※皆さんのご指摘を受け一部改定。あれから読み返してみて自分でも一夏の思考がおかしいと感じました。汗顔の極みです。
作者の推敲不足で読んで下さる皆さんに不快感を与えてしまい、誠に申し訳ありませんでした。
1日が経つのは遅く感じても、月日が経つのは早いもんである。
既にIS学園に入学してから1ヶ月近くが経とうとしていた。4月も終わる寸前、ISの基本的知識を座学でみっちり頭に叩き込み終えてからようやく初めて行われる事になった、実機を使った実習。
それを前にした俺と一夏の更衣室での1コマ。
「・・・・・・む?」
「ん?どーかしたかミシェル」
俺は口で言わず黙って首と肩の境目辺りを示す。
最初一夏は何のこっちゃといった顔をしてたが、ロッカーの扉の内側に備わった姿見に映った自分の姿を見てようやく気付く。
鎖骨の根元のちょい上辺りに出来たうっ血痕。虫さされ?いーや違う。
「・・・・・・きのうは おたのしみ でしたね」
「またそれか!それを言うならミシェルだって似たようなもんだし!」
「・・・・・・否定はしない」
一夏の言う通り俺の首筋とか胸元とかにも一夏と同じくキスマークが点々と付いている。まあこうして肌着まで脱がなきゃ分からないような位置だから大して気にはならん。
一夏の場合は、場所が下の方だからISスーツでも十分隠れる位置だからそこまで気にする必要はないと思う。タートルネックだから首元まで隠れるし。
「・・・・・・それにしてもやはりと言うべきか、篠ノ之とする事はしているのだな」
「う・・・・・・頼む、絶対千冬姉には内緒にしてくれ!バレたら絶対殺される!主に俺が!」
「・・・・・・全く否定できんな」
鬼と化した織斑先生が一夏をぶった切る想像余裕でした。うん、友人の頼み通り黙っておこう。
それにしてもどっちからなんだろうな。やはり篠ノ之からか?色々とアドバイスを聞きに来たり嗾けられたりもしてたらしいし。
あれ?それじゃあシャルロットも共犯になるのか?俺も連帯責任とかにならないだろうな。とりあえずシャルロットを庇うのは決定事項だが。
「・・・・・・一夏。これをやろう。シャルロットはピル派だから、俺の所では使い道がないし」
「って何食わぬ顔で家族計画差し出さなくていいから!つーかヤッてないからな?まだ本番まで行ってないから!」
マジか。案外そのまま勢いでサッサと卒業しちゃってるもんだと思ったけど。
「・・・・・・本番になると逆に緊張して勃たないタイプなのか?」
「そういう問題じゃねぇよ!しっかり勃つから!むしろ箒にあそこまでエロく迫られて勃たない方がおかしいって!」
「・・・・・・その様子だと、本番寸前まではシているんだろう?普通はそのまま流れで行きそうなものだが」
原作は結局どうだったのか知らないしストーリーも思いっきりうろ覚えだけどヒロインの1人には変わりないんだし、それだけやってるんならもう箒ルート確定なんじゃね?
