前書き
ニコニコ動画に同名のMADがありますが、本作とは無関係です
独自設定があります
短編です
ニコニコ動画に同名のMADがありますが、本作とは無関係です
ネウロイ
ある日、突然人類の目の前に現れた正体不明の怪物。
どこから来たのか、どうやってきたのか、目的は何か、なぜ人類と敵対するのか、全てが不明の怪物である。
一つだけ分かっていること、それは奴等を滅ぼさねば人類は滅ぼされてしまうということだけであった。ネウロイはその巣から特殊な瘴気を発する。その瘴気に包まれれば人間は生きていけず、必然、人類とネウロイは敵対しあうのである。
ヨーロッパに出現したネウロイ達は瞬く間にドイツを壊滅させ、ロシア西部、フランスなどに侵攻していき、そこに巣を作ることで侵略していった。
無論、人類もただ黙ってやられていたわけではない。何機もの戦闘機が飛び立ち、数え切れないほどの戦車を投入し、2341発以上のミサイルを撃ち込んで、それで得られた戦果は侵攻速度をやや遅くするだけであった。
その侵攻の勢いはとどまることを知らず、世界は絶望に包まれ人類は絶滅するしかない、そう思われていた。
しかし、ある発明がこの状況に待ったをかけた。
日本の若き女博士『篠ノ之 束』
彼女が作り上げた発明は有人兵器『インフィニット・ストラトス』通称IS
それは操縦者を瘴気から守り、現在では唯一のネウロイを倒しうる兵器であり、全人類の希望であった。
しかし、それが世に発表された当初はほとんど注目を浴びることが無かった。ネットの某掲示板では祭りが起こったが、
『対ネウロイ用にインフィニット・ストラトスって兵器が開発されたらしい』
『うはwww俺得兵器ktkrwww』
『発想がおかしい。開発者は何考えてんだ』
『こんな状況でこんな兵器作るなんて……日本はもうだめかもわからんね』
と、その活躍を期待されるような意見はほとんどなく、ネタとして取り上げられるだけに過ぎなかった。
ISが注目を浴びたのはネウロイが突如日本の太平洋沖(日本国内では一般に扶桑海と呼ばれている地域)に出現した事件、『扶桑海事変』が原因と言われている。
一切の前触れなく出現したネウロイに政府は上から下まで大混乱を起こして満足な対応をとることが出来ず、住民も我先にと逃げようとするがどこに逃げればいいかも分からず、群衆がぶつかり合って怪我人が大勢出てしまう。
日本壊滅か!? と、某掲示板で祭りになっていた時、史上初にして当時唯一のIS操縦者、『織斑千冬』が駆る『白騎士』が襲来するネウロイを迎え撃った。
操縦者がボロボロになるほどの激戦の末、日本に襲来したネウロイを全て撃墜することに成功した。
このニュースはその日のうちに世界中に広がり大スクープとなった。昨日まで死ぬ寸前のような絶望にまみれた表情を浮かべていた人々も、これ以上ないほどの笑顔を浮かべて多くないはずの食料を持ち寄り朝まで宴会を楽しんでいた。
なにしろネウロイ出現以降人類側には唯の一つも白星がついておらず、出来るだけ被害を抑えながら戦線を維持していくしかなかった。しかし、その日その時その瞬間、歴史に残る人類初めての勝利が輝いたのだ。
そしてこれが人類の反撃の狼煙となると同時に、今日まで続く人類とネウロイの存亡をかけた戦いの幕開けとなった。
世界中の国々がどのようにしてネウロイを撃退したのかと聞くべく日本政府に連絡を取ったが、当然のように政府はなにも把握しておらず、自分達にも分からないと答えるばかりであった。
マスコミも当然この話題に飛びつき、政府よりも早く兵器の正体に辿りついた。
インフィニット・ストラトス
それがこの兵器の名前だと判明し、すぐさま開発者の名前も判明した。連日、記者団は彼女の研究室に押しかけるが彼女はなかなか取材に応じようとはしない。しかし、彼女が取材に応じなかったのはその気が無かったからではない。
数日が過ぎ、外国の記者団も取材にやってきた日、世間での注目が十分に集まり、世界中がISに並々ならぬ好奇心を抱いている日に、彼女は初めて取材に応じた。その様子を同時にネットにも流し、世界中の人間がISだけを見るように。つまり、彼女が今まで取材に応じなかったのは世界にISを発表するタイミングをはかっていたのだった。
彼女は語った。
ISの特徴・特性、そしてその力。これがネウロイに対抗しうる手段であることを世界中の人間に知らしめた。
世界中の人間は知らしめられた。その特性もその特徴もその力も、そして、その欠陥も。
結論から言えば、ISは世界に受け入れられた。
ISの欠陥。そんなものはネウロイに対抗しうるというメリットの前では塵芥同然であった。では、ISの欠陥とは何だったのか。
