<第二十五話>
IS学園にて行われた学年別タッグマッチは、ドイツ製第三世代IS<シュヴァルツェア・レーゲン>への非合法システムVT<ヴァルキリー・トレース>システムの極秘搭載、それを端に発した同機体の試合中の暴走という事件によって中断を余儀なくされた。
IS世界大会<モンド・グロッソ>優勝者織斑千冬、通称<ブリュンヒルデ>の動きを使用者に模倣させることを目的に作られたこのシステムは、開発当初からその不安定性を問題視されており、その搭載経緯の調査にはアラスカ条約加盟各国による共同調査チームが設立される運びとなった。
しかし、それは少し先の話であり、大人の世界の騒乱である。
事態の終結に尽力した少年少女たちは、ただ、その手に取り戻した平穏を噛み締めていた。
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「――――すまなかった」
夕焼けに照らされた保健室のベッドの上で、ラウラが、そう呟いた。
ドイツ軍所属、ラウラ・ボーデヴィッヒ少佐としてではなく、一人の少女ラウラ・ボーデヴィッヒとしての謝罪。
「――――そうか」
同じくベッドに横たわる一夏もまた、短い呟きで応える。
事件が終わった後、ラウラとともに一夏と簪もメディカルチェックを受けたのだが、一夏の足の骨に複数の罅が入っているのが見つかったのだ。
原因は箒に勝つために行った連続瞬時加速による物と診断され、医療用ナノマシン(動作は確認済みだがコストがに高いため、一般には出回っていない代物である)を投与され、今日一日安静にするように言い渡されたのだ。
「何を…………………やっていたんだろうな、私は」
自嘲を帯びた、ラウラの呟き。自身の軍人としてのプライドを自分の醜態で打ち砕いた故、一夏はそう判断し、かけるべき言葉も定まらなかったので口を噤んだ。
しばしの沈黙が、夕焼けに照らされる室内を包んだ。それを破ったのも、ラウラだった。
「私はな、家族も何もいなかった、軍で作られ、軍の為に生きる、そのためだけの人生だった――――」
ラウラの独白は、なおも続いた。
「一人で生きるのが辛くて、けど、私には誰もいなくて、
――――だから、教官に出会って、その強さに憧れた時思ったんだ、
――――この人のように強くなれば、一人で生きるのも辛くなくなるんじゃないか、って」
その声に、いつもの不敵な響きはなく、か細く弱弱しい、寂しさに打ち震える少女の声だった。
だが、それを聞いていた一夏が漏らしたのは、押し殺そうとしても我慢できない笑い声だった。
「――――クッ、…ククッ、……あはははっ!!」
「ああ、そうだろうな、おかしいほどに笑えるだろうな、今の私は」
「あははっ、………いや、違う違う」
「何がだ」
「俺が笑ったのはお前じゃなくて、お前が千冬姉を一人で何でもできるって勘違いしてるところだよ」
「――――おい!!」
自分ではなく、憧れを侮辱されては今のラウラでも怒りがわいた。――――次の瞬間、それはものの見事に霧散したが。
「だって千冬姉、――――洗濯もまともにできないし、料理なんてもってのほかだぜ」
「………………………………………………はい?」
ラウラにしてみれば自分は強さの話をしていたのに、なぜ家事の話になるんだと、盛大に突っ込みたい気分だった。
「まあ、俺を養うために千冬姉が仕事を頑張って、自然とオレが家事の一切を引き受ける形になったから仕方がないんだけどな、――――それでも、この前久しぶりに家に帰ってきたとき、俺が買い替えた電気コンロの使い方がわかんなくて、台所で十分ぐらい立ち尽くしてたのには笑ったぜ」
その後笑ってたのがばれて、特大の拳骨をもらった時はほんときつかった。そう、したり顔で語る一夏の姿に、ラウラの心が解きほぐされていく。
「フフッ、そうか………、教官にもダメなところがあるのか」
「そりゃそうだ、誰にだって欠点はあるさ」
張り詰めていた物が取れた、柔らかな笑みを見せるラウラ。しかし、その笑みもすぐに消える。
「じゃあ、――――私は誰を頼ればいいんだろうな」
人は誰しも欠点があり、支え合いながら生きていく。そんな、ごくごく当たり前の事実に気付いても、ラウラの心中には自身の宿り木となる人物がいなかった。
いや、いないと思い込んでいるのかもしれない、ラウラのこれまでの人生は、頑なに一人で生きるために邁進する日々だったのだから。
