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No.26927の一覧
[0] 【短編3部作】姉弟は他人の始まり【完結】[うどん](2011/04/27 20:25)
[1] 姉弟は他人の始まり その2[うどん](2011/04/07 15:35)
[2] 姉弟は他人の始まり その3[うどん](2011/04/27 20:20)
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[26927] 【短編3部作】姉弟は他人の始まり【完結】
Name: うどん◆772fadc3 ID:cd55245c 次を表示する
Date: 2011/04/27 20:25
 俺は、明日から都内の全寮制の高校に転校する。
 したくてする転校じゃないけど、結果的には高校のレベルが上がったから良しとするしかないな。
 都内には、姉ちゃんが住んでいる。というか、姉ちゃんが通ってる大学と10キロぐらいしか離れてない。

 俺の姉ちゃんは、もともと想像力が全く無い人間だった。「他人の立場に立って考える」とか「チェス版をひっくり返してみる」という思考が一切出来ないタイプの人間だった。まあ、俺だって姉ちゃんの弟だから、あんまり得意なほうじゃないことはぼんやりと分かる。

 姉ちゃんはある意味で異常なほど自分に対して素直で、その余計なことを一切考えない性格のおかげか、勉強は出来るほうだった。
 正直、俺が姉ちゃんより上のランクの大学に入るのは難しいと思う。

 でも、今や姉ちゃんは家から完全に勘当されている。
 おまえなんか出て行け、とかそういうレベルじゃなくて役所だか裁判所で正式に『相続排除』というのをされたのだ。俺も初めて知ったんだけど、日本の法律では勘当は出来ないことになっているので、財産相続権を永久に剥奪することしか出来ないらしい。
 もちろん仕送りも完全に止められたし、俺以外の家族全員の携帯から姉ちゃんの電話番号は着信拒否になっている。
 実は、東京に着いたから俺だけ着信拒否をこっそり解除しただけなんだけどな。

 俺は姉ちゃんの携帯に、寮から電話をかける。
 俺の携帯ではどこに連絡を取ったか親にバレる契約になっているはずなので、俺の携帯からは連絡は不可能だ。こういうのが想像力というやつだと思う。姉ちゃんには、これがないのだ。

 姉ちゃんは、最初はおっかなびっくり、次に俺の声だと分かると弾んだ声で電話に応じた。
 元気にしていたか、父さんと母さんは元気か、まだ怒っているか、東京になぜ引っ越してきたのか、などなど。

 俺は、敢えて事実だけを答える。
 父さんも母さんも怒りは通り過ぎて、もう姉ちゃんに関しては産んでないことになってる。地元では姉ちゃんの話を知らないヤツはいない、そしてなぜ俺が東京に引っ越してきたか、理由を想像できるかい? と。

 姉ちゃんの何も考えてない明るい声が、曇る。
 姉ちゃんが有名なアダルトビデオ女優になり、それが地元でバレたから、俺は知り合いのいない東京に逃がされたのだ。
 いやむしろ、逆説的に姉ちゃん以外には全く知り合いがいない東京に、と言うべきなのだろうか。
 親父は頑張って、姉ちゃんには大学生活に困らないだけの仕送りはしていたはずだ。なのに姉ちゃんはAVデビューして、盛大に地元バレした。
 俺はAV女優の弟として有名になり、それが進学校だったりしたものだから教師や周囲まで腫れ物に触るような扱いになり、代わりに中学時代のヤンキー共に姉ちゃんの件で絡まれるようになり、そして俺は今東京にいるわけだ。

 たぶん、姉ちゃんがAVから引退して10年ぐらい経ったら俺は田舎に帰れるかもしれないけど、姉ちゃんはまず一生無理だ。俺も幼なじみ達と縁を切ってきた。
 そもそも地元バレしたこと自体が姉ちゃんが地元の友達にAVのことを相談したのが原因だから、実はもうとっくに姉ちゃんにも地元の友達なんてものはいないよ、と。

 予想通りの反応が返ってきた。乾いた笑いの狼狽だ。姉ちゃんは、5年ぐらいほとぼりを醒ませば普通に家に帰れると思ってたのだ。
 でも、親父もお袋も、もう本気で姉ちゃんのことは娘だとは思っていない。そうしないと、自我が守れないからだ。どこか他所のバカ女のことのように捉えることにしているらしい。
 親父に至っては、カネを扱ってる仕事のせいか「姉ちゃんがAV出演で稼ぐ金額の概算」をはじき出し、その金額で自費で大学卒業は可能だろうということ。
 そして風評被害によって長男である俺を東京の高校に進学させる羽目になったことを考え合わせて、金銭的リソースを全て俺に割り振ることにしたことを説明した。

 今後、姉ちゃんには何が起ころうとも一円たりとも支払わないし、財産もスプーン1本たりとも残さないし、帰郷しても会うこともしないし、連絡も拒否するし、どちらが先に死のうが互いの葬儀に参列はしないと冷静な顔で言い切っている、と伝えた。

 ……ここまで説明して、俺は発見した。
 ……なんだ、姉ちゃんと、父ちゃんと母ちゃん。やっぱ親子じゃん。
 性格がメチャクチャ似ているわ、ということを。ここまで言われて、姉ちゃんが傷つかないはずが無いということを、まったく考えていないのだ。
 そして、その事実を淡々と伝えた俺も、やはり姉ちゃんがどう思うかということを、ぜんぜん想像せずに事実だけを包み隠さず伝えた。
 ……なんだ、姉ちゃんと俺。やっぱ姉弟じゃん。

 俺はこれから先、ネットなんかで否応無く唐突に姉ちゃんの存在を確認し続けるだろう。でも俺は、父ちゃんや母ちゃんと同じく姉ちゃんの前から消える。
 全部私が悪いのか、というようなことを姉ちゃんは聞いてきた。

「姉ちゃんにも事情はあったと思うし、誰も悪くないと慰めることも出来ると思うけど、敢えて姉ちゃんの弟だから言うよ。完全に姉ちゃんが悪い。もう帰る家族は無いよ」
 そして、さよなら。と告げて、俺は受話器を置いた。
 かかってくることは絶対に無いと確信しているけど、俺の着信拒否の解除を戻すことは忘れておくことにした。


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