「け、けけけ、決闘ですわー!!」
・・・・・・どうしてこうなった。
2時間目が終了時点で早くも一夏は死にそうになっていた。授業の内容の半分以上がチンプンカンプンなお陰で頭がパーン!となりそうな意味で。
「あーうーあー・・・・・・」
「(先程は話しかけそびれてしまったが、今度こそ!)」
机の上にへたばってる一夏とは対照的に1人決心して気合を入れているのは箒。その気合の入れっぷりは巌流島目指して決闘へ赴く宮本武蔵が如し。
いざ、と勢い良く席を立ち上がって幼馴染の元へ向かい、
「ちょっといい――――」
「なーミシェルー、お前さっきの授業理解出来た?」
「まあ、な・・・・・・ISが使えると判明してからすぐに叩き込まれた内容ばかりだったからな」
お目当ての人物当人から和解したばかりの友人とお喋りを開始したせいで思いっきり出鼻を挫かれた箒は勢い余って机に弁慶を強打。そして悶絶。
どうやら武蔵は巌流島に辿り着く前に船が転覆してしまったらしい。
「つーかマジあり得ないだろ。俺ん家に学校から参考書送られてきた来たんだけどさ、電話帳かっつーのあの厚さ。信じられるか?」
ちなみにそのせいで危うく古い電話帳と思って捨てそうになったのは一夏だけの秘密だったりする。
「あはははは、でも織斑君ってISが使えるようになったのはほんの1ヶ月ぐらい前なんだよね?それぐらいしか予習する時間が無かったんなら仕方ないよ。僕達の場合はもっと前から猛勉強してきたんだしね」
「そう言ってもらえるだけでもありがたいよ・・・・・・えっと、確かシャルロットだっけ?」
「うんそう、シャルロット・デュノアっていうんだ。よろしくね。シャルロット、って呼んでくれて構わないから」
「それじゃあ俺の事も一夏で構わないぞ。よろしくな」
そういってから、失礼だとは理解しつつもしばしシャルロットを上から下までじっくり眺め、
「・・・・・・にしてもミシェルのお嫁さんかぁ。とりあえずおめでとう、って言った方が良いのか?」
久しぶりに再会した友人は所帯持ちでした、と言うだけならどうという事ないが、高校生になったばかりでそうとなるとどう反応すればいいのやら。
・・・・・・そもそもミシェル自体高校生に全く見えないしなあ、とは口に出さないでおく。本人気にしてるし。
それにしても可愛いお嫁さんである。しかも普通に人前なのに「えへへー、ありがとう」とか言って旦那様に抱きついてみせた。身長の割にたわわに実った膨らみがハッキリとミシェルの腕に押し付けられている。うん、もげろ。
もしこの場に一夏の腐れ縁の友人である某赤毛の少年が居たら、一夏に同意しつつもこう言ったに違いない。
お前が言うなこのフラグブレイカ―。これまで異性(美女・美少女)と幾つフラグを立ててはそげぶしてきたよ、と。
「・・・・・・とりあえず籍はフランス政府が特例でとっくに公認してくれている」
「へー、結婚式とかは?もうやったのか?」
「そこら辺は卒業してからになるけど、どうしようかまだ考え中かな。僕もミシェルも盛大に目立ったりとかあまりそういう事には興味が無いけど、むしろ周りがね」
「あーほっとかないよなぁ。それ分かる。俺もIS動かしてから取材とかでてんやわんやでさ、おちおち買い物にも出れなくて・・・・・・」
和気藹藹とした雰囲気を振り撒く一方で、激痛に悶えたまま動けない箒の存在に3人は誰も気付かない。
正確には一夏が周囲を取り囲む女子生徒達の興味の視線から精神の平衡を保つべく、会話を続ける事で全力で無視し続ける方針を取った事によるとばっちりだった。箒よ、恨むならクラスメイト達を恨んでくれ。
流石の少女達も(主にミシェルの顔のせいで)そうそう近寄る気にはなれず、遠巻きにヒソヒソと交わすのみ。
・・・・・・内容は主にミシェルとシャルロットの関係について。耳年増な思春期の少女達にはイクとこまでイッてるバカップルの話だけでも十分なネタだったのは、然程話題にされずにすむ一夏にとっては幸いか。
――――そんな均衡を破る少女が1人。
「ちょっと、よろしくて?」
「へ?」「えっ?」「むっ?」
声のした方に一斉に向く。途端にちょっと顔を引き攣らせる少女。正直、ミシェルの顔と真正面から直面しただけで微妙に逃げ腰だったリする。
そんな内心を必死におくびに出さず、その金髪立てロールの白人お嬢様は堂々と胸を張った。
