※シモ関係で暴走注意
<夏祭り>
「おーい箒、こっちこっち」
「すまない皆、待たせてしまったな」
8月のお盆週、一夏の地元であり箒の生家である篠ノ之神社のお盆祭りがある事を思い出した一夏の提案によって、いつもの面々は篠ノ之神社へとやって来ていた。
見事巫女として神楽舞を舞ったりといった役目を果たして暇をもらった箒と合流しいざ屋台巡りへ。
「箒さんが来ていらっしゃるのがいわゆるジャパニーズユカタという服なのですわね。元は1枚の布のようですが、何てエキゾチックなんでしょうか」
「うんうん、柄も可愛いし、涼やかだよね~。箒によく似合ってるよ」
「そ、そうか?」
箒一家がこの地を離れてから神社を管理してくれていた親戚の叔母さんのチョイスなのだが、外国人の友人達には中々好評である。
だが箒にとって最も感想を教えて欲しい相手はただ1人。その相手である一夏はどこかぼうっとした様子で箒を見つめていた。それに気づいて箒は、彼からの視線をむず痒く感じてしまう。
「ほら一夏ってば、アンタの感想を聞きたがってるんだからさっさと言ってあげなさいよ」
「――――――箒、似合ってる。すっげぇ可愛い」
「か、可愛っ!?」
直球ど真ん中。箒の顔が専用機そっくりの色合いを帯びた。巾着を持ったまま顔の前で指をもじもじさせつつ、つい堪えきれずはにかむ箒の姿を見てしまった一夏の顔も負けないぐらい赤くなる。
そして両サイドからセシリアとラウラに足を踏み抜かれて悶絶。
「だけど巫女さんの格好で舞ってた時も思ったんだけど、やっぱり箒って和服がよく似合うって僕思うんだ。胴着とかさ」
「胴着も和服・・・・・なのか?まあ似合うのは同意するがな・・・・・・」
元の見た目や性格からして女剣士そのものなのである。そんな箒に似合わぬ和装など逆にあるのだろうか、と一夏は思う。
逆にセシリアやシャルロット、ラウラが巫女服や浴衣をきたらどんな感じだろう?紅白の巫女服に金髪。うん、悪くない。元が美少女なんだからよほどみすぼらしいのでもない限りどんな服でも似合うかも。
鈴の場合は中国系なの基本同じ黄色人種である箒と似たり寄ったりだろうから除外。でも彼女の場合だと『和服は動きづらそうでイヤ』とか言いそうな気が。
「何よその目は?」
「いや別に。鈴だったらやっぱりチャイナドレスの方が似合いそうだと思ってさ」
「あ、あ、当たり前よっ!」
ミシェル?着流しに日本刀で確定。本格的な鍔や装飾が施されてるのじゃなくヤクザ映画で定番のアレでファイナルアンサー。タマとったらあと吠えながらドスを構えて斬り込んでいくのだ。うんピッタリ。
「・・・・・・個人的には振り回しやすい匕首の方で頼む。あれ位の長さの方が扱いなれているからな」
「何か考え読まれてた!?」
出店が並ぶ一角はやはり人で賑わい、7人という大所帯の一夏達では一塊に移動するのは一見困難に思われた。
しかし実際には、モーゼが海を割って道を作った再現のように、人々の流れが勝手に向こうから一夏達の前に道を飽けていくという光景に、当人達は微妙な苦笑を浮かべざるを得ない。
一夏と箒を除いた残りがミシェルを除き明らかに外国人の、それも滅多にお目にかかれない美少女ばかりだからという理由もあるが、しかしやっぱり1番の原因はミシェルにあった。
そう、ミシェルの凶相に怯えた客達が関わり合いになるまいと勝手に彼から離れようとして、結果的に道を開けているに過ぎないのである。
「うむ、通りやすくなったな。これではぐれる心配はあるまい」
ラウラの感心した呟きが既に傷ついていたミシェルの心を更に抉る。
ナイフで刺したら捻って止めを刺せと教え込まれてきたのが関係しているのかもしれない。とにかくミシェルの心の傷を広げる事には成功していた。ラウラにはそんな自覚まったくなかったのだが。
そんな傷心を少しでも癒そうと、一夏達はともかく屋台を覗いて見る事にした。
「この魚は何という種類ですの?」
