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No.27061の一覧
[0] 【本編 第六十六話投稿】インフィニット・ストラトスcross BLADE [ドレイク](2012/03/06 23:51)
[1] 第一話[ドレイク](2011/06/18 23:41)
[2] 第二話[ドレイク](2011/04/11 00:42)
[3] 第三話[ドレイク](2011/04/24 16:50)
[4] 第四話[ドレイク](2011/05/04 16:42)
[5] 第五話[ドレイク](2011/07/10 22:22)
[7] 第六話[ドレイク](2011/05/15 19:38)
[8] 第七話[ドレイク](2011/05/08 17:18)
[9] 第八話[ドレイク](2011/05/15 19:38)
[10] 第九話[ドレイク](2011/05/18 07:20)
[11] 第十話[ドレイク](2011/11/23 19:48)
[12] 第十一話[ドレイク](2011/05/21 15:46)
[14] 第十二話[ドレイク](2011/06/05 22:59)
[15] 第十三話[ドレイク](2011/09/17 17:21)
[16] 第十四話[ドレイク](2011/06/05 22:57)
[17] 第十五話[ドレイク](2011/06/09 21:54)
[18] 第十六話[ドレイク](2011/06/18 23:42)
[19] 第十七話[ドレイク](2011/06/27 07:11)
[20] 第十八話[ドレイク](2011/07/02 09:04)
[21] 第十九話[ドレイク](2011/07/03 15:03)
[22] 第二十話[ドレイク](2011/11/23 19:48)
[23] 第二十一話[ドレイク](2011/07/10 18:35)
[24] 第二十二話[ドレイク](2011/11/23 19:49)
[25] 第二十三話[ドレイク](2011/07/18 17:02)
[26] 第二十四話[ドレイク](2011/07/20 19:53)
[27] 第二十五話[ドレイク](2011/11/23 19:49)
[28] 第二十六話[ドレイク](2011/07/24 18:17)
[29] 第二十七話[ドレイク](2011/11/29 00:54)
[30] 第二十八話[ドレイク](2011/07/26 23:25)
[31] 第二十九話[ドレイク](2011/07/28 23:25)
[32] 第三十話[ドレイク](2011/07/30 08:06)
[33] 第三十一話[ドレイク](2011/08/12 20:11)
[34] 第三十二話[ドレイク](2011/08/14 00:31)
[35] 第三十三話[ドレイク](2011/08/19 21:07)
[36] 第三十四話[ドレイク](2011/08/21 12:05)
[37] 第三十五話[ドレイク](2011/09/17 17:21)
[38] 第三十六話[ドレイク](2011/09/17 17:21)
[39] 第三十七話[ドレイク](2011/09/17 22:51)
[40] 第三十八話[ドレイク](2011/11/25 00:07)
[41] 第三十九話[ドレイク](2011/09/20 21:57)
[42] 第四十話[ドレイク](2011/09/23 20:59)
[43] 第四十一話[ドレイク](2011/09/24 23:26)
[44] 第四十二話[ドレイク](2011/10/01 20:44)
[45] 第四十三話[ドレイク](2011/10/05 23:47)
[46] 第四十四話[ドレイク](2011/10/09 01:09)
[47] 第四十五話[ドレイク](2011/10/11 20:01)
[48] 第四十六話[ドレイク](2011/10/13 20:04)
[49] 第四十七話[ドレイク](2011/10/15 17:38)
[50] 第四十八話[ドレイク](2011/10/19 23:08)
[51] 第四十九話[ドレイク](2011/10/23 23:10)
[52] 第五十話[ドレイク](2011/10/26 00:38)
[53] 第五十一話[ドレイク](2011/10/30 19:36)
[54] 第五十二話[ドレイク](2011/11/01 07:18)
[55] 第五十三話[ドレイク](2011/11/03 22:14)
[56] 幕間 その一[ドレイク](2011/11/05 16:56)
[57] 第五十四話[ドレイク](2011/11/07 22:46)
[58] 第五十五話[ドレイク](2011/11/10 23:54)
[59] 第五十六話[ドレイク](2011/11/13 01:33)
[60] 第五十七話[ドレイク](2011/11/16 23:06)
[61] 第五十八話[ドレイク](2011/11/23 09:31)
[62] 第五十九話[ドレイク](2011/12/04 00:28)
[63] 第六十話[ドレイク](2011/11/29 20:45)
[64] 第六十一話[ドレイク](2011/12/06 22:37)
[65] 第六十二話[ドレイク](2011/12/04 21:39)
[66] 第六十三話[ドレイク](2011/12/06 21:55)
[67] 第六十四話[ドレイク](2011/12/11 02:24)
[68] 第六十五話[ドレイク](2011/12/12 18:00)
[69] 第六十六話[ドレイク](2011/12/17 22:39)
[70] 本編とは全く関係がないやばいネタ[ドレイク](2011/05/07 20:12)
[71] 20万PV突破記念外伝[ドレイク](2011/07/05 22:45)
[72] 外伝IF【装甲悪鬼村正とのクロス有】[ドレイク](2011/06/18 22:01)
[74] 外伝IF その二[ドレイク](2011/06/18 22:02)
[75] 外伝IF その三[ドレイク](2011/06/20 22:09)
[76] 外伝IF その四[ドレイク](2011/09/03 08:41)
[77] 外伝IF その五[ドレイク](2011/09/25 17:18)
[78] 外伝IF その六[ドレイク](2011/10/16 21:41)
[79] 外伝IF その七[ドレイク](2011/09/29 00:22)
[80] 外伝IF その八[ドレイク](2011/09/29 22:53)
[81] 外伝IF その九[ドレイク](2011/10/02 21:13)
[82] 外伝IF その十[ドレイク](2011/10/16 21:42)
[83] 外伝IF その十一[ドレイク](2011/11/02 18:01)
[84] 外伝IF その十二[ドレイク](2011/11/20 00:01)
[85] 没ネタ(Dies iraeとのクロス)[ドレイク](2011/08/23 18:09)
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[27061] 第三十三話
Name: ドレイク◆f359215f ID:63f0df78 前を表示する / 次を表示する
Date: 2011/08/19 21:07