「(この人、確かイギリスの・・・・・・)」
「(誰だコイツ?)」
「(・・・・・何というテンプレなお嬢様。実在してたのか)」
「き、訊いています?お返事は?」
「えーと、まさか俺に言ってるの?」
「まあ!なんですのそのお返事。わ、わたくしに話しかけられるだけでもこ、光栄なのですから、それ相応の態度というものをですね・・・・・・・」
キョドってる、もの凄いキョドってる。一夏には偉そうにしつつもチラチラとミシェルの方を見る度どんどんと言葉に勢いが無くなっていく。
さっさと話進めてさっさと終わらせるか、と一夏は決心し、少女の問いに答える。
「悪いな。俺、君が誰だか知らないし」
「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補生にして入試主席のこのわたくしを!?」
「・・・・・・代表候補生ってなんだっけ?」
がーんと効果音が鳴って聞き耳を立てていたクラスの女子達がどんがらがっしゃん。
聞かれたバカップルは困った顔を浮かべながら簡潔かつ分かりやすく説明してくれた。
「読んで字の如く、国家代表IS操縦者の候補生って事だよ。一応僕とミシェルもその代表候補生の一員なんだ」
「そう、エリートなのですわ!」
何故か一夏相手にふんぞり返る時だけは威勢が良い。
「・・・・・・シャルロットはともかく、俺の場合は国や会社の宣伝で祭り上げられた節もあるがな」
「そんな事ないよ。軍の人達はミシェルの事を高く評価してくれてたし、入試での山田先生との模擬戦で勝っちゃう位強いんだから」
シャルロットの場合は持久戦にもつれ込んだ結果時間切れによる引き分けである
言葉の内容にセシリアが目を見開いた。
「わ、わたくしだけと聞きましたが?」
「それってもしかして『女子では』、ってオチじゃないのか?大体それなら俺も倒したぞ、教官」
「一夏も勝っちゃったの!?やっぱり男の子でIS使えるだけあって一夏も凄いなあ」
「いや、倒したっていうかいきなり突っ込んでかわしながら足引っかけたらそのまま壁にぶつかって動かなくなっただけだったんだが」
「つ、つまりわたくしだけではないと・・・・・・それも男が2人も教官に勝っていたと・・・・・・」
俯き気味にフルフルと震えだしたセシリアの様子に(あ、これヤバくね?)と感じたのはデュノア夫婦だけで知らぬは一夏のみ。
そしてついに爆発か、と目を三角にしたセシリアが顔を上げたその瞬間、
キーンコーンカーンコーン
3時間目開始のチャイムという名の水をぶっかけられて不発に終わる。しかし未だ忌々しげな表情を浮かべたままのセシリアの様子からして先延ばしになったに過ぎなさそうだ。
「また後で来ますわ!逃げない事ね、よくって!?」
「・・・・・・厄介なのに目を付けられたな」
離れていくセシリアの背中を見ながらポツリと呟かれたミシェルの言葉を聞いて、更に余計な気苦労をしょい込んだと悟った一夏はガックリと机の上に脱力した。
――――その5秒後、強烈な姉の一撃で強制起動させられる未来を一夏はまだ知らない。
クラス代表戦とは、読んで字の如くクラスの中から選ばれた代表者同士間によるちょっとした模擬戦の事である。
クラス代表そのものは代表戦に出なければならない事を除けばよくあるクラスの委員長と変わらない。そんな感じかなと一夏が受け止めているとどういう訳か他の女子に一夏自身が推薦されてしまった。
「では候補者は織斑一夏――――他にいないか?自他推薦は問わないぞ?」
「(クラス代表戦か・・・・・・生徒会とかの仕事はめんどくさいけど、腕試しのつもりで代表戦はやってみたいな)」
自分1人で鍛えるよりも誰かを相手に鍛練を行った方が互いに高め合う事になる為に余程鍛えられる、というのは当たり前の考えだ。
腕っ節には自信があってもISに関してはまだまだ素人以下、と一夏は理解している。自分が覚え磨いてきた技術がIS戦にも通用するかを確かめる絶好の機会だし、負けたら負けたで何処が悪いのかチェックして潰していけばいい。自分の力量を図るには丁度良かった。
そう判断し、このまま立候補を取り下げない事にした。どっちにしたって千冬姉は厳しいし横暴だから『他薦された者に拒否権などない』とか言って―――――
スパァン!
