第1話
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災厄を振りまいた舞台装置の魔女が去った見滝原町。
破壊の限りが尽くされ、荒廃した地に残った二つの影。
「ックゥッ―――あ゛あ゛っ!」
ソウルジェムが絶望に染まる苦痛に身を捩り、呻くまどかと、傍らで膝を着いてまどかの手を握るほむら。
「まどか! すぐに浄化するからね!」
ほむらは、黒く染まったまどかのソウルジェムにグリーフシードを近づけるが、まどかは拒絶する。
「もう、いいの…」
苦悶の表情を浮かべるまどか。
「そんな…」
ほむらは溢れる涙を拭う事なく、まどかの手を握る手に力を込める。
「ほむらちゃんの忠告を無視して魔法少女になった罰だよ」
「もうワルプルギスの夜は去った!
他の土地で魔女狩りを続ければ生き続けられるわ!」
まどかの肩を掴んで叫ぶほむら。
「私がろくに力の使い方も練習しないで、いきなり実戦に臨んだから、避難所も潰れちゃった…」
まどかは言葉を止め、降り注ぐ雨粒を眺める。
「まどか…」
「お母さんも、お父さんも、タツヤも…、避難してた町のみんなも…」
嗚咽を漏らし、どこか遠くを見つめるまどか。
ほむらによる現代兵器の火力の集中によって始まったワルプルギスの夜との戦いは、ほむらが幾度も経験した戦いと同様にあまり効果が無かった。
まどかの矢はワルプルギスの夜に突き刺さりはするものの、効果があるようには見えなかった。
ワルプルギスの夜が避難所に近づくにつれ、焦る二人。
ほむらにとっての4回目の世界でまどかはワルプルギスの夜を一撃で倒した。願いによって強さが変わるが、まどかの可能性に賭けるしかなかった。
「最高の魔法少女になる」キュゥべえにそう評されたまどかが全ての魔力を注いだ矢を放つまで、ほむらは道化師役の使い魔からまどかを守りぬいた。
放たれた矢はワルプルギスの夜に直撃し、ワルプルギスの夜と共に避難所へ落ちて爆発――――避難所を瓦礫の山に変えた。
ワルプルギスの夜は何事も無かったかのように炎を噴出し、瓦礫を吹き飛ばして宙を舞い、見滝原町を去った。
避難所は基礎の一部しか残らなかった。
「私、家族を、町のみんなを殺しちゃったんだよ。
いくつグリーフシードがあっても、すぐにソウルジェムは絶望に染まっちゃうよ…」
「まどか…」
どこか遠くを見ていた、焦点の合わない瞳を閉じるまどか。、
「私、魔女にはなりたくない…。嫌なことも、悲しいこともあったし、守りたいものも守れなかったけど、もうこれ以上、この手を汚したくない…」
まどかは、ほむらを見つめて言外に介錯を願った。
「次の私によろしくね…。キュゥべえに騙されないように、ずっと一緒に居てほしいな」
苦痛をねじ伏せ、優しく微笑むまどか。
「うん」
ほむらは泣きながら頷くと、まどかの頭を抱きしめる。
「…約束するわ! 何度繰り返すことになっても、まどかと共にいるわ!」
「うん。お願い」
まどかがほむらの首に腕を絡めると、ほむらはまどかを抱き上げ、唇を重ねた。
ただ唇が触れるだけのキス。
お伽話なら、お姫様は王子様のキスで救われるが、まどかの魔女になりたくないという希望を叶える方法はただ一つ。
「う゛う゛ぅ゛っ――――――!」
悲痛な叫びと発砲音が響いた。
/ 2 side 暁美ほむら
幾千の夜を繰り返し、数えきれないほど、まどかの死を見てきた。
まどかを手にかけたことも数えきれない。
私の目的はまどかを守る事。
まどかが魔女になるのを防ぐ為、まどかを殺すたびに摩耗する。
私の心は擦り切れる寸前だった。
『キュゥべえに騙される前のバカな私を助けてあげてくれないかな』
繰り返すうちに増えたまどかとの約束(は、未だに果たせないでいる。
過去に戻った時点でまどかが契約している事もあれば、私がワルプルギスの夜と戦っている瞬間に契約する事もある。
『ずっと一緒に居てほしいな』
そして、増えた約束。
今回は、今までの路線、ミステリアスな雰囲気を演出して、まどかに近づくキュゥべえ狩りをするのは辞めよう。
何度やってもキュゥべえがまどかにまとわり付くのなら、常に私もまどかの側に居て契約を思い留まらせよう。
まどかの唇、柔らかかったな…。
もう、私のまどかへの執着は、恋と区別がつかない。
今度こそ、まどかを守りきる!
決意を新たに、病室を後にする。