台風の目、という言葉がある。
暴風雨を撒き散らす台風もその中心部は凪の海のように穏やかな天候であり、雨風の影響を殆ど受けない現象からつけられた名だ。
篠ノ之束博士直々に開発された第4世代機<紅椿>の登場、そして<白式>と<ラファール・レクイエム>の2次形態移行というニュースはまさしく旋風を引き起こした。
IS委員会は早くも束博士の血縁であっても代表候補生でも何でもない立場上はただの学生である<紅椿>の操縦者である篠ノ之箒の立場に日々喧々諤々の議論を繰り返し、2次形態移行を果たした2機の開発元である倉持技研やデュノア社の株価は軒並み高騰。世界の経済バランスをも左右しかねない影響を与えていた。
IS学園にも世界中のマスコミ各社から織斑一夏とミシェル・デュノアへの取材依頼の申し込みが殺到。特に両者は世界に2人しか存在しない男性IS操縦者だけあって、幸か不幸か話題性は十分過ぎる。
それに関しては学校側が悲鳴を上げながら何とか突っぱねる事に成功しているが、下手をすれば勝手に学校の敷地内へ強行突破を試みかねない勢いだった。しかしその時は元世界最強の乙女である某教師が撃退して海に叩き込んでやる気満々だったので、マスコミ側は逆に運が良かったのかもしれない。
それからこちらは余談だが、友人として両者と接点がある赤毛の少年の家族が経営するとある食堂に取材を試みた者も存在したものの、こちらはあえなく飛んできた鉄鍋を食らって追い払われたという。
さて。
とどのつまり何が言いたいのかというと。
「・・・・・・暇だ」
己が一因として騒動が外界で巻き起こっているのもあまり気にする事もなく、当事者の片割れであるミシェルは1人学園の敷地内を歩き回っていた。
現在放課後。授業が終わってからの毎度恒例仲間内での自主訓練の時間なのだが、一応怪我人であるミシェルは激しい運動は厳禁と宣告されているせいで1人暇を持て余していたのだ。
最初はシャルロットや一夏達がISを使って動きまわっているのを見学したりイメージトレーニングでもしようかと考えはしたのだが、ミシェルは見かけどおりの体育会系である。ジッと見学しているだと身体が疼いて落ち着かず、渋々分かれて今に至る。
IS学園そのものが島1つ丸ごと使っているだけあって散歩する場所にも事欠かないが、ミシェルとしては飛んだり跳ねたり撃ちまくったり出来ないのがやっぱり不満だったリ。
「部屋に戻ってアニメの新作をチェックするか・・・・・・」
今まで自分が通って着た石畳の遊歩道を逆に辿り、アリーナの傍を通って学生寮へと向かうミシェル。その時、視界の端に入ってきたある存在があった。
それは各アリーナに隣接している建物の大きめの搬入口。電光表示の案内板には『IS整備室』。
「・・・・・・・・・そういえば戻って来てからキッチリとした点検整備をしてやっていなかったな」
2次形態移行を遂げたとはいえ、撃墜された当初はかなりの損傷を負っていたと聞いている。自己修復機能によるものか<銀の福音>に一夏共々再度立ち向かった際は問題無しだったものの、常識的に考えればしっかりとオーバーホールを行っておくべきだ。
ミシェルは扉をくぐって設備室へ足を踏み入れた。人気は無いがしっかりと冷房が利いていて空気がひんやりしている。薄暗い空間中に並ぶ機材の山、山、山。
デフォルトなのに常日頃から不機嫌そうな仏頂面に周囲から見えてしまうという難儀な顔立ちだが、内心ミシェルの感情はちょっと興奮気味だったりする。こういう工作機械とかが並んでいると無性にワクワクしてくる性質なのだ。だって男の子だもん。
