「あれがブレントーダ砦………」
無意識のうちにアズリアは白銀の魔弓「夜空を切り裂く箒星(ミーティア)」に触れていた。
その砦において最も目を引くのは、間違いなくその城門だ。左右に向かい合うように描かれた竜と、その竜がもつ巨大な宝珠は遠くからでも確認することができた。
「そうだ。そして我が国にとって文字通りの“鬼門”でもある」
カンタルク軍を率いる大将軍ウォーゲン・グリフォードはほとんど唸るようにしてそう言った。カンタルクにおいて最も長い軍歴を誇る彼は、最も多くこの砦に挑み、そして同じ数だけの敗走を経験している。さらに言うならば、最も多くの戦友をこの地で失っているのも彼に他ならない。
「守護竜たちよ、今日こそはその宝珠、砕かせてもらうぞ」
老将軍はそう静かに宣言した。
カンタルクの貴族たちが好んで使うよう「忌々しい」とか「血に餓えた」とかいう枕詞を、ウォーゲンは使わなかった。戦争で血が流れるのは始まる前から分っていることで、自軍が流した血を敵のせいにするのは愚かなことだと彼は思っている。血を流したくなければ戦争などしなければよい。まして自分から仕掛けた戦争の責任を相手に押し付けるなど、言語道断である。
(そういう意味では、あの魔道具はよくできている)
戦争をすれば必ず血は流れる。ならば自軍の損耗を最小限に抑えたいと願うのは、ヒトとして当然の性だろう。その果てに生み出されたのがあの魔道具「守護竜の門」であると考えれば、数限りなく煮え湯を飲まされてきたウォーゲンであっても、道具そのものを憎む境地にはなれなかった。むしろ敬意さえ覚える。
とはいえ、今の彼はカンタルク軍の総司令官である。向かい合う二匹の守護竜が持つ宝珠を砕かないことには、カンタルク軍はまたもやこの地で大量の血を流すことになる。ポルトールが自国を守るために「守護竜の門」を作ったのであれば、ウォーゲンは配下の兵を生きて祖国に帰すためこれを砕かねばならない。
そのための手段を、彼は用意している。
「アズリアよ、調子はどうじゃ」
これが初陣となる自分の副官にウォーゲンは声をかけた。
「………やるべきことをやるまでです」
その声からは緊張が窺える。だがそれだけだ。恐れはなく気負いも少ない、良い状態だといえる。こういう時、人はいい働きができるものだ。
「そうか。期待しておる」
そう言ってウォーゲンは砦に視線を戻した。さて、と呟き大きく深呼吸をする。
「全軍前進。ただし近寄りすぎるなよ」
ウォーゲンが手を掲げると、カンタルク軍がゆっくりと動き始める。アズリア・クリークの初陣が始まろうとしていた。
カンタルク軍の動きに、シミオンは眉をひそめた。
「あやつら、あんなところで立ち止まってどうするつもりだ………?」
動き出したかと思ったカンタルク軍は、砦の前の平原で再び足を止めている。あの位置では砦から矢を射掛けてもカンタルク軍には届かない。当然のことながらカンタルク軍の攻撃も届かない。あの場所でとまった敵軍の意図を、シミオンは図りかねた。
(こちらから軍を出し、おびき寄せてみるか………?)
まさにシミオンがそう考えた瞬間のことであった。一筋の閃光が飛来し、右竜の宝珠を破壊したのは。
後に言われるところの「傾城の一撃」。この一撃で戦いの趨勢が決まったといっていい。
その一撃を放った途端、アズリアは言いようのない虚脱感に襲われた。まるで貧血でも起こしたかのように、体には力が入らず肺と喉は空気を求めて喘いだ。
(それでも………)
それでも彼女の放った一撃は、絶大な効果を及ぼした。白銀の魔弓「夜空を切り裂く箒星(ミーティア)」とその専用の矢である「流れ星の欠片」は、所有者たるアズリアの魔力を喰い尽くしその威を存分に発揮したのだ。
放たれた閃光は右竜の宝珠を打ち砕き、さらには厚さ十センチの銅の城門にこぶし大の穴を開けて貫通し、その内側に破壊を及ぼした。
――――オオオオオオオオオオオオオ!!!!!