「今余計な事を考えたな。それから『織斑先生』と呼べ」
「何でいつも俺の考え読めるんだよ・・・・・・」
「さて、他に立候補する奴は――――デュノアもか」
「待って下さい!納得がいきません―――――えっ?」
勢い良く甲高い声が上がったと思ったら即座に尻すぼみになった。
上半身を捻って声の出所を見ようとしたら、隣のミシェルと目が合う。彼の片手は掲げられていて、なんだミシェルも自分から立候補したのかと特に考えずに受け取る。
で。声を上げた本人であるセシリア・オルコットは、机を叩きながら立ち上がった姿勢のまま一夏とミシェルの間を目線を行ったり来たりさせていた。
なんだか鳩が豆鉄砲どころか戦車の主砲でもくらったかのような唖然呆然愕然とした表情。ミスりましたわー!という彼女の内心が聞こえてきそうだ。
一旦咳払いをしてから、セシリアは滔々と自分の意見を述べ始めた。なるべくミシェルを視界に捉えないよう必死に努力しながら。
曰く、そのような選出は認められません、だの。男がクラス代表などいい恥さらし、だの。このセシリア・オルコットにそんな屈辱を1年間味わえというのか、だの。
一夏とミシェルへの侮辱か喧嘩売ってるか以外の何物でもない。
「そ、それにですね、実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然!それを物珍しいからという理由で極東の猿に――――」
「今、何と言った?」
ミシェルが席を立った。その巨体が立ち上がるだけで周囲の女子からしてみれば十分な威圧感を覚えるが、彼が突如放ち始めた剣呑な気配によって、更に一回り大きくなったような錯覚を覚えた。
「・・・・・・幾ら女が相手でも、友人をそこまで侮辱されて我慢できるほどおおらかではないぞ」
ただでさえ鋭い眼差しが細まり、剣の切っ先もかくやな鋭利さとそのすぐ下で燃え盛る怒りを孕んだ視線に貫かれたセシリアはビクン!と、目に見えて震えだす。
セシリア・オルコットは男が嫌いだった。もっと言えば、情けない男が大嫌いだった。
そしてセシリアは情けない男しか知らなかった。父親は母親共々事故で死ぬまで母親の顔色ばかり伺ってへーこらしている様な人間だったし、両親の遺産を金の亡者から守る為IS操縦者となってからも立場ゆえか会う男会う男がほんの10代半ばのセシリアのご機嫌伺いばかり。
そこに現れたミシェル・デュノアという男。男でありながらISを動かせる少年・・・・・・どちらかといえば、歴戦の軍人が間違って10代扱いされてるといった方がまだしっくりくるけれど。
セシリアとミシェルには直接の面識はないが、セシリアの方はミシェルを知っていた。そもそもこのご時世今やISに関わる者なら彼の名を知らなければモグリ以下だ。
ともかくセシリアが何より苦手なのはミシェルのその顔だった。彼女が見てきた『弱い男』とは全く正反対の厳つ過ぎる顔立ちは、セシリアには特に刺激が強過ぎる。初めて顔写真を見た時は驚きの余り椅子の上でずっこけてから椅子の陰に逃げ込んでしまった位なのだ。
・・・・・・かといってここであっさり非を認めてしまっては(いや、どこからどう見ても彼女から喧嘩を売った以外の何物でもないが)彼女のプライドが許さない。
意地があるのだ、女にだって。発揮する場面を絶対間違えているが。
「ふ、ふんっ!何を仰ってますの?自分達だけで第3世代機も作る事が出来ず、私の祖国やドイツに泣きついた癖に!」
「それは事実だ、認めよう・・・・・・だがそれがどうした。今、ここで、俺の友人を侮辱した事と何のつながりがある」
日頃から低くドスの利いたバリトンに一際力が籠もり、額には既に怒張した血管がその怒りっぷりを現すかのように痙攣している。ヒッ、と誰かの押し殺した悲鳴がした。セシリア自身の喉が漏らした物だった。
とっくに彼の周囲のクラスメイト達は涙を浮かべながらも怖すぎて動けず逃げられないままガタブル状態。
ってその腰元で何気にぶら下がってるのは何ですかどうして段々そこに手が伸びてるんですかそのギラリと光るハンマーとグリップとトリガーの付いた代物は何ですかー!?
