<第二十三話>
簪がラウラと戦っているころ、当然一夏と箒も刃を交えていた。
「おおおおっ!!」
裂帛の気合とともに、一夏は刃を振りかぶり箒に切りかかる。無論箒もまた、刃を無為に受け止め負けるつもりなど毛頭なく、己が武器を顕現させる。
だが、その武器は<打鉄>の標準武装の近接戦用ブレードではなかった。
刃金と刃金がぶつかり火花を散らす。たがいに吐息が振れるほどに密着した間合いで、一夏は箒が呼びだした武器を見やり、呆れ混じりの疑問の声をあげる。
「おい箒、なんだよそれは……」
「ふん、私とて無策でこの大会に挑んだわけではないさ」
箒が握りしめている武器は、確かに形状は<打鉄>の近接戦用ブレードと変わらぬ日本刀と同じ形だ。だが、その大きさが並みの物と違っていた。
刃渡りは二回りほど大きく、刃の厚みに至っては五倍ほど……明らかに切り裂くためではなく叩き割るための刃だ。おまけに峰のほうにはブースターらしきものがびっしりと付いている。
<鎧割>(よろいわり)、――――倉持技研の試作大型ブレード、威力の高い近接戦用武器を求めた結果、大きくして速くすればいいという乱暴な設計思想の元作りだされた、高性能なガラクタ。
敵機に与える破壊力を増すために、刃渡りを伸ばし限界ぎりぎりまで厚みを増した刀身。結果、増加した重量を補うためとさらなる破壊力上昇を求め、高出力ブースターを搭載。
確かに、開発陣が求めた以上の破壊力は得られたが、そのあまりにも悪すぎるとり回しのせいでテストを行った者たちからの評判は悪く、いままでIS学園の整備部の奥底で埃をかぶっていた代物だ。
それを今回の大会の為に、箒が引っ張り出してきたのだ。
「所詮私はお前と同じ、刃を揮うしか能がない……だからこそ、<雪片弐型>の様な一撃必殺の刃を欲した、…………それだけだあっ!!」
同時、鎧割のブースターが唸りをあげて炎を吐き出す。一夏はそれに秘められた力を感じ取り即座に瞬時加速を使ってまで後退、刹那、鎧割は空を切りそのまま大地に叩きつけられる。
轟音が鳴り響き、<鎧割>の名の通り、その規格外の刃は大地を叩き割った。
砂礫が空に舞い上がり、大地には重機を使ったかのような深い深い、傷跡と呼ぶには大きすぎる跡が付いていた。
<雪片弐型>の様な小難しい理屈などない、正しく一撃必殺。その様をまざまざと見せつけられ、一夏の頬を冷や汗が伝う。
あんな代物の直撃を喰らってしまえば間違いなく、一撃で叩き伏せられる。
「刃とは基本的に一撃必殺、いかに致命の一撃を与えるか、剣術とはそれを突き詰めた術理に他ならない」
箒の独白に、一夏も心の中でうなずく。肉体を鍛えればある程度のダメージを相殺できる打撃技とは違い、日本刀は真っ当に当たれば確実に相手の肉体を切り裂く。
故に、剣術は必殺の一太刀を当てるために、様々な術理を突き詰めてきた。いかな種類の剣技<ブレイドアーツ>もその一点は同じだ。
だが、ISの戦いにおいてはその前提条件、当たれば一撃必殺の前提条件が崩れてしまっている。
生身の戦いでは一撃必殺の術理も、ISではシールドエネルギーを削るに留まるだけ。
だからこそ、ISの近接戦用兵装はその殆どが補助的な兵装に留まっている。
しかし、今この場において、その数少ない例外がここに対峙していた。
<雪片弐型>と<鎧割>。
「いま、お前と私の手の内には必殺の一太刀がある、無為に戦いを引き延ばす気はないのでな、――――これでけりをつけるぞ」
そう言って<鎧割>を構える箒。しかし、箒のとった構えは通常の剣道や、篠ノ之流古武術の構えである正眼とは違い、一撃必殺の剣術である薩摩示現流の象徴でもある、蜻蛉の構え。
確かに一撃必殺を期するならば、その構えは非常に理にかなっている。その構えから繰り出す<鎧割>の一撃は、確実に<白式>を行動不能に追い込む。
<鎧割>という規格外の大太刀をかまえ、黒髪を靡かせながら凛々しく敵手を睨みつけるその様は、まさしく武士、侍と言っていいだろう。
一夏もまた、その様に一瞬見惚れるものの、<雪片弐型>を上段に構えながら、己が不利を悟っていた。
(まずい、このままじゃ俺の負けだっ……どうする?)