「それは金魚だな。これは金魚すくいって言って、ポイって小さな紙の網みたいなので何匹すくえるか競ったりするんだ。すくえた金魚は自分で持って帰って育ててもいいし」
そして数日もすると興味を失って母親に世話を押し付けるまでが定番の流れである。
「なるほど、丸ごと揚げるぐらいしか調理法はなさそうだが観賞用には最適な魚だな」
「食用前提で見てんじゃないわよ!」
「お嬢ちゃん、これは食べる為の魚じゃないからね」
鈴と店主のおっちゃんからのダブル突込みが入る。
続いて外人勢の興味を引いたのは焼きそばの屋台だった。鉄板にぶちまけられた具材とソースの匂いが食欲をそそる。
「それにしても焼きそばに焼とうもろこしにお好み焼きまで揃ってるなんて、流石篠ノ之神社だな。定番の屋台が揃ってる」
「・・・・・・鉄板料理なだけにな」
「「HAHAHAHAHA」」
「はいはい漫才やってないで、とりあえず腹ごしらえしましょ。皆も注文する?」
「そうだな、私も頂こうとしよう」
「それじゃあ僕はこのオムそばってのを頼んでみようかな」
1人1つずつ注文して食べ始めた一同だったが、箸に慣れていないセシリアとラウラは麺同士がくっつきやすい焼きそばを食べるのに四苦八苦する。シャルロットはミシェルの手ほどきを受けているのでそれなりに手馴れていた。
不器用ながら小さな子供のように箸を握りしめ、スプーンかフォークのような持ち方でラウラは焼きそばを口の中に押し込むようにして食べてみせた。その代償に、小さな口の周りはソースまみれになってしまい、
「ほらラウラってば、口の周り汚れちゃってるよ?」
「むう、意外と食べるのが難しいなこれは・・・・・・」
例によってシャルロットの手によりお口ふきふき。セシリアの方は焼きそばの上に青のりと鰹節と一緒に散らされた物体に興味を示す。
「この赤い千切りはショウガですのね。しかし何でこんなものが一緒に載せられているのでしょうか」
「ショウガって臭い消しとかに使うからな。ソースの濃い味を紅ショウガで消して口の中をサッパリさせる為でもあるし、歯ごたえがあるからアクセントをつけるのに丁度良いんだよ」
「・・・・・・だからといって牛丼などで肉が見えなくなるぐらい紅ショウガを盛るのは間違っている気がするがな」
「あーいるよなそういう紅ショウガ丼作っちゃう人って。あれ絶対紅ショウガの味しかしないだろ」
焼きそばを食しつつ駄弁っていると、唐突に声をかけられた。IS操縦者の集団にではなく、一夏1人に。
「あれっ、一夏、さん?」
「おっ?――――あ゛」
声の方に振り向いた一夏は、話しかけてきた相手を捉えた瞬間思わずそんな声を漏らしてしまった。
立っていたのは浴衣姿の蘭であった。仲間達の中でこの赤毛の少女と面識があるのは転校前までよく顔を合わせていた鈴と先日五反田食堂に一夏と出向いたミシェルのみ。
故に、蘭を知らない少女達は怪訝そうな表情を浮かべた。特に自分の知らない恋人の知り合いの少女(ここが特に重要)の登場に、箒の顔はかなり険しい。
一方で一夏と鈴の顔はかなり気まずそうだ。一夏は前回の事で(未だ理由に気付いていないが)蘭を泣かせてしまった負い目があるし、何より鈴の方も年下の友人である蘭もまた一夏に想いを寄せていた事を知っていたにもかかわらず、一夏と恋人同士になったのを今まで言わずじまいだったのである。
蘭も蘭で、明らかに肉体的にも精神的にも昔より急激に接近している一夏と鈴(そして同じぐらい彼と密接している自分の知らないもう1人の黒髪巨乳の少女)を見て、食堂での彼の言葉が現実であると思い知り。
「ら、蘭・・・・・・」
「っ!!!」
浮気現場を妻に待ち伏せされた夫のような狼狽した声が一夏から漏れたのが止めになったのか。
ぶわっと涙を浮かべた蘭は、浴衣とは思えない速さでその場から逃げ出してしまった。事態を見守っていた彼女の友人らしい少女達が慌てて蘭の背中を追いかける。
一夏の顔に大量の脂汗が浮かぶ。ヤバい、今度こそ弾や巌さん達に殺されるかも。