「落ち着かんかバカもん。教室内でクラスメイトに向かって物騒なもの向けようとするな」
背後まで接近していた千冬が端末をミシェルの頭に振り下ろす。『縦向き』で。面ではなく角の部分で。
ゴシャッ!!!と絶対めり込んだよなコレ的な打撃音が盛大に響く。叩かれた側は端末が突き刺さった部分をさすりながら申し訳なさそうな顔で振り向いた。
ミシェルの頭と携帯端末、どちらも無事だった事を喜ぶべきか驚くべきか、周囲には判断がつかない。
「・・・・・・すみません。頭に血が上りました」
「友人をけなされて怒るのは良いが今は授業中だ。それにこれまでの経験を考慮して特例で銃の携帯許可が与えられているとはいえ、下らない理由で生徒や教員に向けるのであれば即刻懲罰を加えた上で携帯許可を取り消す。いくら男のIS操縦者で代表候補生でも私は贔屓しないからな」
「・・・・・・了解」
「さて、オルコットも着席しろ」
だがセシリアは戻らない。彼女は怒っていた。男に睨まれただけで怯え、恐怖を感じてしまった自分に。そして自分にそうさせた男に対し。
気がつけば、こう口走っていた。
「け、けけけ、決闘ですわー!」
「・・・・・・どうしてこうなったんだろ」
「すまない、俺のせいで・・・・・・」
「いや、別にミシェルに怒っちゃいないって。俺の為に怒ってくれたんだし、逆に嬉しかったさ」
本当に気まずそうに申し訳無くて仕方がないといった風情でうなだれるミシェルの背中を軽く叩く。
「それに代表戦だって腕試しのつもりで出る事にしてたんだし、それが少し早まった位にしか考えてないから、気にすんな」
簡潔に言うと―――――決闘する事になった。何故か一夏が。
元々はミシェルに対し申し込まれた決闘な筈なのに、千冬曰く『デュノアのISはこんな個人的な非公式な対戦に用いるには少し問題があるしそもそもの発端はコイツにある』とか何とか言われてそのまま一夏VSセシリアが決定してしまったのである。これには当のセシリアの方が驚いた様子だったのが印象深かった。
猶予は一週間。それまでに叩き込めるだけ対策を立てなければならない。
「とにかくその時までにやれるだけの事をやるだけだな。あのさ2人とも、俺にISの事を出来る限り教えてくれ。この通り、よろしく頼むっ!」
手を合わせて土下座までしかねない勢いで深く深く頭を下げる。
「当たり前だ・・・・・・俺が撒いてしまった種だからな。それに、友人の頼みだ。断る訳にいくまい」
「僕もお手伝いするね。オルコットさんの使う<ブルー・ティアーズ>に関する事なら僕達も良く知ってるし、もっと詳細なデータも実家から送って貰えば良いからすぐに対策を立てれるよ」
「そんなのまで持ってるのか?ありがとう、恩に着る!」
何度も一夏に頭を下げられながら3人は学生寮に辿り着いた。敷地内からして分かりきっていた事だが、学生寮もまた未来的なデザインで真新しい。
「にしても千冬姉が言ってたけど、ミシェルのISってそんなに凄かったりするのか?もしかして秘密兵器っぽいのが載っけてあったりとか」
「・・・・・・そういう訳じゃない。むしろ第2世代をベースに一部第3世代機としての機能を組み込んである以外は『枯れた』技術ばかり使ってあるから、別段隠す意味のある機能は搭載されていない」
「んじゃどうして千冬姉はあんな事言ったんだろ?」
「うーん、多分ミシェルが戦うと派手過ぎるからかなあ・・・・・・」
「?」
一夏に宛がわれた部屋は1025室。ミシェルとシャルロットは一夏の部屋よりもう少し奥の一室で、流石夫婦と言うべきか同室だそうだ。
「・・・・・・荷物の整理が一段落したら部屋を覗いてくれて構わない。シャルロットも、それで構わないか」
「うん、僕はそれで良いよ。別に一夏も慌てなくていいからね?僕達も色々とやらなきゃいけないから」
