<このWebサイトはアフィリエイト広告を使用しています。> SS投稿掲示板

SS投稿掲示板


[広告]


No.27495の一覧
[0] 秒速5センチメートル ―桜の途―[相原](2011/05/01 12:48)
[1] あとがき[相原](2011/05/01 04:03)
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

[27495] 秒速5センチメートル ―桜の途―
Name: 相原◆752d6516 ID:c8fe411d 次を表示する
Date: 2011/05/01 12:48
---------------------------------------------------------------------------------------
この作品は「秒速5センチメートル」の二次創作SSです。

本文とあとがきに映画、または小説版「秒速5センチメートル」のネタバレを含みます。
少なくともどちらかを観賞されてから読まれることをお勧めします。
あとコミックス版も読んでおくとちょっとわかりやすい……かも。
--------------------------------------------------------------------------------------










 あまりの天気のよさに、子供と一緒に散歩に出た。遮るものの少ない空は、普段見ているものとは別物だった。高い建物が少ないのもあるけど、気のせいか、この空はちょっとだけ高くて色が濃いような。都会の灰色の下ではせわしなく見える雲の流れも、ここではどこかのんびりとしているように見えた。
「わあ、すごい!」
 角を曲がると、繋いだ手が歓声をあげた。そこには通りに面して、大きな桜が一本立っていた。その見事な枝ぶりを見て、このあたりではこんなに早く咲くんだな、と思った。はや散り際のその樹は、道路をピンクに染めている。
「ねえ、まるで雪みたいだね」
 桜の下を通りながら娘が言った言葉に、ふと懐かしさを覚えた。あれはもう遠い昔、ちょうど今のように薄紅の降る中だった。そうだ、確か桜の花びらは――
「秒速5センチなんだって」
「え?」
「桜の花びらの落ちるスピード」
 自らの言葉で思い出した。あのときもこんな会話をした。とても大事な、あの人と。
 それが切欠だったのか、脳裏にあの頃が蘇ってきた。読んだ本の話をしたこと。桜の咲く中、一緒に帰ったこと。雪の降る中、気持ちを確かめあったこと。そして思い出した。日々を繰り返す中で、あれほどまでに強固で、決して揺らぐことがないと思った気持ちが、薄れていってしまったこと。目の前の日常に追われるうち、どんなに離れても決して消えることはないと思った繋がりが、やがてぷつりと途絶えてしまったこと。
 桜の絨毯を越えると踏切に差し掛かった。線路の向こうを見ると、男女が連れ立って歩いてくる。
 やがて踏切の中央ですれ違う。
 瞬間、先ほど感じた郷愁が再びやってきた。今度はもっと、胸を突くくらい強く。
 線路の向こうとこちら側、互いに足を止める。

――いま振り返れば、きっとあの人も振り返ると、強く感じた。

「お母さん?」
 突然立ち止まった私に、手を繋いだ娘が声をかけた。
「どうしたの?」
 突然立ち止まった彼に、寄り添った女性が声をかけた。
 彼の隣にいる、私ではない人。すれ違ったときに見えたのは、髪の短い、活発そうな顔だった。
 彼との繋がりを確かに信じられた、あの頃の気持ち。もしそれをずっと持てていたら、また違う人生があったのではないか。そこでの彼と私は、すれ違うのではなく、同じ方向へ歩いて行けたかもしれない。でも後悔はなかった。時を経てあいまいになった部分や風化してしまった感情はあっても、彼の存在は確かに私の中にあって、これまでと今を形作っている。そしてそれは彼にとっても同じであると、彼の中にもかけがえのない思い出として私の存在があると、そう思えた。
「ううん、なんでもない」
 そう言って私は歩き出す。
「なんでもないよ」
 そう言って彼は歩き出す。お互い、違う途へ。でも――
 私は大丈夫だから。貴樹くんも、大丈夫だよね。もう、お互い振り返らなくても、大丈夫だよね。

<了>


次を表示する
感想掲示板 全件表示 作者メニュー サイトTOP 掲示板TOP 捜索掲示板 メイン掲示板

SS-BBS SCRIPT for CONTRIBUTION --- Scratched by MAI
0.022696018218994