「あのさ一夏・・・・・・今度一緒に、蘭に謝りに行こ?ずっと私の方からもあの子に伝えなかったのも悪いんだしさ・・・・・・」
「そ、そうだな。俺も前に行った時も結局有耶無耶になって蘭とちゃんと話できなかったからなあ、はあ」
「な、なあ一夏。鈴も、もしやあの少女も一夏の事を?」
「そーいう事よ。中学の時の同級生の妹なんだけど、あの子も一夏の毒牙にかけられたってワケ」
「毒牙とか酷くね?」
「何言ってんの、知恵も明美も良子もアンタの事好きだったのよ?なのにアンタってばあの子達からのアピールに全然気づかないどころか大ボケかますわ、バレンタインだって皆から貰った手作りの本気チョコを食べ切れないからってクラスの男子にあげちゃうし!」
「それは流石にその彼女達が不憫でならないな・・・・・・」
今明かされる一夏の許されざる大罪。鈴の暴露を聞きつけた人々が一斉に一夏に敵意と嫉妬の視線を送りだす。
「・・・・・・なあ、そろそろ河岸を変えないか?かなり目立ち始めているんだが・・・・・・」
「仕方ありませんわね、私も色々と一夏さんに詳しいお話を聞かせていただきたかったのですが」
「お、俺は無実だ!そんなの全然知らなかったんだー!」
「ねえ一夏、無知は罪なんだよ?」
帰ってから一夏へのお仕置きが確定された所で次の屋台へ。祭りの喧騒の中から聞こえてきた木槌を叩いたような特徴的な音に興味を持ったヨーロッパ勢は音の出所に吸い寄せられていった。
これもまた、昔ながらの射的屋であった。日本ではコルクをエアガンで撃ち出すのが主流だが、規制の緩い海外では弓矢を用いた射的屋も存在する。
ゾロゾロと射的屋の屋台に向かう一同だが、何だか祭りの喧騒とは別の意味で店の前が騒がしい。
鈴と同じ中国系だが明らかに西洋の血も混じた顔立ちとしなやかかつメリハリの利いた女性が、サラリーマンルックの男性に引きずられていく所だった。喧嘩腰の射的屋の店主と激しく言い合っているが、女性が発しているのはかなり強烈なスラング交じりの英語である。
『この(ぴー)の(ぴー)の業突野郎が!こんなショボイ店でクソ高い金毟ってんじゃねぇ!』
『落ち着けレヴィ!ロアナプラじゃないんだからここで暴れたら拙い事になるって言ってるじゃないか!』
同じく英語で女性を宥めるどこにでもいそうな省エネルックのサラリーマン男性。店主に掴みかかろうとして彼に抑え込まれる女性の格好は、お尻が覗きそうな位切りつめられたジーンズに黒のランニングシャツ。
申し訳程度に薄手のパーカーを羽織っていたが、彼女が暴れるたびに右の首筋から二の腕に刻まれたトライバルのタトゥーが見え隠れ。明らかに堅気ではない東洋系の美女はそのまま男性の手によって消えていく。
・・・・・・何故だろう。千冬姉を思い出してしまったのは。
「何を言う、いくら嫁でも思っていい事と悪い事があるぞ。教官が気高い野生の狼だとすれば、さっきの女などどこからどう見ても凶暴な野良犬程度ではないか」
「それは流石に言い過ぎな気もするけど・・・・・・」
「一夏もそう思った?私も何故かそう思っちゃったのよね」
う~んと首を捻って考え込む一同。
しばらくして、ぼそりとミシェルがこう呟いた。
「・・・・・・声が似てたんじゃないか?」
「「「「「「 そ れ だ ! ! 」」」」」」
元の喧騒を取り戻したので、改めて射的屋に近づく一同。
倒れた標的を立て直したりしていた店主はやってきた一夏達の姿を捉えた途端、慌てたような表情を浮かべた。
「み、みかじめはきっちり払ってますぜ!?」
「・・・・・・客だ。第一、俺はその手の職業人ではない」
世界最強の兵器の操縦者なのだから、実の所ヤクザよりよっぽど物騒な人間だったりする。
「嘘だっ!」
そして即答で断言。何故にL5発症?当たり前だが日焼けした筋骨隆々の親父がそんな事しても全く萌えない。そもそも萌えるようなネタでもないのだが。
「あの、パッと見信じられませんけど彼も一応同い年の学生なので」