こうしたいかにもな空間でいかにもな設備を使ってメカの塊であるISを1つ1つ丁寧にばらしていく。うん、中々ロマン溢れる光景だ。男ならメカ弄りに燃えなくてどうする。萌えでも許す。
ともかく、これだけの設備ならミシェル1人だけでもどうにかなるだろう。デュノア家の跡取りでありIS操縦者、何より個人的な趣味の観点からIS自体の機構などに関してもそれなりに詳しかったりする。実家の研究所で技術者に混じって中身を弄った事も度々ある。
まずはISを展開しなければ始まらない。専用のブース入ろうとしたその時、軽い何かを蹴っ飛ばす感触がした。
地面に視線を向ければ、空のペットボトル。
まったく自分のゴミは自分で始末するものだろうが、とゴミ箱を求めて視線を左右に巡らせたミシェルは何かに気付く。隣のブースの作業台の上に倒れ込んでいる人影。
どうやら先客が居たようだ。背中と後頭部しか見えないが制服からして同じ1年生。勿論女。当たり前か。
空のペットボトルを蹴り飛ばした際に結構な音量が響いた筈なのだが、少女はピクリとも動かない。寝ているのか、それとも――――
「・・・・・・もしもし」
近づいて声をかけてみる。反応無し。少女の髪の色は水色。それにしても水色の髪ってかなり珍しいというか地毛なのかそれとも染めているのか。前者なら流石2次元の世界と言わざるをえないいやいやそんな事考えてないで。
彼女の周りには購買で売っている菓子パンの空き袋が幾つも転がっていた。不意に少女の背中が震え、まず聞こえてきたのは呻き声。微妙に苦しそうだ。
すわ病人か。思わず人を呼ぶかそれよりも自分で運んだ方が速いか、などと判断し行動に移ろうとしたミシェルの前で、おもむろに作業台に突っ伏したまま少女が震える手を虚空に伸ばす。
くきゅう
「お・・・・・・・・・・・おなかすいたぁ・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ミシェルの通信を受けたシャルロットが食べ物を持ってくるまであと3分。
「購買にはアンパンぐらいしか甘いのは残ってなかったけどこれで大丈夫かな?」
「・・・・・・十分だ、むしろ丁度良い。すまなかった、皆と訓練中に呼び出して」
「むしろ丁度良かったよ、解散して部屋に戻る所だったから」
とりあえず伸ばされたままの手にアンパンを持たせてみた。すると水色の少女はのっそりと上半身を起こすと、持たされたアンパンを少しづつ齧り出した。まるでリスかハムスターみたいな小動物っぽい食べ方だ。
しばらく手入れしていなかったのか、髪型が乱れ若干癖毛っぽい前髪が顔の上半分を隠してしまっている。ちゃんと前は見えているのだろうか。
はむはむもぐもぐもっきゅもっきゅ。思わず頭を撫でてやりたい衝動に駆られるシャルロット。初対面なんだから我慢しよう僕。
アンパンを半分近く食べ終えた頃、餡の糖分がようやく脳に巡って思考能力が戻ってきたらしい少女がまず手元のアンパンに目を落とし、次に周囲を見回し前髪を揺らしてから、
「はいこれ、飲み物もあるよ」
「・・・・・・ありがとう」
新たに手渡されたパック入り牛乳をチューゴクゴク。やっぱりアンパンには牛乳だよね。じゃなくて。
「・・・・・誰?」
「えっと、お腹が空いて倒れてるみたいだからってミシェルに呼ばれたんだ。あ、僕は1年1組のシャルロット・デュノアっていうんだ、よろしくね」
「よろしく・・・・・・」
顔はシャルロットの方を向いたが、本当に視界は確保できてるんだろうか不安だ。
ついでに彼女にはこの少女がミシェルに似ている気がした。主に喋り方が。『・・・』多用してるし。
