試合の組み合わせを行うシステムが不具合を起こし、当日になって昔ながらの手作りくじで決められた結果。
一夏とミシェルのコンビ、そしてラウラとシャルロットのペアは2回戦にぶつかる事になった。
箒と鈴、セシリアはBブロック。セシリアがペアを組んだ相手は―――のほほんさんこと布仏本音。でものほほんさんの方がしっくりくるのでそれで通す事にする。
「最初に戦う人達には悪いけど、意外と早く決着をつける事になりそうだな」
「・・・・・・油断するなよ?」
「勿論分かってるって。相手が誰だろうと手加減はしないさ」
お願いだから手加減してー!?と誰かが悲鳴を上げた気がした。最初の対戦相手の少女達かもしれない。
向こうからしてみればあの織斑千冬の弟であり銃弾を撃ち落とすような剣鬼の弟弟子(おとうとでし)と人間火薬庫のタッグが相手となれば泣きたくもなる。すみません、不戦敗していいですか?
「でもセシリアがのほほんさんとかあ・・・・・・意外っちゃ意外だな。何時の間に仲良くなったんだろ」
「・・・・・・まあのほほんさんならしかたないな。誰からも好かれてそうだ」
「そうだよな。なんてったってのほほんさんだもんな」
「・・・・・・で、彼女の強さは如何ほどだと思う?」
「――――俺にも予想つかねーや」
「・・・・・・同感だ。ただ、一緒の班で実習を行った時は中々良い筋だったから意外とやるかもしれないぞ」
「っと、丁度セシリアとのほほんさんが戦うみたいだぞ」
モニターにアリーナの様子が映し出され、セシリアとのほほんさんが名前も顔も知らない別のクラスの少女達との試合が今開始された。
のほほんさんは<ラファール・リヴァイヴ>、相手の女子は2人共<打鉄>を装着。量産機ばかりの中に1人専用機を纏ったセシリアの姿はよく目立つ。
やはりというか代表候補生として操縦経験の長いセシリアと違って、相手の機動は落ち着きが無く無駄も多い。セシリアのビットにいいように追いかけ回されている。
それよりも一夏とミシェルの目を引いているのは残る1人、のほほんさんの動きだ。
「なんつーか、あの動きは――――」
「・・・・・・猫、だな」
昔のSF映画に出てくるUFOにも似た独特の空中機動能力がISの特徴なのだが、のほほんさんのそれはまさしく猫宜しく飛んだり跳ねたり、野生の獣みたいな動きだと2人は同じ思いを抱いた。
日本刀に似た実体刀の斬撃も、のほほんさんは「うわ~こわいよ~」と叫びながらするりとかわしてみせた。悲鳴は何とも気が抜けるが斬撃の軌道を見切った上での必要最低限の回避である。
反撃も的確で、装備したショットガンを至近距離で叩き込むと相手が反撃に移る前に素早く離脱。離れて行ったのほほんさんに気を取られた所をセシリアのビットが追撃。
着実に、確実に。対戦相手のシールドエネルギーを削っていく。
「のほほんさんが囮役でセシリアが止めって感じだな。チームワークも即興だろけどしっかりしてるし、結構相性良さそうだなあの2人って」
「・・・・・・多分、のほほんさんのあの戦い方は天然だな。本格的に磨けばシャルロット達ともタメを張れるかもしれないな」
それから一瞬ミシェルは考え込み、
「・・・・・・だが失礼に当たるのは分かっているんだが、どうしてものほほんさんが必死に自分を鍛える姿が思い浮かばないのは何故だ」
汗水たらして自分の身体を苛め抜いてる絵面よりもあの猫のきぐるみを着てこたつで丸くなってる姿がよっぽどお似合いだと思ってしまう。
しかしのほほんさんの実力は本物だ。相手の攻撃に対し、直撃は殆ど食らっていない。
押されれば引き、引けば押す。<ブルー・ティアーズ>のビットの回避に必死になれば「それ~」と力の抜ける声を上げながら突撃して相手の足を止めさせ、そこに放たれたセシリアのレーザーライフルによる一撃が少女達の1人に絶対防御を発動させた。
こうなればセシリアのビットの十字砲火にレーザーライフル、加えてのほほんさんの猛攻を一身に浴びる事になったもう片方のシールドエネルギーが底を突くのも時間の問題である。
片方が墜とされてから1分も経たず、セシリアとのほほんさんの勝利が決定した。
2人しか居ない男子更衣室にまで届いてくるアリーナを包むどよめきは、代表候補生の一角の見事な戦い方のみならず意外なダークホースの登場に驚いてのものかもしれない。
「・・・・・・次は俺達の番か」
