あれから色々あってから今度は日本で学生生活を送る事になった。勿論シャルロットも一緒。
たゆまぬ努力と積極的なアプローチの結果、見事俺からシャルロットへの一方通行から相思相愛になりました。きっと一生分の運使い切ったろ絶対。
前の人生じゃ魔法使いになる前に死んだ分大ハッスルしとります。だってシャルロットが可愛過ぎるんだい!俺もそうだけどシャルロットの方もかなり積極的だし。何がって?ナニの事さ。
それにしても十数年ぶりの里帰りかぁ・・・・・・今の俺の生まれ故郷はフランスだけど、前世が日本人だっただけに日本の文化が恋しくて仕方なかったんだよね。
楽しみだ。本当に楽しみだ。シャルロットも一緒だから尚更だ。
―――――あと、一夏にも会えればいいけど。目覚めるのと入れ違いで日本に帰っちゃってからそれっきりだし。
そういえば一夏も何故かIS起動出来ちゃったせいで一緒の学校に入る事になってるんだっけ。また昔みたいに接してくれればいいんだが・・・・・・・
逞しい胸板の上で目を覚ました。
「ミシェルのにおいぃ・・・」
寝ぼけてしばらくの間悩ましげに鼻先を擦りつけ続けてから、やがて低く唸り続ける振動音が目覚ましとなってシャルロットの意識は完全に覚醒した。
下手なベッドよりも上質な心地良さを誇る特大サイズのリクライニングシート、限界まで後ろに倒した上でミシェルとシャルロットは同じシートに横たわっていた。
とはいえ、ミシェルの体躯が良過ぎるせいでシャルロットの方は横になったミシェルの更に上に乗っかる形となっているのだが、当人達はちっとも気にしていない。むしろお互い望む所だったりする。
ミシェルはまだ眠っているようだ。その様子は老いて尚野性味と逞しさを失わない老狼みたいで、シャルロットのお気に入りの光景でもある。
ミシェルの身体から離れないまま手元にあった備え付けの端末で現在地点をチェックしてみると、既に2人の乗ったVIP用の特別機(チャーターしたのはフランス政府)は日本領空内に入り、あと約30分で空港に到着する事を教えてくれた。
そろそろ彼も起こした方がいいだろう。
「起きてミシェル。そろそろ到着するみたいだよ」
「・・・・・・ん。そうか、分かった」
一声かけただけにすぐ覚醒。彼が過去にフランス軍で一定期間軍事演習を受けた時に習得したスキルだそうだ。
ミシェルは眠りに落ちた時同様自分の胸板に乗っかったままのシャルロットの頭に手を乗せ、ソフトボールぐらいなら簡単に握り潰せる巨大な手には不釣り合いなほど繊細に丁寧に、金色の髪を指先で梳く。
シャルロットはまた気持ちよさげに目を細めながら、今度は上半身全体を擦りつける事で彼に応える。
「楽しみだね、確か僕達みたいな子達が一杯居るんだよね、IS学園って」
「そうだろうな・・・・・・生憎、男子生徒は俺以外にはあと1人しか居ないらしいが」
「織斑一夏、っていう名前だっけ?それにしても驚いたなぁ。ミシェル以外にも男の人でISを使える人が居るなんて」
「・・・・・・俺は別の意味で驚いたがな」
日本で発見された2人目のIS操縦者―――――織斑一夏とミシェル・デュノアは、数日間という極短い期間ながら行動を共にした事がある。
それなりに仲の良い友人だったと胸を張って言いたい所だが、ある事件を最後に一言も別れの言葉を交わす事も出来ず一夏が日本へ帰国してしまってからは2人の繋がりはそれっきりだった。
しかしまさか『男でありながらISの起動に成功した』が為に再び関わり合いになるとは、世の中分からないものである。
・・・・・・というか、2ヶ月近く前に一夏がISを起動させた事を知らされた時になって、ようやく『織斑一夏』という人間が『IS/インフィニット・ストラトス』の主人公である事を思い出したのだが。
ついでにシャルロットが原作では薄幸のヒロインポジだった気もするが今は俺の嫁なんだからどうでもいい。