「ほ、本当かい?いやーにしてもよく見てみればカワイ子ちゃんばかりたぁ羨ましいねぇ。誰がやるんだい?」
「とりあえず全員分お願いします」
横1列に並んでコルク銃を構える。揃いも揃って教科書のお手本のような射撃姿勢だ。
ミシェルとラウラは軍人だし、他の代表候補生勢もそれぞれ必須の技能として生身の戦闘術の一環として重火器の扱いも習得している。一夏もミシェルなどから射撃について薫陶を受けているのでそれなりに様になっていた。
なので狙いも正確、店主が見ている前で次々的が倒れていく。特に凸凹軍人コンビは撃ってから再装填の間隔も短く、あっという間に全弾撃ち切ってしまった。もちろん的は外していない。
他の面々も似たようなもので、皆よりも射撃経験の少ない一夏でさえ半分以上当てていた。このままこの一同だけで全ての景品をかっさらいそうな勢いである、
・・・・・・ただ1人、全弾外している箒が居なければ。
「箒、相変わらず下手だよな」
「う、うるさい!弓なら必中だ!」
「箒は変に強張り過ぎで構え方が不安定なんだよ。ほら、腕の角度はこうで銃と腕で三角形を作ってから射線に対してまっすぐ視線を置いてだな――――」
一夏は後ろから覆いかぶさるようにして箒に正しい射撃姿勢を取らせようとする。それを羨ましそうに見つめる少女が2人。
「くっ、あんなに一夏さんに密着されてっ!」
「むう、嫁に良い所を見せようとしたのが裏目に出たか」
「だーかーらー、もう一夏は私と箒のものなんだから諦めなさいってばー」
「「 だ が 断 る 」」
「ううう、ちくしょー、今日は大損じゃねぇか・・・・・・」
「あははは、ご、ゴメンナサイ」
その後面々は一夏に案内された穴場で花火が作り出す絶景を心ゆくまで堪能したとさ。
<どっちの料理ショー?>
珍しく、箒の方が先に目を覚ました。
昨日一夏と夜を共にしたにしては珍しい事――――箒もしくは鈴、またその両者がまとめて限界を迎えるか気絶させられて一夏が起こしてくれるまで泥のように眠るのが最近の常だったからだ。時計を見てみるとかなり陽が高くなっている時間帯ではあるが、未だ一夏は眠りの中。まだしばらく目覚めそうにない。
女としては悔しいやら嬉しいやら、2人同時を相手にしてもいい様に翻弄される程一夏がオスとしての逞しさを持っていた事を満足に思いつつも、初めて抱かれた時から連敗を重ねている現状をどうにかしてやりたいとも思いつつ。
「(精進が足りないという事なのだろうか。しかし下手な真似をして一夏を退かせてしまっては元も子もないし、また鈴と相談してみるか?シャルロットにアドバイスしてもらうのもいいな)」
・・・・・・己のキャラがどんどん性的な方面で変貌してしまっている事を自覚できていないというのは、ある意味悲劇的である。
抗議を上げる腰とか内太腿とかの筋肉痛を宥めすかしながらのそりと3人では狭いベッドから身を起こし、頭を覚醒させるべく酸素を取り込もうと深呼吸を試みて。
「げほっ!?」
咽た。閉め切った部屋に篭っていた3人分の色々な体液の臭いを胸一杯に吸い込んでしまったのだから当たり前である。
慌てて部屋の扉を、続けて窓を全開にして換気を試み、それから自分が一糸まとっていない事を思い出してすぐさま脱ぎ捨てられたシャツを羽織る。解かれていた髪もポニーテールにまとめた。
外から流れ込んでくる空気は既に熱せられていて、早くもじっとりと箒の皮膚に汗が滲む。もっとも気絶する瞬間まで汗だくだった筈だから今更な話、2人も起こして汗を流さなくては。
そう考えてベッドの方に視線を戻した箒は気づく。
「ま、まだ満足していないのか・・・・・・」
昨晩あれだけ酷使されておきながらきっちり朝の生理反応を見せつける一夏自身に驚きと畏怖と照れを抱いて、箒は喉を鳴らして生唾を飲み込む。
それからしばし思い悩むそぶりを見せてから、顔を赤くしながら箒はベッドに近寄り――――――・・・・・・
