興奮冷めやらぬ熱い空気に包まれたアリーナを、一夏・箒・ミシェル・シャルロットの4人は隠れるようにして離れた。
もし観客の女生徒達に見つかろうものなら間違いなく追っかけ回されるに決まってるから、千冬姉の指示で教員用の裏口から脱出したのである。
「凄かったなぁ、一夏ってあんなに強かったんだね!」
「・・・・・・俺も、驚きだ。まさか、暫く会わない内にあそこまで強くなっていたとは。一夏も成長したんだな・・・・・・」
「おいおい何だよそれ。それじゃまるで父親みたいな台詞みたいだぜ」
「・・・・・・・」
「ちょ、うおっ」
むんずと無造作に一夏の頭にミシェルの巨大な手が置かれると、わしゃわしゃ一夏の髪を掻き回す。
なんだよーやめろよーと言いながらも笑う一夏はどことなく嬉しそうだった。アリーナでの戦いぶりが嘘のように子供っぽく見える。
「あれ、どうかしたの箒?」
「うえっ!?なな何でもないぞ別に!」
シャルロットの言葉にブンブン首を高速旋回。一夏に見惚れていたのに気付かないのは、注目されていた本人のみ。
「と、ところで一夏のISの待機形態を見てから気になったのだが、2人も専用機を持っているのだろう?待機形態はどのような形をしているんだ?」
ISの待機形態は量産機でもない限り1機1機違ってくる。その場合基本パッと見でそれと分からないようなアクセサリーなどの小物の形を取る事が多い。
一夏の<白式>の場合は白のガントレット。セシリアの<ブルー・ティアーズ>は青いイヤリングだ。
「ちょっと待って、今出すから」
シャルロットが制服の胸元を緩めると、少し締めつけられていたたわわな胸がたゆんと揺れた。
一夏の視線がその胸の動きを追いかけた。彼の頭に置かれたままのミシェルの五指が一夏の頭部にめり込んだ。にぎゃあと悲鳴を漏らす一夏の鳩尾に箒の竹刀による胴への一撃が加わった。
コンビネーション攻撃でフルボッコにされる一夏を余所にうんしょよいしょと胸元を探っている。
「ゴメンね、ちょっと引っかかっちゃってて」
シャルロットのISが出てくるのが先か、それとも一夏の魂が出ていくのが先なのか。
服の下に窮屈そうに収まっている膨らみによって制服が突っ張ってしまい、そのせいで服の裏地に引っ掛かってしまっているらしい。
「はいこれ、これが僕のIS、<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>だよ」
シャルロットが取りだしたのは十字架型のオレンジ色のアクセサリー。待機状態時の彩色と機体色は同じなのでISそのものもオレンジがメインなのだろう。
「・・・・・・俺の方はこれだ」
「これは―――ドッグタグ(認識票)か?」
箒の言葉通り、ミシェルが取りだしたのは軍人が身に付けるドッグタグだった。ただし縁取りが炎の様な赤で中心部分が黒い。ミシェルのISは重装甲・高火力と聞いているから如何にもな彩色だ。
「あいてててて・・・・・・な、何でこんな目に」
「い、一夏が悪いのだろう!あろうことか乙女の胸を凝視するなど!・・・・・・・・・わ、私のだって見たくせに、それだけでは不服だと言うのか」
「・・・・・・幾ら友人だろうと、俺以外の男にシャルロットにいやらしい目を向けられるのは気に食わん」
「ゴメンナサイ」
お言葉が御尤もだったので素直に一夏は謝る事にした。
でもミシェルのは単なる嫉妬な気がする。それから箒の後半の台詞はそっちが本音か。それからとっくの昔にシャルロットは乙女じゃ―――(銃声)
いつの間にか微妙に顔を赤くしたシャルロットまで、胸元を隠そうとしながらも一夏を軽く睨みつけている。
「・・・・・・一夏のえっち」
「がふっ!?」
その一言がミシェルのアイアンクローよりも箒の竹刀乱舞よりもどれよりも一夏に大ダメージを与えたのだった。
主に精神的な意味で。
学生寮の前に辿り着くと箒が何故かシャルロットだけ誘って何処かへ行ってしまったので、先に男2人だけ部屋へと戻る事になる。