でも改めて言うが今のシャルロットは名実ともに俺の嫁。異論は認めない。ぶっちゃけもう原作なんて知ったこっちゃない。もはやキーワードっぽいのしか覚えてないからな。
「そ、それにさ。そんな最後まで行かなくても俺は十分満足してるから。手とか口とか胸とかお尻とか、とにかく色々箒からヤッてくれるし―――――」
すわそのまま惚気話に突入か、と思ったが。
唐突に一夏が口を半開きのまま彫像の様に固まる。
「・・・・・・どうかしたのか?」
「―――――俺、箒の事どう思ってるのかちゃんと答えだしてねえや」
思いっきり拳骨を落としてやった俺の事を誰も責められやしまい。
どれだけ男女関係適当なんだよお前。
シャルロット・デュノアは衆目を集める事に慣れた人間だった。
ミシェルがIS操縦者になってこの方、最初の頃はともかく婚約者として彼とペアで扱われていたので、ファンやマスコミからの注目を浴びたりしたり迫られた時の応対の仕方にも、この2年ですっかり馴染んでしまってはいる。
・・・・・・・しかし、今この教室内において浴びせられる視線の数々は、有名人に向けられる類の賞賛や興味とはまた別種の思惑を含んでいて非常に落ち着かない。
はたして最初に呟いたのは誰だったのやら。
「・・・・・・スイカ」
「ヤシの実」
「グレープフルーツ」
「ソフトボール」
「皆どこ見て言ってるのかなねえ!?」
「どうしてなの、どうしてそこまで貴女のおっぱいは圧倒的戦力を誇っているというの!?」
「う・ら・や・ま・死・!!」
「やっぱり男なのね。自分の手以外にも揉んでくれる相手が居るのが肝心なのね!」
クラスメイト達は皆してシャルロットを、正確にはその体重の1~2割ぐらいはウェイトを占めてそうなぐらい巨大な胸部装甲を指さしながら絶叫した。
一気にカオスと化す教室内。飢えた目つきの少女達が幽鬼のような足取りでシャルロットを取り囲む。これ見よがしにワキワキと躍る手の動きが激しく卑猥だ。
ISスーツに着替える途中だったシャルロットは教卓の方へ緊急避難。しかしすぐに取り囲まれてしまい、背後には黒板代わりの液晶パネル。もはや逃げ場無し。
追いつめられたシャルロットはもはや涙目。余りの恐怖感に思わずISを発動しかけるが、それよりも早く、
『天誅!』
「らめぇぇぇぇ!そんな事していいのはミシェルだけなのおおおおおお!!」
モミモミグチュグチュグニグニプシャァッ!!って何をしているのか恐ろし過ぎて聞けない擬音が聞こえてくるけど、シャルロット襲撃に加わっていない他の女子達は聞こえてくる水っぽい音やシャルロットの甘さ混じりの悲鳴を出来る限りシャットアウトして着替えに励む。
人間やっぱり自分の身が1番大事なのである。藪蛇は勘弁な!
「ゴメンねミシェル、僕穢されちゃったよ・・・・・・」
「くっ、やはりあのとてつもない戦闘力は旦那様に育てられて結果ああなったと判断するしか!」
「でも相手が居ないし出会いもこの学校では期待できない私達にはまず無理な話!」
「ギギギ、妬ましいのう恨めしいのう」
「っていうかシャルロットさんの首とか胸とか背中とかについてるそれ!何かもう相手が居ない私達に喧嘩売ってるとしか思えないよ!」
着る途中だったISスーツを腰の辺りまで無理矢理肌蹴させられた姿のままシクシク蹲って泣いているシャルロットの身体には、パッと見だけでも数ヶ所にれっきとしたキスマークが刻まれていた。
それを見た少女達のテンションは更にヒートアップ。それからシャルロットの御相手の事を思い出して一気にトーンダウン。やり過ぎると後が怖い。主に旦那の報復的な意味で。
と、ずっと窓際でクラスメイト達に背を向ける形で黙々と着替えを進めていた箒の傍で同じく着替え途中の少女が、何かに気付いた。
「篠ノ之さん。首の後ろ、何か赤くなってるよ?」
「ふえっ!?」
声をかけられた箒の反応は極端で、首の後ろを手で押さえながら見られまいとするように勢い良く回れ右。
――――ブラから解放されていたシャルロットを上回るバストが、遠心力で前後左右に揺れる様を少女達は目の当たりにした。
キュピーンと目を発光させたクラスメイト達の姿に箒は悟る。マズい、次の標的は自分だ。
「そういえば篠ノ之さんのおっぱいも凄かったよねぇ。制服の上からでも分かるぐらいには」
「や、止めるんだお前達!それ以上近づくんじゃない!」
竹刀を振り回して追い払おうとするも効果無し。というかどっから出したその竹刀。
「「「「「「くふ、うふふふふふふふふふふふふふふふ・・・・・・・・・・・」」」」」」
「来るなぁ、来ないでくれぇっ!」
篠ノ之箒、絶体絶命。
その時、教室の扉が勢い良く開け放たれ、スパパパパパーンと軽快な打撃音が響き渡った。
「貴様らまだ着替え終えていないのか!早くグラウンドに出て来い!遅れた者はグラウンド10周だ、急げ!!」
『い、イエスマム!』
鬼教師の乱入で事無きを得た箒は胸を庇っていた両腕を開放し。
――――腕の下に隠れていた胸や首周りのキスマークが晒される。
急いでISスーツを着込むのに忙しい少女達は気付かなかった。だがよりにもよって最も見られてはいけない相手が目ざとくも箒の身体に刻まれていたキスマークの存在に気付き。
「それから篠ノ之!放課後寮長室に来い!その『虫刺されの痕』について色々聞かせてもらうぞ!!」
箒は絶望した。
「なあミシェル、俺前から思ってたんだけどさ」
「・・・・・・多分、俺と同じ事を考えてると思うぞ」
「「このISスーツのデザイン、絶対開発者の趣味だろ(だな)」」
スパァンスパァン!
