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No.27166の一覧
[0] 乱世を往く![新月 乙夜](2011/04/13 14:39)
[1] 乱世を往く! 第一話 独立都市と聖銀の製法 プロローグ[新月 乙夜](2011/04/13 15:01)
[2] 乱世を往く! 第一話 独立都市と聖銀の製法①[新月 乙夜](2011/04/13 14:42)
[3] 乱世を往く! 第一話 独立都市と聖銀の製法②[新月 乙夜](2011/04/13 14:44)
[4] 乱世を往く! 第一話 独立都市と聖銀の製法③[新月 乙夜](2011/04/13 14:47)
[5] 乱世を往く! 第一話 独立都市と聖銀の製法④[新月 乙夜](2011/04/13 14:47)
[6] 乱世を往く! 第一話 独立都市と聖銀の製法⑤[新月 乙夜](2011/04/13 14:48)
[7] 乱世を往く! 第一話 独立都市と聖銀の製法⑥[新月 乙夜](2011/04/13 14:50)
[8] 乱世を往く! 第一話 独立都市と聖銀の製法⑦[新月 乙夜](2011/04/13 14:52)
[9] 乱世を往く! 第一話 独立都市と聖銀の製法⑧[新月 乙夜](2011/04/13 14:54)
[10] 乱世を往く! 第一話 独立都市と聖銀の製法⑨[新月 乙夜](2011/04/13 14:56)
[11] 乱世を往く! 第一話 独立都市と聖銀の製法⑩[新月 乙夜](2011/04/13 14:57)
[12] 乱世を往く! 第一話 独立都市と聖銀の製法 エピローグ[新月 乙夜](2011/04/13 15:01)
[13] 乱世を往く! 第二話 モントルム遠征 プロローグ[新月 乙夜](2011/04/14 15:37)
[14] 乱世を往く! 第二話 モントルム遠征1[新月 乙夜](2011/04/13 15:06)
[15] 乱世を往く! 第二話 モントルム遠征2[新月 乙夜](2011/04/13 15:06)
[16] 乱世を往く! 第二話 モントルム遠征3[新月 乙夜](2011/04/13 15:08)
[17] 乱世を往く! 第二話 モントルム遠征4[新月 乙夜](2011/04/13 15:09)
[18] 乱世を往く! 第二話 モントルム遠征5[新月 乙夜](2011/04/13 15:10)
[19] 乱世を往く! 第二話 モントルム遠征6[新月 乙夜](2011/04/13 15:12)
[20] 乱世を往く! 第二話 モントルム遠征7[新月 乙夜](2011/04/13 15:18)
[21] 乱世を往く! 第二話 モントルム遠征8[新月 乙夜](2011/04/13 15:18)
[22] 乱世を往く! 第二話 モントルム遠征9[新月 乙夜](2011/04/13 15:18)
[23] 乱世を往く! 第二話 モントルム遠征10[新月 乙夜](2011/04/13 15:20)
[24] 乱世を往く! 第二話 モントルム遠征11[新月 乙夜](2011/04/13 15:22)
[25] 乱世を往く! 第二話 モントルム遠征12[新月 乙夜](2011/04/13 15:38)
[26] 乱世を往く! 第二話 モントルム遠征13[新月 乙夜](2011/04/13 15:38)
[27] 乱世を往く! 第二話 モントルム遠征 エピローグ[新月 乙夜](2011/04/13 15:39)
[28] 乱世を往く! 第三話 糸のない操り人形 プロローグ[新月 乙夜](2011/04/14 23:17)
[29] 乱世を往く! 第三話 糸のない操り人形1[新月 乙夜](2011/04/14 23:20)
[30] 乱世を往く! 第三話 糸のない操り人形2[新月 乙夜](2011/04/14 23:22)
[31] 乱世を往く! 第三話 糸のない操り人形3[新月 乙夜](2011/04/14 23:24)
[32] 乱世を往く! 第三話 糸のない操り人形4[新月 乙夜](2011/04/14 23:28)
[33] 乱世を往く! 第三話 糸のない操り人形5[新月 乙夜](2011/04/14 23:31)
[34] 乱世を往く! 第三話 糸のない操り人形6[新月 乙夜](2011/04/14 23:33)
[35] 乱世を往く! 第三話 糸のない操り人形7[新月 乙夜](2011/04/14 23:35)
[36] 乱世を往く! 第三話 糸のない操り人形 エピローグ[新月 乙夜](2011/04/14 23:41)
[37] 乱世を往く! 幕間Ⅰ ヴィンテージ[新月 乙夜](2011/04/16 10:50)