地に叩きつけられる自身の姿が脳内によぎる。知らず、刃を握る掌に力がこもった。
――――ギシリ、と音が鳴った。
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「織斑の圧倒的不利だな」
解説席から、一夏と箒の様子を見ていた千冬がそう漏らした。
「私には二人の勝率は五分五分だと感じられますが」
手元のコンソールを操作し、二人の機体・武装スペックを見ながら解説役の生徒が応える。
互いの持つ武器は一撃必殺の刃、当たったほうが勝ちなのだから、そう思ってしまうのも無理からぬことだった。
「いや、この場合、もし織斑がサンダラーで牽制したとしよう、――――おそらく篠ノ之は被弾覚悟で突撃、織斑を切り伏せるはずだ」
サンダラーは有効範囲も威力も共に高いが、防御に優れる<打鉄>を纏う箒は、多少のダメージなど気にせずに一夏に切りかかる。
刃を振りかぶったものと、銃を手にしているもの、刃を交えれば結果は火を見るより明らかだ。
「では、スピードで撹乱すれば……」
「それも無理だな、確かに機体スピードは<白式>が圧倒的に速い、しかし、剣速は圧倒的に<鎧割>のほうが速い」
仮に、一夏がそのスピードを利用して撹乱し、箒に切りかかったとしよう。
だが、結局のところ、一夏は箒の間合いに入らざるを得ない、<鎧割>のほうが<雪片弐型>より刃渡りが長いのだから。
そして、<鎧割>には剣戟加速用ブースターが搭載されている。剣を揮うという行為その物のスピードで見れば、一夏のほうはISのパワーアシストのみだが、箒のほうはそれに加えブースターの加速があるのだ、初動の遅さを補うには十二分だった。
「じゃあ、真っ向勝負でしか織斑選手の勝ち目はないということに……」
「いや、それこそ篠ノ之の思うつぼだろう」
「それはどういうことですか?」
「互いが持つ武装は、双方共に一撃必殺、しかし、そこに至る手段の差がこの場合篠ノ之の有利に働く」
<鎧割>が一撃必殺なのは、その単純にして強大な破壊力があるからだ。しかし、<雪片弐型>は違う。
<雪片弐型>は、搭載されている単一仕様能力<零落白夜>によって、対象のエネルギーを無効化させ、その結果、ISに直撃したのならば一瞬にしてシールドエネルギーを零にして、勝利に至る。
故に<雪片弐型>がその真価を発揮するためには、対象が何らかのエネルギー兵装を有していなければならず、もし相手がただの鉄塊であるならば、他の兵装と何ら変わらぬ威力しか出せない。
このまま二人が真っ向勝負を仕掛け、<雪片弐型>と<鎧割>をぶつけあった場合、極論すればただの鉄塊である<鎧割>に<雪片弐型>の真価は発揮されず、<鎧割>に一夏もろともに切り伏せられるだろう。
ならば、後の先。箒の初太刀を一夏が回避に専念すればどうだろうか。否、それは箒が先手を取る、という前提のもとに成り立つ。
それを示すように、ラウラと簪が激しい戦いを繰り広げる中、箒は微動だにしない。高機動戦を旨とするIS同士の戦いであるはずのこの場において、その光景はまさしく異質であった。
一夏がサンダラーを放てばその隙に切り伏せ、一夏がスピードで攪乱しても剣速で五分に持って行き、一夏が真っ向から仕掛けても真っ向から斬り伏せる。そして後の先などとらせるつもりは毛頭ない。
篠ノ之箒にとって、一夏の剣筋は幾度となく互いの修練の中で味わった、既知の物。故に、剣技で遅れをとるつもりも無く、正しくこの状況は篠ノ之箒が織斑一夏の為だけに作り出した剣術理論<ブレイドアーツ>。
篠ノ之箒という、専用機も衛宮志保の様な人外の技量も無い少女が、必死に編み出した魔剣だった。
「――――というわけだ」
「確かに説明されると、いかにこの状況が織斑選手にとって鬼門であるかがわかりますね………、正直、この試合において篠ノ之選手がこれほどまでに試合のカギを握るとは思いもしませんでした」
千冬の詳細な説明を聞き、感嘆の表情を浮かべる解説役の生徒。
内心、千冬も同様だった。解説役の生徒同様、千冬もまた、この試合は一夏と簪がいかにしてラウラを打ち取れるか、その一点に尽きる、と思っていたからだ。
(まさか篠ノ之がここまでやるとはな、あいつらの力量は互角、故に機体性能差で一夏が勝つと思いこむとは、私もまだまだということか、――――さて一夏、篠ノ之の必殺の待ちの一手に、お前はどう立ち向かう?)