「よっしゃ、それじゃあ早く行こうぜミシェル」
「・・・・・・相変わらず派手ねー、ミシェルの戦い方って」
「まったくだ。お陰で一夏が目立たなかったではないか」
「いや充分一夏も注目浴びてた気がするんだけど」
そりゃ悉く自分に当たる射撃だけ見切って刀1本だけで叩き落とし続ければ観客の度肝を抜くに決まっている。
「言われてみればそうかもしれないが、やはりもう片方のミシェルの戦いの方が人目を引いていたからな」
「あー、それは否定できないわね」
箒と鈴からしてみれば分かりきっていた事ではあるが、一夏・ミシェルペアは至極順当に1回戦を勝ち抜いてみせた。
結果は大方の予想通りではあったものの、問題はその内容である。
クラス代表決定戦などでその実力を見せつけた一夏と違い、学園に入学してから公の場で試合を行っていなかったミシェルの戦いぶりは、やはり観客の度肝を抜いた訳で。
さっきまで試合の様子を映していたモニターに目を向けてみると、『しばらくお待ち下さい』のテロップとアリーナの整備にいそしむ職員達の姿が。
「――――――なんてったってミシェルが使う武器って爆発系ばっかりだし」
鈴が思い出すは試合開始直後にミシェルが言い放ったこの一言。
『正面から行かせてもらおう。それしか能が無い―――――全てを焼き尽くすだけだ』
その発言に凍りつく対戦相手――――それが命取り。
次の瞬間一斉に放たれるミサイル、砲弾、銃弾の嵐。爆炎に2人の少女が呑み込まれた瞬間、思わず『あああの2人死んだな』と考えてしまった人間は一体どれほどのものだろう。
その結果が現在職員達が補修中のアリーナの地面である。一体どんな弾頭使ったんだと小一時間問い詰めたい。実際試合後千冬にお説教されているミシェルの姿が目撃されたとかしないとか。
ちなみにミシェルが使用したミサイルや砲弾に使用されていたのはサーモバリック弾頭。燃料気化爆弾の発展型としてより高威力を誇る弾頭である。
「正直、一夏よりもミシェルの方が厄介かもしれないな。あの弾幕と火力は脅威にも程がありすぎる。斬りかかろうにも弾幕が激し過ぎて近づけないし、仮に近づけても」
「AICの盾に捉まればジ・エンドよね。私の衝撃砲も防がれちゃうし、何より一夏の存在も忘れちゃいけないし」
「少しでも気が取られようものなら躊躇い無く一夏は斬り込んでくるからな。味方の射撃が当たるのも恐れないと来ている」
実際先程の試合もミシェルの開幕一斉射撃によって片方はその弾幕に一気に押し潰されて戦闘不能に陥っていたが、もう片方は何とか回避に成功し生き延びてみせた(それでも半分以上シールドエネルギーを失っていたが)。
そこに襲いかかったのが一夏である。
その時の少女の反応も中々の物で、一夏の接近に気付くとライフルを数発発射しただけだが見事に反撃を見せ・・・・・・そしてそれをあっさり<雪片弐型>に受け取められてバッサリと一刀両断された。
その間、僅か15秒。ちなみにミシェルが撃って撃って撃ちまくっていた時間は10秒程。その間撃ったミサイル・銃弾・砲弾は合わせて数百発。
絶対トリガーハッピーだろあの野郎。きっと撃ってる最中あのバイザーの下で邪悪且つ獰猛な笑みを浮かべてたに違いない。
逃げられなかった少女?勿論医務室送りである。ISの防御機構のお陰で無傷ではあるがむしろ精神的ショックによるものが理由だ。
遺言は『炎の壁が・・・』であった。
「いや死んでないってば」
「何処を見て言っているんだ鈴」
「細かい事は気にしないで。でも本当あの弾幕は反則よ。何アレ、本当にIS?まるで戦艦よ!」
「むしろ要塞だろう。狙うとすればアレだけの弾幕だ、弾切れの瞬間を見計らって攻撃を集中すれば良いかもしれぬが、やはり問題はAICか・・・・・・」
「でもリロードや武器交換の隙も高速切替をミシェルも使ってくるから殆ど無いわ。シャルロット程の速さじゃないからまだマシだけど」
「そして何より一夏がそれを許す訳無いだろうし、ミシェル本人も分かっている筈・・・・・・」
「厄介ね」
唱和する溜息。鈴など猫みたいな呻き声を漏らしながら頭を掻き毟っている。
「しかし気になっていたのだが、あれだけの数の兵装をどういった原理で同時に扱っているのだ?」
「簡単な話よ。ISのマン・インターフェイスを使って両肩の兵装とかを操作してるの。BT兵器と似たような要領よ」