先に試合終了後のアリーナから戻ってきていた女子が居るらしく、寮の中では今回の決闘に関する話題がそこかしこで囁かれているのが当事者の一夏にも聞こえてきていた。
そんな訳で、話題に飢えている少女達は今日の勝者である一夏へと一斉に襲いかかろうと虎視眈々と構えていたのだが・・・・・・
「あ、織斑くんよ!」
誰が最初に言ったのやら。一斉に一夏の方を向く思春期の少女という名のハンター達。
ずどどどどど・・・・・・と地面を震わせ突進してくる少女達。その迫力、まるでバッファローの大群の如し。
しかし、そんな暴走特急な少女達の前に立ちはだかる影が1つ。
「・・・・・・・・・・・・」
ミシェルであった。彼が前に出た途端、少女達は急停止した。
道を塞ぐ大岩のような彼に見下ろされる女子達。数秒経ってからまず彼女達に現れた感情は―――――羞恥。
自室で寛いだりしていた少女達の大半はラフな格好で、下着の上に肌着同然のシャツしか羽織ってなかったりズボンもスカートも吐いてなかったり中には服に浮かんだラインから下着すら付けてないのが丸分かりな子も少なくない。
これがもし一夏だけであればまだ少女達は気にしなかっただろう。教職員の中にも男性が少ないIS学園内に於いて世界遺産クラスに希少な同年代の異性である一夏にならむしろアピール半分で見られても構わない、と考えるのが大半であった。
極端に言ってしまえば一夏はここの少女達にとっては珍獣扱いも同然であって、動物相手に裸同然の姿を見せても何が恥ずかしいのか、という事である。
だが、しかし。ミシェルの場合は違う。
そもそも顔立ちからして同年代には全く見えないミシェルの存在は少女達からしてみれば『年上の男』像そのものであり、異性としての存在感をこれ以上ないぐらい少女達に叩きつけてくるのである。
つーかぶっちゃけ迫力あり過ぎるのも考えものである。マフィアの用心棒か歴戦の傭兵そのものな風貌だけでも年頃の少女達には強烈過ぎた。女尊男卑な風潮によって周囲に『弱い男』の方が多い中育ってきた世代にとっては尚更だ。
故に、一夏に対しては平気でも、ミシェルに自分達のあられのない姿を見られてしまっては平気ではいられなくなる訳で。
「し、失礼しました~・・・・・・」
潮が引くように自分達の部屋へと引っ込む少女達。
ぱたん、と一気に人気のなくなった廊下に響く扉の閉じられる音が物悲しい。
「・・・・・・・・・(涙目)」
「ミシェル、お前は泣いていい。泣いていいんだ・・・・・・!」
まあ、顔を見せるやいなや一斉に逃げられた本人からしてみれば、少女達のそんな事情に気付ける筈もなく。
しくしくしくと、しばらく大の男が静かにすすり泣く声が続くのであった。
「・・・・・・ところで、篠ノ之と一体何の話をしてたんだ?」
シャルロットが部屋に戻ってきて部屋着に着替えるのを眺めながら、ふと気になったミシェルは先程の事について彼女に質問した。
彼もまた上下黒のカーゴパンツにTシャツの寝間着に着換えベッドに寝転がっている。
「んー、知りたい?」
「・・・・・・そう言われると逆に腰が引けてくるから不思議だな。だがまあ、教えてくれるのであれば聞きたいが」
着替え終えたシャルロットがミシェルと同じベッドに飛び乗ってくる。上は有名ブランド製のスポーツジャージなのだが、前を止めるチャックが半分ほどしか止めておらず豊かな双丘で構築された深い谷間と健康的な白い肌が際立って見える。
おまけに上に身に付けているのはそれ1枚だけな上に細めのデザインな物だからメリハリの効いた凹凸の激しいシルエットが浮かび上がっていた。双丘の頂点の突起までうっすらとシルエットが浮かんでいる始末。
ついでに言うと下に至っては布地が薄い白のとオレンジのストライプ柄の下着のみ。狙っているのかそれとも無意識なのかはともかく、すべすべむっちりとした太腿がミシェルの脇腹に擦りつけられている。
シャルロットはまるで小悪魔、もっと言えばサキュバスみたい妖艶でありながら無邪気な悪戯っ子の雰囲気も醸しだしつつ笑っていた。