状況は千冬が言った通り、一夏の圧倒的不利。相方の簪は格上のラウラに対し、必死に食らいついており援護など到底不可能。一夏が独力でこの場を切り抜けるしか道はなかった。
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<鎧割>を構えながら、箒はひたすら勝利の為に待ち続けた。
待ち続けることは、己が性分に反していたが、それを乗り越えてこそ自信の勝利があると信じていたため、自分でも驚くほどに自制ができた。
同時にこの試合が始まる前のことを思い返す。タッグマッチのパートナーを探しあぐね、ラウラという難物と組んでしまい、初戦の相手が一夏という状況に最初は嘆きはした。
相方はチームワークなど気にすることなどなく、思い人は初戦の相手。初めはこの状況に腐りもした、初戦の面子の中で、ただ一人専用機を持たないことも拍車をかけた。
自分がいくら頑張ろうとも、試合の結果に影響は与えない、そう思ってしまったのだ。何せ相方は非公式とはいえセシリアと鈴をまとめて相手取り、勝利してしまうつわものだ。人格は悪くとも、腕のほうは一級品だった。
――――それが変わったのは、一夏と衛宮の模擬戦を見たからだ。
接近戦という<白式>の領域で、<打鉄>でありながら勝利する。
そのあと、衛宮が一人になったところを見計らい話しかけた。――――どうしてそこまで強くなれるのかと、思い返せば子供の癇癪に近かった。それでも、衛宮はいやな顔一つせず私の話を聞いてくれた。
「まあ、確かにこの学園の大会、一般入学の生徒にはきつい物があるよな」
「………うん」
「こっちは量産機でそもそも性能の面で遅れてるし、搭乗時間ではかないっこない」
「………ああ」
聞けば聞くほど、その状況の酷さにへこんでいく私、けど、衛宮の言葉がそれを塗り替える。
「だけどな、――――そんな状況“人間”であるならば塗り替えられる」
静かに、だが、強固な刃金のごとき確信を帯びた、衛宮の言葉。その言葉を聞いて、私は強調された”人間”というフレーズが気にかかった。努力や修練という言葉ではなく、“人間”。私にはその意味がわからなかった。
「…………どういう意味だ?」
私の疑問の声に、衛宮は質問で返してきた。
「じゃあ聞くが、……そうだな、例えばお前はチーターより速く走れるか?」
「無理にきまっているだろう!!」
「じゃあ、チーターより速く”動ける“か?」
「え?」
”走れるか”ではなく“動けるか”、その言葉の差異の意味を一瞬図りかねた。
ただ聞くだけでは言葉遊びのようにも思える、だが、それを言う衛宮の表情に嘲りなど一切なく、真摯な表情で私に聞いていた。
だから、必死になって考えた。親身になってアドバイスをしてくれているのに、自分のせいでそれを無為にしたくなかった。
だけど、いつまでたっても私にはこの言葉の違いが分からず、見かねた志保が苦笑しながらもヒントをくれた。
「ふむ、まだわからないか、……ではこう言い換えよう、手段は問わないから、チーターより速く動けるか?」
ここまで言われてようやく答えに気付く、そんなもの何かしらの乗り物でも使えれば一発だ。それこそISを使えば圧倒的に速く動ける。
そして、私はやっと衛宮の言葉の真意に気付く、確かに人間よりスペックの高い獣はいくらでもいる。だが、人間は様々な手段を使ってそれらの獣を制してきた。多様な手段で格上の何かに勝ち続けてきた、それが人間の強さなのだと。
「ああ、まったく!! こんな単純なことに気付かなかったとは、すまない衛宮、私はどうかしていた!!」
相手が専用機? 力量が上? ならば勝てる手段を作り出せ。ありとあらゆる手段を行使し勝利をもぎ取れ、私はそんな単純な理屈に気付かず努力せず、ただ腐っていた!! 何たる怠慢だ。