「授業中だ。私語は慎め(その考えに対しては私も同意見だがな。全く、あの馬鹿もう少しマトモな格好には出来なかったのか)」
グラウンドに整列した少女達のISスーツ姿は、傍から見ればグラビアの撮影か何かだと勘違いされても仕方なかった。野郎2人の感想も尤もである。
何せISスーツは肌の露出が多いのである。遠目にはレオタードか柄無しの競泳水着に二―ソックスの組み合わせにしか見えず、ぴっちりと肌に張り付いている為身体のラインは丸分かり。
おまけに下着すら全部脱いでから着なければならないので、胸の先端の突起や下手すれば股間の割れ目(一夏とミシェルの場合は膨らみ)のシルエットすらクッキリハッキリ浮かんでしまうのだ。
異性からしてみれば眼福か目の毒か、意味は似たようなものだが、初めて着る側からしてみれば羞恥プレイの何物でもあるまい。
現にミシェルやシャルロット、セシリアといったIS学園以前から実機を扱ってこの格好に慣れてしまった代表候補生以外の少女達は揃って顔が紅い。それぐらい初めて着て人前に立つ分には恥ずかしい格好なのだ。
「(でも皆チラチラこっち見てきてんだけど、何でだろうな。やっぱ男が着ると変に思われてるのか?)」
「(・・・・・・さあな。もしくは俺の脚のせいかもしれん)」
また『織斑先生』に怒られないよう会話は小声である。
一夏とミシェルのISスーツは男性用の競泳水着を肘から先と膝から下、そして腹周りの布地を切り取ったようなデザインだ。
ミシェルは言わずもがな、一夏も細身でありながら制服を着た姿からは想像も出来ない程引き締まった筋肉の持ち主なので2人の腹筋には最低限の脂肪しか備わっていない。年頃の少女からしてみれば中々刺激的な格好だった。
それ以外にも目を引く要素がある。
ミシェルの片足は義足だ。生身の左足とは違い、右膝から下は生身に似せたカモフラージュが何も施されていない軽量合金の外装に覆われているので丸分かりである。
しかし金属的な外見を除けば、ミシェルの義足は生身とかなり近い突起の少ないデザインと構造になっている。足関節の部分も生身同様に動くし爪先周りだって曲げ伸ばし可能。感覚が無いのを除けば本物の足と変わりない使用感を味わえる、極めて高性能な義足だ。
「(・・・・・・格好そのものは1ヶ月も過ごせば慣れる。それまでの辛抱だ)」
「ではこれよりISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、それからデュノア夫妻。試しに飛んでみせろ」
専用機持ちが揃って前に出て各々のISを展開。
こういった事にはやはり入学前からISを扱ってきたミシェル達の方に一日の長がある。一夏だけが出遅れ、まだ<白式>を展開できていない。
「(来い、白式)」
要はイメージの問題だ。ISが展開される様子を自分が1番しっくりくるイメージに置き換えた方が成功しやすい、とミシェル達からは教えられていた。
ミシェルの場合は防弾ベストとかプロテクターとかヘルメットとかを身に付ける、いわば戦闘準備を行うイメージでやってるらしい。それを真似して、一夏は剣道用の防具を身に付けるイメージを思い描く。実際身体に身に沁みついている動作のせいか、そうした方が<白式>も展開しやすい気がしていた。
光の粒子が全身に纏わりつく様な感覚の後、IS本体が形成される。足元からふわりと浮きあがり各種センサーの接続確認。<白式>展開完了。
セシリアの<ブルー・ティアーズ>も展開完了済み。その1つ向こうには更に2機のISが空中に静止して一夏が展開を終えるのを待っていた。
オレンジ色のISと黒と赤のIS。オレンジ色のIS<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>は操縦者がシャルロットだとすぐに分かったので、消去法で黒と赤のISはミシェルなのだろうが・・・・・・
「全身装甲<フル・スキン>とは珍しい機体ですわね」