[38] 乱世を往く! 第四話 工房と職人 プロローグ[新月 乙夜](2011/04/17 14:26)
[39] 乱世を往く! 第四話 工房と職人1[新月 乙夜](2011/04/17 14:27)
[40] 乱世を往く! 第四話 工房と職人2[新月 乙夜](2011/04/17 14:31)
[41] 乱世を往く! 第四話 工房と職人3[新月 乙夜](2011/04/17 14:35)
[42] 乱世を往く! 第四話 工房と職人4[新月 乙夜](2011/04/17 14:37)
[43] 乱世を往く! 第四話 工房と職人5[新月 乙夜](2011/04/17 14:43)
[44] 乱世を往く! 第四話 工房と職人6[新月 乙夜](2011/04/17 14:49)
[45] 乱世を往く! 第四話 工房と職人 エピローグ[新月 乙夜](2011/04/17 14:51)
[46] 乱世を往く! 幕間Ⅱ とある総督府の日常[新月 乙夜](2011/04/17 14:56)
[47] 乱世を往く! 第五話 傾国の一撃 プロローグ[新月 乙夜](2011/05/04 11:36)
[48] 乱世を往く! 第五話 傾国の一撃1[新月 乙夜](2011/05/04 11:39)
[49] 乱世を往く! 第五話 傾国の一撃2[新月 乙夜](2011/05/04 11:41)
[50] 乱世を往く! 第五話 傾国の一撃3[新月 乙夜](2011/05/04 11:43)
[51] 乱世を往く! 第五話 傾国の一撃4[新月 乙夜](2011/05/04 11:45)
[52] 乱世を往く! 第五話 傾国の一撃5[新月 乙夜](2011/05/04 11:49)
[53] 乱世を往く! 第五話 傾国の一撃6[新月 乙夜](2011/05/04 11:50)
[54] 乱世を往く! 第五話 傾国の一撃7[新月 乙夜](2011/05/04 11:52)
[55] 乱世を往く! 第五話 傾国の一撃 エピローグ[新月 乙夜](2011/05/04 11:53)
[56] 乱世を往く! 第六話 そして二人は岐路に立ち プロローグ[新月 乙夜](2011/07/07 19:12)
[57] 乱世を往く! 第六話 そして二人は岐路に立ち1[新月 乙夜](2011/07/07 19:14)
[58] 乱世を往く! 第六話 そして二人は岐路に立ち2[新月 乙夜](2011/07/07 19:15)
[59] 乱世を往く! 第六話 そして二人は岐路に立ち3[新月 乙夜](2011/07/07 19:18)
[60] 乱世を往く! 第六話 そして二人は岐路に立ち4[新月 乙夜](2011/07/07 19:19)
[61] 乱世を往く! 第六話 そして二人は岐路に立ち5[新月 乙夜](2011/07/07 19:20)
[62] 乱世を往く! 第六話 そして二人は岐路に立ち6[新月 乙夜](2011/07/07 19:24)
[63] 乱世を往く! 第六話 そして二人は岐路に立ち7[新月 乙夜](2011/07/07 19:26)
[64] 乱世を往く! 第六話 そして二人は岐路に立ち8[新月 乙夜](2011/07/07 19:27)
[65] 乱世を往く! 第六話 そして二人は岐路に立ち エピローグ[新月 乙夜](2011/07/07 19:28)
[66] 乱世を往く! 番外編 約束[新月 乙夜](2011/10/01 10:33)
[68] 乱世を往く! 第七話 夢を想えば プロローグ[新月 乙夜](2011/10/01 10:37)
[69] 乱世を往く! 第七話 夢を想えば1[新月 乙夜](2011/10/01 10:41)
[70] 乱世を往く! 第七話 夢を想えば2[新月 乙夜](2011/10/01 10:43)
[71] 乱世を往く! 第七話 夢を想えば3[新月 乙夜](2011/10/01 10:46)
[72] 乱世を往く! 第七話 夢を想えば4[新月 乙夜](2011/10/01 10:48)
[73] 乱世を往く! 第七話 夢を想えば5[新月 乙夜](2011/10/01 10:50)
[74] 乱世を往く! 第七話 夢を想えば6[新月 乙夜](2011/10/01 10:53)
[75] 乱世を往く! 第七話 夢を想えば7[新月 乙夜](2011/10/01 10:56)
[76] 乱世を往く! 第七話 夢を想えば8[新月 乙夜](2011/10/01 11:03)
[77] 乱世を往く! 第七話 夢を想えば エピローグ[新月 乙夜](2011/10/01 11:06)
[78] 乱世を往く! 第八話 王者の器 プロローグ[新月 乙夜](2012/01/14 10:33)
