IS学園と本土を結ぶモノレール。学園方面から滑り込んできた車両より乗客達が降り立つ中、一際衆目を集める2人組がホームに降り立った。
誰を隠そうサマーセーターとミニスカートを今時の女の子らしくオシャレに着こなすシャルロット、そしてカーゴパンツにアーミーベスト、礼によって目元の傷を隠す為にかけたはいいが余計に威圧感を倍増させている原因であるシャープなデザインのサングラスという、似合ってはいるがどこからどう見ても休暇中の兵隊にしか見えない有様のミシェルというデュノア夫妻である。
「うーん、今日も日差しがキツイねー」
「日本は残暑が厳しい事で有名だからな……暑いのなら別に無理して引っ付かなくても構わないが」
「大丈夫。そこまでじゃないし、僕がミシェルとくっつきたいから腕を組んでるだけだもーん♪」
腕を組む、というよりはミシェルの腕を抱き抱えるようにしてシャルロットは顔を擦りつける。
今日の2人と同じようにモノレールに乗って学園から出てきたIS学園の女生徒らしき少女達はいい加減この夫婦のやり取りに見慣れた様子で苦笑を交わしつつ通り過ぎていくが、それ以外の客達は異様な組み合わせの男女―いいとこどこぞの令嬢とそのボディガード辺りに見える―がイチャつく姿にギョッと目を剥くものが少なからず居た。
2人が今回休日に本土までやってきた理由は一夏の誕生日プレゼントを購入する為である。聞けば鈴と箒も同じように一夏への誕生日プレゼント探しに出向いているそうなのでもしかしたら鉢合わせする可能性もある。その時は一緒に廻るまでだ。
必要以上に密着し合いながら2人は駅施設を出て併設してるショッピングモールへ向かう。
サマーセーターを大きく突き上げるほどのスタイルの持ち主である金髪美少女が男とイチャついている光景に嫉妬の念を懐いた独り身の若者(ただし男女問わず)の憎悪を受けつつ、相手が超強面で人を殺していても可笑しくなさそうな(実際2人ほど殺した経験あり)凶相の持ち主であるミシェルと気づいた途端慌てて顔を逸らすという出来事を数回ほど繰り返しながら歩いていると。
「あれ、もしかしてあそこに居るのって箒だよね?」
「……そのようだ」
友人を発見。但し見慣れぬ男達と一緒。2人が見ている前で口論を繰り広げている。どうやら性質の悪いナンパに引っかかってしまっているようだ。
詳しいやり取りの内容は聞こえていないが、箒の表情が危険な感じに苛立ちで歪んでいる。友人内でも特に沸点が低い箒だ、このままでは―――――
「む、やってしまったか……」
呟いたミシェルの視線の先では腹を押さえて真っ青な顔で屈みこむ男の片割れの姿。耐えかねた箒が貫手を男の鳩尾に突き刺したのである。
実家が古武術の道場主だっただけあって中々の鋭さだったが、素人相手には過剰過ぎやしないだろうかとミシェルは不安を覚えてしまう。もう1人の男は突然叩きのめされた相棒の姿に意識が追い付いていない風に立ち尽くしていた。
「とにかく助けに入らないと!(箒を)」
「……そうだな。その方が良さそうだ(男の方を)」
以心伝心なようで微妙に意見を食い違いさせつつ、2人は友人の元へと向かう。
「まったくもって嘆かわしい!立派な武士(もののふ)の心を持った男は何処に行ってしまったというのだまったく!」
原因の半分ぐらいはそっちの姉に原因があるんじゃなかろうか、という指摘は口には出さないでおく。
憤懣やるかたないといった様子の箒から話を聞くに、鈴と待ち合わせをしていた折あの2人に声をかけられたのだそうだ。ちなみに箒による被害者はこれ以上増える事無く、男達は無事にあの場から離れる事が出来た。
しつこく箒に絡んできたせいで公衆の場で騒ぎを起こした元凶として、駆け付けた警官に連行されていったのが『無事』の分類に入るのならば、だが。