「僕が箒さんと話してた事はね・・・・・・えいっ♪」
「むふっ・・・・・・?」
ミシェルに覆い被さったシャルロットは勢い良く彼の頭を抱き締め、顔の部分を谷間へと導いた。
むぎゅ~と軽く自分の肌に押しつけてから次に二の腕で胸を挟み込むようにしてもふもふぱふぱふ。リズミカルにミシェルの顔を挟む左右の膨らみが形を変え、心地良い弾力と温かさがミシェルを襲う。
最初は少し息苦しかったが、シャルロットが腕に力を込めたり緩めたりを繰り返すので窒息までは至らない。むしろ鼻で息を吸う度甘い体臭が、嗅覚を刺激して頭蓋を蕩けさせる。ミシェルにとっては薔薇やラベンダーなどよりもよっぽど高貴で幸せにしてくれる香りだ。
しばらく粗い呼吸音が部屋を満たした。シャルロットの方も胸の中の彼が呼吸する度、鼻息が谷間の奥底に当たるせいで甘いくすぐったさに襲われていた。
彼の頭がむにゅむにゅと彼女の胸に跳ね返されては押し潰す感触も微弱な快楽と化し、シャルロットの方も息が段々と速くなっていく。
唐突にミシェルの腕が持ち上がり、腹の上に乗ったシャルロットの尻肉を鷲掴みにした。
「うひゃぁ、ちょっと、ダメだよ。僕がシテる最中なのにぃ・・・・・・」
「・・・・・・人の事を散々『えっち』とか言うが、シャルロットも十分えっちだと俺は思うぞ」
自分の頭を抱き締める腕の力は抜けているにもかかわらず、鼻から下は胸の谷間に埋めさせながらミシェルは愛しい少女の顔を覗き込む。
言われたシャルロットの方は子供っぽく頬を膨らませ、ミシェルの頬を抓った。
「もう、誰のせいなのさ。それにミシェルの方がよっぽどえっちじゃない。エッチな画像一杯集めたりしてたしさ」
「・・・・・・それは、俺も男なんだし。それに、シャルロットだって見つけた俺のお宝を資料代わりにしてなかったか?」
「だ、だって、ミシェルはああいうのが好きなのかなって思ったんだもん!」
「・・・・・・俺にはその気持ちでだけで腹一杯だから、無理はしなくていい」
仮装や屋外ぐらいで十分満足だ。今の自分達には後ろの穴とか蝋燭とか縄とかは高度過ぎる。
・・・・・・大体、キスとかはミシェルの方からする場合が多いけどそういうプレイを誘うのは大概シャルロットの方からだった気がするのだが。
「・・・・・・僕がエッチになっちゃったのはミシェルのせいだもん。ミシェルに触ったり触られたりすると、もっと触って欲しくなっちゃうのが悪いんだもん」
「・・・・・・そうだな。みんな俺が悪いって事にしておこう」
顔の位置を調節してから、どちらともなく口付けする。舌が絡み合い、唾液のカクテルをお互い貪る。
しばらく相手の口腔を堪能した後、ミシェルの顔を横断する傷跡をそっと指先でなぞりながら、シャルロットはポツリとこう呟いた。
「本当に、えっちなお兄ちゃんなんだから」
「・・・・・・そう呼ばれるのも久しぶりだな」
「だって仕方ないよ。表向き僕はデュノア家の血を引いてない事になってるし、今じゃ僕達もう夫婦扱いなんだから人前じゃぜったい呼べないからね」
本来の2人は腹違いの兄妹。それがここまでねじ曲がったのは、父親が愛人の娘であるシャルロットの存在をそれまでずっと認知せずに居たからだ。
父親とシャルロットの母親自体は情を交わす程度の接点しかなかったので、愛人の存在そのものもシャルロットがデュノアの家にやってくる直前まで本妻や屋敷の人間が知る事もなかった。彼女ががISのパイロットになってからも愛人の娘である事そのものは秘匿され続けた。
もちろんフランスの一部の関係者はミシェルとシャルロットが兄妹である事を知っている。
だからこそ国そのものが隠蔽に積極的に関与した。世界初の男性IS操縦者が近親相姦者なんてスキャンダル、誰が好き好んで公表したがるものか。
もし2人の父親が早くからシャルロットの存在を認知し、デュノア家へと名を連ねる事を許していればちょっと複雑な背景を背負いながらも仲の良い兄妹として真っ当な関係を築けたのかもしれない。
