<ニコイチでGO!>
夏休みに入ってめっきりと使用者が減少したIS学園の剣道場に鋭い風斬り音が唱和する。
発生源である2人の男女、一夏と箒の剣道着は既に大量の汗を擦って重く湿り、額にはどちらも大粒の汗が浮かんでいる姿が今までどれだけの鍛錬を続けてきたのかを証明している。
だが振られる木刀の軌道には寸分のブレも生じていない。お互い何年も同じ事を続けてきたのだ、この程度は文字通り朝飯前なのである。
「「・・・・・・196、197、198、199、にひゃくっ!!」」
素振りを終えた2人はようやく木刀を置いて、壁際に置いてあるタオルで汗を拭いスポーツドリンクで喉を潤す2人。
スポーツドリンクは早朝から剣道場に籠もる暑さのせいで生温くなっていて丁度一夏好みだった。適度な疲労感が心地良い。
ついでに言うと、タオルとスポーツドリンクの傍にはぴょんぴょんとツインテールを備えた物体が転がっていたりする。
「やっと終わったの~・・・・・・?」
「悪いな鈴、待たせちまって。でも暑いんなら無理しないで自分の部屋で待ってても良かったんだぞ?」
朝から暑さでグロッキーな鈴にそう突っ込む一夏だが、暇さえあれば恋人の傍に居たいという女心にゃこれっぽっちも気付いていなかったりするのが一夏たる所以。
「あーもーっ!どうして毎度毎度この国の夏はこんなにクソ暑いのよー!」
「やはり中国の夏はこことは大きく違うものなのか?」
「少なくとも日本ほどジメジメムシムシしてないわね。地方や場所によっては砂埃とかスモッグとかで凄い所があるけど」
「場所の問題もあるんじゃないか?ここって周りが海だからその分空気が湿気てる感じだし」
なにせ距離的には本土からそれほど離れていないしモノレールで繋がっているとはいえ、実質的に海の孤島なのである。意外と海や気象の変化の影響も受けやすい。
「とにかく2人のトレーニングも終わったんだし、さっさと着替えて出かけるわよ。せっかく高い金出してチケットを買ったんだから、早く行って楽しまなきゃ損ってもんよ!」
そう、今日は3人で遊びに行く予定なのだ。その為に鈴は毎日行っている2人の朝の鍛錬をわざわざ見物してまで待っていたのである。
「名前は確か・・・・・・ウォーターワールドという地名だったな」
「そ、今月出来たばっかりなんだけどすっごい人気で、前売り券手に入れるのも苦労したんだから。感謝しなさいよね、一夏」
「って俺なのかよ。いや、わざわざ誘ってチケットまで買ってくれたのは嬉しいけどさ・・・・・・」
「大体ね、こういうのは男の方から普通誘うものなのよ?他のカップルとかだったら彼女から愛想尽かされたってもおかしくないんだから、恋人同士っていうのはこうやって絆を深めていくもんなの。分かる?」
「うむ、鈴の言っている事は正しいと私も思うぞ。一夏にはそこの所の心配りがイマイチ足りん」
「肝に命じておきます・・・・・・」
甲斐性無しと遠回しに言われて一夏はガックリ肩を落とす。どーせ俺はトーヘンボクで朴念仁ですよーだ。
「でも良かったよな、予定されてた<白式>のデータ取りが変更になって。でなきゃ今日のチケットが無駄になってた所だもんな」
「(・・・・・・そういえば千冬さんにその日一夏と一緒に遊びに行くって伝えに行った時)」
「(急に何処かに電話をかけ出したのだったな・・・・・・)」
真相は闇の中だ。
さてやってきましたウォーターワールド。
当日チケットも2時間待ちというだけあって中々の盛況ぶりである。男の特権としてぱぱっと水着に着替え終えた一夏は更衣室の出口で出てこない恋人達の登場を待っている所だ。
一夏の水着は臨海学校の時と同じ黒のトランクスタイプ。ミシェルの様な分かりやすい筋骨隆々といった身体つきではないが、その分可能な限り引き締められた密度の高い筋肉が全身を形作り、古代ギリシャの彫像の様な芸術的な美しさを感じさせるプロポーションである。勿論一夏にそんな自覚は無い。
女子更衣室から出てくる10代20代の女性の注目を悉く集めている事にこれっぽっちも気付かないまま、暇を持て余した一夏がぼんやりしていると。