[79] 乱世を往く! 第八話 王者の器1[新月 乙夜](2012/01/14 10:36)
[80] 乱世を往く! 第八話 王者の器2[新月 乙夜](2012/01/14 10:39)
[81] 乱世を往く! 第八話 王者の器3[新月 乙夜](2012/01/14 10:42)
[82] 乱世を往く! 第八話 王者の器4[新月 乙夜](2012/01/14 10:44)
[83] 乱世を往く! 第八話 王者の器5[新月 乙夜](2012/01/14 10:46)
[84] 乱世を往く! 第八話 王者の器6[新月 乙夜](2012/01/14 10:51)
[85] 乱世を往く! 第八話 王者の器7[新月 乙夜](2012/01/14 10:57)
[86] 乱世を往く! 第八話 王者の器8[新月 乙夜](2012/01/14 11:02)
[87] 乱世を往く! 第八話 王者の器9[新月 乙夜](2012/01/14 11:04)
[88] 乱世を往く! 第八話 王者の器10[新月 乙夜](2012/01/14 11:08)
[89] 乱世を往く! 第八話 エピローグ[新月 乙夜](2012/01/14 11:10)
[90] 乱世を往く! 幕間Ⅲ 南の島に着くまでに[新月 乙夜](2012/01/28 11:07)
[91] 乱世を往く! 第九話 硝子の島 プロローグ[新月 乙夜](2012/03/31 10:40)
[92] 乱世を往く! 第九話 硝子の島1[新月 乙夜](2012/03/31 10:44)
[93] 乱世を往く! 第九話 硝子の島2[新月 乙夜](2012/03/31 10:47)
[94] 乱世を往く! 第九話 硝子の島3[新月 乙夜](2012/03/31 10:51)
[95] 乱世を往く! 第九話 硝子の島4[新月 乙夜](2012/03/31 10:51)
[96] 乱世を往く! 第九話 硝子の島5[新月 乙夜](2012/03/31 10:55)
[97] 乱世を往く! 第九話 硝子の島6[新月 乙夜](2012/03/31 11:00)
[98] 乱世を往く! 第九話 硝子の島 エピローグ[新月 乙夜](2012/03/31 11:02)
[99] 乱世を行く! 第十話 神話堕つ プロローグ[新月 乙夜](2012/08/11 09:37)
[100] 乱世を行く! 第十話 神話堕つ1[新月 乙夜](2012/08/11 09:39)
[101] 乱世を行く! 第十話 神話堕つ2[新月 乙夜](2012/08/11 09:41)
[102] 乱世を行く! 第十話 神話堕つ3[新月 乙夜](2012/08/11 09:44)
[103] 乱世を行く! 第十話 神話堕つ4[新月 乙夜](2012/08/11 09:46)
[104] 乱世を行く! 第十話 神話堕つ5[新月 乙夜](2012/08/11 09:50)
[105] 乱世を行く! 第十話 神話堕つ6[新月 乙夜](2012/08/11 09:53)
[106] 乱世を行く! 第十話 神話堕つ7[新月 乙夜](2012/08/11 09:56)
[107] 乱世を行く! 第十話 神話堕つ8[新月 乙夜](2012/08/11 09:59)
[108] 乱世を行く! 第十話 神話堕つ9[新月 乙夜](2012/08/11 10:02)
[109] 乱世を行く! 第十話 神話堕つ10[新月 乙夜](2012/08/11 10:05)
[110] 乱世を行く! 第十話 神話堕つ11[新月 乙夜](2012/08/11 10:06)
[111] 乱世を行く! 第十話 神話堕つ12[新月 乙夜](2012/08/11 10:09)
[112] 乱世を行く! 第十話 神話堕つ12[新月 乙夜](2012/08/11 10:12)
[113] 乱世を行く! 第十話 神話堕つ13[新月 乙夜](2012/08/11 10:17)
[114] 乱世を行く! 第十話 神話堕つ エピローグ[新月 乙夜](2012/08/11 10:19)
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[27166] 乱世を往く! 第三話 糸のない操り人形5
Name: 新月 乙夜◆00adcea3 ID:97f78ab0 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/04/14 23:31
ふう、とビスマルクは大きく息をついた。夕方とはいえまだまだ九月。ここカンタルクは南国ではないが、気温はまだまだ生温い。それでも吸い込んだ新鮮な空気は彼を浄化していくようであった。