成程、箒もまたどこに出しても恥ずかしくない位の美少女―顔もスタイルも十把一絡げなグラビアアイドルとは一線を画している―なので、あの男達がナンパしたくなる気持ちも分かるという物である。
「だが、本当に私が加わっても構わなかったのか?その、2人もせっかくのデートなのだろう?私が居ては邪魔なのでは……」
「鈴は用事が入らなくて来れなくなっちゃったんでしょ?せっかくバッタリ会えたんだし、僕達も一夏の誕生日プレゼントを探しに来たんだから皆で相談しながら廻った方がきっと良いプレゼントが贈れると思うんだ。ミシェルも良いよね?」
「……シャルロットがそう言うのなら俺は構わない」
「だったらありがたく加わらせて貰おう」
箒を加えて移動再開。どう見ても同い年には見えない凸凹外人夫婦にまさに美貌の女剣士という表現がしっくりくる箒という組み合わせは先程以上に目立っているのだがいい加減慣れっこなので、彼らは敢えて無視する方針でショッピングを開始した。
「あっ、そうだ。一夏へのプレゼントを探す前に少し寄りたい所があるんだけど構わないかな」
「私は一向に構わないぞ」
シャルロットに手を引かれながら日頃の実機訓練で銃器類をガンガン撃ちまくっても白魚のような柔らかさを保っている小さな手の感触を堪能していたミシェルだったが、辿り着いた店を見た途端凍り付く羽目になった。
鉄面皮のお陰で同様自体は顔に出なかったものの、こめかみにデッカイ汗の玉が浮かぶのは禁じえない。
3人がやってきた先、それは女性用下着の売り場であった。この時点で完全に場違いな雰囲気を醸し出しているミシェルに対し売り場中から注目が集まっていた。
流石にこの雰囲気は居心地が悪すぎる。なのでミシェルは後方に向かって前進(または退却とも言う)を試みる。
「……シャルロット。俺は店の外で待っているとしよう」
ミシェルは逃げ出した!
しかし回り込まれてしまった!
「ミシェルに新しい下着を見て欲しいんだけど……ダメ、かな?」
胸元に縋り付かれる+押し当てられる胸の感触+上目使い+子犬みたいな瞳+嫁補正=嫁からは逃げられない。
反則だ、と天井で見えない天を仰ぎつつそのまま下着売り場に引きずり込まれていくミシェルの背中に、箒の生温かい視線が突き刺さるのであった。
中に入ると当たり前の事ではあるが、店内中に並ぶ女性物の下着の山がミシェル達を出迎えた。
覚悟はしていたので顔には出ないが、何とも言えない落ち着かなさに駆られてしまう。あと周りのお客様、場違いなのは分かっていますから携帯を取り出して警察に通報は勘弁して下さい。
「ねえねえミシェル、これなんかどうかな」
「そ、それはまた少々過激すぎやしないか?」
ミシェルではなく箒がシャルロットが見せてきた下着に対し評価を下す。
その上下一組の下着は色は明るめで一見落ち着いたデザインのようではあるが、多くが地肌を透けて見せるタイプの布地で構成されている中々に過激な代物だった。
脳内でその下着を身に着けたシャルロットを再現し――――思わず親指を立ててしまう。夫のGOサインを受けてシャルロットはうっすらと頬を赤くしつつ買い物籠に投下。後程専用の更衣室で着け心地を確かめてから最終的に購入するかどうかを決める予定だ。
箒も箒で口では言いつつも時折並んでいる下着を手にとっては視線を虚空に投げかけて想いを馳せ、その度に真っ赤になるという行為を何度か繰り返していた。妄想の内容はもちろん下着『のみ』を身に着けた状態で一夏に姿を晒してそのまま押し倒されてしまう、という都合の良い物。
粗方選び終えたシャルロットは更衣室へ向かう。すると視界の端に見覚えのある顔と赤茶色の頭を発見したので反射的に声をかけてしまった。
「ねえ、もしかして弾さんの妹さんだよね」
「へっ?あ、ああっ、確かミシェルさんの奥さんのシャルロットさんでしたよね。お久しぶりです」
声をかけてみると案の定蘭であった。蘭の手には商品入れ替えセール中の白黒ストライプパンツ。3枚千円也。