「いーちかっ♪」
「うおっ。危ねーなぁ鈴。でも相変わらず水着になると飛びついてくるのな」
むにむにぷにぷに、身体中に当たる鈴のこれぞ餅肌といった風情の感触に最近めっきり暴走しがちな男としての衝動を抑え込みつつ、ひっついてくる鈴の身体を支える。
「んー、どっちかっていえばこうやって一夏とくっつくのが私は好きなんだけど」
「・・・・・・そんな風に正直に言われるとむしろ凄っげー恥ずかしいんだけど」
「―――――一夏は嫌?」
「いいや俺も大好きだ」
即答である。ついでに言えば捨てられた子猫のような瞳でそんな事を聞くのは反則だと思う。
「あれ?その水着、臨海学校の時と違うくないか?」
「そ、新しいヤツ。ご感想は?」
「うん、鈴によく似合ってて可愛いと思うぞ」
「えへへー♪」
とっくに周囲から送られてくる視線には険呑な気配が多数含まれていた。主に男性陣。
そこへ更に燃える男(一部女性含む)の嫉妬心にガソリンタンクが投じられた。もしくはダイナマイトか。
「ま、待たせたな2人共」
「ほう――――――」
沈黙。口を半開きにして固まっているのは一夏だけでなく、鈴もであった。
いきなり固まった2人に原因が分からず戸惑う箒。
「どうかしたのか?」
三角ビキニである。色は臨海学校の時の物とは正反対の黒。余計な装飾の無いごくごくシンプルなデザイン。分かりやすくいうならば原作4巻でセシリアが身に付けていた水着とほぼ相違無い。
駄菓子菓子。ではなくだがしかし。
とにかく布地の面積が少ないのだ。大体鈴の掌よりも一回りぐらい小さい面積。大事な頂点周辺を隠せているぐらいで、一夏の恋人になってから急成長の度合い激しい真っ白な乳房の大部分が露わになっている程。今にも紐が限界を迎えて水着が落ちやしないか心配になってくる。
下は下で布面積は似たようなものだし、何より股間部分への食い込みが半端ない。こちらも後ろに回れば桃の様な尻肉がまんべんなく一夏の前に曝け出されるに違いない。
前から見ても後ろから見ても横から見ても、あまりに刺激が強過ぎる。ある意味、裸よりも過激な格好だ。
あまりにもあんまりすぎて、野郎どもの嫉妬心が爆発を通り越して一気に鎮火してしまう。これを爆破消火という。
箒の水着姿を目撃した男性達は一様にこう思う―――――あれって、もしかして露出プレイじゃね?
「その、だな、前よりも『少し』大胆な物を選んでみたのだが、似合っているか?」
もはや似合うとかそういうレベルの問題ではない。
怖い位に無表情になった一夏と鈴は無言でアイコンタクト。重々しく頷き合うと、箒の両腕を左右からがっちりホールドし、箒ごとプールへと猛ダッシュ。一夏の方は股間が微妙に突っ張っていたが完全に無視。
「「時と場所を考えろ~~~~~~!!!!」」
「そこの人達ー、危険ですので走ってプールに飛び込まないで下さーい!」
監視員の警告を背中に受けながら、一夏と鈴は水中に潜る事で箒の過激な水着姿を目立たなくする事に成功したのであった。
「だからさ、男としちゃそれは嬉しいぞ?でもさ、こんな人前でそんな格好されたら箒だって恥ずかしいし、俺だって俺以外の男に箒のエロい姿見られるのも嫌なんだからな」
「め、面目ない。というか、今になって私も恥ずかしくなってきた。一夏以外の男達の前でこのような破廉恥な姿を晒してしまうなんて・・・・・・」
「暑さに頭をやられた事にしておきましょ・・・・・・でも一体何時の間にそんな過激なの買ってたのよ」
「姉さんに今度一夏達とまた泳ぎに行くと話をしたら送られてきたんだ」
何考えてはるんですか束さん。妹が間違った道に進みそうになってますよ。
天災って考えてる事が分からないわ、と鈴は頭を抱え、一夏は姉妹の仲がそんな会話を交わすぐらい良くなっている事を純粋に喜びつつ、箒の姉がこれまでの事件の黒幕である推測を思い出し心が淀むのを感じる。
今は2人と一緒に遊びに来ているんだ、そんな考えは今は忘れて共に楽しもう。ウジウジ悩みっぱなしでは2人にも気取られかねない。今はまだ、ミシェルと千冬姉以外の周囲に自分の考えを言うつもりはなかった。