味方から、地を震わすかのような歓声が沸きあがった。古参の兵の中には、泣いている者さえいた。
一番心に迫るものを感じているのは、最も長い軍歴を持つウォーゲンだろう。しかし彼がそれを表に出すことはなかった。一切の感情を感じさせない冷たい目で砦を睨みつけたまま、彼は自分の副官に命じた。
「アズリア、第二射急げ。奴らを立ち直らせてはいかん」
「………はいっ!!」
大きな声を出し、自らを奮い立たせる。手にした白銀の魔弓に再び銀色の矢をつがえ魔力を込め、そして込められた魔力は「流れ星の欠片」へと収束していく。その間アズリアは全身から魔力をしぼり取られていく、その暴力的とさえ思える虚脱感に耐えていた。
(まだだ……!まだ、足りない………!)
歯を食いしばり四肢になけなしの力を込めなんとか姿勢を維持する。
その横で、ウォーゲンが眉をひそめた。左竜の宝珠が輝きを放ち、その守護結界が発動したのだ。その動きからはブレントーダ砦の焦りが感じられた。
今までの例を考えれば、守護竜の結界は軍隊に対して用いられるものだ。なのに軍が動いていないにもかかわらず、砦は結界を発動させた。稼働時間には限界があるのだから、先に発動させては意味がない。消えるのを待ってから軍を動かせばよいのだから。
とはいえこのタイミングで結界を発動させた砦側の思惑も理解できる。なんとかして右竜の宝珠を砕いた一撃を防ぎたいのだろう。
結界が展開されたのはアズリアとて目にしている。しかし彼女は魔力を込めることを止めようとはしなかった。
(今更止められるか………!)
かりに止めてしまえば込めた魔力は霧散し、後に残るのはこの耐え難い虚脱感だけである。さらに言うならば、ただでさえ一日に三発までしか打てない、その内の一発を無駄にすることになる。
「一日に使えるのは三本まで。それ以上使ったら命の保障はしない」
この魔弓と矢をアズリアに与えたアバサ・ロットことイスト・ヴァーレの言葉だ。その言葉がまさしく正しいものであると、今彼女は実感していた。
白銀の魔弓につがえられた矢が一際大きな輝きを放ったその瞬間………。
「!!」
第二射が放たれた。放たれた二射目はすでに展開されていた結界を、まるで紙切れか何かの如くに突き破り、再び銅の城門にこぶし大の穴を開けた。
――――ピィキィィィィイイインンン………。
戦場にまるで鈴の音のようなものが響いた。それが守護竜の結界の破られた音であることを理解するまでに、その場にいる人々は数瞬を要した。いまだかつてこの戦場において響き渡ったことのない音を彼らは耳にしたのだ。その音はポルトール軍には絶望を、カンタルク軍にはさらなる歓喜をもたらした。
――――オオオオオオオオオオオオオ!!!!!