言うなれば2丁拳銃の更に規模拡大版だ。両手に加え両肩の兵装はハイパーセンサーによる補助を受けた思考によって操作しているのである。
「ビットの方も数を減らして数種類の自立機動プログラムを搭載した事でほぼ自立して動くようにしてあるから、セシリアみたいにビットの操作に集中しなくていい分他の事に意識を回せるのよ」
ミシェルは幾つか存在するビットの制御プログラムを目的に応じて切り替えるだけでいい。AICの発動も自動なのでラウラの停止結界の様に意識を集中させる必要も無い。
「その代わり自立機動する為の機構以外にもAICなんての積んだせいでビットがアレだけ大きくなっちゃったんだろうし、防御か迎撃しか行わないのもそこまで遠くまで離れたら操作できなくなるか、そこまで柔軟な機動プログラムが組まれてないのかも―――っていうのが予想ね」
それ以外にもAICによる防御とレーザー砲による迎撃を同時に行えない、という弱点もある。
「どっちにしても十分厄介な事に変わりはないな」
「そうよねえ。ただでさえ一夏1人だけでもヤバいのに」
だけど、と2人は決意を新たに握り拳を作って見つめ合う。
「確かに2人の実力は絶大だ!だがだからといってここで挫ける訳にはいかん!」
「その通り!あっさり負けを認める訳に似はいかないわ!絶対一夏に思い知らせてやるのよ!!そう」
「「一夏の妻としての、本当の実力を!」」
それなりに学園内に自分達と一夏の関係は広まりつつあるが、それでも2人にはまだ足りない。
ならばこの学年別トーナメントを勝ち上がり、実力を学園内の女子中に知らしめてやれば、箒と鈴達を乗り越えて一夏を奪い取ろうと企んでいる者達も諦めるに違いないだろう。
ぶっちゃけた話、一夏に対して言った『まだ他の女の子に色目使ってる(箒&鈴視点)からお仕置きしてやる』云々は然程本気で言ったつもりではなく、まあ精々・・・・・・半分ぐらいしか考えちゃいない。ないったらない。
「そろそろ出番だな。行くぞ鈴!」
「オッケー箒!存分に暴れてやるんだから!!」
「・・・・・・フッ、やはりコイツらは恐れるに足りんな」
箒と鈴の試合を見たラウラの第一声がこれである。
「いや、でも油断とかしちゃダメだからね?っていうか2人共普通に強かったと思うけど」
「だがあの程度なら私1人でも十分だろう。そもそも私の<シュヴァルツェア・レーゲン>との相性も悪過ぎる」
それに関してはシャルロットも同意見だ。鈴の<甲龍>の武装は連結式の青龍刀と衝撃砲。どちらも容易に停止結界で防げるし、<打鉄>を纏う箒も実体験を用いた接近戦に偏っている。
先程の試合もそれを証明するかのように、箒は積極的に斬り合いに持ち込もうと突撃を繰り返していた。<白式>と違って一応<打鉄>も射撃兵装が使えるだろうに、何かこだわりでもあるのだろうか?
コンビネーションそのものは箒が斬り込み役で鈴が衝撃砲で援護という役割分担ではあったが鈴も接近戦に持ち込む事が多い。実際さっきも衝撃砲で壁際まで追い込んでから青龍刀の連撃を叩き込んで決着をつけている。
「――――だがあの男には及ばない」
だが一夏程の技量と速さはない。普通の生徒相手なら十分圧倒出来るかもしれないが、逆に両手とプラズマ手刀と6個のワイヤーブレードを自在に操るラウラなら比較的簡単に押し切れるだろう。
その辺りはやはり生まれてからずっと軍隊で鍛えられてきたラウラと1年余りしか訓練を積んでいない鈴の地力の差か。そもそも何も知らない一般人から、僅か1年で代表候補生の座を奪い取った鈴の方が異常なのである。才能や潜在能力は鈴の方が上なのかもしれない。
勿論自力以外にも機体性能の差も大きい。ラウラからしてみれば、<甲龍>は安定性と燃費を重視し過ぎて『大人し過ぎる』機体だった。
「だがまさかこんなに早くあの男との決着をつけれるとはな」
「1回戦勝てばいきなりミシェルと対戦かあ。うーん、なんかいきなりというか中途半端なタイミングな気が」
ラウラは日頃浮かべている氷のように冷たい無表情か不機嫌そうなムッツリ顔が嘘みたいな満面の笑みを浮かべているが、年頃の少女らしいというよりも得物を前にした獣じみた凶暴な笑いである辺りちょっとシャルロットには悲しい。
どうすればもっとラウラが女の子らしくなってくれるんだろうか、と内心肩を落とすシャルロットはまるで子供の将来に悩む母親の様だった。