なるべく箒の前後に位置どってエロ水着が周囲に晒されないようにしつつ、3人で園内を回っていると施設中に園内放送が響き渡った。
『本日のメインイベント!水上ペアタッグ障害物レースは午後1時より開始いたします!参加希望の方は12時までにフロントへとお届けください!優勝賞品はなんと沖縄5泊6日の旅をペアでご招待!』
こういったレジャー施設では定番の催しだ。優勝賞品も中々豪華ではあるが、
「へえ、やっぱりデカイ場所なだけあって豪勢だな。どうする、2人は出てみるか?」
しかし、箒も鈴も気乗りではなさそうだ。
「私はあまり興味は無いし、流石にこの格好でこれ以上注目を浴びるというのもな」
「私も出ないでおくわ。どうせ素人ばっかりで私が出ちゃったら優勝は間違いないだろうし」
――――オリンピックのレスリングと柔道のメダリストコンビが出場する事をこの時の鈴は知らない。
「それにさ、沖縄旅行っていってもペアなんでしょ。それじゃあ意味無いじゃない」
「何でだ?箒と鈴の2人で行けば良いだろ」
女2人、盛大な溜息。
「・・・・・・『3人』でなければ意味が無いんだ。私も鈴も行くなら一夏と共に行きたいし、それでは優勝したって私か鈴のどちらかが留守番になってしまう」
「私達は“一夏と一緒に3人で楽しみたい”の。分かる?だから一夏はニブチンなのよ」
そこまでハッキリ言われてしまってはこれ以上一夏が意見する訳にもいかない。
2人がそれだけ自分を愛してくれてる事、そしてそれに負けない位2人がお互いの事も考えている事が無性に嬉しくなって、一夏は2人纏めて抱きしめてしまった。
「・・・・・・俺って、幸せ者だな」
少なくとも、そう呟けるぐらいには。
<珍客万来>
「何だその格好?」
巷で話題の冥土、じゃなくてメイド&執事カフェ『@クルーズ』にやってくるなり一夏が発したのはそんな間の抜けた言葉であった
どんな反応をしていいのか分からない意味で固まっているのは箒と鈴、友人と意外な所で出くわして営業スマイルを浮かべたまま固まっているのはシャルロット。何故か仁王立ちになってふんぞり返っているのはラウラ。そして無言のミシェル。
シャルロットとラウラはどこからどう見ても見紛う事無き完全無欠のメイド服姿である。そりゃメイド&執事喫茶なのだから店内にメイドが居たって全くおかしくないのだが、問題は店員でも何でもない筈の2人がどうしてこんな所でメイド姿で接客を行っているのか、という点だ。
「ど、ど、ど、どうして一夏達がここに居るの!?」
「それはこっちのセリフじゃない。何でシャルロット達がそんな格好して働いてるのよ?」
「・・・・・・主にかくかくしかじかという理由だ」
「実際に『かくかくしかじか』なんて説明の仕方初めて聞いたぞ!?」
「なるほど、まるまるうまうまって事なのか」
「しかも一夏には通じてるし!ねえ本当にどういう事なのか分かったの!?」
「いや全然」
しばらくお待ち下さい。
要約すれば、昼食に寄った先で悩んでいる女性と出会って話を聞いてみた所この店での臨時アルバイトをお願いされて以下略という経緯だそうな。
成程、シャルロットもラウラもタイプは違えど立派な美少女、この店の店長だという女性が2人を見るなり即勧誘したのも無理は無いと3人は同じ感想を抱いた。
・・・・・・でも接客業に向いてなさそうな人物も1人混じっているのはどういう事だろう。
主に性格が接客に向いていないという意味ではなく、顔を見るなりお客が回れ右して逃走する事請け合い的な意味で。
というか、本人がとりあえず了承してくれてるとはいえ、一応世界規模の有名人にこんな事やらせちゃって本当にいいのだろうか。
「・・・・・・似合わないのは分かっている。だが一応、この服だけでも着てくれと店長に頼まれてな・・・・・・」
強面世界トップクラスのミシェルに執事服は微妙に似合っていない。燕尾服よりももっとシンプルな黒服とかだったら大層似合っただろう。SPとかボディガード的な意味で。