少女がアンパンを食べ終えるまで更にしばし、紙パック入り牛乳も飲み乾してごちそうさまの挨拶までしてから。
「・・・・・・・・・?」
ようやく思考能力が完全に復旧したようだ。目元を隠す前髪を左右に整え視界を確保。顔を上げてみると、金髪の白人の少女がニコニコと笑っていた。更に視線を動かす。
金髪の少女の隣に立っている相手は頭が見えなかった。更に視線を上に埋め、胸板を通り過ぎて首、そして。
「・・・・・・・・??!?!??!?!?!????」
腰かけていた椅子ごと後ろへひっくり返った。声にならない悲鳴を漏らそうとして失敗しながら後ろへと逃れようとし、両手がまともに動かなくて更に失敗する。
まあ、いきなりそんな反応をされた理由も大体は見当がついていた。だって曲がり角とかで見知らぬ女性と鉢合わせしたりするとしょっちゅうされてる反応だし。
「お、犯される・・・・・・!」
でも流石に面と向かって言われるとちょっと泣きたくなる。どこぞの正義の味方みたいに血潮は鉄みたいに頑丈でも心はガラス並みなのだ。しくしく。
少女が落ち着くまで少々お待ち下さい。
「ご、ごめんなさい!・・・・・・心配してわざわざ食べ物まで持ってきてもらったのに・・・・・・!」
「いや、もう気にしていないさ・・・・・・慣れてるからな」
「そんな哀愁の籠った目で言われても説得力無いよミシェル」
それは言わないでやってくれシャルロット。
水色の行き倒れ少女(違)は更識簪(さらしき・かんざし)というそうな。2人にはなんとなく聞き覚えのある名だ。ちなみに眼鏡っ娘である。
「違う・・・・・・眼鏡じゃなくて携帯用ディスプレイ」
さいで。
「更識さんって確か、日本の代表候補生だよね」
「・・・・・・うん。専用機を持たない代表候補生だけど」
どことなく暗い感情の混じった声だった。代表候補生は国か企業のバックアップを受けれるという点から個人の専用機が与えられるのが当たり前だ。その辺りに含む物があるのだろう。
彼女が倒れていたブースには中身―操縦者が居ない状態で跪いている機体が鎮座している。
「それじゃあこれは?更識さんの機体じゃないの?」
「ううん、それは確かに私の機体・・・・・・だけどまだ未完成。だから持ってないのと変わらない」
「そうなんだ・・・・・・あ、ゴメン紹介が遅れたね。僕は1年1組のシャルロット・デュノアっていうんだ。それでこっちが――――」
「知ってる・・・・・・有名人だから」
確かにISに関わる者ならば世界で最初に発見された男性IS操縦者の事を知らなければモグリ以下であろう。
「・・・・・・それで、どうしてこんな所で死んでいたん」
ミシェルが口を開いて向き直った途端簪に小さく悲鳴を漏らされた。やっぱり泣いていい?
「ご、ごめんなさい!・・・・・・テレビや雑誌で顔は何度も見た事あるけど、直接近くで見てみるとやっぱり迫力が違うから・・・・・・」
「・・・・・・傷が無ければ、まだマシなんだろうか・・・・・・?」
「そんなに思い詰めなくていいんだよ!?僕はそのままでも全然気にしてないよ!むしろ似合ってると思うし!」
主に迫力の二乗的な意味で。あと空腹で死んでいた所にやって来てくれた上食べ物まで恵んでくれた人達にいい加減無礼な気がしないでもない。
「だけど・・・・・・ありがとう。わざわざ食べ物まで買って来てくれて。代金は、ちゃんと払うから」
「良いよ良いよ気にしないで。懐には余裕がある方だから」
