結局、三家の当主たちとジーニアスはイストの案に乗り、聖銀(ミスリル)の製法を1万シクで買い取ることになった。ただし実際に合成してみて本物であることを確認してから、という条件付。
(ま、筋書き通りだな)
今、イストはラクラシア家の一室にいる。聖銀(ミスリル)の合成実験は準備の関係上、明日行われることとなり、監視も含めてこの部屋をあてがわれたのだ。もっとも、まだ代金は一銭も受け取っていないので監視の必要などないのだが。
事の成り行きに満足し、イストは無煙を吹かして白い煙(水蒸気だが)を吐き出した。と・・・・・・。
「イスト・ヴァーレ!ヴェンツブルグ近くの遺跡から聖銀(ミスリル)の製法を発見したとは一体どういうことだ!」
ドタバタと扉をけり破らんばかりの勢いで部屋に入ってきたのはリリーゼであった。が、当のイストはといえば、
「ノックぐらいしろよ」
まったく動じた様子もない。
「聖銀(ミスリル)の製法など、あの遺跡のどこにあったのだ!?」
「あの壁に刻んであったヤツ」
ぬけぬけと、彼は答えた。リリーゼはといえば「予想はしていた、が認めたくない」といった様子で頬を引きつらせている。
「じゃあ、あの宣誓文は!?」
「口からでまかせ。なかなかそれらしく聞こえただろ?」
下唇を噛み俯いてプルプル震えているリリーゼの肩に手を置き、いっそ清々しい笑顔でイストは最後に余計な一言を放つ。
「『おお、無知は罪なり』」
「返せ!わたしの感動を返せ!」
ちょっぴり涙目で叫ぶリリーゼの絶叫がラクラシア家にこだました。
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大陸暦1563年5月、このときより歴史は緩慢に動き出す。しかし、後の歴史家たちより転換点とされるのはこの先1ヵ月後の出来事である。
第一話、完。