しかしミシェルの存在を差し引いても店内はかなり賑わっていた。よくよく観察してみると、電話やメールでシャルロットとラウラの2大美少女メイドに関する口コミがリアルタイムに拡散されていっているようだ。
男性客に営業スマイルを見せるだけでも嫉妬して無意識のうちに親の敵を見るような威圧感を放ってしまっているミシェルの存在を差し引いても、知り合いをこの店に誘うだけの価値はあるという事だろう。
一夏達にも彼らの気持ちが分かる気がした。口コミが広まる分だけ実際に働いている友人達の仕事が増える事になるが、一時的にとはいえこの店で働いている以上それも仕方あるまい。
「と、とりあえず3名様、こちらの席へどうぞ~・・・・・・」
「分かった。それにしてもシャルロットもラウラも、その服似合ってて可愛いぞ」
「そう、かな?えへへ、ありがとうね一夏。ミシェルも可愛いって言ってくれたんだー」
「う、うむ、そうか。似合っていて可愛いのか・・・・・・・・・この際交渉してこの服を譲ってもらうか?」
シャルロットは愛らしくはにかみながらもしっかりと旦那にも褒められた事をしっかりとのろけ、ラウラはラウラで少し恥じらい気味に顔を染めつついっその事この服も手に入れようかと企てる。
とりあえず期間限定の特製パフェ(1つ2500円也。一夏のおごり)を人数分注文しつつ、即席メイド&執事な3人の働きぶりを見学する事にした一夏達。
春の日向の様に温かく柔らかな美貌と丁寧な振る舞いで異性のみならず同性まで虜にしてしまうシャルロット。魅了の魔眼でも持っているのかと言いたくなるぐらい、彼女が接客した後の客(女性多数)は顔を赤らめ陶然としていた程。
一方氷混じりの極寒の北風みたいに強烈な応対をしているのはラウラ。そもそも接客のイロハすらなっていないし言動から態度までとことん高圧的・・・・・・なのだが、西洋人形を体現したかのような造形を誇るメイド服姿のラウラに冷たい目で見られるあまり、目覚めてはいけない世界に目覚めた男性からはむしろ「ご褒美です!」との歓喜の声が。
そして黒一点たるミシェルはどんな仕事をしているのかといえば――――――
「ねえねえこの後暇?だったら俺達と一緒に遊びに行こうぜ。何なら今すぐでも良いからさ」
「申し訳ありませんお客様、他のお客様の迷惑となりますのでそういった真似はご遠慮頂きたいんですけれど・・・・・・」
「いーじゃんいーじゃん気にすんなって」
「すいませんメイドさん、メイドさんの御奉仕は注文出来ないんですかー?」
女尊男卑な世の中とはいえ、自分が周囲からどんな風に見られているのかも気にせず絡む馬鹿というものは絶滅しないものらしい。
そして決定的に相手が悪かった。セクハラ紛いの言葉を投げられかけても営業スマイルのまま穏便に捌こうとしたシャルロットを逃がすまいと、どっからどうみても外見と中身が同じ位チャラチャラした若者達が彼女のメイド服に手を伸ばし。
―――――――逆にその手を掴まれた。本気になれば軽くビール瓶でも握り潰せるほどの握力で。
「あだだだだだだだだだだっ!!?」
「・・・・・・お客さん、ここでは店員に余計なちょっかいをかけるのは御法度だ」
渋谷のセンター街でまとめ売りされてそうな身なりの男達が、腕を捻じり上げながら片腕1本で大の男を吊り上げれるヤクザよりも凶悪な面構えのグラサン執事(しかも自分の嫁に手を出そうとした事への怒りの余り青筋までくっきり浮かばんでいる)に刃向かえるだけの器量を持ち合せている筈もなく。
転げるようにして若者達は店から出ていった。取り残されたミシェルに捕まっていた若者からは有り金全部迷惑料として徴収した。
――――ミシェルの役目はトラブルシューター。マナーのなっていないお客様を『丁重』に店から出ていかせるのが彼の仕事。
言いかえればどこぞの酒場の用心棒(バウンサー)と大差ないが、それが尤もミシェルの能力が発揮できる仕事なのだからしょうがない。本人からしてみれば非常に複雑だが。
「いや、絶対執事の仕事とかじゃないよな。執事とかも関係無いよな」
「言わないでくれ・・・・・・」
チクショウ、やはり顔なのか。こんな顔だから悪いのかっ・・・・・・!