「一夏っ!! お見舞いに来てあげたわよ」
「お体の調子はどうですか? 一夏さん」
「調子はどうだ? 二人とも」
保健室の扉を開け放ち、騒々しさと華やかさを伴って入ってくる三人組が、部屋に充満していた暗い雰囲気を吹き飛ばす。
鈴とセシリアと箒の三人。鈴とセシリアはいつも通りの元気な姿だが、箒だけは未だ少し試合の疲れが抜けきっていないようだった。
「おう、今日一日安静にしてれば、骨の罅もふさがるってさ」
「そうですか、それを聞いて安心いたしましたわ」
「ま、そう易々とくたばるようなやつじゃないけどね、アンタは」
軽口の応酬、同時に鈴とセシリアはお見舞い用に持ってきた果物を取り出し、同時にナイフで切り分けていく。
「セシリア、アンタはいいわよ、私が一夏に食べさせてあげるから」
「いえいえ、鈴さんこそ気を使わなくて結構ですわ、私が一夏さんに食べさせてあげますから」
互いに笑顔であるにもかかわらず、火花を散らし続ける二人。
一夏は一夏で原因は理解していなくとも、いつものパターンに陥ったことに溜息をつく。
「ま~た、これか……………、はあ」
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喧騒に包まれる織斑一夏のベッドをよそに、私のベッドの横で篠ノ之もまた、お見舞い用に持ってきたリンゴの皮をむいていた。
シャクシャク、と小気味いい音とともに、リンゴの皮が切れることなく伸びていく。
皮をむき終え、八等分されたリンゴに爪楊枝を刺し、私は篠ノ之が差しだしたそれを体を起こし受け取った。
「ほら、むけたぞ」
「……ありがと」
シャクッ、という音が鳴り、リンゴの爽やかな甘みが口の中に広がる。疲弊しきった体に、その味は何よりの甘露で、染入るように体中にいきわたっていく。
「おいしいな」
「そうか、なるべく新鮮なものを選んできたつもりだったんでな」
私の耳には、リンゴを噛み切り音だけが響く、すぐ横にある喧騒は、何故か全く耳に入ってこなかった。
とりあえずリンゴを一切れ食べ終えると、爪楊枝を小皿に戻す。篠ノ之が口を開いたのはちょうどその時だった。
「――――すまなかった」
篠ノ之が発した言葉を私は数瞬の間、受け入れることができなかった。
私が篠ノ之に対してそういうのはわかる。はなから戦力として看做さず、ただの路傍の石ころと同様に扱った。
試合の最中も、教官に教えてもらった事なのだが、織斑一夏に対して勝利寸前までこぎつけたのだそうだ、負けたのは織斑一夏の我が身を省みぬ賭けがあればこそ、医者の話によればやつの怪我が罅程度ですんだのは僥倖らしい。
それなのに私は、篠ノ之のことを口だけのやつと内心罵った。なぜ、こんなにも粗暴を尽くしたやつに、謝罪の言葉を投げかけるんだ。
「試合に負けたのは、チームとしての努力を怠った、私の責任かもしれんからな」
「それは――――」
私も同じこと、そう言おうとする前に篠ノ之は言葉を続ける。
「それがなかったら、お前もあのような機械に取り込まれて命の危機に晒されずに済んだのかもしれない、――――そう、思ってな」
違う、それは違うっ!! チームとしての努力を怠ったのも、命の危機に晒されたのも、全部私の責任だ。
篠ノ之が、責任を感じるようなことではないはずだ。
「おまえの、……せいじゃない」
喉奥から、声を絞り出そうと思っても、何故か掠れた声しか出なかった。
「私には、………誰もいなかった、なのに、……一人で無茶をして、それで危険な目にあって!!」
私の言葉をじっと聞いていた篠ノ之は、ふと立ちあがると、私と織斑一夏のベッドの間の仕切りを引き出した。
病院などのカーテンで作った簡単な仕切りではなく、しっかりとした壁が伸びて私と篠ノ之の二人っきりの環境を作り上げる。
篠ノ之は仕切りの操作を終えると、再びベッドの横に腰掛ける。
「そうか、だったら、やはり私にも責任があるな」
「…………え!?」
何を聞いていたんだ? 私が原因だと言っているじゃないか。今の言葉のどこに、お前の責任があったんだ。
「――――チームメイトに、”誰もいない”、などと言わせてしまったからな」
心底悔やんだ顔で、篠ノ之はそう言った。そして私を優しく抱き寄せると、静かに語りかけてくる。
「私はお前が何を抱えて、どんな孤独に苛まれてきたかは、何も知らない、
