本編とは関係ないやばいネタの続きです。オリジナル設定を入れているのでお読みになられる際はご注意を。
20万PV記念外伝
爽やかな朝の日差しが差し込む休日は、――――窓ガラスを盛大に割り砕くによってかき消された。
「――――申し訳ございません、衛宮様」
「何だぁっ!? …………………………って言いたいがなあ…………またか」
「ど、どうしたの!?」
「ああ、簪、すぐに<打鉄弐式>出して、この災厄しかまき散らさんステッキぶっ壊せ」
「え、ええっ!?」
「むしろサーモバリック(燃料気化爆弾)持ってこい」
「し、志保~!! 何言ってるのっ!?」
平然とした表情で、明らかに錯乱した言葉を発する志保に、簪は完璧に混乱し涙目になっていた。
おもちゃのようなステッキ壊すのに、ISどころかサーモバリック持ち出すのは明らかにオーバーキルすぎる。
しかして、その言葉を発する志保の目に、焦燥と驚愕はあれど錯乱の色はなく、至って正気の精神でその言葉を発していた。
それが簪に一層の困惑をもたらす。
ルームメイトであり、この学園で一番深い付き合いだと胸を張って言える簪にとって、これほど志保が脅威に感じている状況というのは、俄かには受け入れがたい事実だった。しかも、その驚異の対象が………しゃべるおもちゃのステッキだ。
「――――ほんと、何?」
マジでそうとしか言えなかった、簪はつい、この状況は夢なのかと思って頬を抓るがしっかりと痛い。
「痛い……夢じゃないよね」
「夢でっ!! 夢だったらどれほど良かったかっ!!」
簪の呟きを聞きとった志保が、あらん限りの悔恨を込めて叫ぶ。………いい加減何が起こっているのか説明してほしいな~、簪はそう思っていたが。
「一言申し上げるのならば、私はあなたが危惧するところのカレイドルビーとは、別個体でございます」
窓を割り砕き突入してきた珍客(?)が、再び言葉を発する。
その声に、ギギギ、と音が鳴りそうなほどにぎこちなく振り向く志保。簪もつられてステッキを直視した。
「………………………………………………マジか?」
「ええ」
「………………………………………………ということは、お前×ルビーで災厄二倍?」
「いえ、むしろ私は鎮圧するほうでございますが」
「………………………………………………マジで?」
「ええ」
長い沈黙(おもに志保だけだが)を挟みまくった会話。相変わらず話に付いていけずに放置プレイを喰らう簪。
流石にこのままだとまずいと判断し、強引に会話に割り込む簪。
「ねえ、志保……それって何?」
「……………悪いが、私にも説明してもらえるか?」
志保は簪の問いには答えず、自分自身もステッキに問いかける。
そこから始まるステッキの独白。荒唐無稽極まりない独白を――――
「まず私の名前は、カレイドルビーではなくカレイドサファイアです」
「本当にあのいかれステッキとは別個体なんだな」
「ええ、詳細は省きますが、こことは別の並行世界におけるカレイドルビーの契約者が、対カレイドルビー用システムとして作り上げたのが私です」
ここにきて当然、カレイドルビーという存在そのものを知らない簪が、疑問の声をあげる。
「そもそもカレイドルビーって何なの?」
「大まかに言うとだ……、並行世界を繋ぐことで無限のエネルギーを持ち、使用者を媒介に様々な並行世界からありとあらゆる技能・能力をダウンロードするステッキだ」
「本当にそんなものが……………」
あまりの説明に絶句する簪。当然のことだろうそれが本当だとするのなら、ほぼ何でもできるということではないか……と。
「まあ、そのステッキには人工知能みたいな物がセットされていて、人死には出さないんだが、…………………………………とにかく愉快犯・確信犯的な思考で、こっちの胃に穴があきそうな厄介事しか起こさないんだ」
「そ、そうなんだ」
「そしてそのステッキの暴走に悩まされていたとある人物が、ステッキの機能を使い作り上げたのが私なのです」
「確かに、如何ほどの難事でも、それを容易に行える人物のデータをダウンロードすればできんこともないか」