そうこうしている内に、ようやく入口に1番近い席の3人の元へたまたま手の空いていたミシェルの手によって注文した品が運ばれてきた。
「・・・・・・ご注文の期間限定特製最上級パフェです」
専用の一夏の顔ぐらいの全長の専用の容器の中には自家製アイスクリーム、渦巻状に絞り出された生クリームの山には季節のフルーツが大量に彩られていて、更に何色ものフルーツソースが格子状にトッピングされている。
構造そのものはシンプルだが厳選された素材で構成されたこの夏の『@クルーズ』の看板メニューが今、ここに!
鈴の目は輝き今にも涎を垂らしかねない勢いで口元が緩んでいるし、箒まで特製パフェが運ばれてきた途端うずうずと早く手を付けたそうにスプーンを握り締めている。どちらかといえば和菓子派の箒だがやはり女の子、どんなスイーツでもやっぱり大好物なのだ。
財布には痛いが、この時点で2人がこんなに嬉しそうな顔を見せてくれただけでも十分元が取れたと、一夏は思った。財布の都合により彼だけアイスコーヒーである。
2人の様子はまるでお子様ランチを前にした子供みたいだ。でもよくよく考えるとお子様ランチって色んな料理が盛り沢山で、世間一般のイメージよりも中々豪華な食べ物に入るんじゃなかろうか?
ともかく期待に満ち溢れた表情でスプーンを握る2人の少女が前人未到の1口目を掬おうとした――――――その時。
「全員動くんじゃねえ!」
一夏のすぐ背後の入口が蹴り破られたかのように勢い良く開けられ、3人の男達が怒号共々店内に飛び込んできた。
男達の格好は揃ってジャンパーにジーパンに覆面。背負ったバッグには札束、構えているのは拳銃にサブマシンガンにショットガン。
どこからどう見ても逃亡途中の強盗です。本当にありがとうございました。
突然の物騒な珍客の固まってしまっていると、追っていた途中なのかわんさかやってきた警察隊があっという間に店の周囲を防弾装備にライオットシールド、パトカーのバリケードで取り囲む。
『あー、犯人一味に告ぐ。君達はーすでに包囲されている!大人しく投降しなさい。繰り返す!――――』
「昔再放送してた刑事ドラマでこんなシーンあったよなー・・・・・・」
「・・・・・・なんという80年代臭」
「うるせえ、喋るんじゃねえ!」
すぐ近くの一夏とミシェルの呟きが耳に入ったのか、ショットガンを持った男が一夏の頭上に向けて威嚇射撃を放つ。戦闘訓練で銃声には慣れていたのでそれほど驚きはしないが、他の客達は揃って悲鳴を上げた。
しかしここで思わぬ被害が。
「あ・・・・・・」
背後の呆然とした声に振り向く。そして一夏はそれに気づいた。
全く手をつけていなかった筈のパフェが、全て無残な姿を晒していた。散弾に砕かれた天井の破片や粉塵が一夏達のテーブルに降り注いでいたのだ。椅子に座り込んだままパフェの変わり果てた姿に呆然としている箒と鈴。まるで腹を痛めて生んだ赤子をその手から奪われたような自失具合である。
――――たかがパフェと言うなかれ。2人の乙女(ただし非処女)にとってこのパフェはデートで一夏が奢ってくれた物なのである。あまつさえ彼氏にあーんって食べさせてあげたり逆に自分も彼の手で食べさせてもらったりなんてバカップルなイベントも一緒にやっちゃおうととっても期待していたのに・・・・・・
その機会を一瞬で不意にされた衝撃は、気が短い部類に入る2人の少女から怒りの反応を抑え込んでしまうほど強く、悲劇的で。
「・・・・・・・・・っく!」
「ふえぇ・・・・・・」
一夏は見た。見てしまった。
箒と鈴の瞳に間違いなく、確実に、絶対に、光る物が浮かんだ瞬間を。