再び大地を揺るがして歓声が上がった。しかし最大の功労者であるはずのアズリアには、喜びに浸るほどの余裕はなかった。
(くっ、外した………)
結界に当たったことで狙いがそれたのか、左流の宝珠は無事だ。
体に力が入らなかった。四つん這いになっているが、それさえも辛い。いっそ完全に倒れてしまわないのが自分でも不思議だった。激しい運動をしたわけでもないのに、呼吸が乱れどれだけ空気を吸っても楽にならない。春先の、ともすれば汗ばむような陽気にも関わらず、全身が冷たく寒気がした。
「アズリア、大丈夫か!?」
一人の男が慌てて駆け寄り、彼女の青白い顔を覗きこむ。彼の名はウィクリフ・フォン・ハバナ。ウォーゲンの副官の一人で、アズリアにしてみれば先輩に当たる。そのミドルネームが示すとおり彼は貴族の血筋だが、それを感じさせない気さくな人柄でアズリアも仕事を教えてもらったりと良くしてもらっていた。
「大将軍、これ以上は無理です!左竜の宝珠は明日にしてください!」
アズリアの体を気遣い、ウィクリフがそう進言する。しかし………。
「………大丈夫……です……。できます……」
ウォーゲンが何か言う前に、アズリアは立ち上がりそういった。そんな彼女をウィクリフは慌てた様子で制止する。
「無茶だ!止すんだ、アズリア!」
「左竜の宝珠は今砕かなければ意味がありません。それは先輩も承知しているはずです」
「だが………!!」
かりに二つの宝珠が砕かれ、あの城門が魔道具「守護竜の門」として機能しなくなっても、銅の城門そのものは健在でありブレントーダ砦が強固な砦であることも変わらない。さらには十万近い兵が詰めているのだ。「守護竜の門」がなくなったからといって楽に落とせる砦では決してない。
「明日になれば敵の士気は回復します。落とすのであれば今しかありません」
目の前で宝珠の一つが砕かれ、さらには結界そのものまでも破られて敵軍の士気はもはや最低にまで下がっている。今こそが、ブレントーダ砦を落とすための千載一遇の好機なのだ。そしてその好機をより確実なものにするためには、なんとしてももう一つの宝珠を砕かなければならない。
「アズリア」
「はい」
ウォーゲンが青い顔をした自分の副官を見据える。
「存分にやれ」
「……はい!」
ウォーゲンの言葉に背中を押され、アズリアは三度「夜空を切り裂く箒星(ミーティア)」を構えた。ウィクリフが何か言っているようだが、もはや聞くだけの余裕もない。力の入らない四肢で必死に踏ん張り、魔弓の弦を引き魔力を込めた。
「ぐぅ…………」
凄まじい倦怠感が全身を襲う。いや、もはや倦怠感を通り越し痛い。全身をねじ切られるかのような錯覚に陥ってしまう。
頭が痛い。吐き気がする。膝が笑い、平衡感覚さえなくなってきた。その全てに歯をくいしばって耐え、魔力を注ぎつづける。
――――血涙が、流れた。
「………アアアアァァァァアアァアアアアア!!」
もはや空っぽのはずの魔力を、声を上げて無理やりしぼり出す。その瞬間、「流れ星の欠片」が一際大きな光を放つ。
放たれた閃光はもはや遮るもののない空を駆け抜け、左竜の宝珠を正確に射抜いた。
三度、大地を揺るがす歓声が上がった。
(やった…………)
その歓声を意識の遠くで聞き、ささやかな満足を感じながらアズリアは意識を手放した。
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「失礼します、クロノワ閣下。アルテンシア半島の情勢について、新しい情報が入りました」
報告してもよろしいでしょうか、と主席秘書官のフィリオは尋ねた。彼はいつも温厚でその声からも常に余裕が感じられるのだが、このときは少々いつもとは違っていた。それだけで彼の持ってきた情報が、重大なものであることがリリーゼにも想像できた。
「聞かせてください」
クロノワの声にも少し硬いものが混じる。手に持ったティーカップは、結局口をつけることなくそのまま受け皿に戻す。
アルジャーク帝国モントルム領旧王都オルスクの本日の天気はまさに小春日和で、日差しが燦々と降り注ぐこの総督執務室を十分に暖めている。にもかかわらず、リリーゼは室内の温度が下がったかのような錯覚を覚えた。
