世界が揺れる感覚によってマドカは現実に覚醒を果たした。
「・・・・・・・・・・・・」
最初に見えたのは全く知らない天井。天井の高さに内装、耳と全身が感じ取ったエンジンの響き方や揺れ具合から車に乗せられて運ばれているのだとすぐさま理解する。
受動系なのは、目覚めてすぐに自分が四肢を手錠と分厚い革製ベルトによってストレッチャーに縛り付けられている事に気付いたから。点滴が天井から吊り下げられ底部から伸びるチューブがマドカの腕まで伸びている。
自分は今拘束され、どこかに輸送されているのだ。
「・・・・・・っ!!」
身体に思うように力が入らず―恐らく筋弛緩剤の類でも打たれたのだ―全身をベッドに縛り付けられていなかったら、マドカは自分自身を強烈に殴り飛ばしていたに違いない。
「何て――――無様な」
ずっと殺してやりたいと憎み続けた相手・・・・・・多少武術を嗜んでいても所詮血で血を洗う命のやり取りも知らないような軟弱な男に苦戦した挙句、武器すら持っていなかった存在相手に叩きのめされ、今こうして敵の手の中に捕らえられているこの現状。自分で自分の頭をレーザーライフルで撃ち抜いてやりたいぐらいだ。
ずっと自分はその為だけに生きてきたというのに。
革製ベルトが額の辺りを押さえつける形で固定しているので、頭部すらも自由に動かす事が出来ない。
僅かな角度ではあるが無理矢理顔を横に動かすと、視界の端に僅かだが自分と同じようにストレッチャーに縛り付けられているオータムの姿があった。やはり向こうも向こうでもう1人の男性IS操縦者に倒されたのだろう。
彼女の方はまだ目覚めていない。彼女の腕にも点滴のチューブが。中身は両方とも空だ。恐らく点滴の中身は意識を失わせておく薬品で、マドカが先に目覚めたのは体内のナノマシンの影響と推測する。
彼女のナノマシンは主にマドカを見張る為の『首輪』だが、エンドルフィンやアドレナリンなどを分泌させるよう身体に働きかけたり自白剤の投与に備え薬品の分解を促進する機能も有している。点滴で持続的に薬を投与されていたがそれが無くなり、ナノマシンを持っている分マドカの方が早く覚醒できたのだろう。
男とみれば好き勝手に罵詈雑言大言を吐き散らしていたくせに無様な、という思いが一瞬浮かんだが、自分もこの同僚と大差ない事にすぐに気づき唇を噛み締めた。
――――彼女もまた自分と同じ敗者。
裏世界の敗者の行く末は決まっている。遅かれ早かれ待っているのは死だ。時間の違いも拷問をされるか否かの違いでしかない。
「(回収に来る可能性は・・・・・・半々といった所か)」
使えない人間はトカゲのしっぽ切りが鉄則の裏世界だが、自分やオータムともなれば『亡国機業』も流石に見捨てられはしまい。そうマドカは判断する。
何せ自分達は組織の中でも貴重なIS操縦者。おまけにマドカ自身はあの織斑千冬のクローン。
「(私を切り捨てるならばとっくにナノマシンを遠隔操作して心臓を止めている筈だ。その上で私の死体を強行的にでも奪うなり手がかりが残らないように灰にするに決まっている)」
そうなっていないという事は、組織がまだマドカを生かしておきたいと考えているの証。
遅かれ早かれ『亡国機業』の手の者が――――そこまで考えた矢先、盛大なスキール音を響かせてマドカとオータムを乗せた車が急停止した。
次の瞬間、分厚い車体を突き抜けた爆発音によってズシンと細かく車体が震えた。それが30秒ほど続き、合間合間に銃声や悲鳴が外であがったかと思えば不意に止む。
その原因が『誰』なのか、マドカは本能的にその正体を悟った。オータムの恋人であるあの金髪の女。今のマドカの『首輪』の手綱を握る人物。