≪しばらく音声のみが続きますのでご了承ください≫
「んっあ~~~~~よく寝た・・・・・・ってぇ!な、にゃにゃにやってんの箒っ!?」
「ちゅっ、んっ。み、見ての通りだ。仕方ないだろう、寝てても元気なままだし、ここだけでも『綺麗』にしてやろうと・・・・・・ゴニョゴニョ」
「へえ?『掃除』してあげるだけなのに『胸』まで使う必要あるのかしら」
「それは・・・・・・ううう」
「一夏も大概だけど箒もアレよね。イチャイチャしようと思うとすぐにエロい方向に自分から持ってっちゃうし」
「ほっといてくれ、むしろ悪いのは安易にふしだらな方向に持っていこうとする作者が悪いのだ!」
「そういうネタは禁止!ともかくね、えーっと(一夏の股間に固定される視線)」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「ん・・・・・うっ、な、何だこの温かい感触・・・・・・?」
「「おひゃよう、いひか(おはよう、一夏)」」
「ちょっ、な、うおおおおっ!!?」
「あはっ、いっぱい・・・・・・♪」
「もう、どこまで絶倫なのよ・・・・・・」
ぴーんぽーん
「はーい今開けまーす――――ってミシェルじゃんか。皆も一緒でどうしたんだよ」
「・・・・・・暇だったので寄らせてもらった。とりあえずこれはお土産だ」
「最近評判の専門店のケーキでね、すっごく美味しいんだよ。良かったら織村先生と食べたらいいよ」
「丁度いいや、千冬姉も少ししたら帰ってくる筈だし、箒と鈴も来てるから一緒に食べさせてもらうわ」
「箒と鈴さんもいらっしゃっているのですか?」
「ああ、2人共昨日泊まってったから―――――」
慌てて口を噤むも時すでに遅し。セシリアのはニッコリ、その額には青筋がクッキリ。ラウラもセシリアほど恐ろしげではないが一気に不機嫌そうな気配を放ちだす。
「・・・・・・ここで騒いだら近所迷惑だから中に入らせてもらえないか?」
御尤もなのでなのでさっさと織村宅へ。居間まで移動してみると丁度箒と鈴が2人して昼食の準備に取り掛かろうとしている所だった。
「何で皆してここに居てるワケ?」
「揃って暇なんだから来たんだってさ。そういえば皆は昼飯はまだなのか?」
「まだだ。ケーキを買う為にずっと並んでいたからな」
「んじゃ丁度良いな、皆もここで食ってけよ。買い置きのそばが沢山余ってた所だし。箒も鈴もそれで良いか?」
「・・・・・・まあ仕方あるまい。一夏がそう言うのならば」
「ま、私もOKって事にしときましょ。せっかくケーキまで買ってきてもらっちゃんたんだし、お土産持ってきてくれた友達をさっさと追い出す気にもなれないしね」
その日の昼食は一夏の宣言通りざるそばとなった。さっさと食べ終え洗い物も片付け、ミシェルが持ってきた家庭用ゲーム機で同時対戦をする事に。
「あれ、ミシェルってヨッ○ー派?何か意外だな」
「く、くぬっ、結構難しいなこれはっ・・・!」
「箒ってばずっとアクセル踏みっぱじゃダメだってば!曲がる時ぐらいアクセルを一瞬だけでも離さなきゃ!」
「シャルロット私のピー○姫ばかり狙わないでくれませんか!?」
「た、たまたまだからしかたないよ」
「馬鹿な、私の<ヴォーダン・オージェ>をもってしても反応しきれないだと!?」
「・・・・・・マ○オカートでハイパーセンサーまで発動させてどうする」
そうして熱中していると時間が過ぎるのは早いもので、いつの間にか夕方になっていた。
今日の晩飯はどうすっかなーなどと時計を見て一夏がぼんやりと思いを巡らしだしたその時、おもむろに新たな人影が一夏達の元に現れる。
織村邸のもう1人の主である千冬である。普段のスーツ姿からは想像できないかなりラフな格好だ。特に張り付くような薄手のタンクトップのせいで平均をかなり上回る胸の輪郭が丸分かりであった。
「・・・・・・やっぱりデカいな」
少なくとも、ミシェルをそう呟かせる位には。そしてその一言はこの場ではあまりに不用心っ・・・・・・!