では、と前置きしてからフィリオが報告を始めた。
「結論から申し上げますと、シーヴァ・オズワルドがアルテンシア半島の北側を切り取りました。詳しい規模は分りませんが、恐らくはその版図九十州以上かと」
その報告を聞いてリリーゼは殴られたような衝撃を受けた。クロノワも視線が鋭くなっている。
アルテンシア同盟がロム・バオアに造った大要塞、パルスブルグ要塞の司令であるシーヴァ・オズワルドが同盟に対して反旗を翻した、という情報はすでにモントルム総督府でもつかんでいた。ただ彼が軍をもよおしたのはどんなに早くても今年の二月ごろだったはずだ。逆算するに二ヶ月たらずで九十州以上の版図を切り取ったことになる。
「速い。速すぎる」
一度遠征を経験したことのあるクロノワはその速度の異常性を正しく理解している。加えてあのアルテンシア半島だ。
「一体幾つの城や砦を落としたことやら」
アルテンシア同盟は領主たちの集合体だ。例えば一人の領主が三州ずつの領地を持っているとすると、九十州を切り取るには三十人の領主を相手にしなければならず、単純に考えれば最低でも三十個の城を落とさなければならない。実際には野戦で決着をつけた戦いもあるのだろうが、それにしてもたったの二ヶ月で成し遂げたというのであれば、驚愕を通り越して呆れるばかりだ。
「どうやら領主たちは領民に見放されたようです」
フィリオの話によると、シーヴァが侵攻をしかけるのと時期を同じくして各地で民衆の決起が相次いだのだという。
「なるほど。アルテンシア同盟は腐っている、という話でしたからね」
クロノワは一応の納得をみせた。
アルテンシア半島における領主たちの腐敗ぶりはクロノワも知っている。そんな状態がいつまでも続くわけがないとは思っていたが、とうとう領民から三行半を突きつけられたというわけだ。
「外と内の両方から崩された、ということですね………」
そういってリリーゼも、うんうんと頷いた。
「閣下、これからシーヴァはどう動くと思われますか」
フィリオにそう問われ、クロノワは少し考え込んだ。
「そうですね………。単純にアルテンシア半島を手に入れたいのであれば、同盟に参加するのが最も手っ取り早いと思います」
「同盟に、ですか………?」
「そうです」
アルテンシア同盟とはすなわち領主たちの集合体だ。同盟内において一人一人の領主たちのパワーバランスを考えた場合、それはその領主が保有している州の数そのものに比例することになる。今までは領主一人につき三~七州で平均化されていて突出した力を持つ者がいなかったため、同盟に参加している領主たちは皆平等でいられた。
「ですがそこに九十州以上の版図を持っているシーヴァが加わったらどうなるでしょう」
当然、シーヴァが同盟内で最も力を持っていることになり、自然と彼が主導権を握るだろう。そうなれば名実共にアルテンシア半島の盟主になれる。
「ですが他の領主たちが参加を認めるでしょうか?」
彼らにしてみればシーヴァは同盟に反旗を翻した裏切り者だ。その裏切り者を再び同盟の枠内に入れることをよしとする者がいるのか、リリーゼは懐疑的だった。
「残った領主たちにしてみればシーヴァが奪った版図なんて所詮人事ですからね。擦り寄って甘い汁を吸おうと考える者がいてもおかしくはありません」
そんなものかと釈然としないものを感じながらも、リリーゼは一応納得した。だが、
「ですが今回シーヴァがその策をとるとは考えられませんね」
フィリオは真っ向からクロノワの意見を否定した。
「今回シーヴァの侵攻がこの短期間にこれだけの成果を上げられたのは、領民の支持があったからです」
そのシーヴァが同盟に参加すると言い出したら、領民たちはどう思うだろうか。
「『彼も他の領主と同じだ』。そう思うでしょうね」
そうなれば今度はシーヴァ自身が領民から三行半を突きつけられることになる。
「住民が期待する『新たな支配者』であるためにも、シーヴァは同盟に参加するわけにはいかない」
フィリオはそう断じた。