それは結局『IF』でしかない。2人は出会い、『兄』は『男』としてシャルロットに惚れこみ、妹もまた『家族』としてではなく『男』としてミシェルを好きになってしまった。その結果はもう誰にも変えられない。
これからも嘘は隠され続けるだろう―――――誰もがそう、そして何より当事者達こそが、それを望んでいるのだから。
「・・・・・・こう言っては何だが、父親が道義よりも利益を優先する人間で本当に助かったと思ってる」
そんな性格だったからこそ自分が手に出来る利益を守るべく血縁関係を徹底的に隠蔽するのに一役買ってくれたし、息子が広告塔になって得られる様々な利益を守るべく政府にも色々と働きかけてくれた。
お陰でミシェルとシャルロットが夫婦である事はフランス政府公認になったし、不利益になる情報の改竄・抹消も国内の各諜報機関総出で行ってくれたから、ちょっとやそっとじゃ2人の本当の関係には辿り着けまい。
家族としての純粋な関係を望んでいたシャルロットにとっては少し酷かもしれないが、彼女の立場を守るには『シャルロット・デュノア』という妾の娘の存在を消すのが最良の手だったのだ。
故に今の彼女は『ミシェル・デュノアの妻、シャルロット・デュノア』として堂々と表舞台に立っていられるのである。
その点ではシャルロットも今やデュノア家の正式な一員と言って差し支えない。
「ミシェルのお母さんにはとことん嫌われちゃったけどね・・・・・・」
「お袋は色々と気難しい性格だったからなぁ・・・・・・」
それでもシャルロットの正体を暴露しないだけありがたい。
「・・・・・・で、結局篠ノ之とどんな話をしたのか全く見当がつかないのだが・・・・・・」
「うーん、まあミシェルなら言っても構わないよね」
シャルロットは着たばかりのジャージのチャックを下まで引き下ろすと中身をミシェルの鼻先に曝け出した。
「―――――箒はね、簡単な男の子の悦ばせ方を僕に聞いてきたんだ」
「・・・・・・やっぱり相手は一夏か?」
「やっぱり一夏が相手、だと思うよ?」
2人して胸板を擦れ合わさせながらも一夏と箒の部屋がある方角を向き、
「・・・・・・2人の健闘を祈るとしよう」
「そうだね。箒、上手くいくと良いなぁ」
友人達の健闘を祈って敬礼を送っておいた。
『(どうしてこうなった?どうしてこうなった!?)』
今の一夏の心中――――蛇に睨まれた蛙、肉食動物に追い詰められた無力な小動物の如し。
逃げ出したいのに、逃げられない。動きたいのに動かない。
狩られる側が存在するなら狩る側も存在する。自分と同じベッドの上で、濡れた瞳で見つめてくる箒がその役回りだった。
別にそのままの意味で襲われている訳ではない。ただ一夏のベッドの上に座り込んでお互い向き合っているだけに過ぎない。箒に動きを封じられているのでもない。
ただただ一夏の身体中の筋肉が硬直していう事を聞いてくれないだけだ――――それを可能にするだけの魔力を、今の箒は放っている。
舌も上手く回ってくれない。言語障害にでもなったみたいに発音が途切れ途切れにしか出せなくなっていた。
「ほ、ほっ、ほっ、箒!?な、何、一体何なんだよそ、そそ、その格好?」
「だ、だから何度も言わせるな!―――――い、言っただろう?『勝ったら褒美をやろう』と。だ、だから・・・・・・」
そう彼女もどもり気味に、赤信号よりも赤く顔どころか首筋まで真っ赤になりながら。
しゅるりと首のリボンを解き、ボタンを外したワイシャツを肩元からはだけさせ、震える手つきでブラジャーを服の下から抜き取った。
極度の興奮による発汗のせいでシャツは半ば透けて箒の肢体に張り付いており、浮き上がる極端な凹凸のシルエットもさる事ながら、その下の薄い布地1枚越しに見える紅潮した肌の色がまた扇情的で――――
「おおう・・・・・・」
その色香は尋常じゃなかった。思わず一夏の鼻の奥と股間に急激に血の気が集まってしまうぐらいには。
もう1度問おう。どうしてこうなった。何で箒が自分からこんな恰好で俺に見せつけてくるんだ!?