ミシェルと目線が同じ位置に来るまで移動してきたシャルロットがまじまじと覗きこんでくる。
「・・・・・・どうかしたのか?」
「あのね、初めて会った時の事、覚えてる?」
「・・・・・・忘れてたまるものか。何と言ってもその日に初めてシャルロットにプロポーズしたんだからな」
「あの時は驚いたなぁ、会ったばかりなのにいきなりプロポーズしてくるんだもん。ビックリしちゃったよ」
「・・・・・・言わないでくれ。後悔はしていないが、掘り返されるとかなり恥ずかしい」
「だけどね、あれだけインパクトがあったからこそどんどんミシェルの事を意識しちゃうようになったんだよ?最初からいっぱいいっぱい僕に好意を向けてくれたから、僕もミシェルの事がどんどん好きになっちゃったんだから」
「・・・・・・一目惚れって、恐ろしいな。勿論今もシャルロットにベタ惚れなのは否定できないが」
そう言ってミシェルの口元に苦笑が浮かび、それからふとその視線が下へと動く。
2人共上着を脱いでスラックスにワイシャツ姿なのだが、どちらも寝る時に上のボタンを外していた。
ミシェルからしてみれば、十分以上に実ったシャルロットの肉鞠が形成する谷間や白磁の肌がバッチリ見えて目に毒だった。
「・・・・・・こっちは昔と大分変わったな」
「ミシェルがエッチなのは昔から変わってないね」
頬に血の気を集めつつもシャルロットは胸元を隠そうとしない。それ以上に恥ずかしい所も彼には何度も自分から曝け出したのだから今更な話だ。
2年前と比べてミシェルの身長は更に伸びて今や190半ば。筋肉の量も眼光の鋭さも更に増してるもんだから全くもって今年で16には見えな――――え、元から?
シャルロットの方は肉体そのものの成長期とミシェルと共に積んできたIS操縦者としての訓練、更に女として磨こうと試みてきた本人の努力に加えミシェルから加えられるあれやこれやな肉体的・精神的刺激によって促された結果、同年代の少女達が揃って羨む肢体を手にしていた。
原作では一夏視点でCカップと評価されたバストサイズもこの世界では現時点でEカップ。しかも現在も成長中。
本人曰く下着がすぐ合わなくなるし訓練をしていても揺れて痛かったり戦うのに邪魔になる時もあるけどミシェルが喜んでるからまあいいや、との事。
・・・・・・中国の代表候補生辺りが聞けば2重の意味で激怒しそうな言い分ではある。
「うー、もう大きくなってきてる・・・・・・本当にミシェルってばエッチ過ぎだよぉ・・・・・・」
「・・・・・・面目ない」
ちょっとむくれた様子で唇を尖らせてから――――シャルロットの指が、スラックスのジッパーを下まで下げて、どんどん固さと大きさを増していく物体をそっと撫でた。
「着陸まで時間がないから、口だけで我慢してね?」
一言で表すならば『む~ん』であった。
何が『む~ん』なのかと問われれば決まっている。IS学園1年1組の教室内に漂う空気の様子がまさしく『む~ん』といった感じなのだった。
その空気の気まずさと緊迫感が如何ほどのものかというと、副担任の山田真耶先生が教卓の前で涙目になってしまうほど。
1年1組の生徒30名中28名を占める少女達。1人を除いて彼女らの顔には乙女には似合わない冷や汗がダラダラと流れ、視線の向きも全く安定していない。
何故か?彼女達が注目したい相手と全力で注目していない存在が隣り合わせで、見ようとすると嫌でも両方視界に飛び込んで来てしまうからだ。
今の状況は少女達からしてみれば猛獣と一緒の檻に入れられてしまったウサギの群れ、立て篭もり犯に捕まった人質、怪物に囚われたお姫様と同じ気分――――とどのつまり、怯えて身体を縮こませる以外に選択肢がない。王子様助けてー!ってな気分である。
その元凶は、最前列真ん中に鎮座する初代男性IS操縦者。
「(・・・・・・女子ばかりで激しく落ち着かん)」