「ええ、そして数多の並行世界に遍在して騒動をまき散らすあのステッキを鎮圧し、被害を少しでも抑えるのが私の存在理由なのです」
「そ、そうなんだ……」
そんな感じでステッキの説明を聞いていた簪だが、直にカレイドルビーの強烈な被害を受けた志保と違い、やはり完全には信じ切れずにいた。
――――その時。
外から轟く轟音と、けたたましく鳴り響くサイレン。――――そして学園内の通信設備が現状を知らせる悲鳴混じりの叫びを流す。
『――――大変ですぅ~!! 皆さん~!! 織斑先生が変なコスプレしておもちゃみたいなステッキを持って暴れまわってます~!! 現在教師陣で鎮圧中ですが、生徒の皆さんは一刻も早く避難してください~』
絶対マイクの前で涙目になっているだろうな、と思わせる切羽詰まった山田先生の悲痛な叫び。
しかし、志保と簪が一番気にかけるのは『おもちゃみたいなステッキ』の部分。簪はまさか……という顔をし、志保は十中八九あの腐れステッキだろうな、というありがたくもない確信を得ていた。
「簪、このステッキの話、信じる気になったか?」
「うん………信じたくもないけど」
互いに顔を見合わせ、双方共に悲痛な覚悟を決める二人。何せこの場に、学園を騒がしている災厄を鎮圧するための専用装備があるのだ。ならば、志保か簪がこのステッキを使い収拾に当たるのが道理というものだ。
「さて、――――まずはどうすればいいんだサファイア」
「最初に一言謝罪しておきます」
「なに!? どういうことだ」
予想だにしないサファイアからの謝罪に、目を白黒させる志保。
しかし、――――そもそもサファイアは過程がどうあれ、あのカレイドルビーが製作に関わっているのだ。
そんな代物がまともであろうか、否――――まともであるはずがない。
「正直に言いますと、私の製造の際にカレイドルビーの干渉を許し、あれの好みが私のシステムに交じってしまったのです」
「それは………………………………………つまり」
志保にとっては最悪極まりない悪夢の予想は、サファイアの言葉によって無慈悲な現実に書き換えられた。
「ええ、私の使用者もカレイドルビー同様、――――魔法少女になります」
「やっぱりかぁーーーーーーーーーー!!」
部屋を揺るがす志保の絶叫。ようやくまともな手段であのいかれステッキを撃退できると思ったのに、結局は羞恥に塗れた責め苦(魔法少女)が待っていると知ってしまっては、叫ぶのもやむなしだろう。
「しかも――――」
「まだなんかあるのかぁっ!!」
「二人の契約者が一人の魔法少女となるのです」
「いやほんとなんでそうなる………………」
「ルビーがライバルの魔法少女は赤○きんチャチャをモチーフにしましょうか、とかほざいてました、ホントなら三人ひと組にしましょうか~、とも」
「………………………………何だその理由は」
あまりな理由に膝をつく志保。この場には志保ともう一人、簪しかいないのだから簪と志保で魔法少女になるしかない。
自らの手で、ルームメイトを冥府魔道へと引きずり込まねばならぬその行為に、志保は自らの歯を噛み砕かんばかりに力を込め、どうにか言葉を絞り出した。
「簪、―――― 一緒に魔法少女になってくれるか」
簪もまた、志保の悲痛な決意に応えるように、自ら魔道へ踏み入る覚悟を口にした。
「――――いいよ、志保と一緒なら」
「……………………………すまない、恩にきる」
「決心は、付きましたか?」
サファイアの問いかけに、志保と簪は互いに見つめ合い、意を決して口を開く。
「ああ、やってくれ」
「準備はOKだよ」
「それでは、契約開始します、ルビーとは違い、血液認証もスーパーオトメ力も必要ありませんので安心してください」
「この一件に関わるだけで安心なんてできるわけがないがな」
「が、頑張ろうよ志保!!」
決意はあれどやる気ゼロの志保と、ある意味何も知らぬが故にやる気も多少ある簪。
そんな二人に、サファイアが変身の手順を脳内に直接流し込む。その手順……というか言葉に、志保は顔を盛大にしかめ、簪は羞恥で瞬く間に顔が真っ赤になった。