最も致命的な欠陥は操縦者を非常に限定すること。つまり、女性しか乗れないことだった。それも女性なら誰でもというわけではない。十代前半から二十代まで、それがISに乗れる制限だった。
また、年齢・性別の制限内だったとしても、ISに対する適性、どれだけISを思い通りに動かせるか、それがIS操縦資格保持者の門を狭めた。
このことに世論は荒れに荒れた。
守られるべき女子供を戦場に出さなくてはいけない、その苦悩は世の男性を襲い、軍人たちは自分達の情けなさに涙さえ流した。しかし、受け入れるしかないのだ。ISとはそのような兵器なのだから。
二つ目の欠点、それはISのコアともいうべき部分を作ることが出来るのは開発者である篠ノ之博士だけだったこと、そして、原材料となるレアメタルの採掘量の関係で467機しか作れないことだった。
兵器として量産できない、そんなものが兵器になるのだろうか。なるのだ。ISでしかネウロイとは戦えないのだから。
結局、必要なレアメタルを可能な限り優先して採掘すること、可能な限りIS適性の高い者、実力の高い者にISを優先的に回すことが決められた。
最後の欠点は大した問題にはならなかった。
操縦者たちはこの欠点を以てISに乗りたくないと主張することもあったが、その欠点になんらマイナス要素が無い以上、そんなものは無視された。
マイナス要素のない欠点。それは────
IS学園
それは世界で唯一のIS操縦者用訓練学校だ。
この学校はアラスカ条約によって定められた規定に基づいて設立された学校で、篠ノ之 束博士の出身国である日本に存在する。
ここで無くともISの操縦を学ぶことは国や企業の後ろ盾のもとで出来るが、この学園ほどISに関する知識や技術の豊富な場所は他にない。つまり、ここは名門校なのだ。
この学園の教師たちの多くは上がりが近づいた元IS操縦者で、IS操縦に関する専門的な教育を受けることが出来る。この学園出身のIS操縦者は世界各地でネウロイと戦い、多大な戦果をあげている。
因みにあの織斑千冬もこの学園の教師をやっている。年齢的にも実力的にもまだまだ戦えるはずだが、彼女が撃墜されて人類側の士気が落ちるのを防ぐために戦死の可能性の無いIS学園の教師という立場に収まっている。
千冬を戦死させないという本来の他にも、憧れの英雄に稽古をつけてもらうことで生徒たちが発奮するという副次効果もあるようだ。
この学園に在籍している間はそれだけで授業料を超える返済不要の奨学金がもらえ、ここを卒業するということは周囲からの尊敬を集めることが出来る。先輩たちが世界各地で活躍しているため、IS学園出身というだけで軍内部で優遇される。また、自由自在に空を駆ける姿に憧れたという人物もいる。入学希望者は多かった。
無論、卒業後は何らかの事情が無い限り従軍しなくてはならないが、ネウロイから人類を守るために使命感を燃やす少女たちは決して少なくなかった。
さて、そんなIS学園だが、ISが女性にしか使えない以上、そこは女子校となっている、教員のほとんどが元IS操縦者であることを加味すれば、IS学園は女の花園と化しているのだ。
しかし、扶桑海事変より十年後のこの年、一人の男性がこのIS学園に入学してくることが決まった。
彼の名は『織斑 一夏』
その名字から分かる通り、扶桑海事変をたった一人で解決した織斑千冬の実の弟である。
彼はひょんなことからISに適性が、それも世界トップクラスとは言わないまでも平均よりずっと高い適性を持っていることが分かった。
その事実は日本中、いや、世界中に伝わり、前線となっている国を除けば世界中で最も有名な男になった。しかし、その扱いに政府は困り果て、考えた末にIS学園に入学させることにした。
卒業後を考えれば問題の先送りとも言えるだろう。
余談であるが、戦線を維持している国では世界初の男性IS操縦者に驚くほどの余裕はなかった。それよりも今日は誰それがネウロイを何機撃墜した、あるいは撃墜されたの方が重要なニュースだ。
一躍時の人となった彼だが、IS学園に入学することになったことを聞いた時の反応は、完全な拒否であった。
彼とて人類をネウロイから世界を救うISに憧れなかったわけではない。しかし、自分がIS操縦者になるというのは話が別だ。ISを身にまとい戦場を飛び回りネウロイと戦う。考えただけでも恐怖で震えが止まらなくなる。
部屋に閉じこもって動こうとしない彼を、姉である千冬は心から心配し、しかし普段の厳格さは保ったまま、部屋を出てIS学園に入学するように説得する。