――――だけど、私とお前は一緒に戦った戦友でクラスメイトだ、もう、お前は一人じゃないはずだ」
その言葉に、私の眦から熱い物が流れ落ちていく。誰かに泣き顔を見せるのも、誰かに寄り掛かることも私の人生で初めてのことで、私は、篠ノ之から伝わってくる暖かさに包まれて、泣いた。
子供のように、只管に泣きわめいた。体に纏わりついていた、何かの重さが涙と共に少しずつ抜け落ちていくような感覚がした。
篠ノ之は何も言わず、私の体を優しく抱きしめ続けてくれていた。
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同じころ、志保たちも自室で事件の疲れを癒していた。
「あっ、……はあっ、……あんッ、きもちイイっ、きもちイイよ志保」
簪はベッドの上で、快楽に染まった顔である物に体を委ねきっていた。
「簪は今日は大活躍だったからな、せめてものご褒美さ」
ある物とは志保の手技、のしかかられ、されるがままに体をいじくられ、弱いところを突かれあられもない嬌声をあげる。
その横ではタオルで猿轡をかまされて足を拘束された楯無が、憤怒の表情に染めながらものたうちまわり志保の行為を止めさせようとしていた。
しかしながら、最愛の妹のあられもない声は楯無の背徳感をあおり、その頬を赤く染めさせている。
自身の一番大切なものを、目の前でいい様にされ、それをなにも出来ずに見せられ続けて、悲嘆と興奮の二重奏に己が身を蝕まれていく。
簪の体が、楯無の目の前でひときわ大きく跳ねた。
楯無には、今の自分を襲う興奮が怒りからくるものなのか、歓喜からくるものなのかわからなかった。
「――――いや、ただ簪の体を、志保がマッサージしているだけなんだけどね」
何処へ向けたのか、自分自身でも皆目見当がつかない突っ込みがシャルルの口から洩れる。
ちょっとばかり妖しげな雰囲気が出過ぎなんじゃないだろうか、心中で突っ込んだ
シャルルの言葉通り、志保がやっているのはただのマッサージ、公序良俗に反するようなことなど何一つやってはいない。
試合に疲れたであろう簪をねぎらうために、志保がマッサージを申し出て、マッサージの最中に楯無が乱入、シスコン暴走モード発動という、この面子ではいつも通りの流れが発生しただけだ。
そうこうしているうちにマッサージが終わり、志保が楯無の拘束を解く。
「フッ、フフフッ、よくもまあ、私の目の前で簪ちゃんにあんな破廉恥なことをさせたわね」
「マッサージのどこが破廉恥だ」
「簪ちゃん!! 今度はおねーちゃんに頼みなさい、そういうことは」
「――――ヤダ」
「………………………最近簪ちゃんが冷たいなあ」
たった二文字の言葉で姉を戦闘不能に陥れた簪は、ベッドから起き上がりシャルルが持ってきたスポーツドリンクを口にした。
志保とシャルルもそれぞれ飲み物を口にして、喉の渇きをいやしていた。
「それにしても、デビュー戦があんな結果になるとは不運だったな」
「そうだね、でも、結果的には誰にも大きな怪我がなくてよかったと思う」
「うんうん、あの時の簪ちゃんかっこよかったわよ」
最近復活早いなあ、と志保とシャルルが内心で思う中、頑張った妹が愛しくなった楯無は簪を抱きしめる。
簪のほうもそれをはねのけることなく、笑顔でそれを受け入れる。なんだかんだ言っても、姉妹の仲は良好なようだ。
「ああ、確かに今日の簪は頑張ってたな、ラウラ相手に一歩も引かなかったのはかっこよかったぞ」
志保もまた、簪の賛辞を送る。簪のほうも面と向かって志保に褒められて、うれしさと照れが混じった笑顔を見せる。
「えへへ、……ありがとね、志保」
「うう、………この反応の差はいったい………」
そんな感じで一応は和気藹々としているところに、シャルルが口を開く。
「――――そうだ会長、僕って実は女なんですよ」
「ブハッ!?」
あまりにも脈絡のない、突然のシャルルの発言に運悪くスポーツドリンクを口に含んでいた簪は、盛大なシャワーを口から噴出させる。
「う~ん、いくら簪ちゃんのでも、こんな間接キスは勘弁願いたいわね」
「ご、ごめんね!? ――――シャルルもいきなり何を言ってるの!?」
「いや~、だっていいタイミングかな? とか思っちゃったから」
「どこが!?」
自分の驚きに同意を求めるように、簪は姉と志保のほうに視線を向けるが、帰ってきたのは意外な言葉。
「「シャルルはあざといな~」」
「何それっ!?」