<第三十三話>




――――箒と福音が苛烈な戦いを演じているころ、旅館に程近い林の中にて、志保は何かを待っていた。


木々のざわめきだけが木霊する中、静かに、微動だにせず佇む志保。
様相だけで見れば学生服に身を包み、無手のままじっとしているその姿は、ただの一般生徒にしか見えないだろう。
だが、静謐なる鋼の様なその気配こそが、如実に戦闘態勢であることを現していた。
しかしながら、敵の姿は一向に見えず、変わらぬ木々のざわめきだけが、その場を支配していた。


――――不意に、志保の左腕が振りぬかれる。


理想的な脱力体勢からの、磨き抜かれた横薙ぎの一閃。誰が見ても驚嘆の意を表すであろう一閃は、だが、無手と言う齟齬があった
否、齟齬はない。横薙ぎの一閃。その秒に満たぬ瞬きの合間に、既に刃金は握られていた。
宝具・干将莫邪。その一方、陽剣干将がその手中にあった。


――――そして、陽剣干将が振りぬかれた、何も無いはずの空間から、刃金の噛み合う音が響き、火花が散った。


まるで見えざる壁に縫い止められたかのような光景。直後、ゆらりと陽炎のように、何も無いはずの空間が揺らめいた。
現れ出でるは一人の女性。志保にとっては見忘れようも無い女の姿。かつての因縁、今こうしてこの場にいるのも、全てはこの女との戦いが元凶だった。


「そう言えば、貴様の名前はまだ聞いていなかったな、………どうせ私の名前は調べているだろう?」


不意に、志保が口を開く。そう、因縁はある。だが、名前は未だ知らぬまま。
故に問う、志保にとって、数年越しの問いかけだった。


「ああ、いいぜ、あんなに熱烈な誘いをかけてくれたんだ、答えてやるよ――――オータム、だ」
「そうか」
「おいおいつれない返事だな、ホストとしちゃあゲストはしっかりともてなさないといけないだろ?」
「フッ、もてなしてはやろう、だが、なにぶんレディーのエスコートなど苦手でな、文句は受け付けんぞ」


交わす軽口。しかし刃は未だ堅く噛み合い、一方が僅かに力を緩めれば、即座に両断されそうなほどだった。
そんな状況はいつまでも続かず、申し合わせたかのように同時に間合いを取った。
人気のない林に殺気が満ちる。共に殺すと決めたならば、躊躇など持たない。そのような甘い感傷など、とうに捨て去った二人である。