「というか閣下も分ってたんじゃないんですか?」
面白そうに詰問するフィリオを、クロノワは肩をすくめてかわした。
「アルテンシア半島のことを、これ以上ここで考えても仕方がありません」
半島とアルジャークはエルヴィヨン大陸の端と端だ。国境を接するほどに、シーヴァと凌ぎを削りあうことはないだろうとクロノワは考えていた。巨大市場としてのアルテンシア半島に興味はあるが、今はそれだけだ。
「情報は引き続き集めるようにしてください」
「分りました」
そういってフィリオは頷いた。シーヴァ・オズワルドに関する話が一段落したところで、クロノワは意識を別の問題に向ける。
「さて、当面の問題はオムージュ領ですね………」
そうクロノワがいうと、フィリオも苦い顔をした。
「そうですね……。まったく、レヴィナス様もなにを考えていらっしゃるのか」
「あの………、オムージュ領がどうかしたのですか?」
一人話しについていけないリリーゼは、つい口を挟んでしまった。
「増税、です。いや、増税なんですけど………」
歯切れの悪いフィリオの答えにリリーゼは首をかしげた。増税が実施されたのであれば、それは民衆にとって一大事だ。それが問題なのではないのだろうか。
「問題はその増税を過去にさかのぼって適用したことです」
クロノワが苦い顔で補足した。
例えば今まで三割だった税金が五割に増えたとする。つまり二割の増税だ。ここまではいい。増税は褒められたことではないが、普通の政策だからだ。だがこれを過去五年間にさかのぼって適用したとするとどうだろう。そうなれば民衆は十割、つまり年収分を追加して納めなければならなくなる。
「そんなの払えるわけがないじゃないですか!?」
リリーゼが悲鳴にも似た声を上げた。
「ええ。払えるはずがありません」
「問題はそれだけではありません」
フィリオがクロノワに劣らず苦い声で続ける。
「そもそも法律を過去にさかのぼって適用すること自体が禁じ手です」
これこれの行為は、昨日は合法だったが今日からは違法で、お前は昨日これこれの行為をしたから有罪だ、といわれたらどうだろうか。そんな無茶苦茶な、と思われるだろう。しかしこれが「法律を過去にさかのぼって適用する」ということなのだ。
「そんなことをしたら、法を作る側の恣意的な感情で、特定の個人を合法的に陥れることができてしまいます」
それでは独裁だ。もはや法治主義が成り立たない。アルジャーク帝国は確かに皇帝が絶大な権力を持っているが、それでも法によって体制を維持しているのだ。法治主義が成り立たなくなれば、帝国そのものが立ち行かなくなる。
「兄上がどこまでやるのかは分かりませんが、事と次第によっては皇帝陛下にお話しなければなりませんね」
そんな事態にならないことを祈るばかりだ。
「ひとまずモントルム総督府として、不測の事態に備えておきましょう」
「分りました」
クロノワの言葉にフィリオが頷く。直接の関係者ではないため、できることは少ないだろうが、それでも「備え有れば憂い無し」だ。難民などの受け入れ態勢を整えておくだけでも、混乱を抑えることができるだろう。
「そういえば閣下は五月の下旬ごろにオムージュ領に行かれるんですよね?」
「ええ。兄上とアーデルハイト姫の結婚式に招待されていますので」
本来であれば帝都ケーヒンスブルグで行えばよいのだが、レヴィナスの強い希望によってオムージュの旧王都ベルーカで式を挙げることになった。
「気に入った建物でもあったのだろう」
というのが目下一致した見解である。
「その時にレヴィナス様と直接お話されてはいかがでしょうか」
「さて、その機会があればよいのですが………」
結婚式の招待状が送られてきたと言うことは、クロノワはレヴィナスの中で一定の評価を受けたということになる。ただそれでも下から数えたほうが断然速いくらいの順位だろうと、クロノワは思っていた。果たして自分が言ったところであの兄が聞くかどうか、不安なところがある。
「そこをなんとか。オムージュ領が混乱すればこのモントルム領も巻き込まれます」
「………努力はしてみます」
クロノワは力なく答え、冷めた紅茶を啜るのであった。