「奇遇だね、蘭ちゃんも買い物に?」
「ええ、ちょっと1人でぶらっと。シャルロットさんもお1人、で……」
「ううん、ミシェルと箒も一緒だよ。もうすぐ一夏の誕生日だからプレゼントを探しに来たんだけど――――どうかしたの?」
不思議そうにな表情を浮かべて首を傾げるシャルロットが全く目に入っていないかのように、蘭はパンツ片手に凍り付いてしまっていた。
視線はシャルロットの手の中に注がれている。正確にはアルファベットで表すならFとかGとかその辺りのクラスに分類されるブラジャーに。それからサマーセーターを大きく持ち上げているシャルロット山脈へ向く。
箒の目からハイライトが失われているのに気付いて、シャルロットの背筋は悪寒に襲われる。何故だろう、とっても嫌な予感が……
「………それ、買うんですか」
「試着してから決めようかと思ってるけど、着心地が良さそうなのがあったら買おうかなって。最近またサイズがきつくなってきたみたいでさ、これ以上サイズが変わったらISスーツも新しいのを注文しなきゃいけなくなるかもしれないし――――」
蘭から放たれる瘴気の規模が一層増した。彼女の背景にはどす黒い暗黒空間が構築されつつあるしこれ以上悪化すれば邪神の類でも召喚されそうな勢いである。流石のシャルロットも思わずたじろがざるをえない。
「どうかしたのかシャルロット」
そこへダメ押しするかのごとく様子を見に来た箒も追加。箒の手にもやっぱりシャルロット同様選ばれた存在にした身に着ける事が出来ない類のブラジャーの姿が。
勿論今の蘭には到底手の出せない存在である。彼女がそれを装着しようとすれば、待っているのは絶望と敗北感以外存在しまい。
それからシャルロットの時同様視線は動き、蘭の小さな手程度では大きく持て余す位巨大な双丘によって形成された箒海溝を捉えた。
蘭は自分の胸元を見下ろす。山脈も無ければ海溝も作られず、しっかりばっちり足元が見えた。あの2人なんか絶対自分の足元なんて見えてない筈なのに。
「う、ううううぅぅぅぅううううう~~~~~……!」
「だ、大丈夫?お腹でも痛いの?」
「違います!不平等過ぎますよ!シャルロットさんといい箒さんといい夏祭りの時一緒だったもう1人の金髪の人といい…鈴さんや銀髪の子はそうでもなかったけど…どうしてISパイロットの人達ってスタイル良過ぎる人ばかりなんですかー!!」
――――自ら敗者であると悟った蘭が出来る事と言えば、涙目で世の中の不条理を嘆く事のみであった。
「ほ、本当にごめんなさい!人前であんな大声出して、とんでもない事叫んじゃって……!」
「いいよ、もうそんなに恐縮しないで」
「シャルロットの言う通りだ。私達も気にしていないから謝らないでくれないか?」
下着売り場を離れ、蘭を加えてショッピングモールを練り歩く一同。すごすごと逃げ出すように出ていく元凶である蘭は、我に返るやコメツキバッタみたいにさっきからペコペコ頭を下げっぱなしである。
「あ、あの、貴女は篠ノ之箒さんでしたよね!一夏さんのファースト幼馴染で、ISを作った篠ノ之束博士の妹さん!私は五反田蘭っていいます!」
「ああ、ちゃんとした自己紹介はまだしていなかったな。篠ノ之箒という。蘭の事は一夏や鈴からもよく聞いているぞ。よろしく頼む」
「はいっ、よろしくお願いします!」
改めて自己紹介を交わしながらの握手。
ちょっと千冬さんに似ているなぁ、というのが蘭が箒に抱いた最初の印象だった。日本刀の刃のような鋭さを帯びた美しさを感じさせる顔立ち。ピシリと背筋も真っ直ぐだし女剣士を連想させる雰囲気や立ち振る舞いも何だか堂に入っていて、成程一夏の心を射止めたのも無理は無いとまたも敗北感に襲われてしまう。
「(というか、そもそも一夏さんはこの人と鈴さんと同時にお付き合いしてるんだよね……?)」
こうして直に接してみると2股みたいなふしだらな真似は許さなさそうな印象なのだけれど。