――――――よし、潰す。
「大人しくしてな!俺達の言う事を聞けば―――――」
一夏は立ち上がるや否や、人質となった客達に警告していた男達の懐に踏み込んでいた。剣術の歩法を生かしたその動きは客にも男達にも見切れないほど素早い。
彼の手にはパフェ用のスプーンが前後逆に逆手で握られている。持ち手の部分が握りやすいよう樹脂で太く厚くなっていて、拳の中から短く覗く先端部分は鋭利とまではいかないがそれなりに硬く、突くには十分だ。
まずは1番近くて1番憎い、パフェを台無しにしてくれたショットガンの男から。左手で銃身を横合いから叩きながら、スプーンを右手首へ強烈に叩きつけた。突然走った激痛にショットガンを取り落す男。
続けて狙うは顔面と首。眉間、鼻の下の人中、喉仏を連続で突く。人体の中心線を走る急所を一瞬で突かれたショットガンの男が白目を剥いて昏倒してしまう。
2人目のサブマシンガンを持った男は仲間がやられた事をようやく理解し、銃口を一夏に向けようとした。殴れる間合いにおいてその選択は悪手である現実を男は知らない。狙って引き金を引くよりも殴るか蹴った方がよっぽど速い。
サブマシンガンの男に対し、一夏はスプーンを手放さないままアッパー気味の掌底を放つ。掌のもっとも固い手首の付け根部分が男の顎を掠めた。頭蓋が中身ごと揺らされ脳震盪を引き起こす。
崩れ落ちて膝を突いた姿勢になったもののまだ意識は残っていたので、突き上げていた腕を遠慮も容赦もなく男の顔面に振り下ろして手刀を叩きつけた。鼻っ柱を砕かれ鼻血を噴き出しながら2人目も昏倒した。
男達の身のこなしや振る舞い方から、武装犯が全員素人であるのは一夏からしても丸わかりだった。千冬姉や兄弟子ほどの怖さも感じないし、武器を除けば一夏がこれまで叩きのめしてきた不良達となんら変わらない。この間合いなら楽勝だ。
残るは拳銃を持った男ただ1人。
「ふ、ふざけんじゃねぇぞこのガキが!」
仲間があっという間に倒されて反応が遅れた男も一夏にオートマチックの拳銃を向けようとしたが、それは横合いから伸ばされた巨大な手によって阻まれる。
一夏が動いた際に男達の視界外に回り込んでいたミシェルの手だ。オートマチックはスライドを強制的に後退させられると弾が出なくなる。ミシェルの手はしっかりとスライドを後退させて押さえ込んでいた。
「ひ、ひぃっ!?」
ようやくミシェルの存在に気付いた男がその凶相に驚く。それに構わず握った拳銃を男の手もろとも男の手の甲側に向けて強引に捻った。トリガーガードに引っかかった男の人差し指がてこの原理により簡単に折れてしまう。苦痛の悲鳴を上げる男。
今度は左のボディブロー。肝臓を狙ったのだが男の腹に当たった感触から、相手がジャンパーの下にベストの類を着込んでいる事に気付いて狙いを変える。男の後頭部を両手で固定し首相撲の体制へ。そして膝の連打。腹から上、胸部や顔面を狙う。
軍隊仕込みの格闘術によってあっという間に男の顔面が血に染まった。顎にひびが入り、歯が折れ、鼻の骨が粉砕される。おまけとばかりに抱え込んだ態勢から後頭部に肘打ちも加えて、男の意識はとっくに朦朧としていた。気絶したくても激痛と出血による呼吸困難で逆に気絶できない。
そしてとどめの大技、右後ろ回し蹴りが男の腹部に直撃。ミシェルの右膝から下は頑丈な義足だ。鋼鉄製のハンマーを打ち込まれたに等しい。ベスト越しでも強烈な衝撃が内蔵を貫き、なんと男の体はワイヤーアクション張りに入口の扉を突き破って外へと吹き飛んで行った。店を取り囲んでいた警官隊の元まで数回バウンドした果てにようやく止まる。