ミシェル・デュノア―――――世界で最初に発見された男性IS操縦者であり、現フランス代表候補生。大企業デュノア社の御曹司。
専用ISは<ラファール・レクイエム>――――デュノア社製の名作量産型IS<ラファール・リヴァイヴ>をベースにフランスを中心としたEU各国合同で開発された高火力・汎用性・継戦能力重視の第3世代機。
お年頃の少女達からしてみれば、IS学園に2人しか存在しない男子学生の中でも超有望株なのだが・・・・・・彼の容貌を一目見れば、少女達の期待は完膚なきまでに粉砕されてしまうのが定番だった。
とにかくゴツイ。前世紀後半に流行ったB級アクションに登場する筋肉モリモリマッチョなアクションスターと悪役を足して割ったような厳つさ。鼻を真横に横切る傷跡によってまた凄味を増している。
身体つきも負けてはおらず、白い制服がパンパンに今にも筋肉ではち切れんばかりだ。腰かけている椅子がとても小さく見える。
というか貴方絶対年齢のサバ読んでますよね20歳ぐらい、と言ってやりたくなるぐらい迫力をそこに居るだけで放っているのだ。
ともかくISを動かせる女性が持て囃されてばかりいるこの時代に先祖帰りしたかのような男臭さに満ち溢れたミシェルの存在は、女尊男卑が当たり前の世代である年頃の少女達には刺激が強過ぎる。
逆を言うと時代錯誤な男らしさを外見上体現したかのような存在であるミシェルは世界中の男性、特に一定以上の世代からは大人気だったりする。
それはともかく、教師の務めを果たすべく涙声になりながらもSHRを進めて自己紹介を必要以上に緊張気味の少女達に行わせる山田先生。
「つ、次は織斑一夏君ですねっ。それじゃあじ、自己紹介をお願いしますっ!」
上ずった声で告げられた内容に、今度こそ教室中の少女達の視線が一点へと集中した。その隣に居座る存在をなるべく認識しないよう心がけながら。
いやだって、マジ怖すぎるし。何処のヤーさん?それとも外国人だからマフィア?
「えー、えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします」
織斑一夏。世界で2人目の男性IS操縦者。
ミシェルとは対照的に背丈は普通、顔はどちらかといえば女顔で中々美形の部類。男性は男性でも思春期真っ盛りの少女達にとっては、彼の方に大いに興味を惹かれざるをえない。
彼も多数の少女達に囲まれて非常に落ち着かなさそうだった。彼も隣の野獣にチラチラとしきりに気にした様子ではあったが、雰囲気が少女達とは少し違う。
「趣味は鍛練、得意な事は家事全般です・・・・・・・こんなもんで良いですか、先生」
「は、はいっ!結構なお手前でした!」
何か間違った評価であった。本当にこれから大丈夫なのかこの先生。
それからも粛々と―何かに怯えたかのように―覇気の感じられない自己紹介は続き。
遂に彼の出番がやってくる。
「・・・・・・ミシェル・デュノア。フランスから留学してきた。趣味は身体を動かす事と射撃訓練、それからアニメとゲームも少々・・・・・・あと、どうせ後々問われるであろう事があるのでこの場で言っておこうと思う」
一旦彼が言葉を区切り、西部劇の決闘シーンもかくやな緊迫感が教室を覆う。
「・・・・・・同じクラスのシャルロット・デュノアとの関係だが――――――」
ゴクリ、と誰かが息を呑んだ。場面で言えば今まさしく決闘の合図であるコインが弾かれて宙を舞っている瞬間だろう。
更に緊張感は高まり、固唾を呑んで見守る観客(クラスメイトの少女達+山田先生)が順番に映し出すという手法で引っ張って、引っ張って、引っ張って、引っ張って――――――
「―――――フランス政府公認の俺の嫁だ。ぜひとも妻と仲良くして欲しい。言いたい事は以上だ」
「アホか貴様ぁ!!」
どんがらがっしゃーん!!!と1人を除いてクラス内の人間全員が椅子ごとずっこける音と。