「時間を食ってしまったな。そろそろ一夏への誕生日プレゼントを探すとしたいが――――そもそも、一夏は何を贈られたら喜んでくれるのだろうか」
根本的な内容であるが、それ故難解な疑問である。
一夏が喜びそうなもの―――――――………
「……トレーニング道具?」
「それはちょっと誕生日プレゼントに贈るには微妙なんじゃないかな…」
「なら着物などはどうだ?」
「悪くは無いが専門の店に行く必要があるな……」
「だ、だったら手作りの料理でパーティとか!」
「しかし皆が皆で料理というのも不味かろう」
「……なら妥当な所で腕時計か財布ならどうだろう」
「だったらあそこに時計屋さんがあるよ。行ってみよう」
そんなやり取りを経てゾロゾロと時計店へ来店。
店員は案の定一見明らかに堅気に見えないミシェルと彼に伴って入ってきた美少女3人という組み合わせに目を剥いたがすぐさま接客モードの顔で動揺を抑え込む。でも正直相手にしたくない。だって顔が怖すぎる。
ショーウィンドウ越しに商品を眺めながら顎に手を当てつつミシェルは思案する。どんな腕時計が一夏に似合うだろうか。そもそも彼はどういった腕時計が好みなんだろうか?
「ふむ、これはどうだろう?」
「うーん、一夏にはちょっと派手過ぎないかな。一夏の<白式>の待機状態は白い腕輪なんだから、それに合わせて白メインの腕時計とかどう?」
「それは悪くなさそうだが、どのメーカーを選ぶのが最も良いのだろうか。申し訳ないがそういった事には疎くてな……」
「気にしないで良いと思いますよ。私なんか携帯で十分だと思って持ってませんから」
「2人ともそれじゃあダメだよー。せっかく女の子なんだからそういう小物にもオシャレに気を配らないと。でも一夏は男の子だし、どっちかっていえば頑丈なタイプの方が向いてるかもしれないなぁ。よく特訓とか荒っぽい事してるんだし」
「そういえばミシェルさんの時計もかなり頑丈そうというか、ゴツイ時計ですよね……」
「軍の特殊部隊でも使われているタイプだからな……信頼性を第一に考えたタイプだ」
ミシェルが愛用している腕時計は『SASも採用!』との触れ込みで評判のモデルで、過剰なまでの防水機能と闇夜でもしっかり自国が確認できるように文字盤にトリチウムが組み込まれたまさに実質剛健を体現したアナログタイプの代物だ。
実際購入して以降過酷な山中演習などをこなしてきたが、故障の気配すら見せた事も無いとても信頼性の高い逸品だとミシェル自身大いに評価している。
「あのすいません、これと同じモデルの時計はありますか。色は出来ればゴールドホワイトが良いんですけど」
「はい、すぐにお持ち致します」
一旦店の奥に引っ込んだ店員がすぐさま商品を恭しく持って戻ってくる。
ベルト部分に付けられた値札を見た瞬間箒と蘭は目を剥いた。予想以上に値が張る。到底2人の手持ちでは買えないような値段だった。
対照的なのはデュノア夫婦の方であ、さっきと変わらず落ち着いた様子で戻ってきた店員と会話を続ける。
「申し訳ありませんお客様。このモデルの時計は黒かシルバーしか当店には置いてないのですが」
「うーん、<白式>も白だから出来ればもっと白いタイプの方が合いそうなんだけどなぁ……」
「でしたらこちらの時計などいかがでしょう」
「うう、こっちも高い……」
新たに店員が示した腕時計の値札を見て顔を引き攣らせる蘭。そんな彼女の様子などお構いなしに、
「どうしよっかミシェル、こっちにする?」
「……そちらも悪くは無いと思うぞ。それで構わないだろう」
「だったら決まりだね。すみません、これを包んでもらえますか。それから出来たら誕生日カードも付けて下さい」
時計代はミシェルが支払う事になった。
「別に僕の払いでも大丈夫なのに」
「……男の甲斐性だ。選んだのはシャルロットなんだ、支払い位はさせてくれ」
