今回の話は、クロス作品が増えております、お読みになられる際はご注意ください。
<第十三話>
IS学園一年一組の教室は、ざわめきに包まれていた。
それを向けられているのは、教壇に立つ二人。
一人は太陽のような輝きを纏う金髪の持ち主。多種多様なタイプの制服があるIS学園においても、珍しいという言葉を通り越して、異端とさえ言える。
中性的な容姿に非常にマッチした、男性用制服を着こなした、フランスの代表候補生。
「シャルル・デュノアです。フランスの代表候補生としてこちらに来ました」
織斑一夏に続く、二人目の男性IS操縦者が柔らかな物腰で、思春期の乙女のハートを撃ち抜く挨拶をした。
たちまち黄色い歓声に包まれる教室。しかし、担任である千冬の一睨みで、たちまちのうちに静まった。
千冬はそのまま目配せをして、次の人物に自己紹介をさせる。
それに応じて、一歩前に出る二人目。
シャルルの金髪を太陽と称するなら、月光と称するような銀の長髪。
目には眼帯をし、纏う雰囲気は抜き身の刃のようだ。
「ドイツの代表候補生、ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
馴れ合いなどせぬ、そういわんばかりの簡潔な自己紹介。
そのあんまりな様には千冬も頭を抱え、「少しはクラスメイトとの協調を考えろ」と言うが、「はっ、努力致します、教官殿」とラウラは言い。
「貴様らに能力は求めん、私の足を引っ張るな。以上だ!」
「………こいつは、全く変わっていないな」自身の言ったことを全く理解していないラウラの言動に、千冬はため息をついた。
そんな千冬を尻目に、ラウラは教壇から降りると、一人の生徒の席へと向かう。
「な、何かようか?」
その席の主、織斑一夏は突然のことに動転し、目の前に立つラウラに何事か訪ねた。
その間抜け面(あくまでラウラ主観だが)が燗に触ったのか、それとも、別の因縁か、ラウラの顔が静かな憤怒に染まる。
「………貴様のせいでっ! 教官の栄光が!!」
怒りと共に、ラウラはその白魚のような腕を振り上げる。
怒りをのせた平手打ちは、一夏の頬に直撃した………そう、思われた。
もし仮に、一夏が剣の道から離れ、一般人とさほど変わらないようになっていたら、そうなっていたかもしれない。
しかし、今の一夏は剣道で全国優勝を勝ち取るほどの腕前、怒りに任せた大振りぐらい、避けることができた。
――――スカッ
無音にも関わらず、教室にいた全員の耳にそんな音が聞こえたような気がした。
沈黙が、一夏とラウラの間に流れる。
それを振り払うように、ラウラは再び腕を振り上げる。
当然、一夏にそれを食らってやる義理などなく、余裕をもってかわして見せる。
腕を振るうラウラ。避ける一夏。腕を振るうラウラ。避ける一夏。腕を振るうラウラ。避ける一夏。
二人はそんな応酬を数回繰り返した。
そのせいかラウラは、幾度となく避けられた羞恥で涙目になり、顔は朱に染まっている。
まるで出来ないことに対し、 むきになった子供のようなラウラの様子に、一夏の方もいきなりの暴挙によって、ラウラに抱いていた不満が消えていた。むしろ――――
(いきなりの事でビビったけど、この子って悪い子じゃなさそうだよな。むしろ可愛い)
バシン!! バシン!!
そんなことを考えている一夏と、涙目のラウラの頭上に、衝撃が降りかかる。
「何をやっている、ふざけているのか貴様らは………」
伝家の宝刀(出席簿)でバカ二人を沈黙させた千冬は、これから増加するであろう厄介事に頭を痛めながらも、授業を再開させたのだった。
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「志保、頼みがあるんだ。<白式>に遠距離攻撃の手段を追加する方法を考えてくれないか!!」
「随分と流れをぶった切るな、オイ」
普通、ここは転校生二人を話題にするべきじゃないのか? と、少し電波な事を考える志保。
現在、一夏たちは屋上で昼食をとっている最中だ。
一緒にいるのは一夏と志保に加え、箒、セシリア、鈴、簪、そしてシャルルの七名だ。
ちなみに席順は、志保の隣に簪とシャルル、一夏の両隣に鈴と箒、席決めのじゃんけんに負けたセシリアは鈴の隣になっている。
意中の人の隣に座れた簪、箒、鈴の三名は満足げな顔だ。
唯一座れなかったセシリアは、じゃんけんに負けた自分の手を見つめながらしょんぼりとしていた。
その分かりやすすぎる、しかし、一夏と志保は全く気づかないその様子に、シャルルは苦笑していた。
「まあ、一夏の頼みはあとで聞くとして………、もうひとりの転校生に殴りかかられたと聞いたが?」
志保の疑問は一夏以外の面々も気になっていたのか、興味津々といった顔だ。