これでも一応大企業の跡取り息子とその嫁なのである。実家の資産そのものを勝手に運用したりは出来ないが一応軍に所属しているので自前の口座に給料が月々振り込まれているし、軍や国の広告塔としての報酬も結構な額がミシェル個人にも支払われているので実は学校の教師陣よりも羽振りが良かったりする。
とはいえあまり知られていないが、この学園の教師達も大半がISに関わる極めて特殊な専門職の中でも実力者揃い―世界大会優勝者である千冬や元代表候補生だった山田先生が良い例だ―なのでかなりの高給取りだ。
「改めて聞くが・・・・・・空腹で倒れるまで何をしていたんだ?この様子だとかなり長い間ここに籠っていたように思えるんだが・・・・・・」
「・・・・・・だから、機体がまだ完成していないから自分で組み立ててた・・・・・・元々開発してた企業が別の機体の開発とかに人手が欲しいからって、私の機体の開発を勝手に凍結されたから・・・・・・」
「・・・・・・何という無責任」
「それはかなり酷いね・・・・・・それで、これがその機体なんだ。もしかしてこれって<打鉄>の発展型だったりするのかな?」
「うん、<打鉄弐式>・・・・・・堅実性と接近戦を重視した<打鉄>の汎用性を上げるってコンセプトで開発されてたんだけど・・・・・・」
装甲の形状やスラスターの配置に数など、原形の<打鉄>とはかなり違うデザインではあるがシャルロットは鋭く<打鉄>の後継機である事を見抜いてみせた。
シャルロットも<打鉄>と双璧を成す傑作量産機<ラファール・リヴァイヴ>の改良型を愛機とする人間だ。話を聞いている内にこの少女にシンパシーらしきものを抱き始めていた。
次第にあったばかりのこの少女を応援したい気持ちに駆られてくる。そうでなくとも心優しい彼女の事だ、こう提案するのも遅いか早いかの違いに過ぎなかっただろう。
「機体の組み立てをずっと1人でやってたの?」
「・・・・・・うん」
「そっかあ。だったら、僕に手伝わせてもらっても良いかな」
「えっ・・・・・・?」
「ずっと1人じゃ大変でしょ。実際お腹が減って倒れちゃう位根を詰めてたら更識さんの身体にも悪そうだし、誰かが手伝った方がもっと捗ると思うよ?」
「・・・・・・いい」
答えはNO。
2人から視線を外すと、空中投影ディスプレイを複数投影して作業を再開する。複数の画面に表示されたデータの内容を驚異的な処理速度で把握して修正を加えていく。
簪には『自分の機体を自分1人で実用レベルまで持っていく』という目的があった。猛烈な勢いでキーボードを叩く彼女の様子は2人からしてみれば執念すら漂わせていて、迂闊に近づく気にはなれない。
それでもシャルロットは尚も何か言おうとしたが、ミシェルの方が妻を止めた。黙って首を横に振って出入り口を指さす。
今は1人で集中させてやった方が良さそうだ。自分の用事は今日は断念する事にした。整備室を出てからシャルロットが口を開く。
「あの子、大丈夫なのかな」
「・・・・・・時々様子を見に行った方が良さそうだな」
見かけてしまった以上放っておく訳にもいかない。その辺りの思考は似ている夫婦だった。
「・・・・・・む?」
「どうかしたの?」
「いや・・・・・・誰かの視線を感じた気がしたんだが」
それから数日間、放課後になる度整備室を覗いては鬼気迫る様子で作業を行っている簪の様子を観察するのが日課になり出した夏休み間近なある日の昼休み
「皆は夏休みは何か予定あったりするのか?」
唐突に一夏にそんな話題を振られる一同。
「私はイギリスに戻ってオルコット家としての職務や代表候補生として本国での様々な催しや仕事を行わなくてはなりませんの。個人的な用事も幾つかありますが」というのがセシリア。