足元の方から金属が無理矢理分断させられる破砕音が響いてくる。マドカ自身の意思でそちらの方を見る事は出来ない。
やがて一際耳障りなやかましさと共にオレンジ色の光が車内のマドカとオータムの姿を照らした。光の正体は外の道路一帯で炎上している車両だ。
乗員ごと燃え盛る車をバックに背負った人物が2人の乗せられた車両の中へ乗り込んでくる。その正体は案の定、
「スコールか・・・・・・」
「元気そうね、エム。オータムの方はまだ眠り姫のままみたいだけれど」
金髪の女、スコールが蠱惑的な微笑を浮かべてマドカを見下ろしていた。マドカとオータムを輸送する車両には重武装の警備部隊が張り付いていただろうに、彼女が纏っている赤色の高級スーツは汚れ1つ付いていない。
唐突にマドカを拘束していた革製ベルトが一斉に切断された。それどころかスコールはマドカに指1本触れていないにもかかわらず鋼鉄製の手錠まで切断される。その切断面は信じられないほど鋭利で、角に触れただけでも切れてしまいそうなぐらいだ。
スコールがオータムの方を向く。彼女を雁字搦めにストレッチャーへ押さえつけていた革製ベルトと手錠から解放されても、オータムは目を空けなかった。
「本当お寝坊さんね――――――んんっ」
するとスコールはマドカの見ている前でオータムの唇を奪った。肉感的な唇同士が触れ合い、かと思えば次の瞬間にはスコールの下が蛇のようにオータムの唇を割って侵入を果たす。
反応は劇的で、何度も周りで爆音が轟いていたにもかかわらず全く身動ぎしなかったオータムの肢体が何度も震えたかと思うとやがてゆっくりと目を開けた。ようやくスコールの頭が離れ、2人の美女の唇にかけられた唾液の橋が炎の光を浴びて紅色を帯びる。
「スコー・・・ル・・・ここは一体・・・・・・」
「ようやく目覚めたわねオータム。驚いたわよ2人とも、まさか自信満々で任務に出た貴方達が揃って敵の手に落ちちゃうなんて、まったく想像してなかったわ」
色っぽく笑ったままの恋人にそう説明されたオータムはようやく今の自分の状況に気付き、顔が怒りと羞恥で赤く染まってから次いで赤から青に顔色を転じて申し訳なさそうな表情になる。
マドカの知る限り、オータムがこんな姿を見せる相手はスコール以外に全く存在しない。
炎の爆ぜる音とアイドリング状態のエンジンの振動、3人の声以外しか存在しないこの場に新たな音が加わり、マドカの元に届く。エンジン音だが車の者ではない。これはヘリの音だ。それも中型から大型の輸送ヘリ。強烈な風が車内にも吹き込みスコールの服と髪を揺らす。
「丁度良かったわ。貴方達とISがまとめて同じルートで輸送されていたお陰で余計な戦力を裂かずに済んだもの」
着陸した輸送ヘリから戦闘服に身を包んだ『亡国機業』のメンバーが次々降りてきて素早く散開。一部がマドカとオータムをストレッチャーごと車から降ろしてヘリへと運びスコールがそれに付き従う。
マドカ達が乗せられていた車両とは別にもう1台無傷のまま残された大型のトレーラーがあった。それに別のグループが取りつき電子ロックを解除して中身――――起動状態のまま機材にロックされているマドカとオータムのISを運び出していた。
オータムの<アラクネ>はその特徴である装甲脚が何か所か失われていたが<サイレント・ゼフィルス>の方はもっと酷い。装甲の大半が破損、または高熱で焦げ明らかに交換が必要な有様だ。内部へのダメージも少なくないであろう事も一目で判る。
「酷いダメージね。せっかく強奪したばかりの最新鋭機なのに、これじゃ次に予定されていたアメリカでの作戦も中止せざるをえなさそうね。ここまでの損害が出たとなると責任を追及しなきゃいけないかもしれないんだけど」
「・・・・・・・・・・」