「お疲れのようですな、魔道卿?」

 声をかけられ振り返ると、大柄な初老の老人が立っていた。顔には年相応のしわが刻まれているが、体には十分すぎる生気が満ちている。声にも張りがあり、老人特有のかすれた声ではない。

「ウォーゲン大将軍」

 老人の名はウォーゲン・グリフォード。カンタルク王国の全軍を指揮する大将軍である。役職的にはもう一つ上に「軍事総監」という役職があるが、これは軍隊と言う組織全体をすべる役職であり、ウォーゲンは数々の戦場を監督する総司令官とも言うべき存在である。
 難しく考える必要はない。数いる将軍の中で、一番偉い人と思っておけばそれで良い。

 ちなみに軍歴もカンタルク軍の中では最も長い。十三歳で初陣に臨み、今年で六十二歳。大小八〇を超える戦場を経験し、未だ衰えを知らぬ。アルジャークの至宝と称されるアレクセイ・ガンドールでさえ、彼の軍歴には及ばないだろう。

「結論の出るはずのない会議じゃが、貴族どものガス抜きも必要じゃろうて」

 老将軍の飾り気のない、というより飾る気のまったくない言葉に思わず苦笑する。その点に関しては自分もまったくの同意見だが、さすがにここまで率直にはいえない。この王宮内にあって言いたいことをいえるのは、この老将軍の特権だろう。

 とは言え決して粗野な人物ではない。細かい気配りもできるし、何よりも年相応以上の老練さをも身につけているため、腹に一物あるような者にとっては悪魔の如くに恐れられている。

「いえ、そのようなことは。それよりもそちらに研修に出した魔導士たちの様子はいかがですかな」

 さすがに同調するわけにもいかず、話題をそらした。ウォーゲンも心得ているのか、それ以上会議については何も言わなかった。

「兵士が命令を聞いてくれると、涙を流して喜んでおったよ。相も変わらず、苦労人ばかりじゃ」

 そういって老将軍は声を上げて豪快に笑った。かつて同じ道を通ったビスマルクとしては苦笑するしかない。

 この時代、鋳型に溶かした金属を流し込んで形をつくる「鋳造」の技術により、剣や槍、鎧などの武器を大量生産することはある程度可能になっている。しかし、魔道具を作るには下準備も含めれば一週間単位の時間がかかることもザラであり、しかもその全てを職人たちが手作業で行っている。そのため魔道具の大量生産体制は未だ確立されていなかった。