「特にこれといった予定などは無いな。精々本国の部隊への定期連絡程度だ」はラウラ。鈴も似たようなものらしい。
「私は・・・・・・実家のお盆祭りの手伝いに出向こうかと思っているぐらいだな」
「そっか、そういえば箒の実家って神社だっけ」
「うむ、今は雪子叔母さんに管理をお願いしている」
「ジンジャとは確かキリスト教でいう教会的な位置づけの宗教施設と記憶していますが、もしかして箒さんはシスターだったのですか?」
「いやそれはちょっと違うと思うけど、でも箒って巫女とかもやった事ある筈だからシスターっていうのはあながち間違ってないのか?」
「そ、その辺りの事は説明し難いのだが、篠ノ之神社は神道ではなく土地神を奉る場所なのだから、キリスト教の様に唯一神を奉る教会とはまた別物というべきだろう。神聖な場所という点では大差無いだろうが」
「そうなのか。辺境の地ならともかく、このような先進国そういった風習は中々珍しいのではないか?」
「そうかもね、八百万って定義も日本以外じゃ全然知られてない定義だし」
「ヤオヨロズ?それってどういう意味なの?」
「・・・・・・簡単にいえば日本には沢山の神様が存在しているという考え方だ。長く大切に使われてきた物には魂が宿るという言い伝えから広まった考え方が日本には広まっているから、日本には唯一神を信仰している宗教は逆に広まりにくいらしい・・・・・・」
それほど熱心な信仰者ではないにせよ、ジーザスな大工の息子を唯一神と崇める某超巨大宗教の本場とも呼べる方面の生まれであるセシリアやシャルロット達にとっては目からウロコな話だった。
「逆に言えばいっぱい神様が居るんだからどの神様を信じたって良いんだよ、って話でもあるんだけどな」
もしくはどんな存在でも信仰する宗教であっても受け入れられやすい土台なのだとも言える。クリスマスを祝い年始めには神社へ初詣に行くのが当たり前、というのは日本人独特の風習なのだ。
極端な話、キリスト教とイスラム教に同時に入信したって日本じゃ然程気にされないかもしれない。
人種の違いだって似たようなものだ。日本ではユダヤ教徒のイスラエル人とイスラム教徒のパレスチナ人が同じ店で一緒に豚骨ラーメンを啜ってたって当人達が気にしない限り何時でもOKなのである。
その辺り、深読みかもしれないが世界中から多種多様な少女達を集めて育てる為のIS学園を日本に作ったのもそういった土台が根付いていたからかもしれない。海外の人種差別運動と比べれば日本国内でのそれなど可愛いものだ。
「うむむ、嫁の生まれ故郷というのは奥が深いのだな。流石織斑教官の故郷でもある」
「だからいい加減一夏を嫁って呼ぶの止めなさい。一夏はラウラの嫁じゃなくて『私』と『箒』の『旦那様』なのよ、分かる!?」
「ふっ、問題あるまい。あくまでそれはお前達2人が一夏の嫁であるのであって一夏が私の嫁となる事に支障はない!」
「「あるわっ!!」」
「ちょっとお待ちになって、私もまだまだ諦めておりませんわよ!?ここまでくれば本妻の座はいい加減諦めましたが、愛人の座はまだまだ譲れませんわ!」
「「愛人もダメ!というか愛人の座も与えてないし譲ってもいない!」」
「4人とも落ち着けって、ここ食堂だから!ほら皆も見てるし何人か怖い顔してるし先生とかも混じってるし大体何度も言ってるけど俺は箒と鈴以外もうそんな気は無いんだからいい加減諦めてくれよ!?」
「「 だ が 断 る 」」
「「断るなっ!!」」
「ISまで起動するなー!!!」
ジャキッ!←炸薬を装填する音
「ねえ皆、食事中なんだしこれ以上周りの迷惑にならない様静かに食べようね?