女――オータム――は、過去に付けられた屈辱を晴らすためにここにいる。油断に塗れ、惨めに逃げ去った苦い記憶。それを消すためには、志保の死を以ってそうするより他になく。
志保もまた、当初はオータムをおびき寄せ捕らえる心算ではあったが、見えてすぐにその心算を消し去った。かつてとは違う、尋常ならざる相手と気付いた故に、である。


オータムの手に握られている獲物は、細身の両刃剣。デザインは現代的であり、一目でIS用の武装と知れた。
普通であれば、ランクは低いながらも宝具である干将と打ち合うには不足と思えるが、IS用の武装であるならば世界最強の兵器と言う、ある意味信仰に近い概念を纏っている。
事実、先の一合にて互いの獲物は無傷であり、その概念の存在を如実に知らしめている。


「テメエには全力で行く、テメエの力も、何者かもどうでもいい、――――俺はテメエに、完膚なきまでの勝利を刻みこむ」


同時、オータムの五体を鋼が包み込む。この数年間、改良に次ぐ改良を重ねたその機体は、その趣をがらりと変えていた。
四対、計八本のサブアームは一対に数を減らし、体を覆う装甲は極限まで薄い、機体色はオータムの憤怒を現すがごとく、禍々しさを感じさせる漆黒で塗り固められている。
両手には細身の西洋剣が握られ、ここに禍蜘蛛――<ブラック・ウィドウ>――の戦闘態勢が整った。




=================






――――ああ、ああ、ついにこの時がきた。






自身の、最早体の一部と言えるほどに使い込んだ武具を身に纏い、待ち焦がれた怨敵と相見える。
この時を、どれほど待ち焦がれたことか。この瞬間を、どれほど渇望したことか。
ああ、お前は知らぬだろう、知りもしないだろう。

あの時打ち砕かれた安いプライド、総身に刻まれた屈辱。
只管に逃げ回るなど、あの時を除いて他にはなかった。
瞼を閉じれば、映るのは世界を捻じり突き進む告死の鏃。それは悪夢となって、幾度となく苛む。
眠りにつくたびに恐怖と屈辱で目を覚まし、復讐の意思が、積もり積もって総身を塗り固めた。

もう、俺は進めない、お前を殺さぬ限り、あの時<記憶>諸共に消し去らぬ限り。
おまえは壁だ、打ち砕かねば進めない。遮る壁を打ち壊せねば、進めないのは当然だ。
そして今日、とうとうその時がきた。

あのタッグマッチの映像、そして先の一合。それで確信した。
おまえは、変わらずにいてくれた。いや、それどころか成長している。あの時のお前ならば真っ向から鍔迫り合いなんぞできなかったからなあ。
それでこそ壊しがいがあるというもの。その余裕綽々の面構えも変わらねえ、あの時の続きをやるには申し分ない。




――――そうだ、この怒り<歓喜>をぶつけるのは今しかない。




「ククッ、クハハハハハハッ、ヒャアーハハハハハハハッ!! もう一度言うぜえっ、俺はオータム、<亡国機業>のオータムだ!! てめえの名前聞かせろやあっ!!」




「ふん、衛宮志保、――――――――通りすがりの<正義の味方>だ」




ああ、もうたまんねえなあ。そこまで至れり尽くせりの返事かましてくれるとはよお。
迸る歓喜のままに、手に持つ二刀で斬りかかる。ISのスラスター・パワーアシストは最大出力で、しかし、振りはコンパクトに、最短距離で刃を走らせる。
銀光が煌めき、大気を切り裂き突き進む。初手から全力、確実に殺すつもりで放つ。
人一人殺すには過分に過ぎるが、同時に確信もあった。


おまえはこの程度じゃあ、死なねえだろう?