「……………………………マジでこれを言うのか」
「こ、これを、……………言うんだね」
志保はもう半ば投げやりに、しかし、簪には驚愕の中に少しだけ、高揚感が混じっているのは気のせいだろうか。
それぞれの心情はともかく、二人とも変身の言葉を叫ぶ決意を固め、互いに向き合い奈落へ踏み出す言葉を叫ぶ。
「「――――あなたと合体したいっ!!」」
互いの右手を繋ぎ合い、聞き様にとっては卑猥にも聞こえかんねない言葉を叫ぶ。
変身の言葉は、未だ続く――――
「転身合体!! GO!! カレイドサファイア!!」
万華鏡の、世界を数多散りばめた万華鏡の輝きが、部屋中を包む。
光が消え去りし後には、一人の少女―――――否、魔法少女の姿があった。
顔立ちは簪のままだが、髪の色は志保と同じく炎を想起させる紅い髪。
そして体を赤い弓兵の聖骸布を、リボンやフリルであしらったいかにも魔法少女といった風情の衣装で包んでいた。
『調子はどうだ、簪』
体の主導権は簪にあるのか、脳裏に志保の声が響く
そして簪は志保の問いに対し、体を駆け巡る魔力がもたらす高揚感で、ある種の確信を持って応えた。
「――――き、きもちイイッ」
「簪、その言い方だけは勘弁してくれ」
合体したいの後にその感想じゃ、あまりにもいかがわしすぎると、心中で盛大に突っ込む志保。
簪のほうは自分の言った一言で乙女心が刺激されたのか、ちょっと破廉恥な妄想をしてしまっていた。
「し、志保と合体してるんだ……今の私」
『簪、――――悪いが今の状態だと妄想駄々漏れなんだが』
「え!? いやっ、そのッ、これはその!? 志保とこんなことして見たいn……じゃなくてその……」
花も恥じらう乙女の赤裸々な妄想を、思い人に克明に知られるという、弩級の羞恥プレイを体験してしまい、しどろもどろになる簪。
志保はこれ以上は触れないでおこうと心に決め、簪に当初の目的を思い出させようとした。
『もうその話は置いといて、――――さっさと織斑先生を鎮圧しに行こうか』
「う、うん、その話はもうおいてね!!」
そして簪は、ISを使わずに空を駆けるという、世界の誰もが体験したことがないような珍事を体験しながら、一路、白き夜叉が乱舞する戦場を目指した。
『簪と志保の勇気が、学園の平和を守ると信じて!!』
『――――おいサファイア、なんだそれは』
『願掛けですが? こういうふうにして言うと、どんな敵でも一撃で倒せ、どんな難事も瞬く間に解決できると聞いたのですが』
『――――お前も大概だな』
頼れる(?)仲間とともに――――
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「――――うわああぁっ!?」
志保は最悪な……まさしく悪夢から、現実に帰還した。
「はあっ……はあっ……はあっ……、あんなこと、夢でしかないよな、そりゃ」
乱れる息を整えながら、自らに言い聞かせるように呟く。
しばらくそうしていれば呼吸も落ち着き、部屋には簪の寝息と小鳥の囀りが僅かに流れる、心地よい静寂に包まれる。
――――その静寂は、結局は窓ガラスを割り砕き突入した細長い何かに、あっけなく破られるのだった。
「………………………………………………正夢!?」
志保の呟きが、虚しく響いた。
<あとがき>
記念外伝いかがだったでしょうか? アルカディア・にじファンを含めた投票では、村正ルートの続きと、はっちゃけ爺さんかルビーの狂騒劇が多かったです。そして村正ルートの続きはいずれまた書くつもりではあったので、後者を書くことになりました。
ちなみに、投票の詳細は以下の通り
はっちゃけ爺さん&ルビー、四票 村正ルートの続き、三票 志保VS英霊エミヤ(殺人貴)、二票
志保の料理教室、三票 スカイガールズとクロス、二票 断章のグリム×IS、一票
しかし……十七話の戦闘、うまいこと書けなかったから、思いっきりパロディに走ったんだけどなあ
具体的にいえば、ギレン暗殺計画とredEyesと八房OGを混ぜ合わせてしまった。(どこがどこなのかは黙秘で