「お、オータムそれは・・・」
「ふふ、そんな顔しないで。少なくともあの男性IS操縦者の戦闘データが2人分手に入っただけでも収穫だもの」
スコールのからかい混じりの慰めの言葉ももうマドカには届いていない。
次こそは必ずあの男、織斑一夏を――――――
「――――・・・とまあ、こんな感じで件の2人とISを奪った『亡国機業』のヘリはその後自衛隊と在日米軍の防空網からもすり抜けて、結局足取りは今も不明です」
「だからせめて犯人とISだけでも別々に護送した方が良いと言ったんだ・・・」
「あはは、だけど日本政府に引き渡した時点で我々(IS学園)の手から離れてますから、こっちに責任追及が回ってこないだけマシだと思いますよ?」
「開発元であるイギリスとアメリカに引き渡すついでに機体データをさっさと手に入れようと焦るからそうなるんだ。だが2人を捕らえてから数時間足らずで護送が行われたというのに即座に奪還してみせるとは、連中の情報網や組織力は得体が知れないな」
IS学園の寮長室にてそんな会話をしているのは、部屋の主である織斑千冬とIS学園最強の生徒会長こと更識楯無。
学園祭に侵入してきたオータムとマドカ、並びに2人の機体がまとめて『亡国機業』によって輸送中に再奪取された事件は非公式ながら2人の耳に届いている。
「<アラクネ>と<サイレント・ゼフィルス>、どちらの機体も一夏君とミシェル君との戦闘によってそれなりに破損してましたし、強奪した機体ではあっても予備パーツそのものは数が少ない筈なのでまたすぐに2人にリベンジしてこないとは思いますけど油断は出来ないでしょうね」
兵器を強奪した上で運用しようと目論んでも、予備パーツが無ければすぐ使えなくなってしまう。最新鋭機なら尚更だ。
しかも機体数そのものが制限されているISともなれば、予備パーツの流通も極限られている。ISの強奪すらも実行可能な組織力を誇る『亡国機業』といえど機体を完全に修復できるまでには時間がかかるだろう。
「だがこうなった以上あの連中が持っていた『小道具』を渡さないで置いたのは正解だったな」
「その通りですね。対IS用強制解除装置<リムーバー>、あれがもし使われていたら一夏君もミシェル君もどうなっていた事やら。一旦使用すると同じISには耐性がついてしまうという欠点がありますけど、使われずに済んで本当に良かったですね」
「問題は未だどの国も実用化に至っていない筈のこんな代物を、何で高々犯罪者連中が完成品を持っているのか、だな」
<リムーバー>をマドカとオータムが所持していた事を報告・提出しなかったのはこれ以上各国を刺激させない為である。
下手に報告していれば今度は<リムーバー>争奪戦が世界の表裏問わず勃発しかねない。『亡国機業』という厄介な謎の組織がもはや実体を伴って脅威を広げつつあるというのに、無駄な争いを繰り広げて『亡国機業』の正体追及に手を抜かれては堪らなかったのだ。
眉根を寄せて眉間を押さえる千冬。しかし彼女にとって何より頭が痛くなる問題がまだ残されていた。
「だが私が特に気にしている事はといえばだ――――やはり『アイツ』はそうなのか?」
「・・・・・・ええ。採取した細胞を遺伝子検査にかけた結果、100%一致しました。ほぼ間違いありません」
目上の相手にしか見せた事が無い神妙な表情を浮かべて、楯無は千冬に向けて頷いて見せる。
「侵入者の1人・・・・・・織斑マドカは織斑先生の遺伝子によって生み出された先生のクローンです」
「(よくよく考えてみれば、ラウラみたいな生まれの人間だっているんだから千冬姉のクローンも生み出せる事も可能なのかもしれないよな多分)」
ご飯茶碗片手に一夏はそんな実は正解である推論を立てながら真正面に座るラウラの顔をじっと見つめる。