「ほんとあのときはビックリしたよ。いきなりあんなことをしたからね………一夏にはあんなことをされた心当たりはあるの?」
学園での唯一の同姓であるからか、一夏とシャルルはもう仲良くなっているらしい。すでに名前で互いの事を呼んでいるようだ。
「あ~、多分、俺が誘拐された一件だろうな」
「「「「誘拐!?」」」」
平然と言いはなった一夏の一言に驚く皆、しかし、驚愕とは違う反応を示すものもいた。
「あれ? 凰さんと衛宮さんは驚いていないね、知っていたの?」
それに気づいたのはシャルル、その疑問に対し鈴の表情は憤りが有り、志保は複雑な表情をしていた。
「それが起こったのはあたしがまだ、日本にいた頃だしね。一夏から聞いて知っていたのよ………というより、何で、志保までしってんのよ」
「私の場合は両親と一緒に、<モンド・グロッソ>を観戦していたからな。噂話程度だが、そういうことがあったと聞いていたんだ」
鈴の問い詰めに、しれっとした顔で嘘をつく志保。
実際には噂話どころか、思いっきり事件に関わっているのだが
「そのせいで千冬姉が決勝戦を棄権したからな、多分、俺の事を千冬姉の栄光を汚す害悪だと思ってるんだろうな」
「逆恨みじゃないか、それは!」
「そうですわね、恨むべきは誘拐犯であり、一夏さんにはなんの責もありませんわ」
「うん、私もそう思う」
次々に一夏を擁護する皆、一夏はその気遣いに感謝しながらも、重くなった雰囲気を変えるために話題を変えた。
「その話はもう置いておこうぜ、ご飯は楽しく食わないとな」
「フフッ、強引だね一夏」
「うっせーシャルル、俺にそういう高等テクはない」
おどけたように胸を張って言う一夏、それにつられて皆の口許に笑みが浮かぶ。
「あっ!?」
そんなときに簪が声をあげる。見てみれば簪が食べているお弁当(当然のごとく志保お手製)のおかずのウインナーが箸から滑り落ちていた。
コロコロと転がるウインナーを見て、簪がしょんぼりとした表情になる。
それを見た志保の箸先に、ちょうどウインナーがあった。
「ほら、簪さん」
そう言って自分のウインナーを差し出す志保、箸でつまんだままで――――
「ふぇ!?」
「あ、やっぱり私の箸でつまんだのは嫌だったか?」
「え、あ、いやそんなことはないけど」
少し考えれば自分の弁当箱を差し出して、志保のウインナーを受けとればいいのだが、恋心を抱く存在からそんなことをされれば、簪のとる行動はひとつしかなかった。
「………あむ」
顔をリンゴのように真っ赤にさせ、箸先のウインナーを直接食べる簪。はっきり言って恋人同士の行為である。
さすがのこれには志保も少々照れたらしい、簪ほどではないが顔を赤くしていた。
「ま、まさか、直接食べるとは………」
「ゴ、ゴメン、………つい、やっちゃった」
もう二人とも結婚してしまえ、それが二人を見た全員の感想だった。
そんな中、シャルルはピンク色に染まった空気を変えるため、苦笑しながら口を開いた。
「二人は仲がいいんだね、まるで姉妹みたいだ。だとすれば衛宮さんがお姉さんかな?」
「言っちゃったよ、オイ」
あえて恋人ではなく、姉妹と言う表現を使ったのは気恥ずかしさゆえか、しかし、その表現は一人の夜叉を召喚する鍵だった。
「―――――――――簪ちゃんの姉の座は、誰にも渡さない。故に、死になさい」
ヒュッ、と風切り音をさせて、蛇腹剣が志保に向かって降り下ろされる。
直前まで確かに誰もいなかったはずの、背後からの攻撃に対し、志保は余裕をもってかわす。しかも、お弁当やら何やらをきちんと退避させたうえでだ。
「全く、マナーがなっていないな。食事中だぞ、今は」
かわされたせいで地面に突き刺さった蛇腹剣を、志保は両足で踏みつけて、襲撃者の腕から奪い取った。
「エ!?」と、間抜けな声をよそに志保はポケットから電気工事用の結線バンドを取り出し、相手の両の親指をまとめて縛った。
続けて志保は瞬間接着剤を取り出すと、先の一撃で飛び散った床の破片を拾い集め、解析魔術を利用して手早く亀裂を埋めた。
この間、わずか数分の出来事だった。手慣れているにもほどがある。
「………相変わらず、出鱈目だよな志保は、っていうか誰だ、この人」
皆の気持ちを代弁するように、一夏が疑問を発する。
簪は身内が皆の前で醜態をさらしたことに頭を抱え、志保は面倒臭い事をした、面倒臭い人物をどう紹介するか頭を抱えていた。
「………あ~、これは簪さんの姉で、ただの阿呆だ。何をどう間違えたか、ここの生徒会長も勤めている」
「うう……、衛宮さんがいぢめる。私の名前は更識楯無、ここの生徒会長よ」
本来なら声を大にして否定したい楯無だが、暴れた上に拘束された姿では、説得力が欠片もないと自覚していた。
しゅん、と項垂れて座り込む姿には、公の場での凛々しさなど欠片もなかった。
