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No.2721の一覧
[0] 奇運の管理局員 [霧](2011/01/13 03:22)
[1] 奇運の管理局員 第1話[霧](2009/06/25 11:04)
[2] 奇運の管理局員 第2話[霧](2010/03/15 02:01)
[3] 奇運の管理局員 第3話[霧](2008/05/17 16:55)
[4] 奇運の管理局員 第3話 裏話[霧](2008/05/17 16:56)
[5] 奇運の管理局員 第4話[霧](2008/05/17 16:56)
[6] 奇運の管理局員 第5話 前編[霧](2009/06/25 11:09)
[7] 奇運の管理局員 第5話 後編[霧](2009/06/25 11:09)
[8] 奇運の管理局員 第6話[霧](2009/06/25 11:10)
[9] 奇運の管理局員 第7話 前編[霧](2009/06/25 11:13)
[10] 奇運の管理局員 第7話 後編[霧](2009/06/25 11:18)
[11] 奇運の管理局員 第7話 裏話[霧](2009/06/25 11:18)
[12] 奇運の管理局員 第8話 前編[霧](2009/06/25 11:19)
[13] 奇運の管理局員 第8話 幕間[霧](2009/06/25 11:19)
[15] 奇運の管理局員 第8話 中編[霧](2009/06/25 11:19)
[16] 奇運の管理局員 第8話 後編[霧](2009/06/25 11:19)
[17] 奇運の管理局員 第9話[霧](2009/06/25 11:20)
[18] 奇運の管理局員 第9話 裏話[霧](2009/09/29 14:08)
[19] 奇運の管理局員 第10話 前編[霧](2009/06/25 11:21)
[20] 奇運の管理局員 第10話 後編[霧](2009/06/25 11:21)
[21] 奇運の管理局員 第10話 裏話[霧](2009/06/25 11:21)
[22] 奇運の管理局員 第11話 前編[霧](2009/09/29 14:09)
[23] 奇運の管理局員 第11話 後編[霧](2009/07/13 11:07)
[24] 奇運の管理局員 第12話[霧](2009/07/13 11:31)
[25] 奇運の管理局員 第12話 裏話[霧](2010/06/17 21:53)
[26] 奇運の管理局員 第13話 前編[霧](2010/03/15 02:00)
[27] 奇運の管理局員 第13話 後編[霧](2010/12/13 01:18)
[28] 奇運の管理局員 第13話 裏話[霧](2011/01/13 03:34)
[29] 奇運の管理局員 番外・前編[霧](2008/09/08 15:38)
[30] 奇運の管理局員 番外・後編[霧](2008/07/28 10:37)
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[2721] 奇運の管理局員
Name: 霧◆535a83f8 ID:5cb1832c 次を表示する
Date: 2011/01/13 03:22
きっと、空は遠い。

思っても願ってもつかむ事は出来ず。

それは確かにある距離、でも決して縮まらない。

だから、焦がれた。

空の広さに、空の遠さに、空の色に。

いつか、この想いが誰も咎めぬ空に届くように願う。








プロローグ
−上条 終夜という男−









どこかの世界、どこかの風景。


「ねぇ、終夜」
「なんだ」


夕闇に染まりつつある教室で


「ボクは君の事が好き。だから付き合って欲しい」


友人はそんな言葉を発した。

コイツとの付き合いは高校に入学してから一年と少し。
高校の友人の中では多分一番付き合いが深い奴。

俺の肩までしかない背丈でじぃっと俺の顔を見上げてくる。
いつも柔らかな笑みの浮かぶ整った顔はどこまでも真剣で。
深い黒の瞳はどこまでも澄み切っていて、冗談の類は全く浮かんでいない。









だけど、だ。








「・・・お前が女だったらそうするよ」


こいつは男なんだ。
しかも真性のホモなんだ。

いや確かに、顔は女顔で背も低いし声変わりもしていない。
近くで見ても普通に女に見えるし、何回か男にナンパされていたのを見た事もある。


だけど、男だ。
股間のジャングルには立派なヤシの木が生えている。
無論、俺には同性愛の趣味は無い。決して。


「つれないねぇ。一体いつになったらボクの愛は君に届くのかな?」
「男である限り一生届かないな。
「そんな小さい事を」って顔をするんじゃない!俺にとっては一生ものの問題だぞ!!
 ・・・この台詞も通算12度目なんだが」
「それだけ君のことを想っている、という事さ」
「そんな思いなんて早々にゴミ箱へ捨ててしまえ!」