男のジャンパーが肌蹴て中に着込んでいたプラスチック爆弾たっぷりの自爆用ベストが露わになっていたのだが、起爆スイッチを押す男はようやく意識を失う事が出来ていたので男には自爆なんて真似は当面出来る筈もない。
「・・・・・・店内に危険物の持ち込みはご法度だ」
完膚なきまでに叩きのめされた爆弾男を見ながら、ミシェルはそう言い放った。
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相変わらず東医と経穴が鬼門だ・・・<前期試験赤点
総合で40点台と100点満点同時に取るとか極端すぎだろ自分と思う今日この頃。
・・・妄想が爆発するか皆様のリクエストがあれば最終的に削ったプールでのエロい一コマが追加されるかもしれませんがどうしましょ?(何
家のPCが今まで通り使えるか微妙なので更新が不規則になるかもしれません。
<未公開シーン:波間にて>
流れるプールというコースは大規模な屋内プール施設においては定番である。主に浮き輪に乗って波に漂うままコースを巡ったり泳いだりするのが一般的な楽しみ方だ。
楽しむがままにあちこちの特徴的なプールやアトラクションを巡り巡ってこのコースに辿り着いた3人。もちろんこのコースも楽しむ事にする。
係りの人に定番のドーナッツ型浮き輪を借りていざ波に流されだした3人だったが――――問題発生。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
浮き輪の中心部の穴に一夏が仰向けに腰を下ろし、その上に同じように仰向けで箒が横たわって折り重なる――――カップルか家族か、親しい者同士にしか出来ない浮き輪の正しいタンデムの仕方である。
そして一夏の上に重なる箒は極端に露出が激しい過激な水着姿。そんな恋人が浮き輪から落ちないように、そして少しでも露出を隠すべく一夏はしっかりと彼女に両手を回していて、それ故に・・・・・・
ふにっ むにゅ ぽよん ふよっ たゆん
触れちゃうのである。当たっちゃうのである。
波が来る度揺れる胸。そしてその都度布地に覆われていない大迫力の胸部装甲の下半分が箒の腹に回された一夏の腕に当たって震えて潰れるのである。
「悪い、また触っちまって」
「い、いや、いい!一向に構わないから、もっとしっかり支えてくれ」
むっちりしっとり形を変えるその様子、その感触に一夏の理性が斧を叩きつけられる大木のように削られて折れてしまいそうになる。併走して隣を泳ぐ鈴からの白い目も助けにはならない。
今の2人の体勢も問題だった。前方を見ようと思うと一夏の視界には箒の膨らみが形作る深いにも程がある肌色の谷間が、文字通りその鼻先に飛び込んでくるのだ。ごくりと一夏の喉が鳴る。鈴の拳の骨も鳴る。
問題は胸だけではない。むしろ上よりも下の方が一夏にとっては非常に問題があった。
何故ならば・・・・・・当たってるのである。当ててんのよである。ちょっと違うか。
とにかく、上に負けず劣らず三角形の布地の面積が小さいお陰で大部分がはみ出ている尻肉が股間に押し付けられているのが危険だった。ピンポイントかつダイレクトに急所へ当たっているので、視覚と両手の感触よりも一層直接的に一夏の理性に襲い掛かる。
こちらも波に合わせてお尻が右に左に交互に潰れたり擦れたり。とっくの昔に一夏の相棒はガチガチに強度を増していた。棒だけに。
そりゃあ箒とも鈴とも高校1年生にもかかわらず18禁な行為を何度も交わしてきた仲である。しかしだからといって異性の肉体同士の触れ合いに慣れたのかと聞かれれば、そういう訳でもない。