まあ、ラウラの保護者(クラリッサ他黒ウサギ部隊の人達)から彼女の事頼まれているし、似たようなもんである。
ラウラとシャルロットの試合が次に迫り、アナウンスが2人の名を呼んだ。
「こうしてはいられん!行くぞシャルロット、出撃だ!!」
「わ、わわわ、引っ張らないでよー!」
「正直、意外でしたわね」
「せしりー、何のこと~?」
「いえ、こちらの事ですわ」
考えていた事が口に出てしまい、思わず取り繕ってしまう。
セシリアの脳裏を占めていたのは、隣にいるこのペアを組んだ少女についてであった。『意外』というのはこの少女が思わぬ実力者だった事について。
誰にするか悩んでいる内にペアの申し込みが締め切りになってしまい、抽選の結果こちらはのんびりしている内に申し込みを忘れてしまっていた彼女とペアを組む事に相成ったのだが、
「のほほんさんは学園に入る以前にもISの操縦経験が御有りなので?」
「ん~ん~、お友達の整備のお手伝いとかで触った事はあるけど、自分で動かしたりはぜんぜん~」
「ならやはり才能・・・・・・というよりも天然と仰るべきなのでしょうね」
「?」
奇しくもミシェル達が抱いた感想と同じ考えを口に漏らしながら、思考はつい数分前に繰り広げられていた戦いを脳裏で再現する。
ラウラとは直接相見えた事が無くても一夏との決闘は間近で観戦したから、その実力は痛い程理解している。
あのドイツの代表候補生は、強い。誰かに自分と彼女。どちらが強いか聞かれたら素直に認めないだろうけど、同じ代表候補生として上りつめてきた中で鍛えられてきた射手としての観察眼は、冷静に自分との実力差を見抜いていた。
加えて彼女と手を組んでいるのはシャルロット・デュノア。器用貧乏というなかれ、その全距離に対応した戦闘能力と敵に自分のペースに持ち込ませない戦い方はまさに驚異的。
何よりそんな戦い方のせいか、チーム戦になると仲間に合わせるのがとても上手い。その視野の広さと的確な援護はセシリアも羨ましくなる。
そんな2人が手を組めば、どうなるか。
「しゃるしゃるもラウっちも強いよね~」
「シャルロットさんの援護射撃で相手からの接近を許さず、動きが止まればラウラさんの猛攻。堅実ですが、その強さは生半可な物ではありませんわ」
ラウラが前衛でシャルロットが後衛。シャルロットの高速切替での絶え間無い射撃はあのミシェルの伴侶なだけあると思わせる密度の濃さで相手を縫い付ける。
防御に移って足を止めた途端ラウラが襲いかかり、プラズマ手刀とワイヤーブレードで切り刻む。対戦相手の片割れが助けに入ろうにもシャルロットの弾幕が許さない。
弾幕といえどシャルロットの射撃は正確だ。命中弾も多く、撃たれる側は仲間の助けも反撃も出来ないままシールドエネルギーを削られる。
片方を仕留め終えたラウラが加わればもう勝敗は決まったも同然。
停止結界すら使われる事無く、ラウラとシャルロットは2回戦へと勝ち進んだ。
「次の対戦は一夏とミシェルさんが相手、ですか」
「どっちが勝つんだろうね~?どっちも勝てたらいいよね~」
「それはちょっと無理な相談だと思いますわよ?」
友人としては、組んでる相手が気に入らない相手でもシャルロットに勝って欲しいと思う。直に接するようになってからは大分マシになったけれど、今でもちょっとだけミシェルの事は苦手なままだ。
恋する乙女としては、一夏が勝利して欲しいと願う。恋愛感情というのは難儀な物で、もう彼には相手が居て―しかも2人―日頃仲睦ましくされるのを見せつけられても、そう簡単に恋の炎は鎮火してくれない。
・・・・・・2人娶ったのなら、もう1人ぐらい仲間に入れさせてくれないのでしょうか?
望む答えが返ってきそうにない願望に肩を落としながら、セシリアはのほほんさんと一緒に他の試合の観戦に集中する事にした。
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A:既に2人だけで(色んな意味で)いっぱいいっぱいだから無理です。
うーん、中途半端というかなんというか。一気にラウラ戦を始めるべきだっただろうか。
ちょろいさんのタッグはのほほんさんに。あとミシェルとラウラでちょっとネタに走ってみた。
最近分掌書いていると自分に語彙が不足している気がする件。
感想・批評、何時でもお待ちしています。