セシリアの呟きが示す通り、ミシェルのIS<ラファール・レクイエム>は本来剥き出しな筈の顔から首周り、両腕両足まで肌の露出が存在しない完全なる全身装甲型のISだった。
原形はシャルロットの<リヴァイヴ・カスタムⅡ>と同じ実家のデュノア社で開発された<ラファール・リヴァイヴ>の筈だが、見た目からして彼女のISとは正反対のベクトルの機体に思える。
スマートさより無骨さ。機動力よりも防御力。
特に目を引くのは両肩近くに浮遊している1対のアンロック・ユニットだ。厚みが減った棺桶の様なそれはミシェルの体躯でさえすっぽり隠してしまいそうなほど大きい。
他に<リヴァイヴ・カスタムⅡ>と比較するならば左腕に在る筈のシールドが右腕に備えられていて、顔面部分は幾つもスリットの入った鋼鉄の仮面に覆われている点だ。そのスリットの向こうで1対のカメラアイが青白く光っている。バイザーのてっぺん部分には一角獣みたいなアンテナパーツ。
背中のスラスターも従来のISに多いデザインである1対の翼型ではなく、ロボットアニメに出てくるような人型兵器の物によく似た2対4つの噴射口を備えた箱型スラスターだ。よく見れば、腰回りのアーマーにもスラスター以外に折り畳み式の砲塔を備えている。
最早根本的にオリジナルとは別種の機体にしか見えない。流線が多用された従来のISの優雅なデザインからは程遠い、無骨で実用性と耐久性を優先したデザイン。
並ぶ少女達の幾らかは微妙そうな視線を送ってきている。自分達の良く知るISからかけ離れていてどうにも受け入れづらいのだ。
だがミシェルはこの機体が気に入っていた。全身装甲は全身装甲なりに利点もあるし――――何よりそっちの方がカッコいいと思うから。
男の子なら誰だってロボットに憧れるに決まってるし、変身ヒーローだって変身したにもかかわらず顔はともかくとして下に着てる服が丸見えなままのヒーローが存在しただろうか?いいやない。
あとは精神的な問題か。絶対防御が存在するからって四肢以外が剥き出しのままというのはミシェル的にはイマイチ気に入らなかったりする。
さて、展開されたミシェルのISを目の当たりにした一夏の反応はというと、
「なんていうか・・・・・・凄くゴツイな。カッコいいけど」
「よし、4人とも飛べ」
きわめて簡潔に鬼教官モードの千冬が指示。一夏を残して3人はすぐさま急上昇。遅れて一夏も飛ぶ。
速度的には3人よりやや遅い程度。決闘前の<打鉄>での機動訓練が無ければもっとまごついていただろう。
『まあまあだがもっと速く飛べる筈だ。スペックでは<白式>の方が出力は上なのだからな』
「上手い上手い、そんな感じだよ一夏」
「決闘の際の動きで分かってはいましたが中々読み込みがよろしいですわ。流石わたくしを正々堂々倒しただけありますわね」
千冬姉の辛い評価とは対照的に、シャルロットとセシリアからはそんなお褒めの言葉を頂いた。2人の優しさが身に沁みる。千冬姉はそうやって厳しいから相手が――――ゲフンゲフン。
一夏としては、これもやっぱりミシェルから教えてもらっていたお陰である。
『・・・・・・フライトシミュレーションとかをやった事はあるか?エス○ンとかああいうゲームで構わない』
『それなら中学の頃はよく友達と対戦とかやって遊んだりはしたけど』
『ならそのゲームの操作をISを動かす時のイメージに使えば良い・・・・・・上昇する時はコントローラーのどのスティックをどっちに倒すのか、加速する時はどのボタンを押すのか、そんな感じにな』
学校で教えられた『自分の前方に角錐を展開させるイメージ』なんてのよりよっぽど分かりやすい。
それにしても決闘が終わってからのセシリアの変わりっぷりは一体どういう事なのだろう?クラス代表の座も快く譲ってくれたし(それは同じく立候補してた筈のミシェルにも当て嵌まる)、休み時間や昼食時、放課後にもしょっちゅう話しかけてくるようになったし。
当たり所が悪かったのか?もしそうだとしたら責任重大だ。嫌でもシールドや絶対防御のお陰で一夏の攻撃が直接セシリアに当たっては居ない筈だし。なら何でだ?