 つまるところ、魔道具(特に武器は)需要に対しは絶対数が少なくそのため高価であり、同じものを揃えることが難しいのだ。軍隊と言う、人数が多くて、一定の力を継続的に維持しなければならない組織にとっては、頭痛の種であると言える。

 魔道具を十分な数確保できない以上、戦力向上のためには個々の魔導士の質を高めるしかない。それは国軍の一部たる魔導士部隊においても同様である。そこでは何よりも個人の実力が重視され、組織的な訓練よりも個人修練に時間が割かれている。

 そのため魔導士という連中は基本的に個人主義であり、言葉を選んで評するならば「変人」が多い。自己鍛錬の名の下に、己が個性を強烈に成長させていく奴らが多いのだ。そして、困ったことにその傾向は優秀であればあるほど強くなる。命令無視ぐらいのことは日常茶飯事である。

 個人主義者の集まりである魔導士部隊は、当然のことながら団体行動だの集団生活といった言葉とは疎遠である。しかし軍の一部である以上、最低限度の指揮統率は必要となる。そこで適正のある人材(はっきりといってしまえば我の強い問題児どもを引率する苦労人)が選ばれ、通常の部隊で指揮統率の研修を行うのだ。

 普段言うことを聞いてくれない問題児の相手ばかりしている彼らにとって、一般の部隊の規律正しさは新鮮にうつる。

「おぬしの娘も、そのうち来るのであろう?」

 およそ一年半前にヴァーダー侯爵家に迎え入れた自身の娘、アズリアについてはかなり初期のうちに話が広まっている。別に隠すつもりはなかったが、貴族どものこういう話に対する嗅覚は、異常なほどに鋭い。

「さて、あれに魔道卿になるだけの器量があれば、の話ですな」

 ヴァーダー侯爵が魔道卿となるのではない。魔道卿の責に耐えうる魔導士こそがヴァーダー侯爵になるのだ。その信念は、ビスマルクの中でいささかも変わっていない。アズリアとて彼にとっては駒の一つに過ぎぬ。ふさわしくないと判断すれば切り捨てるだけだ。それを知ってか、ウォーゲンは苦笑した。

「相変わらずじゃな」
「魔道卿は国を支える柱の一つ。半端者にその席を譲るわけにはいきませぬゆえ」

 然り、とウォーゲンは頷いた。それから話題を転ずる。

「陛下のご容態はいかがか」

 カンタルク王国の国王、アウフ・ヘーベン・カンタルクは今現在病床にある。血の病らしく、宮廷の医師たちでも進行を遅らせることしかできていない。

 自分の知りうる限りのことを教えると、ウォーゲンは苦虫を噛み潰したような表情になった。

「では今のうちにあの小僧を再教育せねばならんな・・・・・」

 ウォーゲンのいう「小僧」とは第一王子ゲゼルト・シャフト・カンタルクのことである。王子とはいっても今年で三十六歳となり、すでに国内の有力な貴族の令嬢と結婚しており子どももいる。当然のことながら次の王位継承者の最有力者であるが、そんな彼を「小僧」呼ばわりできる人間はこのカンタルク内においてウォーゲンただ一人であろう。

「そうですな・・・・」

 さすがにゲゼルト殿下を「小僧」呼ばわりはできないが、ビスマルクの心情はウォーゲンに近い。

(殿下におかれては国を統べるという意識が低すぎる・・・・・)