「「ミシェル?」」
「ゴメンナサイ悪気ハナカッタンデスオ願イデスカラISハカンベンシテクダサイ・・・・・・」
ハイライトを失った目で首筋に<雪片弐型>と<灰色の鱗殻>を押し付けられては流石のミシェルも平謝りせざるを得ない。
そしてこの反応っぷりからして一夏もまたシスコンである事はまさに確定的。
「生憎だが私は浮気に興味は無いし、寝取る趣味も無ければ生徒と淫行するつもりも全く無いから安心しろ。だから家の中でISなんぞ展開するんじゃない」
姉からの注意に渋々展開状態に戻す2人。これには一見無愛想の塊みたいな見かけのミシェルもホッと胸を撫で下ろす。
しかし千冬の胸から目を離さない者は他にも居た。この場における貧乳2トップたる鈴とラウラである。複雑そうな表情で、自分の胸元をぺたぺた触っている。
『ぺたぺた』―――――その擬音が全てを表していた。何度も視線が自分のそれと千冬との間を行ったり来たり。
「そんなにジロジロ見ても分けてはやれんぞ」
「くっ!流石千冬さんなだけあるわね、戦力差は甚大だわ・・・・・・!」
「やはり教官殿を超えるにはまだまだ未熟・・・・・・」
「在るからといってそう役立つものでもないがな。剣を振るには邪魔だし少し薄着になったぐらいで無駄に人目を集めて鬱陶しいしぞ」
「その通り、私も千冬さんと同じ意見です。私なんかすぐに下着のサイズが合わなくなって何度買い替えなければならなくなったか・・・・・・」
「そうだよねー、ある程度大きくなっちゃうと普通の下着屋じゃピッタリのサイズが見つからなくなって、特別に注文しなきゃいけないから割高になっちゃうんだよ」
「ですわよね。何故かサイズが大きくなるにつれて過激なデザインも多くなっていきますし」
「しかもだ!一夏以外の男がいやらしい視線を送ってくるのも我慢ならないが、何故同じ女子までジロジロ胸ばかり見てくるんだぞ!微妙に怪しい視線で!」
「仕方ないじゃない!持たざる者が持つ者を羨んで何が悪いのよ!私だってねぇ、『あー胸が重くて肩が凝っちゃうなー』とか言ってみたいわよ!こちとら万年肩凝りとは無縁なんだから!分かる!?中学時代から1度もブラジャー買い替えずに済んじゃってる私の気持ちが!」
「良いじゃん節約できて」
「そういう問題じゃないのよバカーっ!!」
涙のアッパーカットを食らい一夏撃沈。そしてすぐさま復活。鍛えてるおかげで原作以上にタフなのである。
「いててて・・・・・・でも本当、胸のサイズも人それぞれなんだし、それだけ問題もそれぞれ持ち合わせちゃうんだからあまり気にしない方が良いんじゃないか?」
「それでも気にしちゃうのよ・・・・・・だって・・・・・・」
「だって?」
「・・・・・・昨日の夜だって一緒に抱いてもらった時、しょっちゅう箒の胸に手伸ばしてたし・・・・・・」
「そろそろ自重しろお前ら。またそっち方面で読者の受け狙うつもりか。あざと過ぎて逆に批判を受けるぞ」
千冬の忠告も色々と拙い気がするが、詳しく突っ込むのもめんどくさいのでこの話題は強制終了に決定。
結局千冬はまた用があるとかでさっさと出て行ってしまった。何人かは彼女が自分たちに気を使ってくれた事に気付いていたが、敢えて何も言わない。
3時ならぬ夕方のおやつを食べてから買い出しに出て、女性陣がそれぞれ手料理をふるまう流れになった。一夏とミシェルは2人だけ居間にて夕食の完成を待つ事に。
テレビを見ながら時間を潰しつつ、キッチンから聞こえてくる派手な物音や絶叫に思わず腰が浮き上がるのを何とか堪えつつ。
ふと一夏はある事に気付いた。
「そういえば、さ」
「・・・・・・何だ?」
「自分ちで千冬姉以外の誰かと一緒に食べるのって、今日が初めてだった気がする」
「・・・・・・良い事だな、それは」
「――――――そうだな。出来たらまた、今日みたいな日が来るといいな」
そう言って少年は本当に、本当に嬉しそうに笑う。
―――――少女達がこの場に居合わせなかったのを後悔しそうな位、とても清々しい笑顔だった。
「赤が足りませんわね。ではこれでどうでしょうか?」
「ちょっとそれセシリアタバスコ!ああっ、そんな丸丸一瓶入れちゃあっ!」
「痛っ!?何よこれ、目に染みるんだけど!!」
「よし、あとは串に刺して焼くだけだな」
「おでんに焼きは必要無い!」
「・・・・・・その前に、まずは今日という日を生き延びれたらの話になりそうだがな・・・・・・」
「胃腸薬の予備、どこに置いてたっけなあ・・・・・・」
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【発臭ドビーフ】女友達の飯がマズいスレ【串焼きおでん】