「一夏! いつまでも部屋の中に閉じこもってないで出てこい!! 来週にはIS学園に行くんだ!!!」
「嫌だ、俺は絶対にIS学園には行かない、ISにも乗らない! 例え千冬姉の言うことでもこればっかりは聞けないんだ!!」
「戦うのは力あるものの義務だ。お前にはIS適性という力、それも平均よりずっと高い適性値を持っている。だからIS学園に行くんだ! 人類のためにネウロイと戦うんだ!!」
嘘だ。
千冬は自分の可愛い弟を戦場に向かわせたくは無かった。弟が戦場へ向かうといえば彼女は涙ながらに止めるだろう。もし、弟が戦場へ向かうことを強制されれば力ずくで黙らせる気でいるし、ネウロイが弟を傷つけた日には一体残らず殺してやる気でいた。
しかし、どうしても弟を、一夏をIS学園に入学させなくてはならない目的が彼女にはあるのだ。
あまり知られていないことだがIS適性は遺伝する。IS適性の高い女性からはIS適性の高い子が生まれてきやすいのだ。
ということは、
IS適性の高い女性を一夏が孕ませたとする。すると生まれてくる子はほぼ間違いなく高いIS適性をもって生まれてくるだろう。父親もIS適性が高い分、さらに高いIS適性で。
ここまで考えれば後は簡単だ。
高いIS適性を持った兵士を増やすために各国は一夏の身を狙うだろう。非合法な手段なら力で黙らせることもできるが、人類の存亡を盾に出して無理やり子づくりを迫られるかもしれない。
そうなったら最後だ。自分の可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い弟が遠くへ行ってしまう。
ならばどうすべきか。簡単だ。一夏を各国の手が出せない場所に連れて行けばいい。即ち、IS学園だ。女の園に連れていくことに抵抗が無いでもないが、幸いにも自分はIS学園で教師をしている。自分が目を光らせておけば何とかなるだろう。
(一夏はわたしが守る!!!)
その使命を内に燃やし、弟の説得を続けるのであった。
(嫌だ……嫌だいやだイヤダ…………ISになんか乗りたくない)
一夏には分からなかった。
なぜ自分がIS学園に通わなければならないのか、なぜ大好きな姉までもがIS学園に入学するように迫るのか。
いや、本当は分かっているのかもしれない。
人類の存亡がかかっている中、自分の好悪の感情だけでIS学園に行かないということがどれほど悪いことか。あるいは、ISに乗りたかった多くの人々を差し置いてISに乗れる資格があるのにそれを拒否すること、その厚顔無恥さも。
しかし、嫌なものは嫌なのだ。
理屈じゃない、理屈じゃないんだ。感情がどうしても許そうとしないのだ。
ISの最後の欠点。それは織斑一夏にとっては何よりも許容できないものだった。
「一夏、なにがそんなに嫌なんだ? 話してくれないか?」
姉の優しい声。
自分のことをいたわってくれていることが分かる。
大好きで大切で尊敬出来ていつも自分を見守ってくれている姉に迷惑をかけていることを申し訳無く思いつつも、口から出る言葉は心とは裏腹に荒っぽいものだった。
「……なんで千冬姉はおかしいと思わないんだ!?」
「なんのことだ?」
千冬の声には困惑が浮かんでいた。
一夏はISの最後の欠点が原因でISに乗りたくない。しかし、千冬のようにISに関係する所で長く働いている者はすでに慣れてしまってその欠点に気がつかないのだ。自分達もかつては通った道だというのに。
「なんで……なんで…………」
一夏の漏れ出るような声。
しかし、次第にその声は大きくなっていく。
そして、
一夏の、心の奥底からの魂の叫び。
「なんで……なんでISスーツがパンツとスクール水着の二択なんだ!!!!!」
「なに言ってるんだ、あれはISスーツだ。パンツでもスクール水着でも無い」
「どう見てもパンツとスクール水着じゃないか!? あんな恥ずかしい格好で空が飛べるか!!」
「あれはパンツじゃない。パンツじゃないから恥ずかしくないんだ」
それにな、と一拍おいて、
「空では誰も見ていない!!」
「あんたのスクール水着姿がカメラを通して世界中の人に見られているんだよ!!!」
織斑 一夏(おりむら いちか)
歴史上唯一の男性IS操縦者
ネウロイ撃墜数のレコードホルダーでもある
残念なことに戦闘の映像記録は残っていない
人々から『勇者』と呼ばれ、特に男性から尊敬されていたようである
『ネウロイ大戦とそこに生きた人々』より抜粋
後書き
発想から完成まで三時間なんで粗が目立ちますが、勘弁して下さい
途中まではネウロイin IS世界で真面目に書いていました
ニコニコ動画に同名のMADがありますが、本作とは無関係です