こうしてはいられない、今まで無為に過ごしていた分頑張らないと。
「話を聞いてくれて感謝するぞ、衛宮」
「ふっきれたか?」
「ああ、大事なことを思い出せた、本当にありがとう、志保!!」
大事なことを思い出させてくれた目の前にいる学友に、友愛の意を示すために、名字ではなく名前で礼を言う。
衛宮、いや、志保は一瞬戸惑いを見せた後、笑顔で返してくれた。
「頑張れよ、箒」
「勿論だ!!」
志保の声援を受けながら、私はすぐに試合の為の戦術を練り始めた。よくよく考えれば、このように戦法を考えるのは初めてだとすぐに気付いた。――――改めて自分が猪武者であると知り、少々どころではなく恥ずかしかった。
とはいえまずは初戦を突破しなければ話にならない、戦法など即座に思いつく私ではないから、まずは対一夏・簪ペアへの対策に思考を絞った。
当然、一夏と簪は私を先に狙うだろう、弱い物から先に片付けるのは至って自然なことだからな。
おそらくは簪がラウラの相手を行い、その隙に一夏が速攻で私を打ち取るだろう。一撃必殺の武器たる<雪片弐型>は、その状況に対しておあつらえ向きの武器だ。
――――となれば、必然的に私とラウラが勝利するためには、ラウラが簪を打ち取るまで私が粘り、二対一に持ち込むか、私が一夏を打ち取り二対一のどちらかに持っていく必要がある。当然一夏たちも無策ではこないだろう、私が早々に敗れてしまえば、もしかしたら、ラウラが負けるかもしれない。
だがどの道、一夏と私が戦う状況になるのは間違いない。しかし、剣腕は互角でも、機体性能、武器性能ともに大きく水をあけられている。
私も一夏も共に刀を振るうしか能がない、今更飛び道具に手を出したところで付け焼刃以上の物にはならないのは目に見えて明らかだ。
一件手詰まりの状況、だが、それで腐ってはいられない。それではただの獣、犬畜生だ。ならば思考しろ、勝てる手段を手繰り寄せろ。それを教えてもらったではないか。
そんな思いを胸に、学園整備部の武器保管庫でなにか使える物がないか探索した。
IS学園には世界各国の企業、軍隊から様々な試作兵装を情報収集のために譲り受けており、保管庫の中は、一大武器展示室となっている。
だが、今更動き出したせいで、めぼしい兵装の殆どは貸出済みであり、ほとんどの保管棚は空だった。
「――――当たり前だな、他の誰もが勝つための手段を講じる、怠慢のつけだな、これは、……ん?」
そんな時だった、あらかた空になったせいで奥まで見通せるようになった棚の奥に、埃をかぶったでかい箱が鎮座しているのに気付いた。
私はその箱に誘われるように近づき、舞い上がる埃を払いのけながら中身を確認した。
――――中にあったのは、一つの鉄塊。それが<鎧割>と私の出会いだった。
――――同時に、一つの術理が脳内に閃く。
――――パズルのピースがはまるような音がした。
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過去を思い返し、改めて私は己が腕で構える相棒との出会いが、この上ない幸運だったのだと確信する。――――運命、と言い換えてもいいかもしれない。
(来い、一夏、……………私は勝つ!!)
世界から音が消え、私と一夏だけになったように感じられる。自身の心臓の鼓動どころか、一夏の心臓の鼓動さえ聞こえてきそうだった。
現実はラウラと簪が激しい戦いを繰り広げ、鉄風雷火の轟音が鳴り響いているのだろう。
だが、そんなこと瑣末事に過ぎない。
私のやるべきことは、先手を取る一夏を切り伏せることのみ。それ以外は雑音にすぎん!!