流石にその姿には簪も哀れに感じたらしく、ポンポンと肩を叩きながら励ましていた。どうやら、すでに簪の中に姉へのコンプレックスは、微塵もないようだった。こうも連日、恥態を晒
していては当然かもしれない。
「えっと……元気出して、お姉ちゃん」
「ああっ、簪ちゃんのやさしさが身に沁みるわ」
「しかし、こんなことばかりしていては、そのうち簪さんに嫌われるかもしれんぞ」
「そんなことないわよね!!」
「う、うん」
「まあ、見ての通りシスコンだ。取り扱いには十分注意してくれ」
一応、一夏たちも入学式の挨拶で見知ってはいるのだが、そのときと今のギャップがひどすぎて反応に困っていた。
「そ、そうだ志保、さっきの頼み事だけど」
「ああ、そういえばそんなことを言っていたな」
結果、全員が見なかったことにした。華麗に無視したとも言うが。
そのスルーっぷりに更に落ち込み、屋上の隅っこで小さくなっている楯無、そこには生徒会長としての威厳など、欠片も存在していなかった。
「たしか、<白式>の遠距離武装の件だったか」
「やっぱり、刀一本だけじゃ戦術の幅が狭すぎるからな」
「最近の模擬戦の結果も芳しくないしね」
「ええ、基本的に一夏さんの<白式>は、燃費が最悪の短期決戦仕様、距離を保っていれば、そう怖い相手ではございませんわ」
一夏の不満に同意するように、鈴とセシリアが言葉を繋ぐ。
いっそ酷評と言っていいセシリアの評価だが、事実、その通りのため一夏は何も言い返せなかった。
「しかし、<白式>には拡張領域はないぞ。どうしようもあるまい」
「うん、そうだね、きつい言い方かもしれないけど、素人考えではどうにもならないと思う」
そして箒とシャルルが、否定的な意見を言う。
二人の意見はもっともであり、それには一夏と志保以外の全員がうなずいていた。
それもそうだろう、そもそも武装を積むスペースすらないのだから。
「………やっぱり、無理かな」
ダメ出しをくらい、気弱になる一夏。
しかし、志保は平然と言った。平然と、何でもないことのように。
「――――いや、できるぞ」
「………マジで!?」
あまりにも平然と言われたせいか、一瞬、反応できなかった一夏。
それは他の皆も同様だ、ISについてそれなりの知識があるがゆえに、余計に志保の一言が信じられなかった。
「いやあ、やっぱり言ってみるもんだなあ」
「そんなに大袈裟なことではないがな、昔知り合った、出鱈目なじいさんにつれていかれた場所で、面白いものを見てな」
(あのワルプルギスの魔女のせいで巻き込まれた厄介事が、こんなところで役に立つとはな、ヒヒイロカネはないが、ここの技術力なら代用できる合金が作れるだろう)
喜ぶ一夏とは対照的に、志保の表情には苦々しさが混じる。
かつて宝石の翁に、様々な平行世界につれ回され、様々な事件に巻き込まれたことを思い出しているせいだろう。
「その面白いものを作るの? 衛宮さん」
「その通りだ、まあ、作られたのがかなり昔だからな、技術的な問題はさほどないはずだ」
いったい何を作るのか、全員予想してみるが、もとより無理難題なこの問題を解決するものが何か、全く予想がつかないでいた。
「本当にあなたって出鱈目よね 」
毎度の事ながら、志保の異常性を認識した楯無が志保に詰め寄る。どうやら、無視されたことに対するショックからは立ち直れたらしい。
急接近する楯無と志保、それをみて不機嫌そうになる簪を、シャルルがなだめていた。
「いっておくが、今回の事を思い付けたのは、その出鱈目なじいさんのせいだぞ」
「そこまで出鱈目なの? 志保」
「………ああ、そうだ、あのじいさんを知っている身からしたら、さっきの会長の暴走なんて子供の癇癪だからな」
ISの武装まで持ち出した会長の暴走が、子供の癇癪レベルとかそのじいさんはどれだけ出鱈目なのか、全員が驚いていた。
「どんな人なのよ、その人は………」
「不条理と出鱈目と規格外のかたまりが、服を着て歩いているような存在だ」
志保をして、そうまで言わせるその人物の存在に、全員が軽く引いていた。
そんな中、簪が件の代物について聞いた。
「ねえ、志保、さっきいっていたものってどんなものなの?」
「それはできてのお楽しみ、だな」
「むう~、じゃあ、名前だけでも教えてよ」
技術的なことに関しても、それなりに造詣がある簪にとっては、それがどんなものなのか非常に気になった。
しかし、志保はもったいぶってその詳細を明かそうとはしなかった。
その態度に、簪は少しむくれて名前だけでも聞き出そうとした。
流石にそれぐらいは、教えないとかわいそうと感じたのか、志保はその名前を告げた。
「――――サンダラー、さ」
<あとがき>
この話の一番のネタキャラは会長です、異論は認めない。
あと今回は 、涙目のラウラが書けただけで満足です(オイ