「そっか、それじゃあありがとうね、僕の旦那様」
「それにしてもあの時計、私のお小遣い何ヶ月分なんだろ……」
「それは私の台詞だ。高級なものはそれなりに値が張るとは知っていたが、私には手に届かない物ばかりだったな……」
「……代表候補生ともなれば公務員扱いで国から給付金が出るが……箒の場合は事情が複雑だからな……」
ちなみにミシェルの場合は実家の会社の所属パイロットとフランス代表候補生の二足の草鞋を履いて給料を二重取りしている上、男性IS操縦者としてメディアに露出した時など各方面から臨時の収入も得ていたので実家の財力を除いてもかなりの額を溜め込んでいたりする。
なので高級時計の1つや2つぐらい買ってもちっとも懐は痛まないので安心してもらいたい。
箒の立場については国際IS機関での審議が未だ定まっていないのが主な原因だが、それは一夏に対しても当て嵌まる事だった。一夏の所属も保留されたまま決定されずじまいとなっているが、本人は全く気にしていない。
最初の男性IS操縦者であるミシェルが登場した時と違って2人の立場が決まらないのは、ミシェルの実家がIS関連企業の中でも最大手でありフランス政府とも結びつきが強いデュノア社であった点が大きい。実家と国が結託してすぐさまミシェルを囲い込む事に成功した為、全世界に公表された段階で他国が干渉する余地が残されていなかったのだ。
一方一夏と箒の場合。男性IS操縦者や未だ各国の研究機関でも机上の空論でしか存在していない筈の第4世代ISの実物を手中に収める事が出来たのならばその利益は計り知れまい。故に各国は他国に出し抜かれないように睨み合いを続けている。というのも理由の1つ。
だがもう1つ、各国が安易に手を出せない理由が存在する。
平たく言えば、恐れているのだ。
『世界最高最悪の天災(マッドサイエンティスト)』篠ノ之束と、『世界最強の戦乙女(ブリュンヒルデ)』織斑千冬という名の爆弾を。
織斑一夏と篠ノ之箒。
どちらか一方だけでも手中に収めるという事は、必然的に一国どころか世界も敵に回した上で勝利しかねない存在の怒りに触れるのと同義なのである。
時計店を出た4人は丁度お昼時だったので昼食を取る事にした。近くのオープンカフェに入り本日のランチを人数分注文。
丸テーブルを4人で囲んで料理を待っていると、歯切れ悪そうにしながらも箒の方を向いた蘭がおもむろに口を開いた。
「あ、あの!箒さんにお聞きしたい事があるんですけど」
「構わないが、何を聞きたいんだ?」
「箒さんは、一夏さんのどこが好きになったんですか!?」
「ぶぐぅっ!?」
丁度お冷を口に運んだ所だった箒は盛大に噎せた。その反応に慌てる蘭。
「だ、大丈夫ですか!?」
「ゲホッ……あ、ああ平気だ。そうか、鈴からも聞いていたが蘭も一夏の事が好きだったのだな……」
蘭が思いを寄せていた彼の恋人自身の口から言葉にされた途端、蘭の胸中が刃でなぞられた様な痛みに襲われたが表に出さないようグッと抑え込む。
今の蘭は敗者なのだ。けど敗者は敗者なりに意地があるし、せめて自分の敗因や一夏に選ばれた相手がどういった人物でどういった理由で彼が好きになったのか、その辺りをハッキリ教えてもらわなければ気が済まないのだ。
……敗因については顔とか胸とか性格とか思い当たる節は山ほどあるけどそれは置いといて。
「……(わくわくどきどき)」
「な、何だシャルロットその目は!?どうしてそんなに身を乗り出してくる!」
「えー、だって僕も気になるんだもん。僕も聞きたいなー、箒は一夏のどこが好きになったのか」
そういえばシャルロットもこういう話題にはかなり食いつくタイプだったなと箒は戦く。
ストッパー役を期待してミシェルにアイコンタクトを送るが返ってきた答えは『かまわん、やれ』。どこの吸血鬼だ貴様。お前もこういうのが実は好きなのか顔に全く似合ってないぞ!