 ゲゼルト・シャフト・カンタルクは決して愚鈍な男ではない。だが、それ以上に自己顕示欲と虚栄心、そして情欲の塊のような人物であった。

 陛下の死期は近く、もはや逃れ難い。ビスマルクは既にそう見切りを付けている。その事実は一臣下としての彼の心を曇らせるが、魔道卿としての職責は彼にその先を考えるよう強要する。おそらくはウォーゲンも同様だろう。そして大半の貴族たちも同様で、しかもより積極的であるといえるだろう。ここ数日行われている会議にしても、実際のところはアウフ・ヘーベン陛下亡き後の権力争いが名前を変えて行われているに過ぎない。

(まったく、この国は貴族どもの力が強すぎる)

 そのために血筋よりも実力を重視し、魔導士と言う一種劇薬的な存在を統括する魔道卿と、その社会的地位を保証するヴァーダー侯爵家が生まれたともいえる。貴族たちがその財力にものを言わせて魔導士戦力を囲いこまないように、予防線を張ったのだ。魔道卿にはそういう側面が確かにある。

 それはさておき、このカンタルクでは貴族の発言力が強い。そのため王座に付く人物には、貴族に流されず惑わされず、この国を導くための器量が求められるのだ。

「残念ながら、あの小僧にそれがあるとは思えんがのう」
「ウォーゲン大将軍、人に聞かれますぞ」

 老将軍のあまりに率直な物言いを、ビスマルクはさすがにたしなめた。しかし彼とてまったくの同意見なのだ。

(殿下がこのまま玉座におつきになれば・・・・)

 この国は一部の貴族たちに私物化されてしまうかもしれない。

「まあそうならぬよう、陛下がご存命の内にあの小僧の意識改革を促すしかあるまいて」

 老将軍の、妙にさばさばした物言いに、ビスマルクは神妙に頷くしかなかった。





***********





 アズリア・フォン・ヴァーダーのもとにイスト・ヴァーレと名乗る怪しい流れの魔道具職人(これさえも彼の自己申告でしかないが)が再び現れたのは、最初に会ってから三日後のことであった。場所は最初と同じで、湖のすぐ近くだ。

「また来たのか」
 彼女の言葉は刺々しい。

 イストは三日前と変わらず、煙管型禁煙用魔道具「無煙」を吹かしては白い煙(本人の自己申告によれば水蒸気)を吐き出している。その飄々とした姿は、理由もなくアズリアの神経を逆なでする。きっとこの男に慣れることはあっても、好きになることは決してないだろう。

「いや、来なきゃ魔道具渡せないし」

 そういって彼は木箱を放った。受け取ってみると、アズリアの手のひらになんとか収まるくらいのサイズの木箱だ。開けてみると、中には直径が一センチくらいの黒い球体が五つ、そして折りたたまれた紙が一枚入っていた。この場にリリーゼがいれば、イストがあの洞窟で見せた、ペイントボールに良く似ていると気づいたことだろう。実際、それをもとに作った魔道具だった。

「魔道具『糸のない操り人形《ノー・スプリング・マリオネット》』。体に貼り付けて使うタイプの魔道具で、魔道具を動かすことで結果的にそれを貼り付けている体も動く、って訳だ。まぁ、細かい説明はそっちの紙に書いておいたから、後で見てくれ」
「・・・・・ずいぶん速いな」

 三日前、自分と会った後に彼がフロイトの下を訪れたことは、フロイト本人から既に聞いている。魔道具を作り始めたとすればその後からだろう。とすれば今自分の手のひらの上にあるこの「糸のない操り人形《ノー・スプリング・マリオネット》」は三日足らずでつくられた事になる。

 アズリアは魔道具製作に関してはまったくの素人であるが、それでも三日足らずで一から魔道具を作ることが異常である事は容易に想像が付く。

「いったろ、それほど難しくないって」

 そういってイストは肩をすくめただけだ。まるで、この程度なんでもない、と言うかのように。

 ため息をつく。

(どうやらこの男に一般常識は通じないらしい・・・・・)
 そう思い、さっさと意識を変える。

「この魔道具、いくらだ」

 まさかタダということはあるまい。少々、いやかなり強引な押し売りではあるが、これでフロイトの足が治る、いや動くようになるのであれば多少高くともそれだけの価値はあるだろう。