というか、セシリアが構ってくる事への1番の問題はセシリアが寄ってくる度箒が禍々しい殺気を一夏に送ってくる事だ。最初に殺気を向けられた時は思わず兄弟子にアドバイスされて以来持ち歩く暗器を抜きそうになった程だ。
お願いだからそんな目で睨まないで下さいお願いします。決して浮気とかそういうのじゃないんです。
あれ、でも俺箒とはまだちゃんとハッキリとした恋人関係になった訳でもないんだから浮気とは違うのか?どうしたものやら。
・・・・・・というかぶっちゃけ自分は箒の事をどう思ってるのだろう?。
最初は単なる幼馴染で、ちょっかいを出される度自分が守ってあげていた女の子。6年という歳月はしょっちゅう泣きそうになっていた女の子を立派な女侍に変貌させていたけど、やっぱり箒は箒な訳で。
あの頃よりもとても強くなったしとても綺麗になった。うん、それは紛れもない事実だ。五反田辺りきっと同意するだろう。アイツは昔の箒を知らないけど。
でも本当の彼女は寂しがり屋だった。ずっとこんな自分に会いたかったと告白してくれた。その姿を見て、自分はどう思った?
――――――はたして織斑一夏が篠ノ之箒に抱いている感情は一体何なのか。友情?慕情?恋心?少なくともとても魅力的な異性として考えてるのは間違いない。
このまま自分の気持ちをはっきり示さないまま肉体関係をずるずる続けていく訳にもいかない。それは何というか、ズルいと一夏は思う。
自惚れでなければ、きっと箒は自分の事を好いてくれてるんだろう。そもそも好意を持たない相手にあんな過激な迫り方をする程彼女は器用じゃない、筈。
なら後は自分が箒に向ける想いの区分を明確にするだけ――――しかしそれが1番難しい。
なにせ織斑一夏は恋という物をした覚えが無いのだから。いや、そもそも仮に恋心を抱いていても、それを恋心だと自覚出来ていなかったのかもしれない。
物心ついた時の記憶を遡って行く内に思い当たる節がちらほらと出てきて、セシリア達の存在も忘れ頭を抱えてしまう。
―――――俺は一体どうすればいいのだろう?
そんな感じに雑念塗れなせいで千冬姉に急降下・急停止を命じられた結果、一夏がグラウンドにクレーターを形成するまであと15秒。
続きましては武装展開訓練。
一夏が<雪片弐型>を展開する際に思い描くのは、真剣を鞘から抜くというイメージだ。
練習の結果今では1秒前後で展開可能。でも千冬姉からは『遅い。0.5秒で出せるようになれ』との評価。
実際セシリアとかそれぐらいで出してみせた。ただし、呼び出したライフルを真横に向ける形で。注意されるのを横目で見ながらもっと精進しないとな、と内心誓う。
「次、デュノア夫。やってみろ」
「・・・・・・了解」
そんな呼び方で良いのか千冬姉よ。ミシェルも普通に返事ってそれで良いのかそれで。
ミシェルは両手を垂らしてぶらつかせた状態になったかと思うと、両手を勢い良く持ち上げた次の瞬間には強烈なフラッシュが瞬くと共に奇妙な形状のアサルトライフルを構えていた。
機関部とマガジン挿入口が銃杷よりも後ろにあるブルパップ式で、トリガーガードのすぐ前により大型の別のマガジン挿入口と砲身が一体化している。銃口と砲口が上下に並んでいる。もっと変わっているのは砲口の更に下に銃剣の切っ先が伸びている点だ。
――――デュノア社製複合型多目的大口径アサルトカノン<ケルベロス>。後で一夏が本人から聞いた話だが、ミシェルが設計した銃らしい。
両手で身体に引きつける様にしてしっかりと構えられた<ケルベロス>の銃口は全く微動だにしない。千冬姉も満足そうに頷いていた。
「良いだろう。次、デュノア妻」
「はいっ!」
だからそんな呼び方で(ry