蘭は蘭で冗談っ気は感じられず、本気で知りたいからこそこうして直接問いかけてきたのだろう。ここで誤魔化しては礼儀に欠ける。
1つ溜息を吐いて心を落ち着けてから、告白を始める。
「一夏が好きになったきっかけは――――私が幼い頃、唯一ちゃんと私に接してくれた異性だった事がそもそもの発端と言えるな」
「そうだったの?」
「ああ、昔からこんな言葉遣いと性格だったせいで男子にからかわれてばかりでな。そんな時はいつも一夏が私の助けに入ってくれたのだ。それに一夏も千冬さんと一緒に私の父が開いていた道場に通っていてな、いつも3人で切磋琢磨していたものだ」
「そうだったんですか。でも千冬さんも箒さんの道場に通っていたって事は、箒さんのお父さんもとっても強かったんですよね」
「その通りだ。幼かった私の身内贔屓もあるが、その頃は父に並ぶ者はないと思うほど強い方だった。厳しい人物だったが今も私は父、それに一夏や千冬さんに並ぶ位強くなりたいと思っている。云わば憧れの存在だな」
「……俺も1度会ってみたいものだ」
「そうだね、僕も箒のお父さんがどんな人か会ってみたいなぁ。
友人達からのそんな言葉に箒は満足そうに頷く。
「とにかくきっかけはそんなところだが、本格的にもっと密接な関係を望むようになったのはやはりIS学園で再会してからになるな」
「あの時の箒の反応は面白かったよね。ミシェルと一夏が話しに教室から出ていったらこっそり後を追いかけてたりしてたもんね」
「そ、それはシャルロットも同じではないか!」
「『一夏をミシェルに取られちゃう!』って変な妄想してたのは箒の方でしょ?」
「当人が目の前にいる時にそういった話はどうかと思うぞ……というか尾行していたのか2人とも」
咳払いで誤魔化す箒。その顔は微妙に赤い。蘭はといえば箒にジト目を送っている。
「ともかく、再会した一夏は最後に会った時から私の知る一夏と全く変わっていなかった。それどころか剣の腕は私よりも遥か高みに達していたし、弱きを助け強きを挫く性格もそのまま、その上、その、昔よりもか、カッコよく逞しい男になっていてだな……」
「……で、ムラムラしてつい一夏に襲いかかったと」
「まさかの痴女!?」
「誰が痴女だ誰が!」
戦慄の蘭吠える箒。そしてミシェルはむっつり顔のまま更に引っ掻き回す。
「しかし『箒の方から迫って来て我慢の限界だった』と一夏から聞いているが……」
「一夏ぁー!?」
「ふ、不潔です箒さん!見損ないました!」
「ち、違うのだ!年頃の男ならこうすれば悦んでくれるとシャルロットから教えてもらったから私は!」
「まさかの共犯!?」
「い、いやぁ、ミシェルにも同じ事をしてあげたら凄く嬉しそうにしてくれるから、箒も一夏の事が本気で好きなのは見れば分かってたし、一夏も箒の事は悪く思ってないみたいだったから大丈夫かな~って……えへ」
「『えへ♪』じゃありませんよ!スッゴイ綺麗だし貴公子みたいな感じだしで良い人だなって思ってたのに、まさかシャルロットさんがそんな人だったなんて!」
「……やはり蘭はツッコミ属性か」
「ミシェルさんも真面目な顔して変な事言わないで下さい!っていうかもしかしてその顔でムッツリスケベなんですか?そうですねそうなんですね見損ないましたよ!」
「……シャルロットが可愛過ぎるのが悪い、とだけ言わせてもらおう」
「もう、ミシェルってば」
「普通にのろけられました!」
「すいません、ご注文の品をお持ちしたのですが……」
終われ。
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気が付けばこんなノリに。全ては空腹が悪いんや…
いまからチャーハン作って食ってきます。