すぱぁん!!と何処からともなく現れては背後に回り込んでいた1年1組担任の織斑千冬が思いっきり振り下ろした携帯端末の打撃音が同時に響き渡った。
ちなみに唯一ずっこけていなかったのは「もうミシェルったらこんな場所で堂々宣言しなくても・・・・・・嬉しいけどさ」とだらしなく顔を緩めた彼の嫁だったりする。
混沌とした雰囲気のままSHRと1時間目の授業が終了した直後。
「あのさ・・・・・・ちょっと、一緒に来てくれないか?」
「・・・・・・ああ、分かった」
2人だけの男子生徒が共に教室から離れていってから、急激に室内はざわめきだす。
「ねえ、今の見た?織斑君からデュノア君に話しかけてたよ」
「もしかして2人って知り合いなのかな。まさか2人が男性なのにISが使えたのもそのせいだったりして」
「覗きに行っちゃおうか?」
「ううん、止めといた方がいいかも・・・・・・もしミシェル君が怒ったらどうするのよ」
「う゛っ」
「はっ!ま、まさか2人って実はそんな関係!?ダメよ織斑君、そんな非生産的な!」
「いやデュノア君ってもうお嫁さんも居るんじゃ・・・・・・まさかどっちもイケる人とかなのかな?奥さんの他に男の愛人を囲っちゃったり!?」
「ミシェル×一夏――――ううん、一夏×ミシェルもアリね!」
「腐女子乙ww」
本人達が居ないからって言いたい放題である。特に後半。妄想逞し過ぎにも程があるだろ、と突っ込む人間は居ない。ええいこのクラスはボケばかりかっ!
「でもさっきもミシェル君の紹介聞いた?あの年でもうフランス公認で奥さんが居るとか凄くない?」
「意外過ぎるけど何でだろうね、えらくしっくりくるのって・・・・・・見た目的に違和感が無いっていうのかな」
「シャルロットさんならミシェル君と一夏君の事も知ってるかも!聞いてみよ?」
しかし、シャルロットの姿も既に教室から消えていた―――――もう1人の少女と共に。
「あのさ、何で篠ノ之さんも付いてくるのかな?」
「そ、それは一夏は私の知り合いだからだ・・・・・・それよりも私の事は箒で良いぞ」
「じゃあ僕もシャルロットで良いよ。それよりもどこに向かってるのかな2人共」
ミシェルと一夏を追いかけるのはミシェルの嫁ことシャルロットと凛とした眼差しにポニーテールが特徴的なクラスメイトの篠ノ之箒。
「それにしても一夏め。せ、せっかく6年ぶりに遭ったというのに無視するつもりか・・・・・・」
「いや、ミシェルが言うにはあの織斑って人と知り合いだったらしいよ。何でも旅行先で短い間一緒に居たって聞いたんだけど」
「むう、そうなのか」
『・・・・・・久しぶり、だな』
「おっと」
わざわざ校舎の外に出てから最初に口を開いたのはやはり一夏から。その口調と表情は暗い。
『ああ・・・・・・3年ぶり、といったところか。元気そうで何よりだ。まさかこんな所で会えるとは思いもよらなかったが』
『俺・・・・・・・・・・・・ずっとミシェルに謝りたかったんだ』
そう言うなり一夏は跪くと石畳に額を擦りつけた。思わず目を見開き身を乗り出す覗き魔の2人。
『謝ったって許されないのは分かってる――――それでも、これだけは言わせてくれ。ゴメン、本当にゴメン!俺のせいで、あんな事・・・・・・!』
『・・・・・・謝るとしたら、むしろそれは俺の方だ。何せ友人が目の前で攫われそうになりながら、無様にやられて助けにもならなかったのだから』
「誘拐・・・だと!?聞いていないぞ、そんな話!」
『ミシェルが悪い筈無いだろ!俺のせいでミシェルは死にかけて、片足を失ってっ、それにっ・・・・・・!』
「まさかミシェルが片足を失ったのって、織斑君が関わってたの?」
最後の方は掠れて届いてこなかったが、聞こえてくる一夏の血を吐く様な告白を驚愕混じりで盗み聞きし続ける。
――――夢中になり過ぎて背後に忍び寄る存在に、2人は声をかけられるまで全く気付けずじまいだった。
「盗み聞きとは良い趣味だな。篠ノ之、デュノア」