むしろアレである。高校1年生という多感な思春期に恋を知り女を知った一夏の理性は、中学時代と比べると逆に退化し、箍が緩んできてしまっていたのだ。今までが朴念仁ゆえに無駄に強固だったとも言えるが。
言うなれば、今の一夏は青少年ならぬ『性』少年。理性はともかく身体は過剰なほどに正直になってきている。
もちろん男としてまったくもって正しい生理反応を起こしている具合は密着状態にある箒にも丸分かりで、彼女も一夏と同じぐらい赤面し、加えて興奮もしていた。
彼は自分の身体のせいでここまで反応してくれているのだ。今更ながらこんな格好をしてきて恥ずかしく思うが、それ以上に一夏からこんな反応を引き出せた事が嬉しくもあり。
それが更なる事態の悪化を引き起こす。
「ほ、箒サン?」
「もっと・・・・・・しっかり一夏が私を支えてくれ」
引っくり返った一夏の声を無視して、自らの手を一夏の手に重ねた箒は一緒に両手の位置を上へとずらした。
勝手に一夏の両手は箒の双丘を下から持ち上げる形になった。今度こそ強烈な柔らかさがしっかりと一夏の両手に襲い掛かった。
「くぁwせdrftgyふじこlp」
「ほら、もっと、足りない。んっ」
膨らみ諸共箒の身体に両手を回すとかそういうレベルじゃなく、何かもう入っちゃいけないスイッチが入ったのか、上から重ねた恋人の手ごと己の胸を自分から揉み始めてしまう箒。
一夏の思考はオーバーヒート。でも感触だけは余す事無く脳内に記録中。鈴は箒の暴挙に突っ込みも忘れてフリーズ状態。誰か止めろ。
「はっ、んっ、いちかのっ、てぇ、ごつごつして、こすれるっ」
おまけとばかりに腰まで揺らしだしてしまった。薄手の水着2枚だけという隔たりを挟んで一夏の股間と箒の尻肉、果てには尻の谷間の底が擦れ合う。この濡れた感触はプールの水なのかそれとも箒自身の分泌物なのかどっちなんだろ、と漠然と一夏は考える。
浮き輪に乗って波に揺られて漂っているだけなのに何故かお互い呼吸が荒い1組の男女。かなり不審だった。
箒は止まらない。日頃の凛とした日本刀のような雰囲気はどこへやら、一夏の手を操って胸と水着の間に滑り込ませて揉ませては小さく鳴き、器用に浮き輪の上で身をよじって熱い吐息で一夏の首筋をくすぐり、常夏設定の暑さ以外の理由で噴出してきた一夏の鎖骨の窪み辺りに溜まる汗を舐め取る。
箒が一夏の方を向いたせいで、水着に押さえつけられて微妙に横方向への面積を増した乳房が一夏の胸板に当たって潰れる。
覗き込んでくるその瞳は、彼女の叢同様限りない情欲で濡れていた。
「一夏もここまで硬くして、辛いだろう?」
「あ、ああ・・・・・・」
まったく頭が回らないままから返事を返してしまった一夏の答えに、頬を一夏に擦り付けるようにして聞いた箒は妖艶な笑みを浮かべ―――――
「うん、じゃあ今楽にして―――――」
「いー加減にしなさいよこんのバカども!!」
一夏のトランクスの中にもぐりこんだ箒の指先が触れる寸前、ようやく再起動を果たした鈴が放った海中からの昇○拳に下から突き上げられ、引っくり返った浮き輪から放り出された2人は仲良く頭を冷やす事になった。
・・・・・・正直、今まで客や従業員の誰にも気づかれないまま済んだのは奇跡に等しかった。
余談だが、スタート兼ゴール地点まで1周を終えてからもしばらくの間一夏はプールから出てこれなかった。
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最初に載せなかった理由:別の人がすでに似たようなネタを書いていたから