そうだ、この愛しい怨敵がこの程度で死んでくれるはずがない。
条理を覆し、理を歪め、不可能を成す奴なのだから。
死を願いながら、生を確信する矛盾。
そして、その確信の通り、志保は死ななかった。
その手に白黒の短剣を握りしめ、こちらの斬撃を受け流す。僅かな火花を散らしながら刃は空を切る。
即座に引き戻し、斬撃を続けて放つ。煌めく銀光が次々に襲いかかり、絶命させんと迫りゆく。

「シャアアアッ!!」
「ハアアアアッ!!」

志保はその剣戟を手に持つ二刀で捌ききる。相も変わらず迫りくる死を無視するように、淡々と機械的に防御をこなす。
斬撃を加速させ、音の壁を突破してもなお、その鷹の如き眼が確実に見切る。
草木が千切れ、切り裂かれ、舞い上がる中、奴の瞳は揺るぎもしない。恐怖と動揺の一切を削ぎ落とし、最低限の力と動きで、こちらの剣閃全てを潜り抜ける。


そうだ、それでこそだ。


あのときよりも遥かに磨き抜かれた剣舞と対しながら、総身に駆け抜ける感情に身震いする。
刃を交えて改めて確信する。衛宮志保は難敵だと。この数年をかけて研ぎ澄ませた刃であっても、未だその命を奪うには届かない。
だからこそ嬉しいのだ。全てを賭けて挑むに相応しい怨敵だと。その歓喜が更に力を漲らせる。己が刃は限界など知らず加速し続け、五感は舞い散る砂の一粒ですら明確に感知できるほどに、その精度を増していく。
機体背部に接続されているサブアームは、己が腕と変わらぬほどに精妙に動く。
装甲を撫でる剣風を、まるで剥き出しの肌と同じように感じ取る。


「いいねえ……いいねえ……今日は最高だよなぁおい!! テメエを殺すには最高の日だ!!」
「貴様が死ぬには最高の日、の間違いではないか?」
「吠えてろやぁああっ!!」


滾る怒りのまま、狂笑を浮かべて咆哮する。
その怒りに同調するようにISコアから供給されるエネルギーが、常より増して供給される。
よくよく考えれば、志保に屈辱を刻みこまれたのは俺だけではない。
コイツも同じだ、そうに違いない。
俺も今宵滾りに滾っているが、コイツも滾っているのだ。
ISコアには自我がある。そんな戯言が事実だと、今はっきりと知った。
ならばその滾りを全て、力に変えて我が身に注げ。


己が四肢が、神経が、機体までもが際限なくギアを上げていく。
限界を置き去り、捨て去り、彼方に忘却して、今は遠き那由多の果てだ。
それほどの戦闘行為の果てに待つのは、確実なるオーバーヒート。ブレーキの壊れたエンジンに待つのは焼き付き果てて、壊れ去る運命。


――――それがどうした。


衛宮志保を、あの時を消さぬ限り進めないのなら、敗北には意味がない。勝利だけが意味を持つ。
ならば、命を賭けることに何の不都合があろうか。そんな不都合、勝って進んでから考えればいい。


「――――ガアァアアアアアアアアアアアッ!!」


脳髄はこの状況を危険だと発し、神経に痛みを響かせるが、それを無視して剣を振るう。
既に剣速は音の壁を突き破り続け、振るうたびに破裂音を響かせる。
体を捻じり、大気を貫きながら刺突が奔る。音を置き去りにし、衝撃波を纏わせたライフル弾並の一撃。
絶死の一突き。それはしかし、志保の手に持つ刃に優しく撫でられ、その切っ先をずらされた。
真っ向から受け止めるは論外。普通にいなそうとしてもこれほどの剣速、生半可な技量では突き破れるはずだった。
前々から思っていたが、奴の剣技は防御を重きを置いている。
その眼で敵の攻撃を確実にとらえ、見出した隙に切り札をぶち込む。それこそがこいつの戦法。
戦士<ウォーリア―>ではなく、猟師<ハンター>のそれだ。
勝利を得ることは目的にあらず、過程に過ぎない。常の敵を嘲るような口調も、少しでも隙を作り出すための手段の一つ。


「フッ、それにしても律儀なことだな、わざわざISを使っておきながら空中戦を仕掛けないとは」
「馬鹿かテメエは、自分から死にに行く間抜けがどこにいるかよっ」


あのタッグマッチの映像。そしてあの時の螺旋の矢。
間違いなくこいつは遠距離戦のほうを得手としている。そんな相手に対し愚かにも空に駆け登れば、間違いなくこいつは嬉々として必殺の鏃を放つだろう。
接近戦を挑むことこそが、コイツに勝てる一番確実な戦法だ。