「「うひゃあっ!!?」」
驚きに飛び上がると同時に回れ右。そこにはうろんげな眼差しで自分達を見下ろす担任の姿。
「何をコソコソしているかと思えば・・・・・・早くも仲良くなれた様で何よりだがな」
「「は、はぁ」」
嫌味たっぷりの御言葉を頂戴して2人揃って小さくなる。
しかしふと、箒がおずおずと一夏の実の姉である千冬に問いかけた。2人の話は一体どういう事なのかと。
千冬はまず溜息を吐いてからしばし黙考する。然程時間をかけず箒とシャルロットに事情を説明する事に決めた。
なんせシャルロットはフランス政府も認めたミシェルの伴侶であるし、箒はISの開発者で千冬の友人でもある束の妹である事に加え一夏の幼馴染でもある。この2人なら言いふらすまい。
「・・・・・・第2回モンド・グロッソ大会における私の顛末なら大まかには知っているな」
「はい、織斑先生が2連覇を目前にしながら決勝戦を棄権し不戦敗、その後すぐに引退を表明したって事ぐらいですけど」
「決勝戦当日、一夏は何者かの手によって誘拐されたのだ。そのとき偶々行動を共にしていたミシェル・デュノアが防ぎに入り――――結果、銃撃を受けて生死の境を彷徨った。特に右足は散弾が骨を直撃した為に損傷が酷く切り落とさねばならなかった」
「ミシェルが義足なのってそんな事があったからなんだ・・・・・・」
実の所、千冬は今の内容に虚偽を加えていた。いや正確には事実を全ては述べなかった、と言うべきか。
千冬が告げた部分だけで十分に衝撃を受けていた2人は、微妙に歯切れの悪そうな千冬の様子に気付かない。
「その後しばらくデュノアは昏睡状態に陥ったんだが、一夏の身を守る為に私がすぐに一夏を帰国させたせいで2人の関係はそれっきりになってしまってな。一夏が異常に鍛練を行うようになったのもそのせいだろう。どちらにしろ、全ての責任は私にある」
「そうだったのですか・・・」
事情を知る千冬と知らされた2人の表情が次第に沈鬱なものに変化していく中、当事者達の話何時の間にやら終わりにさしかかっていた。
『・・・・・・もうそれ以上気に止まないでくれ。こうして俺はまだ生きてる。生きてる限り、必ず次がある。こうして、また一夏と再会できたように』
『ミシェル・・・・・・』
『・・・・・・それに、俺は後悔していない。大切な(数少ない)友人を守るため命をかけた事に、後悔する点が見当たらない』
『そっか・・・・・・ははっ、俺って友達に恵まれてるなぁ・・・・・・』
一夏はそう言って笑った。笑いながら、泣いていた。土下座の姿勢から身体を起こしただけの体勢のまま涙を流す一夏の元に、ミシェルもまた跪くと肩を回し、そっと背中を叩く。
最初は友人達の和解の様子を感動の面持ちで眺めていた箒だったが、何気に柄になっているその光景から得体の知れない衝動に襲われた。
とにもかくにも男らしさの権化のような見かけのミシェルに対し、一夏は全体的に千冬とよく似た女顔である。おまけに涙を流すその様子がまたソッチ系の雰囲気を漂わせていて何ともかんとも。
というか顔が近い。顔が近いぞ2人共!
「いかん、いかんぞ・・・・・・!6年ぶりに再会できたと思ったのにまさか男に一夏を取られてしまうなど!」
「ねえ、ヒトの旦那様使って何妄想してるのかな君?」
「生身の人間に銃口を向けるなそもそも許可なく勝手にIS展開するな」
薔薇が舞う妄想に顔を真っ赤にして悶える箒へニッコリ笑ってIS用の突撃砲を構えるシャルロットの頭を遠慮なく叩く千冬。
キーンコーンカーンコーン
「「「あっ」」」
『・・・・・・教室に戻るとするか』
『ああ、これから一緒によろしくな、ミシェル!』
『それはこちらのセリフだ・・・・・・』
「・・・・・・お前らも早く教室に戻るぞ」
「「はい・・・・・・」」
友誼を交わし合う男2人に気付かれないようコソコソと立ち去る彼女達の姿はまるで不審者の様だった。