やれやれと肩をすくめる友人の顔にはいつも通りの飄々とした笑みが浮かんでいて、
俺はただ溜息を吐くことしか出来なかった。




上条 終夜。

それが俺の名前だ。
どうしてこんな変な名前をつけられたのかはよく分からない。
両親はとっくに天に召されてしまっているから確かめようも無いしな。

それ以外、誇れる物も特に何も無い平凡な人間・・・


「だけどなぁ、ライバルは多いからねぇ」
「ライバル?なんだそりゃ?」
「だってほら、終夜は「男」にモテるから」
「なぁ!?き、気持ち悪い事言うな!」
「こないだだってほらあの後輩から「兄さんになってください!」とか・・・」
「思い出させるな!あれはトラウマになってんだよ!!」


いや、ひとつだけあったか。
この上なく不名誉なことだが、俺は「男」にモテる。

幸い・・・と言うのがこの場合正しいのかどうか知らないがガッチリとした男ではなく
軽くナヨッとした、女子に可愛いと評されるような「男」の後輩にモテるのだ。
彼ら曰く、「理想のお兄さんなんです」らしい。
本当に勘弁してくれ。マジで。切実に。


「はぁぁぁ、どうせモテるなら女子の方が良いんだけどな。
 理想の兄貴ってそんなに男臭いのか?俺の顔は・・・」
「…ホントはボクが女子に噂を流してるからなんだけどねぇ」
「ん?なんか言ったか?」
「いやいや、終夜は後輩の面倒見がいいからだよ、きっと」


苦笑するような悪巧みの笑いで首を振る友人。


「でも、終夜。そんなに言うのなら君は気になっている女子でもいるのかい?」
「いない。なんでだか俺が女子に話しかけると一様に妙な顔をされるんだ」
「妙?」
「ああ。哀れむような視線だったり、すごく悔しそうな顔だったりな。
 それと、ときどきすごい勢いで顔を逸らされたりな。・・・俺の顔は正視に耐えないのか。
 まぁ、男にモテるなどと言う評価をされてる男に関わりたいと思う奇特な人は少ないだろうしな・・・」
「君はホントに妙なところで純粋で鈍感で達観してるよね。
 ・・・君ってホントに救いようが無い」
「いきなりセメント!?」
「まぁ、でも君らしいとも言える。
 だから、将来君の隣にいる人はきっと、君以上に鈍感で苦労するんだろうさ。お互いに」


だから、と言葉を切って


「そんな苦労をする前にボクで手を打たない?」
「お前と付き合ったほうがよっぽど世間的に苦労するわ阿呆」





件の友人と別れた帰り道。
買い物袋を片手に提げ、1人家路を辿る。

俺の住むこの町は割と田舎だ。辺りを見渡せばビルより先に山が眼に入るくらいには。
でも俺はこれくらいでいいと思う。正直都会は好きじゃないし。
俺はこの町が好きで、多分将来も出ていかないと思う。


「ただいま」


戸をくぐり我が家の中へと入っていく。
俺の家は一階建ての少し広い庭のある古い日本家屋。
誰もいない一軒家に俺の声が響く、もちろん返す声は無い。
もう何年も前からこんな状態だ。

両親は祖父達と折り合いが悪かったらしく、会った記憶が無い。
また親戚の類も同様。
少なくない蓄えが残っていたから金の心配は無かったが何しろ俺は幼すぎた。
金の使い方も意味すら知らないくらいのガキの頃だったし。

俺を育ててくれたのは・・・
アレを育てたと言うのかは甚だ疑問ではあるのだが、父の友人を名乗る人物だった。

その人物は俺と同い年位の子供を連れて全国を旅をしているらしく、来る時期は不定期。
初めて来た時がちょうど俺の両親が死んで、ただ1人残されて途方にくれていた時だった。
両親の葬式の手続きとその他雑務の手配、
そして一通りの家事の仕方とその他、子供だけで生きていく方法を教えてくれたのをよく憶えている。