 しかし、イストは軽薄に笑いながら首を振った。

「いや、金なんて要らないよ。てか、金取ったら違法じゃないのか」
 ここの法律なんて知らないけど、と彼は続ける。

 カンタルクのみならず、多くの国で魔道具の売買は規制されている。イストはこの国で魔道具を売買する許可など持っていないから、ここでアズリアから代金を受け取れば、それは確実にアウトだ。

「オレはそれでもいいが、お前はまずいんじゃないのか」

 魔道卿という、このカンタルクにいるすべての魔導士を統率し、またその規範となるべき存在を目指している彼女が、法を犯してしまうのは確かにいささか問題がある。

 だが、お金さえ取らなければそれは売買には当たらないから、当然法を犯すこともない。まるで屁理屈だ。というより魔道具をタダで誰かに譲るなんて、よほど親しい間柄でなければ誰も想定していないだろう。

「だが、な・・・・・」

 まったくの無償というのは気が引ける。「タダより高いものはない」とも言うし、なによりこの男に貸しを作っておくと、あとで法外なリターンを要求されそうだ。

「だがまあ、代金の代わりというか、聞いてみたいことはある」
「・・・・・なんだ?答えられるものと、答えられないものがあるが」

 この男が自分に何を聞きたいと言うのだろう。接点などないに等しいし、自分個人に興味があるようにも見受けられない。ヴァーダー侯爵家令嬢に聞きたいことがあるのかもしれないが、毎日訓練漬けだったためか、あいにくと社交界には疎い。

(まあ、もとより貴族の社交界など、興味はないが)

 あんな、笑顔の仮面の下で剣を研ぎ策謀を巡らせるような世界など、こちらから願い下げだ。誰もかれもうわべは綺麗に着飾っているが、腹の中は真っ黒でどろどろとした欲望をその身に充たしている。

「高貴な血、選ばれた民」

 その考えそのものがどれだけ醜いものか、彼らは恐らく一生理解できないだろう。いや、理解しようとはしないだろう。

 自身の生まれのせいでもともと貴族嫌いであったが、このおよそ一年半の間にその思いはさらに強くなった。

 アズリアが自身の貴族嫌いの思考にはまりかけたとき、イストの声がして彼女は意識を目の前の男に戻した。

「なに、簡単なことさ」

 そういってイストは「無煙」を吹かす。ふう、と白い煙(本人の自己申告を信じるならば水蒸気)を吐き出し、こちらを見た。

 その目には、まるで試すかのような色がある。

(さて、どんなことを聞かれるのやら・・・・・)
 内心、身構える。

「きちんと考えたかなってね」

 何を、と言おうとしてすぐに思い至る。恐らくは三日前、イストが去り際に残したあの言葉のことだろう。

『フロイトロース・フォン・ヴァーダーの足が動くようになるとはどういうことか、一度良く考えてみることだ』

「なんだ、そのことか」
 思ったよりも軽い内容で、肩の力が抜ける。

「うむ。いちよう結論めいたものは出たぞ」
「へぇ、是非聞かせてもらいたいね」

 イストの目に好奇の色が混じる。面白がっていることが傍目にも良くわかった。ただ、それが本心なのかはよく分からない。この辺がこの男を好きになれない理由だろう。

(この男の意図は、どうにも読みにくい・・・・・)

 まあ、そのあたりの観察はこの際だから横においておくことにしよう。その先、この男とさらに接点があるとは思えない。
 そう考え、アズリアは己の結論を口にする。

「わたしはフロイトに負い目を感じている。フロイトの不幸の上に今のわたしがあるように感じるからだ」

 相変わらず煙管を吹かすイストから視線を外し、空へと上げる。

「だからあの子の足が動くようになったとき素直に、純粋に喜んで上げられないような気がした。まるで自分が負い目から解放されたことを喜んでいるかのようで」

 今日も空は青く澄み渡っている。木陰に吹く風は乾燥していて爽やかだ。

「だけどこれは別々の問題なんだ。あの子の足が動くようになることと、わたしの負い目云々は。だからあの子が歩けるようになったら祝福してあげたいと思う」
 そう、これが結論だ。