「あはは、――――自分でもちょっと思うけど、その言い方は勘弁してほしいなあ」
自分を置いてきぼりにして理解だけ示す状況に、簪の困惑は一層深まるばかり。
見かねた志保が、ことの詳細を語り始める。
「簪だってシャルルが女の子だということは知っているだろ?」
「う、うん」
「一応今は男ということで通しているが、いつかはばれるだろうな」
確かに今は男ということになっているが、IS学園という環境でそれがいつまでも隠し通せるわけがないのは、簪にも理解はできる。
「会長や織斑先生のように勘づいている人もいるが、基本的には厄介なことになるから今のところは黙認しているな」
「そうね、下手に突っついてデュノア社やフランス政府と揉めたくはないもの、今のところは下手な行動もしていないしね」
「………そうなんだ、ちなみに志保はいつから気付いてたの?」
「ん? シャルルと出合ったその日の内に気付いたぞ」
「そんなにわかりやすかったかなあ、ぼく………」
志保の身も蓋も無い物言いで膝をつきへこむシャルル、そんな彼女に構うことなく説明を続ける志保。
「シャルルとしては、いつか自分の正体をばらして楽になりたいと思っていたのだろう?」
「うん、そうだよ、いつまでも隠し通せるはずなんてないし」
「そんな時に今日の一件が起こった、当然学園側は事件の調査やら各国との交渉でてんやわんやだな」
「そうよねえ、あ~あ、明日から私も忙しくなりそうだわ」
IS学園生徒会長ともなれば、そんな仕事にも無関係とはいかず、楯無は明日からの苦行を思い頭を抱えて溜息をつく。
「シャルルはそれをわかって、自分からばらしたわけだ」
「え~と、それって――――」
「ああ、自分たちのほうにはろくに手も回らず、適当な対応しかできないだろうと判断したんだ」
「うわ~、あざといね、シャルルは」
「ううっ、わかってた反応だけど傷つくなあ」
「それで会長、学園側としてはどう対応するんだ?」
志保の問いかけに、楯無はあらかじめ答えが決まっていたようにすらすらと言葉を発する。
「こんな時期にデュノア社とフランス政府を刺激して厄介なことになりたくないもの、おそらくは内密の注意とシャルル君を本来の経歴での再転入という形で落ち着くでしょうね」
「そうですか、ありがとうございます」
おそらくはそうなるであろうとわかっていても、相応の緊張があったのかシャルルは安堵の表情とともに礼を言う。
「よかったな、シャルル」
「よかったね、シャルル」
志保と簪が、一応は平穏の内に終わった秘密の暴露に対し安堵の言葉をかける。
その言葉を聞いたシャルルは、何かに思い至った様に二人に向き直る。
「そうだ、僕の本当の名前、先に二人に教えておくね、――――シャルロット、って言うんだ」
花咲く笑顔でそういうシャルロット、ようやく彼女は本来の自分で青春を謳歌し始めようとするのだった。
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『ハーロー、ちーちゃんおひさ~』
夜も更け始めたころ、自室で報告書をまとめていた千冬の携帯に電話がかかる。
喜怒哀楽の内の楽しか感じさせぬ、おどけた声だ。そんな感じで彼女にしゃべりかけるのは千冬の知り合いには、一人しかいなかった。
「――――束か、どうした」
『酷いなあ、そっちで起こった事件耳にして、ちーちゃんのことが心配で心配で電話したって言うのになあ』
「ふん、あの程度のこと大した事件ではない、一夏が思いのほか奮闘したおかげもあってな」
『聞いてるよ~、一君と箒ちゃんが大活躍だったんでしょ』
「ああ、お前の妹もなかなかどうして成長していたぞ」
『あったり前でしょ、私の妹だよ、舐めてもらっちゃあ困りますねえ~』
おどけてはいてもその声には心底妹を誇らしげに思う、姉としての確かな愛情を感じさせた。
『あのガラクタに関しては私のほうでも調査しておくから、ちーちゃんは大船に乗った気持ちでド~ンと構えていてよ』
「いつもすまないな」
本当にすまないと、千冬はいつも思う。確かに束ねはごく少数の人物の為にしか動かない、人格破綻者ではある。
だが、こうして彼女は何かと私たちの為に、何かと身を粉にして動いてくれる。
そんな彼女を、千冬は嫌いではなかった。
「全く、先の無人ISと正体不明の乱入者といい、今年は厄介事ばかり起きるものだ」
『う~ん、大丈夫じゃないかな』