極限まで集中した私の視界<セカイ>は、まるで時さえも止まっているかのようだった。
停止した時の中、一夏が動く。
スローモーションのように、<白式>のスラスターから炎が上がる。瞬時加速のスピードですら、やけにゆっくりにとらえることができた。
切り刻まれ停滞した時の中、私も呼応するように、瞬時加速を発動させる。
濃密な大気を切り分け、亀の歩みに等しい音速の世界の中、少しずつ私と一夏の距離が縮まっていく。
――――際限なく、限りなく、距離が縮まる。
―――― 一夏が刃を振りかぶる。
――――それを確実に見てとり、私も<鎧割>を揮う、ブースターが火を拭き、後手をとった遅れを打ち消す。
そして、そのまま<鎧割>は、――――”大地”を叩き割った。
(な……………………………に!?)
何故、<白式>が大地に叩き伏せられていないっ!? あのタイミングでは回避など、――――何より振り下ろす直前まで一夏は<雪片弐型>を振りかぶっていたはずだ!!
私は大地から眼前に目をやり、その不可思議なる状況のからくりを知った。
眼前には、コンマ数秒前と変わらぬ<雪片弐型>を振りかぶった一夏の姿。
ただ、<白式>の両サイドのスラスターだけが“反転”していた。噴射炎の残り火が僅かに揺らめき、直前まで全力噴射していたことを知らせてくれる。
(そう言う……ことかっ!!)
ここに至り、ようやく私は一夏のとった手段を理解した。
一夏は瞬時加速を行い、<雪片弐型>を振りかぶり、“その体制”のまま180度逆方向に瞬時加速を行ったのだ。
ただでさえ制御の難しい瞬時加速を連続して行い、しかも振りかぶったままという不自然な体制のままそれを行ったのだ。表情だけ見ても、脂汗の滴り落ちる量と、苦悶の表情が一夏の体にかかった負担の凄まじさを物語っていた。
(見事だ、一夏)
しかし、私の内にあるのは一夏への賛辞だけだった。<鎧割>は大地に喰い込み、私はすでに死に体。逆転の目はすべて断たれていたが、不思議と悔しさはわいてこなかった。
今の己に出せる全力を出し切ったと、胸を張って言えるからだろう。
――――そして、再び一夏が前に出る。
――――<雪片弐型>が<打鉄>のシールドエネルギーを食いつくし、絶対防御を発動させる。
鈍い痛みとともに、私の体から力が抜け落ち、私は一夏に抱きかかえられる。
私は一夏の、苦痛に耐えきった顔を真正面から見つめる。
「おまえの勝ちだ、一夏」
ただそれだけを言い残し、私の意識は暗闇に堕ちた。
今回の話を書いている最中、必然的に思いついた没ネタ。
臨海学校の最中、突如暴走した最新鋭機<シルバリオ・ゴスペル>を鎮圧するため、箒は一夏とともに、姉から手渡された新型機<紅椿>を纏い戦場に赴く。
しかし、調整不足ゆえか、<紅椿>の武装の一切が応答しなくなってしまい、窮地に立たされる二人。
「友よ、お前の刃、今届けるっ!!」
その時っ!! 突如として戦場に響く声、そこには箒の愛刀たる<鎧割>を携えたラウラの姿があった。
全力で投擲され、空中を舞う鉄塊。そして、箒のかいなが<鎧割>を握りしめる。
「わが魂を受け継げ<紅椿>!! いくぞおおおぉっ!!」
箒は<鎧割>を振りかぶり、天高く舞い上がる。
高く、高く、何処までも、何処までも、天高く舞い上がる箒。その様まさにっ!! 雲耀の如しっ!!
「わが必殺の雲耀の太刀!! その身でしかと受け止めよ、チェストおおおおおおおおおおっ!!」
裂帛の気合とともに振り下ろされた斬撃は、正しく必殺となって<シルバリオ・ゴスペル>を一刀のもとに切り伏せたのだった。
「我が刃に、――――断てぬもの無しっ」
そして、箒の勝利の凱歌が、大空に響き渡ったのだった。
没ネタの理由? 一夏が主人公(笑)になっちまうじゃねえか!! 後、束涙目は確定だし。
<あとがき>
い、今、ありのままに起こったことを話すぜ、俺は今回の話は一夏主人公で書こうと思っていたのに、いつの間にか箒が主人公になっていた。(割かしマジの話です
そして今回の話がこんなふうになってしまったのは、作業用にBLADE ARTSを聞いていたからに違いない。
あと、自分のネーミングセンスのなさを改めて実感した。……なんだよ<鎧割>って、もうちょっとカッコいい名前思いつかないのかと言いたい。