「まあ、わたしの方はおいおい考えるさ」

 少々、照れくさい。照れ隠しに苦笑いを浮かべながらイストの方を見る。彼は、

「・・・・・何を、笑っている・・・・・」
 思わず、声に険がこもる。

 イスト・ヴァーレは笑っていた。声を押し殺しながらも、確実に彼は笑っていた。しかも気持ちの良い笑い方ではない。どこか嘲笑が混じっているように感じるのは間違いではないはずだ。
 自分が精一杯考えた結論を、嗤われたのだ。

「なにが可笑しい!」

 思わず、怒鳴る。それでもイストは嘲笑を引っ込めようとはしなかった。

「なぁ、本当に何も考えていないのか?」
「考えたさ!考えただろう!?」

 そうだ。わたしはちゃんと考えたはずだ。自分の気持ちと向かい合って、心の黒い部分をちゃんと見つめたはずだ。
 なのに、この男は、わたしが何も考えていないと言う。

「考えていないのならそれはそれで別にいいが、まあオレはオレの楽しみのために教えてやるとしよう」

 彼はまだ笑っている。しかしその笑みがひどく酷薄なものに変化したように思われた。瞳に宿る光もまた、面白がるようなものからアズリアの心を暴くかのようなものに変わる。
 そして、彼は告げた。

「フロイトロース・フォン・ヴァーダーの足が動くようになったら、はたしてノラ夫人やヴィトゲンシュタイン伯はなにを思い、どう動くのだろうなあ?」
「・・・・喜ぶ、のだろう・・・・?」

 返答の声が小さく弱い。見たくないもの、聞きたくないことを突きつけられようとしていることを、本能的に感じる。

「そう喜ぶだろうな。で、喜んでどうする?」
「・・・・・喜んで、喜んで・・・・・、」

 言葉が詰まる。ノラ夫人やヴィトゲンシュタイン伯が喜んでその後どう行動するのかは、あの時考えても分からなかった。いや、考えたくなかったのだ。

 心臓の鼓動が激しくなる。手のひらや背中に、嫌な汗が出てくる。

「分からないのか?それとも考えたくないのか?ならオレが言ってやる」

 彼の口調は変わらない。だがアズリアはまるで剣の切っ先を突きつけられたかのように感じた。

「有象無象の貴族でしかない奴らは、まず間違いなく自分たちの直接の血縁であるフロイトロース・フォン・ヴァーダーを次の魔道卿にしようと画策するだろうな」
「・・・・・それが、何だと言うのだ・・・・」

 魔道卿は血筋によって決まるものではない。それはアズリア自身、体に叩き込まれて分かっていることだし、それはノラ夫人やヴィトゲンシュタイン伯とて同じはずだ。

「同じじゃないさ。言っただろう?奴らはどこまでいっても有象無象の貴族でしかない。目の前にチラつかされた魔道卿という権力を諦めるなんて、できやしない、いや考えもしないだろうさ」
「・・・・・っ」

 反論できない。そして否定も。自分自身が貴族嫌いであるためか、イストの言うことはどうしようもなく真実であると思ってしまう。

「で、だ。フロイトロース・フォン・ヴァーダーを次の魔道卿にするために、奴らは何をするだろうなあ」
「・・・・やめろ・・・・」

 その先は、聞きたくない。

「奴らはこう思うだろう。『まず目の前の邪魔な障害物を取り除かなくては』と」
「やめろと言った!」

 しかし、彼は言葉を続ける。

「すなわち、アズリア・フォン・ヴァーダーという目の上のたんこぶを、な」






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