「ああ、余裕を持たせて行くから、また後でな」
2人と分かれて1025室へ。中はそこいらのホテルを遥かに超える充実っぷりで、一夏は目を輝かせる。
それから部屋に置かれた荷物の存在に気付く。
「同室の奴の荷物か?」
バッグの口から突きだしているのや竹刀や木刀。
竹刀といえば剣道、剣道といえば―――――
「(そういや箒も6年ぶりに一緒会えたのにちっとも話できなかったなあ。すぐ箒って分かったけど、ずっとミシェルと話してばっかりだったし・・・・・・・いや待て、まさかこの荷物って)」
「ああ同室の者か。これから1年間よろしく頼むぞ」
やっぱりかぁー!声に出さず絶叫しながらガチャリと音のした方へと反射的に振り向いた一夏の目の前に現れたのは。
「い、いち、か?」
「よ、よう箒。あは、あはははははははは」
その少女、篠ノ之箒はまさしくシャワー上がりですよといった風情で艶やかな黒髪を湿らせ、丈の短いバスタオルは扇情的な肢体を本当に最低限しか隠し切れていない。
とにかく胸、胸である。胸の質量が大き過ぎてその分バスタオルが上に持ちあがってしまうものだから太腿の部分などほぼ剥き出して白く張りに満ちた太腿が眩し過ぎる。そこよりも更に上、下手すれば叢の部分まで覗きかねないぐらいのギリギリっぷりである。
それ以外にも二の腕や下半身の筋肉の付き具合から彼女も良く鍛えてるんだなとか5%位は考えたが、残りの95%は幼馴染の成長し過ぎなサービスシーンを脳裏に焼きつけるのに総動員中されていた。健全な男子高校生にはなんと刺激的な事か。
最初に箒は呆けた顔を浮かべていた。きっかり3秒後、事態を悟り一気に顔を赤くするやいなや2本の腕だけで何とか身体を隠そうとするが、それがまた色っぽいのなんの。
勿論一夏も紳士としてすぐに背を向けたが、あの刺激的な姿はしっかり脳内のフォルダに記録されて何時でも閲覧可能である。
「ええええええっと、その、ひ、久しぶりだな、箒!」
「そ、そうだな6年ぶりだなって違う!な、ななな何で一夏がこの部屋に居る!?」
「いや、俺もこの部屋なんだけど――――」
そう事実を告げた途端。何をどう考えたのかはともかく、いきなり表情を険しくした箒は自分の荷物に飛びつくと木刀を抜き出し、一夏に相対してから電光石火の刺突を放つ。
あと1cm深ければ学生服の胸元辺りを引き裂いていただろう。紙一重で半身になって避けた一夏はそのままの流れで木刀を握る箒の手を掴み、疎かになっている彼女の足元を払い――――
「って危ねぇっ!!」
投げ飛ばす寸前で強制停止。しかし箒の動きは止まらない。彼女の手を掴んでいた自分の手に引っ張られた一夏は間抜けな悲鳴を上げて箒共々倒れ込んでしまう。
素肌に固い床は危険と判断した一夏は咄嗟に自分の身体が下になる様身体を滑り込ませた。後頭部に衝撃。そして真っ暗になる視界。
「ふむおっ!?」
「ふぁんっ!!?」
何かが顔を覆っている。湿り気があってちょっと熱めでむにゅむにゅしてぽよぽよして顔を動かす度「ひぁっ」とか「あぅん」とか甘い声を漏らす何かが。
・・・・・・『何か?』
「(も、もしかしてこれって)」
仰向けの体勢から顔面に押しつけられた物体を鷲掴みにしながら「きゃふうっ!?」ゆっくりと押し上げて顔面からどかした。
無意識の内に両手がワキワキと揉みしだいてしまうほど柔らかく弾力がある物体の正体は幼馴染の立派なおっぱいであった。
しかも倒れた拍子にバスタオルが肌蹴てしまい桃色でツンとやや上向きの先端とかトップからアンダーまでの芸術的に美しい曲線とかが目の前に曝け出されて揺れている。
思考が再度フリーズ。しかし両手は自動運転で規則的にもみもみもみもみ。止められない止まらない。