それに気づき、ふむと漏らしてからラウラは丁寧にマスタが巻きつけられたフォークを一夏に突き出した。
「私のパスタが食べたいのか?ならば私が直接嫁に食べさせてやろう」
「いや別にそういうつもりで見てたんじゃないからな」
「むう、そうか。それは残念だ」
「「残念がらんでも(なくても)いい!」」
残念そうなラウラの言葉に突っ込む箒と鈴。席は一夏の両サイド。
ラウラの両隣りにはセシリアと簪、更に簪の横にはミシェルが座り長方形のテーブルを挟んでシャルロットと向かい合うという構図。
これが食事を取る時の最近の並び方。いつもと変わらず美味しい食事―――――だけど一夏は楽しんで味わえないでいる。
一夏もミシェルも『襲撃を受けて撃退した』程度の内容しか少女達には告げていない――――襲撃者が自分を誘拐した犯人の仲間でしかも1人は敬愛する姉と同じ顔、同じ姓を名乗っていたという話題は一夏個人に深く関わり過ぎる問題であって、幾ら恋人や友人であろうともおいそれと白状する気には流石の一夏もなれずにいた。
「どうしたのだ一夏。最近しょっちゅうボーっとしていて、お前らしくないぞ」
「悪い悪い、ちょっと考え事をさ」
「・・・・・・やっぱり例の襲撃の事に関してなんじゃないの、アンタの悩み事って」
「ギクッ」
「・・・・・・本当に『ギクッ』って自分で言っちゃう人初めて見た」
「気持ちは分かるが今は触れないでおいてやってくれないか簪・・・・・・」
バレバレな一夏の反応にヒロインズ一斉に溜息。
「緘口令が敷かれていますので私達にも殆ど情報が回って来ていませんが、一夏さん、1つだけ教えていただけませんか?」
「えっと、内容によるけど」
「・・・・・・賊の1人が用いた機体はもしや<ブルー・ティアーズ>2番機である<サイレント・ゼフィルス>ではありませんでしたか?」
一夏の視線が一瞬だけミシェルの方を向く。彼が頷くと一夏は肯定してみせた。
「何で分かったんだ?」
「学園祭が終わった直後、本国から緊急の通信が入りましたの。直接的に教えて頂いた訳ではありませんが<サイレント・ゼフィルス>が本国から強奪されたことについてはわたくしも知っていましたし、何よりチラリとですが偶然教員達が件の更衣室から残骸などを運び出しておられたの目撃しまして、その中に<ブルー・ティアーズ>に用いられているのと同型のパーツが混じっていたのがたまたま目に留まりましたの。それでピンときましたわ」
それなら合点がいく。<打鉄>や<ラファ―ル・リヴァイヴ>のような量産型でもない限り基本ISのパーツはオーダーメイド。同系統の機体を与えられているセシリアだからこそ一目で察せたのだ。
「無人ISの次は侵入者、しかも強奪された機体持ちとか出鱈目にも程があるわね。それに学園のセキュリティって本当に大丈夫なのか不安になるわ」
「・・・・・・実を言うと一応その侵入者が学園周辺に潜伏していた事までは織斑先生達も掴んでいたみたいだがな。侵入されてからもすぐ気づいていたし」
「そうだったの!?だったら何で僕達にも教えてくれなかったのさ!」
「・・・・・・自分の女をこちらから危険に巻き込む気にはなれない」
ハッキリと臆面もなくそんな宣言を愛しの旦那様に言われてしまってシャルロット赤面。
箒と鈴の方はジト目でもって無言の抗議を恋人に送り、一夏は居心地の悪い視線に挟まれて椅子の上でたじろぐ。
「ま、まあ俺もミシェルと同じ意見というか、狙われてるのは俺とミシェルなんだから関係無い皆を危ない目に巻き込む訳にもいかなかったし・・・・・・」
「「・・・・・・・・・」」
「あだっ、つっ、ちょ、無言で足踏んでくんなよ!」
机の下でどったんばったんと騒ぐ事しばし。