「「「「「は、はひ・・・・・・」」」」」
安全装置解除済みの<灰色の鱗殻>を左手に掲げながら笑ってる筈なのに全然笑ってないシャルロットの一言に、一斉に消沈してISを待機状態に戻す少女達。
――――――シャルロット・デュノア、スキル『コロす笑み』所有。
「そ、そういえばミシェルとシャルロットもやっぱり夏休みは用事あるのか?」
「・・・・・・一応な。セシリアと似たようなもので、学園に戻って来るまでスケジュールは満杯だ。機体のデータ取りだの実家や軍の広報だの・・・・・・」
「臨海学校でミシェルの機体が第2形態になったからね。まだ試作段階の機体が多い第3世代機の中でも特に2次形態移行した機体ってかなり珍しいから、とにかく取れるだけのデータを取り直したいだろうし、開発した企業や所属してる国への評価もかなり違ってくるからそういった事情もあると思うよ」
「なんといってもミシェルさんも代表候補生として国を背負う立場にありますもの、当たり前の事ですわ」
「私だってモデルとして写真撮影やらされた時もあったしね」
「へー、代表候補生って大変なんだな」
能天気に感想を漏らした一夏だったが、じろりとミシェルが鋭い目つきが一夏に向く。
「・・・・・・それを言うなら一夏もそういった仕事をやらされてもおかしくなさそうなんだが」
「え?俺も?」
「そうだな、嫁の機体も第2形態に移行してみせたのだ。開発企業辺りが休み中にデータ取りに押し掛けてきてもおかしくないのではないか?」
「げ、マジか。今年も稲葉先生の所に修行に行ったり家の掃除したりって予定立ててたんだけど」
「一応千冬さんや山田先生にそのような予定が入っていないか確認をとっておいたらどうだ?」
「そうだな、一応千冬姉に聞いとく」
「「(それに空いてる日が分かったらこちらも予定を合わせるまでだしな/ね)」」
「今不埒な考えが過ぎった気がしたのですけれど・・・・・・」
まあ休みを恋人と共に過ごしたいというのは当たり前の考えだろうから、箒と鈴の思考は然程間違ってはいまい。
「まあ日本でも用事があるからさっさと向こうでの仕事は済ませて月の半ばには戻りたいとは考えているが・・・・・・む?」
「あ、更識さんだ」
カウンターの方から昼食の載ったトレイを持ってこっちの方に近づいてくる簪の姿に気付いたミシェルとシャルロットは言葉を漏らした。
簪を知らない他の少女達と一夏を余所に、シャルロットが立ち上がりながら一緒に食べないかと声をかける。
シャルロットの存在に気付いた簪は僅かに嬉しそうな笑みを浮かべた。が、シャルロットを視界に収めると同時に捉えてしまった存在―――――皆と同じように簪の方に顔を向けた一夏に気付いた途端、すぐさま顔を強張らせてUターン。シャルロット達とは反対方向へ去ってしまう。
少女達は簪の反応に対ししばし顔を見合わせてから、白い視線を一夏へと注ぐ。
浮気した夫を見るかのような視線に思わずたじろぐ一夏。特に箒と鈴の視線が実際に針で突かれてるみたいに痛いのなんの。
「吐け一夏。またぞろ私達の見ていない所であの少女に不埒な振る舞いでもしたのだろう!」
「してねぇよ!?つかあの子が誰なのかも知らないし!」
「一夏が気付いてないだけでまた性懲りもなくフラグ立てた子なんじゃないの!」
「いやなんだよフラグって!?」
止めて真剣首に押し当てないで青龍刀展開しないで俺は無実だー!とNice Boat.2歩手前ぐらいに追い詰められた一夏に差し伸べられる救いの手。
「落ち着け2人共・・・・・・彼女は『別口』だ。いや、一夏が原因なのはある意味間違ってはいないが・・・・・・」
どっちやねん、と切実に叫びたい一夏だがもはや叫ぶ時の喉の動きだけで切れちゃいそうな位刃が押しつけられているので代わりに目で抗議。
「そういえば<白式>も<打鉄弐型>もどっちも倉持技研製だっけ・・・・・・」
シャルロットも重い声で合点がいったと呟くが、周りは状況を掴めないまま。
「何の話ですの?」
「あのね、さっきの子は更識簪さんっていうんだけど――――一夏の<白式>を作る為に、先に開発される筈だった彼女の専用機の方が後回しにされて、結局ほったらかしにされちゃったらしいんだ」
「――――――え?」
様々な思いや火種を孕んだまま、IS学園の夏休みが始まる。
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早く書く事はできたんですがネットが出来ない分十分に調べながら書けないのが困りものですorz
根暗妹登場。姉はまだ出ません。だってああいう天邪鬼キャラ書くの苦手なので(殴
どんな感想・批評でもお待ちしております。