「だから勝った褒美をお前にだな」
「あれ、普通に思考読まれてる!?」
「そ、それぐらい分かって当たり前だ!なんせお前と私は幼馴染だし・・・・それに・・・・・・・」
「ほ、箒さん?」
「ええい、とにかくだ!とっとと済ませるぞ!一夏!」
「は、ふぁいっ!」
幼馴染の剣幕に思わずベッドの上で正座。箒は一夏と更に距離を詰めると、
「むきゅうっ!!!?」
一夏の頭を抱き締めた。思いっきり。
皮膚表面の血流が盛んなせいで一夏の顔を挟み込んだ箒の双球は熱く、思わず息を呑むと今度はちょっと酸っぱい汗の臭いと砂糖をたっぷり使ったホイップクリームにも似た甘い芳香がブレンドされた箒の体臭が鼻腔を満たし、瞬時に一夏の意識が焼きついた。
シャルロットからの忠告も忘れて箒は一夏の頭部を力いっぱい抱え込み続ける。彼の鼻息以外にも息苦しさと箒の行動に半ばパニック状態でもがく一夏の顔が膨らみを刺激して、短い悲鳴が何度も漏れてしまう。
最早箒の意識も漂白されそうだった。篠ノ之箒は織斑一夏の事が好きだった。そんな彼にこんな事を自分の方から行っている事への背徳感が、より一層箒の感覚を過敏にさせていく。
もっとを酸素を求めて頭を振りながら一夏が大きく息を吸おうとした。それは箒の胸にたっぷり備えられた柔肌に阻まれ、思い切り彼女の胸へと吸いつく結果を生む。
「はあぁぁぁんっ!?」
強烈な電流に襲われた箒の身体が痙攣した。腕の力が緩み、ようやく一夏は解放されたが、呼吸困難のせいでしばらく動けない。
お互いの身体に寄りかかって支え合う格好のまま、2人分の荒い息遣いがしばらくの間部屋の中を支配した。
胸が上下する度バストの先端まで揺れる様子に知らず知らず一夏の目が勝手に追いかけていた。それを感じ取った箒は前回同様咄嗟にバストを両腕で抱える形で隠そうとしたが、やっぱりより扇情的なポーズを取っている事に気付かない。
「じ、じろじろ見るでない」
あれだけの事を自分からしといて今更な話だが、思わず一夏も「ご、ごめん」と謝りながら視線を箒から外す。
壁掛け時計の秒針を刻む音がハッキリ耳に届く位の静寂。
口を開くのは一夏の方が先だった。
「・・・・・・あ、あのさ。何であんな事をしたんだ?」
「い、言っただろう、勝った褒美だと――――嫌、だったか?」
捨てられた子犬みたいな顔でそう言われては、答えは1つしかない。
「そ、そんな訳ないって!存分に御堪能させて頂きました!」
勢いに駆られるままベッドの上で土下座。そう断言をする一夏も一夏だが、一転して嬉しそうに儚げな笑みを浮かべた箒も箒である。
「そうか、それは良かった。常日頃から邪魔だと思っていたものだが、一夏が喜んでくれたのならば幸いだ・・・・・・」
下から持ち上げただけでたゆんと震える箒の膨らみ。最早本能レベルで横目にその動きを追いかけてしまう一夏の目。
それを箒が気付かない筈もなく、
「・・・・・・やはり一夏もエッチなのだな」
「ひでぶっ!?