胡乱げに細められた箒と鈴の視線がラウラに移る。銀髪眼帯の軍人少女は優雅に食後のエスプレッソを啜っていた。
「ラウラも何で黙ってたのよ?」
「聞かれなかったからな。それにこういった事態においては機密保護の為関係者以外に情報を流さないのが鉄則だ」
しれっと正論で返されてはぐうの音も出ない。猫っぽい唸り声を上げながら鈴は消沈してしまう。
すると今度は簪が口を開いた。どこか呆然と複雑な感情が入り混じったような表情と声色だった。彼女は箸を置きながら、
「じゃあお姉ちゃんが織斑君の部屋に居たのもその為・・・・・・?」
「ああ会長が言うには護衛の為だったらしいぞ。でもやっぱり裸エプロンはやり過ぎだって千冬姉に怒られてたけど」
「そうだったんだ・・・・・・」
真実を聞かされて色々と思所があるようだ。
あの時感情に任せて『お姉ちゃん大嫌い』発言を簪が放った事により、しばらくの間会長が使い物にならなかったと本音や虚から教えてもらった。
今となっては謝りたくもあり、だがコンプレックスの対象である姉に対し素直に頭を下げる気になれなくもあり、簪は黙って悩み込みだしてしまう。楯無に対して簪が気に病んでいるようなのは傍から見ているだけの一夏達にも感じ取れた。
場の空気が微妙になってきてしまったので、ミシェルは換気をすべく話題の転換を図る。
「・・・・・・ところで、そろそろキャノンボール・ファストが近づいてきているな」
キャノンボール・ファストーーー――要はISを用いた妨害ありのレースの事だ。
元は国際試合として行われるのだが、IS操縦者を育てている場だけあって学園行事の一環として市の主催でIS学園も毎年学年別対抗に開催している。本来の国際試合ほどの規模ではないが、市の特設競技場にて各国の関係者のみならず一般客も招待されて行われる位には大きなイベントだ。
公衆の面前で行うので必然当日の緊張感はクラス対抗戦や学年別トーナメントよりもより大きいものになるだろう。何せ失敗すれば即一般に知れ渡る事になるのだ。実際一夏と箒を除いた代表候補生の面々は本国から色々とせっつかれている。
幾ら業界内で幅を利かせていても、世間の声が一気に傾いてしまえば小さな優位など軽く吹き飛んでしまうのだから。
「そうだな、明日からはキャノンボール・ファストに向けての高機動調整も授業でやるらしいし。でもあれって具体的には何やるんだ?」
「基本的には高機動パッケージのインストールだが、お前の<白式>には無いだろう」
「・・・・・・その場合は駆動エネルギーの分配調節、それに各スラスターの出力調整になる」
ラウラの説明を簪が補足。なるほどと一夏は頷く。
「セシリアの高機動パッケージってアレだよね、臨海学校の時にも使ってた<ストライク・ガンナー>だっけ?」
「・・・・・・その通りですわ。臨海学校では十全の能力を出せたとは到底言いがたい内容ではありましたが、今度は高機動戦闘用パッケージとしての能力を完全に引き出して見せますわ!」
「そっか、そりゃ楽しみだ」
「高機動パッケージといえば、僕の方は増設ブースターを取り付ける程度で済んじゃうけど、ミシェルの法は専用パッケージが開発されてるんだよね?この間実家の技術者の人から僕のと一緒に高機動パッケージも送りますってメールが届いてたけど」
そりゃ重装甲と豊富な火力と引き換えに機動性を犠牲にした<ラファール・レクイエム>ならば動力系や足回りの調節程度ではキャノンボール・ファストで勝利する事はかなり難しいだろう。
「それは興味深いな」
「私も気になる・・・・・・どんなパッケージなの?」
「・・・・・・企業秘密、と言いたい所だが別に構わないか。基本高火力と<レクイエム>に足りない機動力・・・・・・特に最高速度の引き上げを両立させたパッケージになる」
