昔の二人のままだということは嬉しいのよ?
嬉しいけど、ちょっとは成長しなさいよアンタら!? 特に弾!
あんまりにも早過ぎて、ある意味衝撃的な再会に、あたしはこめかみを押さえ立ちあがる。
と、とりあえず、声を掛けよう。そう思い、あたしは足を動かす。
突きあたりから顔をのぞきこませると、思った通り。言い合いを続ける二人の姿。
一年前よりも、背が少し高くなった二人の姿にちょっと驚く。
へ、へぇ~? い、一夏ってば、また少し格好良くなったじゃない?
弾は…あはは、あんまり変わらないけどちょっと逞しくなった?
懐かしい二人の姿に、あたしの心が少しずつ穏やかになっていく。
あたしって気付くかな? まぁ一年しか経ってないし大丈夫よね? 気付かなかったら、それだけあたしが美人になったてことだし?
そう思って、意気込んで声を掛け―――。
「ここに居たかああああああああ!?」
――― ようとして。般若の形相をした黒髪ポニーテールの少女の怒声に遮られた。
はいっ!? 何アレ!? ものすごい殺気放ってるけど!?
その鬼は、二人に近づき、いきなり弾を絞めあげた。
「だああああああん!? 貴様またくだらんことしてくれたなあぁっ!?」
「ん? どうしたの箒ちゃん?」
「しらばっくれるな!?」
「お、おいおい、どうしたんだよ箒!? 何があった!?」
「あったも何もっ! これを見てみろ!!」
そう言って少女が出したのは、一振りの木刀。
何の変哲もない、ただの木刀かと思いきや―――――― あ。
木刀に、達筆な文字が書かれていた。
【京都にて。1000円。】
それなんて、修学旅行のお土産っ!?
「これのおかげで、顔をだした剣道場で大恥かいたわぁ!? こんなくだらん真似するのはこの学園でお前以外いるかああああっ!?」
「出来心だったんです!」
「自白早っ!?」
「箒ちゃんの周りに笑顔が溢れれば良いかなと思って。」
「理由が何気に善意だった!?」
「指さして笑われたわぁ!? 部長には「私も買ったよ?」などと慰められたんだぞ! どうしてくれるんだあああ!?」
「よっ! 箒ちゃんナイスボケ! 明日から剣道場の人気者(笑い者)だね!?♪」
「貴様ああああああああああああああああああああああああッ!!」
「待て箒!? 木刀で滅多刺しはやめろ!? 後始末が大変だ!!」
「骨は灰にして、サンオイルと混ぜ込んだ後に、美女の体に余すことなく塗り込んでくれ!」
「「お前は黙ってろ!」」
そう言って、ギャンギャンと盛り上がる三人。
目の前で繰り広げられる光景に、胸がチクリとする。
なによ。楽しそうにしちゃってさ。
誰よ、あの女の子。妙に親しそうにじゃない。
――――― そこはあたしの場所でしょう?
さっきまでの嬉しさや穏やかさは消え、湧き上がるのは冷たい感情に、小さくない嫉妬だった。
* * *
その後、すぐに総合事務受付は見つかった。
手続きはすぐに終わったけど、あたしの心は酷く荒れていた。
思い出させてやる。あの馬鹿二人に。
教えてやる。周囲にあの場所は誰のものなのかを。
その感情のまま、あたしは目の前の受付の女性に質問する。
「織斑 一夏。それと五反田 弾って何組ですか?」
「ああ織斑くんと、あの子のこと…。」
「え? な、なんでそんな顔してるんですか?」
「…もしかして貴女。二人の知り合い?」
あ、あれ? 何か妙な雰囲気になったような?
どこかレイプ目なその女性の迫力に、若干引きながら答える。
「は、はい、中学の頃一緒によく遊んだ仲です。」
「…一緒に?」
「は、はい。」
「…毎日?」
「まぁ、大体は。一年前にあたしが引っ越したんですけど、二年くらい一緒に遊んだりしました。ちょっと疲れるけど、そんなに苦じゃなかったし。」
「苦じゃ…ないッ!?」
「―――― はい? どうし――――。」
その次の瞬間だった。
ぐわっしぃ!!
と、擬音が轟きそうな勢いで、いきなり受付の女性に肩を掴まれるあたし。
――― はい!? なっ何!? 一体何事!?
驚いて、目の前の受付女性を見ると。
目を血走らせて、今にも泣き出しそうな顔であたしをガン見してる!?
しかも、肩に掛かる力は、絶対逃さんとばかりに握られてる!?
「――――――― こそ…っ!」
「はい!? 何!? 何なのコレ!?」
あれ!? さっきまでのあたしのシリアスムードは何処へ!?
そう思った私の耳に届いたのは―――。
「―――― ようこそっ! IS学園へっ!! 学園は貴女を歓迎しますっ…!」
万感の思いのこもった言葉だった。
と、とりあえず。
弾!? アンタ何したのよおおおおおおおおおおおおおおっ!?
二人の傍に相応しいのは誰か、あの馬鹿二人に思い出させてやると息込んでいたあたしは。
とりあえず学園から熱烈歓迎されている事に驚愕してしまった。
後書き
すみません。パーティまで書ききれませんでした。ものすごい量になってしまうので次回に持ち越しです。帰って来た、対弾用抵抗戦力の友人トリオのラストカード。これからどうなることやら。さて次回、持ち越してパーティ編に、ついに弾と会長が接触します。