しばらくお待ち下さい
「で、決闘に勝った事への御褒美っていうのはどうにか納得出来たんだけど、だからって何でこんな事したんだよ」
「文句言いたげだな一夏・・・・・・やっぱり嫌だったのか」
「いやだから嫌とかそういうんじゃなくて箒があんな事するとは思わなくてびっくりしただけだって!」
何だかすっごくやりにくい。ここまでしおらしくされると調子が狂って仕方ないぞコンチクショウ。でもその分可愛いから許す!
・・・・・・そうか五反田よ。これがお前の言っていた『萌え』ってヤツなのか。俺は答えを得たぞここには居ない友人よ。
「その、だな。この間の事で一夏が破廉恥で助平だというのはよく理解出来たのだ」
「そんな事理解したくないけどああでも否定できねぇ!」
「それで、私のこの胸に対して興味を惹かれているのは既に分かっていたから、それで」
「それで?」
「・・・・・・シャルロットに教えてもらったのだ。この胸をどう使えば、男が喜んでくれるのかを」
「どうしてそうなった!!?」
これが近頃の子供の性の乱れってヤツなのか!?束さーん貴女の妹が間違った方向へ大人の階段を上ろうとしていますよー!!
「あのさ箒。シャルロットの所はもうれっきとした夫婦なんだしそういう事やっても問題ない・・・のか?とにかくそういう事に関してはあの2人の事は参考にしちゃいけないと思うぞ」
あの2人のイチャつき方は上級者向け過ぎる。そもそも自分と箒は2人みたいな関係じゃないんだし。
・・・・・・後半は口に出さなかった辺り、これまでの厳しい鍛練は一夏に地雷回避能力を与えたのかもしれない。
少なくとも竹刀で撲殺フラグは回避に成功。しかし1歩間違えれば即起爆な状況は未だ変わらず。
「・・・・・・それでも私には2人が羨ましかったのだ」
「まあ確かに、あんな風にベタベタ出来るような相手が居るって俺もちょっと羨ましいとは思うけど」
「――――私は、一夏なら構わないぞ」
「へ?」
豊満なバストを両手で支えながら、膝立ちになった箒はゆっくりと一夏との距離を縮めてきた。
「私も、ミシェルとシャルロットの様にお前と触れ合いたい。羨ましいんだ私は。あんな風に大胆に、好きな人と触れ合えて」
「ほう、き?」
「私は実はとても自分勝手な女なのだ。『男女七歳にして同衾せず』とは言うものの、この6年間ずっとお前に会いたくて仕方なかった。だからこうして同じ部屋で過ごせる事が、とても嬉しかったんだ」
「いや、そりゃ俺も箒と一緒の部屋は嬉しいぜ?何てったって幼馴染なんだし、この6年会えなかった分の親交を深めるにも丁度良いとは思ってるけど――――」
「でも、一夏とこうしてみて理解出来た――――私は我儘な女なのだと」
箒の無自覚の妖艶さに呑まれて動けない一夏の右手を優しく掴むと、箒は自ら一夏の視線を釘付けにしてしまう魔性の膨らみへと自ら導いた。
手にかなり余るサイズの柔肉に、一夏の指先がほんの少し沈んだだけで奔った甘い電流に箒の理性は焼け、小さく身体が震えてしまう。
ゴクリ、と大きく喉が鳴る。自分が喉を鳴らした事すら一夏には自覚できなかった。
「まだ足りない。もっともっと触ってくれ。胸だけでは足りぬというのであれば、もっと他の所を隅々まで私の身体を弄んでくれて構わない」
「箒」
彼女の顔は真剣そのものだった。その仮面の下では、『もし拒まれたらどうしよう』と考えただけで心が張り裂けそうになっていた。
「本当は勝負の勝ち負けなんて関係なかったんだ。堂々と愛し合って幸せそうにしているあの2人が羨ましかったから、私は一夏とこうしたかっただけなんだ。私が自分の衝動を抑えきれなかったから、こんな風に行動に移しているんだ。
なあ、一夏」
バストが一夏の胸元に当たって潰れては形を変える位近づき、両手で一夏の顔を挟んで固定すると、額を触れ合わせ鼻先を彼の顔に擦りつける。
「―――――いちかは、わたしとしたくないか?」
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書き終わってからの作者の心情:どうしてこうなった