今思うとその人の頭には孤児院に預けるとか一緒に連れて行ってくれると言う選択肢は無かったのかと問いたい。
本当に今更だが。

彼らは年に何回か訪ねてきたのだがここ数年は音沙汰が無い。
今は何処で何をしているのだろうか?
現代まで生き残った本物の剣術家だったから、とりあえず死んではいないと思うのだが。
あの二人の親子喧嘩はすごかった。家が半壊して修理と片づけで休日が潰れたしね。
当の本人達はさっさと旅に出てしまうし忘れろって方が無理。

まぁ、きっと何処かで喫茶店でも営んでんだろうさ。





「・・・ふっ!」


夜、夕食を終えて庭で木刀を振るう。
別に代々続く流派の秘密特訓などではなく、ただ単に日課としてである。

ただ只管に、ただ我武者羅に。
誰かを倒したい訳でも、鍛えて強くなりたい訳でもなく。
剣を振るう意味も持たず、剣にかける想いも無く。
集中力によって切り離された静かな世界でただ気が向くままに木刀を振り回しているだけ。

どちらにせよ、俺に剣の才能は無いらしい。
現代の剣術家に曰く、ただ少し優れた運動神経と異常なまでの集中力があるだけだ、と。
剣術家というある意味、現代では異常な人に異常と言われた俺って一体。


俺の両親は俺が幼い頃、事故で死んだ。
悲しくは無かった。俺はまだ悲しいという感情も理解出来ないガキだったから。
顔も憶えていない両親を慕う事も悼む事も出来やしない。

だけど、それでも木刀を振るう。
たったひとつ頭の片隅に残った記憶の中。

知らない二人がまだ小さな俺に竹刀を握らせて、嬉しそうに笑っていた事を。
この庭で知らない誰かが木刀を振るっていたことを。

俺は、確かに知っているから。

だからこれは多分、未練。
もう二度と会えないと分かっていてそれでもたった一つだけの思い出とも呼べぬほどの記憶の欠片。
ただ細く、細く、それでも繋がっているただひとつの両親との「縁」。

乱れる呼吸も流れる汗も軋む身体も関係無いと何も考えずに身体を動かし続ける。


「―――ぁ」


無論、ただ何も考えず剣を振るってきた俺の体力が無限にあるわけでもなく。
限界の来た身体は動きを止め、俺は庭の芝生の上の投げ出されるように倒れる。

冷えた夜の風が頬を撫で、後を考えずに動かし続け熱を溜め込んだ身体をゆっくりと冷やしていく。
指先を動かすのも億劫な程の疲労した身体の背中感じる芝生の感触が心地よい。


「遠い、な」


ひとり、芝生に寝転がってそうごちる。
見上げるのは空。漆黒の空と静かに輝く星とただ澄み切っている蒼の月。

人は死んだら星になる、そんな御伽話を信じるほど俺はガキではない。
けれど空に輝く星は手を伸ばせば届きそうで、果てしなく遠い。
それが、俺と「両親」の距離。
そんな皮肉。

毎夜毎晩、馬鹿みたいに木刀を振るい、ひどく些細な「縁」に縋り付いてる馬鹿な自分。
ただ身体を苛め抜くように剣を振るっていればいつか「両親」に近づけると夢想する馬鹿な自分。

知っているし気付いている。
こんな事に意味は無い、無駄を毎夜毎晩重ねて自分をただ傷つけていることぐらい。






なんという事は無い、上条 終夜はただ「上条 終夜」が大嫌いなのだ。






これが俺の日常。
ちょっと変な友人と少し寂しく退屈なそれでも平穏な毎日。
何かが足りず、でもそれでもそれが正しい毎日。
今日も、昨日も、一昨日も変わらずただ流れていく毎日。
だから、明日もきっと変わらない。
そう思っていた。


でも、


「終夜!!」


そんな日常は、


「―――ぁ」


ひどくあっさりと、終わった。


昨日は平穏で何も変わらなかった。
一昨日も平穏で何も変わらなかった。
だから今日も変わらないと思っていた。

だけど、今日はどうしようもなく違っていた事を分かっていなかった。



今日この日、俺「上条 終夜」はこの上なくあっさりと、死んだ。





















――――はずだった。






眼が覚めるとそこは見知らぬ場所で見知らぬヒトがいて。



「間違えて貴方を殺しちゃいました。ですからもう一度黄泉帰って人生を楽しんできてください」



なんて、そんな事ことを口にした。


きっとこれが俺の奇運の始まり。


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