「どうしてそういいきれる」
『この大天才束ちゃんの勘、ってことでどう?』
おどけてそういう束に、つい千冬は吹き出し笑い声を滲ませる。
「ククッ、お前の勘か、一応信じておくことにするよ」
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「――――隊長、どうされましたか?」
場所はドイツ軍IS部隊、<シュヴァルツェ・ハーゼ>の専用オフィス。
現在部隊の指揮を任されているクラリッサ・ハルフォーフが、現在日本にいる隊長であるラウラから連絡を受けたのは、事務仕事もひと段落ついた時だった。
『じ、実はな、気になる人物がいるんだ』
常の、まるで機械の様な冷徹さなど欠片も無く、そこいらにいる普通の少女のごとく語る様子に、クラリッサはただ事ではないと感じていた。
「気になる人物とは?」
まるで色恋沙汰の相談だな、と思いつつ、クラリッサはラウラに言葉の続きを促す。
『ああ、そのなんていうか、――――私が初めて頼って、泣きついた人がいるんだ』
「隊長が、ですか」
にわかには信じることはできなかったが、それはそれでいいことだろうとクラリッサは思う。
おそらくは日本に行く前から隊長が気にかけていた織斑一夏であろうか、と内心で件の人物にあたりを付けつつ、ラウラにその人物に詳細を尋ねた。
『私は今まで、誰かに頼るなんて軟弱者だと思っていたんだが、その人に泣きついたことに不思議と嫌悪感は無くて、――――むしろ、安堵感があるんだ』
「それは、いいことだと思いますよ、人は多かれ少なかれ、他の誰かに頼り頼られ生きていますから」
『ああ、そうだな、私はようやくそのことに気付けた』
「そして、それを気付かせてくれたその人物のことが気にかかる、と」
しかし、ラウラが続けて口にした人物の名前は、クラリッサにとっては予想外に過ぎる人物だった。
『ああ、篠ノ之箒というんだが、彼女のことを思うと、何とも言えない気持ちになってな、これは何なのか知りたいんだ』
「…………篠ノ之箒ですか」
その名前は少しばかり聞き覚えのある名前だった、確か篠ノ之博士の妹であり、一応記憶にとどめている名前だった。
そして、クラリッサはラウラが持て余している感情が何なのか見当がついた。自分がその場所に立てなかったのは残念に思うが、ラウラにとってはいいことだろう。
何せラウラは生まれてずっと軍で過ごした、例え同い年ではあっても素のラウラの精神は幼子の様なものだ。
「成程、彼女に隊長が抱いている感情は、妹が姉に対し抱く愛情の様なものです」
『成程、姉、か、――――そうかもしれない』
ようやく得心が言った感じでうなずくラウラ。その時クラリッサはある事を思い出す。
「そう言えば隊長、日本の女学校には敬意を抱く女性に対し、お姉さまといって慕う風習があると聞きました」
『何っ!?』
「その篠ノ之箒と親密になりたいのならば、そう呼んでみることも一つの手であると思いますが」
『そうか、参考になった、礼を言うぞクラリッサ』
「副隊長として、当然のことです」
そうしてラウラからの通信は切れた。出来れば自分がそう呼ばれたかったな、とかすかな寂寥感を抱きながら、クラリッサは仕事に復帰したのだった。
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――――翌日の朝。
「はじめまして、シャルロット・デュノアです」
元気良く”四組”の教室で転入の挨拶をするシャルロットの姿と――――
「その、私のお姉さまに、なってくれないか?」
「……………………………………………………はあっ!?」
箒に対し、姉妹の契りを結ぼうと迫るラウラの姿があったそうだ。
<あとがき>
ゴンッ!!!! (土下座して頭を床に強打する音)
え~、ファース党とブラックラビッ党の皆様には、伏して謝罪を申し上げます。
ついカッとなってやりました、後悔も反省もしまくっております。
もうひとつ77%、この数字が何だかわかりますか?
この作品は理想郷と小説家になろうの二か所に投稿しているのですが、24話の感想で<鎧割>の復活の希望、あるいはそれに類する感想を送ってくれた人の割合なんですよね。
――――人気出過ぎだろ<鎧割>、書いているうちにふと思いついたネタ武器だぞ。
しかし、これだけ望まれていると無碍にはしづらいなあ、マジで<鎧割>復活させようかな。