「火力の高さを維持したまま機動力を向上させるのか。それは中々厄介になりそうだ」
「良いわね、アンタらん所は高機動パッケージが完成してて。うちの国なんか何やってんだか。結局<甲龍>用高機動パッケージ間に合いそうにないし」
「・・・・・・それを言うなら私の機体なんかほったらかしにされてた」
「う゛っ゛、ご、ゴメン」
「・・・・・・今のは冗談。皆のお陰で今度の行事には出られると思う」
流石に専用のパッケージや増設ブースターも追加できる余裕はなさそうだが、<打鉄弐式>はミシェル達の助けを借りてほぼ完成している。後は実機テストを重ねて各部の細かいすり合わせを行っていく程度だ。
ようやく自分も専用機関連の行事に参加できるとあってか、心なし簪も上機嫌そうである。
「だがしかし、今更こんな指摘しても手遅れなのは分かっているが、他国の代表候補生である我々が日本の代表候補生の専用機の開発に手を貸して良かったのか?」
「・・・・・・元々<打鉄弐式>完成のネックになっていたのはFCSなどの各火器の運用データや稼動データの部分だ。機体そのものに他の専用機の武装やパーツをそっくり流用した訳でもなし、ソフトに関してはこちらからわざわざ申告しなければ幾らでも誤魔化せるだろう。
――――それに新たな男性操縦者が現れたとはいえ、自国の代表候補生の専用機の開発を凍結したのははあちら側だ。そこまで図々しく文句は言えまい・・・・・・多分だがな」
「そうなる事を祈ろう、せっかく皆の力で完成させる事が出来たのだからな。良かったな簪。だがだからといって手は抜かないぞ?」
「望む所・・・・・・ようやく皆と同じ舞台に立てるけど、手加減はいらない」
この中で特に簪と仲が良い箒の不敵な宣言に、しかし簪も決して退く事無く強気に言い返す。
仲間との会話はよく騒がしくなってしまうけれど、楽しくもあり、嬉しくもあり、毎日の楽しみでもあり。
――――――けれどやっぱり。
「ゴメン、俺もうこれぐらいで良いや」
「もう戻りますの一夏さん?」
「ああ、何だかちょっと食欲が無くてさ」
皆の心配するような視線から逃げるように一夏は席から立つ。
彼女達はその背中を痛ましさすら漂う目つきでもって見送る事しか出来なかった。
それから一斉にミシェルへと顔を向ける。『亡国機業』による学園祭襲撃の際、一夏と同じくもう1人の当事者である見た目はオヤジ中身もオヤジ(精神年齢的な意味で)な少年へと、お願いだから白状してと言いたげな目で。
丼に残っていたご飯をかっ込んでいたミシェルは口の中を空にするまでたっぷり周囲を焦らせてから首を横に振った。
「・・・・・・大体の見当はついているが、こればっかりは一夏に勝手に言う訳にはいかない。すまないが俺に言えるのはこれだけだ」
「私達にも言えない事って何なのよ一体!」
「落ち着いて下さいな鈴さん。今この場で騒いでも意味はありませんことよ?」
「ううううう~~~~~・・・でもアイツ、この分だともうすぐ自分の誕生日なのも忘れてんじゃないかしら」
―――――少女達の悩みも、しばらくは尽きそうに無い。
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追試&国試の気晴らしに書いてますがどうにもこうにもテンションがいまいちです。勉強的にも小説書き的にも(早いペースで書いといてなんですが)こりゃヤバイ。
原作に沿っているのか沿ってないのか微妙によく分からない内容ですが、これからも読んで頂ければありがたいです。
・・・これとチラ裏のオリジナルと皆さんが続き期待してるのはどっちなんだろ?