斬撃をかいくぐりながら、奴もお返しとばかりに手に持つ二刀を縦横無尽に操り、反撃を仕掛けてくる。
そのいずれも急所、あるいは装甲の隙間を狙ってくる。
しかも、真っ向からは狙わない。攻撃を繰り出した一瞬の隙へ、絶死の一撃を紙一重で避けながら放ってくる。
今もまた、奴の首筋にはなった横薙ぎをしゃがみこんでかわしつつ、頭上を通り過ぎる手首へ二刀を奔らせる。
それに対し、左腕を突き出して、割り込ませた刃で交差した二刀を抑え込む。
奴は即座に二刀を消し去り、その両手に槍を顕現させる。
躊躇なき一刺しが首筋に向かってくるが、それを左のサブアームのクローで防ぐ。
残った右のサブアーム内蔵式機関砲を撃つが、いつの間にやら左手に携えた刀で砲身を打ち据え、射線をずらされる。
右手は槍を、左手は刀を振るって隙ができた奴の首筋めがけ、両手を引き戻すようにして左右から剣で挟み込む。
しかし、首筋へと到達する刹那、幾多の刀剣が刃と奴の間に割り込むようにして大地に突き刺さる。
刀剣ごと切り裂きながら構わず剣を振るうが、僅かに遅れた剣速のせいで奴を取り逃がす。

奴は大きく下がり間合いが広がる。同時に奴の周囲に総数二十七の刀剣が展開する。
まるで軍勢のようにその全ての切っ先がこちらを向き、主の号令を待っている。


「――――停止解凍、全投影連続層写<フリーズアウト、ソードバレルフルオープン>」


主の号令とともに、二十七の刀剣が射出される。刀剣の弾幕などと言う出鱈目極まる、しかも威力はこけおどしではない攻撃に背筋を凍らせながらも瞬時加速を発動。
左右のサブアーム内蔵のPICも併用して、ISを装備したまま林の枝葉の上を駆け巡る。
PICが慣性と機体重量を消失させ、小指の太さほども無い枝を足場として機能させる。

だが、それでもなお奴はこちらを見失うことなく、次々に刀剣を射出してくる。
いくつもの樹木が幹を抉られ、枝葉を折られ、倒されていく。そのISに劣らぬ面制圧能力に晒されながら、奴は遠距離戦こそを得手にしているという推測が正しかったのだと痛感させられた。
それに加え、奴はまだあの弓を使用していない。この状態であれまで使われては、それこそあの時の二の舞となる。

加速していく激情と体の熱に浮かされながら、思考の芯は自身でも驚くぐらい冷静だ。
怨嗟の熱が体の性能を引き上げていき、冷えた思考がそれを制御する。実にいい状態、が――――


「このままじり貧じゃあ、どうしようもねえわな」


そう、奴は絶対、このままこちらを圧殺しようとするはず。捨て身の接近など、鴨が駆け寄ってきた、ぐらいにしかならないだろう。
しかし、どうにかして再び接近戦に持ち込まねば、こちらの切り札が意味を無くす。
種は蒔き終えたのだ。俺の剣戟は捌き切れると、防御し切れば凌ぎ切れると。
その認識こそが肝心要、必殺の一撃を叩きこむには必須のものだ。




――――直後、勘が体を勝手に動かした。




傍らを通り過ぎるレーザー光と不可視の砲弾が草木を焼いて大地を抉る。
視線を上げればそこにいるのは二機のIS、<ブルー・ティアーズ>と<甲龍>が夜空に佇んでいた。


「全く……、福音だけでも手一杯だというのに」
「どこのどいつか知んないけど、今の私たちは機嫌が悪いのよ、容赦はしないわ!!」


IS学園の専用機は全て<シルバリオ・ゴスペル>を追跡するために出払ったはずだが、どうやら戦闘を察知して、一部を戻してきたらしい。
全く、小便くさい小娘どもが、至福の一時邪魔してくれやがって……。