――――この時一夏は、おっぱいの素晴らしさを『心』ではなく『魂』で理解したと後に語る。
何かが切れる破滅的な音がした時になって、一夏はようやく我に返った。
マズい。これは絶対にマズい。千冬姉に赤髪の親友から譲って貰った男の秘宝を発見された時よりもヤバいかもしれない。
頭文字Gな台所の天敵もかくやな動きと速度で手足を動かし箒と距離を取る。絶対据わった眼で殺しにかかるに違いないと確信していた一夏は唯一の脱出口である木製のドアへと飛びつこうとし。
ふえ、と漏れた声に足を止めた。
「ふ、ふえっ、うえええええええええええっ・・・・・・・」
「ほ、箒?」
最早全裸に木刀片手という状態もお構いなしに、まるで子供のように泣き出した幼馴染の姿に戸惑うよりも先に心配になって駆け寄った。
一夏が抱き起こそうとすると、だだっ子宜しく箒はポカポカと彼の胸を叩く。
「せっかく、せっかく一夏にまた会えたと思ったのにっ、ずっと無視してっ、他の人と楽しそうにして、私だってもっと一夏と話したかったのに!」
「え、えと、とりあえずゴメン!本当にゴメン!」
「あられもない姿晒してっ、胸まで揉まれてしまって――――やだ、もうやだぁっ」
とどのつまり、箒も色々と限界だったのである。
6年間会えなかった幼馴染―そして初恋の相手でもある―とようやく再会できたと思ったら、本人は男友達に夢中(語弊と偏見あり)だし他に美少女とも仲良くなってるし(※売却済み)自分は授業が終わるまで無視されっぱなしだし。
そこへ来て裸を見られた上にコンプレックスである牛の様な乳をここぞとばかりに揉まれた事への羞恥心が限界突破した結果、理性の箍がすっ飛んでしまったのである。
これがもしただシャワー直後のセミヌードを見られただけで済んだならまだ怒りが勝って一夏の予想通り追撃に移っただろうが、異性間に関する価値観が若干良く言えば古風、悪く言えば古臭い箒には過激且つ刺激的過ぎる体験だった訳で。
・・・・・・心の底では自覚していないものの、一夏にそうされた事へのヨロコビ(二重の意味で)もあり、やっぱりショックもあり。
「ばか、ばかぁ、ばかばかばかばか、いちかのばかぁっ!!」
「ゴメン、悪かったから、お願いだからもう泣き止んでくれって!」
「・・・・・・ほんとうに、さびしかったんだからな?」
「う゛っ」
上目遣い+濡れた瞳+おっぱい丸見えのコンボは思春期の少年には強烈過ぎ、ツンと奥の方が熱くなった鼻を押さえながら一夏は顔を逸らした。
―――――そしてようやく箒も自分の今の状態を思い出す。
「きゃああっ!」
コイツもこんな女の子っぽい悲鳴上げるんだないやうんすっごい美少女なのは見りゃ分かるけど。そう心の端で考えつつ決して顔はそっぽを向いたまま。
・・・・・・だが堪え切れず、横目で箒のあられもない姿を何度もチラ見してしまう辺り、極めて唐変木であっても一夏は立派に健全な青少年なのである。
それに箒が気付かない筈もなく、涙目で睨みつけながら、両手で胸を抱えて隠そうとしながらも逆に強調されている事に気付かないまま。
「・・・・・・・・・一夏のえっち」
「ぐはぁっ!!?」
言葉の刃が一夏の罪悪感を一刀両断した。
「んっ?」
「どうかしたのか・・・・・・?」
「何だろう、誰かに僕の事真似された様な気がされたんだけど」
「・・・・・・よく分からんが、シャルロットはシャルロットなんだから、気にしなくていいと思うぞ」
「そうだね、気にし過ぎかなぁ――――ふわっ、ちょ、ダメだよミシェル、この後一夏が来るのにっ」
「スマン・・・・・・だが我慢出来ん」
「も、もうっ、いっつもそれ何だから、はあぁん!ミシェルの、えっちぃ・・・・・・!」
しばらくの間、シャワールームからは水の音以外にも嬌声が聞こえ続けたとさ。