シャルロットの武装展開速度はもはやマジックのレベルだった。パッと構えてパッと光った次の瞬間にはライフルを構えていて、まさしく目にも止まらぬとはこの事だ。
「そのまま連続して別の兵装に切り替え続けてみろ」
シャルロットの手の中でライフルが光って一旦集束。直後別の銃器が展開。精々1秒足らずの間に何丁もの銃器が姿を現しては他の兵装に形を変える。
「これはいわゆる高速切り替え(ラピッド・スイッチ)と呼ばれる戦闘技術の1つだ。こういった技術1つを身に付けておくだけでも戦闘では自分の優位に持っていく事が出来る。貴様らもこういった技術を習得する為にも、今から己を鍛えあげて腕を磨いておけ。いいな!」
『はいっ!!』
えんやこらさ、と土を掬っては穴を埋める。
「これでいいだろ。ありがとなミシェル、わざわざ手伝ってくれて」
「・・・・・・別に構わん。一応、軍事訓練でもやらされてたから慣れている」
ミシェルの助けも借りたお陰で一夏が生んだクレーターは結構早く埋め終える事が出来たが、それでも日は暮れ空はかなり暗い。
用務員さんから借りてきたシャベルを運びながらグラウンドを離れると、2人がクレーターの後始末を終わるまで待ってくれていたシャルロットが近づいてきた。
「お疲れ様2人とも。はいこれタオルとジュース」
「おっ、サンキュー」
「・・・・・・ありがとう」
4月も終盤、やはり日が落ちるとまだ少し肌寒く海沿いで風が強くても、力仕事を長く続けていればやはり汗はかく。汗を拭き取ってくれるタオルと水分補給は何よりありがたい。
いいよなぁこんな風に気が利いてくれる女の子って。シャルロットの優しさが身に沁みる。
特に一夏の周りには千冬姉とか箒とか千冬姉とか箒とか千冬姉とか、かなり我が強くて厳しい女性ばっかりだったから尚更際立って思える。とっくにお相手が居るけど。
「うおっ!?」
「どうかしたの一夏?」
「いやなんか急に悪寒に襲われて・・・・・・あ」
後者の陰でひょっこり揺れてるポニーテール発見。
「あ、ようやく気付いたんだ。箒さんね、先に着替え終わってから僕もグラウンドに戻って来た時からずっとあそこで待ってたみたいだよ」
「本当か?おーい箒ー!」
一夏が声をかけるとポニーテールはびくっと震えてから引っ込んでしまう。傍まで近づいてみるとシャルロットの言った通り箒がそこに居たが、その顔は何故か赤い。
「ゴメンな、待たせちまって。箒も俺らが終わるまで待ってくれてたんだろ?」
「べ、別にそういう訳では・・・・・・と、とにかく終わったのならさっさと部屋に戻るぞ。ほら行くぞ!」
「ちょ、引っぱんなって」
無理矢理箒が腕を組んできて引き寄せてきたものだから、肘に当たる柔らかいそれ―――豊かな乳房が制服越しに一夏の肘に当たる心拍数10上昇。尚も上昇中。
すらりと高い箒の鼻が不意にひくつく。
「・・・・・・一夏の汗の臭いがする」
「そりゃ結構汗かいたし。だから箒さん離れて下さいお願いしますこのままだともっと汗かきますからたのんます」
「・・・・・・・・・・」
「だから何でもっとくっつくんだよ!?」
恥ずかしいやら居心地悪いやらでも嬉しいやらで一杯一杯な様子の一夏の耳元に、箒が口を寄せる。
「―――――な、なら、一緒にシャワーを浴びないか?」
「・・・・・・はい?」
間抜け以外の何物でもない呆けた顔でそう漏らした直後、猛加速した箒に引きずられてそのまま学生寮の方へと消える一夏の姿。
その場に忘れ去られた某夫婦はというと、
「やっぱり幼馴染だけあって仲良いね、あの2人」
「・・・・・・そうだな」
遠い目で見送ってから、一夏が放置したシャベルを回収するのであった。