「舐めた態度とってくれるじゃあねぇか、餓鬼どもがあっ!!」


まずは邪魔な羽虫を屠る。そうきめて夜空に浮かぶ羽虫共に斬りかかる。
瞬時加速を発動させ、音速を突破しながら空に舞い上がる。
当然近づかせまいと、レーザーライフルと衝撃砲を軌道予測地点に叩きこむ。
教科書通りのお手本のような迎撃行動。いくらハイパーセンサーとの神経リンクによって反応速度が引き上げられているとはいえ、ここまで的確な行動をとるには相応の技量が必要だ。
しかしまあ、甘い。殺気を全開にしただけでこうも簡単に引っ掛かる。
なぜなら、瞬時加速の停止位置は奴らの懐の遥か手前。当然至近に斬りかかるコースを想定して放たれたレーザーと不可視の砲弾はあらぬところを通り過ぎる。


「なっ!?」
「しまっ……!?」
「二人とも、避けろっ!!」


驚愕の表情を露わにする羽虫二匹。奴の切羽詰まった声が響くがもう遅い。
再び瞬時加速発動。今度は間違いなく羽虫の懐に飛び込み、すれ違いざまにスラスターを切り裂く。
手間を掛けてくれる、そう思いはするが、同時に、いい壁ができた、とも思う。


「精々弾除けになれやあっ!!」
「くうっ!?」
「きゃあっ!?」


死に体となった羽虫二匹の背後に回り込み、サブアームで背中を鷲掴みにする。
そのまま大地にいる衛宮志保めがけ、フルスロットルで突撃を仕掛ける。
轟音とともに大地に降り立つ。壁にされた羽虫はその衝撃で行動不能に陥り、間抜けな姿をさらしている。
奴との距離は刃を交えることができるほどに縮まり、奥の手を出すに相応しい状況が整った。


――――行くぜぇ<ブラック・ウィドウ>、お前もこの時を待っていただろう?


心中でそう問いかけると、ISが単一仕様能力を発動させる。
しかしながら、奴は警戒した様子も、何かに気付いた様子も見せない。
当然だ、これは発動したところで気付かれることは絶対にない。気付いた時には致命傷だ。
だが、愉悦に浸るのは奴の体を切り裂いてから、己が毒蜘蛛の牙に奴の血を吸わせてからでいい。


「さあて、続きと行こうじゃねえか」
「ふん、さっさと終わらせて二人の手当てをしたいところなんだがな」


先の続きを始める。そうとしか感じさせぬように、必殺の気配を抑え込む。
刃を振りかぶり、眼前の怨敵に対し踏み込んでいく。
縮まる距離。変わらぬ踏み込み。変わらぬ剣速。込める殺意は変わらず。込める力は変わらず。
幾度となく防がれた右腕の剣の振り下ろし。幾度となくこちらの刃を防いだ白黒の刃が、再び剣閃に割り込んでくる。




――――そして、毒蜘蛛の牙は、白と黒の刃を”すり抜けた”









単一仕様能力――――蜃気楼の刃<ミラージュ・エッジ>
衛宮志保の打倒を願い、<アラクネ>改め<ブラック・ウィドウ>が作り上げた単一仕様能力。
ISの量子変換による格納機能を応用した能力で、その発現場所は固定兵装である一対の両刃剣の刀身。
量子変換とは、量子の重ね合わせを利用し、“在る”状態でありながら“無い”状態に変化させるもの。
それを応用し<ミラージュ・エッジ>発現形態の刀身はある状態でありながらない状態、存在確率の混在化を引き起こす。
そしてその混在は操縦者の意思一つで自在に決定される。しかもそれは刀身全体ではなく、一部のみを決定することも可能。
結果、その刃は如何なる防御をすり抜ける、防御不可能の魔剣と化す。




――――だが、真に魔剣と呼べるのは、見事に必殺の気配を押しとどめ、確実に当てるために剣戟を交え、志保の猛攻を耐え凌ぎながら、自身の剣閃を防御可能と思いこませたオータムの執念あってこそ。正に人機一体の魔剣である。




――――そしてその魔剣は、衛宮志保の体を深々と切り裂き、鮮血を舞い散らせた。














<あとがき>
うちのオータムCVキーやんです。ぶっちゃけ書いているうちに某中尉になってしまった。
いっそのこと「創造、蜃気楼の刃<Die Klinge der Fata Morganas>」とか言わせたほうがよかっただろうか。
あと、せっかくISには量子変換なんて言う素敵機能があるのに、何でそれを使った浪漫溢れる兵装が無いのかと、小一時間原作者を問い詰めたい。


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